第19話「浮浪者を襲う医大教授と浮気夫人」(1983年12月16日)
おしゃれが服を着て歩いているような街(どんなんだ?)、横浜。
その路上や公園をうろついている、浮浪者たちの姿が映し出される。
誰からも注目されない、路傍の石のような存在であったが、とある橋のたもとで酒盛りを開いている数人の浮浪者を、車の後部座席から熱心に見ている三人の男がいた。

白井「どの男ですか?」
浅田「右から二番目だ。ほら、今、酒飲んだ」
もっとも、彼らに用があるのは、その中の、あるひとりの浮浪者であった。

高原「ほんとにあれがそうなのか? 別人に見えるな」
浅田「あんなバカな暮らしを一年もやってりゃ、人相も変わります。しかし、間違いなく本人です」
白井「わかりました、じゃあ、後は任せておいて貰いましょう」
浅田「じゃ、頼んだよ」
何か良からぬことを企んでいる仲良し三人組。

ドクター「さとみちゃん」
さとみ「ドクター!」
何も知らないその浮浪者、通称ドクター、伊勢崎町の路上で似顔絵描きをしているさとみという女の子に声を掛ける。

ドクター「どうかね、商売の方は」
さとみ「ダメ、全然不景気で……ね、あとで一緒に飲まない?」
ドクター「勿論、そうするよ。迎えに来る」
さとみ「あ、これ、サンドイッチ」
ドクター「いつも悪いねえ」
さとみはドクターとよほど親しいらしく、にこやかに言葉を交わした後、わざわざ作っておいた弁当まで渡すのだった。
演じるのは、(このブログ的には)「ファイヤーマン」12話の少女人形役があまりに鮮烈だった、芦川よしみさん。
あんないたいけな少女が、10年でこんなにしっかりしたお嬢さんになったかと思うと、なんとなく感慨深いものがあるのです。
だが、悲しいことに、それがドクターとの今生の別れとなってしまう。
さとみと別れた後、ドクターは、白井に命じられた暴走族グループに襲われ、鉄パイプで滅多打ちにされて、無残にも殺されてしまったのである。しかも、巻き添えを食った別の浮浪者まで犠牲となってしまう。
警察の現場検証が行われる中、その場を通りがかったさとみは、人目もはばからずドクターの体にすがりついて号泣するのだった。
その後、さとみは加賀町警察署を訪れ、自分がドクターの遺骨を引き取りたいと申し出る。

さとみ「あの人にはとてもお世話になったんです。なんでも戦争中に軍医の助手をしていたとかで、私が急病の時にあの人に助けてもらったんです。ですから、どうせ引き取る方がいらっしゃらないんだったら……」
さとみ、揉み手をせんばかりに担当刑事に懇願するが、かえってきたのは意外な返事だった。
刑事「実はね、あの人の身内の方が現れてね」
さとみ「え?」
刑事「かなりの地位の人だったんだ。だから、遺体は家族が引き取ることになった。安心しなさい」
さとみ「……」
さとみ、驚きと安堵の入り混じった複雑な表情になる。

君江「あの、このことはしばらくの間、マスコミには内分に……」
刑事「その件なら上から聞いておりますので……しかし、何故尾崎博士のような方が浮浪者なんかに」
遺体と対面したドクターの妻は、涙もそこそこに、マスコミ対策をお願いする。
ドクターこと、尾崎の妻・君江を演じるのは「ハングマン」ではお馴染みの、桜井浩子さん。
そしてその横に立っているのが、他ならぬドクター抹殺を指示した浅田と言う男であった。
さて、舞台変わって、世田谷の馬事公苑。
中央のグラウンドで、馬術の訓練に励んでいる人々を尻目に、チャンプが花壇の芝生の上に寝転んで、ポータブルテレビで、こともあろうに競馬中継を視聴していた。
そこへつかつかと園山が来て、テレビを覗き込んで呆れ顔になる。

園山「なるほど。折角、正義を行って得た大金をこうして意味もなく浪費してるって訳だ」
チャンプ「へっ、なんじゃないな、折角人が夢とロマンを追ってんのに……この気持ちは園やんには分からんやろうな」
園山「分かろうとも思わんがね」
園山、ニコリともせずそう言うと、仕事の資料と報酬の500万を渡し、早々に立ち去る。

アロハツーリストに戻ったチャンプは、いつものように仲間たちに事件の概要を語る。
無論、今回の仕事は、あの浮浪者殺しについてであった。
チャンプ「去年横浜で中学生のワルガキどもが浮浪者襲って二人殺した事件、覚えてるな?」
マリア「ああ、あれね、真似するバカが出て来るんじゃないかと思ってたけど……」
本題に入る前に、チャンプは幾つもの類似事件の新聞記事をスライドに映すのだが、実際、当時はそんな物騒かつ卑劣な事件が多発していたのだろう。
ET「確か、今年に入ってから三回目じゃないかな」
チャンプ「そ、それが今回の我々の仕事や」
ヌンチャク「へええー、GODも遂にか弱き浮浪者の為に立ち上がったわけですか」
チャンプ「いや、それはちょっと意味合いが違うんだ」

チャンプ「大体この手の事件ってのは被害者の身許が分からんまま終わることが多いんやが、この男だけは身許が分かった。家族が密かに名乗り出たんだ」
マリア「何者なの?」
チャンプ「この男の名前は尾崎コウタロウ61才、1年前までは東都医科大学の外科部長だ。心臓手術の第一人者と言われた男だ」
マリア「でも、そんな偉い人がなんで浮浪者なんかに?」
チャンプ「いや、そりゃわからん、ある日、突然、大学に辞表を出してそのまま蒸発した」
GODは、今回の事件は、一連の浮浪者襲撃事件のひとつに見せかけて、その実、尾崎を殺すのが目的の計画的犯行ではないかと睨んでいた。

ET「殺される理由は?」
チャンプ「ある、尾崎が蒸発した後、東都医大のボスにのし上がったのがこの男だ。高原雄三教授、53才、尾崎の一番弟子だ」
そう言ってチャンプが映したのが、冒頭の車の中にいた、もう一人の男の顔であった。
高原を演じるのは、これまた「ハングマン」ではお馴染みの塚本信夫さん。
チャンプ「次期学長候補のナンバー1と目されてるんだが、どうもこの男、人望がなぁ……」
さらに、最近高原が発表した論文が、実は尾崎博士の未発表論文の盗作ではないかと言う噂が立っているらしい。
ET「なるほどねえ、高原にしてみたら尾崎博士が姿を現したらすべてがパー、身の破滅と言うわけか」
チャンプ「そう言うこっちゃ」
ET「しかしなぁ、自分の恩師をなぁ」
と言う訳で、早速ハングマンが調査に乗り出すのだが、今回に限らず、最近のこの番組のダメなところは、序盤のこの説明シーンで、だいたい事件の全貌が明らかにされちゃうところなのである。
この後、何か意外な展開、たとえば、ワルモノだと思っていた人物が実は善人だったり、あるいはその逆だったり、もしくは、何か意外な人間関係が隠されていた(註1)とか、そういう意外性も何もなく、ハングマンの調査活動とワンパターンなお仕置きを見せられて終わりでは、視聴者も満足できまい。
正直なところ、自分も、芦川さんが出てなかったらスルーしたかったところである。
註1……たとえば、大映ドラマ的だが、さとみが尾崎の実の娘だったとか。
それはさておき、まず、ETが東都医科大学の付属病院を訪ね、中庭で一服していた医者に新聞記者だと名乗って、話を聞く。

ET「尾崎教授、何故蒸発なんかなさったんでしょうかねえ」
医者「たぶん、娘さんでしょう」
ET「娘さん?」
医者「亡くなった最初の奥さんとの間にお嬢さんがありましてね、この方が、生まれつき心臓の病気を持ってたんです、それでお嬢さんが結婚が決まったときに、嫁に行っても子供が生まれないんじゃ困ると……」
尾崎はあさはかにもそう考え、自ら娘の心臓手術を行ったのだが、不幸にも手術は失敗し、娘は亡くなってしまったのだと言う。
尾崎博士が蒸発したのはその2ヵ月後のことで、その一件が、尾崎博士が世を捨てた理由であることは、明らかであった。
……って、尾崎博士が浮浪者に身をやつしていた、その動機まであっさり判明しちゃうのも、ストーリーの興を削いでるんだよねえ。
とにかく、その二人の医者は、現在の大学のありかたに相当不満があるようで、聞かれもしない大学の内幕までべらべら喋ってくれた上、その不祥事を新聞に書いてくれとETに頼む始末だった。

浅田「これで15名の評議員のうち、8名確保しました」
高原「札束の威力は偉大だな」
浅田「しかも、大学の裏帳簿からの金ですから、先生や私の懐が痛むわけじゃありませんし」
高原は、事務局長の浅田と、学長選挙の票読みについてコソコソ密談中。
浅田を演じるのは、「ガンダム」の主題歌でお馴染み、池田鴻さん。
一方、マリアは尾崎家を訪ね、尾崎博士が亡くなったとの噂を聞いたので、お焼香を上げさせて欲しいと頼むが、尾崎夫人は「これは尾崎家の問題だから」と、門の中に入れてもくれず、冷たく追い払われてしまう。
もっとも、噂だけでお焼香を上げに来るマリアもマリアなんだけどね。
ただ、君江は、昨日も若い絵描きの女が同じ目的でやって来たことを、マリアに教えてくれる。
続いて、今度はチャンプが、浮浪者の格好をして尾崎博士がねぐらにしていた界隈を徘徊し、浮浪者たちに近付く。

ゲン「おれぁ、仏のゲンさんだ。浮き草暮らし20年、まぁ、この辺じゃ俺の顔を見知らぬ奴はモグリだな」
チャンプ「わしゃ、チャンプ言います、よろしゅうに」
ゲン「妙な名前だなぁ、大阪から出てきたのか」
チャンプ「そうだす」
ハングマンのコードネームをそのまま名乗って、たちまち浮浪者たちと仲良くなるチャンプ。
仏のゲンさんを演じるのは、ベテランの柳谷寛さん。
彼らからドクターについての情報を仕入れたチャンプ、いつものように路上で似顔絵描きをしているさとみのところへ行く。

チャンプ「さとみちゃんかな」
さとみ「はい」
チャンプ「うまいもんだねぇ、ワシの絵も描いてくれんかな? あんまり、金は持ってないんだけど」
同じ頃、ヌンチャクは、ドクター殺しの実行犯と思しき暴走族グループを発見し、単刀直入に事件のことを話し、例によって彼らをボコボコにして、リーダー格の男を人気のない場所へ連れて行く。

ET「二度とバイクに乗れないようにしてやる」
男「ぐ、ぐ、ぐわーっ!」
で、男を天井から吊るした上で、ヌンチャクが得意のヌンチャクで男のすねを挟んで捩じ上げ、無理矢理口を割らせようとする。
ヘタレの暴走族は、あっさり誰に頼まれたか白状してしまう。
この辺も、あまりにすいすいと話が運んで、面白くないのだ。
チャンプの方は、何故かさとみのアパートに上がり込んで、そこでじっくりと似顔絵を書いて貰っていた。
いや、さすがに初対面の浮浪者を部屋に連れて来るというのは、いくらなんでも無防備過ぎないか?

チャンプ「これがワシの顔か?」
さとみ「似てない?」
チャンプ「いやいやいや、ようできてる。さすが美大出の専門家だけのことはあるな。しかし、こうやって見ると、ワシの顔はえらいスケベ顔に描かれとるな」
チャンプの感想に、さとみはケラケラ笑うと、
さとみ「いいじゃない、男なんだもの」
チャンプ「ああ、そうか、話が分かるな、男はスケベの方がええか?」
さとみ「うん」
さとみ、セクハラ大王の名をほしいままにしてきたチャンプにとって、これ以上ない格好のターゲットのようであった。
チャンプ、とりあえず金を払おうとするが、さとみは「ドクターの仲間からはお金なんか貰えない」と、受け取ろうとしない。

チャンプ「ああ、ドクター、この人やね」
さとみ「知ってんの?」
チャンプ「いや、ゲンさんから話は聞いとる。気の毒にね」

チャンプ「ドクターのこと好きやったんか」
さとみ「うん、とっても……優しくて素敵な人だった」
チャンプが尾崎家を訪ねたことをさりげなく確かめると、やはりさとみが、尾崎夫人がマリアに話した、門前払いを食った絵描きだったことが分かる。
さとみがドクターの素性を知っているのは、あの刑事からこっそり教えて貰ったのだろう……と思ったのだが、
チャンプ「聞くところによると、ほんまは偉い人やったらしいね」
さとみ「近所の人たちに聞いたんだけどね。医大の先生だったんだって」
続くさとみの台詞で、また分からなくなる。
と言うことは、刑事から住所と名前だけ聞いたということか。

さとみ「でも関係ないのよね、私が好きだったのは浮浪者のドクターだもん。でも、死んじゃった……人間の世界がイヤになって、浮浪者になって、やっと心が平和になったって喜んでたのに……」
ドクターのことを語るうちに、涙声になるさとみ。
その子供のような純真さに、セクハラ大王のチャンプでさえ厳粛な表情になり、軽口ひとつ飛ばすことが出来ないのだった。
この、さとみとドクターの関係を、もっと掘り下げて描いていれば、今回の話、もうちょっと面白くなっていたのではないかと思うのだが。
ありがちだけど、さとみが、ドクターの死んだ娘に似てたとか、そう言う簡単なエピソードでも良いから。
一方、さとみとは対照的に、欲望まみれで心が腐り切っている高原は、ある日、浅田と一緒に銀竜会の事務所に来ていた。白井は、その銀竜会に所属するヤクザだったのだ。
しかし、何の用があるのか知らないが、仮にも学長選挙に打って出ようという人物が、堂々とそんなところに出入りしてたらまずいんじゃないかと思うのだが……
さらに、白井からエッチな「マッサージルーム」が出来たので行きませんかと誘われると、なんの衒いもなく腰を上げるのだった。
いや、だから仮にも学長選挙に……(以下略)
で、大方の予想通り、

マリア「お待たせしました」
高原「おお、そうか、そうか」
高原の前にあらわれたマッサージギャルが、我らのマリアだったのである。

マリア「私、こういうところは初めてなんです。ほんとは銀行員なの」
高原「そうか、そうか、じゃあ私がゆっくり教えてあげようねえ」
全身からスケベさが滲み出てるような、もうスケベでスケベで仕方のない高原おやじは、猫撫で声を出しながら服を脱ぎ始めるのだった。
……しかし、5話でも、二人は似たようなシチュエーションでイチャイチャしてるんだよねえ。
いささか芸のない組み合わせではある。
それと、なんでハングマンに、高原がその店を利用することが分かったのか、と言う疑問が生じる。
全方位的にスケベな高原のことである、別の店に行く可能性だってあったのだから、前以てマリアを高原の来る店に潜入させるなんて、予知能力でもない限り不可能だったろう。
白井に、高原をその店に行かせるよう仕向けさせるなんてことも無理だし。
それに、高原が必ずマリアを指名するとは限らない訳で、とにかく、このシーンは不可解な点が多過ぎる。
おまけに、特にエッチなシーンもなく、マリアがちゃんとしたホテルでエッチしたいと言い出し、二人はそのまま店からホテルへ移動してしまう。
同じ頃、白井は浅田と酒を飲みながら世間話をしていた。

白井「まったく、おたくの先生も好きだねえ、あれが医者だと思うと情けなくなるよ、まったく」
浅田「あれくらいでないと、天下の東都医大の学長の椅子をもぎ取るなんてことは出来ないのさ」

白井「浅田さん、おれぁヤクザもんだよ、まぁ、随分ときたねえ商売やってるが、正直言って好きになれねえな、ああいう先生は……代議士の田中先生の口利きだから付き合いさせてもらってますけどねえ、てめえの恩師を平気でバラすような奴は……」
浅田「ストップ、そのことはいいっこなしだ。私だって我が身が可愛いからね」
白井、ヤクザらしからぬ義憤を漏らすが、浅田も同じことを思っているのか、別に否定もしないのだった。
同じ悪党仲間からまで嫌われている、高原のクズっぷりが浮き彫りになるシーンだが、そもそも、このシーン、要ります?
そんなことより、さとみちゃんとドクターの関わりとか、そっちの方の描写に時間を割いて欲しかったところである。
さて、マリアと高原はようやく高級なホテルの一室におさまり、いよいよ一戦おっぱじめるのだったが、その途中、突然部屋に尾崎夫人が押しかけてくる。
彼らと鉢合わせになるよう、ETが電話で彼女を呼び出したのである。

君江「先生、これは、どういうことなんですの? 私を呼び出しておきながら」
高原「いや、呼び出した?」
君江「だってそうじゃないの! 人をからかう気なの?」
マリアは彼らが言い争ってる隙に、脱いだ服を持ってそそくさと部屋から逃げ出す。
高原がパンツ一丁でマリアを追いかけて廊下へ出て、君江もその後に続くが、

そこへいきなり現れたETが、盛んに彼らに向かってシャッターを切る。
高原「何するんだ、君は?」
二人は慌てて部屋に逃げ込む。

君江「先生、どういうことなんですか」
高原「わからん、わからんよ、私には」
君江「私、先生の代理って人から電話を貰ったから……」
高原「私は知らんよ!」
何がなんだかさっぱり分からず、困惑するばかりの二人。
ま、それは視聴者の方も似たようなもんなんだけどね。
マリアをエサにして、高原と尾崎夫人の密会写真を撮るのが目的だったらしいが、これは、高原と尾崎夫人が、ずっと前から男女の仲だったという情報を先に見せておかないとダメだろう。
また、話しているうちに、君江が、高原と一緒にいたのが、以前、自宅を訪ねてきた女だと気付くのだが、これまたストーリーには関係なし。
その後、ETの撮った「密会写真」が、高原と君江、それぞれのもとに届けられる。
これが発覚したら、学長選挙に負けるのは確実だと頭を抱えていると、週刊誌の記者に扮したヌンチャクが入ってくる。

ヌンチャク「尾崎教授が殺されたって言う話がありましてね」
高原「なんですって」
ヌンチャク「先日浮浪者が殺されたって事件がありましたよね、あの事件の被害者の一人が尾崎教授だって言う……」
高原「誰からその話を聞いたんですか」
ヌンチャク「じゃあやっぱり本当なんですね」
高原「誰から聞いたのかと言ってるんです」
ヌンチャク「横浜の似顔絵描きの女の子ですよ」
しかし、これほど週刊誌の記者が似合わない俳優も珍しい。
ヌンチャクの目的は、さとみのことをわざと高原たちに教え、その反応を見ることだった。
案の定、次のシーンでは、早くも浮浪者たちのところにいたさとみの前に白井たちが現れ、さとみを連れて行こうとする。
……しかし、さとみは別に尾崎殺害の犯人を知ってるとかじゃなく、単に尾崎が浮浪者だったことを知っていただけなのだから、高原たちが急いでさとみの口を封じようとするのは、なんか解せないのである。
いずれ、ドクター=尾崎と言うことは、高原の口から公表されることになっていて、現にドラマでもそうしているのだから、ますます不可解な高原の行動である。
もっとも、ハングマンにとっては実に好都合で、難なく白井たちをぶちのめし、白井をさっきの暴走族と同じく、人気のない場所に連れて行くのだった。

で、今度は天井から逆さづりにして、あの暴走族の「白井に100万で頼まれた」と言う告白テープを聞かせ、白井にも白状するよう迫るのだった。
……しかし、白井が頼んだことが分かっていたのなら、なんで向こうが動き出すのを待たず、もっと早く白井の身柄を押さえなかったのだろう?
ET「どうだ、これでもシラを切るつもりか」
白井「しらねえなぁ」
白井、へタレ暴走族と違って容易には口を割りそうになかったが、

ヌンチャクが、ガスバーナーの火をその顔に近付けて脅すと、約25秒後、
白井「待ってくれよ、何でも話す!」
……
あんたにはがっかりだよ、白井さん。 ついでに、ほとんど同じような拷問シーンを繰り返す、スタッフの工夫のなさにもがっかりである。
それはそれとして、早くも学長選挙が行われるが、札束の偉大な力のお陰か、15人の評議員全員の支持を得て、あっさり高原が学長に選ばれる。

高原「えー、みなさん、私ごときを推挙頂いて心より感謝いたしますと共に、責任の重大さを痛感いたしておる次第でございます。えー、既に皆さんもご承知のごとく、本来ならば、わが東都医大の学長の椅子には、ぐす、私の恩師でもある、尾崎先生がお着きになる筈でございました。しかし……」
その席で、高原は、就任の挨拶をしつつ、自分が殺した尾崎博士の死を涙で声を詰まらせつつ悼むという、8話の橋爪功さんのような白々しい芝居を披露する。
その上で、君江を同席させた上で、はじめて、尾崎が浮浪者として暴走族に殺されたことを公の場で明かすのだった。
ね? だったら、なんでさとみの口を封じようとしたのか、謎でしょ?
当然、そのニュースはマスコミで大きく取り上げられ、世間の耳目を集めることとなる。

そのテレビニュースを、アジトで見ているチャンプたち。
アナ「未亡人の君江さんと、東都医大の新しい学長に内定した高原氏は、尾崎教授の蒸発の理由についてこのように語っていますが……」
アナウンサーはそう言うのだが、肝心の理由については劇中では語られないまま、どうにももどかしい。
まぁ、あの医者が言ってたように、自分の娘を死なせてしまったことがきっかけだったのだろうが。
チャンプ「チェッ、てめえらで殺しておいてようぬけぬけ抜かしよるわ」
ヌンチャク「ぼちぼち仕上げに掛かりますか」
マリア「高原に頼まれて500万で殺しを請け負ったという白井の告白テープがあれば後は警察でも」
と、マリアが、ハングマンらしからぬ発言をするが、

ET「ダメだな、我々は裁判の証言台に立つわけにも行かないし、あんなテープぐらいどうにでも否定できる」
ETに言下に否定される。
って、それを言い出したら、今までハングマンがやってきたことも、全部否定されることになっちゃうんじゃないでしょうか?
チャンプ「それに高原の奴は大学の帳簿を誤魔化してせっせと大物政治家に献金しとる。その政治家は暴力団筋にも、警察関係にも顔が利く」

ヌンチャク「嫌な国だな、ニッポンってところは」
チャンプの言葉に、生真面目なヌンチャクは露骨に嫌悪感を顔に出して吐き捨てる。
83年の時点で既にそんな風に思われていた日本と言う国の現在のありさまを見たら、ハングマンたちはどんな感想を抱くだろう?
それはさておき、いよいよハンギングタイムとなるのだが、

ひとりひとりが手にする報酬と言うのがあまりに少な過ぎて、なんか悲しくなるのだった。
深夜、ヌンチャクは白井を脅して電話させ、尾崎邸の一室で仲良くベッドインしていた高原と君江を外におびき出す。
ここで初めて、高原と君江が男女の関係だったと視聴者に分かるのだが、前述したように、このシーンはもっと早く出しておくべきだったろう。そうしておけば、高原がマリアと一緒にいるのを見た君江が、あんなに騒ぎ立てた理由が視聴者にもすんなり理解できただろう。
二人は、のこのこと屋敷から出てきたところを、待ち構えていたETたちにキュッと捕獲されてしまう。
翌朝、二人が目を覚ますと、横浜マリンタワーの見える公園で、両手を手錠でつながれた状態でベンチの上に座っているのに気付く。

ふと、前を見ると、

そこにチャンプに率いられた大勢の浮浪者がいて、こちらにゆっくりと近付いてくるではないか。
すぐ目の前まで寄って来たところで、
チャンプ「おい、みんな、この二人やど、ドクターを殺したんは」
とんでもないことを言い出すチャンプ。

二人が殺気だった浮浪者たちに取り囲まれ、小突かれながら海のそばまでやってくると、そこに設置されているスピーカーから、白井の、高原にドクターを殺すよう頼まれて実行したと言う告白テープが流れ出す。
高原「やめろ、そうじゃないんだ、誤解だっ!」
君江「やめて、やめてよ!」
その後、既に捕まっていた白井、そして浅田も縛られた状態で高原たちの隣に晒し者にされ、同じく、浅田の告白テープまで流れてくる。
浅田の声「尾崎教授が大学に戻ってきたら、この一年間の自分のやったことが全部バレてしまうから、殺しを頼んだんだ」

何事かと、浮浪者のほかにも野次馬が大勢集まってくるが、その中には、チャンプに言われてやってきていた、さとみの姿もあった。

高原「黙れ、貴様、俺が事務局長に取り立ててやったのを忘れたのか」
浅田「あの論文だって、尾崎先生の未発表の論文を奥さんに500万払って買い取ったんじゃないですかっ」
高原「黙らんかっ」
白井「やめろ、先生、もう何もかもおしまいなんだ」
高原はなおも否定していたが、ヤケクソになった浅田が何もかもぶちまけ、ヤクザの白井も悟り澄ましたようなことを言って降参するよう促す。
君江「私は関係ないわよ。あなたがやったんじゃないの」
高原「そうは行かんぞ、元々、尾崎を殺せば何もかも上手く行くと言ったのはお前じゃないか」
君江「嘘よ、嘘よ!」
高原「何が嘘だ」
そのうち、お互いの足の引っ張り合いを始める4人。
彼らのやりとりをしみじみ聞いていたゲンさんが、つと進み出ると、

ゲン「先生よう、あんたがたは旨いものを食って、綺麗な着物を着てる。俺たちはこんななりをしているがよう、
おめえたちみたいに、魂は腐っちゃいねえんだっ!」
痺れるほどカッコいいタンカを炸裂させるのだった。
そしてこれが、翌々年に始まった「スケバン刑事」の、麻宮サキの決め台詞の元ネタなのである!
……と言うのは嘘だが、実際、「スケバン刑事」の脚本家がこのシーンを見ていて、意識的にか無意識的にか、参考にした可能性はあるのではないだろうか。
それとも単に、「スケバン刑事」の原作にあったのかな?
この後、高原たちは浮浪者たちから残飯などを山ほど投げ付けられ、その薄汚れた性根にふさわしい格好になるのだった。
でも、これも、本人の自白に頼っていて、物証がないと言う点では、ETが指摘したのと同じ欠点を抱えているから、これで本当に高原たちを断罪できるかどうか、疑問ではあるんだけどね。
ま、少なくとも、これで高原の学長就任がパーになったことだけは確かだろうが。
ともかく、やがて数台のパトカーがやってきて、高原たちを連行していく。
それを見届けた後、4人揃ってその場を離れるハングマンたち。

ET「どうだった、浮浪者暮らしは?」
チャンプ「ああ、意外と悪くなかったな。考えてみりゃ、見栄張る必要もないし明日の生活費の心配することもないし、尾崎の気持ちが分かるような気がするな」
マリア「いっそこのまま続けたら?」
チャンプ「ほな、そうしよか……ほっとけ!」
ET「はははははっ」
最後は、チャンプのノリツッコミに、みんなで朗らかに笑って幕となるのだった。
以上、出だしはちょっと期待できるものの、それ以降はいつものダメな「新ハングマン」であった。
いや、ツッコミどころの多さでは、いつも以上にダメなストーリーであったといわざるを得ない。
たとえば、中盤、ETが高原と君江の「密会写真」を撮影して、それを二人に送りつけているが、結局それで何がしたかったのか、さっぱり分からないまま話が終わってしまった。
ここまで杜撰な、穴だらけのシナリオは、「新ハングマン」の中でも珍しい。
せめてマリアのお色気シーンや、芦川よしみさんの見せ場がもっとあったら良かったのだが。
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