第22話「猫を愛した老女」(1985年3月2日)
と言う訳で、「猫の日」にちなんで、猫がたくさん出てくるエピソードを、このシリーズの締め括りとして紹介してみたい。
実を言うと、この記事は2018年後半に書いたもので、他の「気分は名探偵」レビューとは別に、「猫の日」にあわせて公開しようと、ずーっと寝かせておいたものなのである。
我ながら気が長い。
冒頭、幸福荘と言うボロアパートの大家・久保寺のおっさんから依頼を受けた圭介と荒木が、アパートに住む一人暮らしの種田良江(野村昭子)と言う老女に、彼女の所有している土地を、近所の子供たちの遊び場として貸してくれないかと頼みに行くが、けんもほろろに追い返され、荒木にいたってはバケツの水をぶっかけられると言う散々な目に遭う。
久保寺のおっさんによると、良江は天涯孤独の資産家だがドケチで、心を許しているのは愛猫のナポレオンだけで、その猫にキャビアや松坂牛などを食べさせているらしい。
その後、愛猫を抱っこ紐で抱いて歩いていた良江が、ひったくりにバッグを奪われるという事件が起きるが、たまたま近くにいた圭介がひったくりを追いかけて捕まえ、バッグを取り戻してやる。
万年坂署で、バッグの中の金を数えている良江。

ナポ「にゃおう、にゃうー」
八田「全額ありますな? またこういうことにならないように、誰かついてってもらったほうがいいね、おばあちゃん」
良江「あんたがたもねえ、ああいう不心得者はきちんと取り締まってもらわないとねえ」
やがて圭介も顔を出すが、良江、それが圭介だと気付かず丁寧に礼を言う。
良江「まあ、危ないところをお助けいただきまして……どちら様かは存じませんが」
圭介「ばあちゃん、一昨日会ったでしょう」
良江「ああー、あの、お節介焼きか」
大藪「なんだ、知り合いなわけ?」
圭介「ま、知り合いってほどのもんじゃないんだけどね」

良江「あたしゃあんたを見直したよ、あんたにお礼しますよ。あたしが今日ね、郵便局で36892円下ろしてきましたからねえ、あんたにその1割をお礼する」
圭介「お礼は要りませんよ」
人間たちの営みには全く無関心に抱っこ紐に抱かれてうとうとしているナポが可愛いのである!
良江はどうしても金を渡そうと言い、圭介はどうしてもそれを受け取ろうとしない。結局、3000いくらかのお金が宙に浮くことになり、困ったのは間に立った八田たちであった。
彼らは事務所にまで押しかけ、なんとかお金を受け取ってくれと懇願する(暇なんか?)
八田と圭介が押し問答していると、そこへ良江がやってきて、圭介を自分の養子にしたいと、とんでもないことを言い出す。

圭介「息子じゃなくて、利息になって欲しいんじゃないの?」
良江「何を言います、ほれ」
ナポ「にゃおお~」
良江「ナポレオンも喜んでくれてるのよ」
圭介「俺はね、子供たちのために土地を1ミリも貸さないような、そういうばあちゃんの養子になる気はありませんから」
寝惚けまなこで、ついカメラ目線になるナポが可愛いのである!
圭介はきっぱり断るが、良江は諦めず、深夜、今度は圭介と緑が同棲している部屋に押しかけてくる。
さらに、その部屋に泊まると図々しいことを言い出して、圭介を呆れさせる。
良江「あんた、あたしの土地が欲しいんだろ?」
圭介「いや、あれは僕が欲しいんじゃなくて、子供たちの遊び場を……」
良江「わかってる、わかってる、とにかく土地が問題なんだ。そいでね、あんたが養子になってくれさえしたら、あたしの財産も土地も譲るってことにしようじゃないか。そしたら子供の遊びにしようと何しようと好きにしたらいい。いい話だと思うんだよ」
圭介「そうやって勝手なことばっかり言わないで下さいよ」
二人が、どうしてそんなにまでして圭介を養子にしたいのかと根本的なことを尋ねると、
良江「それは……」
なんでも、良江の初恋の相手は圭介と言う名前で、しかも圭介と瓜二つだったと言うのだ。

その回想シーンに出てくる、セーラー服を着た野村昭子さんと言う、おぞ……いや、可愛らしい生き物。
良江「だからさぁ、あんたがひったくりからあたしの貯金通帳奪ってくれたんだって、初恋の人の縁(えにし)かも知れないよ」
強引に泊まろうとする良江だったが、圭介も頑として応じない。

ベッドの上に横になって駄々をこねる良江に抱かれたナポが、思わずビビり顔になるのが可愛いのである!
結局、圭介は良江を彼女のアパートまで送り届けることになる。
圭介「久保寺のおっさんから色々聞いてますよ、ばあちゃんがもともとは良い家の奥さんだったとか、交通事故で旦那さんと息子さんを一度に亡くしちゃって、そのうえ、財産の一部を騙し取られたってことも」
良江「……ご存知でしたの」

良江「それはねえ、そんときはくやしゅうござんしたよ。でも、その悪い奴見抜けなかった私も間抜けでした。それ以来ね、貸しません、借りませんて主義でキチンとやってきました」
圭介「なんか、分かるような気がするよ」
良江「猫や土地は私のものよ、だから、好きにする」
圭介「ばあちゃん、そうやって自分から殻作って閉じ篭ってたんじゃあ、誰も寄り付かなくなるよ」
良江「寄り付くのは猫だけで結構よ」
圭介「ほんとにそれでいいの?」
良江「あんたも若いくせに説教好きね」
圭介「そんなことないけどさ、いや、そうやって、ばあちゃんが猫と二人きりで意地張ってるの見ると、こっちが寂しくなるよ」
良江「寂しい?」
圭介「そ、ばあちゃんが寂しいってこと」
良江は諦め悪く、なおも圭介に養子になってくれとまるで酔っ払いのように騒ぎ立てるのだった。
その後も、良江は毎晩のように圭介のところに押しかけていたが、数日後、事務所にやって来て圭介にはっきり断られると、悄然と肩を落として帰って行くのだった。
それからさらに数日後、良江の部屋の前に、久保寺や住人たちが集まってがやがや騒いでいる。
ここ最近、良江の出歩く姿を一切見掛けていないと言うのだ。

主婦「窓開ける様子もないし、ドアも開かないし」
主婦「そう言えばさ、猫の姿も見かけないもんね」
主婦「猫と心中したのよ」
主婦「何言ってんのよー」
この真ん中の主婦を演じているのが、数年後に「やっぱり猫が好き」でブレイクした(……のかどうか知らんが)室井滋さんである。
やがて知らせを聞いた圭介たちも駆けつける。良江は生きているようだったが、部屋に閉じ篭って誰も中に入れようとしない。

圭介「ばあちゃん、人騒がせなことやめてくださいよー、一体どうしたんですか?」
良江「帰っとくれよ、あたしゃもう死ぬんだよ」
圭介「何言ってんだよ、ばあちゃん、ワケ話してみな」
良江「もう生きてんのがイヤになったんだよ。ひとりにしといてくれよ」
八田たちも来て、ドアを蹴破ろうとするが、ケチな久保寺のおっさんが渋って許可しない。
そこで、隣の部屋の押入れから天井裏を伝って良江の部屋に入ろうということになるのだが、

女「ふぁああ、なんか用?」
その部屋に住んでいる、いかにも水商売のふやけた感じの女性を演じているのが、ほとんど信じられないことに、2年前、女将軍ゼノビアとして悪の限りを尽くしていた藤山律子さんなのである!
圭介が事情を話して協力を求めると、ゼノビアとは思えない人の良い笑顔で快諾してくれる。
圭介「お願いします」
女「いいわよん! どうぞっ!」
圭介と荒木はクモの巣だらけの天井裏を伝って良江の部屋の押入れに降り、包丁で手首でも切ろうとしていた良江をなんとか取り押さえることに成功する。
圭介「ダメだよ、こんなことしちゃあ」
良江「夢野さん……」
圭介「一体どうしたの、ばっちゃん?」
良江「ナポレオンがいなくなったんだ、ナポレオンがいなくなったんだーっ!」
良江、顔をぐしゃぐしゃにして、コタツの天板を拳で叩いて子供のように泣き喚いていたが、やがて仰向けに倒れると、そのまま意識を失ってしまう。
医者や看護婦、圭介、緑、荒木、アパートの住人たちに囲まれて布団に横になっている良江。

良江「私、どうしたらいいか分からない、猫はいなくなるし、夢野さんは養子に来てくれないし……私、長生きし過ぎたのかも知れないね。ナポレオン、ナポレオン……」
か細い声で独り言のようにつぶやく良江。
圭介たちは、診察した医者から、良江のような老人が、今まで執着していたものを失うと、それが命取りになるかもしれないと言われ、手分けをしてナポレオンを捜索することにする。

実に良い面構えをしている菊丸のアップ。

圭介「……と言う訳でね、猫探しに協力してよ」
菊丸「にゃあ~」
マスター「誓って協力」
圭介、喫茶店に戻ってマスターに協力を仰ぐと、マスターは右手を挙げて即座に引き受ける。

マリー「なんでもすぐ引き受けるのね、あなたって」
マスター「だってさぁ、気の毒じゃないの、それにさ、もしこの菊丸がいなくなったりしたらさぁ、俺だって必死になって探すと思うんだよね」
マリー「そうかー」
マスター「種田さんにとっちゃ、ナポレオンがいなくなったってことは、こりゃもう大変なことなんだよ、俺は猫好きだから、その辺のことが良く分かるんだ」
いとおしそうに菊丸を抱きながら、しみじみと語るマスター。
草野さん、実際に猫好きだったんだろうなぁ。
無論、基本的にみんな暇なので、他のメンバーも猫探しに奔走することになる。

明子「あれぇー、荒木君、ほら、あの猫」
荒木「似てるよ、おい」
荒木と明子の仲良しコンビは、早くも近所の神社でナポレオンそっくりの猫を発見する。

荒木「ナポレオン、何処行ったんだ、お前?」
明子「良かったぁ。良かった、良かった」
猫も可愛いが、猫を可愛がってる明子がそれ以上に可愛いのである!
だが、二人が喜んだのも束の間、そこへ現れた主婦が猫を取り上げてしまう。

主婦「うちのミー子になにしてるの?」
荒木「えっ、ミー子?」
主婦「猫泥棒じゃないの、あんた」
荒木「猫泥棒?」
主婦「あらー、賽銭泥棒?」
荒木「勘弁してくださいよ、そりゃ誤解ですよ」
やがてほんとに主婦が「賽銭泥棒ーっ!」と騒ぎ出したので、荒木は明子の手を掴んですっ飛んで逃げ出すのだった。

マスター「ナポレオン、ナポレオンーっ」
マリー「ねえ、あーた、ほんとにこのムササビで猫が寄ってくるの?」
マスター「ムササビ? マタタビだろぉがー、田舎のおばあちゃんに習ったんだから、絶対間違いないって」
一方、マスターは、店の前にマタタビの実を撒いて猫を呼び寄せようとするが、

猫「にゃああー」
撒いて3秒もしないうちに猫がフレームインすると言う奇跡が起きる。
……って、だったら、撒く前からマスターたちの視界に入ってる筈だけどね。

マスター「よーし、よしよし」
マリー「見て、人相書きそっくり」
マスター「おい、お前がナポレオンかー?」
マリー「うっふっふっ」
難なくその猫を抱き寄せ、あやすマスター。
この猫、目ヤニがついていて、ほんとにただの野良猫を連れて来たのではないかと思えるリアルさである。

マスター「あら、なんか舌出して返事したような気がしたけど、どう思う?」
マリー「さあ?」
猫「なあああああー」
マリー「あらー、何か言いたいのよ」
マスター「ま、しかし、考えても分かんないから、考えんのやめよう」
マリー「そうね」
マリーはその猫をマスターから受け取って抱きかかえると、
マリー「私ねえ、種田さんのおばあちゃんの気持ちようく分かるような気がする。だってさぁ、猫って、こう、一度抱いちゃうと情が移るって言うじゃない」
二人は早速その猫を良江に見せに行こうとするが、続けて5匹もの猫がマタタビに釣られて集まってくる。
その頃、圭介は、知り合いの獣医のところを尋ね、ナポレオンのことについてあれこれ聞いていた。
と、診察室の床をナポレオンそっくりの猫がうろついているのに気付く。

圭介「先生、この猫……」
獣医「ああ、うちの飼い猫だよ」
圭介「ナポレオンに似てませんか」
獣医「え?」
猫「にゃあああー」
獣医「そういや、似てんなぁ、でも僕は獣医だし、コイツの飼い主だからね、見分けはつくけど、君たちなら瓜二つに見えるかもしれないね」
圭介たちは猫探しの一方、毎日、手の空いているものが良江のところへ詰め、世話をしたり、励ましたりしていた。
だが、懸命の捜索にも拘らず、ナポレオンは見付からず、やむなく良く似た猫をナポレオンだと偽って連れて行くことにする。

隣の猫に興味津々の候補猫Aと、

隣の猫に全く興味がなく、後の「2時間サスペンスの帝王」の指テクで極楽気分になっている候補猫B。

圭介「お願いしますよ、先生、どっちがナポレオンに似てるか、判断してくださいよ」
獣医「しかしおばあちゃんには見破られるよ、いくら良く似ていたって」
圭介「いや、元気な時ならそうかもしれませんけど、今は熱を出してるし、わかんないと思うんですよ」
替え玉のチョイスを託されたイケメン獣医は、あまり気が進まないようだったが、圭介たちに重ねて懇願されると遂に折れる。

獣医「ようし、わかった、協力するよ、良く見せて」
マスター「ほいっ」
荒木「よろしくぅ」
獣医「ちょっと待ってよ、君たちが固くなることないんだよ!」
夕暮れに染まった良江の部屋。医者や看護婦、久保寺のおっさん、マスターや荒木、緑、明子にかおり、アパートの住人たちが所狭しと座り込んで、今にも息を引き取りそうな良江を取り囲んで見守っている。

女「口やかましいばあさんだと思ったけど、このままお別れになっちゃうのかと思うと寂しいわねえ」
みんなの気持ちを代弁するように、ゼノビアがぽつりとつぶやく。

ここで、恐らく、緑の教え子だと思うが、5人の子供がそれぞれ猫を抱いて、「この中にナポレオンがいないか」と、親切にも見せに来てくれるという一幕があるが、やや唐突な感じがする。
と、その後ろから、獣医に決めてもらった猫を抱いた圭介が飛び込んできて、良江にナポレオンが見付かったと言って見せる。

良江「ナポレオン、ナポレオン……ありがとう」
圭介が思ったとおり、熱で朦朧としているのか、良江はなんら疑うことなくその猫を強く抱きしめるのだった。

それはそれとして、子供たちの連れてきた猫を抱いて、その様子を笑顔で見詰める明子が可愛いのである!
しかし、まあ、これだけたくさんの猫が出てくるドラマと言うのも珍しいだろうね。
昔、市原悦子主演の、キャットショーを舞台にした2時間サスペンスがあったけどね。
その夜、喫茶店マリーで、良江のちょっとした快気祝いが行われている。

ケージに入れられた偽ナポを、じっと見詰めている菊丸。

聖子の音頭で乾杯した後、良江が意外なことを言い出す。
良江「酔っ払ったついでに衝撃の告白をします」
圭介「え、なによ、衝撃の告白って?」
良江「あの猫はナポレオンじゃない」
圭介「……」
良江は小さな白い布にくるまれた箱を取り出すと、
良江「私のナポレオンは死んじまったんだよ。車に轢かれちゃったんだよ。私も一緒に死のうと思って部屋に閉じ篭ったけど、皆さんのお陰で助けられた。ありがとう」

良江「私が元気になったのは猫のせいじゃないの、皆さんのお陰よ。私はひとりぼっちじゃない、漸く気がついたんだ、そのことに……だから、この猫はやっぱりナポレオンだ。二代目のね」
偽ナポ「にゃああーーー」
良江「ナポレオン二世と一緒に、私も長生きしますよ」
良江の告白と宣言に、期せずして拍手が沸きあがる。
久保寺のおっさん「いやぁ、すっかり騙されましたよ、いや、私たちも偽の猫でばあさん騙したんだからおあいこか」

圭介「ところで、どうですか、子供たちの遊び場のことですよ」
ナポ二世「にゃあああー」
良江「あんたも粘るじゃないの」
圭介「ね、聞いてよ、ばあちゃんはあの世の入り口まで行って、助かったんだ。言ってみりゃあ、生まれ変わったようなモンですよ。と言うことは、今日が、ばあちゃんのもうひとつの誕生日ってことになる。つまり、ばあちゃんは生まれたての子供と言うことですよ、ね。で、子供だったらば、これから町内会で作る新しい遊び場でおお威張りで遊ぶことが出来るでしょう。違いますか」
圭介の言葉を涙を堪えて聞いていた良江、やがて満面の笑みを浮かべると、
良江「あんたには負けた。気持ちよく土地は貸してやるよ!」
圭介「よしやった! ありがとう、ばあちゃん」
良江「あんたもやるじゃないかー」
圭介「いやいや、ばあちゃんの方が役者が一枚上ですよ~」
終わってみれば、人命救助をしつつ、きっちり依頼された仕事もコンプリートしてしまう、圭介の探偵としての才能が遺憾なく発揮された事件だった。
同時に、猫画像と明子画像とマスター画像をたっぷり貼れて大満足の管理人であった。
以上、「気分は名探偵」厳選レビューはこれにてすべて終了です。
他にもたくさん面白いエピソードがあるので、是非チェックして頂きたい。
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