第41話「バルタン星人Jrの復讐」(1972年1月21日)
「新マン」で、唯一、長坂秀佳氏が脚本を手掛けたエピソードである。
考えたら、「キカイダー」はこの年の後半から始まってるんだよね。「キカイダー」と「新マン」がほぼ同時期に放送されていたと言うのは、ちょっと不思議な気がする。なんとなく、東映特撮の方が、ウルトラシリーズより新しい感じがするからだろう。
冒頭、風邪を引いて寝込んでいた次郎が、悪夢にうなされながら、「次郎、流れ星に気をつけろ!」と言う、亡き兄の声を聞いたことから、物語は始まる。
もっとも、声は明らかに岸田森さんとは別人の声である。池水さんかなぁ?

次郎、パッと目を覚ましてベランダに出ると、果たして、妖しく光る流れ星がすぐ目の前に落ちてくる。

流れ星は、近くの建設中のマンションに落ちるが、何の音もせず、建物全体が青白い光に包まれただけであった。
が、ついで、バルタン星人らしき巨大なシルエットがビルの上に浮かび上がり、フォッフォッフォッ、じゃなくて、オァハッハハハッと、人間臭い哄笑を夜空に響かせる。
やがて光が消え、シルエットも闇に吸い込まれたように見えなくなる。

次郎「バルタン星人だ!」
郷「こらっ、だめじゃないか寝てなきゃ」
と、様子を見に来た郷が、寒空の下に突っ立っている次郎を見付け、叱る。
次郎「郷さん、兄ちゃんの言ったとおりなんだよ」
郷「兄ちゃん?」
次郎は一部始終を熱っぽく語るが、
郷「次郎君、君のお兄さんは死んだんだよ」
次郎「わかってるよ、けど、兄ちゃんはそうはっきり言ったんだ」
次郎は必死にバルタン星人のことを訴えるが、郷は聞く耳を持たず、強引にベッドに戻すと、

郷「次郎君、バルタン星人はとっくに死んでるじゃないか」
次郎「本当なんだよ、郷さん」
郷「郷さんじゃない、お兄さんと呼んでくれ……君の兄さん代わりになる、そう約束したろう、次郎君?」
次郎「兄ちゃんなら、『君』なんて言わない!」
郷にとっては、バルタン星人などより、親代わりとして面倒を見ている次郎の病気の方がよほど重大で、真面目に取り上げようとしない。

郷「とにかく今日は寝るんだ」
次郎「いやだ、俺の話を信じてくれないなんて、兄ちゃんの声がちゃんと俺に……」
郷「次郎君、君の兄さんは死んだんだよ、君は、兄さんを宇宙人に殺されてそんな気になるのも無理ないけど、もう君の年になれば死んだ人が生きてる人間に話しかけるなんてそんな馬鹿なことを信じちゃいけない。分かったね?」
次郎「……」
郷、諄々と言い聞かせ、ほとんど犬猫を扱うように次郎の口の中に薬と水を流し込むと、「おやすみ」と言って部屋を出て行く。
次郎「兄ちゃん代わりなんて……ほんとの兄ちゃんなら俺の言うこと信じてくれるよ」
が、次郎がそんな説教で納得する筈もなく、かえって郷への不信感を高めただけだった。
それにしても、さっきの声は本当に亡き坂田の霊が次郎に語りかけたものだったのだろうか?
次郎、ベッドから起き出すと、他人の迷惑も顧みずに山内ススムと言う友人宅に電話して、さっきのことを話し、自分の代わりにビルを調べてきてくれないかと頼む。
ススムは、将来建築技師になりたいと願っている、ビルのことに詳しい少年であった。
「そんな都合のいい友達がいる訳ねえだろ!」と、ツッコミを入れたくなるような、若干苦しい設定である。
ススムは、親に内緒で家を出て、懐中電灯と飼い犬を抱いてその団地へ向かう。
しかし、夜中、既にパジャマも着て寝ようかと言うときに、そんな電話一本でわざわざ自ら足を運ぼうとするだろうか? それに、次郎も一緒に行くというのならともかく、代わりに見て来てくれと言われてもねえ。

ススム「別に怪しいところはないようだけど……設計図がないと良く分からないよな、コロ?」
ススム、飼い犬のコロを胸に抱いて、建物の中を探索する。
この、なすがままに抱かれているワンコがめっちゃ可愛いのである。

と、床を照らす懐中電灯の光の中に、血だまりのようなものが映ったので、ススムはこわごわ近付いてみる。
ワンコも可愛いが、ススム役の斉藤信也さんも負けず劣らず可愛いらしい。
「タロウ」の約2年前で、白鳥健一役の時よりも一層おさなく、声も女の子のようである。
ススム「なんだ、ペンキを落とした後かぁ」
ホッとしてコロを床に置くが、何故かコロがその場から動こうとしなくなる。ススムはリードを適当なところに結び付けて、ひとりで探索を続けにそこを離れるが、

コロ「くぅ~ん、くぅー」

通路のどん詰まりの壁から、突然、白い、気体とも液体ともつかぬものがムクムクと湧き出してきて、

あっという間にコロを飲み込んでしまう。
ススムもすぐ異変に気付いて引き返し、コロの名を呼びながらその辺の壁を叩いていたが、

星人「ふっふっふっふっふっ……小僧、喚いても無駄だ」
ススム「バルタン星人だ!」
星人「はっはっはっはっ、そのとーり、俺はバルタン星人ジュニアーだ。早くMATに知らせて来い」
壁にバルタン星人の影が浮かび上がり、ススムをけしかける。
ススム、急いで公衆電話から次郎のマンションに電話するが、次郎は既に寝ており(註1)、代わりに郷が応対したが、「そう言う話なら明日MATで聞こう」と、あっさり電話を切ってしまう。
註1……はい、皆さんご一緒に。
このクソ寒い時期に人を家から引っ張り出しておいて、てめえはぬくぬくと寝てんじゃねえっ!! 
翌日、ススムは再びあのビルへ行き、作業員たちに昨夜のことを話すが、当然相手にされない。
ススム「ねえ、これ、設計図とは違ってるじゃないかぁ。この壁はレンガ造りの筈だろ、この壁はモルタル作りじゃないか」
監督「ほんとうだ、こりゃなんてざまだい」
それでも、異変の起きた場所まで上がり、ビルの設計図と実際の食い違いを指摘すると、漸く作業員たちも真剣な顔付きになる。
ススム「ねえ、分かっただろう。このビルはバルタン星人のものなんだよ、早くみんなを避難させないと危ないんだよ!」
だからと言って、いきなりバルタン星人のことを持ち出しても、作業員たちは単なる施工ミスだと決め付け、ススムの訴えなど右から左だった。
と、その場でぐずぐずしているうちに、今度はススム自身が、あの白い物体に吸い込まれて消えてしまい、バルタン星人のもくろみどおり、MATが出動せざるを得なくなる。
郷と岸田が来て、問題のフロアを調べ回るが、何の手掛かりも得られない。

星人「馬鹿めが、筋書き通りに飛び込んでくるわい、父の仇を討つ日ももうすぐだ」
ビルの内部には、既にバルタン星人のコントロールルームが作られており、隠しカメラを通して、郷たちの動きは筒抜けだった。
ちなみに彼の言う「父」とは、一体どの個体のことを指しているのだろうか?
まぁ、初代ウルトラマンによって20億人ものバルタン星人が虐殺されているから、仇を討とうとする生き残りは掃いて捨てるほどいただろうが。
しかし、既に38話で初代ウルトラマンが客演しているのだから、この新マンが初代ウルトラマンとは別人だとはっきりしているのに、新マンを親の仇と目するのは、辻褄が合わない気がする。
それとも、復讐の対象は、ウルトラ戦士なら誰でも良かったのだろうか。
余談はさておき、バルタン星人は壁にススムとコロの影を映し出し、郷たちにその存在をアピールする。
郷たちが慌ててMATシュートを撃ってもその壁に弾き返されてしまい、やっと彼らも宇宙人の存在を確信する。

郷「すべて、バルタン星人の作戦通りにことが運んでる気がするんです。次郎君に死んだ兄さんの声を聞かせたことも、ススム君が壁に飲まれたことも……」
伊吹「すると、奴は次になにを企んでるんだ?」
郷たちは一旦ビルから出て、作業員や近隣住民を遠ざけさせ、後から到着した伊吹隊長たちと合流して、対応策を話し合う。
なお、郷の台詞から、冒頭の坂田の声も、坂田の霊などという甘っちょろいものではなく、バルタン星人がわざと次郎の注意を惹く為に聞かせたものらしいと分かる。
その後、次郎がススムを助けようとひとりであのビルの中に駆け込み、それを追いかけた郷が、自分の身も顧みずあの白い物体から次郎を助けたことで、次郎の、郷に対する信頼が甦る。
と、他の隊員たちが、何も考えずに全員で郷たちのところへ押し寄せる。

やがてビルが激しく揺れ始め、壁面に大きなひび割れが入る。

郷たちは急いでそこから脱出しようとするが、すべての出入り口がシャッターで塞がれていき、階段を降りようとしても、そこも僅かの差で閉じられてしまう。
つまり、MAT全員、そのフロアに閉じ込められてしまった訳である。

が、郷は窓ガラスを壊すと、仲間の制止も振り切ってそこから飛び降りる。
具体的に何階なのか不明だが、さすがウルトラマンの郷、ほぼ無傷で着地する。
ただし、その直後、特殊なガラスによってその穴も封じられ、他の隊員が後に続くことは不可能となる。
それを待っていたかのように、バルタン星人の笑い声が弾け、

振動で、ビルの周りの足場などかすべて崩れ落ちた後、何処からともなく奇妙な物体がいくつも飛んできて、ビルと合体し、

ビルは、ロボット怪獣ビルガモに変身する。
そう、いつの間にか、ビルそれ自体が怪獣の胴体に作り替えられていたのだ。
パーツが飛んで来て合体するところはキングジョーを連想させるが、デザインは、キングジョーと比べると、かなりユーモラスである。

挨拶代わりに、手近のビルにビームを放って大爆発を引き起こすビルガモ。
郷、とりあえずウルトラマンに変身し、ビルガモに立ち向かう。

と、何故か、壁からススムとコロが実体化して出てくる。
次郎「良かったな」
丘「良く帰してくれましたねえ」
伊吹「同じことだ、こっから逃げられん」
丘隊員が指摘したように、このタイミングでススムを解放したのは、かなり不可解である。
しかも、この後、ススムの助言によって彼らがこのピンチが打開してしまうのだから、なおさらバルタン星人がアホに見えてくる。
さて、ウルトラマン、変身したものの、相手の腹の中に次郎たちが閉じ込められているので、なかなか攻撃出来ずにいた。
そんな中、

ビルガモの光線で起きた爆発に巻き込まれて、実際にウルトラマンの足……と言うか下半身に炎が絡みつくというアクシデントが発生する。
が、その程度のことで70年代のカメラは止まってくれず、

きくちさん、火がついた状態で横転して演技を続けるのだった。
素晴らしい役者魂である!
……って、人命軽視の現場を美化しちゃいけないんだけどね。
一方、自分たちのせいでウルトラマンがピンチに立たされているというのに何も出来ず、切歯扼腕していた伊吹たちであったが、

ススム「このレンガです、このレンガだけは、後から入れた、地球の本物のレンガです」
ススムの指摘を受け、そのレンガ造りの壁にMATシュートを叩き込み、穴を開けることに成功する。

伊吹「ようし、ウルトラマンを勝たせる為には、多少危険でもこっから脱出するしかない」
伊吹隊長はそこからロープを垂らし、ひとりひとりビルガモからの脱出を試みる。

ルミ子「ウルトラマン、動いちゃ駄目よ、ビルガモの体を動かしちゃ駄目!」
地上から見ていたルミ子の指示を聞いたウルトラマン、ジャンプでビルガモの体を跳び越すとビルガモの背後に着地し、その体を羽交い絞めにして、次郎たちがロープを伝い降りるのを手助けする。
全員無事に降下したのを見届けると、ウルトラマンはあっさりビルガモを撃破する。
ビルガモの残骸から、ビルガモを操っていたバルタン星人ジュニアが巨大化して立ち上がる。

星人「俺は負けたのではないぞ、勝負はまだ一回の表だ。必ず、お前の命を貰いに来る。さらば、ウルトラマン!」
野球をたとえに負け惜しみを言うバルタン星人。
しかし、バルタン星にも野球と言うスポーツがあったのだろうか? バットもボールも持てそうにないが……
星人はそう叫んで飛び立つが、

空気を読むとか、相手の立場、段取りと言うものを一切尊重しようとしないウルトラマン、何の躊躇もなく追撃のスペシウム光線を放つ。
バルタン星人「ちょっ、流れ読もうよーっ!!」 それがバルタン星人ジュニアの最期の言葉であった……と言うのは嘘で、間一髪で瞬間移動してなんとか逃げることに成功する。
もっとも、そう言いつつ、「新マン」には二度と出て来ないんだけどね。

次郎「郷さん」
郷「次郎、良かったな、次郎」
次郎「うん、俺……なんでもないや」
ラスト、川べりで夕陽に染まりながら、郷と次郎が再会する。

ルミ子「照れてるのよ、次郎ちゃん、郷さんが次郎って呼んでくれたこと、嬉しいのよ」

郷「俺、君の兄さん代わりになろうなんて間違ってたよ」
次郎「えっ?」
郷、結局、次郎の兄は、後にも先にも、亡くなった坂田健だけなのだと反省し、
郷「次郎の言ってることを疑ったりして悪かった。これからは次郎の一番良い友達になってやる」
次郎「OK、先輩!」
郷「行こうか、後輩!」
ちょっとした心の擦れ違いを乗り越え、二人は改めて固い握手を交わすのだった。
以上、長坂秀佳氏とは思えないほど、フックと捻りのないシナリオであった。
斉藤信也さんとワンコがいなければ、スルーしていただろう。
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