第8話「第49号容疑者 銭形愛」(2002年11月24日)
ケータイ刑事が(あるいは相棒が)、何者かに陥れられて容疑者として警察から追われる羽目になると言う、ケータイ刑事シリーズでは定番のエピソードの記念すべき第1作である。
冒頭、公園のあずまやで、早くも愛がひとりの犯罪者を捕まえて、「愛の光で闇を撃つ……」と言う、いつもの決め台詞を放つ(実際には言った後のシーンから始まる)。
五代が容疑者を連行して行った後、「今だったら2時間目には間に合うな」と、つぶやく愛。
他のシリーズと違って、この作品、愛が通っている高校のことを話題にすることが多いのだ。
だが、この時点で既に、愛を標的にした陰湿な計略が進みつつあった。
なお、今回の犯人、礼久田博士(レクター博士のもじり)と言うふざけた名前なのだが、書きにくいので単に犯人と呼ぶことにしよう。
犯人「いーもん、みっけ」
愛が立ち去った後、ボイスレコーダーを手にあずまやを調べ、愛が逮捕する時に使った一文銭が落ちているのを見つけ、拾い上げる犯人。
その後、自転車で学校に向かっていた愛を、その犯人が待ち伏せして不意打ちをしかけ、催眠ガスによって眠らせてしまう。
これが健全な「ケータイ刑事」じゃなかったら、意識を失った愛は、もう、ここでは書けないような恥ずかしい目に遭うところだが、残念なことに、いや、幸いなことに、愛はただリップクリームを取られて別の公園のベンチに移動させられただけで、ほとんど実害は受けずに済む。
愛、ケータイの「警視庁から入電中、警視庁から入電中……」と言う着信ボイスで、やっと意識を取り戻して起き上がる。
事件は、港区赤坂の駐車場で、宝石会社の社長が襲われて宝石を盗まれたと言う、平凡なものだった。

愛「事件ってこっちが事件だよ、もう~」
まだ朦朧とした頭で、ツッコミを入れる愛。
と、さっきのことを思い出し、慌てて所持品やパンツをチェックするが、前述したように特に大事なものは盗まれていなかった。
一方、五代は既に現場で被害者から事情を聞いていた。
突然襲われたので犯人の顔は見ていなかったが、何か女の声で喋っていたと言う。

五代「どんなこと言ってました?」
社長「ええ、意味は良く分からないんですが、確か、『愛の光で闇を撃つ』とか、なんとか」
五代「え?」
被害者の証言に、怪訝な顔になる五代。
そこへ愛がにこやかに到着。
愛「五代さん」
社長「……あの声です、ええ、間違いありません」
その声を聞いた途端、被害者の顔色が変わり、怯えたように俯く。
愛、何も気付かずに二人のそばへ行き、
愛「いやですねえ、一日に二度も会うなんて……」
愛、別に五代の馬面を見るのがイヤだと言ってるのではなく、犯罪が多発していることを嘆いているのだ。

五代「これが現場に落ちてた、恐らく犯人の遺留品だろう」
愛「ふーん、犯人は女ですか」
渡されたリップクリームをためつすがめつしていた愛、その底に、他ならぬ自分のネームが貼ってあるのを見て、ギョッとする。

愛「え、これ、私のじゃないですか?」
五代「やっぱりか」
暗い顔でつぶやき、被害者と目を見交わす五代。

愛「え?」
さらに、制服のポケットの中をまさぐっていた愛、全く見たことのない高価なネックレスが入っているのを見付け、唖然となる。
社長「こ、これです、盗まれたダイヤ」
愛「なんでー?」
その様子を離れたところから双眼鏡で見物していた犯人、愉快でたまらないというように声を出さずに笑っていた。
五代、やむなく愛を逮捕して警視庁に連れて帰る。

愛「どうして私が逮捕されなきゃいけないんですかぁ?」
五代「状況証拠バッチリ、アリバイさっぱり、しかも現物が出てきたとなったら逮捕しない訳にいかないだろうがっ」
ぶーたれる愛に、五代が吼えるように怒鳴って机をガンと叩く。
愛「だから、それはさっきから何度もゆってるじゃないですか、いきなりシュッとスプレーかけられて、起きたらベンチで寝てたんです!」
五代「分かってるよ」
愛「え?」
五代、急に態度をやわらげると、ドアを開けて廊下に誰もいないのを確かめてから、

五代「特徴は? スプレー男だよ、お前を嵌めた」
愛「あ、それが……いきなりガッと当たってきて、ウッて倒れて、そいでスプレー、シューッってやられて、後はさっぱり……」
無論、相棒である五代は、最初から愛が犯人などとは思っていなかったのだが、他の刑事の手前、愛を厳しく取り調べるふりをしていたのである。
この辺も、ひとつのフォーマットになっていて、これ以降の同種のエピソードでも繰り返し描かれるやりとりとなる。
愛、急に何か思いついたようにPDAを開き、ネットで検索して犯人が使った催眠スプレーを割り出す。
勿論、現実にはそんなレイプ魔ご用達の物騒なアイテムは市販されていないのだが。

愛「こんな奴でした」
五代「スプレーだけ?」
愛「はい、面目ない」
実際、事件解決には何の役にも立たないのだが、これは、無理にでもPDAを使う為のスポンサー対策シーンなのだろう。

五代「今回はここにいなさい。俺が犯人逮捕してやるから」
愛「ほんと?」
五代「ああ」
愛「うっうう……」
五代「どうしたの、柄にもなく?」
五代の頼もしい言葉を聞いた愛、突然、両手を顔に押し当ててしくしく泣き出す。
愛「だって、五代さん、優しいんだもん……」
五代「勘弁して、俺、女性の涙に弱いんだよ」
困ったような顔になって、横を向く五代。
だが、愛は五代に抱きつくふりをしてジーパンのポケットから手錠を抜き取ると、

それを五代の左手に嵌め、反対側をスチールパイプの椅子に固定してしまう。
愛「ごめん、五代さん、犯人はやっぱり私が捕まえる」
五代を置いて、さっさと取調室を出て行く愛。
このくだりも、だいたいいつも繰り返されるパターンである。
それにしても五代、同じような目に何度も遭ってるのに、毎回騙されるのだから進歩がない。

ゴミゴミした路地を走り抜けようとするが、その先の路上に、自分を捜しているパトカーがいるのを見て慌てて立ち止まる愛。
警察無線「宝石窃盗事件第49号容疑者が逃走、見つけ次第、直ちに身柄を拘束せよ」
愛「やばぁ~い」
愛、エスパーなのか、10メートル以上離れたパトカーの中の警察無線が聞こえるらしい。
犯人「ファーストステージ、逃走……うっひひひひっ、やっぱりね、簡単な女」
そしてその警察無線を犯人も傍受しており、ひとり愉悦の笑みを漏らす。

愛「現場百回、なんかわかればいいんだけどなぁ」
愛、ポケットに手を突っ込んで、さっき目を覚ました公園にやってくる。
と、まるで愛が来るのを予知していたかのように、あのベンチの上にリボンをかけた箱が置いてあり、その中から「愛の光で闇を撃つ……」と言う、愛の決め台詞が繰り返し聞こえてくる。
愛が慎重にリボンを解いて蓋を取ると、中に、エンドレスで愛の声を再生するようセットされたボイスレコーダーと、冒頭の現場に落とした一文銭が入っていた。
結局、この一文銭、犯人にとって別に何の意味もなかったようである。
「いーもん、みっけ」とか言ってたくせに……
愛「誰がこんなこと……」
警官「おい、いたぞ」
愛「なんでバレたの?」
落ち着いて考えている余裕もあらばこそ、そこへ、誰かに教えられたかのように二人の警官が現れ、直ちに愛に気付いて追ってくる。慌てて逃げ出す愛。

で、まあ、例によって、スカート履きの女子高生に、現職警官が全く追いつけないという、「仮面ライダー」でもしばしば見られるミラクルが起きる。

愛、ゴミ置き場の空のポリバケツに隠れて警官たちをやり過ごす。

愛「待てと言って待った犯人が何処にいるって言うんだよ?」

愛「え、は……? 五代さん」
愛が、バケツから顔を覗かせて毒づき、生来の性格の悪さを滲み出していると、その腕にいきなり手錠がかけられる。

愛「ふぁっ」
五代「待てと言ってなぁ、待つ犯人は確かにいないかもしれない、だけどな、待つなとも言えないだろ?」
愛を引っ張り起こして、理にかなった説教をする五代。反対側の手錠を自分の手首に嵌め、
五代「これでもうお前は逃げられない。じゃじゃ馬娘、ゲットだぜ~」
愛「えっ、ポケモン? ふるっ」
五代「古いーっ?」
愛「遅れてますよ」
うーん、当時はそんな風に見られていたのか、「ポケモン」って。
ま、管理人は全く知らんけど。
犯人「セカンドステージ、合流、またまたビンゴ……これからが楽しみ」
果たして、五代が愛と合流することも、犯人によって予測され、なおかつ監視されていた。

五代「ここならしばらく安全だな」
愛「でもどうして分かったんですか、私があそこにいるって」
五代「匿名の通報があったんだ、お前があそこにいるって言う」
ひとまず停車中のトラックの荷台に身を隠して話している二人。
五代「考えられることは一つだな」
愛「誰かが私を見張ってる」
五代「そう、心当たりないのか、誰か恨み買ってる」
愛「私、恨み買えるほどお小遣いもらってませんもん」
五代「お前ね、そういう無意味な屁理屈を言う女に限って、男に恨みを買うんだよ。男を傷付けるんだよ、覚えときなさいよ」
愛「うふふ、実体験だったりして」
五代「なんで分かんだ? 俺だって恋のひとつやふたつはあんだよ、ラグビーの傷はな、すぐ癒えるけどな、恋の傷ってなかなかな……そんなことはどうでもいいんだよ!」
すぐ話が脱線してしまう五代と愛。
ちなみに、「ケータイ刑事」シリーズで、五代が「スクール☆ウォーズ」を連想させるような台詞を言うのは、このシーンだけだったと思う。
その後も二人が非生産的で不毛な会話を続けていると、止まっていたトラックが走り出す。
しかも、トラックを運転しているのは他ならぬ犯人であった。
犯人「サードステージ、かごの鳥、ふふふふっ」
しばらく走った後、トラックは道沿いの空き地で止まる。

二人が荷台から降りると、ほぼ同時にパトカーがやってくる。

反対側に回り込み、トラックの車体に隠れていると、

そのトラックがバックして、二人の姿が丸見えになるという、チャップリンの映画みたいなことが起こる。
が、警官たちはトラックの方を追いかけていったので、五代はその隙にパトカーに乗り込み、愛を連れてその場から逃走する。
CM後、使われていない倉庫に隠れている二人。
しかし、倉庫の前に堂々と盗んだパトカーを置いているのはどうかと思う。
そう言えば今回は、柴田が一切登場しないんだよね。「愛」では、あくまで準レギュラー扱いなのだ。
五代、下手をしたら懲戒免職だとぼやいている。

五代「いや、えらいことになっちまったよ」
愛「ごめんなさい、私のせいで」
さすがに愛が、申し訳なさそうに頭を垂れて謝る。
五代「ばーか、お前、しおらしいことするんじゃないよ、俺は言っただろ、そういうのは苦手だって」
愛「でも」
五代「それより続きやろ、お前に恨みを持ってる奴の検証だよ」

五代「本当に心当たりないのか?」
愛「ないって言うか、私、思うんですけど、これって恨みによる犯行じゃないと思うんですよね」
五代「恨みじゃない?」
愛「うん、もし私に恨みがあるんだったら殴るとか蹴るとかもっと簡単な方法がいくらでもあるのに……」
五代「でも、だとしたら、犯人の目的はなんだ?」
愛「たとえば愉快犯」

五代「愉快犯?」
愛「悪いことを仕掛けて、周りが大騒ぎする様子をこっそり眺めて喜ぶ奴ですよ」
五代「そんなことは分かってるよ」
「愉快犯」について、愛が五代に説明するふりをして視聴者にレクチャーするのが、時代を感じさせる。
言うても、18年前(げげっ)のドラマだからね。
愛「犯人はどうして私があの公園に行くことが分かったんでしょう?」
五代「そりゃ、さっき、見張られてるって」
愛「けど、見張っていただけならベンチにびっくり箱なんて置けませんよね」
五代「そうだな」
愛「犯人は私の行動を予知してたのかな?」

五代「どういうことだよ?」
愛「愉快犯の中にはターゲットに自分の計算どおりの行動をさせて喜ぶ奴がいるんですよ」
なんだかんだで、愛は可愛い。
あれこれ考えていた愛、不意に、瞳を輝かせて、「謎は解けたよ、ワトソン君!」と叫ぶ。
しかし、いくら決まり文句とはいえ、この場面で言うのは明らかに変だよね。
愛は犯人の正体に気付いた訳ではなく、犯人をおびき出す策略を考え付いただけなのだから。
犯人「ファイナルステージ、自首、あるいは自殺……僕はどっちでも嬉しいよ」
その犯人が、警察無線をいじりながらニタニタしていると、
警察無線「第49号容疑者が新たな窃盗事件を引き起こし、常磐方面に逃走中……」
犯人「愛ちゃん、違うじゃん!」
犯人、慌てて車のエンジンをかけ、走り出す。

五代「繰り返す、第49号容疑者が……これで良いのか?」
だが、それは、五代が盗んだパトカーの無線を使って流したニセの情報だった。

愛「はい、犯人はきっとこれを傍受している筈ですから」
犯人はさっきのトラックを運転して、とある廃校(あるいは塗装工事前?)に入ってくる。
トラックを降り、渡り廊下から中庭を覗き込むと、五代が、灰色に汚れたコンクリートの校舎の上に立つ愛に懸命に呼びかけていた。

五代「やめるんだ、考え直せ、銭形」
愛「とめないで」
しかし、「常磐方面」と言うだけで、犯人がどうして愛のいる場所がわかったのか、これが今回のシナリオの最大の欠点である。
仮に、犯人が発信機か何かで愛の居場所を突き止めたのなら、五代がニセ情報を流すまでもなく、犯人は愛が飛び降り自殺する現場を目撃しようと、自分からこの場所にやってきていただろう。
だから、五代の流したフェイクニュースの役割が、曖昧になってるんだよね~。

愛「とめないで、もうこうするしかないの、逃げたって、いつか捕まっちゃう。私は、死んで自分の無実を証明するの」
屋上の端に立ち、ヤケになったように叫ぶ愛。
なお、屋上に立つミニスカ女子高生を、下から見上げるという、大変よろこばしいシーンの筈なのだが、それがちっともよろこばしくないのは何故だろう?
それは、愛が……と言うより宮崎あおいさんが、パンツが見えるのを恐れて、かなり奥まったところに立っているからである。
女優の風上にも置けない恥ずべき所業といえるだろう。
そしてそんなことを言ってる管理人は、男の風上にも置けないクソ野郎と言えるだろう。
……て言うか、スカートの丈自体、いつもより明らかに長くなってるんですけど! ま、たぶん、トラックの荷台から降りるシーンとか、チラが発生する恐れのあるシーンの為に、長めのスカートが用意されているのだろう。

五代「やめろ、はやまるな!」
なおも必死で説得しようとする五代。
山下さん、この撮影の際、「スクール☆ウォーズ」で、イソップが同じく校舎から飛び降りようとした時に必死に止めようとして、最後は何を血迷ったか、「飛び降りて死んでしまえっ!」などと怒号したシーンを思い出していただろうか?
……ま、山下さんのことだから、これっぽっちも思い出さなかったんだろうなぁ。

愛「さよなら」
五代「銭形ーっ!」
結局、愛はそのまま飛び降り、五代も思わず目を背ける。
うつ伏せに倒れた愛の体に駆け寄り、嗚咽しながらその場に座り込む五代。
犯人「ファイナルステージ、自殺、おみごと……」
物陰から一部始終を見物していた犯人、愛が飛び降りたのを見て狂喜していたが、

そこへ一文銭のついたストラップが飛んできて、その腕を捕らえる。
愛「愛の光で闇を撃つ……そこら辺のギャルと一緒にすると火傷するよ」
そう、当然ながら、愛は生きていたのだ。
犯人「ど、どうして?」
狼狽して振り返ると、

五代「お前が見たのはこれだよ」
制服を着たマネキン人形を抱いた五代が得意気に現れる。
うーん、しかし、ダミー人形ならともかく、マネキンじゃあ、犯人も気付くと思うんだけどねえ。
犯人の性格からして、落ちるところまで目を反らさずきっちり見てただろうし。

犯人「そ、そんな」
愛「逃げたって無駄だよ」

五代「お前だな、俺たちを嵌めたのは」
犯人「そ、卒論書きたかったんですよ、犯罪心理学の……犯人が警察官になった場合、どんな風に行動するかって……」
五代「卒論だ、お前?」

五代「たまにはやってみるか?」
愛「え? ……はいっ」
五代から手錠を渡されて、一瞬戸惑うが、やがてにっこり微笑むと、自らの手で犯人に手錠をかけるのだった。
ラスト、二人で並んで帰りながら、警視総監である祖父が自分の苦境を知りながら何もしてくれなかったと公私混同まるだしの文句を言い、さらに、その警視総監からかかってきた電話を受けずに切ってしまうと言う、ケータイ刑事として前代未聞の行為に出て、その性格の悪さを存分に発揮する愛だった。
以上、愛が犯人として追われるという設定は面白いが、ストーリー自体はとりたてて面白くないエピソードであった。
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