第20回「少女の見た地獄」(1985年9月3日)
前回のラストから、猛たちに誘拐されて倉庫街で父・剛造が自ら身代金5000万を持って迎えにきてくれるのを祈るように待っていた千鶴子だったが、無情にも彼女の前に現れたのは、剛造ではあらで、腹心の手島だった。

手島「私は大丸会長の秘書をしている手島と言うものだ。会長は事情があって来れなくなった。私が代わりに身代金を持ってきた。千鶴子お嬢様を返してくれ」
手島、手短にそう説明して取引しようとするのだが、あえて「事情」とだけ言って、剛造が路上にいたニャンコをよけようとして事故を起こして負傷したと詳しいいきさつを言わないのは、彼が、以前から千鶴子を大丸家から追放したいと考えており、そう言えば、彼女の心が剛造から離れるのではないかという細かい計算も働いていたのではないだろうか。
もっとも、百戦錬磨の手島とて、銃を持った連中を相手に、身代金と人質の交換をするなどというタフなシーンを経験するのは初めてだったろうから、単に詳しい説明をする余裕がなかっただけなのかもしれないが。

千鶴子「きゅ~~~ん」
故意にせよ、偶然にせよ、剛造に裏切られた、見捨てられたと思い込んだ千鶴子は、その場に崩れるように膝を突き、今にも泣き出しそうに顔を歪ませるのだった。
が、猛たちは千鶴子の気持ちなどどうでもよく、手島の手から5000万の入ったケースをもぎとるが、何を思ったか、千鶴子はそのケースを「バカヤロー!」と叫んで2階部分から地面に叩きつけると、そのまま自分も下に降りて、闇の中へ走り去ってしまう。
手島はペンライトを振って、後方で待機していた南部開発調査室・通称ナンチョーの皆さんにお出ましを願うが、

その際、一部始終を物陰から見ていた「全日本・人間のクズ選手権」25年連続制覇中の龍作が飛び出てきて、誰よりも先にアタッシェケースを拾い上げるのが、まさに人間のクズにふさわしい、情けない行動であった。
しかも、そもそも猛たちを焚き付けて(自分の実の娘である)千鶴子を誘拐させたのは、他ならぬこの龍作なのだから、人間のクズ道を極めたと言っても過言ではあるまい。
無論、人間のクズらしく、あえなくナンチョーたちにケースを奪われ、取り押さえられてしまうのだった。
おまけに、地面を這いながら、
「千鶴子、お父さんが助けに来たぞー!」などと、心にもない台詞を口にするのだから、ある意味、立派である。
龍作「俺は千鶴子の父親だぞ。父親が娘の心配するの、あたりめえじゃねえか」
手島「……」
あぐらをかき、憎々しげにタバコをくわえてうそぶく龍作に、手島が冷ややかな眼差しを向ける。
手島が千鶴子を大丸家から切り離そうとしているのは、その実父・龍作の存在も影響しているのかも知れない。
誰がどう見ても、大丸グループにとって、百害あって一利なしの存在だからね、龍ちゃんは。

剛造「なに、千鶴子は、ダンカン、バカヤロー! と叫んで、身代金を投げ捨てたというのか?」
手島「はい」
頭に包帯を巻いて病院のベッドに横になっている剛造、手島からのありのままの報告を受け、茫然としていた。

手島「千鶴子お嬢様は、会長のお心を確かめたくて狂言誘拐を仕組んだに違いありません」
剛造「そんな筈はないっ!」
手島、本気でそう思っているのか、千鶴子を貶めようとしているのか不明だが、誘拐自体、猛と千鶴子による狂言だったと断じるが、剛造の千鶴子への信頼は厚く、
剛造「千鶴子は私に賭けていた。私が現れることに、自分の運命を賭けていた。恐らく心の中では祈るような気持ちだったろう」
と、まるで台本を読んだかのように、正確に千鶴子の心情を言い当てる。
一方、手ぶらでアジトに引き揚げたマヤたちは、当然怒りの矛先を千鶴子に向けてくる。
だが、すべてに絶望した千鶴子は、ある意味無敵状態で、マヤに銃口を向けられても平然として、
千鶴子「撃ちなさい、この世とおさらばできて清々するわ」
マヤ「何をこいつ!」
他の二人の子分は、千鶴子に大丸家に電話させて、なんとしてでも身代金を手に入れようとするが、千鶴子は頑として従わない。
猛「千鶴子は嫌がってんじゃねえか」
だが、千鶴子に惚れている猛は、ひと睨みでその策動を封じると、

猛「大丸から金を取るのはもうやめだ」
マヤ「猛!」
猛「俺は千鶴子の嫌がること、やりたくねんだ。かと言って島田の目を恐れてみじめったらしく生きるつもりもねえ」
猛は、ライフル銃を使って何かどでかい仕事をして金を稼ぐと宣言する。
マヤ「千鶴子はどうする気なんだ?」
猛「千鶴子も一緒に仕事をして貰う。いやだと言ったら俺が撃ち殺す」
千鶴子「……」

猛「千鶴子、俺はずーっと考えてたよ、
お前と一緒に地獄の底を歩いてみてえ、それができたら、明日死んでも命なんて惜しくはねえ」
千鶴子(どっかで聞いたような台詞……)

猛「俺のお袋は、とびっきりの美人だったぜ、ちっぽけなバーをひとりで切り盛りしてたんだけどよ、ガキの俺が見ても、眩しいくれえの美人だった」
ここで一転、聞かれてもいない、自分の母親のことを夢見るような眼差しで語り出す猛。
だが、そんなある日、母親の元亭主、すなわち猛の父親が猟銃持って店に飛び込んでくる。
猛によれば、「覚醒剤の中毒患者で、頭がイカレていた」らしいのだが、

それが
全然そう見えないのがNGである。
……って、言うか、これ、声優の千葉シゲルさんじゃない? どっかで見たことあると思ったら。
で、猛の母親は猛を庇って、その目の前で、シゲさんに撃ち殺されたのだと言う。

千鶴子「……」
その凄まじい過去を聞いて、さしもの千鶴子も言葉を失う。

猛「お袋はよー、どんな時でも毅然としてた。
千鶴子、お前はお袋にそっくりなんだ」
……え、どこが? まぁ、顔じゃなくて、その性格・佇まいが似てると言うことなのだろう。
猛「お袋は俺を裏切らなかった、お前も俺を裏切るんじゃねえ、今度裏切ったらお前を殺す!」
しかし、仮にも鬼神組の組長が、部下の前でまさかのマザコン宣言は、是非やめて頂きたかったなぁ。
ちなみにこの「告白」シーン、「不良少女~」の7話で、朝男が笙子に自分の生い立ちを話すシーンとそっくりである。
一方、いつものプールバーでくすぶっていた路男のところへ、雅人、しのぶ、耐子がぞろぞろ推し掛けて来て、千鶴子の誘拐事件の一部始終を話し、助力を仰ぐ。
その際、しのぶが(ドアを)「開けて下さい」と言っているのが、しのぶの今回最初の台詞である。
ちなみに路男、剛造が猫をよけようとして……と聞いただけで、自分の母親が、可愛がっているシャム猫をわざと剛造の前に置いているシーンを連想するのだが、いくらなんでも察しが良過ぎるだろう。

雅人「田辺、至急千鶴ちゃんを見付け出して、お父さんが心を千鶴ちゃんで一杯にして現場に向かったことを伝えて欲しい。そうしなければ千鶴ちゃんの心は絶望で潰れてしまう」
路男「何故俺に頼む? あんたは千鶴子の婚約者の筈だ」
雅人「悲しいけどな、僕は鬼神組のアジトを見付け出すことは無理だ。君なら出来る。君がアジトを見付けて、千鶴ちゃんにお父さんのことを伝えてくれ」
路男「雅人さんよ、俺は千鶴子をあんたから奪いたくて
うずうずしている男だぜ」
はい、また出ました「うずうず」!
このワードを聞くと、管理人は反射的に、「スケバン刑事」第22話、悪の親玉・海槌剛三の回想シーンで、

剛三「お前の母ナツは慎ましやかで楚々とした美しい女性だったよ……」
若いOLに扮した清水まゆみさんの熟女コスプレ姿を、

剛三「私はナツを自分のものにしたくて
うずうずしていたものだった」
若作りした神山繁さんが、ニヤニヤと舐め回すように見詰めている爆笑シーンを思い出さずにはいられないのです。
……って、前にもやったか、これ。
雅人「千鶴ちゃんの命が助かるのなら……」
千鶴子さえ無事なら、その場で千鶴子を路男を奪われても構わないとも取れる雅人の愚直な言葉に、路男も心を揺さぶられる。
路男「雅人、あんたはアホだ!」 路男、賞賛の裏返しである悪口を叩きつけると、鬼神組のアジトを探しに街へ飛び出す。
しかし、ここは「アホ」より「バカ」の方が良かったかな。
「アホ」じゃあ、文字通りの意味にしか聞こえず、
雅人「誰がアホじゃ! お前こそ、先週の放送見たけど、トランペット吹きながら後ろ向きで帰るって、誰がどう見てもアホのすることじゃねえか!」
路男「なんだとてめえ! 人が気にしてることを!」
などと言う大人気ない口論に発展していたかも知れないからである。
ちなみにこの重要なシーンで、しのぶの台詞は最初の
「開けて下さい」だけです。
前回もそうだったが、今回は特に千鶴子としのぶと格差がひどく、しのぶは完全な脇役に落ちてます。
まぁ、やっぱり、渡辺桂子さんじゃあ視聴率が上がらないってことに、スタッフも遅蒔きながら気付いたんだろうなぁ。
無論、最後までこんな扱いをされるわけではないんだけどね。
さて、路男は昔のツテを頼って街中を駆けずり回り、必死になって鬼神組のアジトを探すが、一向に手掛かりが掴めない。
そうこうしているうちに、猛は遂に「どでかい」仕事を始めてしまう。
そう、銀行強盗である。

無理矢理、半透明のお面を被らされ、ちょっと面白い顔になる千鶴子。
で、その詳しい段取りなどは一切省略されているのが物足りないが、5人は東都銀行渋谷支店を襲って現金2000万を奪い、見事、初めてのおつかい、いや、初めての銀行強盗を成功させる。

ところが、その犯行の最中、何を思ったか、千鶴子が自らお面を外して、その端正な顔を監視カメラにさらけ出してしまい、それがニュースで全国のお茶の間に流れるという大丸家にとって最悪の事態となる。

剛造「千鶴子が……」
娘が銀行強盗をしている映像を見せ付けられ、さしもの剛造も茫然自失となる。

剛造「信じられん、千鶴子が、銀行強盗など……」
則子「これであの子もおしまいです。大丸家にどこまで祟ったら気が済むのかしら……あなた、これで誘拐が狂言だったことも納得できた筈ですわ!」
剛造「いや、そんな筈はない、そんな筈はないんだ!」
則子「あの子には悪い血が流れているんです」
剛造「則子! 静子さんの前でなんだっ」
則子「いいえ、今日と言う今日は言わせて貰います。あの子には卑しい血が流れているんです。そうでもなければあんな不良になったり、あんな銀行強盗なんてやったりしません!」
剛造「黙らんか!」
則子「あの子は、大丸家をめちゃめちゃにしようとしてるんですのよ!」
則子も、今度ばかりは容易に引き下がらず、金切り声を上げて叫ぶと、千鶴子と一刻も早く縁を切るべきだとさえ言い出す。
また、雅人に対しても、千鶴子を諦めてしのぶと結婚すべきだとすすめるが、雅人も、あくまで千鶴子を信じると言い張り、銀行強盗も脅されてイヤイヤやったのだと庇う。
則子「何が脅迫ですか、あの子は悪いことをするのが好きなんですわ!」
ま、冷静に考えれば、千鶴子は人生に絶望して死さえ厭わない風だったのだから、銃でいくら脅されても、その気がなければ銀行強盗に協力するなんてありえないんだけどね。
ここは、猛に「逆らったら雅人を殺す」みたいなことを言われて、仕方なく……と言うシーンが欲しかった。

静子「奥様……」
則子「あなたの娘なのよ、あなたが責任持って引き取って頂戴!」
そこにいた静子にまでヒステリックに当たり散らす則子に対し、

剛造「バカッ、いい加減にしないか!」
則子「あがっ!」
剛造も思わず妻を引っ叩いて面白い顔にしてしまう。
則子「あなた、大丸家を滅ぼしてしまって良いんですか?」
それでもめげずに二者択一を迫る則子だったが、剛造の答えは意外なものだった。

剛造「かまわん!」
則子「なんですって?」
剛造「千鶴子が幸せになるなら、大丸家など滅びてもかまわんと言っておるんだ!」 いささか極端な感じもするが、剛造、会社や家名ばかりを大事にするゴーマンおやじから、一転して、娘のためなら何を犠牲にしても惜しくないと言う理想的なパパに生まれ変わったようである。
ちなみにこのシーンにおいても、しのぶの台詞は
ゼロである。
台詞どころか、アップのひとつすらなかった。
いくらなんでもこの扱いはひどいんじゃない?

さて、則子の恐れていたように、新聞には、千鶴子の目線入り顔写真つきで、でかでかとその浅ましい不行跡が書き立てられ、週刊誌には、こぞって興味本位に大丸家の複雑な家庭事情を暴いた記事が掲載され、全国的に、則子の言う大丸家の「恥」を晒すことになる。
しかし、仮にも財閥の令嬢、しかも未成年だと言うのに、この段階で名前や顔写真まで載ると言うのはねえ……
一方、路男はエリカの助けも借りて、なんとか優子を島田の手から取り返すとともに、彼女から、鬼神組のアジトの所在を聞き出していた。

そのアジトに潜伏し、ケンタで腹ごしらえをしている猛たち。
千鶴子「猛、いつまでこんなこと続ける気なの?」
猛「今、逃がし屋と話をつけてるところさ、外国に行くには5000万要るそうだ。ま、1億集めねえとな」
猛、見知らぬ国へ行って、一緒に暮らさないかと千鶴子を掻き口説く。
と、それを忌々しそうに眺めていたマヤ、ふと、窓の外を見て、路男らしき人影が雑草だらけの中庭を横切るのを目にする。
だが、マヤは何故かそのことを猛に教えようとしない。

ともあれ、猛たちが千鶴子を残して出て行った後、路男はすぐ窓の外まで上がってきて、ロミオとジュリエットよろしく、壊れた窓ガラスの隙間ごしに、千鶴子と会話を交わす。
と言っても、まずは雅人に言われたとおり、剛造が事故に遭ってやむにやまれず手島に代理を頼んだことを告げ、
路男「それをあんたに伝えに来た。雅人に頼まれてな」
千鶴子「雅人さんに?」
路男「心を膨らませろよ、生きることをまず考えろ。そう雅人が言ってた」
だが、無鉄砲な路男は、即座に千鶴子を連れてそこから逃げようとするが、あっさり猛たちに見付かってしまう。

猛「俺を裏切るなと言った筈だ……」
猛はライフルの銃尾で路男のみならず、千鶴子の顔をぶん殴る。
この画像のマヤの「しめしめ」と言う顔つきから見て、猛にこうさせることがマヤの狙いだったことがはっきりする。
そこまでは良いのだが、その後、猛が二人を縛り上げることもせず、同じ部屋にぶち込んでしまうのがいささか不可解な行為であった。
で、当然ながら、

路男が千鶴子の痛々しく傷付いた頬をいとおしそうに撫でれば、

千鶴子は千鶴子で、いたわるように路男の顔の傷に手を這わせると言う、一番猛の見たくないシーンに突入してしまう。
路男「なんであんなバカなことをしたんだ?」
千鶴子「死ぬのが怖かった。いつ死んでも良いと思ってたのに、いざ銃を向けられると死ぬのがとっても怖かったの……自分で自分が情けない」
千鶴子、ここで、さっきの管理人の疑問に答えるかのように、自分が何故銀行強盗などやらかしたのか、その気持ちを説明する。
うーん、でも、千鶴子は猛が自分に惚れ抜いていることを知っているから、いくら猛が凄んで見せても、本当に自分を撃つことなど出来っこないと分かりそうなもんだけどね。
もっとも、管理人は小沢アニキに銃口を向けられたことなどないので、千鶴子の気持ちを軽々に推測することは慎むべきかもしれない。
路男は自分を責める千鶴子を「そんなことはないよ」と慰めると、

路男「何故マスクを取った?」
千鶴子「お父様に対するあてつけもあった。こんなこと、私が望んでやってるんじゃない、分かって欲しいと思う心もあった。
何故マスクを取ったのか、自分でも良く分からないの」
そして、もっと不可解な、銀行強盗中の顔見せについては、千鶴子自身も「わっかりましぇーん」と言う、さすがにこれは脚本家の怠慢と言われても仕方のないトホホな説明でお茶を濁されてしまう。
路男「千鶴子……」
千鶴子「何故? 何故私のために命を賭けられるの? あなたにはトランペットの夢がある筈よ」
路男「あんたをほっといてペットなんて吹けるかよ」
千鶴子「何故自分の為に命を捨てられるの? 人生を捨てられるの?」
路男「そ、それはよ……」
頑是無い子供のように同じ質問を繰り返す千鶴子の顔を熱っぽく見詰めていた路男、

不意に、胸の底から込み上げてくる思いに突き動かされ、その体を力強く抱き締める。

千鶴子「あ……路男さん」
その瞬間、千鶴子は、路男の体温とともに、その悲しいほど切ない気持ちが全身に伝わってくるのを感じ、その目からぽろぽろと涙が零れ落ちる。

路男「千鶴子……俺は……」
路男も、千鶴子の背中をその両手で守るようにしっかりと掴む。
一旦体を離し、お互いの潤んだ瞳をじっと見詰めた後、

路男「……」
路男は、こんな場面で当然なされるべきことをしようと唇で突撃するが、

路男「……」
寸前で千鶴子が顔をそむけたため、路男の唇は千鶴子の髪の毛に冷たく遮られる。
路男、さすがに忌々しそうな顔になると、

路男「雅人の奴、あんたを救えるなら、あんたを諦めて良いなんて言いやがってよ」
雅人(いや、そんなこと言った覚えないんですけど……) 実際、路男に奪われても良いみたいなことは言ってるけど、別に諦めても良いとは言ってないんだよね。
路男「アホだぜ、あいつ」
さらに、本人がいないのを良いことに、言いたい放題の路男。
無論、これは賛辞の裏返しなのだが、さっきも言ったように、「アホ」より「バカ」の方が分かりやすい。
後編に続く。
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