第22回「憎しみの乱れ打ち」(1985年9月17日)
しのぶと雅人の婚約を知って自暴自棄になった千鶴子は、自らの意思で銀行強盗を働いたと偽りの証言をして、毎度おなじみ、少年鑑別所に送られる。
月日は矢のように流れ、千鶴子の処分を決める、家庭裁判所の審判の日が近付き、大丸家に、両親にも出席するようにとの葉書が届く。
だが、剛造はまだ病み上がりの体だし、千鶴子の勝手な行動に散々振り回されてきた則子も、いかにも気が進まないようであった。

静子「千鶴子のためにどうか明日は、力を尽くして庇ってやって下さいませ」
則子「そう言われても……弁護士さんは、千鶴子が自白した以上は少年院は免れないと仰ってるのよ。他に助ける方法はもうないのよ」
千鶴子の実の母親である静子が懇願するが、既に則子は諦めていた。
雅人「いや、たったひとつあります」
剛造「雅人、何だそれは?」
雅人「言えません」
雅人、詳細は話そうとしないが、何か思い切ったことをするつもりらしい。
則子「あなたが千鶴子のために動くことは反対よ。あなたはしのぶさんの婚約者じゃありませんか」
則子がそうたしなめると、
剛造「私はまだ、しのぶと雅人の婚約を認めてはおらん!」
しのぶ「!」
剛造の厳しい声が、錐のようにしのぶの巨乳に突き刺さる。
しのぶと雅人の視線に、言い訳めいた口調になって、
剛造「いや、それが喜ばしくないと言うのではない、ただ、不幸のどん底にいる千鶴子を差し置いて、とうてい、祝う気にはなれんのだ……千鶴子が幸せになり、二人の婚約を心から喜んでくれる、その日が訪れたときこそ、私はお前たちの婚約を認めよう。しのぶ、不満かも知れんが私の気持ちは分かるな」
しのぶ「はい……」
しのぶにはそう答えるしかなかった。
その後、雅人と二人きりになったしのぶは、雅人がやろうとしていることを知りたがる。
雅人は、銀行から借りてきた犯行時の防犯カメラの映像をしのぶに見せ、
雅人「千鶴ちゃんは当初頑強に主張していたそうだ。これには映っていないが、デンって男が、千鶴ちゃんを銃で脅して、強盗まで強制したって……だから、デンを追及してその事実さえ言わせることが出来たら、千鶴ちゃんは無罪になる筈だ」
そして雅人は、わざと何か問題を起こして警察に捕まり、デンのいる留置所に潜り込み、その口を割らせようと言う大胆な計画を考えていたのだ。
当然、しのぶは反対するが、

雅人「しのぶさん、これは千鶴ちゃんのためばかりじゃないんだ、君のためでもあるんだよ」
しのぶ「私の?」
雅人「ああ、お父さんだって仰ってたじゃないか、千鶴ちゃんが不幸な限り、僕らの幸せもありえはしないんだって……」
だが、しのぶはいつの間にか、かつての千鶴子を髣髴とさせるような自己中心的で我儘な女に変貌しており、雅人に「千鶴子のことを忘れて欲しい」とダダをこねて引きとめようとする。
それでも結局雅人に説き伏せられ、雅人は早速車で屋敷を出て、計画を実行に移そうとするが、そこにバイクに乗った路男があらわれ、

路男「裏切り者! お前は千鶴子を裏切ってしのぶと婚約した。裏切り者じゃねえか」
雅人「君を相手にしている暇はない」
路男「待ちな、ぶっ飛ばしてやりてえとこだが、ひとつだけ教えてやろう。お前は城西署の留置所に潜り込むつもりらしいが、あそこの房は二つある、うまくデンのいるほうに入れて貰えるとは限らねえぜ」
雅人「余計なお世話だ。僕は運に賭ける」
路男が、自らの経験に基づいて親切に忠告してやるが、雅人はそっけなく言うと、車を出す。
雅人は、わざとパトカーの近くで無茶な運転をして、さらに警官に対して不貞腐れた態度を取り、まんまと城西署の留置所に入り込むことに成功する。
しかも天が雅人に味方したのか、雅人が入れられたのはそのデンと言うチンピラのいる房だった。

雅人「お前が出鱈目を言ってるおかげで千鶴ちゃんが苦しんでるんだ。ほんとのことを言え!」
いささか芸のない方法だが、雅人は即座にデンの胸倉を掴んで強要するが、デンは壁に自分の頭を何度か打ち付けると、大声で警官を呼ぶ。

デン「この野郎が、急に殴りかかってきやがってよ……なんとかしてくれよ」
雅人「嘘だ、この男の芝居ですよ」
デン「嘘じゃない、これ見てくれよ」
猛の手下だったとは思えない卑劣な手を使って、隣の房に移動してしまう。
だが……、

隣の房に入ってきたデンは、先客の顔を見て唖然として立ち尽くす。
何故なら、それが路男だったからである! いやぁ、この登場の仕方はあまりにカッコ良過ぎて卑怯である。
おまけにこれでは、雅人が路男の完全な引き立て役になってしまうではないか。
路男「俺もさっき、喧嘩沙汰で来たばかりでな……」
雅人と違って容赦のない路男は、いきなりデンの頬げたをぶん殴る。
デンはまた警官に助けを求めるが、さっきのことがあるので、今度は警官たちも相手にしてくれない。
路男にボコボコにされたデン、所詮は根性なしだったので、あっさり口を割る。
翌日、剛造夫婦列席の元、家庭裁判所で千鶴子の審判が行われる。
病身をおして出席した剛造は、娘のために精一杯弁護するが、やはり千鶴子が自分の意思でやったと証言しているのが大きく、少年院行きは免れないようであった。
だが、このままでは「不良少女とよばれて」の二番煎じになってしまう! と危惧したスタッフは、そこへ雅人を救世主として送り込む。

裁判官「君、ここは審判中は立ち入り禁止だよ」
雅人「すいません、デンが、向井デンが何もかも白状したもんですから」
ここで、刑事に向かって真実の証言をしているデンの姿が映し出され、

デンが千鶴子に銃を突き付けている映像も再現される。
しかし、この位置だと、背後にいる客たちに、丸見えだったのではないだろうか?
ともあれ、報告書を受け取った裁判官は、
裁判官「詳しく読んで検討させていただきますが、これに書かれていることが事実だとすれば少年院と言うことはありえないでしょう。大丸さん、良かったですな」
と、ほぼ無罪判決に等しい寛大な言葉をかけてくれる。

剛造「……千鶴子!」
千鶴子「お父さん!」
剛造は涙ぐみながら一礼し、千鶴子も、自分のために必死に弁護してくれた剛造に、感動の涙を流すのだった。
が……、

試験観察処分となって釈放され、一体何度目だと言う感じだが、自宅に帰ってきた千鶴子は、

またしても不良モードにスイッチが入り、出迎えてくれた雅人たちに敵意の篭った眼差しを向けるのだった。
さっきの涙は一体なんだったんだろう?
まぁ、少年行きを免れたと言っても、雅人としのぶが勝手に婚約したと言う事実は動かないから、千鶴子の気持ちも分かるけど。
とりあえず居間に落ち着いている千鶴子たち。
千鶴子の観察官となった若山は、やおら千鶴子の隣に座ると、

若山「保護観察というのは、君の今後の様子を見て処遇を決めると言うことだ。万一、君が事件を起こせば、家庭裁判所は、いつでも君を少年院送りする権利を留保している。これは君にとって寛大な処置であると同時に、厳しいテストでもある」
お得意の説教を始めるが、千鶴子は上の空で、せっせとスケッチブックに鉛筆を走らせていた。
剛造「お前、さっきから何を描いてるんだ?」
千鶴子「鑑別所では私の心理を調べるとかで、よく絵を描かされたわ、こんな絵よ」
千鶴子、そう言ってスケッチブックをこちらに向けるのだが、
剛造たち「ブーーーッ!」 それが、あまりにしのぶの特徴を捉え過ぎた絵だったので、全員思いっきり吹き出すのだった。
と言うのは嘘だが、管理人が笑ってしまったのは事実である。
しのぶが火炙りの刑に処されている絵を見て、
剛造「なんだそれは、いくらしのぶが憎いと言ってもほどがある!」
剛造も思わず声を荒げるが、千鶴子は一転涙声になると、
千鶴子「長い間留置所に入れられて、帰ってきたら雅人さんはしのぶの婚約者だなんて……私はこれから何を支えに生きていけばいいの? むごい、むごすぎるわよっ」
当人を目の前にして、雅人としのぶの仕打ちに怒りと悲しみをぶちまける。
雅人「千鶴ちゃん、悪いのは僕だ。しのぶさんとの婚約も僕が言い出したんだ。汚い心変わりだと僕を蔑んでも良い。だけど、しのぶさんを憎むのだけはやめてくれ」
千鶴子「……」
剛造「いや、責任は私にある。雅人もしのぶも私の命を救おうと思って婚約したんだ。千鶴子、それをわかってやってくれ」
代わる代わる懇願された千鶴子、ふと、庭を突っ切ってしのぶがこちらに向かっているのを見て、不意に雅人のそばに行き、

千鶴子「雅人さん、私だって立ち直りたいわ。これからも力を貸してくれる?」
急にしおらしい顔つきと言葉遣いになって、そんなことを言い出す。
雅人「ああ、僕に出来ることがあったら何でもするよ」
千鶴子「ありがとう、ありがとう、雅人さん」
そう言って、雅人の広い胸板に抱きつく千鶴子。
だが、それは本心からの行動ではなく、やがて入ってくるしのぶに、自分が雅人といちゃいちゃしているのを見せつけてやろうという、いかにも千鶴子らしい小汚い作戦であった。
それに気付いた耐子は、急いで玄関に向かうと、

耐子「お姉ちゃん、何しに来たの?」
しのぶ「お父さんのお見舞いよ。それがどうかして?」
耐子「……」
耐子が何も言えずにもじもじしていると、しのぶ、たたきに千鶴子のものらしい靴が脱いであるのに気付くと、
しのぶ「千鶴子さん、帰ってきてるのね?」
たちまち険しい顔になり、家に上がろうとする。耐子はそれを両手で止め、
耐子「駄目よ、今行ったら駄目」
しのぶ「何故私が逃げなきゃならないの? 私は雅人さんの婚約者なのよ」
以前のしのぶとは別人のような権高な台詞を吐くと、妹を押しのけて居間へ乗り込む。
しかし、いくら雅人を(一応)ゲットしたからって、短期間で、ここまで人格が変わるものかね?
そりゃまぁ、18年間、しがない漁師の娘だとばかり思い込んでいたのが、財閥の令嬢だと知らされ、さらに雅人のような御曹司と婚約したとなれば、万事に慎ましやかだった少女が、初期の千鶴子のような性格に変わっても不思議ではないが、その変化があまりに唐突なので、人が変わったというより、ただの二重人格者のように見えてしまうのである。
ヒロインが二人とも、二重人格のドラマって凄いよね。
しのぶが居間に飛び込むと、ちょうど千鶴子が雅人に抱きついているところだった。
雅人「しのぶさん……」
さすがに雅人は気まずそうに千鶴子の体を離すが、

千鶴子「来たね、泥棒猫」
千鶴子、一瞬で不良モードになると、振り向いてしのぶを罵る。
しのぶ、自分が火刑にされている絵を見てムッとするが、

しのぶ「雅人さん、そんな人を相手にしないで向こうへ行きましょ。コーヒーでも入れるわ」
表面上はあくまで穏やかに、千鶴子を無視して雅人に語りかける。

千鶴子「ちょっと!」
しのぶ「……」
千鶴子「雅人さんがいつも使ってるあのコーヒーカップ、何処で買ったものか知ってて?」
しのぶ「コーヒーカップ?」
千鶴子「あれは3年前に私が選んであげたのよ、そんなことも知らないで務まるとは、婚約者も楽ね!」
千鶴子、鋭くしのぶを呼び止めると、いかにも千鶴子らしい皮肉を言う。
しかし、そもそも婚約者って、務まるとか、務まらないとか言うもんじゃないと思うんですけどね。
かつてのしのぶなら、それだけで凹んでしまうところだが、

しのぶ「愛は順番じゃないわ」
千鶴子「順番?」
しのぶ「私はあなたよりも遅れて雅人さんを愛しただけよ。でも、愛の強さはどうかしら? 強いほうを雅人さんは選んだわ」
すっかりふてぶてしいキャラに変貌を遂げたしのぶは、一歩も引かずに言い返す。
なにしろ、実際に雅人と婚約しているのだから、この勝負はしのぶの勝ちであった。
無論、千鶴子もおとなしく引き下がるようなタマではなく、

千鶴子「しのぶ、いい気になるんじゃないよ、
殺してやる!」
そう叫ぶと、都合よくそばにあった果物ナイフを掴んで、しのぶに襲い掛かるのだった。
それにしても、番組が始まって半年近くになるのに、ヒロインの二人が人間的にまったく成長していない……と言うより、むしろ退行していると言うのは、さすがにどうかと思う。
二人は若山や雅人に止められるが、
静子「あなたたちは兄弟同然の生まれじゃないの。何がどうなろうと悲しい争いだけはよしておくれ」
千鶴子「人類みな兄弟かい、人類を愛するのは簡単だけど、目の前のやつを愛するのは難しいよ。しのぶ、雅人さんはきっと取り返して見せるよ」
実の母親に諌められても千鶴子は憎憎しげにそう言い放つと、家を飛び出す。
しかし、「兄弟同然」って言われてるけど、単に赤ん坊のときに摩り替えられただけで、つい最近まで一度も会ったことがなかったのだから、乳姉妹と言ったところで、所詮は赤の他人ではないのだろうか。
雅人がすぐ千鶴子を追いかけようとするのを見て、しのぶが雅人を引き止めようとするが、それを妹の耐子が止め、

耐子「お姉ちゃんがいけないのよっ、雅人さんを奪ったことを先に詫びるべきなのよ!」
実は、この家で一番まともな性格なのは、この耐子ではないかと言う気がする。
いっそのこと、雅人と耐子が結婚すればいいんじゃない?
しのぶ「なんとでも言いなさいよ、人が人を好きになって何故いけないの?」
が、耐子の説得にも心を動かされず、しのぶはそううそぶいて家を出て行く。
二人の浅ましい争いをかぶりつきで見せられた剛造は、
剛造(もう、やだ、このドラマ……) 暗然とした顔で嘆息するのだった。
その後、たぶん、数日後のことだろうが、育代が経営しているキャバレー大東洋に、路男がふらりと顔を出す。
路男「なんだい、俺に見せたいものって?
でかい耳クソでも取れたのか?」
育代「ちゃうわっ!」 じゃなくて、

育代「あれさ」
路男「千鶴子!」
育代「さすがは大丸のところで育った娘だ、店に来たと思ったらあっという間にナンバー1さ」
それは、千鶴子が赤い、いかにも品のないドレスを着て、客の中年男性に抱きついて踊っていると言う、信じがたい光景だった。
そう、何を思ったのか、千鶴子、このキャバレーでホステスをしているのだ。
でも、冷静に考えたら、千鶴子にとって、実はこれが初めての就職なんだよね。
そういう意味では、多少は千鶴子も成長しているといえるのではないだろうか。

育代「路男、早くしないと売れちゃうよ」
路男「何がだ?」
育代「岡惚れなんだろう、ものにするなら早くしないと他の客に売れちゃうってことさ」
路男「おふくろ、俺と千鶴子をくっつけて、大丸から金を引き出したいんだろう?」
育代「ばかっ、向こうが勝手に来たんだよ。私をあんたの母親と知った上でね」
路男があくまで拒絶すると、育代はたちまち機嫌を悪くして奥に引っ込む。
それにしても、松井さん、いくらなんでもチーク塗り過ぎじゃないですか?
ほとんどコントの世界に突入している。

客「いやぁ、今日は愉快だな~」
露出度の高い服を着た伊藤かずえさんと抱き合うと言う、おそらく彼の人生におけるピークだと思われる時間を過ごし、手にも昇るような気持ちで席に戻ろうとしている中年男性。

雅人「千鶴ちゃん!」
と、いつの間にか来ていた雅人に呼び止められ、千鶴子が思わず立ち止まる。
こうして改めて見ると、ほんと、伊藤さんって美人だなぁと思う。
これじゃあ、変な顔の(失礼)渡辺さんが太刀打ちできる筈もない。

雅人「なんべん言ったら分かるんだ、酒にタバコに男、そんなものに首まで浸かった生活が、君には楽しいのか? 帰るんだ、とにかく一度お父さんのところに帰るんだ」
既に何度も足を運んでいるらしい雅人、いつものように優等生的な説教で千鶴子を連れ帰ろうとする。
しかし、「酒にタバコに男」って言っても、客とは仲良く踊ってるだけで、別にとっかえひっかえ男とヤリまくってるわけじゃないんだけどね。
千鶴子はその手を振り払うと、
千鶴子「
そんなに長々言わなくたって、雅人さんが一言言えば……愛している、その一言さえ……」
と、縋るような目で言うが、雅人は押し黙ったまま。
ちなみにこの
「そんなに長々言わなくたって」と言う言い草、脚本家が、自分の書く長台詞に自分で突っ込みを入れているようにも聞こえて、ちょっと笑える。

千鶴子「言えないよね、言えるわけないよね?」
雅人「……」
千鶴子「しのぶを悲しませたくないもんね……」
雅人「千鶴ちゃん」
千鶴子「帰ってよ!」
千鶴子、叫ぶと、手近にあったグラスの水を、雅人の顔にぶちまける。
雅人(もう、やだ、このドラマ……) その後、店の外で、千鶴子に当分近寄るなと路男に忠告される雅人だったが、
雅人「断る、千鶴ちゃんがこうなったのは僕の責任だ。千鶴ちゃんのことは僕に任せてくれ」
路男「大きな口叩きやがって……留置所だって、俺がいなきゃお前に何が出来た?」
いや、雅人がデンのところに入れられなかったら、路男こそ、「一体俺何してんだ?」と言う情けない状況になってたと思うんだけどね。

雅人「そうか、こんなことは言いたくないが、君は千鶴ちゃんが好きだ。千鶴ちゃんのそばに僕がいれば君には目障りな筈だ。会うなとかなんとか言って、僕を遠ざけるつもりだろう。君も結構汚いな」
路男「きたねえとはなんだ、妙な勘ぐりしやがって!」
路男、たちまちカッとなって雅人をぶん殴る。
1話くらい、人を殴らずに済ませられんのか、コイツは?
それにしても、Wヒロインだけじゃなく、主演男優二人もずーっと仲が悪いと言うのは、見ていてしんどいよね。考えたらこのドラマって、若山と剛造の戦友同士以外、いわゆる「友情」というものがほとんど存在してないんだよね。
長丁場の青春ドラマで、こういうのはかなり珍しいのではないかと思う。
この番組が、「スクールウォーズ」や「不良少女」と比べて楽しくないのは、案外、そんなところに原因があるのかもしれない。
それはさておき、雅人も殴り返そうとするが、何故かここでの雅人はからっきし弱く、路男に一方にボコボコにされる。
そこへ千鶴子が駆けつけ、

千鶴子「雅人さん! 雅人さんしっかりして」
路男「大した怪我じゃねえ。手加減はしといた」
千鶴子「これで手加減? ひどすぎるわよ」
路男「何だ、やっぱり忘れられねえのか、雅人を?」
ぶつぶつ言いながら雅人の手当てをする千鶴子に、路男が冷やかすように言うと、
千鶴子「忘れるさ、コイツとは今から道で会っても赤の他人だよ」
たちまち態度をコロッと変えて、例によって守れそうもない約束をする千鶴子。
数秒前に「雅人さんっ」てしおらく言っておいて、「コイツ」はないよね、「コイツ」は。
路男「じゃあ、そこまで付き合ってもらおうか」
千鶴子「え、なんで?」 路男「いや、なんでって言われても……」
と言うのは嘘だが、雅人と赤の他人だからって、路男に付き合う義理は発生しないのは事実である。
ともあれ、二人は、汽笛の音が響く夜の港へ行く。

路男「お袋の悪口は言いたくねえが、あれは、金のためならあんたに何をするかわからねえ女だ。今すぐ辞めたほうがいい」
千鶴子「ありがとう、でもやめないよ、私」
路男「そのほうが、胸のつらさが紛れるか……千鶴子、無理するな、お前の顔には悲しみがたまりすぎている。思いを全部吐き出しちまえ。俺に言うんじゃねえよ、あの月に向かって言うつもりでよ」
路男、不意に、ロマンティックなカウンセラーのようなことを言って、千鶴子を促す。
千鶴子も、なんとなくおセンチな気分になっていたのか、素直に真情を吐露し始める。
千鶴子「私ねえ、昔雅人さんと一緒にいたころは、そばにいるのが当たり前だと思ってた。だけど、遠く離れてあの人としのぶが婚約してから恋しくてってたまんないんだ、変だよね?」
路男「……」
路男、千鶴子のノロケ話を沈んだ顔で聞いていたが、

千鶴子「私、人を間違えたのかな?」

路男、千鶴子の次の言葉を聞いた途端、
「脈あり?」とでも言いたげな顔で千鶴子のほうを向く。
さらに、
千鶴子「もしかしたら、雅人さんよりあなたのほうが優しいのかもしれない……」
路男「……」
ほとんど口説いているとしか思えない千鶴子の台詞に、思わず心の中でガッツポーズをする路男。
路男「バカヤロウ、俺が優しかったら今まで生きちゃいねえよ、ほんとに優しいやつは若死にするんだ」
が、例によって照れ臭さが先に立って、そんなぶっきらぼうなことしか言えない。
千鶴子「わかってる、こないだだって路男さん、私のために留置所にまで入ってくれたんだってね」
千鶴子、さっきとはまた別人のような優しい声音で、駄々っ子をあやすようなことを言うと、

千鶴子「だけど私はそうまでしてもらえるほどの女じゃないんだ。私が今何考えてるか分かる? しのぶがぽっくり死んじまえばいいと思ってる。そしたら雅人さんは私のところに帰ってくるって……」
路男「千鶴子!」
千鶴子「もっとも、向こうもおんなじだろうけどね。でもたぶん、私の負けだよね。だって向こうは婚約までしてるんだもん。死にたいよ、私」
完全に情緒不安定な千鶴子、今度はそう言うと、立ったまま、声を殺して泣き始める。
その淋しげな後ろ姿を見ていた路男、つと、千鶴子の体を振り向かせると、

その剥き出しの背中に優しく手を載せて抱き寄せ、
路男「千鶴子、元気出せよ、俺はな、お前をずっと……」
突然のラブシーンの始まりに、全国の朝男ファンが
「キャアアアアーッ!」と悲鳴を上げたのは言うまでもない。
正直、もう二人をさっさとくっつけちゃって、雅人もしのぶと結婚してめでたし、めでたし、で良いんじゃないかと思うのだが……
もっとも、それでは、ヒロインが二人とも男を頼って生きているだけの受動的な存在に見えてしまうので、さすがに無理かな。
まぁ、以前にも書いたように、自分の知る限り、大映ドラマのヒロイン像って、実はそういう男性依存型のキャラクターがほとんどなんだけどね。
「高校聖夫婦」の典子しかり、「不良少女」の恭子、笙子しかり、「スクールウォーズ」の圭子しかり……

千鶴子「……」
千鶴子も、抱かれて初めて、路男の、自分に対する愛の深さを理解したような気持ちになり、その目から熱い涙をこぼしつつ、路男に体を委ねるのだった。
だが、路男が千鶴子に口付けをしようとした瞬間、路男の脳裏に、何故か雅人の顔がちらつき、途中で動きを止めてしまう。
ううん、もう、意気地なし!
あと、これじゃあ、まるで路男と雅人が恋人同士のように見えてしまうではないか。
千鶴子「どうかしたの?」
路男「なんでもねえ、ひとっ走りしたくなっただけよ」
路男そう言うと、千鶴子を港にほったらかしにして、バイクで走り去ってしまう。
千鶴子(どうせえっちゅうねん?) ほんと、たぶん財布も持ってないだろうから、千鶴子、結構マジで困ったんじゃないかと思う。
例によって路男、自分のアジトに戻ると酒かっくらいながら盛大に「反省会」を開く。
が、ひとりでやってもつまらないので、都合よくその場にいた優子が話し相手をつとめる。
路男「俺はきたねえ。しのぶに雅人を奪われて落ち込んでる千鶴子の弱みに付け込んで抱こうとするなんてよっ!」 優子(めんどくせえヤツ……)
と言っても、このドラマには、基本的に面倒くさいヤツしか出て来ないのだ。
路男「男のすることじゃねえや。俺が好きなのは誰よりもシャキッとした千鶴子なんだっ」
優子「お前は千鶴子さんとは一緒になれない」
路男「なにぃ?」
優子「男と女は、たいてい寂しさとか心細さとかお互いの弱みに付け込んで一緒になるもんなんだよ。お前にはそれが出来ない。損な性分だよ」
優子、彼女特有の恋愛観と路男の潔癖すぎる性格を示しつつ、無慈悲な通告をする。
路男「じゃあ俺にどうしろって言うんだよ? どうすれば千鶴子を忘れられるんだ?」
開き直って問い掛ける路男に対し、
優子「お前にはこれがあるじゃないか、ゴールドラッカー仕上げのこのペットで、お前の魂の音色を響かせるがいい」 案の定、ペットが答えだと言い出す優子さん。
恋愛問題だろうが、少子化問題だろうが、環境問題だろうが、なんでもかんでもペットで問題を片付けようとする優子さんが、なんだか最近、
ラグビー馬鹿ならぬ、
ペット馬鹿に見えてきた管理人であった。
まさに似たもの夫婦と言うべきか。
大映ドラマには他にも、「笙子に会いてぇ馬鹿」の朝男(不良少女とよばれて)や、「圭子に会いてぇ馬鹿」の光男(スクールウォーズ)、「シンクロ馬鹿」の翔子(スワンの涙)や、「甲子園馬鹿」の安西俊(高校聖夫婦)など、ひとつのことに打ち込み過ぎて周りのものが大迷惑するというキャラがたくさんいるのです。
路男「むごい注文だぜ。ペットを捨てた俺に魂もへちまもあるかいっ」
優子「ライブで吹くんじゃないよ、自分で自分を励ますために吹きな」
それでも、優子にしつこく言われて、やむなくペットを手に取り、何とかの一つ覚えの「乳姉妹のテーマ」を吹き鳴らし始める路男であったが、途中ですぐやめてしまい、
路男「ふっふっふっ、はっはっはっ……」
優子「どうしたの?」
路男「ペットが思い出させてくれたぜ、俺、この曲しか吹けないんだって……」 じゃなくて、
路男「ペットが思い出させてくれたぜ、俺は所詮ワルだ。ワルに戻れってよ」
優子「路男」
路男「なまじ千鶴子のためにと人助けをしてきたばかりに俺はどっかで道を間違えたんだ。俺のさだめは一人で生きて、雨の夜、裏町のどっかのドブでひとりくたばるワルよ!」
と、路男は自暴自棄になって叫ぶのだが、「雨の夜、裏町のどっかのドブでひとりくたばる」って、結構難しい注文じゃないかと思う。
路男「それが女に惚れられようと、ついさもしい根性出したばっかりに……お笑い種じゃねえかよ」
路男、酒のビンを放り投げると、
路男「人助けなんて俺の柄じゃねえ。金輪際、千鶴子がどうなろうと知ったことかっ!」 優子「またぁ?」 路男「いや、またって……」
確か、前にも「二度と千鶴子には会わない」とか言ってた路男の言うことなので、優子がうんざりするのも無理はなかった。
あと、「人助けなんて柄じゃない」とか仰ってるけど、第1話では、道端で発作を起こした静子を、親切に病院に連れてってやってましたよね?
ほんと、このドラマに出てくる人って、言ってることとやってることがバラバラである。
翌日、雅人はしつこく千鶴子のところに通っていたが、それをしのぶに見咎められる。
雅人、自分たちが幸せになるには、千鶴子が立ち直ることが必要だと説得するが、
しのぶ「私、何のために婚約したのかしら。婚約したからといって誰一人心から祝福してくれる人はいないわ。みんな私が、千鶴子さんから雅人さんを奪ったと腹の中では非難しているのよ」
雅人「……」
しのぶ「そのあなたまでが、毎日毎日千鶴子さんに会いに行くなんて……ね、もう会うのはやめて頂戴」
しのぶ、婚約を機に、自分のことしか考えられない心の狭い女になっており、しまいには「千鶴子さんを殺して私も死にたい」などと物騒なことを言って駆け出す。
それこそ、本来のしのぶなら、自分の過ちを認めて、婚約解消を申し出るのが普通だと思うんだけどね。
そうした方が、雅人の印象も良くなると思うのだが……

雅人「しのぶさん……」
しのぶの後ろ姿を見詰める雅人の顔には、
「ワイ、なんであんな女と婚約したんやろ?」と書かれているように見えた。
そのしのぶの前に龍作が飛び出てきて、ラーメン屋の店員たちにボコボコにされる。
どうやら無銭飲食をしようとしたらしい。

龍作「助けてくれ、しのぶ、1000円貸してくれ」
しのぶ「お父さん!」
龍作「おめえ雅人さんと婚約して幸せなご身分だそうじゃねえか、えっ、なっ? 1000円なんとかしてくれよ」
プライドと言うものを欠片も持ち合わせていない龍作、18年ほどほったらかしにしてきた義理の娘に文字通り手を合わせてお願いするが、
しのぶ「お父さん、私、今それどころじゃないの、それどころじゃ!」
しのぶはそう言うと、さっさと走り去ってしまう。
これも、以前のしのぶからは考えられない冷たい態度である。

引き続き店員たちに取り囲まれて難儀している龍作の前に現れたのが、実の娘、千鶴子であった。
……
ラーメン屋で無銭飲食しようとして叩き出された男の前に、義理の娘、ついで、実の娘が通りがかる確率って、一体どれくらいだろうね?
千鶴子、見るに見かねて金を出し、龍作を助けてやる。
龍作「千鶴子、おめえ、なんで俺を?」
千鶴子「憎いからさ、しのぶが」
龍作「えっ?」
千鶴子「憎いヤツとは反対のことをしたくなるものよ」
千鶴子はそううそぶくが、それは照れ隠しで、やはり、人間のクズとはいえ実の父親である龍作を見捨てておけなかったというのが本当のところだろう。
初めて仕事に就いて苦労したのか、千鶴子も多少は人間として成長しているのかもしれない。
その後、若山は剛造の了解を取り付けた上で、千鶴子を強引に自分の教会に連れてくる。
教会の中庭には、今回の謎めいたタイトルを解き明かす鍵となる、立派な太鼓が置かれていた。
千鶴子「どうしたんですか、先生、これ」
若山「前に信者の人に寄贈してもらったんだがね」
と、エリカに連れられてしのぶが教会から出てくる。しのぶ、千鶴子を見るなり教会に引っ込もうとするが、若山に呼び止められ、しぶしぶ留まる。

若山「いいかね、私は今日から暇を見て、君たち二人に太鼓の修業をしてもらう。先生はこのエリカ君だ。エリカ君のお父さんは若くして亡くなられたが、和太鼓の名手である。エリカの稽古は厳しいぞぉ」
と、ここで、エリカの父親が太鼓の名人だったと言う、めちゃくちゃ都合の良い設定が若山の口から語られ、何故か、二人は太鼓の特訓を受けることになる。
たぶん、脚本家も疲れていたのではないかと思う。
で、二人は、稽古の間は互いに雅人に会わないと言う条件で、稽古を受けることを承知する。

エリカ「よぉーっ! はぁっ!」
と言う訳で、教会の庭で、若い女性が気合を入れて太鼓を叩くと言う、
「これ、何のドラマだ?」と言うお題にぴったりの光景が繰り広げられることとなる。
この強引な展開には、当時の視聴者もいささか呆気に取られたのではないかと思う。
エリカがお手本を見せた後、千鶴子、しのぶにひとりひとり太鼓を叩かせてから、今度は両側から二人同時に叩かせる若山。
無論、若山は、そうやって二人に呼吸を合わせて太鼓を叩かせることで、お互いの気持ちを理解させ、憎しみを少しでも和らげようと考えているのだ。
が、当然、二人の息がそう簡単に合う筈もなく、失敗してはそれを相手のせいにして、すぐ喧嘩になってしまう。

若山「何べん言ったら分かるんだ? 相手を責める前にまず自分を振り返れ。自分に至らない点がないかどうか……聖書にもあるじゃないか、汝の敵を愛せと」
若山が必殺の「聖書固め」を繰り出すが、
千鶴子「そんなの不可能だよ。イエス様も馬鹿なこと言ってるよ!」 あっさり千鶴子に斬って捨てられる。
19話だったか、千鶴子が、そのイエス様に祈りを捧げ、涙ながらに自分の赤裸々な気持ちを語っていたのは、一体なんだったんだろう?
若山「じゃあ、何故その馬鹿な言葉がこの2000年、人類に感動を与えてきたんだ? 一見不可能な言葉だけが、人を明日に引っ張っていくんだっ」
若山も、負けずに「聖書固め」からの連繋技「論より証拠ソバット」を繰り出すが、今度はしのぶが、
しのぶ「そんなことどうだっていいんですよ、私が叩きたいのは太鼓じゃなくて、そいつの横っ面なんだ」
と、
割とうまいことを言ってそれを受け流す。
千鶴子「なにぃ、やるかあっ?」 怒ってバチを振り上げる千鶴子だったが、この顔はちょっと可愛い。
若山「やめろ、やめんかっ」
しのぶもバチを構えて、今にもチャンバラが始まりそうになるのを若山が慌てて止める。
この夜、若山が剛造に電話をかけて、
若山「なぁ、大丸、これが世代の差と言うものなのかな……俺の48の説教術も今の子供たちにはまるで通用しなくなったよ」
などと嘆いてみせ、
剛造(昔から通用してねえだろうが……) それに剛造が心の中で冷たくツッコミを入れると言うシーンを妄想してしまう管理人であった。
ここで耐子が様子を見に来て、

千鶴子「よぉーっ!」
しのぶ「はぁーっ!」
耐子(これ、何の宗教なの?) だんだん若山や姉たちが怖くなる耐子であったが、嘘である。
それでもなんとか稽古を終え、教会を後にした千鶴子だったが、それをしのぶがねっとり尾行する。
公園の噴水の前まで来て、いかにも人待ち顔でそこに腰掛けた千鶴子を見て、てっきり、これから雅人と会うのだと勘繰り、ハンドバックから小さないナイフを取り出すしのぶだったが、

龍作「よお、わざわざすまねえな」
案に相違して、そこへ駆けつけたのは雅人とは似ても似つかぬ龍作であった。
ひょっとして、龍作と千鶴子が禁断の愛におちたのかと思ったが、そうではなく、たかれるものならアリ塚にもたかる主義の龍作が、臆面もなく千鶴子から金を恵んでもらいに来たのである。
千鶴子「もう、これっきりだよ、私はあんたをお父さんだなんて認めたわけじゃないんだ」
龍作「へっへっへっ」
千鶴子「ほんとは顔も見たくないくらいなんだからね」
龍作「やけにはっきり言うじゃねえか、まぁ、なんだっていいや、おめえは近頃コーマンちきになりやがったしのぶと違って、ほんとに良い娘だ」
あろうことか、人間のクズである龍作にけなされて、激しい屈辱を覚えるしのぶ。
と、その背後に耐子があらわれ、
耐子「雅人さんじゃなくて良かったわね」
しのぶ「耐子……」

耐子「これは何よ? お姉ちゃん、もし千鶴子さんが雅人さんに会っていたらどうするつもりだったの? 千鶴子さんは雅人さんに会わないって約束したら、自分から会うような人じゃないよ。恥ずかしくないの、お姉ちゃん?」
しのぶ「随分千鶴子さんを庇うのね、やっぱりあんたには血のつながったお姉さんだものね」
耐子「お姉ちゃん!」
まるで以前の千鶴子のような厭味な物言いに、耐子も思わず大声を出すが、なんとか気を静め、
耐子「怒らないよ、私、何言われたって……だけど、これは私が預かる」
しのぶ「何すんのさっ」
耐子がナイフをもぎとろうとしたので、しのぶはその顔を引っ叩いて倒す。

悔しそうにしのぶを見上げる耐子の顔が綺麗なので貼っておきました。
それを見てもしのぶは自分の行いを反省しようとはせず、
しのぶ「恋をしたことのないあんたには分からないよ。私の苦しみは……」
耐子「恋の苦しみなんて何よ! 世の中には恋どころじゃなくて、カツカツで生きてる人だって一杯いるんだよ」
しのぶ「それがどうしたってのさ?」
耐子「う゛っ」
若山のような言い回しで説得を試みる耐子だったが、しのぶに聞き返されて言葉に詰まる。
と言うのは嘘だが、しのぶの問題とあまり関係ないことは確かである。
しのぶ「私、これからもずっと千鶴子さんから目を離さないよ」
ナイフを握り締めてそう宣言して駆け出すしのぶ。
でも、こんな状況でも相手のことを「さん」付けすると言うのが、いかにも折り目正しい「大映ドラマ」である。
耐子「お姉ちゃんっ」
木の幹に縋るようにして嗚咽する耐子。
考えたら、このドラマで一番かわいそうなのは耐子かもしれないね。二重人格の姉二人の言動に振り回され、しかも悩みを打ち明けるような相手もいない。
まぁ、最近は母親と一緒に暮らしているらしいので、まるっきり孤独ではないだろうが。
一方、街をぶらついてた千鶴子の前に、肝臓が悪いんじゃないかと心配になるほど顔の黒い島田アニキがあらわれる。
千鶴子は危険を察知してすぐ逃げ出し、資材置き場に入り込む。
島田、まぁだ大丸から金をせしめようという魂胆を捨て切れず、再び千鶴子を仲間に引き摺り込もうとしているのだ。
コイツも進歩がねえなぁ。

千鶴子は手近にあった棒を振り回して抵抗するのだが、それで島田の部下三人がきりきり舞いさせられると言うのは、あまりに情けない。
一代組の将来が心配になるではないか。

島田「おい、忘れてんじゃねえのか、お前は試験観察中の身だろうが。暴力沙汰を起こせば少年院ってことになるんだぜ」
千鶴子「卑怯者、人の足元を見やがって」
島田、そう言って千鶴子の動きを封じようとする。
18才の小娘一人、実力でどうこう出来ない自分が恥ずかしくないのだろうか、島田アニキは?
もっとも、この場合は明らかに正当防衛が成り立つので、千鶴子が戦うのを躊躇する必要はなかったと思うんだけどね。
島田たちが痛めつけられたからって、お巡りさんに訴えることはしないだろうし。
ともあれ、動揺した千鶴子の隙を衝いて、タコ坊主が千鶴子から武器を奪って地面に寝かせると、

その体に覆いかぶさって、めちゃくちゃいやらしいことをしようとする。
そこへ雅人が全力で走ってくる。

千鶴子「雅人さんっ」
雅人の姿を見た途端、たちまち目が勾玉のようにトロンとしてしまう千鶴子。
島田アニキたちは最強の戦士・雅人の出現に慌てて逃げ出す……ことなく、今回は勇敢にも立ち向かっていく。
今まで余裕で彼らをぶっ飛ばしてきた雅人だが、何故かこのシーンでも本来の強さが影を潜め、あっさり彼らに捕まってボコボコにされる。
ま、さっきの路男とのシーンでも分かるように、漸くスタッフが「ちょっと雅人、強過ぎじゃね?」と気付いて、急遽設定を変えたのかもしれない。
で、その様子を遠くから見ていた路男、ついさっき、
「人助けなんて俺の柄じゃねえ。金輪際、千鶴子がどうなろうと知ったことかっ!」と叫んだことなどすっかり忘れ、バイクで彼らの中に突っ込んで、島田たちを追い払う。
これで何故、路男の宣言を聞いた優子が「またぁ?」と言ったか(ほんとは言ってないけど)、その理由がお分かり頂けたと思う。
口が酸っぱくなるほど言ってきたことだが、みなさん、約束は守りましょう。
しかし、ここでも雅人がまるっきり路男の引き立て役になっているのがかわいそうで、千鶴子は雅人には目もくれずその場から走り出す。
もっとも、これは、しのぶとの約束を意地でも守ろうと言うことでもあったのだが。

何も知らない雅人は千鶴子を追いかけ、資材置き場の外で追いつく。
千鶴子「雅人さん、来ないで、あなたと会わないって、私、しのぶと約束してるんだ。気に食わないやつでも約束は約束だからね」
雅人「千鶴ちゃん、君はあんなところで働いてて幸せなのか?」
千鶴子「幸せなわけないでしょう。しのぶのヤツは私が警察に捕まってる間にあなたと婚約した。殺したかったよ。だけど、それまでの私が不良でさえなければ、あなたも心変わりはしなかった筈なんだ。雅人さんを繋ぎ止められなかった私が悪いんだ」
雅人「千鶴ちゃん、そんなに自分を責めるんじゃないよ」
この件に関しては100パーセント雅人たちが悪いのに、あえて自分の責任だと殊勝なことを言う千鶴子。
頑なに非を認めようとしないしのぶとは対照的で、雅人が再び千鶴子に靡きそうになったのも無理はなかった。
千鶴子「だけど、やっぱりしのぶは憎いよ」
しのぶ「……」
が、最後に余計なことを言ったものだから、いまや千鶴子のストーカーと化して彼らの近くで盗み聞きしていたしのぶを、またしても憎悪と嫉妬の炎で燃え上がらせることになる。
翌日、教会にやってきた千鶴子に、「よくしゃあしゃあと来れたわね」と、開口一番イヤミを言うしのぶ。
千鶴子の約束違反を責め、どちらから会おうと言い出したのか問い詰めるが、こんな時でも雅人大事の千鶴子は、雅人に引きとめられたとは言わず、

千鶴子「そりゃ私のほうさ、いくらお前と約束したところで恋しい恋しい雅人さんと会わなきゃ、身がもたないからね」
と、余計な憎まれ口まで添えて嘘をつく。
完全にキレたしのぶは、
しのぶ「良く言うよ、千鶴子、こうなったら一対一でケリをつけるしかないね」
千鶴子「タイマンかい、望むところさ」
遂に千鶴子を呼び捨てにして、「大映ドラマ」名物のタイマンを申し出る。
二人は稽古の後で河原で決着をつけようと約束するが、若山やエリカの前ではあくまで平静を装い、

「おうりゃっ」「そうれっ」などと掛け声を出しながら、太鼓を両側からバコバコ叩き合うのだった。
くどいようだが、
何のドラマだ、これ? 以上、今回はなるべく簡単に済ますつもりだったのに、気付いてみれば普段と同じ、いや、むしろいつもより長いレビューとなってしまって心底疲れ果てている管理人であった。
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