明智探偵事務所。

過去に被害者のもとへ送られてきたピエロの人形を並べて、深い溜息をつく明智さん。
明智「今度ばかりはさっぱり糸口が見付からない。何か恐ろしい大きな秘密が隠されているには違いないんだが……」
なお、小林少年は白井犯人説に傾いていたが、文代さんは甚だ懐疑的であった。
そこへ波越から電話が入り、アケミが殺されたことを告げる。
それを聞いた途端、
小林「じゃ、やっぱり、綿貫が犯人かっ」 あっさり白井犯人説から綿貫に鞍替えしてしまう小林少年。
なんか今回、明智も含めてみんなバカになっちゃったみたいである。
でも、今回のストーリー、犯人の意外性と言う点ではシリーズでも随一だと思われるし、ミステリーに馴染みのない視聴者にとっては、なかなか思い付けない発想ではあるだろう。
などとやってると、ある人物が事務所にあらわれる。
他ならぬ、綿貫創人であった。
問題の人物の到来に緊張する明智たちであったが、綿貫は見掛けによらず丁寧に突然訪問した非礼を詫びると、

綿貫「このたびの一連の事件じゃもう参りましたよ、波越警部なんかすっかり私を犯人扱い。こうなったらもう私は自分で犯人を挙げるしかない! と、こう思いまして……」
綿貫、文代さんの疑惑に満ちた眼差しを尻目に、滔々と熱弁をふるうと、

綿貫「それで、是非とも明智先生の弟子にしていただきたいと、お願いに上がった次第です」
明智「いやぁ、こりゃまた弱りましたなぁ」
突飛な申し出をして、明智をまごつかせる。
この辺は、原作どおりの展開なのだが、原作ではもっと早い時期に弟子入りを志願してくる。
綿貫「先生なんかはもうあれでしょ、犯人の見通しと言うのは、たっとるわけでしょ?」
綿貫、文字通り低姿勢から、おもねるように尋ねるが、
明智「いえ、なにも、犯人も、犯人の動機もさっぱりです」 そんなに威勢良く断言しなくても良いと思うが、明智は正直にお手上げだと言って見せる。
明智「弟子にするなんてことじゃなくて、こっちから手伝ってもらいたいぐらいですよ」
綿貫「あ、手伝わせて頂けるんですか?」
その上で、何を思ったか物好きにも綿貫の弟子入りを受け入れるが、その代わり、みや子との関係を包み隠さず話して欲しいと頼む。
ここにいたって、綿貫も遂に観念して、深く息を吐いてから、
綿貫「一度だけ……抱いたことがあります」
さすがに照れ臭そうに打ち明ける。
さらに、回想しなくても良いのに、その時のことを回想する綿貫。
みや子「結婚して! ほんとに結婚して!」 綿貫「……」
綿貫、なんとなくみや子とベッドインして、そのでかい乳を吸っていたが、みや子が悶えながらそんな叫び声を上げたので、思わず怖くなってしまったと言う。
ま、初めてのエッチの最中に「結婚して」とか言われたら、男も困りますよね。
ここでやめときゃいいのに、
綿貫「初めてだったんですよ、彼女」 と、誰も知りたくない故人の秘密をお裾分けして、明智さんたちをヤな気持ちにさせてくれる。
しかし、冗談抜きで、若い女性のそんな個人情報を人にバラすのは、いくら当人が死んだことになっているとは言え、人の道に反すると言うものだろう。
綿貫「本人は結婚を望んでいたようですが、僕がはっきりとこれは遊びだよと言ってやったらそれっきり来なくなりました」
ちなみに原作でも、みや子は綿貫に彫刻を習っていて、みや子が綿貫に言い寄ったことがあるのだが、当時のことなので肉体関係までは行かず、綿貫のほうから相手を避けたことになっている。
原作の犯人は憎い綿貫に罪を擦り付けるだけではなく、その体を縛って家に火をつけて焼き殺そうとしたくらいだが、ドラマの犯人はそこまではやらない。
などとやってると、騒々しく波越が押し掛けてくる。
波越「明智君、またやられちゃっ……綿貫! お前今夜8時から9時まで何処にいた?」
波越、綿貫の顔を見るなり吼えるように詰問する。

綿貫「チッ、先生、これですよ、まるっきりもう犯人扱いでしょう?」
綿貫、心底ウンザリしたように、明智に訴える。
波越「岡林アケミが殺されたんだよ」
綿貫「え、アケミが?」
波越「お前はアケミに弱みを握られてた、それでやったんだ」
波越、そのまま綿貫をしょっ引こうとするが、

明智「警部、この人を連れて行くときは僕に断ってくださいね、この人は僕の助手になったんだから」
波越「ほえ、助手?」
明智「綿貫さんは人を殺せるような人ではありませんよ」
綿貫「そうだよ、さすが名探偵だよ、ヘボ刑事とはわけが違うよ」
波越「うるさい、俺は警部だよ!」
明智の意外な横槍によって、さしも強引な警部も綿貫の逮捕を思い止まらざるを得なくなる。
明智がはっきり綿貫は犯人じゃないと言ってるのに、今回の波越は異様なほどに頑固と言うか、依怙地で、翌日の夜、相沢病院の前で張り込みをしている刑事に対しても、
波越「しかし、俺はねえ、やっぱりあの綿貫って奴が臭いと思うんだけどなぁ」
刑事「でも、神戸でのアリバイは確認されてますよ」
波越「うん、あいつは知能犯だからね、ま、細工をしたと考えたほうがいいよ」
ほとんど駄々っ子のように綿貫犯人説を唱えるのだった。
波越、是が非でも綿貫を犯人にしたいらしい。
ここまで来ると、綿貫に個人的な恨みを抱いているのか、あるいは、波越こそが真犯人で、それを隠すために無理矢理綿貫を犯人に仕立て上げようとしているのではないかと勘繰りたくなる。
と、病院から看護婦が出てきて、けたたましい声で波越たちを呼ぶ。
何事かと相沢や白井たちのいる居間に行くと、病院の事務室にピエロからの麗子の殺害予告状が届いたとかで、相沢たちが色めき立っていた。
相沢が、なかなか犯人を捕まえられない警察の無能振りをなじると、波越、綿貫犯人説はおくびにも出さず、
波越「犯人は精神異常者じゃないですかねえ」 と、ある意味、最低の逃げ口上を打つのだった。
麗子「気が滅入ってやりきれないわ」
白井「それじゃピアノでも弾きましょうか」
相沢「そうしてやってくれ、頼むよ」
と言う訳で、白井はみんなの前で自慢のピアノを披露することになる。
なんでバレエの監督がピアノを弾くのか良く分からないのだが、原作では元々ピアニストだからね。
ところがその最中、麗子がふと視線を向けると、庭に面した障子が青白い光に照らされ、その中で、巨大なピエロのような人影が頭と両手をぶらぶら動かしているではないか!
麗子の声にみんなも気付いて慌てて庭に出てみるが、庭には誰の姿もない。
やがて外にいた刑事が庭から出て来た中学生くらいの少年を捕まえて連れてくるが、みんなの注意がそちらに向いているうちに、何者かが廊下から居間に忍び込み、テーブルの上のティーカップに毒薬を入れる。
結局、さっきの人影は、ピエロ本人のものではなく、その少年がピエロの仮面と花火の光で作り出した幻影だったと分かる。

波越「なあ、ぼうや、誰にいくら貰って頼まれたか、正直に話してごらん」
少年「3000円貰ったんだよ、チンドン屋のおじさんに」
白井と麗子は先に居間に戻り、麗子が紅茶を飲もうとするが、そこへ明智があらわれる。

明智「何があったんですか?」
白井「ピエロの面を庭から障子に映したんです。子供を使ったチンドン屋の仕業だそうです」
明智「……」
明智、ふと、絨毯の上に泥のついた足跡があるのに気付き、それが、廊下とテーブルの間を往復しているのを見て、たちまち犯人の意図を見抜く。

明智「麗子さん、飲んじゃいけない!」
明智、慌てて麗子を制すると、そのカップを取り上げ、紅茶をそばの水槽に注ぐ。
と、たちまち数匹の金魚が死んでしまう。
それを見ていた白井が血相を変えて叫ぶ。
白井「明智さん! なにしてるんですかっ、この金魚、めちゃくちゃ高いんですよ! 一匹200万するんですよ!」 明智「え……?」
と言うのはもちろん嘘だが、時代劇じゃあるまいし、この場でその効き目を確かめる必要がないのは事実である。
波越「紅茶は君が持ってきたんだろう?」 看護婦「はい……」
いまや「警視庁の冤罪製造マシーン」の異名をとる波越に目串をさされて、消え入りそうな声を出す看護婦さんであったが、
明智「いや、紅茶に毒を入れたのはこの足跡の主ですよ」
波越「うん?」
明智「子供だましの影騒ぎは毒を仕掛ける隙を作るためだったんでしょう」
明智は素早く看護婦さんを冤罪から救うと、返す刀で、
明智「綿貫は今僕の事務所で文代君と話をしてます。これで綿貫の容疑は消えましたね」
波越「うーん」
波越の迷妄を覚まし、ようやく綿貫犯人説を葬り去るのだった。
さて、波越は子供に頼んだというチンドン屋のピエロを尋問するが、そのピエロも、別のピエロから頼まれたことが分かり、犯人の手掛かりは得られなかった。
一方、明智の助言によって、足跡の泥を分析した結果、関東では埼玉県の田島ヶ原にしか自生していないサクラソウの種が含まれていたことから、犯人の潜伏先もそこではないかということになる。
終盤に来てやっと名探偵らしさを発揮する明智さんだったが、依然として犯人がピエロの扮装をする理由を看破できずにいた。

明智「まだピエロの意味は掴めん、もし意味があるなら犯人は暗示をして来る筈だ。ピエロに意味がないなら、どうしてもピエロを使わなくちゃならない理由があるはずだ。こう考えていい……おどけ、厚化粧、とんがり帽子……どうしてこんな目立つものに化けて現われるんだ? 正体不明、年齢不詳……」
ドラマではここで明智のモノローグは切られているが、たぶん、最後に明智はこう付け加えて、犯人の正体に大きく近付いたのではないだろうか。
すなわち、
「性別不明」と……
この後、色々あって、遂に犯人の潜んでいる廃墟を発見して乗り込んだ波越たちであったが、中には犯人らしき男の姿はなく、警察に気付いて屋根裏部屋の小窓から間一髪で逃げ出したものと思われた。
そして、建物の中には犯人に監禁されていたと思われる下着姿の若い女性がいたが、行きがけの駄賃とばかりに犯人に劇薬を浴びせられたのか、その顔は見るも無残に焼け爛れていた。
女性はともかく相沢病院に担ぎ込まれて治療を受けるが、口は利けず、身許も分からなかった。
原作ではそのショックでパッパラパーになってしまう(ふりをする)のだが、ドラマではそこまではやらない。
波越は、ひょっとして行方不明の愛子ではないかと母親を呼んで確認させるが、

波越「野上愛子じゃないって言うんだよ」
母親「ええ、愛子は左の足首に子供の頃に柿の木から落ちて怪我をした傷跡があるんです」
波越「と、すると、このガイシャは誰なんだろうね?」
愛子の母親は、それが愛子か否かと聞かれただけなので、それがもう一人の娘である可能性にはまったく気付かないのだった。
一方、文代さんと綿貫と言う妙な取り合わせのコンビが、埼玉県の三津沢駅に降り立つ。

綿貫「いやぁ、しかし、こう毎日日帰りで遠くまで歩いたんじゃたまらんなぁ」
駅から出た途端、ぼやく綿貫に、
文代「先生が言ったことを復唱して」
学校の先生のような口調で、年上の綿貫に命じる文代さん。
ちなみに蟹江さんと五十嵐さんは、ほぼ10才違いである。
綿貫「えーっとぉ、野上みや子の友人で、最近亡くなった人はいないか……できれば、合宿か旅行か、たとえ何日間でも一緒に暮らしたことのある人」
文代「そう、じゃ、次はスキーで一緒だった伊藤ふじ子さん」
二人は伊藤ふじ子と言う女性の実家を訪ねるが、幸いと言うと語弊があるが、ふじ子はつい最近亡くなっていた。
ちなみに原作でも綿貫は似たような調査をやらされているのだが、あくまでひとりでやっている。
実際問題、別に二人でやるような仕事ではないと思うんだけどね。
ふじ子の母親によると、みや子とふじ子はとても仲が良かったらしい。

綿貫「どういうお知り合いで?」
母親「はあ、なんでもスキーの民宿で知り合ったとか」
文代「それで、みや子さんはふじ子さんのお葬式には?」
母親「はい、次の日に来て下さいました」
文代「それは何時ですか」
母親「9日の日でございます」
それは、文代たちが美術館でみや子を見た前日、すなわち、みや子が家出した前日であった。
この後、明智の要請でふじ子の土葬の墓が掘り返されるが、棺の中にはふじ子ではなく別人の死体が納められていた。
行方不明になっていた愛子であった。
無論、真犯人の仕業なのだが、か弱い女性が、土葬の墓を掘り返して成人女性の死体を運び出してから、一旦埋め直し、後日、またそれを掘り返して愛子の死体を入れておくなど、そんなことが可能だろうかと言う素朴な疑問が湧く。
繰り返し言っているように、原作では金で雇われた男の協力者がいるのでさほど不自然ではないが。
その後も、病院の前で張り込みをしている波越たち。
波越が、例の女性の病室に行って見ると、白いヒゲを生やした小男が吸い口で水を飲ませてやっているところだった。
女性に同情した麗子が、父親に頼んで付添い人を雇ってもらったのである。
波越、その男の顔を無遠慮にじろじろ見詰めていたが、やがてカラカラと笑ってその肩を親しげに叩くと、
波越「明智くぅん、僕はね、あの綿貫ってのがね、一番臭いと睨んでんだけどね!」 それが明智の変装だと思い込んで、いきなり話し掛ける。
……って、まだ、綿貫犯人説を諦めてないのかよっ! 既にアリバイが立証済みで、動機もなく、明智が犯人ではないと断言していると言うのに、まるで何もなかったように綿貫が犯人だと言い続ける波越に、かすかな狂気を感じる管理人であった。
竹田「はぁ?」
波越「とぼけるなよ。長い付き合いじゃないかよ、僕はね、いくら名探偵・明智小五郎の変装でもね、すぐ見破れるんだよ」
竹田「私は竹田と言って、この方の付き添いを頼まれただけで……」
波越「あ、そー、じゃ、竹田君、君がこんな変装してるからには少し読めてきたんだろ? 話してくれよ」
竹田「さて、なんのことかさっぱり」
波越「くーっ、君がそんな意地悪だとは知らなかったね」
相手が否定しているのに、あくまで相手が明智であるかのように振る舞い、最後はブツブツ文句を言いながら出て行く。
視聴者としては笑うところなんだろうけど、客観的に見たら、このシーン、波越が
ただのキチガイにしか見えないところが不気味である。
もっとも、付添い人を演じているのが、付け髭をつけた岡部正純さんなので、ほんとに明智が変装してるんじゃないかと思わせる、視聴者に対する引っ掛けにはなっている。
狂人・波越が嵐のように去った後、竹田が女性のためにジュースを買いに行くが、後頭部を何者かに殴られて気絶してしまう。
襲撃者は、その足で麗子の部屋に忍び込み、何かの液体が入った注射器を麗子の腕に刺そうとする。

それは、案の定、殺人ピエロ、地獄の道化師であった。
うーん、でも、ベッドに寝たきりで、付添い人までいるというのに、どうやってピエロの面と、毒物入りの注射器を調達できたのだろうか?
それはともかく、原作と同様、際どいタイミングでピエロの腕を掴み、瀬戸際で麗子の命を救ったのは、意外にも綿貫創人であった。
原作だと、医者に化けた明智に助けられるんだっけ?
綿貫、なんとか逃げようとするピエロを追い詰め、無慈悲にその仮面を剥がす。
その下からあらわれたのは、顔を包帯でぐるぐる巻きにした、あの身元不明の被害者女性であった。
やがて、麗子の悲鳴を聞いて相沢や白井が駆けつける。

麗子「お父様」
相沢「どうしたんだ」
白井「お前は誰だ?」
綿貫「いやぁ、この女がお嬢さんにその注射を打とうとしたんですよ」
白井「いい加減なこと言うなよ」
麗子「本当よ、この人が助けてくださったの」
綿貫「とにかく波越警部を呼んで下さい、地獄の道化師が現れたってね」
相沢「じゃあこの患者が?」
綿貫「早く!」
周りを圧するような重々しい威厳を見せて、自信に満ちた口調で白井たちに指図する綿貫。
いつもの、軽躁でおどおどした綿貫とはまるで別人のようであった。
綿貫が女を無理矢理居間に連れてくると、波越たちもどやどやと入ってくる。
が、この期に及んでも、波越は綿貫の顔を見るなり、
波越「綿貫、やっぱりお前が犯人か?」 相沢(ひょっとしてコイツ、頭がおかしいのでは?) 横で聞いていた相沢院長も、さすがに唖然とする。
いや、ほんと、ここまでくると、冗談抜きで波越警部、一度病院で診て貰った方が良いんじゃないかと思えてくるほどの支離滅裂さであった。

綿貫「ふふふふ、警部、長い付き合いでしょ。僕の変装ぐらい見抜いて下さいよ」
波越「うん?」
が、綿貫……に変装した明智さんは、愉快そうに笑うと、みんなの良く見える位置に移動する。
しかし、明智さんが自分で言ってるように、よくこんなのと「長い付き合い」が出来るものだと感服するが、今回に限っては、
明智「お前、たいがいにしろよ?」 ぐらいのことは言ってやった方が本人のためだったと思うけどね。
で、例によって明智さんの変身解除シーン&早着替えとなるのだが、管理人、もう心底このくだりを書くのがイヤになったので、今回はズバッと省略させていただき、

変装を解いて着替え終わったところまでジャンプさせてもらった。
と、同時に、このシーンをスルーしても、レビューには全く支障がないし、読者も別にこのシーンを見たい訳じゃないと言うことに、ブログで美女シリーズを書き始めてから10年ほど経った今になって漸く気付いた次第である。
それはさておき、明智の全く必要のない変装に相沢たちが呆れている(註・ほんとは感心しているのです)と、文代さんが竹田と言う老人を連れて入ってくる。

相沢「この人は麗子の頼みで私が雇った付き添いです」
波越「……はっはははははっ、いやー、僕はこっちが明智君だと思ってたよ。ひっはははっ、しかしまぁ、上手く化けたねえ」
明智と竹田老人の顔を見比べていた波越警部、弾けるような笑い声を響かせて、明智のいつもながら見事な変装を嘆賞する。
散々犯人扱いされてきた綿貫だったが、最後はニヤッと笑うと、波越警部の肩に手を置き、
綿貫「あんた、メイ警部だね」
さて、ここから事件の解明となるのだが、そう言うトリックなのでやむを得ないのだが、犯人が素顔を見せないままでの謎解きとなる。

波越「ところで地獄の道化師は?」
明智「この、女です」
白井「そんな筈はないでしょう、顔に硫酸を掛けられて死にかけていたんだから」
白井がすぐに反論するが、明智はこの女が苦し紛れに自分で自分の顔に硫酸を掛けたのだと説き、
明智「世の中に絶望した女です。そして伊藤ふじ子を身代わりに出来る女……何故なら伊藤ふじ子と同じホクロがあったからです」

明智「右の乳房の下!」
明智は女の後ろに立って手を伸ばすと、やおら女の寝巻きの前を開いて、たわわに実ったおっぱいをポロリさせる。

明智「……」
波越「え、じゃあ、この女は?」
しかし、まあ、剛速球のセクハラだよね、これ。
相手がいくら犯罪者だからって、明智さんともあろうものが公衆の面前で女性を脱がしちゃいけません。
明智「そう、野上みや子です」 それはさておき、明智は遂に犯人の名前を口にする。
序盤で死んだ筈の被害者が犯人だったと言う、ミステリーに疎い人にはなかなか鮮烈なトリックだったのではないかと思う。

明智「この恐ろしい犯罪の動機は、白井さん、すべてあなたにあります」
白井「……」
明智「あなたは約束がありながら、いや、それがたとえ遠い昔の約束だったとしても。この人には一生の夢をかけた誓いだったんです。それを反故にしてあなたは愛子さんに心を移した。女の気持ちが乱れるのも当然でしょう」
みや子は、白井に婚約解消を申し出されて世の中に絶望し、たまたま、同じホクロを持つふじ子が死に、しかも土葬されていると知って、その死体を自分に見せ掛けようとしたのである。
しかし、普通は人生に絶望したら自殺すると思うんだけどね……
それが、友人の死体を掘り返すことまでして自分を抹殺し、ピエロになって、愛しい白井を奪った愛子……すなわち自分の妹を殺そうとすると言うのは、どう考えてもおかしいのだが、ま、それを言い出すとこの話自体が成立しなくなっちゃうからね。
ついでに言うと、彼女の場合、白井と結ばれる可能性はほぼゼロなのだから、恋のライバルを消しても意味がなく、むしろ、白井自身を殺そうとするのが自然ではあるまいか?
あるいは、無理心中するとか……
あるいはせめて、愛子が自分から白井に言い寄って白井を奪ったと言うのなら、みや子が愛子に殺意を抱くのも分かるのだが。

波越「ピエロの意味は?」
明智「なにもありません」 序盤から焦点になっていた最大の疑問を、こともなげに全否定する明智さん。
もっとも、深い意味はないというだけで、犯人にとってはちゃんと意味があり、
明智「なぜ人目につきやすいピエロを選んだのか? つまり年齢不明、身元不詳……そして、性別もまた不明です」

明智の最後の言葉を聞いて、「ああ、なんでそんなことに気付かなかったのだろう!」と、自分たちの迂闊さを恥じるような顔になる文代さんと小林少年。
ただ、ピエロの扮装が愛子や麗子などを死ぬほど怯えさせ、折に触れ姿を見せるピエロの存在が事件に異様な彩りを与えていたのは事実だし、明智が口にしていたピエロのイメージ……「滑稽で(中略)それでいてどこか淋しさを秘めて」いる……と言うイメージが、今度の事件の真犯人を象徴しているような感じもあって、作品の上ではピエロの扮装が果たした役割はもっと大きいと見るべきだろう。
みや子が麗子まで殺そうとしたのは、無論、白井がさっさと愛子から麗子に乗り換えようとしているのを見たみや子のジェラシーからであった。
実際、この物語の中で一番のゲス野郎は、みや子でも綿貫でもなく、この白井なんじゃないかと言う気がする管理人であった。
波越「アケミ殺しは?」
明智「男に振り向かれない女の心理は複雑です、もてあそばれたとはいえ、自分の肉体を与えた男に愛されている女を見て憎しみが燃え上がったんでしょう」
その動機を澱みなく解明してみせる明智さんだったが、うーん、さすがに無理がある説明だなぁ。
第一、アケミが殺されたと聞いたときの綿貫の反応を見ても、とても「愛されている」ようには見えないし、アケミもそれこそみや子と同じようにその豊満ボディーをもてあそばれていただけじゃないのかと言う気がするのである。
ま、一応、綿貫への復讐の一環として、アケミ殺しを綿貫の仕業に見せかけるためだろうと、動機が補強されているが、そんなことで人を殺す奴ぁいねえよ。
つーか、だったら綿貫本人を殺せっての。
明智「挑戦状の『神秘の謎」は、綿貫の口癖ですからね。手の込んだ細工です」
明智は続いて、隠れ家を発見された際、進退窮まったみや子がピエロの衣装を脱ぎ捨て、自分で自分の顔に硫酸をかけて誰だか分からなくして、被害者を装ったことを改めて説明する。
【速報】みや子さん、世の中に絶望した割には、往生際が悪かった。 明智「そして病院に運ばれ、屋根続きの相沢邸の麗子さんを襲うチャンスを待っていたんです」
波越「いやぁ、聞けば聞くほど恐ろしい女だな」
何が何でも綿貫を犯人にしようとしていた波越、しれっとつぶやく。

明智「でも、元々は優しくて気の弱い普通の娘さんでした。ただ、気の毒に、スーブーだったんです」
みや子「おいっ!」 じゃなくて、
明智「気の毒に、もって生まれた境遇に負けたんです」
みや子「本当よ、私と愛子は本当の姉妹ではなかったの」
ここでみや子が初めて口を開き、愛子を殺害した時の様子が回想される。

みや子「教えてあげようか、何故俺がこんなことをするのか……」
みや子は作り声でそう言ってから、ピエロの仮面を脱いで素顔を見せる。

愛子「姉さん!」
みや子「いいえ、私はあんたの姉なんかじゃない、血の繋がりはなかったのよ。お父さんもお母さんも私が貰い子だということを隠していたわ」

みや子「私がそのことを知ったときの驚き……その日から私は変わったわ」
多分、高校か大学受験の際に戸籍謄本を見て知ってしまったのだろう、セーラー服にお下げ髪のみや子の様子が回想される。
愛子「姉さん、セーラー服が死ぬほど似合ってない……」 みや子「おだまりっ!」 じゃなくて、
みや子「幸せがみんな私を避けて通っていく……そしてあの白井さんまで……あなたが好きだなんて」
みや子「私、私、許せなーいっ!」 みや子が積もり積もった怒りを爆発させて叫ぶと、

愛子「う、ああああーっ!」
その勢いに押されたように、愛子は叫びながら崖から滑り落ちていく。
それにしても、岡田さんが、こんな風に、誰も見ていないところで無残な死を遂げるというのは、ちょっと他では見たことがない。

明智「今日、君のお母さんからそのことを聞いてきたよ」
みや子「ううう」
明智「子供がなかったので、あるところから赤ん坊を貰ったら、その後で愛子さんが生まれたことをね」
みや子「……」
明智「でも、分け隔てしないで育てた積もりだと仰ってた」
みや子「そう……私の心が歪んでたのよ。そして、私は誰にも好かれない女になってしまった」
波越「この殺人を計画したのは?」
みや子「ふじ子さんがガンで死ぬかもしれないという手紙をくれたとき、二人で心中しようかと思ったわ。その時、二人の胸に同じホクロがあることを思い出したの……それから、世の中の幸せが愛子のところに集まっていくたびに、私の心の中に二つのホクロがだんだん大きくなってきたの……ううううーっ」
今になって自分のやったことを後悔しているのか、それこそ地獄の底から響いてくるような、悲痛な呻き声を上げるみや子。

みや子「なんっ……て恐ろしいこと、許して、愛子! 許して、白井さん」
片桐さんの熱演なのだが、あいにく、こんな状態での演技なので、いまひとつ胸に迫るものがない。
と、みや子は素早く小さな薬ビンを取り出すと、一気に煽る。
文代「毒!」
みや子「いえ、コラーゲンドリンクです」 文代「意外と前向き!!」 じゃなくて、
相沢「吐くんだ!」
みや子「お願いだから死なせて!」
相沢が医者の条件反射でみや子を助けようとするが、みや子はそう叫んで相沢の手を押し退け、苦しそうに喉に手を当て、一度テーブルの上に突っ伏すが、

みや子「会いたい、ほんとのお母さん、お父さん!」
なおも起き上がって、カメラに向かって右手を伸ばし、ありったけの声で子供のように叫ぶ。

みや子「地獄の……道化師も……愛が、愛が欲しかった。それだけ……」
顔を苦痛で歪ませながら、涙まじりに言いたいことを言うと、その場にどうっと倒れ、息絶えるみや子。

文代「……」
その悲惨で哀れな死に様に、白井たちも粛然とした顔になり、あろうことか、文代さんまで目に涙を溜め、「化けて出ませんように」とでも言いたげに、両手を合わせてその冥福を祈るのだった。
しかし、自分が養子だと知ったからって、なにもそこまで絶望しなくても良いんじゃないかと言う気もするんだけどね。
なお、原作では、貰い子ではなく拾い子となっていて、明智は、誰とも知らない親の悪い遺伝子(と境遇)のせいで、みや子がねじくれた性格になったのだと、差別意識丸出しの問題発言をかましている。
翌朝、朝もやのたなびくなか、相沢病院から出てきて言葉すくなに車に乗り込む明智たち。

文代「地獄の道化師も、愛が欲しかった……分かるわ、その気持ち」
ひとり後部座席に座った文代さんが、明智さんにあてつけるような台詞をつぶやき、エンディングとなる。
以上、はっきり言ってあまりのしんどさに途中で死ぬかと思ったが、なんとか最後まで書き上げることが出来て心底ホッとしている管理人であった。
ボリューム的には30分の特撮ドラマ4~5本分くらいになったが、それを三日半で書いたのだから、疲れる筈である。
さて、作品を改めて振り返ると、石膏像の死体の死因が最後まで無視されているという、ミステリーとしては割りと致命的な欠陥があることに気付いたが、それを除けば、原作の再現度と言い、キャストと言い、シナリオと言い、おっぱいと言い、ほとんどで満点に近い内容だった。
あと、本文でも触れたが、波越警部が綿貫犯人説に異様なほど固執するさまに、狂気に近いものを見て、いささか戦慄を覚えた管理人であった。
今回の事件、明智さんが乗り出さなかったら、波越、絶対綿貫を犯人として逮捕・送検してるよね。
ともあれ、新年早々クソ長いレビューを最後までお読みいただき、ありがとうございました!!
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