第8話「怪人!狂い毒蛾!!」(1972年5月19日)
今年も巡ってきた菊容子さんのご命日に送る恒例企画、今回は、現在公開待機中の「変身忍者 嵐」に、悪役としてゲスト出演された第8話を先行レビューしてみることにしました。
冒頭、血車党のボス魔神斎がこのたびの作戦の吉凶を占っている。
魔神斎「占いは吉と出た。ラッキーアイテムは分度器だそうだ」
骸骨丸「では、早速、文房具屋で買って参ります」
じゃなくて、
魔神斎「占いは吉と出た。骸骨丸よ」
骸骨丸「では、早速、化身忍者の技を試して参ります」
ゴーサインを受けた骸骨丸は、牢獄に押し込めていた囚人たちを無条件で解放する。
喜び勇んで逃げ出す囚人たちであったが、

怪人「イーヨーッ! 血車党の新しく作り上げた毒蛾くのいち、お前たちはこの私の忍法狂い粉の実験台となる!」
無論、血車党がそんな慈悲深いことをする筈がなく、途中で待ち構えていた毒蛾くのいちに狂い粉と言う、七色の紙吹雪のような粉を浴びせられる。
怪人「トドメの一撃、みな殺しあえ、殺しあうのだ」

その粉を浴びた囚人たちは、狂ったように互いに殺し合いを始める。
ま、中には明らかに馴れ合いで取っ組み合ってる奴も混ざっているが、これによって囚人たちは全員死んでしまう。
冷静に考えたら、殺し合うだけなら少なくともひとりは生き延びるはずなのだが、ナレーターが「猛毒」と言ってることから、それを吸っただけでもやがて死に至るのであろう。
怪人「日本中いたるところに狂い粉を撒き散らして人間どもに殺し合いをさせることが出来る」
骸骨丸「ふふふ、されば国じゅうは大混乱、その騒ぎに紛れて血車党は天下を取る!」
相変わらずお気楽な発想の骸骨丸さん(35歳・管理職)。
国中が混乱しているときに天下を取ろうとしても、「今それどころじゃねえ!」と、相手にされないこと請け合いであろう。
だいたい、簡単に
「日本中に撒き散らす」って言ってるけど、まだ交通網も流通網も未発達の時代に、それがどんなに大変なことか、彼らは分かっているのだろうか?
それはさておき、この毒蛾くのいち(の声)を演じているのが、この少し前まで放送されていた「魔女先生」の月ひかること、菊容子さんなのである。
正義のヒロインから、いきなり残虐な怪人役と言う落差が面白い。
ちなみに、変身後の彼女がしばしば上げる「イーヨー!」(ヒーヨー?)と言う掛け声だけは、毎度お馴染み沼波輝枝さんがあてているのである。
ま、菊さんも、アンドロ仮面に変身した時は「ローッ!」と言う掛け声を出していたので、彼女が演じて演じられないことはなかっただろうが。
さて、実験の成功をことほぐ骸骨丸であったが、集団から遅れていた二人連れが狂い粉の餌食から免れ、実験場から逃げ出していた。
で、たまたま彼らの前を通り掛かったのが、ハヤテたち4人であった。
二人をカスミたちに任せ、ハヤテは下忍のひとりに成り済ましてどくろ館(要するにアジト)に潜入するが、

魔神斎「骸骨丸よ、お前の目は誤魔化されても、この魔神斎の目は違うのじゃ」
骸骨丸「と仰いますと?」
魔神斎「仲間に化けて、どくろ館を探ろうとしてもそうはさせぬわい」
骸骨丸「すると、この中にハヤテが?」
魔神斎「血車党の掟を破り、歯向かう裏切り者、裏切り者はそこだ」
さすがは魔神斎、一目でハヤテの変装を見抜いてその正体を暴く。

骸骨丸「ハヤテ、貴様……」
ハヤテ「聞け、魔神斎、これ以上罪のない人を苦しめ、世の平和を乱すのをやめろ!」
そう言われて「じゃあやめます」と魔神斎が答える筈もなく、チャンバラとなり、さっきの毒蛾くのいちと嵐との一騎打ちとなる。

怪人「イーヨー! とうとう変身忍者におなりだね、それを私は待っていた」
嵐「魂を悪魔に売った、化身忍者!」
怪人「お前はなんだ? 裏切り者め、大きな口を叩くのは男の癖にみっともないよ」
嵐「私にはどんな敵であろうと、女子供は倒せん!」
嵐が下忍たちを斬り伏せた後、

怪人「嵐を狂い粉だけで殺すのはもったいない、もっと苦しめてやる」
あえて狂い粉の入った筒を投げ捨て、素手で嵐と向かい合う毒蛾くのいち。
大した自信であったが、

その直後、振り下ろした嵐の刀を、両手で受け止める……いわゆる「真剣白刃取り」を見せて、その実力が口先だけでないことを示す。
怪人「ヒーヨー! これで影写しは出来ぬわ」
嵐「くおっ」
怪人「変身忍者とて、狂い粉を浴びれば狂い死ぬ、殺せ、嵐を斬って名を揚げるのだ」
嵐の動きを封じつつ、部下に狂い粉を発射するよう命じるが、そこへ嵐の愛馬ハヤブサオーが駆けて来る。
で、色々あって、逆に毒蛾くのいちは足に嵐の手裏剣を受け逃げ出し、

嵐「ハヤブサオー、血車党の化身忍者を追うんだ、たーっ!」
嵐はハヤブサオーにまたがって、緩やかな斜面を疾走するのだが、

ハヤテ「確かにこのあたりだ」
それにつなげて、変身を解いたハヤテがちゃんとハヤブサオーに乗ってふもとの道を進んでくるのが、いかにもハヤテ=嵐と言う感じがして、グーである。
それはさておき、毒蛾くのいちの姿を見失ったハヤテの目に、

道端に倒れ、なまめかしいふくらはぎを剥き出しにして苦しそうに呻いている若い女性の姿が飛び込んでくる。

その傷口のアップが一瞬映るのだが、これはいかにも特殊メイクと言う感じがしてNGである。

ハヤテ「どうした?」
千恵「薪を探していると、空からお化けのような恐ろしいものが落ちてきて……あたしを突き飛ばして」
で、それが毒蛾くのいちの仮の姿であることがバレバレの、千恵と言う女性を演じているのが、勿論、菊容子さんなのである。
まぁ、予告編やアバンタイトルで、彼女が毒蛾くのいちに変身するシーンがガンガン出てくるので、スタッフも、別にそのことを隠すつもりはないらしい。
髪型に関して言えば、こっちのポニーテール風のほうが、「魔女先生」の後半のおばさんパーマよりよっぽど可愛らしい。
ハヤテは足を怪我している千恵をハヤブサオーに乗せて彼女の家に送っていくが、途中で、カスミとツムジと出会う。
カスミ「ハヤテさーん」
ツムジ「どうしたんだい?」
ハヤテ「うん、血車党の化身忍者の巻き添えを食って怪我をしたんだ。タツマキに道しるべを残して、お前たちも来たほうがいいな」

で、彼女の案内で一行が辿り着いたのが、森の中に佇む、見事な合掌造りの一軒家であった。

千恵「あれが私の家です」
菊容子さんの豊満ボディーをおんぶするという、羨ましいことをしている南城竜也さん。
ま、両手は控え目に、お尻じゃなくてフトモモのあたりを支えているんだけどね。
もし管理人が南城さんだったら、迷わずお尻を鷲掴みにして菊さんにボコボコにされていただろう。
これを専門用語で「一石二鳥」と言う。

千恵「おとっつぁん、おっかさん!」
ところが、既に家の中はしっちゃかめっちゃかに荒らされており、障子に血の跡まであり、おまけに血車党の紋章を描いた貼り紙まで残してあるという至れり尽くせりの状況であった。
カスミ「家の中には誰もいないわ」
ハヤテ「血車党にさらわれたらしい」
千恵「あ……ううっ」
思わずその場に倒れ込んで嗚咽を漏らす千恵。
しかし、箪笥の引き出しまで開けてあるのは、闖入者に家人が抵抗したと言うより、なんか空き巣に入られたみたいで、若干の違和感がある。
もっとも、最初から千恵の両親はおらず、これは千恵が被害者だと信じ込ませるための偽装に過ぎないのだが。

ツムジ「お姉さん、元気出しなよ、血車党からきっと救い出してやるからさ」
千恵「ツムジさん、私元気よ、ツムジさんやハヤテさんを信じます」
ツムジ「へー、元気な顔じゃないなぁ、ほら、笑ってみなよ」
いかにもしょんぼりとしている千恵に、ツムジが変顔を見せて笑わそうとする。

千恵「まっ」
ツムジ「うん、その調子だ」
千恵も思わず微笑むが、まさにその顔は、生徒に見せるかぐや姫先生の笑顔だった。

千恵「私にも、ちょうど生きてたらツムジさんぐらいの弟がいたわ。いつも私を笑わせて」
カスミ「どうしたの、その弟さん?」
千恵「崖から落ちて死んだの……」
ハヤテたちは、千恵の身の安全を考え、そのまま千恵の家に泊まることにする。
千恵は足を引き摺りながら奥の部屋に下がると、天井裏に上がり、

千恵「血車忍法、毒蛾呪い……」
三人が川の字で寝ている部屋の真上に、蛾の死体のようなものを置く。
千恵が下に降りると、骸骨丸が待っていた。

千恵「骸骨丸様」
骸骨丸「毒蛾くのいち、術を施すのは明日の朝に行え」
千恵「はい、その頃までには毒蛾も成長していることと思います」
で、千恵の言葉どおり、小さな毒蛾がどんどん大きくなっていくのだが、

毒蛾「ヒーヨーッ! ツムジよ、我が毒蛾呪いの術にかかれ」
最終的には、毒蛾くのいちそっくりの姿になって、菊さんの声で喋りながら、天井裏の隙間から紐を垂らして、ツムジの口に毒を落とし込むのが、かなり変なシーンに思える。
これでは、千恵(毒蛾くのいち)が、二人いるように見えるではないか。
だから、最初から天井裏に毒蛾を仕込むシーンなんか必要なかったと思う。
これだけではないが、今回のエピソード、不要と思われるシーンがやたら目立つのである。
ともあれ、熟睡していたツムジはあっさり術にかかり、夢現の状態で体を起こすが、

前方の闇に、ありありと父タツマキの姿が浮かび上がり、恨めしげな声で、
タツマキ「ツムジ、わしはタツマキじゃ」
ツムジ「おやじ、遅かったな」
タツマキ「わしは殺された、ハヤテに殺された。わしの仇、ハヤテを討て……」
そう言うと、スッと消える。

正気を失くしたツムジは、布団の上に座ると、刀を抜き、

ツムジ「おやじの仇!」
ハヤテ「ツムジ!」
いきなり横で寝ていたハヤテに斬りかかる。
さすがにハヤテはすぐに目覚めてかわすが、その際、網タイツを履いたツムジの尻が丸出しになるという、情けないことになる。
これがカスミのお尻ならねえ……
カスミ「何をするの、ツムジ?」
ハヤテ「何を寝惚ける、私だ! ハヤテだ!」
カスミがツムジの体を押さえていると、ツムジは力が抜けたようにその場に倒れる。
しかし、折角三人をお誂え向きの密室に誘い込んだと言うのに、なんで千恵は自慢の狂い粉を使おうとしなかったのだろう?
彼らを狂わせて互いに殺し合いをさせると言うのは、誰でも考え付く、しかも効果の高い作戦だと思うのだが……
それはともかく、ハヤテは廊下に潜んでいた黒装束のくのいちを追いかけて外へ出る。
これも、普通考えたら、そういうことは夜中にするものだが、骸骨丸の指示通り、千恵が行動を起こしたのは夜が明けてからだったので、外は既に明るかった。
骸骨丸が特に意味もなく「朝まで待て」と言ったのは、夜中にやったら野外での撮影が面倒になるからであろう。

ハヤテ「待てーっ!」
ハヤテの声に、振り向きながら森の中へ逃げ込む千恵。
しばしハヤテと斬り合うが、

戦ううちに頭巾が外れて、その顔が剥き出しになる。
ハヤテ「千恵さん!」

千恵「ハヤテ、千恵もその両親もいない、私こそ、化身忍者・毒蛾くのいち」
千恵、刀を地面に突き刺すと、

千恵「化身!」
両手を組んで顔から頭の上に上げ、変身ポーズを決めて毒蛾くのいちの姿に変わる。
それにしても、正義のヒロインと悪の怪人の、両方の変身ポーズを決めたことのある女優さんって、菊さんくらいではないだろうか?
ま、そもそも、悪役はあまり変身ポーズは取らないけどね。
ハヤテも同じくポーズを決めて嵐に変身する。

嵐「待て!」
怪人「イーヨーッ!」
毒蛾くのいち、逃げながらちょくちょく雄叫びを上げるのだが、なんか、嵐の「待て」に対して「良いよ」と答えているようで、見ている方はちょっと混乱する。
実際は、「ヒーヨー」と言ってるんだろうが。
下忍に追われて家から逃げ出したカスミとツムジが、駆けつけたタツマキに助けられる(どうでもいい)シーンを挟んだ後、開けた場所で毒蛾くのいちと嵐の一騎打ちとなる。

嵐「弟がいたと言うのも、嘘だったのか」
嵐の問い掛けに、

怪人「嘘じゃない、弟はほんとに死んだんだ。弟は強い忍者になろうと修行中に死んだんだ」
怪人らしからぬしんみりした声で答える毒蛾くのいち。

嵐「もし弟が生きて、立派な忍者になっているとしたら、私と同じように血車党と戦う忍者になっていたかもしれない」
怪人「言うな! イーヨー!」
嵐(言っても良いのか悪いのか、どっちなんじゃい!) 嵐の言葉を鋭く遮る菊さんの真剣な声に続いて、沼波さんのひっくり返ったような声が飛び出すのが、このシリアスな場面では完全に裏目に出ている。
この弟に関するエピソードをもっと掘り下げていれば、なんで千恵が化身忍者などになったりしたのか、その理由も分かっていたかもしれないのにと、シナリオの練り込み不足が憾みである。
さっきも言ったように、余計なシーンが多いせいで、肝心の千恵に関するドラマ部分が十分に描けていないのだ。
色々あって、結局、嵐が毒蛾くのいちの刀を叩き落して、勝負あり。
しかし、このラス殺陣においても、毒蛾くのいちが必殺の狂い粉を使おうとしないのが、非常にもどかしいと言うか、物足りない。
怪人「殺せ、殺せ!」
嵐「お前の亡き弟のためにも命は預けておく」
怪人「ヒーヨーッ!」
嵐の温情溢れる言葉に、怪人は一際高く叫ぶと、体を揺さぶって千恵の姿に戻る。

千恵「何故、何故殺さぬ?」

……
やっぱり菊さんは綺麗だな、と。
千恵の渾身の問い掛けに、パチンと刀を納めてから、

嵐「あなたは化身忍者にふさわしくない。心の綺麗な人だからだ」
と、男前の台詞を放つ嵐。
うーん、でも、ここは、毒蛾くのいちと同じく、一旦ハヤテの姿に戻ってから言わせた方が、よりドラマティックだったと思う。
嵐の強さではなく、ハヤテの優しさに屈したかのように、しばし面を垂れていた千恵だったが、不意に決然とした顔を上げると、

千恵「お教えします、血車党の新しいどくろ館は……」
改心して、血車党の機密を漏らそうとするが、

魔神斎の声「血の掟だ、毒蛾くのいち」
千恵「ああーっ!」
その瞬間、魔神斎の声がして、大地が裂け、あわれ、千恵は地下から噴き上げるマグマに飲み込まれて消滅する。
実にあっけない死に方であったが、

ハヤテ「恐るべき、魔神斎」
タツマキ「ハヤテ殿、毒蛾くのいちは?」
ハヤテ「魔神斎が手を下した」
タツマキ「えっ……血車党は血も涙もない恐るべき集団ですな」
ハヤテもツムジたちも、すっかり千恵のことは忘れたように、彼女のことには一切触れないのが、その哀れさに拍車をかけているように思えてならない。
結局、ツムジたちは千恵の正体を知ったのか、知らないままなのか、その辺も曖昧なまま、なし崩し的にエンディングに雪崩れ込むのであった。
以上、菊さんがゲスト出演していると言うだけで貴重なエピソードであったが、ドラマとしては大いに不満の残る作品であった。
それに、冒頭で骸骨丸があれだけ大きなことを言っていたのに、気が付けばひたすらハヤテを抹殺することにばかりかまけて、せっかくの狂い粉も実験に使っただけで終わると言うのも、いかにも70年代の「悪の組織」らしいトンチキぶりであった。
ま、8話の前後の、ドラマ性皆無の退屈極まる回よりは全然面白かったけどね。
それにしても、管理人が最初に「嵐」を見たのは、まだ「魔女先生」を知らない時だったが、その時は、菊さんの存在などまったく眼中になかったのだから、自分の眼力のなさに呆れ返る。
それでも、終盤のレギュラー・カゲリ役のことはさすがに覚えていたが、この悪役でのゲスト出演に関しては、彼女が出ていたことさえすっかり忘れていたのだから、ますます自分の不明が恥ずかしい。
- 関連記事
-
スポンサーサイト