第34話「子連れ怪物 ブラックハリモグラ」(1973年3月3日)
怪人の父と子の微笑ましい団欒や、子供怪人と人間の子供との心の交流を描いた、シリーズでもひときわリリカルなエピソードで、てっきり長坂さんだろうと思ったら、これがなんと、あの(どの?)島田真之さん執筆のシナリオなのである!
しかも、それがアイディア倒れではなく、きっちりストーリーに溶け込ませることに成功していて、思わず、島田さん、ショッカーにでも捕まって脳改造手術を受けたのではないかと失礼な想像をしてしまったほどである。
実際、このわずか2ヶ月ほど前の「仮面ライダー」95話で、無味乾燥極まりないエピソードを書いていた人の手によるものとは到底信じられないほどである。
冒頭、とある警察署に、30代くらいの女性が駆け込み、意外なタレミコをする。

署長「なに、横浜の金保管所がダークとやらに襲われるだと? いい加減にしたまえ」
和子「嘘ではありません、今夜9時に襲撃するんです」
署長「もう9時は過ぎた」
和子「嘘ではありません、信じてください!」
などといってるそばから、警官が入ってきて、まさに女性の言ったとおりの事件が起きたと知らせる。
それに続き、ダークのアジト。
ギルがモニターで、人間に化けたアンドロイドマンたちが暗躍しているのを注視している。
ギル「よーし! 研究所を破壊するのだっ」

ブラックハリモグラ「分かりました!」
ギルの命令に、自分のアジトにいるブラックハリモグラが元気良く応じる。
で、その横に立っているのが、ブラックハリモグラの娘の子ハリモグラなのである。
常に、パンダのぬいぐるみを抱いているのがめっちゃ可愛いのである!
ちなみに、そこが金保管所かと思ってたら、ギルが「研究所」とか言い出すので混乱してしまうが、金保管所は既に襲撃し終え、今は、別の建物……研究所を破壊しようとしていると言うことなのだろう。
あと、ギルの「破壊命令」が、現地にいるアンドロイドマンたちではなく、アジトにいるブラックハリモグラに下されているのも、微妙に変である。

だが、研究所の敷地内に爆弾を仕掛けようとしていたアンドロイドマンたちの姿を、警察車両のヘッドライトが照らし出す。
ちなみにこの右側にいる人、ギャバンの大葉健二さんですね。

和子「見てください、これが私の話していた、ダークの原子力研究所爆破作戦なんです。どうです、これで信じていただけますね?」
いつもは科学者や被害者を演じることの多い長沢大さんの貴重な警察署長姿であったが、残念ながら出番はこれだけ。
ともあれ、和子のことはギルもまったく関知していなかったようで、

ギル「な、なにものだ。我がダークの行動を阻止しようとする、あの女は何者だ?」
いつになく狼狽して、情報部に女の素性を割り出すよう命令する。
一方、待ち伏せされたアンドロイドマンたちは警察の包囲網の中に追い詰められていたが、
ギル「まずい、アンドロイドマンの口を封じるのだ。自爆スイッチを入れろ!」

ギルの無情な命令により、あわれ、仲間の手によって爆死させられてしまうのだった。
それにしても、下っ端とは言え、れっきとした構成員が警察に捕まりそうになるとは、「悪の組織」として、前代未聞の失態であろう。
やがて、優秀な情報部が、彼女の身元をつきとめる。

情報部員「この女の名前は桃山和子、この女の夫は我がダークの爆薬研究班にいた桃山博士です」
ギル「なにっ、桃山博士だと?」
情報部「はっ」
ギル「桃山のやつ、我がダークの一員でありながら、我々に反逆の志を持ったため、三月前に処刑したのだが……そうか、桃山の奴、密かにダーク犯罪計画書をこの女に手渡していたのだな?」
情報部「いえ、郵送した可能性が高いので、手渡したのかどうかは不明です」 ギル「屁理屈を言うなぁああっ!!」 ギルは、屁理屈と、ネットのスキップできない長いCMが死ぬほど嫌いなのである。
嘘はともかく、明敏なギルはたちどころに和子の魂胆を見抜くと、
ギル「ブラックハリモグラ!」
ブラックハリモグラ「はい、わかっています。プロフェッサー・ギル、ダークの繁栄の為にこの女の持っているダークの犯罪計画書は必ず奪い返します」
アジトにいるブラックハリモグラを呼び出すと、ブラックハリモグラもその意を察して言われる前に命令を理解する。
ここも、さっき研究所を破壊しろと言われたブラックハリモグラが、まだアジトにいるのがなんとなく違和感を覚えるんだよね。
ま、あくまで爆弾を仕掛けるのはアンドロイドマンの役目で、ブラックハリモグラは後方から彼らを指揮しているだけだと考えればおかしくないのだが、さっきのシーンだと、いかにもブラックハリモグラ親子が今から出撃するような感じを受けるんだよね。
要するに何が言いたいかと言うと、、ストーリー上、あそこでブラックハリモグラ親子の映像を出すべきではなかったと言うことなのだ。
サブタイトルにあわせて怪人の姿を見せておきたいと言う制作サイドの意向によるものだろうが……

子ハリモグラ「また仕事かい、父ちゃん?」
ブラックハリモグラ「ああ、ついてきてくれ、何しろお前が居ないと俺は満足に働けないんでな」
子ハリモグラ「しょうがないなー」
んで、最初に書いたように、怪人の子供が男の子ではなく、女の子に設定してあるのが実に素晴らしい発想なのである!
特撮において、人間態が子供と言う怪人はたまにいるけど、大抵は男子だからね。
ハンモックに揺られて昼寝をしていた子ハリモグラ、戦闘員に介添えされて床に降り立つと、

子ハリモグラ「ありがとう」
ブラックハリモグラ「さ、行くぞ」
子ハリモグラ「うん」
戦闘員にチェーンのついたアタッシェケースを首にかけてもらうと、父親と一緒に歩き出す。
ケースの中には、父親が故障したときのための工具一式が入っているのだが、もともと子ハリモグラは、ブラックハリモグラ専属の修理アンドロイドとして作られた機体なのである。

子ハリモグラ「ばいばーい!」
それはさておき、廊下に出て振り返り、戦闘員に気さくに挨拶する子ハリモグラが、これまた抱き締めたくなるほどに可愛らしいのである!
さらに、子ハリモグラに対する戦闘員たちの態度からも、子ハリモグラがみんなから可愛がられていることがうかがえて、とても「悪の組織」とは思えない、ぼのぼのとした心温まる光景となっている。
ちなみに子ハリモグラの声は、声優ではなく、名子役の斉藤浩子さんが楽しそうに演じている。
怪人の声を演じたことのある子役、それも女の子って、長い特撮の歴史の中でも、斉藤さんだけではあるまいか。
ついでに、ブラックハリモグラの声は増岡弘さんで、これまた優しい父親のイメージにピッタリの配役である。
一方、和子は、自分が経営しているスナックに帰ってくる。

マスター「おかえりなさーい」
和子「終わりました?」
マスター「ええ」
和子「あなたが来てくださったんで助かりますわ……実は、この店をもうやめようと思ってるんですのよ。あなたも知ってる通り、今の私にはほかにやらなければならないことがあるもんですから」

光明寺「ダークですね?」
で、その雇われマスターと言うのが、例によって光明寺なのだった。
いくらなんでも光明寺、生活力があり過ぎないか?
光明寺「そのダークとかの秘密を探るんなら、もうおやめになったほうがいい、危険だ」
和子「なんでですか、あなたはダークを知ってるんですか?」
光明寺「何かその言葉には途轍もない猛毒が含まれている気が……とにかく危険だ、やめなさい」
光明寺、強い口調で和子を諌めるが、殺された夫のために、ダークの秘密を暴いて世間に公表しようと言う和子の意志は固く、いっかな聞こうとしない。
でも、仔細に見たらこのやりとり、ちょっと変だよね。
和子の口ぶりでは、彼女がダークの秘密を暴こうとしていることは光明寺も先刻承知らしいのに、「あなたはダークを知ってるんですか?」と言う反問は、まるで今初めてそのことを話題にしているように聞こえるからである。
ちなみに和子は、娘のまゆみを育児院と言う施設に預けているのだが、それは子育てするのが面倒臭いからではなく、まゆみの安全を考えての措置であった。

和子「あ、それから、この雛人形、明日育児院に届けて下さい」
光明寺「はい、お会いしたいでしょうねえ」
和子「私が行けない理由はご存知のはず……大事なものです、お願いします」
和子は、長方形(註1)の大きな包みをカウンターに置いて、店を出て行く。
註1……変換したら、最初に「超包茎」と表示されて、思わず吹いた。
光明寺「何か恐ろしいことが起こるような気がする。この雛人形が何か事件を……」
光明寺、嫌な胸騒ぎを感じて、包装紙を勝手に開くと、雛人形を調べ出す。
いや、さすがに予感だけでそんなことをする奴はいないと思うのだが……
この辺の唐突な感じはやっぱり島田さんだなぁ。
ともあれ、博士の読みは当たっており、雛人形の中に隠されていたマイクロフィルムを発見する。
翌日、何食わぬ顔で包装し直した雛人形を育児院に持っていく光明寺。

光明寺「それじゃ、まゆみちゃん……いや、みんなもだ。カオル先生のスカートをめくるんだーっ!」
子供たち「はーいっ!」
カオル「きゃっ、ちょっと何するのよ! ダメ、やめなさい!
いやんっ!」
などと、光明寺の掛け声で子供たちが一斉にカオル先生に群がってスカートをめくり、純白のパンツが丸見えになるところを想像してウヒヒとなった管理人であった。
……
なんだ、その、人を憐れむような目付きはっ!! いや、ほんと冗談抜きで、私ももういい年なんだから、いい加減、そういうことを書いて喜んでる場合ではないのである。
話を戻して、
光明寺「それじゃ、まゆみちゃん……いや、みんなもだ。あとで飾ってもらいなさいね」
子供たち「はーいっ!」

カオル「嬉しい、まゆみちゃん?」
まゆみ「うん」
で、この育児院のカオル先生と言うのが、なかなかの美人なのである。荒巻啓子と言う女優さんだと思うが、良く分からない。
子供たちは雛人形にゾンビのように押し寄せるが、光明寺は内心で、雛人形から抜き出したマイクロフィルムを、彼女たちに危険が及ばないよう、こっそり処分しようと考えていた。
いや、いくら和子たちのことを気遣うにしても、わざわざ隠しておいたマイクロフィルムを勝手に抜き、あまつさえ勝手に処分しちゃうと言うのは、さすがに乱暴なのでは?
たとえば、和子が、万が一自分がダークに捕まった場合、そのマイクロフィルムを取引の材料にしようとしていたのだとすれば、光明寺のやったことは和子の足を引っ張るだけの結果になっていただろう。
一方、和子は警官二人の護衛つきで、雑木林の中の道を歩いていたところを、地中からあらわれたブラックハリモグラに襲われる。
警官はあえなくブラックハリモグラに殺されるのだが、このシーンも、正直良く分からない。
自分がダークに狙われていると知りつつ、和子は一体何処に行こうとしていたのか?
犯罪計画書とやらを警察に持って行こうとしていたところなのか?
でも、それなら、パトカーで送って貰うか、家まで警察官に取りに来て貰えば済む話である。
最初に、いつもの島田さんとは別人のようだと褒めちぎったが、仔細に見て行くと、そこかしこに島田さんらしい穴があるのもまた事実であった。
ブラックハリモグラ、和子を捕まえて犯罪計画書を取り返そうとするが、そこへジローがあらわれ、キカイダーに変身してひとしきり戦い、ブラックハリモグラを撃退する。

子ハリモグラ「やっぱりあたいがいないとダメだね、父ちゃん」
ブラックハリモグラ「ああ、お前は俺が壊れた時の大事な修理アンドロイド、俺はとお前は一生離れられないな」
キカイダーにやられたところを、娘の子ハリモグラに直して貰っているブラックハリモグラ。
前記したように、子ハリモグラは別に二人に親子ごっこをさせるためにギルが作ったのではなく、あくまで修理用アンドロイドとして製造されたものなのだが、悪の戦闘アンドロイドに子供がいると言う、普通に考えれば必然性のないリリカルな設定に合理性を賦与した、実に見事なアイディアである。
子ハリモグラ「治ったよ、父ちゃん、今度こそ負けないでね」
ブラックハリモグラ「ああ、任せておけって」

修理が終わった後、ブラックハリモグラが子ハリモグラをいたわりながら公園の池のそばを歩いていく、思わずほっこりしてしまうシーン。
で、この一連のシーンに、臆面もなく「子連れ狼」のテーマソングだか何かがBGMとして流れるのが、実に楽しいお遊び。
こういうキワモノっぽい演出は、「仮面ライダー」ではちょっと無理だろうなぁ。
一方、和子に娘がいることを知ったギルは、和子が犯罪計画書を娘に預けているかもしれないと考え、子ハリモグラを育児院に潜入させて、犯罪計画書のありかを探らせようとする。
細かいことを言うようだが、この展開……ギルが育児院に隠されていると思い込むと言う展開も、いささか唐突な感じがする。
せめて、和子の自宅を家捜ししたが見付からなかった……と言う前置きが欲しかった。

カオル「本当なんですか、まゆみちゃんに危険が迫っているなんて」
一方、育児院の事務室で、ジローたちと話しているカオル先生。

ジロー「ええ、だからみんなで、まゆみちゃんを守ろうとやってきたんです」
カオル「でも、何故まゆみちゃんに危険が?」
ジロー「わかりません、だからこそミツ子さんや半平君にも協力してもらってるんです」
ちなみに今回、怪人親子の物語に多くの時間が割かれているため、ミツ子たちの存在感は希薄で、出番も台詞もほとんどない。

などと話していると、中庭から、こっちをじっと見詰めている見慣れない女の子が姿がカオル先生の目に留まる。
ピンク色のチークがとても可愛い、子ハリモグラの人間態である。

カオル「どうしたのかしら、あの子?」
ジロー「……」
不思議そうに小首を傾げるカオル先生。
うう、可愛い……
CM後、そこにいたるまでの過程はスパッと省略され、早くも同じ部屋のベッドに座ってお話しているまゆみと、子ハリモグラの人間態。
後にブラックハリモグラの人間態も登場しているので、あの後、父親として正式に小ハリモグラを育児院に預けに来たのだろう。

まゆみ「名前、なんて言うの?」
奈々子「奈々子」
まゆみ「そう、奈々子ちゃん」
しかし、奈々子(漢字は適当)があらわれたのは昼間なのに、夜、寝る前になってまゆみが同室者の名前を聞いているのは、タイミング的におかしくないか?
ちなみに演技については二人ともほぼ棒読みで、棒読みの女の子同士の会話が他ではちょっと味わえない独特の「間」を醸し出している。
奈々子「これ、可愛いわね」
まゆみ「これー? 女の子だもん」
奈々子がまゆみが前髪につけているパンダの髪留めを指差すと、優しいまゆみはすぐにそれを外して奈々子の髪につけてやる。

まゆみ「これ、あげるわ」
奈々子「綺麗?」
まゆみ「うん」
奈々子「いいなぁ、人間て……」
まゆみ「明日は楽しいのよ、ひな祭りだもん。ミツ子姉ちゃんが白酒を作ってくれるの、お菓子も一杯」
奈々子「奈々子も入れてくれる?」
まゆみ「もちろん」
奈々子「わー、嬉しい……」
まゆみ「どうしたの、奈々子ちゃん?」
自分の使命を思い出したのか、はしゃいだ後、急に淋しそうな顔で俯く奈々子。
ちなみにまゆみの口ぶりから、ミツ子は以前からこの育児院を訪ねていたらしいことが分かる。
と、そこへカオル先生が顔を出し、電気を消して早く寝るよう促す。
二人はそれぞれのベッドに入って「おやすみ」を言うが、

奈々子「……」
奈々子は目をつぶろうとせず、異様な目付きをまゆみに向けるのだった。
それにしても、この鼻の形と言い、この子役、なかなかの美形である。

ミツ子「どうでした、あの子の様子は?」
カオル「ええ、まゆみちゃんと楽しそうに話をしていたわ」
ジロー「カオルさん、さっきからずっとこのあたりを調べてみたんですが、まゆみちゃんがダークに狙われる秘密がどうしても掴めないんです」
事務室に戻ってきたカオル先生に深刻な顔で話すジロー。
……
いや、まゆみちゃんはまだ一度もダークに狙われていないのだから、掴めなくて当然なのでは?
それ以前に、まず母親の和子に当たってみるのが本筋なのでは?
こういうところは、やっぱり島田さんだなぁと、ちょっと安心した管理人であった。
ジロー「この二、三日の間で変わった出来事はありませんでしたか」
カオル「そう言えば、あの雛人形……」
半平「その雛人形は?」
カオル「実はその、中年の男の人がまゆみちゃんにって持ってきたものなんです……」
え、光明寺、自分がまゆみの母親の使いだって言わずに雛人形置いてきたの?
つーか、カオル先生も、素性も分からない人からそんなもん受け取るなよ。

それはさておき、彼らの会話は、いつの間にかベッドを抜け出し、床下に潜り込んでいた奈々子にすべて聞かれていた。
うーん、悪人風メイクが似合ってて、実に可愛い。
もし上原先生がこのオンエアを見たら、
「これだよ、僕の書きたかった話はこういう話なんだよっ!!」などとコーフン気味に叫んでいたこと請け合いである。
と、奈々子の横から、ブラックハリネズミが顔を出す。

奈々子「雛人形!」
奈々子、その耳に口を近付け、小さな声で叫ぶ。
ブラックハリモグラ「よし!」
ほどなく、教室の方から物音がしたのでジローたちが駆けつけると、雛人形のケースが落ちて人形が散乱していた。

カオル「まあ、ひどいわ」
ジロー「どうやらお目当てはこの雛人形だったらしいな」
このジローの台詞も、冷静に考えたら変だよね。
ブラックハリモグラが雛人形に目をつけたのは、他ならぬジローたちの言葉に触発されてのことで、彼らの「お目当て」は、その中にある筈のマイクロフィルムだったのだから。
よって、この台詞は、
ジロー「やはり、お目当ての品はこの雛人形の中にあったようだな」
の方がモアベター。
それはそれとして、カオル先生のえげつないほど短いスカートの素晴らしさよ!
ジローは雛人形の底の秘密の隠し場所をあっさり発見するが、マイクロフィルムが入るような狭いスペースを、そんな簡単に見付けられるものだろうか?
さて、空振りに終わったブラックハリモグラの報告を受けたギルは、ならばと、まゆみを人質にして、和子から犯罪計画書のありかを吐かせろと命じるのだが、彼らの口調では、まるで和子の身柄を自分たちが押さえているように聞こえる。
つーか、肝心の和子ママは何処行っちゃったの?
他人のジローでさえ想到したのだから、母親の和子がまゆみのことを心配して顔を出さないと言うのはなんか変である。
それはともかく翌朝、人間に化けたブラックハリモグラがまゆみたちの部屋に忍び込み、まだ寝ていたまゆみを抱えて連れ出そうとする。
と、それに気付いた奈々子がベッドから飛び出し、父親の前に両手を広げてとおせんぼする。

まゆみ「やだーっ、怖い、助けてーっ」
奈々子「やめて、父ちゃん」
父親「何をする、どくんだ、この娘はダークのために必要なんだ」
奈々子「やだーっ」
父親「父親の俺に逆らうのか? まあいいや、どけ、どくんだよ」
奈々子「父ちゃんの馬鹿!」
一晩一緒に過ごしただけですっかり情が移ったのか、奈々子は父親を突き飛ばすと、まゆみを連れて逃げ出す。
物凄く細かいことだけど、父親の台詞の中の
「まあいいや」と言う一言が、なんか可笑しいんだよね。
島田さんは別に笑わそうと思って書いてるわけじゃないだろうが、だからこそ妙に笑えるのだ。
あと、あれだけ父親にベタベタして、ダークの任務にも疑問を抱かなかった子ハリモグラが、手の平を返すように父親に反抗してまゆみの味方をするというのも、なんか唐突な感じがするんだよね。
追いかけようとする父親の前に、今度はジローが立ちはだかる。

ジロー「やめろ」
父親「貴様ぁ」
ジロー「とうとう正体をあらわしたな、ブラックハリモグラ!」
父親「……ふっふふふふ、馬鹿な、私はただ娘に会いたくてね」
正体を見抜かれても、サングラスを外し、笑って誤魔化そうとするブラックハリモグラであったが、背後の壁に映った影がモグラだったので、一発でバレる。
つーかさー、最初に
「貴様ぁ」とか言ってる時点でもう何を言っても無駄だと思うんだけどね。
ちなみに出番は少しだけど、父親役は「仮面ライダー」にもちょくちょく出ていた平松慎吾さんである。
パジャマから平服に着替えて逃げているまゆみと奈々子をモニターで見ていたギルは、
ギル「くそう、ダークの裏切りものめ、かまわん、ブラックハリモグラの娘の子ハリモグラを殺せ!」
命令を受けた戦闘員たちは、山と言うか、掘り崩された山の残骸上で、奈々子たちに追いつき、取り囲む。

まゆみ「怖いよー、怖いよー」
奈々子「私をやっつけるつもりなのー?」
戦闘員「そうだ、お前はダークの命令に逆らった裏切り者だ。死ねい」
いい年こいた大人たちが、二人のいたいけな女児を取り囲んでナギナタを突きつけていると言う、大人気ないにもほどがあるシーン。
と、そこへ、ブラックハリモグラがあらわれ、当然ながら娘を守ろうとする。

ブラックハリモグラ「待ってくれ」
奈々子「お父ちゃーん!」
ブラックハリモグラ「俺の娘を殺さないでくれ」
戦闘員「しかし……プロフェッサー・ギルの命令だ」
戦闘員たちも、可愛がっていた子ハリモグラを殺すのが忍びないのか、ブラックハリモグラの嘆願に苦渋に満ちた声で応じる。
ちなみに、まゆみがブラックハリモグラに駆け寄る際、思いっきりパンツが見えているので、真性ロリコン戦士の皆さんは要チェックです。
ブラックハリモグラ「待ってくれ、そのかわり、俺の命を賭けてキカイダーを倒す! 頼むから俺の娘の命だけは……」
戦闘員「……」
ブラックハリモグラ「あ、わかってくれたか」
ブラックハリモグラの説得に応じ、ナギナタを下ろす戦闘員たち。
……
特撮番組において、悪が
「話せば分かっちゃった」画期的な瞬間であった。
この後、ジローが自分のほうからあらわれ、キカイダーに変身してラス殺陣となる。
ブラックハリモグラが劣勢なのを見た奈々子は、

奈々子「父ちゃーん!」

ジャンプして本来の姿に戻ると、

子ハリモグラ「父ちゃん逃げよう、早く早く、父ちゃん、早く逃げようよ」
ブラックハリモグラ「うわわっ」
父親の手を引いてとっととその場から逃げ出す。
……
いや、「命を賭けてキカイダーを倒す」んじゃなかったの?
これでは、ブラックハリモグラの言葉を信じて矛を収めた戦闘員たちも浮かばれまい。
土の中に潜って逃げようとする二人を、サイドマシーンに飛び乗って追いかけようとすると、

まゆみ「待ってーっ! キカイダー!」
キカイダー「うん? あの子を助けたいんだね」
まゆみ「うん」
キカイダー「よし、分かった」
幼女の意を汲んだキカイダー、力強く約束すると、まゆみの頭を撫でて走り出す。
奈々子の恩義に報いようという、まゆみのあっぱれな心がけであったが、キカイダーが二人に追いついてブラックハリモグラを倒した後、子ハリモグラも崖から足を踏み外して落ち、あえなく爆死してしまう。

キカイダー「しまった、せめて子供だけでも助けてやりたかった」
子ハリモグラの形見のパンダのぬいぐるみを拾い上げ、後悔の臍を噛むキカイダーであった。
実際、子ハリモグラだけは助けられ、ミツ子の手によって無害なアンドロイドに作り変えられ、引き続き育児院で暮らすようになる……と言う、甘っちょろい結末もありえたのではないかと、ちと残念である。
ラスト、まゆみが言っていたひな祭りが育児院の教室で行われている。
本来なら、まゆみが、ひな祭りに参加することを楽しみにしていた奈々子のことを思い出して涙ぐむという、号泣必至の感動的なシーンになる筈なのだが、子役の演技力が低いせいか、フツーの顔して歌っているので、特に胸に迫るものがないのが残念であった。
気になるマイクロフィルムのほうは、光明寺が雑木林の中で火の中にくべ、結局日の目を見ることなく処分されてしまうのだった。
でも、そうすると、犯罪計画書はそのマイクロフィルム一通だけだったことになり、それが手元にないのでは、和子の、ダークの作戦を暴こうという目論見も果たせなくなるような気がするのだが。

とりあえず、最後にもう一枚カオル先生の画像を貼っておこう。
以上、最初に書いたように島田さんらしからぬ極めてハートフルでドラマ性の高いストーリーであったが、シナリオ自体の完成度は低く、いちいちツッコミを入れざるを得ないところは、いつもの島田さんであった。
それでも、自分の知る限り、島田さんの作品の中では文句なしに最高の出来栄えだったと言えるだろう。
無論、シナリオの面白さだけでなく、カオル先生、奈々子、ブラックハリモグラの増岡さん、子ハリモグラの斉藤さんなど、声優も含めてほとんど完璧に近いキャスティングがあってこその成功なんだけどね。
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