第36話「狂ったジローが光明寺をおそう」(1973年3月17日)
深夜、東洋銀行の金庫室の壁を突き破り、今回の怪人クワガタブルー(声・増岡弘)が登場。
クワガタブルー「ダーク破壊部隊クワガタブルーがいる限り、ダークが金に困ることはない。そうだ、有り金残らず運び出せい。うえっへへへへっ」
豪語すると、ところせましと積んである札束を一枚残らず運び出させる。
あの謹厳実直を絵に描いたようなマスオさんがこんなことを……やっぱり相当ストレスが溜まってたのかな。
実際、酒は多少飲むようだが、女遊びもギャンブルもせず、タラちゃんが常に間に寝ているので妻とも自由にセックスできず、かといって他に趣味があるわけでもない。
それでいて、毎日出勤して、家庭では常に温顔を保っているのだから、常識で考えれば、裏で悪逆非道の限りを尽くしているか、あるいは既に発狂していると見るべきだろう。
……って、さっきから何の話をしとるんじゃっ!
逃げる途中、警備員に見付かるが、無論、ダーク破壊部隊の敵ではなく、あえなく惨殺される。
クワガタブルーはその後も次々と銀行襲撃を成功させ、ギルの懐はたちまちホカホカになる。

ギル「なかなか良く働きおる、クワガタブルー! おまえがそのように働いてくれるお陰で、ワシは毎日トーカ堂のテレビショッピングを楽しむことができる」
じゃなくて、
ギル「おまえがそのように働いてくれるお陰で、我々ダークは莫大な資金を必要とする研究を続けられる。良心回路とは正反対の悪魔回路の完成ももう目の前だ」
滅多にないことに、ギルが部下の仕事を褒め、感謝する。
ひょっとして、万馬券でも当てたのだろうか?
いや、そうではなく、万馬券当てるより、フツーに部下に銀行強盗させたほうが確実にお金が稼げると言うことに漸く気付いたのであろう。
新聞記事の見出しでは、総額5000億円も奪われながら、誰が盗んだのか手掛かりすらないという状況だったらしい。
クワガタブルー、調子こいて今度は白昼堂々、銀行の裏手の壁に穴を開けて金庫室に侵入するが、

マリ「もしかしたら例の銀行ギャング、大スクープだぞっ!」
パンツスタイルの女性カメラマン・マリによって、建物から出てきたところを激写されてしまう。
演じるのは小田まりさんという、どっかで聞いたことのある名前の女優さんで、そんなに美人じゃないけど、長坂さんが好んで書く姉御肌の女性キャラにぴったりの雰囲気である。

クワガタブルー「誰だ、そこにいるのは誰だ?」
つーか、良く今までバレなかったな、おまいら。
マリはあっさり捕まり、

クワガタブルー「女の癖にカメラなどいじって……
いじるんならもっと別のものをいじれ!」
クワガタブルーに抱きつかれながら、マスオさんのセクハラジョークの餌食となるが、嘘である。
クワガタブルー「女の癖にカメラなどいじって……かわいそうだが生かしてはおけん」
マリ「助けてーっ!」
と、そこへいつものようにジローかギターを鳴らして登場、軽く戦闘員たちを蹴散らし、マリのそばに行くと、

ジロー「早く」
マリ「余計なことはしないで、私、写真を撮りたいのよ!」
ジロー「バカ、殺されるぞ」
だが、マリは一筋縄では行かぬじゃじゃ馬で、殺されかかったと言うのにその場から逃げようとしない。
やむなくジロー、その体に当身を食らわせて気絶させ、物陰に運ぶ。
そしてキカイダーに変身して戦うが、相手の実力を見くびったのか、機械の働きを停めてしまうと言う特殊なビームを浴びてしまい、胴体に激しい損傷を受ける。

ジロー「しまった、潤滑油が流れてしまった。俺の体は動かなくなってしまう」
公園の植え込みの中でジローが呻吟している頃、半平が最近全然エンストしなくなったスバル360に乗ってさっきの銀行前にやってくる。
壁に穴が開いているのを見た半平は、

半平「なんと、例の銀行ギャング……いっひっひっひっひっ、3000円くらい残ってるかもしれませんね。うっひゃっはっはっはっ」
カメラに向かって久しぶりに見せる下卑た笑いを浮かべると、実にせせこましい金額を口にして、いそいそと金庫室の中に入って行く。
そう、強盗のお裾分けに預かろうと言う、名探偵の風上にも置けない行為に走る半平であったが、考えたら、最初の頃の半平って、大体こんな感じだったんだよね。
最近、すっかり真面目になってしまったから忘れていたけど。
だが、ダークの仕事は完璧で、金庫室の中には3000円どころか300円も残っていなかった。

半平「せめて250円ぐらい残しておいてくれてもいいでしょ、250円ぐらい」
落胆して、希望金額をさらに下げる情けない半平であったが、そこへカメラを構えたマリが入ってきて、

マリ「はっはははー、逃げても無駄ね、銀行ギャングさん」
半平「銀行ギャング? どこ、どこ、どこ? 我輩? 違う違う」
マリ「ミーはもう110番に電話しちゃったんだから」
半平「お嬢さん、とんでもない誤解ですぞ。私は正義の味方はしてもギャングの味方はしませんぞ」
などとやってるそばから、早くもマリの電話で駆けつけたパトカーのサイレンの音が聞こえてくる。
普通に考えれば、肝心の札束を所持していないのだから警察にちゃんと説明すれば分かってもらえたと思うが、なにしろ強盗の残り物を失敬しようとしていただけに後ろめたかったのか、
半平「お嬢さん、また会う日まで。さいならっ」
マリ「待ちやがれ!」
帽子を脱いで気取った挨拶をすると、一目散に逃げ出す。
活発で行動的だが、男勝りな性格で言葉遣いも乱暴なマリ、「キカイダー01」のミサオの原型のような愛すべきキャラクターである。
二人が前後して銀行から飛び出した後、反対側の角から、クワガタブルーと軽合金ケースを抱えた戦闘員たちがあらわれる。
キカイダーを捜索していたらしいのだが、接近するパトカーを見ると、

クワガタブルー「ええい、面倒なことになった。あの怪我ではどうせ長くは持つまい、逃げろ!」
え、逃げちゃうの~~~っ? 世界征服を企む悪の秘密結社が、パトカーぐらいで逃げ出したらあかんでしょう。
それこそ、機械の働きを停めると言うビームを浴びせれば簡単に片付けられだろうに。
一方、現場に到着した警官たちはマリの指示を受けてしつこく半平を追いかけてくる。
一度逃げ出した半平、捕まったらシャレにならないことになると必死で逃げ回り、最後はマンホールの蓋をこじ開けてその中に飛び込む。

半平「ああ、やめて! ……やっぱり夢か?」
ついで、間に何も置かずに顔を汚した半平が目を覚ますシーンとなるのだが、ここは、半平が警察に捕まる、あるいは刑務所に入れられる……と言う「夢」のシーンを入れないと意味がないよね。
半平「ああ、良かった、本当によかった!」
今の出来事がすべて夢だと思い込んでいる半平、嬉しさのあまり、エビのように両足を跳ね上げてその反動で起き上がろうとしてソファから滑り落ちて尻餅を突くが、ここでやっと、そばにミツ子とマサルがいて、しかも、自分が全く見知らぬ部屋にいることに気付き、全力であたふたする。
ミツ子「落ち着いてよ、ハンペン、あなたマンホールの中で気絶してたのよ」
マサル「運良く僕たちが見つけたからいいものの、お巡りさんにでも見付かってたら刑務所行きだって、マリさんそう言ってたよ」
半平「マリさん? 誰その人?」
ミツ子「気絶していたハンペンを抱えて困っていた時、私のうちへどーぞって言ってくれた人」
聞き覚えのない名前に首を傾げる半平であったが、
マリ「アイ・アム・マリちゃんね、ギャングさん」 キッチンのほうからにこやかにあらわれたのは、あの女性カメラマンであった。
長坂さん、ほんと、この手の女性が好みだったんだろうなぁ。
かく言う管理人も、割と好きである。
恋人にしたいとまでは思わないが、身近にいたら、なんとなく人生が楽しくなりそうな女性である。

半平「あ、あ、近寄らないで、そばに来ないで!」
思わず逃げ腰になってマリのベッドの上に座る半平であったが、
マリ「オーノーノー、逃げなくてもオッケイね、あなたのことミツ子さんに聞いたわよ」
半平「あっはは、我輩の潔白、信じてもらえましたかな?」
マリ「うふふ」
そうと知るやたちまち落ち着きを取り戻し、前髪を整えるとマリの手を握って撫で撫でするのだった。
ミツ子「それよりね、ハンペン、お父様が見つかったのよ」
半平「え?」
ミツ子「さっきの銀行近くの農協で守衛をしてるんですって」
が、例によって例のごとく、ミツ子たちが農協に着く前に、光明寺が、農協内部の職員が全員気絶or死亡しているのを発見する。
無論、クワガタブルーの仕業であった。

クワガタブルー「へへへーっ!」
光明寺「ああああっ!」
そして、一仕事終えて意気揚々と金庫室から出てきたクワガタブルーと鉢合わせしそうになって、思わず飛び退く光明寺。
と、光明寺の顔をまじまじと見詰めていたクワガタブルーの脳裏に、いくつもの中年男性の顔が浮かび上がり、最後にあらかじめインプットされていた光明寺博士の顔とマッチする。
クワガタブルー「俺の頭のコンピューターは間違いない、貴様、光明寺だなぁ」
ギル、やっとこ、アンドロイドの電子頭脳に光明寺などの重要人物のデータを記憶させておくことにしたようである。
そろそろ第3クールも終わろうかと言う時期になって……
クワガタブルーは光明寺を連れ帰ろうとするが、そこへ飛び込んで来たのが元気娘マリで、あれこれやってるうちに二人とも建物の外へ出て、左右別々に逃げ出す。
クワガタブルー、過去のアンドロイドと比べても、かなり優秀なコンピューターの持ち主のようであったが、

マサル「姉さん、マリさんが危ない」
半平「いやいや、しょうがないな、やいやいやいやい、へぼアンドロイド諸君、貴様たちの悪事、しかと見たぞ! 悪の栄えた試しなし、悔しかったらかかってこーい!」
クワガタブルー「ああーっ、あのへぼ探偵をぶっ殺せーっ!」 いかんせん、
バカだったので、あっさり半平の挑発に乗って横断歩道を渡って車道の反対側の公園に雪崩れ込むのだった。
現実にもいるよね、成績は良いけどバカな人って……
ミツ子や半平たちに良いように翻弄されているクワガタブルーと戦闘員たちの悲哀に満ちた姿を映しつつ、CMです。
CM後、公園の雑木林の中を息せき切って必死に逃げていたマリが、何かに蹴躓いてぶっ倒れる。

マリ「ああっ!」
……
マリさんには、このシーンを、是非ミニスカで演じて欲しかったと思う。
他意はない。
お尻が見たかっただけである。

マリ「はっ」
あと、起き上がりながら右手で髪を掻き上げる仕草が色っぽかったので貼っておきます。
マリが足を引っ掛けたのは、誰にも気付かれずに行き倒れになっていたジローであった。
一方、クワガタブルーから報告を受けたギルは、二体目の怪人ヒトデムラサキと言う、ゲテモノ寿司屋にありそうなネーミングの怪人を差し招き、農協に行き、光明寺を連れてくるよう命じる。
ギル「あの裏切り者の光明寺をダークの手先、悪魔の戦士にしてやるのだ!」 青白い幽鬼のような顔をアップにして、恐ろしい目論見を口にするギル。

ヒトデムラサキ「承知しました、プロフェッサー・ギィィル」
クワガタブルー「お言葉ですがプロフェッサー・ギル、光明寺は既に何処かへ逃げ去っています、あれだけのことをやられてのこのこ
農協に戻っていくことはないでしょう」
ギル「光明寺を満足に捕まえられなかったくせに、余計な口出しをするな! 奴は事件の重要参考人だ、少なくとも現場検証の終わるまでは、
農協に釘付けにされる」
ああ、お願いだから世界征服を狙う悪の人たちに、「農協」「農協」言わせないで下さい……
別に「農協」に恨みはないが、なんかイメージが壊れちゃうのである。
さて、マリに発見されたジローは、すぐに彼女の部屋へ運ばれ、今やすっかり熟練技術者になってしまったミツ子によってたちどころに修理される。

ミツ子「ありがとう、マリーさん、あなたが見つけてくれなかったらジローは今頃潤滑油を流しきってどうなっていたことか……」
マリ「ノー、ノー、ノー、ノー、ノー、私のほうこそお礼を言わなくちゃ、こうなったのもみんな私のせいなんだもの」
マサル「姉さん、ジロー、修理が終わってもちっとも目を覚まさないじゃないか」
ミツ子「新しい潤滑油が温まってコンピューターが動き出すまで時間が掛かるのよ」
不満そうに言うマサルを、とても説得力のある説明でなだめるミツ子。

だが、その時、いきなり壁を突き破ってクワガタブルーが乱入してくる。
クワガタブルー「あああーっ、貴様たちのお陰で俺は光明寺に逃げられた。そのためにプロフェッサー・ギルにバカにされた。俺は悔しい、貴様たちを殺してやる!」
上司にバカにされた腹いせに、人を殺しに来たクワガタブルー。
まさにバカである。
さて、光明寺はギルの断言したとおり、依然として農協にとどめおかれて、警察から事情聴取されていた。

刑事「では何故逃げようとしたんですか」
光明寺「私は過去の記憶を失ってるもんで」
熊野「どうも怪しいな、記憶喪失症なら光明寺と言う名前はどうして覚えたんですか」
光明寺「そりゃー、何度もそう呼ばれましたから」
熊野「誰に?」
光明寺「ダークの怪ロボットに」
熊野「ダークの? 怪ロボット?」
ピーナッツか何かを食べながら聞いている、名前にピッタリのごつい体格をした熊野警部を演じるのは、バンリキ魔王でお馴染み大前均さん。
一方、クワガタブルーは、やっと再起動したキカイダーと戦うが、最初の威勢はどこへやら、大した見せ場もなくあっさりデンジエンドで撃破される。
うーん、でも、前回のクロガラスはデンジエンドが全く利かなかったのに、その後に開発されたクワガタブルーが同じ技で倒されるというのは、なんか納得行かないなぁ。
ギルが、デンジエンドに耐え得る新素材のボディを開発したのなら、普通はそれ以降のアンドロイドも同じ素材で作るよね?
あるいは、クロガラスがデンジエンドを何度受けても平気だったのは、材質が丈夫だったからではなく、あのペンギンのように滑々した体表が、デンジエンドの威力を削いでいたせいなのかも知れない。
その後、ミツ子たちと合流したジローであったが、不意にその体内のセンサーが働き出し、

空中に浮かんだSOSの文字が、煙のようにジローの目の中に入ってくるという、斬新な映像となる。

ミツ子「どうしたの、ジロー?」
ジロー「博士のSOSを感じた。この近くから光明寺博士のかすかな脳波が送られてきている」
つまり、今のは、光明寺の発した微弱なテレパシーをジローがキャッチしたことを表現していた訳である。
でも、特にジローの体がチューンナップされた訳でもないのに、急に光明寺の脳波を感知できるようになったというのは、なんかご都合主義的に思える。
ま、こちらで補足すれば、潤滑油を入れ替えたために、ジローのセンサー系統の感度が一時的に上がって、それで脳波をキャッチできたのかもしれない。
それはともかく、ヒトデムラサキが光明寺を連れて農協から出てきたところへジローが駆けつけ、キカイダーに変身しようとするが、またしてもギルの「悪魔の笛」が聞こえてきて、その動きを封じられる。
前にも言ったけど、ジロー、いい加減、「悪魔の笛」の対策しとけよ。
音さえ遮断すれば防げるのだから、耳栓を常備するとか、携帯ラジオで大音量の音楽を流すとか、方法はいくらであると思うのだが……
だが、ここで、ある重大な転機が訪れる。

ヒトデムラサキに突き飛ばされて建物の角で頭を打ち(めっちゃ痛そう)、壁に凭れてぐったりしていた光明寺が、「悪魔の笛」に苦しめられているジローの姿をぼんやり見ているうちに、その頑固な記憶喪失症が、とうとう治ってしまったのである!

それはそれとして、光明寺の脳裏に浮かんだ回想シーン(と言っても、これは伊香保かどっかのロケの際に出てきた回想シーンの使いまわしだと思うが)に出てくる、お下げ髪のミツ子さんの、いつも以上にキャピキャピしてるところがめっちゃ可愛いのである!
光明寺「ここは何処だ? ミツ子は? マサルは?」
記憶が戻った光明寺であったが、行動パターンはいつもとさして変わらず、ヒトデムラサキや戦闘員の姿を見ると泡を食って逃げ出し、

光明寺「ジロー、助けてくれ、私をミツ子とマサルのところへ連れてってくれ」
ジロー「……」
公園の中で行き会った、全力で
「今それどころじゃないッス」オーラを発しているジローに縋りつく。
これならまだ記憶が戻ってない方がマシだったと思うジローであったが、嘘である。
長時間「悪魔の笛」に晒され続けたキカイダー、既にギルの忠実なしもべになっていて、

ギルの声「そうだ、キカイダー、光明寺を捕まえてダーク基地へ連れて来るのだっ」
ジロー「じたばたするな光明寺、抵抗すると命を落とすぞ」
光明寺に対し、そんな脅しの言葉まで口にする。

光明寺「ジロー、良心回路を、良心回路を使え」
ジロー「うう、ああっ……ぐっ」
光明寺「私だ、分からないのかジロー、あんな笛に負けるな、良心回路を使うんだっ!」
ジロー「……」
この時、
「その良心回路が使い物にならねえから苦労してるんだろうがぁっ!!」と怒鳴り返してやりたいのは山々のジローであったが、「悪魔の笛」に抗ってる最中で、それどころではないのだった。
で、最終的に、

ジロー「……」
ジローの良心回路が負荷に耐えかねてオーバーヒートを起こし、それに伴ってジローの全機能が停止して、光明寺の胸倉を掴んだ状態のまま、マネキン人形のように動かなくなってしまうのだった。
こうして、正義のヒーローがフリーズしていると言う前代未聞の事態のまま、37話へ続くのであった。
ちなみに36話の予告編には、早くもハカイダーが登場しているのだが、あれってサギだよな。
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