第46話「この一撃に怒りをこめて」(1972年2月25日)

運河の上に、たくさんの漁船が水面の半ばを覆うように並び、川と同じ高さに家がカイガラムシのように密集している、いかにも下町と言った感じの風景。
その川にかかった橋の上に、たくさんの子供たちが欄干からはみ出さんばかりに大勢群がっていた。

おじさん「さあさあ押すんじゃないよ、これから始まるからね」
しかも、そこで行われていた催しと言うのが、昔ながらの紙芝居と言うのが、懐かし過ぎて死にそうになるのである。
ま、ほんとは死にそうにはなってないのだが、言葉の綾である。
その紙芝居は、テープで新マンのテーマ曲が流れ、ストーリーに合わせて種々の効果音まで出ると言う、ハイブリッドな紙芝居であり、子供たちは夢中になっておじさんの語りを聞いている。
内容は、レッドキラーと言う怪獣を、ウルトラマンではなくMATが倒すというシンプルなものだった。

徹「おじさーん、ウルトラマンは?」
次郎「ほんとうだ、ウルトラマンはどうして出ないの?」
最前列にいた徹少年が尋ねると、後ろのほうで見ていた次郎も同じことを聞く。
おじさん「はっはっはっはっ、ウルトラマンなんて宇宙人じゃないか、地球を守るのに宇宙人の手を借りるなんてダメだよ。やっぱし人間が勝たなくちゃいけないよ」
徹「そうかなー」
おじさん「そうだよ、坊やたちが喧嘩してるのに違う奴がどっかを応援するなんて面白くないだろう?」
次郎「そう言えばそうだ、MATは地球上で一番強いんだ」
いかにも移り気な子供らしく、おじさんにそう説かれると、二人ともあっさり宗旨替えして、将来はMATに入るんだと言い出すのだった。
紙芝居が終わると、子供たちはさっさとばらけてしまうが、徹だけはその場から動こうとしない。聞けば、両親が共働きで、家に帰ってもつまらないというので、おじさんは何かツテがあるのか、一緒にMATを見物しに行こうと誘う。

びゅんびゅん車が行きかう、幹線道路の歩道を歩いている二人。
徹「本当にMATが来るのー?」
おじさん「来るとも、もうすぐパトロールのMATビハイクルがここを通るんだよ」
徹「おじさんって何でも知ってるんだね」

おじさんの言ったとおり、やがて眼下の細い道に、MATビハイクルが入ってくる。
徹「あ、来た! おじさん、来たよ……ああーっ!」
と、おじさんの代わりにあらわれた異形の怪物が襲い掛かってきて、徹を道路の上から下の道に突き落としてしまう。
いきなり人間が降って来たので運転していた郷も驚くが、さいわい、急ブレーキが間に合って轢かず済む。すぐ車を降りて徹を抱き起こしていると、あっという間にたくさんの野次馬が集まってくる。

おじさん「おい、みんな、この人が撥ねたんだ。MATの人が撥ねたんだよ」
郷「おじさん、なんてこと言うんですか」
おじさん「なんだって? みんな聞いてくれ、あたしはこの人がこの子を撥ねるのを見たんだよ。この人は自分じゃないと言ってる。MATのくせになんて人だ」
おじさんが一方的に郷を犯人だと決め付け、野次馬たちも同調して郷に白い目を向ける。
そう、今回は、「イナズマン」や「キカイダー」などでよくある、主人公が悪の謀略によって社会的に抹殺されそうになる……と言うプロットなのである。
もっとも、医者が徹の傷を調べれば、それが落下で出来たものか、車によるものか、一発で分かったと思うんだけどね。この点が、今回のストーリーの欠陥である。

MAT本部に戻り、調査に行った岸田たちが帰ってくるのを、重苦しい顔で待っている郷。
今やすっかり仲良しこよしになってしまった他のMAT隊員も、郷をなじるようなことは一切せず、我がことのように心配そうな面持ちを並べていた。
やがて岸田と南が帰ってくるが、その場にいた人間はすべて郷の過失だと見ていると言う、MATにとっては嬉しくない報告であった。
実際は、誰もその瞬間をはっきり見ていないのだろうが、紙芝居屋のおじさんが見たと言い立てているのに引き摺られて、他の住民も見たような気になっているのだろう。
伊吹「郷隊員の報告とだいぶ違うな」
郷「隊長、信じて下さい、僕には自信があります。車には何のショックも感じられなかったし、現に車には何の傷跡も付いてなかったじゃありませんか」
理路整然と自分の潔白を主張する郷。
そこまでは良いのだが、続けて、
郷「あの瞬間、我々にはわからない何かが起こったに違いないんです。たとえば、かまいたちとか……」
ん? ん? かまいたち?
唐突に、かまいたち説を持ち出すのが、なんかピントがずれている気がするのだ。
いや、「わからない何か」じゃなくて、単に上から落ちたか、落っことされただけじゃないの?
郷だって、子供が落ちてきたのは見てる筈なんだけどね。
郷「隊長、もう一度現場に行かせてください、納得の行くまで調べてみたいんです」
伊吹「郷隊員、俺はお前を信じてるぞ。私ともう一度現場へ行ってみよう」
郷の嘆願に、伊吹隊長が厳しい顔つきながら、そんなありがたいことを言ってくれる。
しかし、あまりに伊吹隊長が物分りが良過ぎて、逆に物足りない気がするもの確かだ。
ここは、
「その必要はない。郷、君には当分の間、謹慎を命じる」みたいなことを言ってくれたほうが、ストーリーも盛り上がったと思うんだけどね。
二人は現場に行き、紙芝居屋のおじさんからも改めて話を聞くが、おじさんは頑なに郷が轢いたのだと主張して譲らない。

おじさん「子供たちはみんなMATが大好きなんですよ。そんなMATに子供を撥ねるような隊員がいてはMATの名に傷が付きますよ」
郷「おじさん、もう一度良く思い出してください、正確に」
おじさんは、郷の言葉など無視して、
おじさん「隊長さん、この若者の処分はどのようになってるんですか」
伊吹「その件については目下、検討中です」
おじさん「やっぱりMATに置いとくことはできませんよ、ね~? それがほんとでしょうな、これでMATに傷が付かなくて済みますよ」
おじさん、郷のクビがもう決まったかのような口ぶりで言うと、その場から立ち去る。

郷「隊長、信じてください、僕は絶対自信があります」
伊吹「まだ過失と決まった訳じゃないんだ。郷、君の身柄は私が預かる。結論が出るまで君には当分任務を離れてもらおう」
郷「隊長!」
伊吹「いつでも真実はひとつしかないんだっ!」 抗議する郷を、どっかで聞いたような台詞でなだめると、伊吹隊長はひとりで本部へ帰っていく。
しかし、あんな車の通りの多いところで起きた事件なのだから、警察が丹念に聞き込みをしていれば、事件の直前、おじさんが徹と一緒に歩いていたところや、バケモノが徹を突き落とす瞬間を目撃したドライバーも、出て来たんじゃないかと思うのだが……
郷が徹の病院へ見舞いに行くのを神社の境内から見ていたおじさん、
おじさん「ふっ、当分奴はMATの仕事は出来ないぞ」
嬉しそうに言うと、紙芝居を入れた箱を開け、マイクを握って、メカのスイッチを入れると、箱の裏に、さっきのバケモノと同じ姿をした星人の姿が映し出される。

おじさん「作戦は順調に進んでいます」
上司「ごくろう、では次の作戦を指令する、レッドキラーを使って東京を混乱させるのだ。筋書きは紙芝居にして渡した通り、MATに負けなくてはいけない」
おじさん「了解……これでますますウルトラマンは邪魔者になってくる」
そう、おじさんはワルモノの星人の手下で、郷をMATから追放し、ウルトラマンが人間にとって無用の存在だと思い込ませるために活動していたのだ。
……しかし、人間がどう思おうと、地球がピンチになったら郷は必ずウルトラマンに変身して戦うだろうから、なんか意味がない作戦のようにも思える。
郷は病院に行き、まだ意識の戻らない徹の枕元に座り込む。
徹の両親は仕事が忙しいとかで不在だったが、両親から「人殺し!」みたいなことを言われるウツなシーンがないのも、いささか物足りない。
つーか、息子が生死の境をさまよっているというのに、二人ともそばにいないと言うのは、人の親としてどうなんだろう?

それはさておき、おじさんがメカを操作すると、地中からレッドキラーが出現する。
両手に三日月型の巨大な刃がついた、なかなかスタイリッシュな怪獣である。

その刃は手から離れると、ブーメランのようにくるくる回転しながら飛んでいくと、大きなビルを真っ二つに切り裂き、再び怪獣の手に戻ってくる。
要するに、アイスラッガーが両手についているようなもので、極めて強力な武器であった。
直ちにMATが出動するが、何故か今回は、出撃したのは岸田の乗るMATアロー1機だけで、他の4人は地上に留まっている。
岸田、景気よくロケット弾を撃ちまくり、怪獣の周辺を火の海にする。
なんか、郷の起こした事故より、よっぽど被害が大きい気がするが……
その郷、怪獣騒ぎなど耳に入らず、容態の悪化した徹のそばにつきっきりであったが、そこへ次郎が駆け込んできて、

次郎「郷さん、怪獣だ、レッドキラーだ」
郷「なに、次郎、どうして怪獣の名前を知ってるんだ?」 え、それ、MATのお前が言っちゃう? みたいな質問をする郷。
普段から、初めて見る怪獣の名前をすらすら言ってる人たちに言われたくない台詞である。
次郎「紙芝居に出てたんだよ」
郷「そんなばかな」
次郎「そんなことより早く行かなくちゃ」
郷「今そんなことしてられない。徹君の命が危ない」
CM後、なおも親の仇にあったようにロケット砲を撃って撃って撃って撃って撃ちまくっている岸田隊員。

その様子を、無言で見ている4人……って、
お前らもなんかしろよ! 動かせる戦闘機が1機しかないにしても、せめて地上から援護射撃ぐらいしようよ。
奮戦空しく、アローは片方の翼をブーメランに切られて爆発し、岸田はパラシュートで脱出する。
次郎「紙芝居とそっくりだ」
病院の屋上から見ていた次郎、さっき見た紙芝居のストーリーそっくりに事態が進行していることに気付く。

南「隊長、スーパーカノンを使ってみましょう」
上野「
原子爆弾と同じくらいの破壊力があります。しかし、放射能はゼロです」
と、南と上野が物騒なことを言い出す。
原子爆弾と同じ破壊力って、そんなもんを市街地で使うつもりか?
いくら放射能がゼロっつったって……
伊吹「……ようし、新兵器を使ってみよう、丘君!」
おまけに、
数秒考えただけで、あっさり許可しちゃう隊長。
MAT、怖えよ。

丘「はいっ」
とりあえず、丘隊員の凛々しい顔を貼っておこう。
今回、ストーリーは不発気味だが、相変わらず特撮は素晴らしく、

レッドキラーの吐く可燃性のガス(?)を受けて、建物が連鎖的に爆発を起こす、神業的ショット。
ちなみにそのスーパーカノンとやらだが、

これが、バズーカ砲よりも遥かに小さい、競技用のライフルみたいにちっちゃいのが、さすがにリアリティがないなぁと思いました。
言ってみれば携帯型の原爆みたいなもので、世界中のテロリストが喉から手が出るほど欲しがりそうなデンジャラスな武器である。
MATビハイクルとジープで、怪獣に向かって走っていくのだが、

合成された怪獣が、両手を股間に向けて、何度も上下させているのが、「コマネチ!」に見えるのは、管理人だけだろうか?
無論、たけしがギャグを開発したのはずっと後だが、コマネチ選手自身は、既にこの時点で国際大会で優勝してるんだよね。
えー、で、何の話だったか?
そうそう、スーパーカノンの話だった。

怪獣に接近して放ったスーパーカノンは見事に命中し、怪獣は全員を発光させ、さらに異次元空間的な不思議な色彩に染まると、窓ガラスの汚れを雑巾で拭き取ったように綺麗に消えてしまう。

南「上野、やったぞ」
上野「へへっ、すげえ威力だ。もう怪獣なんか怖くねえぞ」
岸田「予想以上の威力だ」
隊員たちは口々に興奮した声を上げるが、
伊吹「そうだと良いんだがな」
老練な伊吹隊長は、MATのあっけないほどの勝利に懐疑的であった。
何故なら、
MATはどうしようもないくらい弱っちいからである! 果たして、レッドキラーは地中に潜っただけで、ピンピンしていた。
冷静に考えたら、原爆と同じ威力のビームを浴びてピンピンしてるって、凄いよね。
上司「非常にうまく作戦は進んでいる。今の調子だと奴はウルトラマンに変身しないぞ。ウルトラマンにならなければ奴など恐ろしくない」
一方、おじさんの上司は、郷と徹少年を抹殺しろと、次なる指令を出す。
しかし、さっきも言ったけど、今回のワルモノ、ズール星人が何をしたいのか、いまひとつ分からない。
いくらさっき郷が変身しなかったからって、自分や徹の身に危険が迫れば、絶対変身するに決まっているからである。
それに、(人類にとって)「ウルトラマンが邪魔」と言うより、この後の展開を見ると、「MATが邪魔」と言う結論になるんじゃないかなぁ?
ともあれ、おじさんは直ちにレッドキラーを別の場所に出現させ、病院に向かって進撃させる。
怪獣の接近を知って逃げ惑う患者や看護婦でパニック状態となる病院。次郎が再び郷のところへ来てせかすが、郷は腰を上げようとしない。

次郎「郷さん、早く行って、怪獣と戦ってよ」
郷「それが出来ないんだ」
次郎「どうして怪獣と戦わないんだよ」
郷「次郎、僕はいま、MATの仕事をしてはいけないんだ」
次郎「郷さんのバカ!」
南たちは、「夢よもう一度」とばかり、スーパーカノンをもう一度撃つが、レッドキラーは一瞬固まるだけで、またすぐ動き出す。

おじさん「はっはっはっ、
馬鹿な人間どもだ。我々ズール星人が連れてくる怪獣がそんなに簡単にやられると思っていたのか?」
MATといっしょくたに「馬鹿」にされては、人間が迷惑です。
色々あって、遂に徹少年が意識を取り戻し、自分を突き飛ばしたのがおじさんであり、しかも宇宙人だったと証言してくれる。
それを聞いた伊吹隊長は、即座に郷の謹慎処分を解く。
郷は南たちと合流すると、すぐに屋上にいるおじさんを発見する。

郷「紙芝居屋のオヤジ」
岸田「郷、気でも狂ったのか?」
いきなり銃を抜いて撃つ気配を見せる郷を、岸田が慌てて止める。
まぁ、冷静に考えたら、徹少年の証言を鵜呑みにして、いきなり人を撃つのは乱暴なんだけどね。
が、何事にも上には上がいるもので、
郷「あいつは宇宙人なんですよ」
岸田「なに、ほんとうか?」
岸田「ようし!」 郷から又聞きしただけの岸田隊員は、そう聞くなり自分で撃っちゃうのだった。
MAT、怖えよ。
一方、撃たれたおじさんは、

おじさん「もうちょっとで、ウルトラマンをやっつけられたのにぃ……」
どこが? いくら死ぬ間際だからって、嘘はついたらあかん。
あと、手下の怪獣は原爆級の攻撃でもへっちゃらなのに、本人はMATのへぼい銃で死んじゃうと言うのも、なんか変である。
ちなみに、西田健さんが多々良純さんを殺してると言うことは、「ギャバン」のサン・ドルバが豪介を殺してる訳で、二人にはそんな因縁があったんだなぁ。
屋上に上がり、おじさんが死んで星人の姿に変わるのを見届けた郷に、レッドキラーのブーメランが唸りを上げて飛んでくる。

郷、空中に飛び出すと、得意のムーンサルトで華麗にかわし、

戻っていくブーメランにぶら下がって、怪獣のもとへ接近する。
そして空中で変身しながら、相手の鼻面を剃り落とすようにドロップキックを落とす。
レッドキラーはかなりの強敵で、そのWブーメランに散々梃子摺らされるが、最後はウルトラブレスレットをムチに変えてブーメランを空中で受け止め、

それを両手に持って飛び掛かり、怪獣と擦れ違って体を入れ替える。

数瞬の間を置いて、互いに振り向く両雄。
嫌な予感がしたのだが、案の定、

その首がぐらりと揺れて落ち、

さらに、首無し死体となった胴体まで、真っ二つに捌かれると言う、マグロの解体ショー並みの残酷な結末となるのだった。
首刎ねたら、十分ちゃうの?
こうして事件はなし崩し的に解決し、徹少年もすっかり元気を回復する。
ラスト、夕陽が街を染める頃、またあの橋の上で、次郎と徹がウルトラマンごっこをして遊んでいると、郷がMATビハイクルでやってきて、うっかり二人を轢き殺してしまい、今度こそMATから追放……じゃなくて、

ウルトラマンに扮した徹にやっつけられてあげる、優しい郷なのでした。
以上、発端は期待できるのに、それ以降の話の膨らませ方を失敗した惜しい作品であった。
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