第16話「ゴキブリ父ちゃん! 怪人レスラーもビックリ」(1972年1月16日)
の続きです。
翌朝、

正夫「ゴキブリ先生、お前の父ちゃん、男じゃないぞー」
由美「弱虫ーっ」
登校中の二郎と三郎が、正夫と由美、そして今まで見たことのない、いかにも裕福そうな家のお坊ちゃま風いじめっ子たちに、よってたかってバカにされる羽目になる。
ひかる「タツノオトシゴ、そんなこと言うと承知しないわよ!」
正夫「うわーっ、逃げろーっ!」
ひかるが来てひと睨みすると、正夫たちは脱兎のごとく逃げ出す。

ひかる「二郎君、三郎君、元気出して、パパは立派なのよ」
二郎「……」
ひかる「さぁ、行きましょう!」
そう言えば、まだひかるの衣装は初期バージョンのままなんだよね。
12話でひかるが冬服になるから、この話がそれ以前に撮られたものだと言うことがわかるのだ。
冬服の黒いロングブーツもいいけど、やっぱりこの衣装の方が可愛いなぁ。
職員室で、昨日の一件を旗野先生に話しているひかる。

旗野「はぁ、そんなことがあったんですか。うん、そいつは教頭先生もだらしなさ過ぎる」
ひかる「うちに帰れば優しくてようく気のつくご主人なのよ」
旗野「いやぁ、それは母親のすることだ。父親の役目はあくまでも強く逞しくあるべきです」
ひかる「じゃあ暴君になってもいいって言うの?」
旗野「ゴキブリ呼ばわりされるよりずっとマシでしょう」
旗野先生の意見に、ひかるはがっかりしたように手の上に顎を乗せ、
ひかる「そう、やっぱり旗野先生、パパと同じタイプだわ」
旗野「月先生のお父上に似てる? 光栄です」

ひかる「私はパパが嫌いなの!」
旗野「好かれんで結構、おべっか使うより常に孤独な道を生きる。それが男だ!」
結局また喧嘩になってしまい、旗野先生はひとりで職員室から出て行こうとする。
ひかる「誰があなたを男だなんて思うもんですか」

ここで、ひかるがムーンライトリングで旗野先生に悪戯しようとするシーンになるのだが、その際、ひかるが両目を青白く光らせている超能力使用時のイメージカットが挿入される。
確か、これが最初に使われたケースだと思うが、これ以降、イメージカットはすべてこれに統一されることになる。
放課後、さっきはあんな勇ましいことを言っていた旗野先生だが、言葉とは裏腹に神経がか細く、

旗野「なんで喧嘩なんかしちゃったんだろうなぁ……はぁー、自己嫌悪」
学校の裏山で、ひとり反省していた。
と、その後ろから、教頭とその息子たちの声が聞こえてくる。
二郎「ねえ、頼むよ、パパ」
三郎「お願いだから、強くなって」
教頭「あんまりパパをいじめるなよ」

三郎「いじめられたのは俺たちじゃないかー」
二郎「このままじゃ恥ずかしくて学校へ行けやしない。いいよ、いいよ、パパが強くならなきゃ、僕たちずっと学校を休む。不良になってやる!」
教頭「弱ったねえ……」
旗野先生、例によってお節介の虫が疼き出し、横から口を出す。

旗野「弱ることはありません、男は強く逞しく、二郎君たちの言うとおりです。及ばずながら僕がお手伝いをして先生を鍛えてさしあげます」
三郎「バットマン、話せるぅ」
旗野「そうだろう」
二郎「不肖のパパをよろしくお願いします」
旗野「そうだろう」
教頭「いや、困るよ、迷惑ですよ、旗野先生……」
嫌がる教頭を押し切り、強引にトレーニングを始めてしまう旗野先生。
だが、それを物陰から見ていたひかるに、超能力でいちいち妨害をされ、なかなか思うように行かない。
剣道、筋トレ、ボクシング、すべてダメ。そして、最後に空手道場にやってくるが、

教頭「旗野先生、ここだけは勘弁してください、ここだけは」
旗野「そんなに空手が怖いんですか」
二郎「パパ!」
三郎「やってよー」
怖気づいたのか、その道場の中に入ることさえ拒否する始末。
と、道場から、そこの練習生と思しき体格の良い男が出て来て、

練習生「断る!」
旗野「え?」
練習生「その人はお断りする。当道場では始末に負えん」
旗野「はぁ」
こちらから頼むより先に、向こうの方から門前払いを言い渡されてしまう。
ちなみにこの人、多分、俳優じゃなくて実際にその道場の関係者ではないかと思うのだが、良く分からない。
ひかる「教頭先生の臆病ぶりも、よっぽど有名なのね」
それまでの流れからして、ひかるがそう考えたのも無理はなかったが……
いたたれなくなったように、とぼとぼと帰っていく教頭、旗野先生たち。
三郎「ちくしょう……」

ひかる「……」
それを見ていたひかるも、なんとなくやるせない気持ちになり、同時に、自分のやったことを悔やむような顔になる。

旗野「あいすまん、先生の力が足らなかったのは謝る」
旗野先生のえらいところは、失敗した時はちゃんとそれを認め、相手が子供だろうときっちり謝罪する潔さであった。
二郎「パパって芯から弱虫なんだね」
旗野「いや、弱虫でも油虫でも、優しいパパだからいいじゃないか、な?」
三郎「先生の嘘つき、鍛えてくれるって言ったじゃないかー」
旗野「うん……まことにすまん」
子供たちになんと言われようと、旗野先生にはただ謝ることしか出来ないのだった。
三郎「かっこいいパパ欲しいんだ」
二郎「ペコペコしてるパパなんて嫌いだ」
三郎「大っ嫌い!」

ひかる(私が乱暴なパパを嫌うように、あの子たちは弱虫のパパを嫌ってる。折角の旗野先生の努力を私が台無しにしてしまったのね……)
一方、ひかるも、彼らのやりとりを教室の後ろの入り口で聞きながら、自分がちょっかい出したことを後悔していた。
もっとも、客観的に見れば、ひかるがちょっかい出そうが出すまいが、本人にその気がないのだから結果は同じことだったと思われる。
ひかる(今からでもお手伝いしてあげたい)
それはともかく、ひかるはそう決心すると、夜、教頭が買い物袋を抱いて帰宅中、

ひかる「バル、頼むわね」
バル「任しといて、パイチョ」
あらかじめ打ち合わせしたとおり、バルを送り出す。
この送り出した後のひかるが妙に綺麗なので貼っておきました。
やっぱり、この衣装の方が似合ってるよね。

さて、ひかるの計画だが、バルに海賊風の身なりをした山賊に変身させて、教頭を襲わせ、
バル「金を出せ!」
教頭「うっひゃっ……か、金ですか」
例によって教頭が下手に出たところに、ひかるが超能力で教頭の手に(バルの)ステッキを握らせ、それを操って山賊を撃退させる……というもの。
もっとも、役目を終えた山賊は人形のように倒れ、その横にバルが出現していることから、バルが山賊に変身したと言うより、マネキン人形か何かにバルが入り込んで、山賊のように振舞っていたと言う方が正しいのかもしれない。

ひかる「教頭先生、見てましたわ、凄い腕前ですねえ」
教頭「いいえ、とんでもない、ただ、勝手にこの棒が……あれ?」
ひかる「またそんなご謙遜ばっかり」
そこへすかさずひかるが駆け寄り、教頭の活躍を称賛する。
と、いつの間にか、バルのステッキが普通の木の棒に変わっていた。
しかし、こういうのは、もっと大勢の人が見ているところで行わないと意味がないと思うのだが。

正夫「その時早く、かの時遅く、隠し持った木刀をぎらりと抜き放った教頭先生……」
それでもひかるの目論見どおり、翌日、うってかわって正夫が講談師のような口調で、昨夜の教頭の活躍を大々的にクラスのみんなに語り広めていた。
教頭が自分で言う訳がないから、ひかるが正夫に話したのだろうが、自分で見てもいない武勇伝を、正夫がすっかり信じ込んでみんなに話して聞かせる……と言うのは、なんとなく腑に落ちない展開である。
山賊だって作り物なんだから、それを警察に突き出す訳にも行かず、証拠はゼロなんだし。
だから、せめて、正夫が見てるところでさっきの芝居をしなきゃいけなかったのではないだろうか?
ちなみに今回、愛しのハルコちゃんの出番はまったくなく、このシーンでその後ろ姿がチラッと見えるだけである。

旗野「教頭先生、感謝します。これで僕も自分の指導力に自信がつきます」
教頭「しかしながら、私の手柄ではありましぇんぞ。要するに私の持った棒っきれが……」
旗野「勝手に動いたってんだから、いやー、奥床しい。見直しました」
旗野先生も、冷静に考えたらあの程度のトレーニングで急に強くなる訳がないのに、すっかり武勇伝を鵜呑みにして、教頭に感謝とありったけの賛辞を捧げるのだった。
ひかる(良かった、旗野先生も二郎君たちも喜んでくれたわ)
そばで聞いていたひかるも、計略図に当たり、ホッと胸を撫で下ろしていたが……

放課後、正夫と父親の理事長が、川のそばの、粗末な葦簀(よしず)張りの茶店でそのことを話題にしている。
理事長「あの先生が武勇伝? 想像がつかんなぁ」
正夫「だって本当なんだよ、相手をちぎっては投げ、ちぎっては投げ……」
理事長「ははは、お前が言うと余計嘘に聞こえるよ」
ちなみに太宰さんの出演は、今回が最後となってしまう。
と、店の奥で、「お願いします、払ってください」と、年老いた女主人の声がしたので、そちらを見ると、

覆面をつけたプロレスラー風の男と、その取り巻きが、金を払わずにそこから出て行こうとするのを、おばさんが必死で引き止めているのだった。
で、このおばさん、どうも女優じゃなくてほんとにこの店の主人らしく、そのいじましい演技(?)が妙に哀れをそそるのである。ま、ほんとのところは良く分からないんだけどね。
だからして、結構有名なプロレスラーらしいのに、そんなちっぽけな店の代金まで踏み倒そうとする彼らの大人気なさが、ますます情けないものに映ると言う効果が出ているのだ。
つーか、そもそもこんな店に来るなよ。

理事長「なんだ、あの連中は?」
正夫「昨日テレビに出てたプロレスラーだよ」
理事長「好かんなぁ」
顔をしかめるものの、理事長は座ったっきりそこから一歩も動こうとしない。
そこへ運良くと言うか、運悪くと言うか、通り合わせたのが、教頭とその子供たちだった。
行き掛かり上、教頭はおばさんを助ける形になり、

プロレスラー「カモン、カワイコちゃんねえ~」
一子「パパ、やだっ!」
しかも、教頭の長女の中学生か高校生と思しき一子(いちこ)と言う女の子が、プロレスラーに目を付けられたので、話がますますややこしくなる。
で、まぁ、実際にこの子がなかなか可愛いのだ。

正夫「ああ、こいつはいけねえっ」
理事長「……」
そんな状況でも、相変わらずしかめっ面で微動だにしない理事長であった。チーン。
ガキ大将の正夫もさすがにプロレスラーに向かっていくほど無謀ではなく、オロオロしていたが、そこへ運悪く通りがかったのが旗野先生だった。
正夫「旗野先生、SOSだよ」
旗野「なにぃ? あっ、なんてことをすんだ、うちの可愛い一子ちゃんに!」
旗野先生も彼女のことを知っていたのか、状況を把握するなり、猛然と突っ込んで行き、スーツを脱いでそれをプロレスラーに投げ付ける。
ちなみに、その前にプロレスラーの取り巻きを一人倒しているのだから、旗野先生もなかなか強いのである。
が、スーツはあえなくプロレスラーに引き裂かれる。
旗野「あっ、まだ月賦が済んでない。ちっきしょう、背広の恨み、もう~」
プロレスラー「ヘイ、カモン!」
一方、ひかるの離れの隠し部屋では、
バル「お節介もいいとこじゃ、この後、どうするつもりかな?」
ひかる「この後?」
バル「いや、万が一、本当のギャングに遭ってみなされ、たちどころに武勇伝のメッキが剥がれるわい」
ひかる「あー、そこまで考えてなかった」
バル「暢気な姫だてー」
バルに計略の盲点を指摘されて、ひかるも初めてそのことに気付き、困惑していた。
でも、さっきの襲撃シーンでは大乗り気でひかるに協力していたのに、今になってそんなことを言い出すのも、ちょっと変なんだけどね。

バル「そんなことだろうと思って、杖をあの男の脳波に合わせておいたのじゃ」
ひかる「脳波ですって?」
バル「ああ、脳波の乱れが杖に現れる。すなわち、彼に危機が迫れば、ピカッするのじゃ」
などと話してるそばから、杖の先端の三日月部分が点滅し出す。
バル「お、本物じゃ、大伴教頭に大ピンチ」
ひかる「教頭先生、今行きます!」
本来なら、ここでアンドロ仮面に変身しないといけないのだが、最初に書いたように、これは路線変更前に撮られたものなので、物理的に不可能で、普通にムーンライトリングに息を吹きかけて瞬間移動している。

その代わり、アンドロ仮面の人形が空を飛んでいくという、トホホな特撮カットを挿入することで、その点を誤魔化しているが、現場にやってきた時には普段の服装になっているのだから、矛盾が生じてしまい、はっきり言って不要なカットだったと思う。
それに、そもそもアンドロ仮面になって飛んでいくより、瞬間移動の方が明らかに速いんだから、一刻を争う時にはかえって不便であろう。

さて、旗野先生、勇敢にも本職のプロレスラーに喧嘩を売るが、無論、敵う筈がなく、チョップ一発で気絶させられてしまう。
しつこい上にロリコンのプロレスラー、なおも、「さぁ、お嬢ちゃん、お手をどうぞ、カモン、カモン」と、一子を手招きする。
一子も、二郎も三郎もぶるぶる震えて父親の背中にしがみつく。

一子「パパ!」
教頭「一子」
プロレスラー「ヘーイ」
教頭「来るな、来るな!」
このように、一子はなかなかの美形で、ちょっと森山いずみ隊員に似ている気がするのである。
プロレスラーの指図で、トレーナー姿の取り巻きが教頭の襟首を掴むが、

教頭「暴力はいかん、ぼ、暴力はいかんぞ」
取り巻き「あいた、こいつ……いててて」
教頭、そう言いながらその手を捩じ上げると、二郎に眼鏡を預けてから、

教頭「とあっ!」
いきなり前方に立っていたもうひとりの男を蹴飛ばすと、

そばにいた男の腹に鋭いエルボーを叩き込む。

教頭「……」
指をポキポキ鳴らしながら、身構える教頭。
そう、教頭、実はほんとに喧嘩が強かったのである!
それはそれとして、後ろに立っている一子ちゃんの足が細くて綺麗だなと思いました。
その後、プロレスラーをも川に投げ飛ばしてしまう教頭。
ま、なにしろ白影なので、格闘シーンもなかなか堂に入ったものであった。

ひかるが漸くその場に現れたのは、プロレスラーが川に放り込まれた直後だった。
ひかる「ムーンライトパ……?」
左手を上げてムーンライトパワーを発動させようとするが、その途中で異変に気付き、固まってしまう。
一子たちが教頭に取り縋って嬉し泣きに咽んでるのを見て、

ひかる「教頭先生……ほんとに強かったんだわ!」
このように、最後の最後に、登場人物のみならず、視聴者もあっと言わせる辻真先さんの意外性のある脚本が、実に素晴らしいのである。
その後、教頭は、校長にぺこぺこ頭を下げて暴力を振るったことを謝罪するが、既に、一部始終を見ていた理事長から校長に電話があったとかで、
校長「我慢に我慢を重ねた上での実力行使、まことに教頭先生らしいと喜んでおられたほどだよ。あっはっはっはっ」
むしろ誇らしげに、あっさり不問に付してくれるのだった。
ちなみに校長の口ぶりからすると、校長だけが教頭が本当は強いことを知っていたようにも感じられる。
しかし、こんなシーンは要らないから、代わりに、冒頭に出て来たチンピラたちを、教頭がボコボコにするシーンが見たかったなぁ。
ラスト、改めてひかると旗野先生が、教頭の家に招かれている。

教頭「子供たちもね、あれ以来、私のこの格好、いやがらんようになりましてね。旗野先生に鍛えられたお陰ですよ」
ちなみに、この家では、料理もゴミ出しも買い出しも、全部お父さんがやってるらしい。
じゃあ、妻(毎度お馴染み、蓮川久美さん)は何やってんだと言う話になるが……まぁ、別にいつも必ず父親がやってる訳ではないのだろう。

旗野「いやぁ、はっはっ、もぉ、その話はやめ、教頭先生が空手の猛者だったなんて全然知りませんでした。道場の連中が断る筈だ。てっきり試合だと思ったんでしょう」
教頭の言葉に照れ臭そうに頭を掻く旗野先生。
そう、あの道場の朴訥顔が機先を制して断ってきたのは、教頭があまりに弱くて臆病だからではなく、その反対だったからなのだ。
ひかる「どう、やっぱり男性は優しい方がいいでしょ?」
ひかる、料理を待つ間に、この前の話題を蒸し返すが、
旗野「いや、教頭先生は特別製です。僕は常に胸を張り、あくまでも堂々と逞しく!」
旗野先生も頑固で、なかなか持論を変えようとしない。

ひかる「逞しくて優しかったら、なお良いじゃない?」
旗野「いやぁ、優しいのは母親でたくさん、パパたるもの、雷より地震よりなおかつ怖い存在であってこそ……」
議論は果てしなく続きそうであったが、

ひかる「ね、その話は……」
旗野「食べてから!」
ここでやっと料理が出来上がってテーブルに運ばれてきたので、二人は鼻をヒクヒクさせつつ、議論はそれでお預けにして、教頭の手作りハンバーグに取り掛かるのだった。
以上、まさかこんなに長くなるとは思わなかったが、七変化あり、アクションあり、最後のどんでん返しありの、実に盛り沢山の内容だった。
で、この番組の凄いところは、これほどの力作でも、管理人のベスト10には入らないという、そのクオリティーの高さなのである。
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