第21話「怪獣チャンネル」(1971年8月27日)

ナレ「午前4時、世田谷区に住む坂井信夫氏の末っ子、ミカ子ちゃん5才が、つけっぱなしのテレビを消しに起きた、その時、事件は起こった……」
と言う、実録ドラマ風のナレーションで始まる21話である。

ミカ子「あっ、映った」
酔っ払って帰宅した父親がつけっぱなしにしていたテレビには、青白い砂嵐しか映っていなかったが、ミカ子がスイッチを切ろうとその前に立ったとき、突然、雲の上を飛んでいる飛行機の映像が映し出される。
それはリアルタイムで東シナ海上空を飛んでいる旅客機だった。
同じころ、いい旅夢気分で寝ていた郷が、けたたましい電話のベルで叩き起こされる。

郷「もしもし?」
南「郷か、すぐテレビをつけるんだ」
郷「南さん、どうしたんです?」
南「早くテレビをつけろ」
郷「テレビ? こんな時間にやってるわけないでしょ」
南「それが映ってるんだよ! だから早くつけてみろと言ってるんだ!」
もどかしそうに叫ぶ南隊員の声に、郷はやれやれと言った顔でテレビのスイッチを押すが、ブラウン管に映し出された映像を見た途端、その眠気も吹っ飛んでしまう。

郷「南さん!」
南「そっちにも映ってるか?」
郷「ええ、モロ出しのエロビデオが映ってます! 夜中にこんな番組やってたんですねっ!」(註1)
南「いや、郷、それ多分、違うチャンネル……」
じゃなくて、
郷「信じられませんが確かに映ってます。あれは日本の旅客機じゃありませんか……あっ危ない」
旅客機は、映像が正面から飛行機を見た映像に切り替わった直後、爆発してしまう。
考えたら、この一ヶ月前に旅客機の墜落事故が起きて、この番組も一週飛んでいるのだが、当時のテレビ番組はそんなことお構いなしに旅客機墜落の映像を流しちゃうのである。
註1……これは、管理人が高校生の頃に実際に経験した現象に基づくギャグで、深夜、何もやってない筈のチャンネルで、日本のアダルトビデオが流れていたことがあったのである。もっとも、映像は極めて悪く、実用性は皆無であったが。
その1時間後の午前5時、MAT隊員に非常召集がかけられる。

南「テレビのカメラはちょうど獲物を狙った生き物の目のように、ゆっくり旅客機に近付くと、そのカメラの下の部分から怪光線が発射して旅客機はたちまち、墜落しました」
加藤「その、テレビを見ていた時間は?」
郷「映像が切れたとき、4時10分でした」
郷と南から話を聞いた加藤隊長は、重苦しい顔で、
加藤「その同じ時間、東シナ海上空を飛行中の日本の民間機が原因不明の爆発を起こして墜落したんだ」
南「やはり、あれは事実だったのか」

郷「すると、爆発のテレビ中継を見たんですか、我々は?」
丘「東京都下だけでも100軒を越える家庭が同じテレビを見てるんです」
ベリーショートの丘隊員が実に凛々しいのだが、今回、出番はほとんどない。
加藤「おそらく、東シナ海上空から発射された強力な電波を通信衛星が自動的に中継して世界中に流したらしいんだ」
郷「しかし、一体何者が、どんな方法であんな位置からテレビカメラを……」
加藤「それを突き止めるのが我々の任務だ」
加藤隊長によると、アメリカやソ連などでも同じ映像が中継されているらしい。
と言う訳で、直ちに郷と上野がMATアローで墜落の起きた空域へ調査へ赴く。
果たして、彼らの前方に、

信号機のような三つの目を持った怪獣があらわれる。
上野「郷、本部へ連絡しろ」
郷「はい、アロー1号より本部へ、アロー1号より本部へ! 通信が出来ませんっ」
上野「そんなことがあるものかっ」
上野が自分で試すが、やはり本部と連絡が取れない。
上野「あっ、信じられん。電波が怪獣に吸収されている……」
郷(お前は電波が見えるのか?) 彼らはとりあえず怪獣に攻撃を仕掛けるが、怪獣は涼しい顔で例の怪光線を放つと、悠々と雲の中に消えてしまう。

加藤「仮にビーコンと呼ぼう、ビーコンは電離層に住む宇宙怪獣で、空中の電波を吸収する特性を持っている。つまり電波を食って、それをエネルギーにして生きている新種の怪獣だ」
帰還した郷たちの得たデータをもとに、怪獣についての分析を行う加藤隊長。

岸田「電波が食えるんですか?」
加藤「ああ、私が学生の頃、金のないときはよくラジオをつまみにして酒を飲んだもんだ」 岸田「へぇー」
丘「デタラメ言わないで下さいっ!」 じゃなくて、
加藤「うん、レーダーに使用されているミリ波だって空中の酸素や水蒸気に吸収されているんだ。しかもこのビーコンは独自の電波を発信する機能を備えているらしい。つまりビーコンの体全体がひとつのテレビ局の機能を持ってると考えればいいわけだ」
郷「あのテレビ中継もビーコンの仕業だったんですね」
南「ビーコンにとっちゃあ、東京上空は食糧倉庫みたいなもんだ。やつは必ず東京に来ますね」
加藤隊長は、ビーコンとの戦いは自動的に全世界に衛星中継されることになるので、ドジを踏むなと念を押す。
郷(でも、踏むんだろうなぁ……) 続いて、とある民家で、アマチュア無線の機器を前にして通信を試みている少年の姿が映し出される。

ナレ「午後2時、江戸川区に住む土建業、中村伸さんの長男、努君11才がコールしていた21メガヘルツのハムの電波が突然途絶えた……勉君はやっと電話級の資格を取ったばかりで今日はアメリカにいる親友のジョージ君と交信の約束をしていたのだ」
努が居間に下りてくると、ちょうど母親がテレビの前に陣取り、典型的な昼メロドラマにどっぷり肩まで浸かって見ているところだった。

努「あれ、テレビが映ってら」
母親「駄目よ、昼間のチャンネル権は母ちゃんにあるんだから……無線はどうしたのよ?」
努「それが変なんだー、通じないんだー」

早苗「晴彦さん、分かってくださいましたわね」
晴彦「早苗さん……僕は」
早苗「もう何も仰らないで」
晴彦「私たちはともに新しい生活を求めようと思いました。あなたにとっても……」
で、その母親の見ているドラマなのだが、これは実際にあるドラマの映像を借りているのではなく、このシーンの為だけに、わざわざ番組が用意した映像らしいのだ。
ほんと、当時の円谷プロの凝り方には、頭が下がる思いである。
だが、その最中、突然映像が切り替わり、オーロラのたなびく下、左右から同じコースを飛んでいる防衛軍のパトロール機と、旅客機の姿が映し出される。

操縦士「北極圏パトロールより、管制塔へ……」

スチュワーデス「落ち着いてください、ご心配なく、
どうせ人間いつかは死ぬんですから!」
で、パトロール機の操縦士や、旅客機の内部の映像も出てくるのだが、これは、「ウルトラセブン」の「北へ還れ!」の映像の大胆な使い回しのようである(註・ただし、乗客たちの映像は、パトロール機ではなくホーク3号とぶつかりそうになった時の映像である)。
旅客機の、機長たちの様子だけは、新撮らしい。
たった今、円谷プロの丁寧な仕事ぶりを褒めたばっかりなので具合が悪いが、まぁ、たぶんだいたい同じスタッフが撮った映像だろうから、罪は軽い。
レーダーや通信機が使えなくなった二機は、真っ正面から激突して、大爆発を起こす。その爆破シーンも使い回しである。
無論、それはビーコンの仕業で、事故の後、雲海の中からゆっくりとその巨体があらわれる。
続いて、岸田たちの乗るMATアローが来て、直ちに攻撃を開始する。
努「MATアローだ。かっくいーっ!」
図らずも、怪獣とMATの戦いを生中継で見ることが出来て、喜ぶ努少年であったが、MATの死に物狂いの攻撃もビーコンには掠り傷ひとつ付けられず、

逆に光線を浴びて、撃墜こそされなかったが、お尻から煙を吹きながら退散すると言う、加藤隊長の恐れていた醜態を晒してしまう。
努「弱いなぁ、MAT……」 それを見ていた努少年、なんともいえない顔をして、ぽつりとつぶやく。
こんな屈辱的な光景が、日本のみならず全世界に中継されたと知ったら、岸田隊員たち、恥ずかしくてとても生きていられないと思うのが普通だが、なにしろ毎回ウルトラマンに助けて貰っているMATなので、既にプライドなどと言うものは微塵も残っておらず、
特に気にしないのだった。チーン。
努少年以外にMATをけなす人物も描かれないので、この
「MATの恥が全世界に中継される」と言うプロットも、ストーリーにはほとんど生かされないまま終わるのが残念だ。
ともあれ、戦いが終わるとテレビも元通りになり、

さっきのメロドラマの続きに没入している、いかにも更年期真っ只中と言う感じの主婦の顔と言う、およそ特撮ヒーロー番組らしからぬカットで、CMです。
CM後、それでも面目なさそうに加藤隊長の前に立っている岸田と南。
南「勝手に攻撃を加えたりしまして……」
加藤「仕方がない」
が、相変わらず加藤隊長は歯痒いほどに温和で、あっさり不問に付す。
上野「地上ではあいつが飛び回る1キロ四方のありとあらゆる電波が食い荒らされて、すべての機能が麻痺しています!」
と、上野隊員は言うのだが、電波が発信できなくなったからって、「すべての機能が麻痺」と言うのは大袈裟ではないか?
確かに無線やテレビ、ラジオなどは使えなくなるだろうが、電話は有線だから関係ないだろうし、交通機関も飛行機やタクシーを除けば、さほど影響があるとも思えない。
岸田「近付けば電波を食われて、メクラ同然の状態で戦うことになる。レーダーも無線もコンピューターもなしにあいつと戦うことは困難だ」
ま、レーダーや無線やコンピューターが万全でも、MATに勝ち目はないと思います。
郷「東京上空の、出来れば日本中の電波の発信をストップさせたらどうでしょう?」
ここで郷が、突飛と言うより無茶苦茶なアイディアを思い付く。
南「そ、そんなことしたら、それこそ地上は大混乱になるぞ」
郷「しかし、今はビーコンを東京上空から追い出すことが先決だと思います。既にあいつのために旅客機が二機も墜落させられてるじゃありませんか」

郷「東京中の電波を封鎖した後、MATアローだけが電波を流しながら海上へ飛びます。やつは必ず食らい付いてきます。海上へ誘い出したら、ミサイルで仕留めます」
郷の大胆な作戦に、「そのうちウルトラマンが来てくれるんじゃね?」と言おうと思っていた加藤隊長も乗り気になり、こうして前代未聞のオペレーションが発動される。
と言っても、今言ったように、電気を止めるのではなく、電波を止めるだけだから、電波地獄(?)の現在と比べれば、市民生活に与える影響はそれほど大きなものではなかったと思われる。
でも、たった今トホホな負け方を全世界に晒したMATからそんなこと命令されても、国民が素直に従うだろうかと言う疑問が湧くし、あらゆる電波を止めると言う未曾有の作業が、

ナレ「午後5時、東京中のあらゆる電波が発信を止めた」
東京タワーのあおりショットと、ナレーションの一言だけで片付けられるのも、実に物足りない。
それに、郷は「日本中」と言ってたのに、ここでは「東京中」になってるし。
で、南隊員が乗ったMATアローが高周波をばらまきながら太平洋に向かって飛び立つが、一向にビーコンはあらわれない。
隊員たちの顔に焦燥が見え始めた頃、
上野「大変だ、江戸川から別の電波が流れてる!」
郷「なんだって?」
上野「21万ヘルツの高周波だ」
郷「……アマチュア無線だ!」

そう、ひとり命令を破って無線を使っていたのが、さっきげんなりした顔をしていた努少年だったのだ!
この展開は、なかなか面白い。
ただ、いくらMATのヘボいところを見せ付けられたからって、努のような少年があえて命令に従わずに無線を使うだろうかと言う疑問が浮かぶ。
それに、努の他にも命令を無視して無線を使おうとする人間がもっとたくさんいると思うんだけどね。
努に、どうしても無線を使わねばならない切迫した理由があるとすれば、まだ納得できたのだが。

ともあれ、ビーコンはMATアローではなく、努少年の無線機の出す電波に魅かれて江戸川上空にあらわれると、

それこそ飛行機のように、進路上の建物をドカドカ壊しながらソフトランディングに入り、電波の発信源、すなわち努少年の自宅を目指して滑走する。
ここ、真ん中の電信柱が、ビーコンの動きに合わせて左側に傾いているのが分かると思う。
無論、スタッフが電線に見立てた紐を画面の外から引っ張っているのだが、さすがの芸の細かさである。
もっとも、その引っ張り方があまりに急なので、その傾き方がやや不自然な感じもする。
努少年は、MATの言いつけを守らなかった報いか、ビーコンに自宅をぶっ壊されてしまう。
郷は努たちの代わりに建材の下敷きになるが、

ビーコンの下で眩い光が弾けたかと思うと、

その中から、ビーコンを持ち上げた状態のウルトラマンが現れる。
これなんかも、ボーッと見てしまうのだが、物凄く綺麗な合成なんだよね。
さて、ビーコンとの戦いとなるが、常に風船のようにふわふわ浮いているビーコンはなかなか捉えどころのない相手で、

ウルトラマン、思いっきりジャンプしてその頭を蹴落とそうとするが、

間違えて、運良く無傷だったビルの上に落下してしまい、ビルの持ち主を発狂させたそうです。
註・ほんとは、一度ビーコンの頭を蹴ったが、跳ね返されて落ちたのである。ま、同じようなもんか。

でも、ビーコンって、なかなか可愛いんだよね。
ひたすら電波と言う餌を求めてるだけで、積極的に悪事を働こうと言う風には見えないし、猫のように何も考えてないようなところが実にラブリーである。
その後、早くも力尽きたのか、ウルトラマンが大地に横たわって動かなくなる。

街並みの向こうに夕日が沈みゆく中、宙に浮かんだビーコンがウルトラマンを「もう遊んでくれないの?」とばかりに見下ろしていたが、

ウルトラマン、突然立ち上がると、ウルトラブレスレットを投げつけ、ビーコンを一撃で倒す。
が、ビーコンは地面に落ちて動かなくなるだけで、爆発しないし、

夕日を背に仁王立ちしていたウルトラマンも、その場で飛び上がらず、霞のように体が透明になったかと思うと、夕日に向かって飛んでいく後ろ姿だけが影となって描かれるというように、地味と言うか、幻想的な終わり方なのだった。
ラスト、冒頭に出てきたミカ子と言うオカッパ頭の女の子が深夜に目を覚まし、また奇妙な映像が見れるのではないかと居間に下りてきてテレビをつけるのを、

ナレ「ミカ子ちゃん、もうねえ、テレビは映らないよ、ビーコンはウルトラマンにやっつけられじゃないの。
さぁ、早くベッドに戻らないと、パパやママに見付かったらお尻パンパンされちゃうぞぉ! ぐふふ」
名古屋さんが、ほとんどロリコンの変質者のような口調で語りかけると言う、ちょっとしゃれたクロージングとなる。
以上、市川森一さんの脚本にしては深みがなく、ドラマ性も希薄で可愛い女優さんも出なければ、丘隊員の見せ場もなく、アキたちも一切出ないと言う、これと言って取柄のない凡作であった。
まぁ、深夜のテレビに何か変なのものが映っていると言う、都市伝説的なアイディアがもとになっているのだろうが、こういう話はむしろ「怪奇大作戦」のような犯罪ドラマのほうが合っているのではないだろうか。
たとえば、実際に人が殺される映像がリアルタイムで映し出されるとか……
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