第19回「哀愁の波止場」(1985年8月27日)
さあ、気合入れていくか。
前回、なんとか覚醒剤から手を切り、ひとまず若山の教会に保護されている千鶴子。

ひとりで、一心に神に祈りを捧げていたが、
千鶴子「イエス様、この18年間、私を支えてきたのは私が大丸家の娘と言う誇りでした。その誇りが撃ち砕かれた時、私は運命を呪い、絶望の中で死んでも良いとさえ思いました。でも心の中でお父様が必ず助けに来てくれる。お前は私の娘なのだと迎えに来てくれると、甘えがありました。私が本当に絶望したのは……」
やがて、隣の部屋にいる雅人たちにもはっきり聞こえるくらいの、
割りと大きな声で自分の率直な気持ちを澱みなく語り出す。

雅人(……そんな奴)
しのぶ(おらへんやろ……)
と言うのは嘘だが、あんまりそんなことする人いないことは確かである。
千鶴子、さらに、剛造が雅人としのぶが結ばれることを望んでいるのを知って、自ら婚約者の地位から身を引いたことも打ち明ける。
千鶴子「でも、愛のない世界に生きるのは身が引き裂かれるよりもつらかった。
無数のガラスの破片が魂に突き刺さったように体中が痛くて、私は毎日悲鳴を上げていたんです。誰か、誰か助けて、心の中で私はいつも叫んでいました。でも、それも甘えていたんですね、イエス様。私は誰の力も借りずに自分の力だけで立ち上がるべきでした。自分の世界を求めるべきでした。イエス様、私は今生きたいんです、生きて生きて、自分の世界を見つけたい!」
「無数の~」って、なんか、どっかで聞いたことのある表現だなぁ。
で、千鶴子の告白の途中から、背後に誰かが立って聞いていたのだが、

剛造「千鶴子!」
それが他ならぬ、剛造なのだった。

千鶴子「お父様……」
剛造はつかつかと歩み寄り、その肩に手を置き、

剛造「千鶴子、私は父親失格だ、お前が心の奥底で悩んでいたことを私は少しも分かろうとしなかった。何故お前が非行の世界に走ったのか? 今やっと、本当のわけが分かった。すまん、もう隠し立てはすまい、私が心の奥底で雅人としのぶの結婚を願っていたのは本当だ。だから、すぐその後で私はその願いを振り捨てようと努めたんだよ。何度も何度も決意を固め、お前が幸せになるのならお前と、雅人の結婚を認めようと努めた。千鶴子、その私の心をわかっておくれ」
涙ぐみながら自身の真情を打ち明ければ、
千鶴子「お父様、もう仰らないで! 私はお父様の心の一部分だけを見て、それがお父様のすべてだと誤解してたんです」
千鶴子もかつての千鶴子とはまるで別人のように、素直に自分の非を認めるのだった。
千鶴子は、自分の生き方を模索する為、しばらく教会にとどまって考えたいと言い、剛造も快くそれを受け入れるのだった。
このまま親子の和解が成れば、千鶴子が雅人と路男、どちらと結ばれようと幸せな結末が待っていたと思われたが……
それにしても、アバンタイトルからこの長台詞の連打はきついです。
これでもだいぶ省略してるんだけどね。
OP後、我々は、どっこいそう簡単にハッピーになられてたまるかとばかり、悪魔のような脚本家が投入した、

このドラマの最終兵器、世界が日本に誇る人間のクズ、松本龍作の姿を目の当たりにする。
龍作、人間のクズにふさわしく(註1)、パチンコ屋にいた。
龍作「なぁーんだ、ぜんぜん入んねえな」
刑務所から模範囚として半年でスピード出所した龍作だったが、パチンコでたちまち有り金をスッてしまう。惚れ惚れするような駄目人間ぶりである。
註1……管理人、別にパチンコは人間のクズがするものだと言っている訳ではなく、人間のクズの龍作にはお似合いの場所だと言ってるだけなので、誤解なきよう。
それでも、その後、一応職を探してあちこち訪ね歩いているのだからエラい。

で、最後に辿り着いたのが、グランドキャバレー大東洋と言う、どっかで聞いたことのあるキャバレーのボイラーマンの求人広告だった。
龍作、以前も、サウナのボイラー管理の仕事をしていたのだ。
で、その面接を行っている、女性オーナーと言うのが、

ギンギンにめかしこんだ、松井きみ江さん演じる、路男の母親、育代だったのである!
……
あるよね、そういう偶然!(ねえよ)
それにしても、去年……と言うか、数ヶ月前まで「スクールウォーズ」で真面目な女性教師を演じていた松井さん、変われば変わるものである。

龍作「松本龍作と申します、住み込みでも良いと聞いたんで……」
育代の前に立ち、ヘコヘコしながら自己紹介していた龍作だが、

龍作「あれ、もしかしたら、あんた、育代さんじゃないか? 三森の育代さんだろ? ほれ、俺だよ、松本龍作だよ」
18年ぶりだったが、すぐ相手の素性に気付いて、馴れ馴れしく話しかける。
育代もすぐ気付いたようだが、気まずそうに目を逸らす。
育代「松本龍作? 知らないね」
龍作「チェッ、水臭えこと言うなよ、あんたとは親類づきあいをした仲じゃねえか」
龍作、昔の知り合いが羽振りが良さそうなのを見て、良い金蔓が見付かったとばかりニタニタするが、育代はギロリと龍作をねめつける。

龍作「そんな目で睨みつけなくなっていいじゃねえかよ、18年前、あんたの亭主に例の赤ん坊の話を焚きつけたのは俺じゃねえよ」
育代「……」
龍作「へっへへっ、俺がそんなバカな、ほんとに俺は……」
龍作、急に18年前の事件のことを持ち出し、自分の潔白を主張する。
聞かれてもいないことを必死に釈明しているのは、無論、龍作が路男の父親をそそのかした張本人だからである!
もっとも、実行犯は他ならぬ育代なので、龍作→三森→育代と言う流れだったのだろう。
それにしても、井川さん、つくづく名優だよね。
ご本人は、多分謹厳実直な方なのだろうが、この龍作の顔を見ていると、骨の髄まで腐りきった人間にしか見えないからである。
育代「この男を叩き出しな!」 うすうす、龍作が元凶だと気付いているのか、育代、汚物でも見るような目で部下に命令する。

強引に部屋から連れ出され、他の面接希望者の見ている前で派手にひっくり返る龍作。
ここまで来ると、尊敬の念しか浮かばない。

一方、こちらは「火の国」。
以前にも出ていた、クラブ歌手に扮した小比類巻かほるさんが歌っている。

店の奥では、島田が優子に店に出てくれと掻き口説くように頼んでいた。
島田「俺は心底お前に惚れてるんだぞ、惚れてるから、大抵のワガママは許してきた、店だってお前の好きなように任せてきたじゃないか」
と、僕らの島田アニキはおっしゃるのだが、元々ライブハウスだった「火の国」を、勝手に高級クラブに模様替えしたのは島田アニキじゃなかったっけ?
ま、脚本家も、そんな昔のことはとっくに忘れちゃってるのかもしれない。

優子「あんたのその言葉に騙されて、私は今まで自分を捨てて生きてきたわ。あんたがお金が必要だと言えば、
体を張ってまで作ってきた」
是非、優子さんが体を張ってるシーンを映像化して欲しかったところだが、ヤクザの情婦でありながら、ベッドシーンひとつ、おっぱいのひとつも見せてくれない優子さんが言っても、あまり説得力はない。
ま、「体を張る」=「体を売る」と決まっている訳ではないのだが。
優子「だけどもうごめんだよ、これからの私の時間は路男のために使うんだ」
島田「誰か路男を攫って来い、優子の見てる前でぶち殺してやる!」
優子「あんた、路男が死んだら、間違いなくあたしも死ぬわ」
島田「いい加減にしろ、路男はお前の何だってんだ?」
優子「路男は神様が私にくれたたった一つの生きがいだよ。私がこの世に生まれてきたのはね、路男を一流のミュージシャンにするためなんだ」
何かに憑かれたような目で語り倒す優子に対し、
島田「熱に浮かされやがって、おい、同じ熱ならこいつでも打って、楽しい夢でも見るんだな」
リアリストの島田アニキが取り出したのは、例によって、い・け・な・いお注射だった。

島田「おい、優子を押さえつけろ」
優子「そんなもので、私を縛り付けるつもりかい。そんなもので私の心を変えられてたまるかっ」
優子さん、気丈にもそう叫ぶと、子分たちの手を振り解き、

自分で自分の腕に注射を打っちゃうのだった。

優子「あれ?」
子分「姉さん、そこ動脈ですよ」
優子「……」
と言うのは嘘だが、いかにも初めのお注射的な、あぶなっかしい打ち方をしているのは事実で、ちょっと心配になる。
しかし、管理人、今までのレビューで、優子もとっくの昔に覚醒剤中毒になっていたと仄めかしてきたが、このシーンを見ると、どうも今回初めてシャブを打たれたようで、自分が勘違いしていたことに気付かされた。
で、僕らの島田アニキは、こう見えて結構常識人なので、そんな優子さんの姿を見て、

島田「……」
ガチで引いてました。 あと、前にも書いたけど、覚醒剤=静脈注射と言うイメージを刷り込むのはやめて頂きたい。
初心者なんだから、「炙り」からやったら?(註2)

また、覚醒剤打ったら、速攻で中毒者になって禁断症状が出るみたいな誤解を与えるので、打った後で寒気を覚えるような顔になるのも感心しない。
だいたい、覚醒剤と言うのはアップ系の薬であり、昔はヒロポンと言って、堂々と市販されていた健康ドリンクみたいなものなのだから、打った直後は元気バリバリに高揚するのが普通だと思うんだけどね。
註2……管理人、別に覚醒剤の使用を勧めているわけではないので、誤解なきよう。
で、よりによってこのタイミングでひょっこりドアの向こうから顔を出したのが龍作であった。
島田「なんだ、てめえは」
龍作「えー、松本龍作と申します、二、三日前からムショを出て参りましたんで、お世話になってる姉さんにご挨拶をと」
クズはクズでもそんなじょそこらのクズとは格の違う龍作は、怖いお兄さんたちが雁首並べてる部屋に恐れ気もなく入ってきて、ぐったりしている優子のそばに座ると、堂々と金の無心をする。
島田「優子の知り合いじゃ無碍にはことわれねえな、おい」
と、何気に太っ腹の島田アニキは、財布から数枚の紙幣を出すと、龍作に恵んでやる。

龍作「すいません、助かります、へーっへーっ、いやー、あー助かった」
ヤクザから金を恵んでもらうことに、後ろめたさや惨めさなど、これっぽっちも感じていない龍作さん。
ある意味、立派である。
龍作「三森のかかあにひょんなところで出会ったんで、何日か食いつなげると思ったんだけどなぁ……」
優子「龍作さん、路男のお母さんに会ったのかい?」
龍作「路男の?」
優子「路男は三森夫婦の子供なんだよ」
龍作「なんだって、あの若造が三森の?」
意外にも、龍作は路男の素性を今の今まで知らなかったらしい。
優子は育代の居場所を龍作から聞き出すと、新しい希望を見付けたような顔になる。
その路男、とあるクラブで他のミュージシャンのペットを聞きながら、今までのあれやこれやを悲しく回想していた。
店を出て繁華街を歩いていると、楽器店のショーウィンドーの中に、75600円の値札の貼られた真新しいペットが目に留まる。

路男「恨みなんて忘れてえ、俺はペットが吹きてえんだ」
ぽつりと本音を漏らした路男の目は、少年のように澄んでいた。

猛「ヤス、良い物手に入れてくれたぜ! これさえあれば島田なんて目じゃねえぜ」
マヤ「さすがガンマニアだけのことはあるよ、ヤス、昇進もんだよ」
一方、猛たちは、ワタルことヤスの手に入れたライフル銃(改造銃?)の試射をして、強力な武器を手に入れたとコーフンしていた。
翌日、路男が若山の教会に来て、千鶴子に話があると言って連れ出す。
同じ頃、

優子「ああっ……」
子分「切れたか?」
優子さんは引き続きあの部屋に軟禁されていたが、不意に、白い腕を抱いて、苦しそうに呻き出す。
いや、だから、何度も言うようですけど、一度や二度覚醒剤打ったからって、こんな簡単に身体依存にはなりませんってば。

子分「姉さん、姉さん」
子分「しっかりしてください」
子分「……」
子分「……」
見張りの子分が、心配そうに優子のそばに来るが、その際、二人の頭がごっつんこしたのを、管理人の鋭い目は見逃さなかった。
この些細な出来事がきっかけで、二人の間に恋が芽生えたと言うことだが、それはまた別の物語である。
優子は振り向きざまに右手を舞わせ、

二人の頬に傷をつけ、そのひとりを原口あきまさのような顔にする。

優子の右手には、シックのカミソリが挟まれていた。
さすがもと不良少女だけあって、こんな隠し技を持っていたのだ。
まんま、モナリザの得意技と同じなのがアレだが、あっちは確か二枚刃だったよね。
二人が怯んだ隙に、優子は脱兎のごとく部屋から逃げ出す。

整然と並んだこぶ状の堰堤の間から、轟々と水が流れている川をバックに、絵になる二人が河原に立っている。
路男「あんたに謝りたい」
千鶴子「私に謝る必要なんてないわ」
路男「ほんとのこと言うぜ、空港で間違ってあんたを刺した時、あんたに対する憎しみはふっとんじまったんだ」
千鶴子「……」

路男「変な話なんだけどさ、あんときの俺にはあんたを守ったバッグしか目に入らなかった。どうしてこんなバッグがここにあるんだ? そんなことを脳天の何処かで考えていたよ。
あのバッグはあんたの魂だったんだよな?」
違うと思います。 路男「だってあんたの悲しみがぎっしり詰め込まれていたものな」
路男さん、さっきからナニを言ってるんですか? たぶん、脚本家も、夏の暑さで頭がどうにかなってたんじゃないかと思う。
路男「あの瞬間、俺は分かったんだよ。18年前の誘拐事件で一番つらい思いをしたのはあんただってことを」

千鶴子「私はあの時、あなたに対する憎しみをほんの少しも感じなかった、ただ、心の何処かで、あなたの流儀で言うなら、脳天のどこかでこれで何かが終わったんだって思ってたわ」
路男「ほんと言うと、大丸に対する恨みや憎しみもふっとんじまったんだ、だけど、18年も俺を支えてきた恨みを捨てるのが怖くて、俺は自分に鞭打って、恨みを掻き立ててきた。だけど無性に心が寒いんだよな、凍りつくように寒くて寒くてどうしようもねえんだ」
千鶴子「路男さん……」
路男「あんたも心が寒かったんじゃないのかい?」
千鶴子「これからどうするつもりなの?」
路男「俺の中ではまだ大丸に対する恨みが燻ってる、だけど俺はペットが吹きてえ。無性にペットが吹きたくてどうしようもねえんだ」
千鶴子「ペットを思いっきり吹いたらいいわ、路男さん、私を刺したことで、お父さんに対する恨みは晴らしたはずよ、恨みなんてもう捨てましょう。そんなもの捨てて、ペットを思いっきり吹いたらいいの」
路男「千鶴子……俺の中でふんぎりがついたら、もう一度あんたに会いたい」
千鶴子「ペットを聞きに、私のほうから会いに行くわ」

恋人同士のように、お互いの目を見詰め合う二人。
台詞の多さに半泣きになった管理人であったが、同時に、スタッフが、このシーンあたりから、これからのストーリーは、千鶴子と路男を主軸にして描こうと決意したのではないかと言う気がした。
そのせいか、今回はしのぶと雅人の出番や台詞が極端に少ない。
まぁ、鶴見さんはともかく、伊藤さんとヒロインを張り合うには、渡辺さんではどう考えても実力不足だと、遅蒔きながらスタッフも気付いたのではないだろうか。
後編に続く。
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