第16話「ゴキブリ父ちゃん! 怪人レスラーもビックリ」(1972年1月16日)
残念ながら、この16話が、アンドロ仮面の出てこない、つまり、路線変更前の最後のエピソードとなってしまう。すなわち、放送時期は路線変更後だが、撮影されたのは(少なくとも)12話より前の作品なのである。
今回はまず予告編で、
ナレ「月先生相変わらずイカすでしょう? 足がやや太めなのも相変わらずだけど……あら、言い過ぎかな?」
と、菊さん本人も気にしていた(かどうかは知らんが)足の太さをおちょくるお茶目な天地総子さんの台詞を紹介しておこう。
冒頭、夢の中で、父親であるアンドロメダ帝王(堀田真三)に文字通り雷を落とされてビビりまくっているひかる。
怖いもの知らずのひかるが、唯一頭が上がらないのが、この父親なのである。
ま、なにしろ帝王だもんね、帝王。
もっとも、彼が実際に登場するのは次の17話で、今回はあくまでひかるの見た夢に過ぎない。

ひかる「ごめんなさーい! パパ、ごめん……」
夢の続きでも見ているのか、手をばたばた動かしながら、幼い子供のように謝るひかる。
小さなイチゴをあしらったパジャマが実にラブリーである。

バル「どうなされた、姫?」
よほどひかるのことが気になるのか、隣室のバルが即座にひかるに駆け寄り、心配する。
ひかる「パパよ、パパが怒鳴り散らしてたの」
バル「なんと、アンドロメダ星雲の帝王殿が? 何処に、何処、何処?」
バルもギョッとして部屋の中を見回すが、

ひかる「……と言う夢を見てたの」
顎を伝う汗を拭きながら答えるひかる。
バル「なんじゃま、年寄りを脅かさんで下され~」
などとやってると、赤い正方形の目覚まし時計が鳴り出す。
ひかる「いっけなぁい! もうこんな時間!」
時刻を見たひかる、慌てて起き上がって布団を畳み始める。

バル「今日は日曜ではなかったかの?」
ひかる「ちょっと用があるのよ……もーっ、向こう行っててよ」
いつまでも動こうとしないバルを、両手をひらひらさせて追い払うひかる。

バル「うん、何なら手伝いますよ、姫」
ひかる「気が利かないわねえ、着替えるのよ!」
わざと愚図愚図しているとしか思えないバルの態度に、イライラして地団太を踏むひかる。
それにしても、パジャマ越しにも見て取れる、いかにも脂の乗った美味しそうなボディがたまりません。
是非、パジャマを脱いだところも見てみたかったところだ。

バル「あ、こら、どうも……ちと残念じゃが」
バルも同じようなことを考えていたのか、おずおずと自室に戻りながら、そんな本音を漏らす。

ひかる「こぉのーっ!」
バル「おお、お……ハイチャ」
思いっきり枕をぶつけられて、ようやく退散するバル。
……
嗚呼、管理人も菊さんに思いっきり枕をぶつけられてみたかった!(何が、嗚呼だ)
それにしても、このシーン、ストーリー上はあってもなくてもいいようなシーンなんだけど、なんという楽しさ! 繰り返し述べているように、このドラマの一番楽しいところは、この、ひかるとバルの他愛ない掛け合いにあるのではないかと思うのである。
しかも今回はそれに続けて、
ひかる「ぐずぐずしていたら時間がないわ」

ひかる「うーん、もうっ」
ムーンライトリングに息を吹きかけるたびに、ひかるの衣装がどんどん変わっていくという、スーパー戦隊シリーズ定番のお楽しみ、女性キャラによる「コスプレ七変化」の元祖とも言うべき、大出血サービスシーンが始まるのである!

そして、ドレスの次は、鼻血モノのセーラー服姿!
菊さんの女子高時代が連想されて、出来ればその格好でデートに行って欲しかったところだが、
ひかる「ダメ!」
あえなくNGとなってしまう。

三番目は、うれしはずかし花嫁衣裳。
ひかる「ふふっ」
「キカイダー」23話のレビューでも書いたように、是非、菊さんに本物の花嫁衣裳を着させてあげたかった……
もっとも、これでデートに行けないので、これも却下。

ひかる「……」
四つ目は、何故か、中途半端な寅さん風衣装で、「おひかえなすって」的なポーズまで取っちゃう。

ひかる「うふふ……違う」
照れ臭そうに手を口に当てて笑うひかるが激烈に可愛いのである!

ひかる「うっ、くっ、ぬっ、くやーっ!」
五番目は、13話で着ていたような女房装束(いわゆる十二単)となるが、裾を掴んで引っ張ってもまともに歩くことも出来ず、当然失格。

六番目は、セクシーなチャイナドレス。
拱手の礼をしつつ、厳かに頭を下げた後、

ひかる「あ……」
一転、両手と右足をだらりと投げ出して、「アジャパー」的に弛緩したポーズを取る。
管理人が菊さんの並々ならぬコメディエンヌの才能を認識させられたのは、実はこのおどけたポーズだったりするのである。
七番目は、宇宙飛行士ともレーサーともつかないナイロン風のつなぎだが、これだけは番組的にもNGだったので、画像は貼らない。
それにしても、時間にして数秒だが、撮影にはかなりの時間を要したと思われるこのシーン、「魔女先生」の中でも、ベスト10に入るフェイバレットな趣向であった。
今更だが、この場を借りて、後世にこんな素晴らしい番組を遺してくれたことについて、菊さんや他の出演者、ならびにスタッフの皆さんに、満腔からの感謝を捧げたいと思う。

結局、ひかるはごく普通の服装を選び、旗野先生と喫茶店で会っていた。
話が先走ったが、ひかる、今日は旗野先生とデートの約束をしていたのだ。
ひかる(パパみたいな暴君だいっ嫌い、でも旗野先生だって同じようなタイプだわ……)
ひかる、そんなことを考えつつ、旗野先生の顔を見ていると、相手もそれに気づいて、
旗野「なんか僕の顔についてますか?」
ひかる「いいえ!」

ひかる「ね、旗野先生、結婚してからのことだけど……」
旗野「ぶふっ!」
ひかるの突拍子もない言葉に、思わずコーヒーを吹き出す旗野先生。
旗野「月先生、僕はまだプロポーズさえですね……」
ひかる「旗野先生は、ぃ威張る方かしら? それとも優しいパパになるかしら?」
ひかる、旗野先生の狼狽にも気付かず、まるで独り言のように淡々と質問する。

旗野「勿論です、誠心誠意サービスします。たとえ火の中、水の中、月先生の為ならば!」
旗野先生、張り切って断言するが、

ひかる「は? 私の為ってなんのこと?」
ひかるはキョトンとした顔で聞き返す。
そう、ひかる、あくまで一般論として質問したに過ぎなかったのだ。
ちなみに、ひかるの着ているブラウス、これも何気にイチゴの柄なんだよね。
管理人、ついでにパンツまでイチゴ柄だったのかもしれないとよからぬ想像を働かせ、ついニヤニヤしてしまったことを告白しておく。

旗野「あ……ああ、やっぱり誤解があったようですね。いえ、なんでもありません」
バル「ストッピ!」
旗野先生もすぐ気付き、残念そうに俯くが、ここでバルの声が飛んできて、二人の……と言うか、この世界の時間を止めてしまう。
彼らの背後に立ち、
バル「はぁ、果たしてねえ、こんな原住民のオスとねえ……」
しげしげと二人の顔を見比べていたが、やおら、旗野先生が口に運ぼうとしていたカップを取り上げ、代わりにシュガーポットを握らせる。
バル「発車、オーライ」
その上で再び時間を動かし始めると同時に、パッと姿を消す。
この辺の悪戯は、はるか後年の、某企画系ビデオの某時間停止系シリーズに通じるものがあるな。
それにしても、同じアルファ星人のひかるでさえ、時間を止められていることに気付かないとは、実はバルの超能力って、ひかるより上なんじゃないだろうか?
つまり、バルはいつでも好きなときにひかるの時間を止めて、あんなこと(検閲済み)やこんなこと(検閲済み)が出来る訳で、でも実際はそう言うことは一切してない訳で、そう考えると実に紳士である。
閑話休題、

何も知らずに、大量の砂糖をコーヒーと思って飲み込んだ旗野先生、

旗野「プーッ!」
一瞬の間を置いて、思いっきり口から吹き出す。

ひかる「うーん、あらあらあら、あーあ」
びっくりしたひかるだったが、すぐ旗野先生の体から甲斐甲斐しく砂糖を払い落としてやる。
菊さんがもし結婚していたら、ほんと、良い奥さんになってただろうなぁ……
いかん、ちょっと泣けてきた。
旗野「申し訳ない、僕があべこべにサービスされてしまった……しかしですね、一旦結婚した暁にはですね、月先生の、い、僕の奥さんのですね、爪を磨いて、肩を叩いて……」
なおも好感度を上げようと、いかに自分が家庭的で優しい夫になるのかを力説する旗野先生だったが、
バル「ストッピ! もう聞いちゃおられん」
なおも近くで聞き耳を立てていたバルの怒りが爆発し、再び時間を止めると、同じような悪戯を何度も仕掛けて、二人の仲を裂こうとする。
旗野先生の度重なる失態に、我慢強いひかるもとうとう怒り出して、店を飛び出してしまう。

ひかる「私、乱暴な男性は嫌い」
旗野「ですから、物の弾みです。たぶん……」

ひかる「そそっかしい男性も嫌い!」
旗野「あ、ごめんなさい……」
大根足も勇ましく、ハンドバックでチェックのミニスカの前を隠すようにして大股でズンズン歩いていくひかるを、旗野先生も懸命に宥めながら追いかける。
それにしても、ひかるのこのスタイル、なんとなく、ブラウスの上から紳士用のジャケットを着てるようで、アンバランスな感じも受けるのだが、なかなか可愛らしい。
バル「これにて姫はご安泰、いやぁ、めでたいのぉ」
そんな彼らの背後にバルがあらわれ、ひとりで喜んでいたが、これってひたすら「馬に蹴られて死ぬべき」行為ではないだろうか?
まぁ、バルにしてみれば、恋のライバルとして旗野先生に嫉妬すると言うのではなく、娘が恋人を作ったり、結婚したりするのを嫌う、父親のような心境だったのだろう。

旗野「僕の話も聞いてください……はぁ、いつもながら足が丈夫ですね」
息を切らせながら旗野先生が何の気なしに口にした一言が、決定的な破局をもたらす。

カメラも、意地悪くひかるの足元から、その肉付きの良いフトモモを経て、

最後にひかるの不機嫌な顔にパンニングする。
ひかる「どうせ私は大根足よ!」 今までレビューの中で、ひかるの足の太さについてちょくちょくネタにしてきたが、実際に劇中でその言葉が出るのは、これが唯一のシーンだと思う。
旗野「あ、言ってはいけないことを言ってしまった。もうあかん……」
旗野先生も自分の失言に気付くが、もう手遅れ。

ひかる「いくらついてきたって、優し~い」

ひかる「人じゃなきゃ、いや!」
そう叫んでツンと顔を反らすと、ハンドバッグをぐるぐる回しながら向こうへ行ってしまう。

旗野「ああ、あ……ああ……ふぅ、月先生のほうがよっぽど暴君じゃないか」
旗野先生、疲労と失意のあまり、その場にべったり座り込んで、そんな感想を漏らす。

一方、ひかる、その後もズンズン歩いていたが、トタン張りの粗末な民家の前で、横手から出て来た人と危うくぶつかりそうになる。
ひかる「ひゃあっ!」
白い割烹着を着ているので一瞬誰だか分からなかったが、それは、東西学園の、ひかるにとってはいささか煙たい存在の教頭先生であった。

ひかる「教頭先生?」
教頭「おや、月先生」
ひかる「先生のお宅、こちらなんですか」
教頭「まぁ、狭いところだがね、さーさ、おあがんなさい、お茶でも入れよう」
が、学校と言う公の場を離れているせいか、教頭、いつになく愛想良くひかるを招じてくれる。
家に入りかけた教頭だが、もうひとつのバケツに気付いて持ち上げると、

教頭「そうか、今日はねえ、ゴミを出す日なんでねえ」
ひかる「ゴミ?」
教頭「ああ、ちょっと失礼」
両手にバケツを持った状態で、ひょいひょいと向こうへ行ってしまう。
ちなみにこのバケツに書いてある名前から、教頭の苗字が「大伴」と言うことがはっきりした。
どうでもいいが、昔はビニールに入れず、生ごみをそのまま集積所にぶちまけてたんだなぁ。
ひかる「へえー、意外と役に立ってんのね!」 が、それを見送ったひかるの言い草が、まるでお遣いに行く飼い犬のことを褒めるような感じなのが、ちょっと笑えるのだった。
まぁ、学校ではひたすら校長の腰巾着のような存在だったから、プライベートでの家庭的な姿とのギャップに、ついそんな言葉が出てしまったのだろう。
そして、ここで、ちょっとしたトラブルが起きる。

家の近くの未舗装の道端に、教頭の息子の二郎と三郎がボケーッと立っていたが、猛スピードで走ってきた車に泥水をぶっかけられてしまう。
無論、悪いのは車の方ではあるんだけど、普通考えたら、車が接近しているのにそんなとこに立ってたら、水をかけられるのは分かりきってることなので、何も考えずに突っ立っていた二人の自業自得と言う感じもしなくはないのだ。
二郎「うっ、ちきしょう!」
それはそれとして、怒った二郎は手にしていたボールを車に向けて放り、ボールは車の屋根に命中する。
運の悪いことに、車に乗っていたのはいかにも頭と育ちの悪そうなチンピラ風の若者二人で、すぐ車を止めると、車から降りて二人に全力で喧嘩を売ってくる。

チンピラ「ボールなんかぶつけやがって、このガキがっ!」
二郎「だって、泥水ひっ掛けたのおじさんたちだよ」
チンピラ「やかましい!」
大人気ないにもほどがあるが、二人は口汚く罵りながら、二郎と三郎を泥水だらけの地面に突き倒す。

教頭「あ、あのー、待ってください!」
近くで見ていた教頭、バケツを持ったまま慌てて駆け寄る。
子供たちは地獄で仏とばかり、父親の背中に逃げ込むが、
教頭「子供の罪は親の罪、どうか、私に免じて勘弁してください」
二郎「泥水ぶっかけたの向こうじゃないか」
教頭「二郎! お前からも良くお詫びしなさい」
普段の口やかましい教頭と比べて、あまりに意気地がない感じもするが、抗議するどころか、ひたすら平身低頭、チンピラたちに頭を下げて謝罪するだけだった。

チンピラ「そうかい、そんなに言うなら許してやらぁ」
チンピラ「だけどよ、まだすこうし頭が高いじゃないのかい?」
教頭の下手の態度に、ニヤニヤと笑うチンピラたち。
芝居とはいえ、これだけムカムカするキャラクターもそうはいないと思われ、是非、「仮面ライダー」に出演して、新しい怪人の実験台にされて悶え苦しみながら殺されて欲しかったところである。
教頭「では、これぐらい」
教頭、相手の言葉を真に受けて、二郎ともども、さらに頭を深く下げるが、

チンピラ「よしよし」
チンピラ「あーらよっと」
あろうことか、チンピラどもは、教頭の持っていたバケツの生ゴミを深々と下げられた二人の頭にぶちまけてしまうのだった。
物陰からひかると一緒に見ていた三郎、思わず飛び出そうとするが、ひかるが抱きついて止める。
でも、普通なら、ひかるがムーンライトリングで教頭たちを助け、チンピラたちをお仕置きするところだと思うのだが、何故かひかるは何もしようとしない。

チンピラ「はっははははっ」
教頭「許していただいてありがとうございます」
チンピラ「てんで意気地がねえぜ、このおやじ」
チンピラ「タマがあんのかよ!」
そんなことをされても、怒るどころかお礼まで言う教頭の態度に、チンピラたちまで呆れたように笑って行ってしまう。
しかし、ストーリー上仕方ないとはいえ、ここまでされて怒らないと言うのは若干不自然である。自分だけならともかく、二郎までゴミをかけられているのだから、ここは本気を出して二人をぶちのめすが至当だったのではないだろうか。
もっとも、終盤、やもえず暴力を振るった後で、必要以上に校長からクビにされることを恐れていたから、家族に実際に危険が及ばない限り、あくまで非暴力主義を貫いているのだろう。
で、この特撮ドラマ史上、一、ニを争う不愉快なキャラであるこのチンピラたちが、何の報いも受けないまま、これっきり登場しないというのが、今回のストーリーの最大の不満点である。
それはさておき、父親のあまりに情けない態度に、二郎たちが傷付き、憤慨したのは言うまでもない。
しかも、その様子を、近くで遊んでいた正夫に見られてしまっていた。
後編に続く。
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