第20回「少女の見た地獄」(1985年9月3日)
の続きです。

路男と千鶴子が監禁されている部屋に、意外な人物が入ってくる。
路男の母親・育代と、そのコワモテの部下たち、そして、

猫「うにゃあああうー」
ぬいぐるみのように大人しい、育代の飼っているシャム猫である。
この一見コワモテの人たちも、撮影の合間にはきっとこの猫にデレデレしていたのだろうと想像すると、つい微笑ましくなる管理人であった。

路男「やっぱりあんただったんだ、大丸の車の前に猫を飛び出させたのは……」
路男はそれを見るなりそう決め付けるのだが、さっきも言ったように、あまりに強引な決め付けである。
路男「鬼神組とはどういう関係だ」
育代「バカだね、この子は、お前が捕まったと知らせを受けたんで、金を払って助けてやったんじゃないか。500万で手を打ったんだ」
なんだかんだ言っても母親である。
路男の身柄を貰い受けに、わざわざアジトまで足を運んで来たらしい。
だが、路男は千鶴子と一緒じゃなきゃヤダと駄々をこねる。

育代「大丸の娘なんてほっとけばいいのさーっ」
路男「何を勘違いしてんだよ、大丸の娘じゃねえ、あんたが誘拐したのは松本夫婦の娘だったんだ!」
育代「なんだって?」
18年前の自分のチョンボを初めて知って、気まずい顔になる育代さん。

千鶴子「あなたが……」
路男「俺のお袋だ」
千鶴子「いや、あなた、お母さん死んだって言ってなかった?」 路男「言ってません」
千鶴子「言ったでしょ」
路男「言ってません」
千鶴子「言ったやろがっ!」
じゃなくて、18年ぶりに自分を誘拐した犯人と顔を合わせ、なんとも言えない目付きになるのも無理はない千鶴子だった。
言うなれば、目の前に立っている女が、自分としのぶの運命を狂わせた張本人なのだから……
育代「あの時の娘が? そんなばかな!」
路男「あんたの早とちりのお陰で、千鶴子は地獄の苦しみを味わってるんだ、分かったら千鶴子も助けてくれ」
だが、続いて育代の口からとんでもない言葉が飛び出る。
育代「私たちに大丸の娘を攫えと唆したのは、龍作なんだよ!」 そう、以前にもちょっと触れたように、今回の千鶴子誘拐事件と同じく、18年前の誘拐事件の裏で糸を引いていたのも、他ならぬ龍作だったのである!
さすがキング・オブ・クズである。
育代「借金だらけのうちの人の弱みに付け込んで焚き付けやがって……」
と育代は言うのだが、そのくせ、実際に誘拐したのは育代なんだけどね。しかも、亭主には内緒で。
育代「龍作の娘なら、地獄へ落ちるが良いや!」 育代、千鶴子に詫びるどころか、鬼のような形相で罵ると、部下に命じて路男だけを強引にお持ち帰りするのだった。
もっとも、仮に育代が承諾しても、猛が千鶴子をむざむざと引き渡すことはありえないのだが。
それにしても、大映ドラマに出てくる人って「地獄」と言うワードが好きやねえ。
路男、再び育代の事務所に連れて行かれる。

育代「路男、私の財産はねえ、
10億じゃ利かないんだよ。この金が全部お前のもんになる」
路男「ママ!」 じゃなくて、
路男「お袋よ、あんたは過去を全部忘れた筈だ、今更俺を息子でもねえだろうよ」
育代「私はねえ、刑務所を出てから自分で食うのに精一杯だった。気がついたら夜の新宿に立ってた。体を売って金を稼いだね。大丸に対する恨みなんてとうに忘れていた……」
路男「……」
母親から、昔ウリをしていたと聞かされて、どう反応して良いのか分からず固まる路男であった。
って、そもそもそんなこと息子に告白する母親なんていねーよ!
が、育代はひとりで大丸に復讐しようとしている路男を見て、急に路男が愛しくなったと言い、

育代「この猫を大丸の車の前に飛び出させたのも、その為さ」
猫「……」
路男(可愛い……) 育代にされるがまま、既に半分寝落ちしている猫がめっちゃ可愛いのである!
育代、復讐事業に金を出してやっても良いとさえ言うが、
路男「お袋、あんたの稼いだ汚ねえ金なんて一銭もいらねえ。俺は千鶴子を助けてえんだ」
母親がウリをして稼いだ金に頼るほど、路男は落ちぶれてはいないのだった。
と言うより、今の路男にとっては、大丸への復讐などもうどうでも良くなっていたのだろう。
その後も元気に銀行強盗を続けて目指せ目標1億円! の猛だったが、世の中そんなに甘くなく、あっけなく破局が訪れる。
とある銀行を襲撃したは良いが、逃げるのに手間取り、パトカーに追われる羽目となってしまう。
で、多摩川の河川敷で、猛と千鶴子以外の三人は、あえなく御用となる。

はい、マヤの大きなお尻、頂きました!

猛は千鶴子の手を引いて、近くの鉄工所に逃げ込み、篭城する。
千鶴子「猛、もうやめて、自首するのよ」
あっという間にパトカーに包囲網を築かれ、もう逃げるすべはないと千鶴子に自首を勧められるが、
猛「千鶴子、死ぬ時は一緒だぜ」
猛はライフルの銃口を千鶴子に向け、本気の目でそうつぶやくのだった。
で、その事件はたちまちテレビでニュースとなるのだが、

千鶴子の名前と顔が、でかでかとテレビで放送されるのが、今ではまずありえない現象。
でも、昔の新聞では容疑者の顔写真がバンバン載ることも珍しくなかったから、当時ではそれほど奇異な扱いではなかったのかもしれない。
中継で、猛たちの立てこもった建物の外観が映し出される。
それは良いのだが、

続いて、どう見ても猛たちの目線で見たパトカーなどが映るのは、明らかにおかしい。

猛「てめえら良く聞けよ、現金1億円と逃走者用意しろ、命令に従わねえと大丸千鶴子を射殺する」
猛は、堂々と警官隊の前に姿を晒し、紋切り型の要求と脅しを突きつける。
アメリカとかだったらとっくに射殺されてると思うが、日本のぬるい警察は銃を向けるだけで、何の動きも見せない。

やがて路男がバイクで駆けつけ、雅人としのぶも車で到着するのだが、

しのぶ「千鶴子さんが!」
なんと、今回のしのぶの台詞は、これと、さっきの「開けてください」とあわせて
たった二つである。
くどいようだが、いくらなんでもひどくないか、スタッフ?
渡辺さんだって、台本渡されて台詞が「開けて下さい」「千鶴子さんが!」だけだと知ったら、やる気がなくなるだろう。

猛はそこから降りて、一旦建物の中に戻るのだが、その際、梯子を降りている千鶴子のパンツが見えないかなぁとコマ送りせずには入られない、律儀なコマ送り職人の管理人であった。
ま、見えなかったけど。

猛「俺たちは海の向こうへ行くんだ、誰もしらねえ国で、光をたっぷり浴びて生きていくんだ。なぁ? あんたに苦労なんてさせねえよ」

猛「贅沢させてやるさ、母さん……あんなに俺を可愛がってくれたんだもんな」
千鶴子「……」
ライフル銃を突きつけたまま、まだ見果てぬ夢を見続けている猛だったが、とうとう頭がおかしくなったのか、千鶴子が亡き母親に見えてきたらしい。

猛「俺の為に、俺の為に死んでくれたんだもなー、母さん」
ここへ来て、完全なマザコンキャラになってしまい、今まで積み上げてきた鬼神組組長としての凄みが大空の彼方へすっ飛んでしまうのがとても残念な猛であった。
しかし、この辺も、「不良少女~」で、朝男が母親のことを思い出して号泣しながら警察に逮捕されるトホホなシーンとそっくり同じである。

千鶴子「猛、私はあんたの母さんじゃないの、しっかりして、私は千鶴子、あんたの母さんじゃないの!」
猛「……」
千鶴子、必死に叫んで何とか猛を正気に返らせる。
だが、いずれにしても、猛がもう精神的に限界に近付いているのは誰の目にも明らかだった。
そこへ警官の制止を振り切って雅人が飛び込んでくるが、あっさり猛に肩を撃たれて階段を落っこちていく。
これはこれでカッコ悪い。
その後、剛造も現場にやってくるが、それを千鶴子と一緒に窓から見ていた猛の右脇あたりを、スタンバイしていた狙撃手に撃たれてしまう。
それでもまだライフルを放さず、千鶴子に向ける猛だったが、

千鶴子「猛、撃つなら撃っても良いのよ、海を越えて行こうね。光がたくさん溢れてる国で二人で暮らすのね? 猛、さ、撃っていいのよ」
ここで突然、千鶴子が聖母のような穏やかな笑みを浮かべ、母親のように優しい言葉を猛に掛ける。
千鶴子、マザコンの猛が哀れになったのか、それとも何もかもどうでも良くなったのか、猛と一緒に死んでも良いとさえ考えるが、
猛「千鶴子……」
その決意が、逆に猛を間一髪のところで目覚めさせる。

猛「銀行強盗の主犯は俺だーっ! 千鶴子は何の関係もねえ、千鶴子は俺が銃で脅してやらせたんだよ、俺だ、俺が犯人だーっ!」
そして渡り廊下のような通路の上に立つと、警官隊に向かってあらん限りの声を振り絞って叫び、千鶴子の罪を被って、漢(おとこ)になる。
正直、雅人や路男よりよっぽどカッコイイと思うのである。

千鶴子「……」

猛「……」
そして、本当の恋人同士のように互いの目を見詰め合う二人。
千鶴子が、初めて猛に愛を感じた瞬間だったが、

猛はそこから思いっきり身を投げ出し、

背中を地面に叩きつけ、めちゃくちゃ男らしい死を迎える。
これまた、路男の湿っぽい死に方とは雲泥の差である。
この作品のみならず、自分の知る限り、大映ドラマの中で一番カッコイイ死に方ではないだろうか。
そのタイミングでEDのイントロが流れ出す。

千鶴子「猛ーっ!」
すぐに警官や医者が駆けつけるが、既に猛は絶命していて、タンカに乗せられ、灰色のシーツを被せられる。
ま、普通はそれでも一応救急車で運ばれると思うんだけどね。諦めるのが早過ぎ。
千鶴子は、雅人に付き添われて下に降りてきて、もう物言わぬ死体となった猛の体を濡れた目で見詰めながら、

千鶴子「猛、あんたは悪党だったけど、愛するものの為に死ねると言う言葉を守ったわ……」
そこへ剛造が来て、千鶴子の体を思いっきり抱き締める。
が、いくら猛が命懸けで千鶴子の無罪を主張しても、千鶴子が強盗に加担したのは客観的事実なので、

刑事「大丸千鶴子、強盗容疑で逮捕する!」
容赦なくワッパを掛けられてしまうのだった。
財閥令嬢がとうとうこんなところまで堕ちるとは……いやぁ、ゾクゾクする展開ですね。
以上、猛の壮絶な死より、しのぶの台詞がふたつしかなかったことのほうがショックな第20話でした。
- 関連記事
-
スポンサーサイト