第28話「赤子を泣かすアカオニオコゼ!」(1973年1月20日)
前回のラストから引き続き、アカオニオコゼと戦闘員が、マサルを捕まえようと、伊豆の山の中を懸命に追いかけている。
……ただ、彼らの目的は荒木博士の遺した良心回路の設計図な訳で、なんでこんなに必死になってマサルを追いかけているのか、今ひとつ分からないのだった。
まあ、マサルを人質にして、ミツ子の口から設計図のありかを聞き出そうということなのだろうが、それにしても度が過ぎた執拗さで、直接ミツ子を捕まえた方がよっぽど手っ取り早いのではないか。
それはさておき、海辺の岩山でとうとう追い詰められたマサルだったが、そこへジローがあらわれ、後で迎えに来るからマサルにその場を動かないように指示してから、キカイダーに変身して戦う。
前回から引き続き、トイレ(大)に入っているのか、ギルはここでも「悪魔の笛」を出し惜しむ。
序盤から、かなり長いアクションシーンとなるが、おそらく、視聴率対策であろう。
激闘の末、キカイダーとアカオニオコゼはそれぞれ腕に負傷をして、痛み分けの形で勝負は持ち越しとなる。
ジロー、ふらふらになりながら大家荘のミツ子のところまで戻り、自分の代わりにマサルを迎えに行ってくれと頼むが、

ミツ子「ジロー、この音は?」
ジロー「腐食バクテリアを塗った矢を打ち込まれたらしい……マサル君を……頼む」
ミツ子「あなたの分解掃除の方が先よ、さ、早く服を脱いで」
ミツ子が、そんな状態のジローを放っておける筈がなく、服を脱がせてジローの体内を清めようとするが、そこへ飛び込んできた半平がその様子を目撃し、ラブシーンの真っ最中だと勘違いしたことが、のちに思わぬ波紋を生むことになる。
一方、マサルは、言いつけられたとおり、さっきの場所でジローが来るのを大人しく待っていたが、

マサル「ジロー、いつ迎えにきてくれるんだよう……姉さんは何で僕を置いてっちゃったんだよ?」
ひとりぼっちの不安や心細さは、やがてジローたちへの不満や不信感に転化していく。
と、再び戦闘員たちに見付かり、狭い山道を逃げ惑う羽目になるマサル。

だが、いつまで経っても子供一人捕まえられない戦闘員たちの体たらくをモニターで見ていたギルは、
ギル(もう、クニに帰ろうかな……) すっかり弱気になっていた。
……嘘である。
と思いきや、
ギル「設計図はまだ手に入らんのか、アカオニオコゼ! キカイダーがあの設計図を手に入れたら、完全無欠な人造人間になってしまう。そうなったらこのダークに勝ち目はないのだ。ダークは破滅に追い込まれてしまうのだぞ」 ほんとに弱気になっていた。
しかし、前回も書いたけど、いくらキカイダーに弱点がなくなったとしても、それで悪の首領が自ら負けを認めてしまうようでは、ダークの将来もお先真っ暗である。
ダークだけに!(うるせえ)
さて、ミツ子がジローの手当てをしていると、番頭が来て、タエ子が戻ってきたことを告げる。

ジロー「タエ子さんって、荒木博士の?」
ミツ子「そうよ、ダークに殺された荒木博士のお嬢さん。実はこの旅館の若奥様なの」
ジロー「そうだったのか」
ミツ子「用があって東京へ出掛けていたらしいの」
灯台下暗し、タエ子は遠方ではなく、その大家荘の若女将だったのだ。
まあ、これは、ロケ地だけで撮影を済ませたいというスタッフの願望が生んだ奇跡の設定であろうが、だとすると、若女将の父親がついさっき泊まっていた部屋で死んだ……しかも殺されたと言うのに、ホテルが何事もなかったように平常どおり営業しているのが、相当不自然なことになってしまう。
それはさておき、ジローの修理を終えたミツ子は、直ちにタエ子に会いに行こうとするが、ジローがそれを止める。
ジロー「僕の良心回路なんか、不完全なままで良い。そんなことのために関係ない人を巻き込んじゃいけない」
前回と全く同じ論法で、良心回路の設計図をネグレクトすべしだと主張するが、
ミツ子「ジロー、あなたはその不完全な良心回路のために、何度危ない目に遭ったか、覚えてないの?」
ミツ子も負けじと言い返す。
まあ、一度や二度ならともかく、30回近くも同じ目に遭いながら、毎回なんの対策も立てずに判で押したようにもだえ苦しんでいるジローを見て、ミツ子が
「あんた、バカぁ?」と言いたくなる気持ち、管理人も良く分かる。

ジロー「とにかく、ダークはタエ子さんが何処の人かはまだ知らないんだ。荒木博士から聞いてそれを知っているはミツ子さんだけだ。君さえ動かなければタエ子さんはダークに狙われることはない。いいね?」
ミツ子「……」
ジロー「マサル君を連れに行って来る」
ミツ子「あっ……」
ミツ子の返事も待たずさっさと部屋を出て行くジロー。
こと、良心回路に関する限り、ジローの態度はいつもと違って妙に消極的と言うか、事なかれ主義になってしまうのだ。
しかし、この時点では、ダークは設計図をタエ子が持っていることすら知らない筈なので、ジローの台詞は少し変である。
だが、もっと変なのは、二人が、床の間に生えている、温泉旅館にそぐわない、クソでかいサボテンに何の不審も抱かないことである。

果たして、ミツ子がいなくなったあと、サボテンはカイメングリーンの姿に変わる。
カイメン「聞いたぞ、聞いたぞ、ふははははっ」
ホテルを出たジローがさっきの場所に駆けつけるが、既にマサルの姿は影も形もなかった。
一方、ミツ子は、ジローの言い付けを無視して、タエ子と会っていた。
前回もそうだったが、ジローの言うことを聞かない奴ばっかりである!

タエ子「父から預かったもの?」
ミツ子「設計図なんです、良心回路の」
タエ子「さあ、そんなものは……」
ミツ子「では、どんなものでも……タエ子さんがお父様から預かったものは?
預金通帳とか、実印とか」
タエ子「さあ」
ミツ子「とっても大事なことなんです、その設計図さえ手に入ればひとりの人造人間、いいえ、一人の男の人が救われるんです」
ミツ子は畳み掛けるように質問するが、赤ん坊を抱いたタエ子の反応はいたって鈍い。
しかし、前述したように、父親が死んだ直後だというのに、タエ子が、通夜の準備や葬式の手配などを一切せず、見ず知らずの人間と暢気に会話しているのはどう考えても変である。
なお、タエ子を演じるのは元宝塚の高毬子さんだが、前回の進千賀子さんと比べると大幅に落ちる(註1)。ちなみにお二人は同い年だそうな。
註1……あくまで、管理人のモチベーションが落ちるという意味である。
半平がホテルの近くをぶらついていると、マサルがひとりでとぼとぼ帰ってくる。
要するに、戦闘員の皆さん、またマサルに逃げられたんだね……

半平「どうしたんだよ、え?」
マサル「ジローも姉さんも誰も迎えに来てくれないんだ」
半平「さもあろう、さもあろう」
マサル「どうしてだよ、何で僕を一人ぼっちにしたんだよ」
しっかりしているとは言え所詮は子供、半べそを掻きながら、ないがしろにされた恨みを半平にぶつけるマサルだったが、
半平「子供には分からない大人の世界と言うものがあるんだ、今頃、ジロー君とミツ子さん、チュッチュチュッチュッチュッチュッしてるだろうなーっ」
マサル「ジローも姉さんも、それで僕のことを……」
半平、自分が目にした(と思い込んでいる)光景を身振りを交えて再現して見せ、幼い心をますます深く傷付けてしまう。
半平「あれ、マサル君、靴どうしたんだ?」
だが、暢気と言うか大雑把と言うか、半平はそんなマサルの気持ちなど無視して、マサルの為に靴を買いに行ってしまう。

タエ子「そうだわ、もしかしたら……」
ミツ子「思い出したんですね、タエ子さん」
タエ子「ええ」
ミツ子「言ってください、何をもらったんです?」
一方、ミツ子の粘りが実を結んで、遂にタエ子が何かを思い出して言おうとするが、
オコゼ「その答えは俺が聞こう!」 その会話に割って入ったのが、ホテルの池に潜んでいたアカオニオコゼであった。
……
お前はバカか? なんでタエ子が何を貰ったか喋る前に、姿を見せちゃったの?
なかなかマサルを捕まえられない戦闘員と言い、バカ丸出しの怪人と言い、部下がこんな不甲斐ない連中では、ギルが弱気になるのも無理はない。
それはともかく、カイメングリーンとアカオニオコゼに赤ん坊を殺すと脅されたタエ子は、やむなく、父親が赤ん坊にくれたお守り袋の中にある筈だと打ち明ける。
怪人たちはお守り袋を奪い取ろうとするが、颯爽とその前に立ちはだかったのが、ジローであった。

ジロー「女子供に手出しをするな、ダーク破壊部隊!」
カイメン「じゃあ、男には手出ししても良いのか?」 ジロー「う゛っ!」
ヒーローのお約束台詞に鋭いツッコミを入れられて、思わず固まるジローであったが、嘘である。
二人を逃がして怪人や戦闘員と激しくぶつかるジロー。
何故かここでもギルは「悪魔の笛」を使わず、ジローは普通にキカイダーに変身する。
なんか、もう、世界征服への情熱が失せちゃったのかな、ギル。
「ギル、世界征服やめるってよ」 なんてことにならないことを祈りつつ、話を続けよう。
で、ここからが長坂さんらしくないむちゃくちゃ強引な展開になるのだが、箇条書きにすると、
1 半平が赤い靴を買ってホテルに戻ってくる 2 怪人たちの姿を見て驚き、靴を放り投げる 3 その靴がたまたまタエ子の足元に落ちる 4 タエ子、その靴の中に、お守り袋の中にあった紙片を隠し、放り投げる まあ、ここまではまだ許せるのだが、
5 その靴が、川のそばに座っていたマサルの前に落ちてくる と言うのは、いくらなんでもやり過ぎである。
だいたい、マサルが、女性が適当に投げた靴が届く範囲に座っているのなら、ホテルでの騒ぎにも気付いている筈で、のほほんと座っているというのは絶対変である。
マサル「あっ、靴だ!」 それはさておき、目の前に靴が落ちてきたので、目ん玉を飛び出さんばかりにして己の幸運を喜ぶマサル。
で、その次のシーンもかなり不自然で、

タエ子「運転手さん、どうかしたんですの?」
さっきまでミツ子と一緒にいた筈のタエ子が、ひとりでタクシーに乗って、ホテルから遠ざかろうとしていた。
いや、普通は、ミツ子と一緒に行動するでしょう?
これではタエ子が、ミツ子を置き去りにして自分だけトンズラした人非人に見えてしまうではないか。
もっとも、ストーリーの事情で、ミツ子は絶対そのタクシーには乗れなかったのだ。
何故なら、

光明寺「誰かに尾けられてる」
振り返ったタクシーの運転手こそ、他ならぬ光明寺博士だったからである!
だが、あいにく、タエ子は光明寺の顔を知らなかった。
走り出してほどなく、光明寺は怪しい車が追いかけてくるのに気付き、てっきり自分が狙われているのだと勘違いし、巻き添えにしたくないからといって、途中でタエ子を下ろしてしまう。
光明寺「こんなところですみません、奥さん」
タエ子「あなたこそお気をつけて」
でも、今までの流れからしてタエ子が狙われているのは明らかで、タエ子自身も「私かもしれません」と言ってるのに、光明寺に言われると、大して抗議もせずに素直にタクシーから降りてしまうというのは、これまた相当変である。
同じ頃、ジローはサイドカーにミツ子を乗せてマサルやタエ子の行方を探していたが、やがて、田んぼの間をマサルが歩いているのを高所から発見し、大声で名前を呼ぶが、マサルはこちらに気付いた様子なのに、立ち止まらずに歩き続ける。

ミツ子「どうしたのーっ?」
ジロー「マサル君ーっ!」
マサル「嫌いだい、姉さんもジローも大嫌いだっ!」
再度の呼びかけに、マサルは振り向いて叫ぶと、走って行ってしまう。
だが、その時、ダークに追われているタエ子の悲鳴が聞こえてきたので、二人はマサルをそのままにして、ひとまずタエ子のところへ急行する。
ここでやっと、ギルが「悪魔の笛」を鳴らし、悪の首領としての義務を果たす。
ギル、俺は信じてたぜ。
ジローが動けない隙に、アカオニオコゼはタエ子から赤ん坊を奪い取るが、

怪人が赤ん坊を抱いて、赤ん坊が激しく泣き喚くという、極めて珍しいシーンとなる。
特撮において、怪人が赤ん坊を攫うというのはたまにあるケースだが、ダミー人形ではなく、実際に赤ん坊をしっかり抱きかかえると言うのは、ちょっと他では見たことがない。
で、その赤ん坊の泣き声で、「悪魔の笛」の音が聞こえなくなるというのが、いかにも長坂さんらしいアイディアであった。

タエ子「子供を返して、設計図はもうそのお守り袋の中にはありません」
オコゼ「なにぃ」
タエ子「設計図は、赤色の子供の靴に隠して捨てました」
ミツ子「赤い靴? はっ、マサルが履いてた靴だわ」
タエ子の暴露に、ミツ子がすぐにそれと気付くのだが、これも、映像ではかなり離れた場所にいたから、並外れた視力を持つジローならともかく、ミツ子がマサルの赤い靴に気付いていたというのはやや違和感がある。
おまけに、ミツ子が思わず口走ってしまったため、ダークにもそのことを知られてしまう。
で、そのマサルは、すきっ腹を抱えてその辺を彷徨っていたが、偶然、日光ウエスタン村のような、西部劇のセットが立ち並んでいるような施設へ迷い込む。
そこが正確になんという施設なのか不明だが、いずれにしても、とっくの昔に営業は取り止めているようで、荒れ果てた廃墟のような佇まいであった。
マサルが施設に辿り着いて間もなく、アカオニオコゼや戦闘員たちがあらわれ、マサルを捕まえようとする。

で、これがなかなか捕まらないのだ……
なんの手掛かりもなしにたちどころにマサルの居場所を突き止めたダークの優秀さを褒めるべきなのか、番組開始からずーっとマサルを追い掛け回しているのに未だに捕まえられないダークの無能さをあげつらえばいいのか、管理人、三輪明宏に相談したいほど悩んでいる。
それでも、神出鬼没のカイメングリーンの手によって、遂にマサル捕獲チャレンジに成功するダークであった。
そこへサイドカーに乗って駆けつけたのが、ジローではなく、

半平「ホールドアップ!」
ウエスタンっぽい衣装に着替えた半平であった。

カイメン&オコゼ「はいっ」
ピストルを突きつけられて、思わず両手を挙げてしまうノリの良い二人であった。
その後、色々あって、キカイダーがカイメングリーン、アカオニオコゼを撃破するが、その間にまたしても傷心のマサルは姿を消してしまう。
一方、キカイダーに通算三度倒されたカイメングリーンだったが、恐るべき生命力でまたしても復活すると、

カイメン「ふっふっふっふっ、はぁーっはっはっはっ」
初めて人間の姿に変身するが、演じるのは特撮界のレジェンド、地獄大使こと潮健児さんであった!
どうでもいいが、この顔、ジェームズ・ウッズに似てない?

ラスト、何も積んでないトラックの荷台に乗って当てもなく移動中のマサル。
しかし、ヒッチハイクさせてやったのなら助手席に乗せてやれば良いし、勝手にそんなところに乗ってたら運転手も気付くと思うんだけどね。
で、それを早くもカイメングリーンの人間態がタクシーで追いかけている(註2)のだが、
註2……怪人が、タクシーで尾行するなよ。

そのタクシーの運転手と言うのが、またしても光明寺博士なのだった!
……
この土地には、タクシーが一台しかないんか? 男「追え、あのトラックを何処までもつけるんだ」
光明寺「……」
おまけに、カイメングリーン、ダークが血眼で捜している光明寺の顔を知らないのだった。
ダミだこりゃ。
以上、突っ込みどころが山ほどある珍作であったが、多様なキャラクターをジグソーパズルのように動かしつつ、めまぐるしい展開で視聴者を飽きさせない手際は、さすが長坂さんと言う感じであった。
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