と言う訳で、久々の美女シリーズのお時間でやんす。
今回の原作は「蜘蛛男」。乱歩の通俗長編としてはたぶん一番有名で、人気なのかな? まあ、代表作には違いない。蜘蛛男と呼ばれる変態快楽殺人鬼と、畔柳博士と言う民間の犯罪学者との戦いを描いたスリラー色の強い長編探偵小説で、道徳性の欠如した蜘蛛男のやりたい放題の活躍ぶりと、捜査サイドの底抜けのバカっぷりが印象に残る痛快作である。自分も何十回と繰り返し読むくらい好きだ。
終盤になってインドから帰ってきた明智が一気呵成に事件を解決するのだが、最初はまんまと殺人鬼に逃げられ、次には映画女優をおとりにして捕まえようとして逆に女優を殺されてしまうと言う、読んでて腹が立つほどのへぼぶりを晒しており、あまり威張れた話ではない。
ただし、このドラマは、原作の「蜘蛛男」が忠実に再現されているとはとても言えない脚色ぶりで、同じ乱歩の「悪魔の紋章」と足して二で割ったような内容になっている。
ま、「蜘蛛男」だけだと、殺人に動機がないので、スリラーにはなってもドラマにはならないとスタッフが判断したのだろう。
どうせなら、原作のラストに出て来た、
「たくさんの可愛い女の子たちを裸にひん剥いてムチでしばきまくる」と言う、素晴らしいシチュエーションを再現して欲しかったところだが……
前置きが長くなった。なお、1982年4月3日放送で、シリーズ18作目である。
冒頭、雨の中を助手席に小林少年を乗せて運転している明智さん。
明智「不思議と雨の日には犯罪が少ないものだ」うんぬんと言う、どうでもいいことをモノローグで語っているが、隣で小林君がぐーぐー寝てるのに、別に不愉快な顔もせずハンドルを握っているところが、明智の、いや天知先生の優しさを表現しているようで心が和む。
と、道端で傘を差して立ち往生している女性(無論、美人)を目ざとく見つけ、わざわざバックしてから、

明智「どちらまでいらっしゃいます?」
令子「あのー、神戸まで」 明智「おやすみなさい」
じゃなくて、
令子「あのー、四谷までですけど」
明智「良かったらどうぞ」
小林「どうぞ」
小林少年も目を覚ますと、気を利かせて後部座席に移動する。

助手席に美女を乗せて雨の中を走っている明智さん。
明智も令子もひたすら無言であった。
令子が自分のマンションの前で下ろして貰い、自室に入って化粧台の前に座ったところで、

タイトルが表示され、OPクレジットとなる。
「化粧台の美女」は、ここから来ているのだが、かなり強引である。
ヒロイン、令子を演じるのはシリーズのヒロインの中でもかなり地味な萩尾みどりさん。

クソでかいイグアナを腕につかまらせて目を剥いている中尾アキラ。

また、サブヒロインとして、今ではどえらい画家になっちゃった蜷川さんが参加している。

さて、本編は、新人女優の山際洋子(蜷川有紀)の大作映画のポスター撮りのシーンから始まる。
それにしても、間違ってもヒットしそうにないタイトルだ。

んぱっと言うように口を結んだり開いたりしながら口紅を塗っている洋子。
可愛い……

んで、その現場で洋子のメイクを担当しているのが、さっき明智が乗せた一色令子なのだった。
洋子「いやねぇ、蜘蛛に襲われる役なんて」
令子「でも、大作でしょ」

ほどなくスタジオでスチール撮影が開始される。

アフロヘアにサングラスの、いかにも分かりやすいカメラマンの求めに応じて、色んなポーズを取る洋子。
その様子を後方から見ていた令子さん、
令子(なんだ、このクソ映画……) と、心の中でつぶやくのでした。

だが、撮影の最中、その令子の背中をいつの間にか恐ろしい毒蜘蛛が這い回っていた。
令子は気付いて払い落とすが、蜘蛛に噛まれたのか、その場に昏倒してしまう。
もっとも、後の展開からして、実際に噛まれたのではなく、ただの芝居だった可能性が高い。
ちなみに、このカット、蜘蛛は本物だが、令子の体はマネキンのようである。
実際に女優さんが蜘蛛にとりつかれているシーンでは、つくりもの(剥製?)の蜘蛛が使われている。
ちなみに、原作に出てくる蜘蛛男は、別にこういう毒蜘蛛で人を殺すとかそういうキャラでは全然ないんだけどね。冒頭で普通のクモが浴槽に浮いていると言うくだりがあるくらいで、少なくとも毒蜘蛛なんかは、一切登場しない。蜘蛛のように、網にかかった美女をねちねちといたぶって殺すと言うイカレ具合から、そういう渾名がついてるだけなのだ。

それはともかく、なにしろ特殊な毒なので、令子は普通の病院ではなく専門家のやってる小さな個人病院へ担ぎ込まれる。
なお、原作では
畔柳だが、ドラマにおける表記は
黒柳になっている。また、原作では畔柳は犯罪学者だが、ドラマでは医者である。

さいわい、黒柳博士の適切な処置で、令子は一命を取り留める。
黒柳「良かった、もう少し首に近かったら危ないとこだったよ」
美奈子「ありがとうございました」
黒柳を演じるのは名優・山本學さん。
彼の言によれば、この蜘蛛はドクロ蜘蛛と言い、国内では横堀昆虫研究所にしかないという。しかも、横堀は、この冴えない映画の昆虫の監修もしているという。黒柳たちは、毒蜘蛛の出所を確認する為、横堀研究所へ向かう。
研究所にはたくさんの飼育ケースが積まれ、その中で、不気味な昆虫や爬虫類がうごめいていた。

所長の横堀京介を演じるのは、前述した中尾アキラである。
横堀は、令子を噛んだ毒蜘蛛のことなど知らないと否定する。

黒柳「しかし、君なら携帯用の安全ケースを使えば持ち出すことが出来る」
横堀「博士まで僕を疑ってるんですか? 僕はですね、一色令子なんて人は一面識もないんですよ。そんな人を何故殺す必要があるんですか?」
黒柳「しかし、日本でこのタランチュラはここにしかいない」
横堀「そら、きっと、誰かが盗んだんですよ」
プロデューサーや監督たちは横堀に強い疑いの目を向けるが、彼らは警察ではなく、何の証拠もないので、本人に否定されればそれまでで、結局引き下がるしかないのだった。

横堀「なあ、マキ、もう一度ヨリ戻してくれよ、頼むよ」
マキ「男らしくないわねえ、あなたとは綺麗に別れたんじゃないの」
夜、とあるクラブに行って、以前付き合っていたホステス・マキに言い寄る横堀だったが、けんもほろろに
拒絶される。
何故なら、横堀はあんまりお金を持ってないからである!

そこへ、いかにもスケベそうなオヤジが入ってくるが、
マキ「お待ちしてました~」
マキ、コロッと態度を変えて、そのおやじにしなだれかかる。
何故なら、そのオヤジは社長で大金持ちだからである!
で、そのおやじこそ、山際洋子の父親だったのだ。演じるのは、旗本寄合席・隠密同心支配・内藤勘解由の中村竹弥さん。
翌日、明智さん、文代さんの友人の結婚式でスピーチを頼まれたとかで、助手席に小林君を乗せて車を走らせていた。
明智「文代君はどこで拾うことになってるんだい」
小林「市谷ビルの前です。そこに一色令子の美容室があるんです」
明智「一色令子?」
小林「知らないんですか? 今評判のヘアドレッサーですよ」
と、小林君は言うのだが、なら当然その顔も知ってる筈で、続けて「ほら、こないだ乗せてあげた女性ですよ」って言いそうなもんだけどね。

そこへ、自動車電話に電話がかかってくる。
でも、これ、単に普通の電話を置いてるだけのようにも見えるのだが……

文代「あ、先生、文代です。すいません、まだ頭が終わってないんです。三階です、上がってきていただけませんか」
明智「ええっ、僕が美容室に?」
文代「たまにはいいでしょ、目の保養! お願いします」
明智「わかった」
どうでもいいが、運転中に電話するのは危険だよ!

助手に言われるがまま、のこのこと礼服のまま美容室の前までやってきて、窓から覗き込む明智さん。
どう見ても、結婚式を間近に控えた娘を迎えに来たパパである。

文代「先生、すいません!」
で、それに気付いて笑顔で立ち上がる文代さんも、まるっきり娘のようであった。

文代「こちら一色令子さん、ほんと言うとねえ、令子さん、どうしても一度明智先生にお目にかかりたいって仰るから」
令子「一色令子と申します」
文代「明智です……あなたは……」
文代さんに紹介されて一礼する明智さんだったが、相手の顔をよく見て、驚きの声を上げる。
令子「あの時の……いつぞやは大変ありがとうございました」
明智「いいえ」

文代「あらー、令子さん、先生知ってるの?」
令子「雨の日に車に乗せていただいたの」
文代「令子さんね、今度、山際洋子主演の映画でヘアドレッサーを担当するんですって」
明智「ほほう、そうですか」
文代「こちら、助手の美奈子さん」
美奈子「……」
文代さん、思い出したように、反対側の背の高い女性を紹介するが、美奈子は無愛想に一礼するだけ。
時間がないので、二人は早々に店を出るが、

文代「また怒ってる」
明智「ほえ?」
文代「美奈子さん、私が令子さんと親しくするとすぐ怒るのに、先生まで連れてきたもんだから」
明智さんの、このポカンとした顔が妙に可愛い。
ちなみに文代と令子だが、単に美容師と客と言うだけの間柄なのだろうか?
その辺の説明は一切ないが、ラストシーンから察するに、もっと以前から、たとえば大学時代からの親友だったのではないだろうか。

美奈子「毒蜘蛛のこと、言えば良かったんです」
令子「だってあれは口止めされてるでしょ? 私はただ憧れの人に一目会いたかっただけ」
そして、この美奈子と言う女性には、ある重大な秘密が隠されていたのだが、ドラマのストーリーにはほとんど関係がない。

次のシーンで、早くもマキの入浴シーンとなる。
言い忘れたが、演じるのはヌードOKの志麻いづみさん。
無論、これは、まだ本腰を入れて見ようかどうしようか迷っているお父さんたちを一本釣りする為のエサなのである。
湯船に身を沈めて幸せ気分に浸っていたマキであったが、既に何者かが音もなく部屋に忍び込み、浴槽に近付きつつあった。しかも、手にはタランチュラを入れた透明のケースを持っている。

あまりにお誂え向きと言えばお誂え向きだが、ここで、マキが湯船の中で立ち上がり、浴槽の角にちょこんと小ぶりのお尻を乗せる。
はっきり言ってかなり不自然なポーズだが、こうでもしてくれないと、犯人が、タランチュラを気付かれずにマキの体に這わせることが出来ないのである。

男はケースの蓋を開けると、ケースを振って、蜘蛛をマキの背中に投げつける。
うひー、虫が苦手な人には、文字通り背筋が凍る映像である。

背中に違和感を覚えてハッとするマキだったが、

まさか、そんな恐ろしい状況になっているとは露知らず、首を左右にねじ向けて自分の背中を見ただけで、気にせず入浴を続けてしまう。
いや、さすがに、そんなでかいもんが背中でわしゃわしゃしてたら、気付くよね?
やがて蜘蛛が胸の上に移動してきたので、鈍感なマキも慌てて払い除けるが、

マキ「何これ、どうしたの? あ、ああ、ああ……く、っは……」
既にタランチュラに噛まれてしまったらしく、たちどころに呼吸困難を起こし、苦しそうに喘ぎながら、喉を掻き毟り始める。

浴槽の中に正座する格好になり、尻フェチの管理人を散々楽しませてくれた後、

お湯の中に顔をつけた状態で、あえなく絶命してしまう。
女優さんって大変やわ~。
でも、よくよく考えたらかなりあてにならない殺人方法だよね。蜘蛛がそう都合よく刺してくれるとは限らない訳だし、その前に見付かって殺されたら、大損である。
その直後、パトロンの山際が、マキと逢い引きを楽しもうとマンションにやってくる。
エレベーターの前で、中尾アキラらしき男性と擦れ違った後、部屋に入り、マキの死体を発見しておったまげる。
なにしろ、地位も名誉もあるおやじなので、係わり合いになるのを恐れ、救急車も警察も呼ばずにとっととトンズラしてしまう。
帰宅した山際、グラスに琥珀色の液体をついで一気飲みする。

恵子「ねえ、お父様、どうしたのよ?」
洋子「変よ」
山際「疲れたから寝る」
娘たちもその態度に不審を抱くが、勿論、そんなことを話せる訳がなく、山際は逃げるように寝室に引きこもる。

洋子「珍しいわねえ、お父様が
みりんをストレートで飲むなんて」
山際「ブーッ!」 じゃなくて、
洋子「珍しいわねえ、お父様がウイスキーをストレートで飲むなんて」
恵子「何があったのかしら」
山際は男やもめで、二人の娘と三人暮らしだったが、姉の恵子を演じるのは、自分は最近まで気付かなかったのだが、「新ハングマン」で天知先生と(一応)共演している早乙女愛さんなのだった。
ま、なにしろ、出番は少ないし、あっという間に殺されちゃうからね。
その2へ続く。
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