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「水もれ甲介」傑作選 第18話「受験シーズンの幽霊」 前編


  第18話「受験シーズンの幽霊」(1975年2月9日)

 冒頭、酒井工務店の前で、敬一がおもちゃのカメラをつまらなそうに振り回していると、父親の忠助たちが仕事から戻ってくる。

 
 敬一「父ちゃん、カメラは?」
 忠助「そんなもん買えるわけねえだろ、仕事してるんだから」
 輝夫「なんだ、敬ちゃん、カメラ欲しいのか」
 敬一「うん、誕生日祝いに買ってもらうんだ、大人用の凄い奴……3万円の!」
 竹造「はぁ、豪勢だね、ははは」

 3万円のカメラと聞いて、竹造が梯子を持ったまま感嘆の声を上げ、

 竹造「3万円か……それだけあったら10日以上飲めるよなぁ」

 ついで、いかにも酒飲みらしい意地汚い勘定をして見せる。

 竹造、はやいところ入院させた方が良いんじゃないかと思われるほど重度のアル中で、配管工事中も忠助の目を盗んで日本酒を飲むほどなのだ。

 で、その敬一のカメラが、今回、思わぬ騒動を引き起こすことになるのである。

 夜、一日の仕事を終えて帰ってきた輝夫、自分の部屋に入るなり、クッションを枕代わりにして倒れ込む。と、待ち兼ねたように朝美が入ってきて、

 
 朝美「テル兄ちゃん、ちょっと教えて、ね?」
 輝夫「頼むから今日はあとにしてくれよ、今日はビルの配管があったんで疲れちゃってんだ」

 妹が三度のメシより好きな輝夫であったが、よほど疲れているのだろう、朝美の頼みもすげなく断る。

 それでもしつこくおねだりされて、仕方なく問題集か何かに目を通すが、今度は急に怒り出す。

 輝夫「なんだ、お前、こんな簡単なものがわかんないのか? もうすぐ試験だってのに本気で勉強したのか?」

 話にならないとばかり問題集を突き返すと、クッションに抱きついたまま、

 輝夫「お前なぁ、もっと腹ぁ据えて真剣にやれよ。もし大学に受かんなかったら、お兄ちゃん、勘弁しねえからな!」
 朝美「……」

 輝夫のきつい言い方に、チャミーがムッとしたのは言うまでもない。

 輝夫、大学にこそ家庭の事情で行っていないのだが、高校時代は造船技師を目指していたくらいなので、数学も英語も得意なのだ。

 一階からいつものように甲介とマコがじゃれあいながら上がってくると、朝美が輝夫の部屋から出て来る。

 朝美「お兄ちゃんのために大学受けんじゃないわよ!」
 甲介「どうした、チャミー、勉強やってるか」
 朝美「やってないわよ全然!」
 甲介「ええっ?」
 朝美「人の顔さえ見りゃ勉強勉強って、まるでバカの一つ覚えみたい!」

 腹立たしげに言うと、自分の部屋に戻ってしまう。

 OP後、自転車をついた忠助が、竹造に連れられてある店の前までやってくる。

 
 忠助「お、おい、なんだこりゃ、質屋じゃねえか」
 竹造「ここのおやじってのはよ、あっしと飲み友達なんだ」
 忠助「それがどうしたんだよ?」
 竹造「だからさあ、何か欲しいものがあるときにはね、ここに来るのに限る……」
 忠助「お、お前」
 竹造「いや、お前じゃないんだって、なんだってあるしね、市価の2/3で買えるの」
 忠助「質流れのぉ……カメ、カメラを敬一に買ってやれっていうのかよ」

 忠助も、最初は子供の誕生祝いを質屋で買うなどもってのほかだという顔をしていたが、結局「背に腹は替えられない」と言うことで、竹造に続いて質屋の暖簾をくぐるのだった。

 しかし、何かを安く手に入れたいという時に、真っ先に質屋に行くというのは、まさに70年代ならではの発想だよね。

 さて、朝美が学校の休み時間、校庭の芝生の上に座って溜息をついていると、

 
 銀子「チャーミー、どうしたの、元気ないね?」
 朝美「毎日ユーウツ、わかんないとこはわんさとあるし、もう日にちはないしさぁ」

 銀子、朝美のそばに腰を下ろすと、

 銀子「なに言ってのよー、あんたにはテル兄ちゃんてものがついてるじゃないの」
 朝美「テル兄ちゃん、最近ちっとも勉強見てくんないんだぁ」
 銀子「どうしてえ?」
 朝美「忙しいんでしょ、きっと……もうどうだっていいんだ、大学なんて」
 銀子「チャミーらしくないなぁ、いつものファイトはどうしたの?」

 珍しく朝美が投げやりな台詞を口にするのを見て、親友として銀子が叱るように励ますが、

 朝美「だってさぁ……」

 朝美はなおも拗ねたように俯いて、芝生の草を毟るだけ。

 と、銀子が何か良いことを思いついたように目を輝かせ、

 銀子「そうだ、それじゃあさぁ、学校が終わったら、私の従兄弟のアパート行かない?」

 
 朝美「従兄弟?」

 
 銀子「うん、東都大のね、秀才なんだよ、彼! まとめて勉強教えてもらっちゃおう!」

 健康的な、若さがはちきれんばかりの笑顔で提案する銀子であったが、朝美はいかにも気乗り薄な様子だった。

 さて、敬一は念願の高級カメラを買ってもらい、大喜び。

 敬一「すげーや、セルフタイマーまでついてるぜ!」

 うーむ、カメラのセルフタイマーで、そんなにコーフンできる時代だったんだなぁ。

 やっぱり、物質的豊かさと、精神的豊かさと言うのは、ある程度反比例するものなのではないかと思う。

 
 忠助「そ、そうだろ、セーフだってアウトだってみんなついてんだよ」
 敬一「何処で買ったの?」
 忠助「う、だいじょぶ、信用のおける店で買ったんだから」

 敬一が初子にお小遣いを貰って、いそいそとフィルムを買いに行った後、

 
 初子「あっきれたわぁ、子供のプレゼント、質屋で買ってくるなんて」
 忠助「半値だ」
 初子「だって誰が使ってたかわかんないじゃない」
 忠助「バカ言え、質屋ほど品物を大切に取っとく店はないんだよ。下手で店で新品買うよりよっぽど安全なんだよ」

 質流れのカメラで15000円節約できた忠助、あっさり宗旨替えしたのか、今度は自分が質屋の素晴らしさを説くのだった。

 
 一方、堀内と言う古い屋敷の前に、すらっとした、大学生くらいの青年がうろうろしていたが、水道の修理依頼を受けて自転車を飛ばしてきた甲介がこちらにやって来そうなのを見て、後ろ暗いことがあるようにその場から走り去る。甲介は何も気付かず、

 甲介「お、ここか、堀内、堀内、堀内と……」

 おとなうと、品の良い中年の婦人が応対に出る。

 だが、さっきの青年が再び戻ってきて、門前から家の様子をうかがっていた。

 甲介も段々仕事の勘を取り戻してきたのか、その仕事をつつがなく片付ける。

 
 信子「あなた、コーヒーお嫌い?」
 甲介「いやぁ、好きの上に大がつくぐらいです。いやぁ濾し器を使ってるのか、本格的だなぁ」
 信子「息子がこれじゃないと飲まないものだから」
 甲介「そうですか、学生さんですか」
 信子「ええ、今いないの、うちには」
 甲介「ああ、それじゃ地方の大学ですね」
 信子「……」

 甲介、コーヒーをご馳走になりながら何の気なしに言うが、その言葉に奥さんがうかない顔になったのには気付かなかった。

 さっきの青年、なおも庭先を所在なげにうろうろしていたが、今度は路地の方から子供が来たのを見て、慌てて玄関脇の垣根の後ろに隠れる。

 子供はカメラを構えた敬一で、ちょうどそこへ、仕事を終えた甲介が家から出て来る。

 
 甲介「お、敬坊、すげえキャメラ持ってるな、どうしたんだこれ」
 敬一「父さんに買ってもらったの」
 甲介「おじさんに? へーっ、おじさん無理したな」
 敬一「ちょっとそこに立って」
 甲介「しかしこんな格好だから……」
 敬一「いいから、いいから」

 モデルになってくれと言われ、甲介は少し面映そうに距離を取り、直立不動となるが、

 
 敬一「オッケイ、上出来!」

 敬一がシャッターを切った瞬間、あの青年が彼らの様子をうかがうように、垣根の上から首だけ出す。

 だが、甲介は勿論、敬一も青年の存在には全く気付かず行ってしまう。

 さて、チャミーと銀子は、秀才と呼び名も高い銀子の従兄弟・杉本の下宿にお邪魔し、懇切丁寧に勉強を教えてもらっていた。

 
 杉本「これは二次方程式の立て方が違うんです。いいですか……」

 杉本がさらさらと実際に解いて見せると、チャミーが思わず感嘆の声を上げる。

 朝美「あーっ、そっかー!」
 杉本「簡単ですよ」
 銀子「そう言われてみりゃ簡単だけど、ねえ?」
 朝美「杉本さんの頭を貸して欲しいわ。試験の時だけ」
 杉本「いやぁ、みんな学力にそんな相違はないんだ、あとはハートで決まるんです」
 銀子「ハート?」
 杉本「うん、精神力と落ち着き、君たちは少し興奮し過ぎてるなぁ」

 杉本、おもむろに背後の本格的なステレオにレコードをかけて、クラシック音楽を流し始める。

 
 銀子「なにこれ?」
 杉本「レコードさ。この円盤の上を針が動いて、音楽が流れるのさ」
 銀子「バカにしてんのか?」

 じゃなくて、

 杉本「モーツァルトさ、僕はいつもこれを聞きながら勉強するんです。いい音楽は勉強の邪魔になるどころか、脳細胞に栄養を与えますからね」

 杉本の言葉に納得したように頷いてから、なんとなく銀子が笑うと、

 
 それにつられて、チャミーもとろけるような笑みを浮かべるのだった。

 杉本式勉強法で、久しぶりに充実した時間を過ごしたチャミー、夜になってから、「タラランタラタンタラタンターン、タラランタラランタララーン~♪」と口でリズムを奏でながら、ステップを踏むようにして帰ってくる。

 
 朝美「タンタンタンタンタンターン、ターンタン!」

 「ただいま」も言わず、階段を上がって自分の机に落ち着いて、音楽に区切りをつけると、

 朝美「モーツァルトもいいけど、彼もイカしてんなぁ」

 そうつぶやいて椅子を一回転させてから、

 
 朝美「うふっ」

 口を半分開けて笑うチャミーが、死ぬほど可愛いのである!

 翌日、三ッ森工業所の前で甲介と正次がトラックから荷物を降ろしていると、六郎と敬一が連れ立ってやってきて、一枚の写真を見せる。

 それは、この前、甲介が堀内家の庭で撮ってもらったものだった。

 
 甲介「ははは、映ってる、映ってる」
 正次「敬ちゃんが撮ったの? よくピン(ト)が合ってるね。ここをトリミングすればもっとよくなる」
 甲介「ああ、そう、あのな、このショウちゃんはなぁ、写真にはちょっとうるさいんだよ。自分で現像したりすんだぜ」

 甲介たちは、あれこれ敬一の写真を評していたが、

 六郎「あのさぁ、何か気がつかねえかい?」
 甲介「何が?」
 六郎「いや、なにがってほら、この塀の上」

 
 正次「あれ、顔だな、こりゃ」

 神妙な顔をしている六さんに指摘されて、漸く二人は、背後の垣根の上にちょこんと乗っている男の首に気付く。

 実際は、あの怪しい青年がたまたま映り込んでしまっただけなのだが、

 正次「誰だろう?」
 甲介「しらねえな、敬坊、こんなところ誰かいたか」
 敬一「さあ?」

 怪訝な顔をする甲介たちに、六郎はこれは心霊写真に間違いないと断言する。

 なにしろ当時は、超能力やら予言やらツチノコやらで、日本中がオカルトブームに沸いていた頃であり、有名な中岡俊哉の心霊写真本が発売されたのがこの前年だから、「心霊写真」と言う存在が一般的にも認知され始めていたのだろう。

 正次や六郎はむしろ楽しそうにその話で盛り上がるが、否定論者と言うより、ただの怖がりの甲介はフィルムの傷か何かの間違いだと躍起になって主張する。

 正次「お、敬坊、ネガ貸してみな、俺いますぐ、引き伸ばして焼いてくるからさ」

 特に説明はないが、この後、みんながあちこちで見ている写真は、正次がもっと良く見えるように引き伸ばして何枚か焼き増しした写真なのであろう。

 敬一、自宅に戻ってその写真を自慢げに姉に見せる。

 現実的な初子は気味悪がってすぐ捨てろと言うが、

 
 敬一「冗談言うなって、これ新聞かテレビに売り込むんだ、恐怖の心霊写真、映したのは超能力の天才少年・酒井敬一君です。ジャジャジャジャーン! やったーっ!」

 両手を広げ、テレビのナレーションのようなことを叫ぶ敬一。

 これまた世相を如実にあらわしてる台詞だよね。

 何しろ当時は、スプーンを手品でこねこね曲げるだけでヒーロー扱いされる時代だったのである。

 それでも姉にガミガミ言われて、やっと宿題をしに二階の勉強部屋に行く敬一だった。

 威勢が良いようで、その手の話がからっきし苦手なところは父親そっくりの初子、アイロンをかける傍らこわごわ「心霊写真」を見ていると、ガラガラと戸を開けて竹造が入ってくる。

 竹造「こんちは、親方いますか」
 初子「ちょっとタケさん、こっち来て、あんたろくでもないことしてくれたじゃない? 何よあのカメラ」
 竹造「カメラ? あれ絶対に壊れないって質屋のオヤジ言ったんだけどな」
 初子「壊れてるよりもっと悪いわよぉ」

 汚いものでも扱うように、「心霊写真」を竹造に投げつける初子であった。

 
 そんなある日、輝夫はとある喫茶店に呼ばれて水道の修理を行う。

 マスター「いやねー、素人が下手に手ぇ出さない方が良いと思ってね」
 輝夫「そう、こっちもね、そのほうがありがたいんですよ」

 マスターを演じるのは、同時期に放送されていた「ウルトラマンレオ」で、ツルク星人に惨殺されたトオルたちの父親を演じていた二見忠男さん。

 気さくなマスターはおやつ代わりにスパゲティーをご馳走しようと言うが、

 
 それを作ってくれたバイト青年が、他ならぬ、「心霊写真」の幽霊であった。

 同じ頃、甲介は、念の為堀内家へあの写真を持って行き、奥さんに見せていた。

 
 甲介「あの時、奥さんひとりきりだったでしょ? もしかしたら泥棒じゃないかと思って……」
 信子「竜太郎だわ」
 甲介「はぁ?」
 信子「息子の顔よ……半年前に家出した」

 写真を一目見るなり、奥さんの信子は自分の息子だと断言し、さらに、既に息子は死んでいて、その霊が帰って来たに違いないと言い出す。

 信子が写真に向かって涙ながらに語ったことによれば、竜太郎は、大学に進学しろという両親に反発して家を出てしまい、それっきり音沙汰がないのだという。

 
 そんな話を聞いた後で屋敷の外観を眺めれば、家の周りに瘴気のような靄が立ち込め、

 
 物干し台にぶらさがってビニール紐が、まるで首吊りの輪のように見えてしまう甲介だった。

 一方、学校から帰ってきたチャミーに、輝夫が久しぶりに一緒に勉強しようかとおもねるように言うが、

 
 朝美「結構、無理しなくても」
 輝夫「誰が無理だと言った?」

 朝美、階段をのぼりかけて立ち止まり、振り向くと、

 朝美「あたしもう、試験のことあんまり考えないようにしたの。そのときになって受けたくなったら受けるし、イヤだったらやめるし」
 輝夫「なにぃ」

 輝夫、朝美の言葉にたちまち鬼の顔になるが、

 
 朝美「もお、たくさん! その怒った顔見飽きちゃったの、悪いけど!」

 朝美、心底ウンザリしたように叫ぶと、ドンドン足を踏み鳴らして二階へ行ってしまう。

 輝夫「チャミー、待て!」

 輝夫が靴を脱ぎ捨てて二階に上がった後、

 
 まこと「えーっと、ご破算で願いましては……」

 何度やっても計算が合わない伝票の整理をもう一度始めるまことであったが、

 
 輝夫「バカヤロウ!」
 まこと「ああ、またやり直しか……」

 二階から突然聞こえてきた輝夫の怒鳴り声に、結局ダメになるのだった。

 そう、当時はまだ電卓じゃなくてそろばんで計算してるところも多かったのである。

 もっとも、電卓が小型化して価格も下がり、本格的に普及し始めていた頃なんだけどね。

 ま、価格が下がったといっても、当時の金額で5000円くらいしていたらしい。

 後編に続く。
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