第14話「貸しちゃった事件!」(1975年1月15日)
管理人が、完全に自分のためだけに書いている「水もれ甲介」のお時間がやって参りました。
前回、滝代が体調を崩したことから、三ッ森工業所の事務員の必要性を痛感した甲介たちは、従業員のタケさんの親戚を紹介してもらうのだが、「陰山まこと」と言う名前から、てっきり男だとばかり思い込んでいたのが、まだ二十歳そこそこの女性だと知って驚くのであった。
今更断る訳にも行かないので、ひとまず家に住み込ませることになったのだが、神経が図太いのか、鈍いのか、まことは二日目の朝も、あてがわれた自分の部屋でグーグー眠っているのだった。

朝美「マコちゃん、マコちゃん」
まこと「ううーん、おかあちゃーん」
朝美「マコちゃん、起きて、早く起きてご飯の支度してくんなくちゃ困んじゃないよー」
まこと「フガーッ、うーん、あと5分……」
朝美が入ってきて起こそうとするが、まことは鼻いびきを掻きながら、人類が必ず一生に一度は言う台詞をつぶやいて、布団の中に潜り込んでしまう。
朝美「あーだめだめ、むにゃむにゃ言ってやっと起きたけど、また寝ちゃったわ」
滝代「ふふっ、他人の家で神経使ったもんだから、疲れたんじゃないの? もう少し寝かしといておやりよ」
朝美「そうね」
結局諦めた朝美が一階に降りて母親と話していると、
甲介「バカッ!」 いきなり甲介があらわれて大声を出す。
朝美「びっくりさせないでよぉ!」
滝代「おはようの間違いじゃないのかい」
甲介「間違いじゃないよ、バカ」
朝美「いい加減にしないと怒るわよ」
甲介「怒るのはこっちの方だよ、母さんのお人好しは正札つきだから仕方ないけど、お前までなんだよ、チャミー」
朝美「えー?」
甲介「えー、じゃないよ、あの女はな、客じゃねえんだぞ、母さんの具合も良くないし、お前にももう少し勉強してもらおうと雇ったんだから」
朝っぱらからガミガミ怒鳴り散らしていた甲介、まことを叩き起こそうと台所を出るが、起こすまでもなく、いつの間にか着替えてエプロンをつけたまことが入れ違いに入ってきて、滝代たちを追い立てると、テキパキと台所仕事を始めるのだった。
OP後、勝手口から入ってきた酒屋の六郎が、まことと初めて顔を合わす。

六郎「あー、そうか、あんただったのか、このうちへそのー、お手伝いさん兼事務員で来た、陰山まことって子は」
まこと「あたしってそんなに有名なの?」
六郎「い、いやね、この町内で起こったどんな些細なことも、この六さんの耳にはちゃんと入ってるんだよ」
まこと「六さん?」
六郎「そっ、大宮の六さん、いやね、甲ちゃんや輝ちゃんとは親友でね、あ、チャミーとは特に親しいんだよねー、今ね、この町内の噂では、チャミーがこの六さんに憧れてるんじゃないかって噂もチラホラっと出てるんだよね」
妄想と現実の区別がつかない六郎、聞かれもしないことをべらべらまくしたてていたが、まことはその顔を詐欺師でも見るような目でしげしげと眺めてから、
まこと「あんた、良くしゃべるねえ」
六郎「えっ?」
まこと「ぺらぺら喋る男には気をつけろって言われてきたけど、あんた私のこと誘惑する気ぃ?」
六郎「じょ、冗談じゃねえよ」
ほうほうのていで逃げ出した六郎、密かに作成している町内の若い女性の評価リストを広げ、まことの欄に「B20点」と書き記す。
ちなみに六郎によると、Bと言うのはブスのことで、20点と言うのは100点満点中20点のことらしい。
その晩、狂ったようにメシを掻き込んでいるまことを、甲介や輝夫が呆れたように見詰めている。
甲介「良くそれまで詰め込めるもんだな」
輝夫「はーっ、俺たちの二人分は軽いな」
滝代「いいじゃないの、ご飯ぐらいいくら食べたって」
イヤミ交じりに感心して見せる甲介たちに、滝代がお茶を啜りながら、とりなすように言えば、
朝美「そうよー、甲兄ちゃん、ちょっとマコちゃんのこといびり過ぎじゃない?」
チャミーも尖った声で甲介を非難する。
甲介「俺がー?」
朝美「そうよ、一旦預かった以上、もっと親切にしてあげてもいいじゃない」
甲介「余計なこと言うなよ、俺はね、この子のためを思って言ってるんだから」
甲介も負けずに言い返していると、
まこと「兄弟喧嘩なんかしないほうがいいよ」
当のまことがけろりとした顔で口を挟む。

輝夫「はっはっはっはっ、大丈夫だよ、母さん、この子人間が大きくできてるからぁ、はっはっはっはっ」
朝美「マコちゃん良くやってるわよ、今夜のおかずだってマコちゃんが作ったんだから」
輝夫「ほう、割とイケるじゃないか、なあ、兄貴?」
甲介「あたりめえだ、そのために雇ったんだから」
輝夫が朗らかに言って同意を求めるが、甲介は頑なに厳しい態度を崩さない。
しかし、普段滝代の手料理ばっかり食べているのだから、別の人間が作った料理なら、一口食えば、いや、一目見れば気付きそうなもんだけどね。
そんな甲介であったが、昼のうちに買っておいた包み紙を破いて、

甲介「ほらっ」
朝美「あらー、いいじゃない」
甲介「いいだろ?」
輝夫「この子にかい?」
甲介「ああ、あんな格好じゃな、株式会社三ッ森工業所の店番さしておけないからな」
既製品の制服を取り出して見せる。
それを受け取ったまことは、

いきなりその場で上着を脱ごうとして、甲介に「バカバカバカ!」と止められる。
ちょっとドキッとするシーンだが、次回作「気まぐれ天使」でも、渚が似たようなことをやっていたなぁ。
つまりは、まことも渚も、同じ系統に属するヒロインなのだ。
それを一口で説明するのは難しいが、どちらも天真爛漫と言うか、大雑把と言うか、外見は可愛いのにあまり女の子らしさのない中性的なキャラクターと言うか……
まことは、着替えのために二階に行く。

甲介「あんなの着ときゃ少しはサマになると思ってね」
朝美「フーッ」
なおもまことをバカにしたようなことを言う甲介を、チャミーは頬を膨らませて睨んでいたが、やがてまことを手伝うために自分も二階へ上がる。
その後、滝代が食事の後片付けをしているのを見て、
甲介「母さん、そんなことあの子にやらせればいいじゃないか」
滝代「……」
輝夫「どうしたんだろうな、あの子?」
甲介「はっ、あんまりサマにならないんで降りてこれねえんじゃないかな」
二人が碁を打ちながら声を揃えて笑うのを聞いていた滝代、聞こえよがしに溜息をつくと、
滝代「母さんは恥ずかしいよ」
甲介「そうだろ、俺も、あの子雇うの反対だったんだよ」

滝代「バッカッ! 母さんはお前が恥ずかしいって言ってんだよ」
輝夫「母さん……」
滝代「そりゃね、あの子は変わってるかもしれないよ、山出しの世間知らずかも知れないさ、年頃のね、娘らしい色気も持ってないよ」
甲介&輝夫(いや、誰もそこまで言ってないけど……) まことのことを弁護したいのか、けなしたいのか良く分からないことを言い出す滝代に、心の中でそっとツッコミを入れる二人であったが、嘘である。
滝代「だからってね、なにもお前があの子を笑う資格なんかありゃしないよ。私はね、お前たちをそんな人間に育てた覚えはないんだから」
珍しく母親に叱られて、二人が憮然としていると、ようやくまことが降りてきて、制服姿を披露する。

滝代「あらまあ」
朝美「どう、甲兄ちゃんのガールフレンドなんかより、ずっと良いと思わない?」
甲介「はっはっはっ、馬子にも衣装とはよく言ったもんだな」
輝夫「ほっほう、たまげたな」
滝代「ほんと、すっかり見違えちゃったわ」
すっかりOLっぽく変身したまことの姿に、口々に感嘆の声を上げる一同。
ま、思いっきりメイクも変わってるんだけど、そのことには触れないで上げて欲しいのデス。
と、突然事務所の電話が鳴り響く。
甲介「おい、お前出てみな」

まこと「私が?」
甲介に言われて、思わずハニワのように固まるまこと。
彼女は工場で働いた経験しかないので、そういうことはからっきし苦手なのだった。
甲介「能あるところで電話の応対も覚えて欲しいのう」
まこと「……」
それでも、口を開けたまま恐る恐る電話に近付き、おどおどしながら受話器を掴む。

まこと「もしもし……うん、そう」
甲介「うんじゃないだろう?」
まこと「はい!」
甲介「さようでございます」
まこと「さようでございます、えっ、ほんと? 綺麗だろうねー」
甲介「何が綺麗だって?」

まこと「うん、水がね、噴水みたいに噴き出してるんだって」
甲介「バカだなぁっ!」
甲介、慌てて受話器をもぎ取ると、

甲介「いえいえ、お客様のことじゃございませんよ、ええ、分かりました。すぐ伺いますから、はい、大変失礼致しました。どーも」
にこやかに言って速やかに電話を切る。
甲介「このオタンコナス! 俺んちが何の商売だか、ちゃんと分かってんだろう、お前は?」
輝夫「まだ無理なんだよ、電話の応対は」
ともかく、輝夫が修理に行こうとするが、
甲介「お客さんの名前は?」
まこと「えっ? さあ?」
甲介「さあって聞いたんだろ?」
まこと「聞かなかったよ」
甲介「聞かなかった? はぁーっ」
絶望の呻き声を上げながら、その場に腰を落とす甲介。
まこと「そんじゃあんたが聞けば良かったのにー」
でも、いみじくもまことが指摘したように、それまでのやりとりでまことがそんなことまで聞いてないことは分かりきっているのだから、この件については甲介も同じくらい悪いと思う。
輝夫「おい、兄貴、あの調子で電話番されたら、店は三日で潰れちゃうぜ」
甲介「……」
額を集めて緊急の最高経営者会議を開いた三ッ森兄弟は、まことを事務員として早急に鍛えることにする。

甲介「わかったねえ、電話ってのは相手が見えないんだから、わかったね。じゃあもう一度やってごらん」
まこと「水もれ水道店でございます」
甲介「三ッ森工業所!」
まこと「三ッ森工業所でございます。あんただぁれ?」
甲介「まぁーたーっ、もっと丁寧な言葉使えって言ってんだろ!」
まこと「どちらでしょうか?」
甲介「どちら様でしょうか?」
まこと「どちら様でしょうか?」
甲介「そーそー、いいよー」
まこと「どちら様でしょうか?」
甲介「それは言ったでしょ?」
と言う訳で、夜遅くまで、甲介が手取り足取り電話の応対を仕込むという図になる。
この後、忠助が訪ねて来て、三ッ森家の隣に住んでいる順子(左幸子)と言う未亡人との縁談についてごちゃごちゃ話すシーンとなるのだが、今回のストーリーとは関係ないのでカットする。
この忠助と順子のちょっとしたラブストーリーが中盤のひとつのテーマとなっているのである。
結果だけ書いておくと、忠助は見事にフラれ、順子は山田吾一演じる宮部と言う男とくっついてしまうのである。
翌朝、タケさんと甲介たちがまことのことであれこれ話していると材料屋の正次が資材を持って入ってくる。

甲介「遅いよ、ショウちゃん」
正次「ごめん、ごめん」
まこと「いらっしゃいませ、どちら様でしょうか?」
正次「は? いや、あの……」
まこと「どちら様でしょうか?」
甲介「あればっかだ」
ゆうべ甲介にたっぷり仕込まれた(性的な意味でなく)まこと、オウムのように同じ言葉を繰り返して正次を面食らわせる。
正次「おれぇ、いや、あの僕ぅ……テルちゃん、紹介して!」
口の中でもごもご言っていた正次、悲鳴のような声を上げて輝夫に助けを求める。
輝夫「ああ、材料屋のショウちゃん」
正次「ひ、樋口正次です! そい、じゃあ、この人が?」
輝夫「おい、ショウちゃん、何をそんなにコチコチになってるんだ?」
正次「は? いえ、あのー、僕……材料、ここ置いてくから」
結局、正次、ろくな挨拶も出来ないまま、ぼーっとした顔で帰って行く。
分かりやすい一目惚れのシーンであったが、まことのことを女とも思っていない二人は全然気付かず、そのおかしな様子をゲラゲラ笑うだけだった。
この正次のまことに対する恋愛感情が、最終回の伏線になっているのである。
その後、住宅の建設現場で、水道管の敷設工事をしている甲介と輝夫。

甲介「だいじょうぶかな?」
輝夫「兄貴、どうしたい、見てやろうか?」
甲介「ばか、あの子のことだよ、まだ何かトチッてんじゃないかと心配なんだよ」
甲介は、若い頃に家業を継ぐのがいやで家を飛び出したきりで、つい最近現場に復帰したばかりなので、しょっちゅうヘマをしては弟の輝夫に尻拭いさせているのである。
輝夫、改まった口調で、
輝夫「なあ、兄貴、思い切ってあの子を酒井のおじさんのとこに預けといたほうがいいんじゃねえか?」
甲介「なんで?」
輝夫「いや、そのほうが、あの子にとっても幸せだと思ってさぁ。うちで兄貴や俺にバカだチョンだってつべこべ言われるよりもさ」
甲介「はっはっはっはっ、あの子はね、どんなこと言われても気にするような女じゃないんだ。もっと大物なんだ、大物」
甲介、輝夫の提案を論外だとばかりに笑い飛ばす。
輝夫「じゃあ何か、兄貴はあの子をずーっとうちにおいとくつもりなのか?」
甲介「うるせーなー、仕事、仕事!」
この後、例によってヘマをして、「水もれ甲介」の渾名どおり、盛大に水を噴出させる甲介だった。
一方、二人の心配をよそに、台所で楽しそうに包丁仕事をこなしているまこと。

滝代「マコちゃん、あんたお料理上手ねえ。いまどきの女の子で、そんなにうまく包丁使えやしないわよ」
まこと「ああ、私、お料理好きなんです、それにこうやってると田舎でかあちゃんに色々教わったの思い出しちゃって……」
管理人、この滝代の台詞を聞いて、何千年も昔の石版に記されていたと言う「近頃の若いもんは……」と言う嘆きを引き合いに出すまでもなく、年寄りが自分の若い頃と引き比べて現在の若者のことをけなしたくなる心理と言うのは、古今東西共通の心理なのだなぁと思った次第である。
滝代、ここだけの話だという風に声を落として、
滝代「あのね、甲介がつらく当たってもね、辛抱してね」
まこと「あーら、あたしなんとも思ってませんよ」
滝代「あの子、口悪いけどね、あれでなかなか気は良いのよ」
まこと「あたし、ここおんだされたら、何処にも行くとこないもん」
滝代「……」
太平楽なようでいて、自分の子供たちよりよっぽど苦労をしてきたことがうかがえるまことの言葉に、いたわりの視線を向ける滝代であった。
などとやってると、甲介が出先から電話をかけてくる。

滝代「え、集金? あ、西田さんの? まぁしょうがないわねえ、どうしてそんな大事な集金を……じゃあマコちゃんに行ってもらおうか」
甲介「ダメだよ、ダメだよ、もし金でもおっことしたらどうするんだよ。あの金はね、明日じゅうに銀行に入れないとね、不渡りになっちゃうんだよ」
甲介に拝み倒れて、やむなく滝代が病み上がりの体に鞭打って中目黒まで集金に行こうとするが、

まこと「ダメよ、まだ病気も治ってないのに」
滝代「だぁいじょうぶよ」
まこと「私が行ってくる」
滝代「いいの、あんた留守番してて」
まこと「ダメ、絶対許さない!」
まこと、いくら言っても滝代が自分で行こうとしているのを見て、
まこと「おばさん、私、そんなに役に立たない?」

滝代「……」
まことの、拗ねたような、開き直ったような問い掛けに、滝代もふと心を動かされたように視線を動かす。

まこと「目黒なら知ってるよ」
滝代「え?」
まこと「田舎の友達が住んでるんで、訪ねて行こうと思って地図調べたの」
滝代「そう……それじゃあ、頼もうかね」
しばし考えていた滝代、まことの願いを聞き入れることにする。
おそらく、「可愛い子には旅をさせよ」の心境であったのだろう。
まこと「任しといて!」
滝代「それじゃね、大事なお金だから落とさないようにするのよ」
滝代、黒の手提げカバンの中に必要なものを入れてやると、細々とした注意を与えて送り出す。
だが、それから5時間経っても、まことは一向に帰って来ない。

既に学校から帰宅した朝美が二階から降りてくるが、自分の力を信じてそのお尻に念力集中すれば、パツンパツンの生地の向こうにふっくらとした下着のラインが薄っすらと透けて見えるのである!!

朝美「あら、まだマコちゃん帰ってきてないの」
滝代「そうなんだよ、2時ちょっと過ぎに出かけたんだからね、もうとっくの昔に帰ってなきゃならないんだけど」
朝美「きっとどっかで迷ってんのよ」
滝代「だって地図ちゃあんと調べてあるって言ってたもの」
朝美「そーんなのあてになんないわよ、お風呂屋さんからうちに帰る時だって、迷っちゃったしさぁ」
前回、チャミーと一緒に銭湯に行ったまこと、ひとりで勝手に帰ろうとしてふらふら町内を歩き回り、甲介たちは大騒ぎしたのである。
滝代、ふと思い立って電話のところへ行き、その西田と言う客の家に電話をする。

ここで管理人は、それを座敷から見ているチャミーの画像を、ストーリーには全く関係ないのに二枚も貼ることに、いささかの躊躇も感じなかったのである。
何故ならば、管理人は、村地弘美さんの画像を貼りたかったからである!!
それ以上の理由が必要であろうか?

滝代「こちら三ッ森工業所でございますが……毎度お世話になりまして……あのう、うちのものがそちらに集金に上がったと思いますが……はい、ああ、そうですか、それで何時頃? ええ、4時ちょっと前? いえ、ちょっと帰りが遅いものでございますから。いえいえ、あの、もう、ほどなく帰って来ますでしょう」
それはともかく、集金は無事に済ませたことを知って胸を撫で下ろす滝代であったが、それから3時間以上経っていることが分かり、また別な心配が湧いてくる。
滝代「ちょうどラッシュにぶつかってさぁ、立ち往生してるんじゃないの?」
朝美「お金すられなきゃいいけどね」
滝代「ええ、脅かさないでよーっ」
朝美の何気ない一言に、ピグモンのように短い両手を顔の前でバタバタさせる滝代。
滝代「それでなくったって、甲介に私に行ってくれって頼まれたんだもの。それを私があの子を使いに出しちゃったんだからねえ」
そんなことを知れば甲介が激怒するのは目に見えているので、甲介より先に帰ってきて欲しいと願う滝代であったが、その願いも空しく、ほどなく、仕事を終えた甲介たちが帰宅する。

甲介「母さんごめんね、しんどいこと頼んじゃって……金貰った?」
滝代「うん、貰うことは貰ったんだけど……」
甲介「ああ、そう」
朝美「もうすぐ帰ってくるわよ、マコちゃんが」
甲介「ああ、あの子のことはどうでもいいんだ」
朝美「お金、あの子が持ってんのよ」
甲介「なにぃっ!」
滝代の代わりにチャミーが打ち明けると、案の定、たちまち甲介のニコニコ顔が鬼の形相に変わる。
滝代「はぁっ、私が頼んだのよ、代わりに行って頂戴って」
甲介「母さん、何故あんなのに頼んだのよ!」
竹造「あんなのってなんだよ?」
甲介の言葉に、聞き捨てならぬという顔でタケさんが立ち上がる。
少し遅れて輝夫が入ってくるが、
甲介「おい、テル、驚くな、例の金な、あの子が取りに行ったんだってよ」
輝夫「ええーっ?」
輝夫も、そう聞いた途端、思わず声を上げる。
竹造「ええって、なんだ、なんて驚き方してんだ、だいじょうぶだって間違いないってば」
自分の姪のことなので、タケさんはムキになって庇うが、
甲介「タケさんは黙っててくれよ、とにかくねえ、あの金がないと明日俺たち大変なことになるんだから!」
滝代「だいじょうぶなんだよ、お金はちゃんと頂いてね、向こうは4時前に出てるんだから」
甲介「4時? 今何時だと思ってる、こんな時間じゃないか」
竹造「なんだ、甲ちゃん、そんじゃマコのことは全然信用してないような言い方じゃないかよ」
朝美「そうよ、悪いわよ、そんなの」
輝夫「しかしなんだか胸騒ぎがするよなぁ。落っことしたり、すられたりとかさぁ」
竹造「なんだよ、テルちゃん、テルちゃんまでそんなこと言わなくたって良いじゃねえか」
輝夫「だってタケさん、ほら7時過ぎちゃってんだぜ?」
竹造「7時たってねえ……7時……」
威勢の良いことを言っていたタケさんだったが、輝夫に客観的事実を示されると、急に元気がなくなって黙り込んでしまう。
後編に続く。
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