第6話「恐るべき想像」(1974年11月17日)
の続きです。
結局、朝美は晩御飯が終わっても帰ってこなかった。

甲介「さてと、風呂でも行って来るかな」
輝夫「そう、風呂だ、俺も行く」
甲介「何言ってんだよ、お前、俺と一緒に風呂行くのいやだっつってたじゃねえかよ」
輝夫「あれは兄貴が中で辺り構わず大きな声で歌歌うからだよ」
甲介「じゃあ後で来いよ」
輝夫「何言ってんだ、俺だって行きたいよ」
二人ががやがや言いながら画面から消えるが、そこに電話が掛かってくる。

滝代「もしもし……あ、どうも、いつも朝美がお世話になりまして」
甲介「チャミーか?」

甲介「ねえ、母さん!」
輝夫「母さん!」
チャミーと聞いた途端、いきなり甲介と輝夫が電話に向かって突進してくる。
なんとなく、「男はつらいよ」的な演出である。
石立さんを見てると、たまに寅さんを意識してるような演技をすることがあるが、やっぱり同じコメディアンとして渥美さんのことは気になっていたのではないかと思う。
「男がつらいよ」が始まったのと、石立鉄男シリーズが始まったのは、ほぼ同じ頃だしね。
滝代「銀子ちゃんのお母さんなの、朝美が行ってるらしいわ、まあ、申し訳ございません。はい、はい」
甲介「銀子ちゃんって誰だ?」
輝夫「ほら、
チビさ、友達の」
甲介「ああ、ミニサイズ……」
銀子が聞いたらショックを受けそうなことをさらりと口にする輝夫であった。
冒頭で紹介したように、銀子は輝夫に憧れに近い恋愛感情を抱いているのだ。
とにかく、朝美の行方が分かってホッとする甲介たちであった。

母親「はい、それでしたら今夜はうちにお泊めしてって銀子が申しますもんですから……あらっ、よろしいじゃございませんのぉ、明日お休みなんですもの……はぁ、それに、銀子もお勉強を見ていただけますし……いいええ、朝美ちゃんはほんとにお出来になりますわ。うちの子なんてもうまるでダメですわ。大学だってね、ほんの気休めに受けさせるだけですの」
滝代と話している、いかにも上品そうな銀子の母親。
銀子「あんなこと言ってやがらっ! うふふふっ」 母親の会話を自室のドア越しに盗み聞きしていた銀子、鼻息で吹き飛ばすように叫ぶと、チャミーのそばに戻ってくる。
銀子のうちはなかなか裕福らしいが、男の兄弟しかいないせいか、銀子は顔に似合わずぶっきらぼうな口調の女の子なのである。
無論、輝夫の前などではきっちり猫を被っているのだが。
そして、管理人がこの作品のレビューを行おうとした最大の原動力が、実に彼女の存在だったのである。

銀子「親に期待されない方が気が楽だけどさっ、ふふっ……そうかぁ、そんなにピンチだとは知らなかったなぁ」
あぐらをかいて、トランプをシャッフルしながらしみじみとつぶやく銀子。
彼女もチャミーから、三ッ森家の苦しい財政事情を聞かされているのだ。
朝美「ね、まだ間に合うかな? 来年の就職試験」
銀子「あ、そりゃ、高校出の女の子なら、娘一人に婿十人だもん」 ちょっとナニ言ってるか分からない銀子の台詞だが、当時は新卒の女性が企業から引っ張り凧だったのだろう。
銀子「ただし、一流銀行や商事会社の採用試験はもう終わっちゃってるだろうけどさ」
朝美「デパート
でもいいわ」
銀子「もったいないなぁ……みすみす」
うっかり、デパート業界に喧嘩を売るような台詞を吐いてしまうチャミー。
朝美「何も聞かないことにしてね、銀子」
朝美の頼みに、

銀子「うん……わかってる」

銀子「うふっ、こう見えたってね」

銀子「身持ちも口も、意外と固いんだからっ!」
表情をめまぐるしく変えながら、江戸っ子のようにさっぱりした気風(きっぷ)で請け負う銀子。
ああ、かわええ……
以前にも別の記事で書いたように、表情の豊かな女の子って、実に魅力的だよね。
そう言う点では、永野さんは村地さんより上だと思う。
朝美「家族の思いやりも良いけどさ、もっとざっくばらんに話してくれたほうが良いのに……どんな小さなことだって隠し事なんかされちゃ白けるもんね」
銀子「うんうん」
大変麗しい友情の二人だが、数年後、怒涛のごとき「横溝正史ブーム」に飲み込まれ、永野さんは劇場版「悪魔の手毬唄」で、絞め殺された上にぶどう酒の醸造樽の中に入れられ、村地さんはドラマ版「仮面舞踏会」で、凶悪な連続殺人犯を演じるハメになるのだが……
一方、甲介と一緒に銭湯に行った輝夫が、一足先に風呂から出てくる。

輝夫「あー、のぼせたー、風呂に入ったら入ったで入り過ぎ、洗い始めたら洗い始めたで隣の男の背中まで流してんだからなぁ……」
ぶつぶつぼやきながら下駄の音を響かせ歩き出す輝夫。
それだけで、甲介の性格が手に取るように分かる、見事な台詞である。
ちなみにこのシリーズにおいては、下町が舞台と言うこともあるが、だいたい主人公の家には内風呂がなく、銭湯と言う施設が色んな意味で必要不可欠な存在になっているのである。
と、そこへ初子がやってきて、物陰に輝夫を連れて行き、ごにょごにょ話す。
続いてやっと甲介が出て来るが、ちょうど、輝夫が初子の頬を引っ叩くのを目撃する。
輝夫「バカヤロウ!」
初子「なによ!」
甲介「どうしたの、ハッちゃん?」
初子「どうもこうもないわよ、ちょっと勘違いしただけじゃないのさぁ、あんな分からず屋だとは思わなかったわ!」
が、初子はチャミーと違って男勝りなので、泣くどころか散々悪態をついて帰っていく。
甲介「テル、どうしたんだよ?」
輝夫「またやっちゃったんだよ、今日はよくよく女の子についてないんだよなぁ」
輝夫、初子に事情を打ち明けられ、思わずカッとなってしまったのだ。
その後、忠助から甲介の家に電話が掛かってくる。

忠助「プンプン怒ってると思ったら、なんだか急にメソメソしやがってよ、あ? 気にするなって、てめえのそそっかしいのがいけねえんだから」
甲介「どうもすいません、明日改めてテルの奴に謝りに行かせますから」
輝夫「!」
そばで聞いていた輝夫、甲介が勝手なことを約束するのを聞いてムッとする。
電気を切った後、明日初子をメシにでも連れて行ってやれと言う甲介に、輝夫はあからさまに不満の色を示すが、

甲介「いや、ハッちゃんというよりもさぁ、おじさんに色々義理があるだろう、あのうちには色々迷惑かけっぱなしなんだから、そのぐらいしてやれよ」
輝夫「わかったよ」
甲介に義理人情を持ち出されてなだめられると、断るわけには行かなくなる。
この甲介の台詞が、実に「大人」な感じがして好きである。

滝代「でも、これでやっと朝美の気持ちが分かったよ。だってさあ、急に勉強が嫌いになるなんておかしいと思ったんだ、ふふ」
それはそれとして、やっと謎が解けて肩の荷を下ろしたような笑顔を見せる滝代。
輝夫「それならそうとはっきりいやぁいいんだよ、一言説明したら分かることなんだから」
甲介「まったくだよ、ガキの癖にすぐ気ぃまわしやがって」
滝代、ふと思い付いて立ち上がり、朝美に電話して安心させてやろうと言い出す。
甲介「ひとんちで寝小便なんかするなって言っとけよ」

朝美「まあ、失礼しちゃう、そんなこというのどうせ甲兄ちゃんでしょ」
その甲介の台詞を引き受ける形で、チャミーが中井家の電話口に出ている。
朝美「でも、それほんとなのね? じゃどうしてあんなこそこそ話してたのよ、三人で?」
滝代「そんなことね、お前の思い過ごしだよ。馬鹿馬鹿しい」
誤解だと分かって安堵する朝美、再び最初の疑問に立ち返るが、滝代はあっさり片付ける。
滝代「あのね、せっかくそう言って頂いてるんだから、今夜泊めて貰いなさいよ。これからも兄ちゃんたちの言うこと聞かなくちゃいけないよ、腹違いの妹をね、こんなに可愛がってくれる兄ちゃんたちはいないんだから」
こちらに背中を向けて懇々と朝美に言い聞かせている滝代の言葉に、

甲介「腹違いの、種違いだけどな……赤の他人だ」
輝夫「……」
ぼそっと真実をつぶやく甲介であった。
電話を切った朝美が、銀子の部屋に戻ってくる。
銀子「なんだって?」
朝美「別に」
……と、朝美はつれない返事をするのだが、さっき口止めまでしていたのだから、ここは銀子にも教えてやるのが筋だと思うんだけどね。
まあ、あれだけ深刻ぶって見せた手前、すぐに打ち明けられない気持ちは理解できなくもない。
銀子「ようし、じゃあ、勉強しましょうねえ、がんばろうぜい、ヒヒヒヒ」 勉強しようと言いつつ、全力でトランプをかき混ぜている銀子が可愛いのである!
でも、女子高生がお泊まりしてやることがトランプって……なんという素朴な時代だったのだろうか。
まあ、あくまでドラマの中での話であるんだけどね。

朝美「ね、カードなんかやめて勉強しようよ」
銀子「は?」
朝美「もう入試まで僅かよ、やらなくっちゃ!」
銀子「分裂症かい、チャミーは?」 さっきまでとは正反対の事を言い出すチャミーを見て、ぽつりと漏らす銀子が笑える。
しかし、今ではNGかな、この台詞?
その後、寝る前に甲介と輝夫がチャミーのことについてあれこれ話すシーンとなるのだが、野郎二人のパジャマ姿を貼るほどこっちは暇ではないので、全部カット。
翌朝の中井家。

銀子「顔洗っておいでよ、歯ブラシ出しておいてあげたからさ……くっさぁい、兄貴の奴、くぅー、くさいね」
チャミーに自分のパジャマを貸し、代わりに兄貴のパジャマを着て、そのニオイに顔をしかめる銀子。
そうなのである! 我々が見たいのはこういうシーンなのである! わかってるじゃないか、スタッフ!!
銀子「あ、ご飯食べ終わったらさ、家まで送っていくからさ」

朝美「ううん、いいわ、私、テル兄ちゃん迎えに来るまで待ってる」
両手を頭の上で組み、晴れ晴れとした笑顔を見せるチャミー。
うう、なんちゅう可愛らしさじゃ……
だいぶ以前に、このブログで貼ったことがあるけどね。

銀子「へーっ、電話掛かって来たのかい?」
この銀子の顔も、ほとんどカエルだが、めっちゃ可愛い。
朝美「電話なんかないけどさ、絶対に迎えに来るわよ。そう言う人なんだ、テル兄ちゃんて」
朝美が自信たっぷりに言って、うっとりした眼差しを斜め上方に向けるのを見て、

銀子「うわー、仲のいいこと、うちなんか見てご覧よ、兄貴が三人に弟が二人、おんなじうちの中にいたってさ、顔合わせることもないんだよ」
男物のパジャマの中でおっぱいの位置が安定しないのか、しきりに胸元をいじくっている銀子がめっちゃエロいのである!
ふっ、来るぜぇ、男物のパジャマ女子の時代がぁっ!(半世紀前のドラマだっての)
ちなみに銀子がこんな言葉遣いなのは、5人もの兄弟に囲まれて育ったせいらしい。
もっとも、銀子の台詞の中に出てくるだけで、実際に兄弟が出てくることは一切ないんだけどね。
同じ頃、初子も精一杯めかしこんで、輝夫が誘いに来るのを今か今かと待っていた。

初子「ねえ、今何時? ああ、時計忘れてきちゃった、それから靴ー、こないだ雨降りに履いたきりなんだ」
忠助「落ち着きなよー、何も見舞いにしに行くわけじゃねんだろー」
見兼ねて忠助がたしなめるが、
初子「ちょっと、妙なこと言わないでよ、彼がどうしてもって言うから断って恥かかしちゃ悪いと思って、仕方なく私は……」
忠助「うそつけー」

初子「じゃあやめるわ」
忠助「あ、そー、やめんの? あ、そうかい、やめた? そうかい、そうかい」
初子、売り言葉に買い言葉で、行かないと宣言してその場に正座するが、娘の扱いには慣れている忠助は、行けとも言わずに興味深そうに見ているだけだった。
今気付いたけど、初子って、典型的なツンデレだよね。
正直、美人とは良い兼ねる面相だが、そういうところがたまらなくいじらしく、可愛らしいのである。
13話から登場するマコちゃんことまこと(川口晶)も含めて、このドラマに出てくる若い女の子たちはみんなそれぞれ個性的で、実に魅力的な面子が揃っている。
そう言えば、川口さんも、「犬神家の一族」では、恋人を殺されて気が狂って馬鹿でかいガマガエルを抱くと言う、ひどい役を演じることになるのだった。
閑話休題、「やめる」と言いつつ、何度も腰を浮かして落ち着かない様子の初子であったが、そこへ正装した輝夫がやってくると、たちまち態度を変え、
初子「ちょっと待ってて、今髪梳かして来るから!」
頬を上気させて奥にすっ飛んでいく。
忠助「ざまあねえや」
輝夫「怒ってんのかい、まだ」
忠助「とんでもねえよ、今朝からもう盆と正月が一緒に来たみたいな大騒ぎなんだよ」
輝夫「そう……あてにされるほど旨い店かどうかよくわかんねえんだけどなぁ」
モテる割りに女心に疎い輝夫は、忠助の説明にピントのずれた発言で応じる。
輝夫と初子は幼馴染で、初子は子供の頃から輝夫にぞっこんなのだが、輝夫は少なくとも現時点では初子のことは何とも思ってないのである。
忠助「食い物なんてのはおめえ、テル坊と一緒なら屋台のたこ焼き食ったって大変な御馳走なんだ、あいつにゃ」
輝夫「あっ……ははっ」
忠助の言葉に、なんとも言えない顔をして笑う輝夫であった。
再び、中井家。
当然、まだ輝夫はあらわれない。
リンゴを齧りながら、漫画雑誌か何かを読んでいる銀子。

銀子「彼女をギッと抱いた……ぐっふっふっふっふっふっ、ふふふふふっ、はぁ、来ないね、電話するかい?」
朝美「いいわよ、飛び込みの仕事かなんかだわ、きっと……私、帰るわ」
銀子「ちょっと待ってよ、送っていくからさぁーっ!」
さすがに待ちくたびれたチャミーが諦めて帰ろうとするのを、銀子が慌てて追いかける。
ここで、騒動の発端となったタケさんが、再び三ッ森家に顔を出している。
無論、既に事情は説明して誤解は解いてある。

滝代「いえねえ、おかみさんに頼まれちまってねえ」
竹造「いやあ、そのほうがいいんですよ、私もね、銭を貰ってうちに帰るときが一番つらいんですよ、なにしろ酒屋とか飲み屋とかバーの前を通らねえようにして道順をこう考えて帰るたぁ大変なの」
甲介「はっはっはっはっ、なぁるほどねえ」
竹造から酒飲みならではの悩みを打ち明けられて、思わず笑う甲介たち。
で、この後、銀子と一緒に帰宅中のチャミーが、輝夫が初子と腕を組んで歩いているのを見掛け、再びむくれてしまうが、甲介にあれこれ説教されて、やっと自分の非を認めて反省するのだった。
朝美「私ってどうかしてたのよ、テル兄ちゃんが私のことなんかテンで気にしてないと思ったらさ、急にむしゃくしゃしちゃって……」
甲介「わかってるって、もうよせって」
朝美「私って独占欲ってのが強いのかなぁ」
甲介「まだ怒ってるか、テルのこと」
朝美「ううん、会ったら謝るわ」
こうして些細な行き違いから生じたチャミーの「反抗期」も無事に終わり、三ッ森家には再び平穏が訪れるのだった。
以上、とりあえず書いてみた「水もれ甲介」のレビューであったが、はっきり言ってつらかった。
第一に台詞が死ぬほど多い。しかも下町のべらんべえ口調がメインなので、書き写すのが大変なのである。
そして、基本的にコメディタッチのドラマなので、管理人の好きなギャグなどを入れることがほぼ不可能なのも痛かった。
一方で、パンチラなどのお楽しみもないしね。
それでも、この作品の素晴らしさを世に伝えるために、歯を食い縛って頑張り、あと5本くらい書くつもりである。
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