第23話「大神家一族の三姉妹と天一坊」(1977年7月6日)
タイトルからも分かるように、当時、まさにその真っ最中であった横溝ブームに臆面もなく乗っかった快(怪?)作である。
冒頭、意味もなく暗雲が立ち込め、雷鳴が轟くというおどろおどろしげな舞台装置に、早川のモノローグが被さるという異色の幕開け。
早川「俺は飛鳥五郎を殺した犯人を追ってこの町に来た……」

早川「大神家当主・大神与右衛門、享年64歳、死因・心臓発作(註・腹上死のこと)、その遺産、およそ50億円、その莫大な遺産を残してこの世を去った」
布団の上に横たわって永眠した大金持ちのまわりに、その娘である和服姿の三姉妹と顧問弁護士が座っているという、もろに「犬神家の一族」の幕開けを連想させるシチュエーション。
当時、ブームにあやかって色んなドラマでパロディーが作られたと思うが、ここまで豪快にパクッた作品は珍しいのではあるまいか。
弁護士「では、お父上のご遺言をお伝えいたします」
死んだばかりの与右衛門の顔に白布をかけるや、弁護士が早くも遺言のことを切り出す。
まあ、臨終の場に医者がいないというのは明らかに変なのだが、予算の関係もあるからね。
三人娘は、父親が死んだというのに悲しみの色も見せず、弁護士の読み上げる遺言状の内容を固唾を呑んで待ち構える。

長女の霧子を演じるのは、ご存知、70年代の特撮クイーンのひとり、小野恵子さん。
「タロウ」から3年くらいしか経っていないが、その色っぽさにますます磨きが掛かっている。

次女の嵐子。
なんとなく、2時間サスペンスで、途中でおっぱいを出しながら殺されそうな顔立ちである。

三女の小雪。
演じるのは子役から活躍している大森不二香さん。
こう言ってはアレだが、子役のころのほうが可愛かったな、と。
弁護士「遺言、私の遺産、50億円は全て3才の時誘拐されたまま行方知れずの長男・天一に与えるものとする」
霧子「天一なんて何処にいるのか分からないのに」
嵐子「あんまりだわ。私たちには何もないの?」
弁護士「ただし、一年を経てもなお天一の生死不明のときは20億円を施設への寄付とし、残り30億円を霧子、嵐子、小雪の三人で等分するものとする」
霧子「たった10億円……」 贅沢言うな。 で、遺言状の内容も、ほぼ「犬神家の一族」と同じ。
もっとも、遺言状になんと書かれていようと、日本には遺留分制度というものがあるので、仮に天一が見付かったとしても、彼が本当に50億丸取りできるわけではないのだが、それを言い出すとこの手のドラマは成立しなくなるので、忘れることにしよう。
ただ、なんで伊衛門がそんな不公平な遺言を残したのか、その理由についての説明が一切ないのが物足りない。
普通に、天一or施設に20億、三姉妹に10億ずつと言うことにしておけば、今回のような殺人事件も起きなかっただろうに。
その後、小雪が自宅のめちゃくちゃ広い日本庭園でぼんやりと物思いに耽っていると、

はい、
スケキヨさんキターーーーーッ!! 小雪「はっ……」
当然小雪は驚いて思わずあとずさるが、
スケキヨ「突然驚かしたりして、申し訳ありません」
スケキヨ(仮名)さん、割と礼儀正しかった。

スケキヨ「実は、御焼香させていただきたくて参りました」
小雪「父をご存知なのですか?」
スケキヨ「恩人です。でもお父様以外の方を知らないのでこんな顔で入ってよいものかどうか」
さっきはああ言ったけど、なんだかんだで大森さんは綺麗である。

もっとも、小野さんにはかなわないけどね。
その霧子は、紅狐(べにぎつね)党の紅(べに)フォックスと言う、インチキ行者風の男のところへ行き、とんでもないことを頼んでいた。

紅フォックス「この紅狐党の紅フォックスに人を殺して欲しいと?」
霧子「は、はい」
紅フォックス「それで、誰を殺すのだ」
霧子「はい、妹の小雪と嵐子を」
それにしても、紅フォックスって、なんちゅう名前だ。
演じるのは名優・小林勝彦さん。
ただ、霧子がこの段階でいきなり妹たちを殺して欲しいと言いだすのは、いくらなんでもおかしいだろう。
天一が見付からなければ、合法的に10億貰えるのだし、もし妹たちを殺した後で天一が見付かったとしたら無駄骨になるのだから、大金持ちの令嬢ともあろう者が、そんな危険な橋を渡るとは思えない。
第一、こんな連中に顔出しでそんな仕事を頼んだら、仮に警察に疑われなくても、のちのち自分が彼らにたかられることは火を見るより明らかではないか。
それはさておき、最初に命を狙われたのは次女の嵐子であった。
もっとも、その方法と言うのは、道を歩いていた嵐子に、いつもの戦闘員の制服を着た連中がよってたかって襲い掛かるという、横溝ミステリーの雰囲気も香気も何もかも吹っ飛んでしまう不粋なものであったが。

嵐子「あ、あーっ!」
それはそれとして、悪漢に追われて裾を乱しながら転倒する嵐子の剥き出しになったフトモモがちょっといやらしいと思った管理人でした。
ただ、和服の場合、ほぼ100パーセントチラの可能性がないから、ロマンと言うものが感じられないんだよね。
と、その嵐子の前に颯爽と現れたのが、ギターを持った早川であった。

戦闘員「な、なんだ、てめえ」
早川「すーっ、ご婦人を虐めてる奴を見ると、ピシッ! 拳骨がムズムズしてくる男さ」
早川、あっという間に彼らをぶちのめすと、
早川「ふーっ、ムズムズが治りましたよ。ふっふっふっふっ……」
嵐子が早川に礼を言っていると、

今回の用心棒・ダンディハリーがあらわれる。
演じるのは、昭和特撮のレジェンドのひとり、南城竜也さん!
もっとも、管理人が以前レビューした時には、「変身忍者嵐」はまだ見ていなかったので、特に何の感慨も湧かなかったが。
早川「おいでなすったな」
ダンディハリー「俺を知ってるのか」
早川「紅フォックスの用心棒・ダンディハリー、名人級の手品を殺しに使う死の手品師、ただし! その腕前は日本じゃあ二番目だっ」
ダンディハリー「二番目だと? じゃあ三番目は誰だ?」
早川「……」
じゃなくて、

ダンディハリー「じゃあ日本一は誰だ?」
早川「ヒュウーッ! チッチッチッチッ……ふっふっはっはっはっはっ」
と言う訳で、いつものおバカ勝負となるのだが、対峙している二人の後ろで、嵐子さんが早川のギターを持たされているのが割りとツボである。

先攻のダンディハリー、ハンカチを振り回して周囲の木の幹に火をつけたり、シルクハットの中から火を出したり、剣の先に火をつけたり、とにかくあちこちに火を作り出すという、それのどこが名人級の手品なんだーっ? と言いたくなる、シリーズ中でも一、二を争う微妙なデモンストレーションを披露する。
早川、ハリーの投げた炎の剣を両手に掴むと、

早川「ヒュッ!」
口をすぼめて口笛を鳴らし、

早川「チッチッチッ」
短く舌を鳴らすと、気合と共に空中で一回転して剣を投げ返すと、

背中から別の短剣を取り出し、その先端に炎を燃やして見せ、

最後はそれを相手の足元に投げて爆発させる。
……
だから、それのどこが手品なんだーっ!? はっきり言って、シリーズ中、一番つまらない対決シーンだと思う。
まあ、20話以上もこんなことやってたら、書くほうもタネ切れにはなるだろうけどね。
ダンディハリー「早川、これで終わりと思うなっ!」
捨て台詞を残してダンディハリーは退散する。
一方、屋敷に帰った嵐子は、霧子と小雪を呼び出して問い詰める。

嵐子「紅狐党に私を殺すように頼んだのは、どっちなの?」
小雪「まあ、嵐子姉さん、なんてことを」
嵐子「とぼけないでよ。私が死ねば二人とも5億円取り分が増えるんですからね」
霧子「およしなさい、嵐子、行方不明の天一があらわれたら、三人とも1円だって貰えないのよ」
嵐子「とか言っちゃって、こっそり殺し屋を雇ったのは霧子姉さんじゃないの?」
霧子「いい加減なこと言うと怒るわよ!」
嵐子「怒ればどうなるっていうのよ?」
腹の探り合いから、遂には口汚く罵りあう霧子と嵐子。
しかし、視聴者は既に霧子が依頼人であることを知っているので、こういうシーンを見てもいまひとつ面白くないんだよね。
それに、霧子自身が述べているように、天一があらわれたら何もかもぶち壊しになるのだから、前述したように、(天一が生死不明の)このタイミングでの霧子の殺人依頼は変である。
小雪「やめて、二人ともやめて!」
と、小雪、姉たちの醜い諍いに耐え切れなくなったよう叫ぶと、

泣きながら、父親の遺影の前に座り込み、
小雪「どうなってしまったの、私たち、とっても仲の良い姉妹だったのに……」
小雪が嘆いているように、三姉妹の仲が本当に良かったのなら、ますます霧子の行動が不可解に感じられる。
だいたい、貧乏人から見れば、10億だろうが30億だろうが、似たようなもんだけどね。
ちなみに画面右手の屏風(ふすま?)に、漢詩のような文字が書いてあるが、これが芸術の域にまで達するくらいヘタクソである。
また、その文意も、圧制に苦しめられている人民に革命を起こそうと煽動してるみたいな感じで、大富豪の仏間に置くには、いかにも不似合いな内容である。
その後、小雪がひとりで父親の墓の前で手を合わせていると、急に風が出てきて周囲の梢が揺れ動き、凶事の到来を予知したかのように、お寺の甍の上にいた鳩が一斉に飛び立つ。
小雪も急に怖くなって立ち上がるが、そこへ出て来たのがまたしても不粋な戦闘員たちだったので、せっかくの雰囲気がぶち壊しとなる。
そこへ早川が飛び込んで小雪を助けようとするが、人数が多くて手間取っているうちに小雪を連れ去られそうになる。
早川、急いで追いかけるが、意外にも、そこにあらわれて小雪を救ったのが、あのスケキヨであった。

小雪「あぶないところをありがとうございました」
スケキヨ「いえ、お礼ならあちらの方に言ってください」
早川「いやぁ、とんでもない、そちらこそ」
小雪は早川にも目礼をしたあと、スケキヨに折り入ってお願いがあると言いだす。
次のシーンでは、小雪が姉たちと弁護士に、スケキヨを天一兄さんだと紹介している。
弁護士「その顔の包帯はどうされたんですか」
スケキヨ「誘拐犯人に大火傷を負わされたのです。その傷跡があまりにひどいので」
霧子「騙されりゃしないわよ」
嵐子「顔を見せて頂戴」
嵐子の言葉に頷くと、スケキヨは包帯を外し始める。

それを無言で見詰めている霧子。
小野さんのように、意味もなく画像を貼りたくなるほど綺麗な女優さんって、なかなかいないのである!

で、こちらも原作(?)同様、まず顔の下半分が露出するが、そこは本当に火傷の跡のように、痛々しく赤剥けて腫れ上がっていた。
嵐子「やめて!」
それを見ただけで嵐子は思わず目を背け、叫ぶ。

霧子「そのかわり、あなたが本物の天一だという証拠を見せていただきます」

霧子「天一なら、父からもらったこれと同じお守りを持っているはずです」
霧子が挑むような目で、自分のお守りを出して見せるが、スケキヨは、待ってましたとばかり全く同じお守りを取り出して見せる。
嵐子「では、右腕を見せて頂戴、天一なら、ここのところに三つのホクロがあったはず」
小雪「……!」
兄にそんなものがあるとは露知らなかった小雪、姉の言葉に思わず凍りつくが、スケキヨはためらうことなく上着を脱いでシャツの袖をめくり、腕を露出させるが、そこには、ちゃんと三つのホクロがあるではないか。
話し合いの結果がどうなったか不明だが、その後、小雪とスケキヨが橋の上で会っている。

スケキヨ「これはお返しします」
小雪「私、嵐子姉さんがホクロのことを言いだしたときはヒヤリとしました」
スケキヨ「偶然僕に同じホクロがあって良かった」
そう、あのお守りは、あらかじめ小雪が渡しておいた、自分のお守りだったのである。
スケキヨ「でも、小雪さん、もうこれっきりにしていただけませんか」
小雪「え?」
スケキヨ「これ以上皆さんを騙すのは心苦しいのです」
小雪「でも、こうしなければ姉妹が命を狙い合うようなことになるんです。お願いです、どうかもう少しだけ天一兄さんの身代わりに」
スケキヨ「……」
小雪は懇願するが、スケキヨは無言で一礼して去って行く。
入れ替わりに早川が現われ、
早川「好きになってしまったんですか、あの男?」
小雪「……」
早川「しかし、あまり賛成は出来ませんね。嘘をついて後で苦しむのは自分ですよ。その男、どうも気になるところがあります」
早川、そう忠告してから、何を思ったか、スケキヨに貸したお守りをしばらく自分に預けてくれないかと頼む。小雪も、恩人の頼みなので快く応じる。
一方、紅フォックスとスケキヨは、首領Lのところへ出向き、

紅フォックス「このとおり、ダンディハリーは着々と計画を進めております」
ダンディハリー「……」
スケキヨの正体が、他ならぬダンディハリーだったことを視聴者に示していた。
まあ、南城さんの特徴的な声を聞けば一発で分かっちゃうんだけどね。
無論、あの火傷の跡は特殊メイクでこしらえたニセモノだったのだ。

L「お前の作戦に小雪の方から乗って来たという訳か、さすがは悪の大組織ダッカーの一員、50億の遺産はニセの天一で残らず頂けるのだなぁ?」
相変わらず、鴨居に引っ掛かりそうな衣装が素敵なLも、作戦の順調な進展に御満悦であった。
つまり、彼らは最初からダンディハリーを天一に仕立てて、合法的に与右衛門の遺産を掠め取ろうという、悪の組織にしては極めて実利的な作戦を練っていたのだ。
うーん、でも、その具体的な方法については何の説明もないのが物足りない。
小雪に頼まれなかったら、一体どうやって天一に成り済ますつもりだったのだろう?
あと、
「さすがは悪の大組織ダッカー」って、ダッカーの首領が言うのもねえ……
その後、漸く最初の殺人事件が起きるが、

それは嵐子でも小雪でもなく、何故か殺人を依頼した筈の霧子であった。
……
うーむ、さおりさんがこんな無残な死に方をするとは。

小雪「お姉さま、お姉さま!」
その死体に取り縋って悲痛な声を上げる小雪。
しかし、無論、これは紅フォックスの仕業なのだろうが、なんで霧子を殺さねばならんのだ?
ダンディハリーを天一に仕立て上げる計画が進行中なのだから、わざわざ霧子を殺す必要はないと思うのだが?
たとえば、天一がニセモノであることに気付いたとか、何らかのきっかけが欲しかったところだ。
あるいは、実は嵐子(小雪でも可)も、同じように姉妹を殺して欲しいと紅フォックスに頼んでいた……などというどんでん返しもありえたのではないかと思う。
CM後、矢継ぎ早に、今度はスケキヨことニセ天一が、頭から血を流して屋敷の庭に倒れているのが発見される。
いうまでもなく自分への疑いをそらすための偽装だったが、

小雪「しっかりして、大丈夫?」
純真な小雪は本気で心配し、その体に抱きついて泣きじゃくる。
その華奢な肩を安心させるように叩きながら、
スケキヨ「だいじょうぶです、いきなり後ろからやられて……」
そう言えば、このスケキヨが殴打されて倒れているのを発見されるというのも、「犬神家」のパロディになってるんだよね。
さすが後に中井貴一主演の「犬神家の一族」のシナリオを書いている長坂さんである。
あんまり面白くなかったけど。

小雪「ごめんなさい、私が天一兄さんになってなんて頼んだばかりに……私、こうなったら、もう何もかも警察に話します」
スケキヨ「ま、待ちたまえ!」
小雪「?」
小雪の言葉に、思わず狼狽するスケキヨに、怪訝な顔をする小雪。
そばで聞いていた早川は笑いを浮かべると、

早川「少しばかり勝手が違ったようだな、傷もないのに手品で血を出して見せるとは、ごくろうなことだと言ったのさ」
そう言って、胸倉を掴んで無理矢理スケキヨを立たせる。
……
いや、だから、そんなの手品じゃねえだろ!! 包帯の上から血糊を塗りたくるだけなんだから。

早川「えっ、ダンディハリー!」
小雪「ダンディハリー?」
ずばり正体を指摘されて、スケキヨことダンディハリーは包帯の穴から覗く目で早川をねめつけていたが、

ダンディハリー「さすがだぜ、早川!」
その手を振り払うと、自ら包帯を外して割とあっさり素顔を見せる。
小雪「それじゃ最初から私を騙すつもりで……」
ダンディハリー「あんまりチョロいんで張り合いがなかったぜ」
小雪「ああっ!」
ショックのあまり、両手で顔を覆ってその場にしゃがみこむ小雪。
ダンディハリー「早川、今度会うときには命を貰うぞ!」
一話で二回も捨て台詞を残して去って行くダンディハリー。ちっともダンディーじゃない。
その後、早川は警察署に東条を訪ねる。
早川「頼んどいた、ダンディハリーの指紋の結果、出たかい?」
そう、早川は、お守りについたダンディハリーの指紋の照合をマブダチの東条に頼んでいたのだ。
これも、「犬神家」で、スケキヨが手にした金時計から指紋の採取しようとしたくだりをなぞっているのだ。

東条「出た、驚くべき結果だな」
早川「と言うと?」
東条「誘拐される前の天一君の手形とこのお守り袋に付着していた指紋は全く同一のものだ」
早川「すると?」
東条「結論はひとつだ、ダンディハリーは小雪さんの正真正銘の兄さんの天一君と言うことになる」
早川「やはり、そうか、偶然にしては腕のホクロが一致し過ぎると思ったんだが、あの二人が実の兄妹となると……」
そう、天一に化けたつもりのダンディハリー、知らず知らずのうちに本物の天一を演じていたのである!
ま、正直、今回本格ミステリーらしさが感じられるのは、この意外性だけである。
ちなみに昔取った手形によって指紋を照合するというのも「犬神家」から来ていることは言うまでもない。
早川が大神家に赴くと、何故かいつまで経っても死なない嵐子が飛び出してきて、小雪がダンディハリーに呼び出されたと血相変えて告げる。
その小雪、なかなか立派に成長したおっぱいを震わせながら疾走し、道を跨いで掛けられた高架道路の下でダンディハリーと会う。
で、何のためらいもなくその胸に飛び込んで嗚咽するのだが、いくら恋愛感情を抱いているからって、自分を騙した男に示す態度としては、やや不自然であろう。
たとえば、ダンディハリーが悔悟の情を見せて、小雪に謝罪した後とかなら分かるんだけどね。

それはともかく、これ幸いとばかりに、ハリーは短剣をしがみついている小雪の体に突き刺そうとするが、早川の声がそれを止める。

早川「ハリー、そんなことはしないほうがいい」
ダンディハリー「早川」
早川「いくらお前さんでも実の妹さんを殺しちゃ、寝覚めが悪いってもんだぜ」
ダンディハリー「なにぃ?」
早川の言葉に思わず互いの顔を見合わせる二人。

ダンディハリー「今なんと言った、早川?」
早川「お前さんが本物の天一君だと言ったのさ」
小雪「えっ」
ダンディハリー「まさか」
早川「警察が指紋の一致を証明してくれたよ。三つの時に攫われたことは覚えちゃいないだろうがな」
ダンディハリー「俺が? 嘘だ、嘘だーっ!」
激しいショックを受けたダンディハリー、顔を歪めて叫びながら、小雪を打ち捨てて反対側に走り去る。
と、入れ替わりに紅フォックスたちがあらわれ、たちまち早川を撃ち殺すと、小雪に迫ってくる。
紅フォックス「ダンディハリーが本物の天一と分かった以上、ダンディハリーと我々のつながりを知っているものは気の毒だが死んでもらうほかはない」
小雪「ああ、いやははっ!」 いやぁ、怯える美女の顔は色っぽいですなぁ。
でも、早川さえ知っていたのだから、ダンディハリーが紅狐党の用心棒だということは警察だって知ってるんだろうから、小雪の口を封じても意味ないような……

小雪「いやっ、放して!」
紅フォックス「ぐぇっへっへっへっ」 部下に小雪を押さえさせ、完全なセクハラ親父の顔になって小雪に迫る紅フォックス。
これも、部下がマシンガン持ってるのに、素手で近付く意味が分からないのだが、ま、多分これは紅フォックスの個人的な趣味によるものであろう。
だが、
残念ながら、幸いにも、紅フォックスのお楽しみの時間は、いつの間にかズバットに変身してズバッカーで突っ込んで来た早川のために阻止される。
ズバット、手下を片付けてから紅フォックスに迫るが、そこへ再びダンディハリーがあらわれ、紅フォックスを守ろうとする。

ズバット「ダンディハリー、自分の妹を殺そうとした奴を味方する気か?」
ダンディハリー「俺には親も兄弟もいねえ!」
ズバット、ダンディハリーをなじるが、

ハリー、構わずに手榴弾を雨あられと投げ付ける。
……
だから、これの何処が手品なんだーっ? ちなみに、ハリーの投げる手榴弾の数と比べて、明らかに爆発の数が少ないです。
ま、一応、少し遅れて同じくらい爆発するんだけどね。

あと、ハリーの後ろで耳に栓をしている小林勝彦さんが、めっちゃ楽しそうであった。

ダンディハリー「俺の勝ちだな」
ズバット、ハリーのところまでジャンプするが、ハリーはマシンガンを取り出してズバットに向ける。
だが、その時、足元から再び小雪の声が飛んでくる。
小雪「やめて、お兄様!」
ダンディハリー「むっ」
小雪「お兄様、やめて!」
ダンディハリー「……」
小雪「お願い、悪いことはしないで! お兄様ぁっ!」
ダンディハリー「ぐううっ」
どうせなら
「お兄ちゃん」と呼んで欲しかったハリー、苦しそうな顔で唸っていると、その隙にズバットにマシンガンを蹴り飛ばされる。
なおもズバットに襲い掛かるダンディハリーを止めようと、小雪が取っ組み合いをしている二人の上に覆い被さる形になるが、ここで、マシンガンを拾った紅フォックスが、三人まとめて射殺しようとする。
ダンディハリー「小雪、あぶない!」
小雪「お兄様!」
ダンディハリー、咄嗟に自らの体で小雪の盾となって蜂の巣にされると、斜面を転がり落ちていく。
小雪「お兄様!」
ズバット「おのれ、許さん!」
ズバット、マシンガンの弾をムチで払い落とすという、冗談みたいなことをすると、紅フォックスの首に巻きつけ、何度も宙に投げ飛ばしてから、いつものクエスチョンタイムとなる。

ズバット「2月2日、飛鳥五郎という男を殺したのは貴様か?」
紅フォックス「知らん~」
ズバット「では誰だ?」
紅フォックス「知らん、知らん、俺はその頃、シシリー島でスパゲッティを食べていたんだっ!」
いつものようにおバカな返答をする悪をズバットアタックで成敗するズバットであった。
しかし、同じ月か翌月ならともかく、7月にもなって2月の特定の日に何をしていたかなんて、覚えてる奴ぁいないよね。
ま、それを言うなら、こんな口頭尋問だけで犯人かどうか決めちゃう早川も早川なのだが。
ちなみに早川が残す「ズバットカード」には、「極悪殺人犯人」って書いてあるんだけど、紅フォックスが殺した(実際に手を下したのかどうかは不明)のは霧子だけなので、さすがにちょっと言い過ぎじゃないかと思う。しかも、最初に殺人を持ちかけたのは霧子本人なのだし。
ラスト、

早川「小雪と嵐子は、父・与右衛門と、姉・霧子、そして兄・天一の冥福を祈りつつ、仏門に入った。残された50億円の遺産は姉妹の計らいで全て施設に寄付されたのである……」
唐突に、二人が揃って剃髪して尼さんになっちゃうという、時代劇みたいなオチで終わりです。
いや、何も尼さんにならなくても……
あと、坊さんって大体お金持ちだよっ! 非課税だもんっ!
以上、「犬神家」のパロディーとしては良く練り上げられてはいるが、ミステリードラマとしては、トリックらしいトリックもなく、ダンディハリーの正体を除けば意外性に乏しく、今ひとつの内容であったし、紅フォックスが何のために霧子を殺したのかはっきりしないままなのも不満である。
これなら、これも名作ミステリーのパロディーである28話「そして、誰も居なくなる」のほうがよっぽど面白い。
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