第18話「涙は明日への絆」(1989年8月7日)
前回のラスト、涼子から、翔子が今まで何人もの選手をプチッと潰してきたこと、そして何より、シンクロに熱中するあまり、自分自身の娘を交通事故で死なせていたことを知らされ、激しいショックを受けるミカ。
部屋に戻ってベッドの上に腰掛け、涼子に言われたことを頭の中で繰り返すうちに、沸々と激しい怒りが込み上げてきて、「許せない、私を捨てたお母さんと同じじゃないのーっ! 許せない、許せるもんかーっ!」と泣き叫びながら、布団や枕、花瓶に挿してある花など、おおむね柔らかめのものに八つ当たりをして暴れまくる。

最後はベッドの上に倒れるように横たわり、シーツを掴みながら子供のように泣きじゃくるのだった。
ミカ、直前まで、翔子が自分の母親なのでないか、いや、母親であって欲しいと大映ドラマ的な甘い夢を見ていただけに、その反動は余計大きかった。
その後、なかなか練習に出てこないミカを翔子が苛々しながら待っていると、遠藤コーチに連れられて、やっとミカが現われる。

(註・管理人、遠藤コーチの水着の上にジャージと言う姿が可愛いので、なんとかピントの合った画像をキャプしようと何回となく巻き戻してはコマ送りを繰り返したが、これが精一杯であった)

翔子「何をぐずぐずしてるの、10分も遅刻してるわよ」
ミカ「……」
ミカ、不貞腐れたような顔をして、謝ろうともしない。
翔子「今日はアルバトロスを徹底的にやるわよ……遠藤先生、お願いします」
遠藤「……はい」
「徹底的にやる」と言いつつ、自分は是が非でもプールに入ろうとしない翔子の省エネ指導法に、冷やかな眼差しを向ける遠藤コーチであった(註・管理人の妄想です)。

遠藤コーチ、ジャージを脱ぎ、キャップとゴーグルを着けると、水の中に入る。

そして頭から水の中に潜ると、キュートなお尻の割れ目を水面に出す。
もっとも、潜る瞬間にフィルムが切り替わっているので、これは女優さんのお尻ではなく、本職のシンクロ選手のものだと思われる。
翔子「垂直ベントニー姿勢、両足を同時に持ち上げながら、片足は垂直に保ち、反対の足を曲げていく」

翔子「半回ツイスト、曲げた足を垂直な足に合わせて垂直姿勢……遠藤先生、ありがとう」
だが、肝心のミカは、遠藤コーチの模範演技や翔子の説明も、まるで興味がなさそうに上の空であった。
何も気付かない翔子は同じ動きをやるように言うが、ミカは一応プールには入ったものの、仰向けになって水面に浮かぶだけで、翔子の指示を無視して、一切「アルバトロス」を演じようとしない。

翔子「ミカ、上がりなさい!」
遠藤「ミカさん、いい加減にしなさい!」
翔子が業を煮やして叫ぶと、温厚な遠藤コーチも、思わず声を荒げてミカの体を立たせる。

翔子「ミカ、どういうことなの?」
ミカ「私にだって練習したくない日があります」
翔子「ミカ、今があなたにとってとても大切な時なのよ、練習はつらいかもしれないけど……」
ミカ「私、休みたいんです」
翔子「気迫を持ちなさい」
ミカ「気迫を持っても体が壊れちゃなにもならないわ」
翔子「体が壊れるか壊れないかは私が見定めます。プールに入って」
ミカ「私は先生とは違うわ、先生はシンクロの為なら人間として大切なものでも犠牲にする人よ!」
いつになく厳しいミカの非難だったが、
翔子「ええ、そうよ、犠牲にしなければならないときは犠牲にするわ」 シンクロ馬鹿の翔子の精神には毛筋ほどのダメージも与えられないのだった。チーン。

翔子「ここで気を抜いたら、ミカが今まで手に入れたものが全部無駄になるのよ」
ミカ「だったらそれでもいいわ」
翔子「バカッ!」
捨て鉢なミカの態度に、翔子が思わず手を上げる。
ミカも即座に仕返しに翔子の体を突き飛ばす。尻餅をついた翔子が、痛そうにまだ完治していない足首を押さえるのを見て、一瞬後悔するミカだったが、そのまま自分の部屋に駆け込んでしまう。
だが、翔子も、しつこく部屋まで追いかけてくる。

翔子「ミカ、何があったの。訳を話しなさい」
ミカ「訳なんてないわ、練習をしたくないからしたくないと言ってるだけよ!」

ミカ「出てって、着替えたいの!」
翔子「ワガママは許さないわ、プールに戻りなさい!」
ミカ「行かないったら、行かない!」
翔子「来るのよ!」
シンクロのコーチだと言うのに、絶対プールに入ろうとしないどころか水着を着ようとさえしない翔子、そんな自分のワガママは許せても、選手のワガママは絶対許さないのでした。
それが翔子の
「プロフェッショナル・仕事の流儀」なのです!

ミカ「私はあんたの奴隷じゃない!」
強引に腕を取って引っ張ろうとする翔子を、思いっきり突き飛ばすミカ。
いやぁ、ジャージ越しでも、その巨大さがうかがえる宮沢りえさんのお尻!
なんか、こう、よし、明日も頑張って生きていこうという気にさせられますね。
さらに、翔子に手当たり次第に物を投げ付け、まるっきり癇癪を起こした子供のようなミカだったが、

所詮は翔子の敵ではなく、簡単に腕を取られてベッドにねじ伏せられる。
ミカ「放してよー、放して!」
翔子、ミカの体を起こすと、

翔子「ミカ、一流の選手はねえ、みんなあなたと同じ苦しみを乗り越えてるのよ」
ミカ「一流選手なんてならなくていいわ」
翔子「だったら、あなたを捨てた母親には会えないわね」
翔子、ナントカのひとつ覚えのようにミカの実の母親のことを持ち出して、ミカを奮起させようとするが、

ミカ「母親がどうしたって言うの? 私が母親を必要としてるとでも思ってるの? 私が母親を慕っているとでも思ってるの?」
翔子「ミカ……」
ミカ「会いたくもないわ、私を捨てた母親なんて、会いたいなんて思うもんか!」
今度ばかりは逆効果で、ミカはますます依怙地になってしまう。

翔子「だったらそれでもいいわ、でも私はミカを逃がさないわよ。シンクロだけは続けて貰うわ」
……
翔子、シンクロの為なら人命のひとつやふたつどころか、地球さえどうなってもいいとすら思っている節がある。
だから、それに対して、
ミカ「悪魔っ!」 ミカが思わずそう叫んだのも良く分かる。
しかし、なかなか人から面と向かって「悪魔」と呼ばれることってないよね。
結局、翔子はミカの腕を取って、強引に部屋から連れ出してしまう。
ここでやっとタイトルが表示されるが、管理人、アバンでの台詞の多さに泣きそうになりました。

ミカ「やーだー、放して、悪魔! もうっ! 放してー、鬼ーっ!」
翔子に引っ張られながら、絶え間なく罵声を浴びせ続けるミカがとっても可愛いのです。
だが、騒ぎを聞きつけて草薙オーナーが顔を出したところで、ミカは腕を振り解いて逃げ去ってしまう。
ミカ、ロッカールームに座り込んで隠れていたが、練習を終えた他の選手たちが入ってくると、慌てて立ち上がる。

が、ミカに反感を持っている筈の典子や明子の態度は妙に好意的で、
典子「森谷先生のことなら気にすることないわよ。とことんつきあったら体か幾つあっても足りないもの」
ミカ「私だってバカじゃないわ、自分の体ぐらい、自分で守るわ」
典子「それが一番よ。だいたい森谷先生のスケジュールは強行過ぎるわ。ミカさんの体力にあったスケジュールで練習すべきよ」 明子「典子さんの言うとおりよ、森谷先生の練習は一昔前の古いやり方よ」 むしろ、ミカの行動を後押しするように、口々に翔子を指導法をこき下ろす。だが、それは善意から出たものではなく、親切ごかしにミカを焚き付け、彼女と翔子の仲を引き離そうと言う陰険な企みなのだった。無論、彼女たちの背後で涼子が糸を引いているである。
でも、計略は計略として、典子と明子の意見って、めっちゃまともだよね。
選手が潰れようがどうなろうと知ったこっちゃない、厚子や翔子のスパルタ指導法がおかしいのである。
もっとも、劇中においては、必ず翔子の方が正しいと決まっているのだが。
実際、まだアキレス腱が完治していない、それも最近シンクロをはじめたばかりのミカに、これだけハードな練習を課したら、途中で壊れているのが普通だと思うんだけどね。

典子たちの翔子評に対し、他の選手も多かれ少なかれ心当たりがあるので、誰も反論するものはいなかったが、ミカの親友の千絵だけは、気遣わしそうな視線をミカに注いでいた。
二人で帰宅中、千絵は、ミカの不可解な態度を率直に問い質す。

千絵「ミカさんどうなっちゃってるの、森谷先生に反抗ばかりしてるんだもの」
ミカ「あの人は悪魔よ!」
千絵「悪魔だなんて……
気持ちは分かるけどそれは言い過ぎよ」
ミカ「言い過ぎなもんですか、森谷先生の為に潰されてる選手は何人もいるそうよ。千絵さんだって知ってるでしょ?」
千絵「それは……練習についていけなくて何人か辞めた人は知ってるけど」
ミカ「そうでしょう、誰だって潰されちゃうわよ、私、森谷先生にコーチなんてして欲しくないの」

千絵「ミカさん、ミカさんの才能を誰よりも評価してるのは森谷先生よ、私は森谷先生はミカさんをとっても愛してると思うわ、我が子のように……」
ミカ「やめて! 私、森谷先生にどうしても許せないことがあるの、どうしても!」
千絵、必死に翔子の弁護をするが、今のミカには何を言っても無駄であった。
しかし、「練習についていけなくて辞める」選手を何人も出してる時点で、翔子はコーチ失格であろう。
別にここに通っている生徒は、全員が全員、何が何でもオリンピックに出てやるんだと鼻息を荒くしている人たちばかりではないのだし。
と言うか、後述のように、そもそも翔子はミカを育て上げる為(だけ)にコーチになったようなものなのだから、過去に潰されたと言う他の選手は、翔子にとってはミカが来るまでの代用品に過ぎず、翔子が肩慣らしにブチブチ叩き潰してしまったというのが本当のところではないだろうか?
千絵と別れた後、いつになく愛想の良い涼子たちと出会ったミカは、誘われてファミレスに立ち寄る。

その席で、典子が「森谷先生のコーチは受けたくないってオーナーに頼んでみたら?」と、ミカを唆せば、明子もすかさず、「それが良いよ、ミカさん、体ぶっ壊されたちゃたまんないもん」と息の合った連係プレーを見せる。
勿論、すべて涼子の意を受けての発言である。
だが、そこへ突然現われたのが、今ではミカの守護神を以て任じている冴子だった。

ミカ「冴子さん!」
ミカも驚くが、それ以上に驚いたのが涼子で、慌てて冴子をテーブルから離れたところへ連れて行く。

涼子「ミカさんのことなら心配しなくてもいいわ、私たち仲良くやってるわよ」
冴子「あなたの仲良くは当てにならないわよ、ミカさんに何か焚き付けてるんじゃないの?」
かつて涼子の腹心として様々な悪事に加担してきた冴子だけに、外部にいながら涼子の考えなどとっくにお見通しのようであった。
涼子「言いがかりをつける気なの? いい加減にしないと私、怒るわよ」
冴子「あなたが怒るより私が怒った方が怖いんじゃないの?」
涼子「……」
凄んで見せる涼子だったが、決定的な弱みを握られている冴子には逆らえず、冴子は涼子の了解を取ると、ミカを連れて店を出て行く。
小高い丘の公園で、二人きりで話しているミカと冴子。

冴子「森谷先生に反抗してるって聞いたわ」
ミカ「反抗って言うのかなぁ」
冴子「涼子さんが森谷先生のことで何か言ったんじゃないの?」
ミカ「別に」
冴子「涼子さんが何を言ったか知らないけど、森谷先生は最高のコーチよ! 森谷先生を信じてついていけば間違いないわ」
冴子も、シンクロのドラマなのに今まで1度もプールに入ったこともなければ、ただのひとりも有名選手を育て上げたことのない翔子のことを、手放しで絶賛する。
そう言う設定だから仕方ないのである!
ちなみに冴子、部外者なのに異様に早耳だが、ひょっとしたら、心配した千絵が冴子に電話したとも考えられる。

冴子「私、シンクロは辞めることになると思うわ」
ミカ「……」

冴子「だから、ミカさんには私の夢を叶えて欲しいの、ミカさんには世界選手権で優勝するぐらいの選手になって欲しいの!」
ミカ「冴子さん……」

冴子「練習を続けて、お願い!」
ミカ「分かってる、分かってるわ、冴子さん……」
恩人とも言うべき冴子の涙ながらの訴えをむげには断れず、そう答えるミカであったが、翔子に対するわだかまりは依然として残っていた。
で、一応練習には参加するが、翔子のコーチは受けずに自分でやると宣言する。
だが、すぐ翔子と口論になって練習を打ち切ってしまう。

それはそれとして、プールから上がった時の、水に濡れて、ぷるんとしたお尻が最高なのです!
翔子「一体どうしたのよ、ミカ」
ミカ「私、あなたのコーチを受けたくないんです」
翔子「なんですって」
ミカ「草薙先生にそう言ってきます」
翔子「……」

そんなギスギスした二人の様子を、遠くから涼子が分かりやすいシメシメ顔で見ていた。
ミカは、実際に順子のところへ行き、翔子のコーチは受けたくないと直談判に及ぶ。
ほどなく翔子もやって来て、順子と一緒にミカの言い分を聞くことにする。

ミカ「森谷先生は、コーチとしての名誉を得る為に、何人もの選手を潰したそうですね。選手の体力や体調を少しも考えずに、ガンガンしごいて潰したんでしょう? でも、私が許せないのはそんなことじゃない。私がどうしても許せないのは、シンクロに夢中になって自分の子供を見殺しにしたことよ!」
翔子「ミカ……!」
ミカ「あなたなんて、あなたなんて私を捨てた母親と同じじゃないか! 私は川端先生からあなたに私と同じくらいの娘がいると聞いて、もしかしたら、私のお母さんじゃないかって、そう思った……」
子供のことを言われると、さすが厚顔無恥の(註・厚顔無恥じゃないです)翔子も顔色を変える。

ミカ「私のお母さんであってくれたら良い、そう思ってた。それが何よ、平気で自分の子供を見殺しにできるような人間じゃないか!」
激昂のあまり、語尾が男っぽくなるミカ。
それにしても、[
実の母親]の前に立ち、そんな台詞を思い入れたっぷりに語るミカは、知らず知らず、絵に描いたような
「志村、うしろ!」状態に陥っていると言えるだろう。

ミカ「許せない、私、許せないんだ!」

翔子「ミカ……」
言いたいことを言ってしまうと、ミカは床に座り込んで、すすり泣きながら、呻くように「悔しくて、情けなくて……」と、つぶやくのだった。
順子「森谷先生、ミカさんと二人だけで話をさせてちょうだい」
翔子「はい……」
ミカに娘のことを言われたのがよほどショックだったのだろう、順子にそう言われると、翔子は力なく頷いて、部屋を出て行く。

順子「ミカさん、あなたは森谷先生を誤解しているわ。確かに、あなたの言うとおり、何人かの選手が森谷先生の練習についていけずに去って入ったわ。
でもね、彼女たちはみんな森谷先生の指示を守れなかった人たちなの……」
二人きりになると、草薙オーナーは、まずそう言って翔子を擁護する。
つまり、翔子に潰された選手たちは、シンクロの落伍者であり、人間のクズなのであって、それは翔子の責任ではなく、120パーセント選手のほうが悪いと言っているのである。
しかし、「指示を守れなかった」=「潰された」との間には、少なく見積もっても400メートルは隔たりがあると思うんですが……
ここは是非、その選手たちも呼んで、彼女たちの意見も聞いてみたかった気がする管理人であった。
もっとも、ミカが気にしているのはそんな
些細なことよりも、自分が言ってるように、やはり、翔子の娘のことであった。
ミカ「私が許せないのは、シンクロに夢中になって自分の子供をほったらかしにしたことです」
順子「森谷先生が、事故でお子さんを亡くされたことは事実です」
ミカ「私はそのことを言ってるんです」
ミカ、自分も幼い頃、母親を追いかけてダンプに轢き殺されるところだったと自分の経験を語り、

ミカ「森谷先生も私の母と同じだわ」
草薙「……」
そのことを持ち出されると、ぐうの音も出せなくなるオーナーだったが、
「それはそれ、これはこれ!」と自分に言い聞かせると、不意に厳しい表情になって、

順子「ミカさん、森谷先生が苦しまないとでも思ってるの? 苦しんで苦しんで何度も死のうとしたのよ。あなただけが苦しんできたみたいなこと言うもんじゃないわ!」
ミカ「……」
順子「森谷先生のお子さんのことは、あなたが直接会って確かめてらっしゃい」
しかし、翔子が自殺をしようとしたことを、どうしてオーナーは知っているのだろう? 翔子の性格からして、そんなことを他人に打ち明けるとも思えないのだが。
さて、翔子、自宅マンションに帰って落ち着かない様子で待っていたが、やがてチャイムが鳴って、ドアを開けるとミカが立っていた。翔子は、いそいそとミカを中に入れる。

居間に招き入れられたミカの目にまず飛び込んできたのは、

こちらを見てニッコリ笑っている、翔子の娘の写真だった。

ミカ「……」
ここでミカがちょっとでも吹き出していたら、ミカと翔子の信頼関係も一挙に崩壊するところであったが、ミカ、心の中で強く
「笑っちゃダメだ! 笑っちゃダメだ!」と、自分を叱咤し、なんとか耐える。

翔子「娘の写真よ、さやかって言うの……ミカが怒るのも当然よ、私はほんとに悪い母親だったわ。二十歳で恋をして21の時にさやかを産んだわ、結婚はしなかったの。だから、未婚の母ね、私は若くて野心があった。シンクロの頂点に立ちたい。そう思ってたのね、
そんな私に、彼は呆れて去って行ったわ」
ミカ「……」
翔子が語る、初めての過去だったが、そんな抽象的な説明だけでは子供まで成した彼氏が、「呆れて去る」と言うのは、やや唐突に感じられるのだが、たぶん翔子のことだから、
「これから、家にいるときも常に水着で過ごすわ」
「部屋や車に流す音楽はすべてシンクロのBGMにするわ」
「家の風呂の深さを5メートルにするわ」
「いっそのことプールサイドに引っ越すわ」 などと言い出したので、彼氏も「こいつ、やべぇ」と気付いて逃げ出したのだろう。
しかし、シンクロ選手としての野心に燃えていたのに、妊娠しちゃうと言うのは、翔子にしては迂闊なような気がする。
翔子は、練習に打ち込んで娘のさやかを育てるのが面倒だったので、田舎の母親に預けていたのだが、全日本選手権の前日、母親が、さやかが交通事故に遭ったと知らせてくる。
翔子「是が非でも優勝したいって思ってた私は、命に別状はないって言う母の言葉を信じて大会に出てしまったの……」
だが、大会で優勝して病院へ駆けつけると、さやかは既に亡くなっていた。
母親から、さやかが自分に会いたくて家を飛び出し、それで事故に遭ったと聞いて、翔子は激しく自分を責める。
翔子「無慈悲な母だけではすまない。私は人間失格だと思った。私はナショナルチーム入りを断ってシンクロをやめたわ」
そして翔子は、かつて、ミカと一緒に合宿したあの山に登り、海に身を投じる……じゃなくて、睡眠薬を飲んで死ぬと言う、ややピントの外れた自殺をしようとしたのだが、崖の上に立った時、眼下に打ち寄せる海の……水の生命力に圧倒されたのだと言う。
さらに、天からさやかの声が聞こえてきたのだと言う。

さやか「ママ、死なないでー!」
翔子「さやかーっ!」
カツラをつけてやや若作りした翔子が叫ぶ。

翔子「私が死んだら、この世にさやかが生きたことを知るものがいなくなる……どんなにつらくても、この胸にさやかを抱いて生きようってその時思ったの」
翔子の涙の告白を聞いているうちに、ミカの双眸からもとめどなく熱涙が溢れ出していた。

翔子「10年間、私はシンクロの世界と別れて、病院の事務局に勤めてたの……」
その翔子のもとに、草薙オーナーが訪ねてきて、コーチ就任を、熱心に要請するが、翔子は断り続けていたらしい。
そんなある日、順子が持ってきたのは、バレリーナだったミカのグラビアが載った雑誌だった。
翔子「私は一目ミカを見て、娘のさやかを感じたの」

順子「森谷さん、この子、今はクラシックバレエをやってるんだけど、シンクロの選手になったらすっごい子になると思うの……一度、見てくるだけでも見てくれないかしら」
翔子「ミカは知らなかったかもしれないけど、私は何度も仙台に足を運んで舞台のミカを見てるのよ」
つまり、翔子は、コーチになる前からミカのことを知っていたことになる。
その正確な時期は不明だが、いずれにしても、翔子がコーチになってから、それほど年月が経ってないことは明らかである。
その、コーチとしては新米の翔子が、その僅かな期間に、何人もの選手を駄目にしている訳で、それなのに、どうして順子をはじめ、周りのみんなが翔子を素晴らしいコーチだと絶賛するのか、どうにも納得できないのである。
ついでに、翔子の恩師・川端コーチは、「自分の指導についてこれたのは翔子とミカだけだった」と言っている。つまり、言い換えれば、翔子以外の選手は一人残らず潰れている訳だ。
系図にするとこうなる。
川端
翔子
ミカ
うむ、ほとんど、一子相伝の北斗神拳の世界である。
それらを考え合わせると、翔子と川端の鬼コーチコンビって、実は日本シンクロ界にとっては単なる疫病神なのではないかとさえ思えてくる。
それと、順子の言動も変である。ミカの事故を予知できたのならともかく、現に、天才バレリーナとして持て囃されている少女について、シンクロ選手になったら……などと想像するだろうか、普通?
また、その辺の詳しい説明がないのだが、翔子は「いつかミカをシンクロ選手に育てる」と言う希望を抱いて、コーチ就任を引き受けたのだろう。
でも、もしミカが事故を起こさず、あのまま天才バレリーナとして活躍し続けていたら、翔子がシンクロのコーチになった意味が全くなくなるではないか。
だから、ひょっとしてミカの事故は、この二人の共謀によって仕掛けられた人為的なものだったのではないかと言う、恐ろしい想像までしてしまう管理人なのだった。
ま、でも、さすがに順子が[
実の娘]に対して、そんなことをするとは思えないから、やっばり翔子の単独犯かなぁ?
(註・翔子がミカの事故を仕組んだというのは、あくまで管理人の妄想です)
まぁ、この辺は完全な後付け設定なので、色々な矛盾が噴き出すのは当然かも知れない。
だから、翔子の過去とミカとを関連付けるのなら、翔子は、ミカがアキレス腱を切ってバレリーナの道を閉ざされた後で、はじめて順子にミカ専属のコーチになるよう懇望され、それでシンクロの世界に戻ってきた……とした方が納得しやすかったと思う。

翔子「ミカがアキレス腱を切って絶望的な日を送ってるって知った時、私はさやかにしてやれなかったことを、全部ミカにしてやろうって、そう決心してたわ」
第1話で翔子が、ミカの家にずかずか上がり込んできた時には、そんな思いが秘められていたのだっ!
って、全然そんな風に見えなかったけど。
つーか、あんた、自分の娘までゆくゆくはシンクロの選手に仕立て上げるつもりだったの?
さすがシンクロ馬鹿、いや、シンクロの鬼である。

ミカ「森谷先生!」
翔子「私がミカにさやかを見てたように、ミカも私をお母さんかも知れないって思っててくれたのね。ミカ、ごめんね、私みたいな女で、ごめんね、ミカ!」

感極まって、ミカの体をしっかりと抱き締める翔子。
ミカ「やめて、先生、私、あなたがお母さんじゃないと分かって悲しくて悔しくて……ただ反抗してただけなの。先生の悲しみも分からずに、私の勝手な思いで先生を苦しめていただけなの……許して、許して先生!」
翔子「ミカ!」
翔子の告白を聞いて、ミカも漸く自分の過ちに気付き、号泣しながら許しを請う。
こうして、涼子の告げ口から決定的な断絶にまで行きかけた師弟愛は、翔子が初めて自分をさらけ出したことでからくも繋ぎ止められ、苦難を乗り越えた二人の絆はますます強く固くなったのだった。
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