第29話「カイメングリーンは三度甦える」(1973年1月27日)
良心回路の設計図を巡る三連続エピソードの最後である。
前回のラスト、トラックの荷台に乗って東京に向かっていたマサルと、それを光明寺博士の運転するタクシーで追跡していたカイメングリーンの人間態であったが、既に冒頭から東京に到着して、追いかけっこを繰り広げている。
前回も言ったけど、「悪の組織」の怪人がタクシー使うなよ。
金払うときに「領収書ください」って言ってるところを想像しちゃうだろ。
ちなみに自分の息子を追いかけている悪漢の手伝いをそれと知らずにしてしまった光明寺博士だったが、相手が悪人だと気付いて少し邪魔するだけで、ストーリーにはほとんど関与しない。

ミツ子「いないわ」
ジロー「あのトラックが東京行きだったことは確かだ」
ミツ子「ここだと思ったのに……」
同じ頃、ミツ子とジローはかつてミツ子たちが暮らしていた実家に帰っていたが、そこにもマサルの姿はなく、いささか途方に暮れていた。
前回、ちょっとした行き違いから、マサルは自分がミツ子たちから疎外されているように感じており、単独行動を取っているのだ。
ミツ子「私のせいだわ、私さえあんなことしなけりゃ……」
ジロー「そんな風に思っちゃいけない。いくら自分を責めたってどうにもならない」
ミツ子を励ましたいのか、それとも突き放したいのか、やや分裂気味の言葉をかけるジロー。
ところで、番組開始以来、何度かミツ子たちはこの家に来てる筈なのだが、帰るたびに、まるで5年も10年も放置されてきたかのような状態なのは、どう考えても変である。
さて、マサル、半平に買ってもらった赤い靴を履いて公園を逃げ回っていたが、向こうから大柄な警察官と鉢合わせする。

警官「どうしたら、ぼうや、まるで人殺しに追っかけられた顔だぞ」
マサル「ダークめ」
警官「ぼうや、ダークに追われてるのか?」
マサル「来るな、もう騙されないぞ」
マサル、その前にも派出所に逃げ込んで警官に助けを求めているのだが、その警官はアンドロイドマンの化けたニセモノだったので、てっきりその警官のこともダークの一味だと思って警戒する。
警官「ダークに追われているなら一緒に来なさい、安全なところまで保護してあげよう」
警官はそう言ってマサルに近寄るのだが、一般の警官がダークのことを知っているのは逆に怪しく、マサルはその手を逃れて走り出す。
と、その行く手にカイメングリーンの人間態がいて、すぐに本来の姿に変わる。
前後から挟み撃ちにされて、マサル、一巻の終わりかと思われたが、

警官「おい、坊やから離れるんだっ」
駆けつけた警官がそう叫んで銃を向けたことで、彼が本物の警官だったことが分かる。
本物っぽい警官がニセモノで、ニセモノっぽい警官が実は本物だったと言う、視聴者の意表を衝く、優れたシナリオである。
カイメン「バカめ、そんなおもちゃがカイメングリーンに通用するかっ」
バキュゥンッ!
通用した。 カイメン「あれ……?」
警官「日本のポリスマンを舐めるんじゃねえっ!」
……と言うのは嘘で、
カイメン「えーっへっへっ、こっちから行くぞぉ」
体から火が出ているにも拘らず、カイメングリーンは涼しい顔で反撃に転じ、特殊な粘液を警官の顔に吹き付け、その体をどろどろに溶かしてしまう。
ヒラの巡査なのにダークのことを知っていたことと言い、射撃の腕前と言い、なかなか優秀な警官だったと思われるのに、あまりに救いのない死に様だった。
マサル、なおもしつこく追いかけてくるカイメングリーンの目を逃れて、植え込みの陰にまるまって隠れていたが、反対側からやってきた半平がそれに気付き、

半平「あんなところでかくれんぼなんかしちゃって……マサル君、おい、マサル君!」
無神経に大声で呼びかけて、カイメングリーンの人間態の注意を惹いてしまう。
マサルが身振り手振りで静かにしてくれと頼むが、半平は絶望的なまでに察しが悪く、
半平「今度はブロックサインごっこか? はっはっはっ、しからば我輩も伊賀流で参るかな?」

半平「よっ、はっ、ほっ、どっこいどっこい」
マサル「……」
いかにも嬉しそうにニンマリすると、珍妙な動きと掛け声を発しながら、ゆっくりマサルのほうへ近付いていく。
マサル、手元にマシンガンがあれば躊躇なく半平を撃ち殺していただろう。

カイメン「……」
だが、その、敵も味方も理解不能の半平の行動に、カイメングリーンも戸惑ったような顔で半平と同じような動きをしてしまう。
潮健児さんのとぼけた味が良く出ているシーンだが、この人間態、顔のインパクトに比べて言動が全体的に地味なので、もうちょっと弾けたキャラにしても良かったような気がする。
色々あって、マサルは公園から飛び出して車道に出て、走ってきた車に轢かれそうになるが、
カオル「助けてあげる。乗んなさいよ、あのチンドン屋に追われてるんでしょ?」
急停止した車の後部座席から、マサルより少し年上の女の子が出てきて、半ば強引にマサルを車に乗せて、あっという間に走り去ってしまう。

カイメン「おい、チンドン屋、あの小僧は何処行った?」
半平「いや、あっち」
前述したように、光明寺に邪魔されて手間取ったカイメングリーンがやってきて尋ねると、半平はダークとも知らずにあっさり教えてしまう。
つまり、カオルと言う女の子はサイケデリックな服を着た半平のことを悪人、それもチンドン屋だと思ってしまった訳である。
なお、言い忘れたが、カイメングリーンが執拗にマサルを追っているのは、その靴の中に良心回路の設計図が隠されているからなのだが、元々その靴を買ってきたのは半平な訳で、この三部作では、知らず知らずのうちに話をややこくしている半平なのだった。
半平「ちょっと、ちょっと、あんた誰、松下さん?」
カイメン「うるさいっ」
ところで、その後に半平が口にして潮さんにぶっ飛ばされる「松下さん」と言うのは、一体誰のことを言ってるのだろう?
当時、似たような顔or服装をした人が、世間の話題になっていたのだろうか? まだ生まれてもいなかった管理人にはさっぱり見当がつかないが……
さて、しばらく車が走ったところで、カオルがおもむろに口を開く。

カオル「当ててみましょうか、あんたが何で逃げてきたか? あんた、家出してきたんでしょ?」
マサル「家出ー?」
カオル「隠したって、ダメ、ちゃあんと分かるんだから……私だって分かるんだ、大人って本当に無理解……私なんて毎日学校に行くのにこの通り車つきなんだもん、あんたの気持ち、良く分かっちゃうわ」
大人びた口調で大人の無理解を嘆きつつ、一方的にそう決め付けてしまうカオル。
かなり良いところのお嬢様のようだが、お嬢様らしく強引で自分本位の性格のようであった。
カオル「そうだ、私も一緒に家出しちゃおうかしら」
マサル「君がー? 運転手付きの自家用車でか?」
突飛なことを言い出すカオルをマサルが皮肉るが、カオルは意に介さず、
カオル「なんでだっていいでしょ、いい、あんたを助けてあげたのは私なのよ。青木、そこで曲がって……私、家出することに決めたの」
青木「お嬢様、家出だなんて……」
カオル「言う通りにして!」
カオルの性格からして、逆らっても無駄だと思ったのか、運転手はやむなくハンドルを切る。
レギュラーキャラを助けるゲストヒロインを、ただ善良で優しい女の子にせず、ちょっと自分勝手で気まぐれなキャラクターに設定するあたり、長坂さんの面目躍如と言った感じだが、それも、カオルを演じる斉藤浩子さんの演技力と魅力があってこそなのを忘れてはならない。
カオル「助けたお礼になにくれる?」
マサル「え?」
カオル「その赤い靴、あんたには似合わないわ」
その途中、カオルがマサルの履いている女の子用の赤い靴を欲しがり、かわりに、マサルの為に新しい靴を買ってやる。
もっとも、カオルはすでに靴を履いているのだから、わざわざ人の履いていた靴を欲しがるというのはやや不自然だが、ストーリーの都合上、仕方あるまい。

次のシーンでは、早くも富士五湖のひとつ精進湖のほとりや、雄大な富士山に抱かれた牧場を手を繋いで駆け巡っている二人の姿が映し出される。

カオル「大自然、素敵だわ、あんたごみごみした東京に比べたらこっちのほうがずっといいわよね」
マサル「僕、姉さんと喧嘩してきたんだ」
カオル「私だってよ、家中の人といつも喧嘩してるわ。パパもママもお兄ちゃんも、大人なんて大っ嫌い。ね、そう思うでしょ?」
マサル「うん、僕、ジローも姉さんも嫌いだ」
カオル「やっぱり若者同士、話が合うわね」
周囲の人間に対するネガティブな感情を再確認して、すっかり意気投合する二人。
カオル「大人って自分勝手なのよ」
マサル(お前が言うな) もっとも、続けてカオルが発した言葉には、思わず心の中でツッコミを入れてしまうマサルだったが、嘘である。
マサル「そうさ、自分たちのことしか考えてないんだ」
カオル「そのくせ私のこと我儘だ我儘だって言って、私、パパやママに思い知らせてやりたいの」
マサル「でも僕は、家出するときは家の車や運転手は使わない」
カオル「あら、ばかね、子供は運転しちゃいけないのよ」
マサルがしつこくその点を強調するが、カオルは減らず口で切り返す。
長じれば、なかなかお似合いのカップルになったのではないかと思う。
まあ、斉藤さんのほうが三つも年上なんだけどね。
そのうち「子供だけの世界に行こう」などと、ロマンティックなことを言い出す二人。
だが、なんだかんだでお嬢様育ちのカオルは体力がなく、少し走っただけでマサルにおんぶしてくれと言い出す。
マサル「僕が?」
カオル「決まってるでしょ、あんたのほかに誰もいないじゃない」
相変わらず高慢なカオルであったが、

カイメン「ここにもいるぞっ! うぇーへっへっへっへっ」
カオル「助けて! パパ!」
カオルの台詞に応える形で、丘の向こうからカイメングリーンがあらわれ、笑いながら追いかけてくる。
うーん、ここは、潮さんに変質者っぽく迫って欲しかったところだが……
カオル「バカ、バカ、マサル君、あんた男でしょ?」
マサル「早く逃げるんだ」
カオル「疲れたって言ってるでしょ。逃げるんならおぶって逃げて」
こんな状況でも我儘の言い放題のカオル……将来、どんなピッチな女子高生になるか、末頼もしい逸材である。
CM後、カイメングリーンや戦闘員たちに取り囲まれて進退窮まる二人であったが、そこへ例によって例のごとく、ジローの物悲しいギターの音色が、草原をわたる風と共に聞こえてくる。
続いてサイドカーに乗ったジローが突っ込んできて、マサルたちを助けてから、キカイダーに変身して精進湖のそばでカイメングリーンたちと激しく殴り合う。
キカイダーの攻撃でまたしても五体バラバラになるカイメングリーン。
だが、ジローがさっきの場所に引き返すと、既にマサルたちの姿も消えていた。

ジロー「すいません、このへんで、二人の子供を見かけませんでしたか?」
実に奥床しいタイアップ撮影をまじえつつ、マサルたちの行方を捜索するジロー。
まあ、今回はホテル内での撮影などはないから、タイアップもこのくらいで十分だと言う判断なのだろう。

ジローの心配をよそに、二人は湖の岸辺に置いてある遊覧ボートの陰に身を潜めて、ジローの様子を窺っていた。
カオル「どうするのよ、出て行きたいんでしょ、ちゃんと顔に書いてあるわ」
カオル、マサルの心を見透かしたように言うが、
マサル「君だってさっきパパって呼んだの知ってんだぞ。もううちが恋しくなったんだろう?」
マサルもすかさずカオルの痛いところを突いて言い返す。
この二人の会話は書き写していて実に楽しい。
カオル「誰が? ははーん、あんた、自分にパパがいないから妬いてンのね」
マサル「お父さんはどっかで生きてる」
カオル「行きましょう。大人の助けは借りないわ」
そう言ってその場を離れる二人であったが、

カオル「う、うーん……」
次のシーンでは、ちゃっかり大人の運転する車で移動しているというのがいかにも子供らしい身勝手さで可愛いのである!
カオル「疲れたわぁ、あんたのお陰よ」
マサル「僕の? どうして」
カオル「この靴のせいよ、だから疲れたのよ」
何が何でも人のせいにしたいカオルは、自分で欲しがった赤い靴を脱ぐと、足元に放り投げてしまう。
カオル「あんたの住んでた昔の家、行きましょう、いまから」
マサル「子供の世界探すんじゃなかったのか」
カオル「それは明日からの話……青木、この子に道を聞いてそっちに回して……青木、聞いてるの?」
カオルが横柄に指示しても何の返事もないので重ねて尋ねると、

カイメン「ああ、聞いてるよ」
いつの間にか、運転手がカイメングリーンの人間態に摩り替わっているではないか。
カオル「あんた、だぁれ? 早く下ろして!」
直前までのえらそうな態度は何処へやら、たちまち野ウサギのように怯えまくるカオルであった。
だが、またしてもカイメングリーンの邪魔をしたのは、半平であった。
反対側から走ってきたスバル360と危うく衝突しそうになる。
カイメン「また現れたなチンドン屋」
半平「またお会いしましたね、くふふ」
カイメングリーンが半平の襟首を掴んでいる隙に、二人はさっさと車から降りて逃げ出してしまう。
カイメングリーンが追いかけて行った後、半平は車内に赤い靴が投げ出してあるのを見て、その中から設計図を取り出す。
半平はそこに設計図が隠されていることは知らない筈なのだが、多分、あとでジローかミツ子に教えてもらったのだろう。

半平「やっぱし!」

半平「どうしよう、どうしよう、我輩が狙われる番だ」

半平「こんな設計図なんか捨てちまえ! と行きたいところだが、ミスター・ジローのためを思えばそうもいかず」

半平「かといって持ってれば我輩の危機、どうしようどうしよう?」
設計図を手に独り言を言いながら、車の横をうろうろする半平と、その後ろに潜んでいる戦闘員たちがその動きに過敏に反応して隠れたりあらわれたりすると言う、極上のギャグ。
その後、マサルたちは昔住んでいた家に駆け込むが、そこでやっとミツ子と再会を果たす。
で、色々あって、設計図はカイメングリーンの放った炎であえなく燃えてしまう。
ミツ子「設計図が……」
それを見てミツ子が嘆くのは分かるのだが、

カイメン「しまったぁっ!」
カイメングリーンまで悔しそうに叫ぶのは、どう考えても変である。
何故ならダークの目的は、良心回路の設計図を手に入れることではなく、それがミツ子たちの手に渡るのを阻止することにあるのだから、これで完全に任務を果たしたことになるからである。
もっとも、ギル自身は設計図を奪えとか言っていたようだが、ダークにとっては百害あって一理なしの良心回路の設計図を手に入れて、一体どうするつもりだったのか?
たぶん、何も考えずに脊髄反射で「奪え」って言ってたんじゃないかなぁ。
ともあれ、ヤケクソになったカイメングリーン、ミツ子たちを皆殺しにしようとするが、そこでまたまた何処からかギターの音が聞こえてくる。

半平「何処だ?」
戦闘員「何処だ?」
ここでも、半平と戦闘員たちが戦うのをやめて一緒にジローの姿を探してうろうろして、

半平「あ、あそこだっ」
最初に気付いた半平が、隣の戦闘員の肩を叩いて親切に教えてやると言う、大変麗しくも爆笑モノのシーンが出てくる。
こういう、確信犯的なギャグ描写が、「仮面ライダー」では見られない「キカイダー」の特徴のひとつである。

で、ジローが立っていたのは、かなり高さのある裸木のてっぺんという、珍しい場所だった。
さすがにこれはスタント……だと思うのだが、遠目には伴さんにしか見えない。
ともかく、ここからラス殺陣となる。
たぶん通算5回目か6回目だと思うが、またしてもバラバラされるカイメングリーンであったが、油断してバラバラの状態のままキカイダーに襲い掛かったところを、「デンジ・エンド」を食らって今度こそ木っ端微塵に粉砕される。
薄々そうじゃないかと思っていたが、カイメングリーン、やっぱりただのアホだった。
ラスト、ミツ子はジローに良心回路の設計図を手に入れらなかったことを詫びるが、ジローはむしろ清々したような顔で、
ジロー「いいんだ、もし僕の良心回路が完全なものになったら、僕は人間以上の機械になってしまう。僕は少しでも人間に近いところにいたい」 ミツ子「ジロー……」
どうしてあんなにも完全な良心回路を拒んでいたのか、その本当の理由を打ち明けるのだった。
要するに、何度も口にしてきた「関係のない人を巻き添えにしたくない」と言うのは、ただの言い訳に過ぎなかった訳である。

ジロー「マサル君、これからはミツ子さんから離れないでいてくれよ」
ジロー、マサルの肩に手を置いて優しく話しかけるが、マサルはその手を邪険に払う。
ミツ子「マサル、ジローはあなたのこととっても心配してたのよ。私なんかのことより」
マサル「ジローのも姉さんも嫌いだっ」
マサルの機嫌の悪さは、頑固な便秘のようになかなか治らず、そう叫んでカオルのそばへ駆け寄り、

マサル「僕は大人の助けなんて借りないよ。僕も君みたいに一人でやっていくんだ」
カオル「……」
雄々しく独立宣言するが、カオル、それまでの打てば響くような反応は見せず、居心地の悪そうな顔で目を伏せる。
やがて玄関先にタクシーが停まるのを見て、パッと笑顔になって走り出す。

カオル「パパ!」
父親「カオル!」
そして、降りてきた父親の胸に飛び込み、人目も憚らずワンワン泣きじゃくるのだった。
散々大人は嫌いだと言っていたが、所詮、カオルの強がりに過ぎなかったのは言うまでもない。
その様子をやや呆然として眺めていたマサルだったが、

マサル「姉さん!」
ミツ子「ごめんね」
自分もやせ我慢していたことを認め、姉の体にむしゃぶりついて、抑えてきた感情を爆発させるのだった。
こうして、やっとミツ子とマサルの関係も修復され、光明寺博士の行方は分からずじまいだったが、良心回路の設計図を巡る戦いに終止符が打たれるのだった。
以上、潮さんの無駄遣いと言う印象は受けるが、小生意気だが可愛らしいゲストヒロインの魅力がそれを補って余りある佳作であった。
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