第6話「恐るべき想像」(1974年11月17日)
「水もれ甲介」は、日本テレビ系列で放送されたコメディタッチのホームドラマである。全25話。
石立鉄男・ユニオン映画シリーズの第5作目に当たる。
つまり、いよいよ石立ドラマに取りかかろうと言う訳なのであります。
ただ、1時間のコメディドラマを全話レビューなどしていた日には、間違いなく死ぬので、厳選したエピソードだけを紹介していきたいと思っております。
で、えー、今までの粗筋だが、まあ、そのなんだ、読んでるうちになんとなく分かると思うので省略する。
その代わりに、レビュー初回なので、主要登場人物の紹介だけを最初にまとめてしておこう。
・三ッ森甲介(石立鉄男)……主人公。三ッ森家の長男。とある事情からドラマーの道を捨てて三ッ森工業所で働くことになるが、ヘマばかりしているので「水もれ甲介」と言う渾名を持つ。
・三ッ森輝夫(原田大二郎)……甲介の弟で、腕の良い配管工。
・三ッ森朝美(村地弘美)……甲介・輝夫の妹で、高校三年生。通称チャミー。
・三ッ森滝代(赤木春恵)……甲介たちの継母で、朝美の実母。
・酒井忠助(名古屋章)……酒井工務店のあるじ。甲介たちの親方にして良き理解者。
・酒井初子(岸ユキ)……忠助の長女。輝夫に惚れている。
・酒井敬一(白石淳)……初子の弟。
・大島竹造(谷村昌彦)……三ッ森工業所の職人。アル中。
・大島文子(春川ますみ)……竹造の女房。
・陰山まこと(川口晶)……13話から登場。三ッ森工業所の住み込み店員で、文子の姪。
・六郎(山本紀彦)……三ッ森工業所近くの酒屋の店員で、甲介たちの友人。
・樋口正次(東田真之)……三ッ森工業所に出入りしている材料屋のせがれ。
・中井銀子(永野裕紀子)……チャミーの親友。輝夫に憧れている。
・三ッ森保太郎(森繁久彌)……1話のみ登場。甲介たちの養父で、朝美の実父。
以上である。
では、いざ参る。
冒頭、酒屋の六ちゃんこと六郎が、材料屋のショウちゃんこと正次と道端で駄弁っていると、自転車に乗ったチャミーこと朝美がベルを鳴らして通り掛かる。

正次「よおっ」
朝美「こんにちは」
長い髪を風に揺らして爽やかに二人のそばを走り抜けていくチャミー。
チャミーと言うのは朝美の愛称なのだが、その名の由来は、シリーズ第1作目の「おひかえあそばせ」に出て来た猫の名前から来ているのである。
自分もごく最近知ったんだけどね。

六郎「どうでえ、あのすんなりした脚」
正次「髪の毛がイカすねえ、あの子は」
六郎「バカヤロウ、どこもかしこもだい! いやぁ、輝ちゃんが羨ましいなぁ」
六郎、前回、
「三ッ森朝美の処女を守る会」と言う、頭のおかしい会を立ち上げたほどチャミーに惚れ込んでいるのである。
もっとも、それっきり、会の活動状態が劇中で語られることはないのだが。
やがて、都電荒川線唯一の高架橋の下をくぐって、チャミーが事務所兼用の自宅に帰ってくる。
ちなみにこのドラマ、荒川線沿線の、雑司が谷や鬼子母神あたりが主な舞台となっており、路面電車がしょっちゅう画面に映り込むのだ。

朝美「ただいまー」

家の玄関先で仕事をしている兄たちの前で自転車を停め、ふわりとスカートを翻しながら降りるチャミー。
甲介「チャミー、お前、そんなスカートで自転車乗ってたのか?」
朝美「そうよ。どうして?」
甲介「どうしてって、お前……わかるだろう?」
朝美「やぁだぁー、だいじょうぶよ、誰かに覗かれたりするようなヘマしないわよーっ」
甲介「よーって……あいつ全くガキだな、まだ」
世話焼きの甲介は、いつになく短いチャミーのスカートを見て、兄らしく心配するが、チャミーは気にした風もなく言い返して家の中に入っていく。
ま、ほんとにチラが発生していたら、それこそ神回と呼ぶにふさわしい回になっていたであろうが、このDVDはあまり画質が鮮明ではないので、残念ながらスカートの中は何も見えず、絶望と言う名の暗闇が広がっているだけであった。
もっとも、こういうシーンでほんとにパンツが見えてしまっては話にならないので、仮にブルーレイの高精細画像で見たところで同じことだろうが。
それでも、最初の画像で、微かにだがスカート越しにチャミーのお尻のラインが見えるのが、尻フェチの管理人にとっては貴重なカットである。なにしろ、スクール水着にも、ハイレグレオタードにも、フンドシ姿にもなってくれない(当たり前だ)、身持ちの固いキャラクターだからね。
が、輝夫はさっきから心ここにあらずという感じで、ミニスカどころではなく、
輝夫「改めて聞くけどなぁ、俺たちほんとにオヤジの子供じゃねえんだな」
甲介「テル、まだそんなこと気にしてんのかよ? たとえねえ、今のお袋と血が繋がってなくても……」
輝夫「いやいや、そうじゃないんだって……」
甲介「なんだよ?」
輝夫「だから、念を押したまでだよ……チャミーと俺とは全くの他人同士か……」
甲介「えっ?」
輝夫「そうだよな?」
甲介「お前ねえ血は繋がってなくても妹は妹だぞ」
輝夫「うん、そりゃそうだよ。その通りさ」
なんとなく歯にモノの挟まった輝夫の様子に、あとで甲介は、ひょっとして、輝夫はチャミーのことを妹ではなく、女として意識し始めているのではないかと思い当たる。
ちなみに前回、輝夫は甲介から、初めて自分たちが亡き父の養子(軍隊時代の上官の孤児)だったことを知らされ、激しいショックを受けたのだ。
ただし、朝美はそのことを知らず、甲介と輝夫のことを腹違いの兄、つまり、父親の亡くなった先妻の子供だと信じているのだが……
つまり、輝夫とチャミーは表向きは兄妹でも、遺伝的には全くの他人なのであり、輝夫が妹であるチャミーに仄かな恋心を抱くと言うドキドキの設定が、このドラマの絶妙のスパイスになっている訳である。
もっとも、これはあくまで明るいホームドラマなので、二人が実際に肉体関係を結ぶなどと言う、大映ドラマのようなドロドロした展開には絶対ならないんだけどね。
OP後、輝夫が母親の滝代をつかまえて、台所の異様に幅が狭くてビニールマットを被せた昭和を代表する家具の上で、その話を蒸し返している。

輝夫「母さん、俺たちがオヤジの子供じゃねえってこと、知ってたのかい、結婚する前から」
滝代「ああ、知ってたよ」
輝夫「物好きだなぁ、母さんも」
滝代「そんなことどうだっていいじゃないのさぁ、もう、古い話なんだから」
輝夫「……」
滝代「ごめんよ、お前にとっちゃあ、古い話じゃなかったんだよね」
赤木春恵さんといえば、「渡る世間は鬼ばかり」の嫁イジメが生き甲斐のようなシュウトメのイメージが強いが、この作品では優しくて心の大きな、何事にも動じない、いかにも昭和のお母さんと言う役柄である。
二人はなおもあれこれ話していたが、二階からチャミーが降りてきたので慌てて話をやめる。
チャミーは何の話をしていたのか輝夫に尋ねるが、無論、話せる訳がないので世間話だと言って誤魔化す。
朝美「感じ悪いの!」
その後、今度は甲介と滝代がそのことについて土間で話していたが、なにしろ開けっぴろげの家なので、密談と言うことはほとんど不可能で、
滝代「こうなったら全部話しちゃおうか?」
甲介「ダメだよ、あの年代は物凄く傷付きやすい年頃なんだから! 受験に差し支えたらどうするんだよ?」

朝美「受験がどうしたの?」
気付けば、いつの間にか朝美が背後に立っており、疑惑の色をありありと目に浮かべて問い掛ける。
甲介「い、いや、あの、もうじきお前の受験が近いなって……」
朝美「……」
チャミー、家族が自分に何か隠し事をしているのを敏感に察し、不機嫌そうに物も言わずに買い物に出掛ける。
その後、輝夫がひとりで仕事に出た後、事務所の電話が鳴る。
甲介が出ると、この店唯一の雇い人であるタケさんこと竹造の妻・文子からで、今日は給料日だが、大酒飲みの竹造に渡すとたちまち飲み屋で使い果たしてしまうだろうから、竹造を適当に言いくるめて、給料は自分に直接手渡して欲しいと言う、家計を預かる主婦らしい頼みだった。

竹造「集金が遅れてるったってさぁ、俺の給料なんていくらでもねえじゃねえかよ」
甲介「あ、いや、だけどねえ、タケさんの給料だけじゃないんだよ、他の支払いも全て待ってもらってるんだよ。ねえ、母さん?」
滝代「え? ええ、ええ、あのね、だからさ、ちょっとの間辛抱しておくれよ。お金が入ったらすぐ払うからさ」
……と言う訳で、ほどなく店にやってきた竹造は、給料が貰えないと聞かされて、空気の抜けた風船のように萎んでしまう。
竹造、酒を飲むことだけが生き甲斐の完全なアル中なのだが、仕事の腕は確かなのである。
竹造「甲ちゃんよお、そんなにピンチなのか?」
甲介「やだなぁ、このうちの格好見てよ、オヤジのね、汗と血の結晶のこの店がだよ、潰れるかどうかの瀬戸際なんだよ!」
お人好しの竹造、甲介の口からでまかせをすっかり信じ込んでしまう。
まあ、それだけで済めば問題なかったのだが、そこへ材料屋の正次が集金に来たことから話がややこしくなる。

甲介「ショウちゃん、今日、材料持ってきたんだろ?」
甲介、正次の機先を制して話しかけるが、
正次「材料? ああ、新しいバルブね、あれは数を揃え次第持って来るよ。今日はね、金をもらいに来たんだけど……」
竹造「金? あ、だめだめ、ないよ、今月は払えないよな?」
甲介「あ、ああ……ショウちゃんさぁ、あとでオヤジさんに電話するからさ、今月待ってくんないかな」
甲介、竹造に調子を合わせて、その必要もないのに支払いの猶予を願う。
竹造「ちょっとじゃないよ、半年くらい先になる」
正次「半年? そ、そんな、そりゃないよ」
竹造「そんなって言うことあるかよ、ええ、10年来のお得意様に対してなんだよ、ピンチなんだよ、協力しろよ、お前!」
正次「ほんとかい、甲ちゃん?」
竹造「ほんとも嘘もあるかいっ」
こうなっては、甲介も会社の経営が上手く行ってないと認めるしかなくなり、正次もそれを信じてしまう。
さらに、正次は帰りがけ、初子に会ってそのことを話す。

初子「ほんと、それ?」
正次「ああ、参っちゃったよ、もう」
初子「おかしいわねえ、うちからの仕事だって先月より多かったくらいなのよぉ」
正次と別れた初子は、そこでチャミーに会い、さいきん家族の様子がおかしいと言う相談を受ける。
で、当然ながら、初子は、いま正次から聞いた話から類推して、三ッ森工業所の経営難がその原因ではないかと自分の考えを話す。
初子「みんなで金繰りの相談なんかやってんのよ」
朝美「そんなことならいつもしてるわ」
初子「でもさぁ、普通のピンチとはちょっと違うらしいわよ。だって、タケさんの給料も払えないんじゃさ」
朝美「えっ」
初子「潰れるかどうかって言う瀬戸際なんだって」
こうして、甲介がひょんなことからついた嘘が、尾鰭を付けて町内のあちこちに吹聴されることになる。
こういう、作為を感じさせない自然なエスカレーション描写は、メインライターである松木ひろしさんのもっとも得意とするところなのである。
その後、六郎が三ッ森家に集金に来るが、正次か初子からそのことを聞いたのだろう、親切心で支払いを猶予しようと言い出す。
甲介「いいよ、めんどくさいから払っとくよ」
六郎「無理すんなって甲ちゃん」
甲介「無理? 別に無理なんかしてねえよ」
六郎「隠さなくったってちゃんとわかってんだから」
甲介「隠す? 何を?」
六郎「商売柄早耳なんでね、ま、気落ちしねえでな、がんばんなよ、人生には曇る日もありゃ照る日もあらぁな」
六郎、柄にもなくカッコつけて甲介を励ますと、爽やかに去って行く。

甲介「はっはっ、俺が一体何を隠すってんだ、はっはっ……待てよ、おかしいな、あいつ、もしかしたら?」
六郎の早とちりに負けないくらい勘違いの得意な甲介は、六郎が三ッ森家の秘密を知ったのではないかと見当違いの疑惑を抱く。
甲介「おい、六、ちょっと待て、六!」
かてて加えて、甲介が町内一の喧嘩っ早い男だったのが、六郎の不運であった。
一方、買い物から帰ったチャミーは、台所のテーブルに座って、打ちのめされたように沈み込んでいた。
と、外出していた滝代が戻ってきたので、チャミー、慌てて立ち上がって何気ない風を装う。

滝代「母さんね、ちょっとタケさんのとこに行ってたもんだから」
滝代は、全ての発端となった竹造の給料を文子に手渡しに行ったのだが、朝美はそんなこととは夢にも気付かない。
滝代「ちょっと、いいからもう勉強してよ。入試が済むまでは台所に入らなくて良いって言ったろう」
朝美「私だけ特別扱いしないで」
滝代「何も特別扱いしてるわけじゃないわよ、大学へ入るまではね」
と、母親に背中を向けたまま、チャミーが消え入りそうな声でつぶやく。
朝美「私ね、お勤めしようかと思って……」
滝代「なんだってぇ?」

朝美「どうしても」
滝代「冗談だろ、朝美?」
朝美「女が大学行ったってどうってことないもん」
滝代「何言ってんの、今更、いいからさっさと勉強しなさい!」
滝代に厳しく言われ、チャミーは仕方なく2階の自分の部屋に上がる。
同じ頃、甲介は店にいた六郎のところに押しかけ、襟首掴んで誰から自分たちの秘密を聞いたのか力尽くで白状させようとするが、そこへ酒井のおじさんがやってきて仲裁に入る。
で、あれこれやってるうちに、やっと甲介は自分の誤解に気付き、六郎に謝ると共に、竹造の給料の一件を説明して大笑いとなるのだった。
一件落着したところで、六郎の店(と言っても、六郎はただの雇い人で、主人は梅津栄なのだが)でビールを酌み交わす甲介たち。

忠助「はっはっはっはっ、なんだよ、おい、危うく俺まで本気にするとこだったよー」
六郎「いやね、俺もおかしいと思ったんですよー」
甲介「いや、でもね、当たらずと言えども遠からずでね、別に金が有り余ってる訳じゃないんだから」
忠助「お前のところもこれからだよなぁ、甲ちゃんとテル坊と飛車角揃ったってところだし」
一方、真相を知らない朝美は、色んなぬいぐるみの置いてあるいかにも女の子らしい自室に閉じ篭っていたが、そこへ滝代から話を聞いた輝夫が、怖い顔して入ってくる。

輝夫「どうして大学諦めるんだ?」
朝美「馬鹿馬鹿しくなっちゃったのよ、だって、そうでしょう。試験の点を10点や15点余計に取ったからってどうってことないじゃないの。私は恋愛結婚するから、大学の卒業免状なんて嫁入り道具にする必要ないしね」
この
「大学の卒業免状が嫁入り道具」うんぬん、石立鉄男シリーズではしばしば耳にする言い回しである。
まあ、なにしろ50年近く前のドラマで、女性の進学率も今とは比べ物にならないくらい低い時代だったからね。
チャミーが突然そんなことを言い出したのは、自分が大学進学を諦めて就職することで、経営が苦しい三ッ森工業所の負担を少しでも減らそうと言う意図だったのは言うまでもない。

輝夫「おいおい、何を寝言言ってるんだ、つい昨日まではあんなに張り切ってたじゃないか」
朝美「昨日は昨日、今日は今日よ」
輝夫「何かあったな、どうしたんだ?」
朝美「前からそう思ってたもん」
ここで朝美が何もかもぶちまけていればあっさり誤解は解けていたであろうが、朝美は朝美で輝夫たちを気遣って、変心の本当の理由を言おうとしない。

朝美「私はね、早く世の中に出て実社会の勉強がしたいのよ」
輝夫「へっ、聞いたようなこというなよ、大学に行ったって、実社会の勉強ぐらい出来るだろう」
朝美「とにかくやる気がなくなったの」
輝夫「ダメだ、石に噛り付いてでもやれ」
朝美「私に命令しないでよ!」
輝夫「……」

朝美「私が働いたらもう扶養家族じゃなくなるわ、そうすると具合が悪いんでしょ、テル兄ちゃん、私にえばれなくなるからねぇ」
輝夫「チャミー……」
とても普段のチャミーとは思えないひねくれた言い方に、思わず絶句する輝夫。
朝美「誰にも干渉されたくないの、私だってもうガキじゃないもん、自分のことは自分で決めるわよ!」
輝夫「チャミー!」
しばらく朝美の顔を睨み付けていた輝夫、いきなりその横っ面を張ると、
輝夫「やめたきゃやめちまえ、意気地なし!」
朝美「……」
朝美、頬に手を当て目に涙を一杯溜めていたが、無言で部屋を出て行く。

輝夫「人の気も知らねえで……」
忌々しそうにつぶやく輝夫の目にも、後悔の涙が滲んでいた。
どうでもいいけど、若い頃の原田大二郎さんって、ちょっとオダギリジョーに似てるなと思いました。
一階に降りた朝美、そこで滝代に抱きついて訴えていれば問題も早期解決していたであろうが、朝美は滝代の前に立って嗚咽を堪えていたが、結局何も言わずに家を飛び出してしまう。
滝代「なんだろうねえ、穏やかに話すって約束だったのに……」
と、入れ替わりに甲介が帰ってくる。輝夫もすぐ降りてきて晩御飯となる。

滝代「朝美がいけないのさ、急にね、おかしなこと言い出したもんだから」
甲介「おかしなこと? 何を?」
輝夫「大学受けないって言い出したんだよ」
甲介「なにぃ、なんでそんなこと?」
輝夫「生意気な理屈こねてたけどさぁ、要するに勉強するのがイヤになったんだ、あいつは」
甲介「とんでもねえ奴だ、そんなことさせたら死んだオヤジに申し訳ねえよ。ようし、ぶん殴ってでも勉強させてやる!」
短気な甲介、たちまち鼻息を荒くさせるが、

輝夫「もうやっちゃったよ」
甲介「は?」
輝夫「だからベソ掻いて飛び出してったんだよぉ」
甲介「バカだな、お前! 女の子殴るなんて最低だぞお前は!」 たちまち前言を翻して輝夫を非難する。
なおもあれこれ言い合いを続ける二人を、滝代が卓袱台を叩いて黙らせる。
滝代「もういいって、たまには良い薬なんだから、お前たちに甘やかされるもんだからね、朝美もちょっと良い気持ちになってんだよ」
その頃、初子は父親の忠助から真相を教えられていた。

初子「え、嘘なの?」
忠助「そうよ、タケの前でちょっと芝居しただけよ」
初子「やだぁ、もう、すっかり本気にしちゃって……チャミーに話しちゃった私」
忠助「なんだって? まずいこと言っちゃったなぁ、そりゃ」
初子「だってえ、あの子が悩んでんだもん」
敬一「また早とちりか」
初子「またとは何よ」
敬一「いてえっ」
寝転んで漫画雑誌を読んでいた敬一が茶々を入れると、初子はそのお尻を思いっきり引っ叩く。
この敬一を演じている子役、白石淳さんと言うのだが、なかなかの美少年なのである。
初子「心配だなぁ、私、あとで様子見てくるわ」
敬一「上手いこと言っちゃってぇ、輝夫さんの顔見に行きたいんだろ、姉ちゃん」
初子「何よ、敬一、こら!」
敬一「助けてくれ、父ちゃん!」
こまっちゃくれたことを言ってからかう敬一を、手近にあった箸箱でポカポカ殴る初子を見ながら、

忠助「ははっ……色気もなぁーんもないんだね、お前さん」
初子「……」
しみじみした口調で自分の娘を品評する忠助であった。
ちなみに酒井家では早くに母親が死んでおり、長女の初子は母親代わりとして家事一切を切り盛りしているのである。
後編に続く。意地でも続く。
- 関連記事
-
スポンサーサイト