「水もれ甲介」傑作選 第22話「兄妹じゃない!」 前編
- 2021/03/13
- 20:04
第22話「兄妹じゃない!」(1975年3月9日)
大学受験まであと僅かとなり、チャミーの部屋で最後の追い込みをしているチャミーと銀子。
が、銀子は勉強そっちのけで、何かの雑誌を読み耽っている。

銀子「あなたの幸福度をテストする。あなたは理想の男性が現実にいると思いますか?」
朝美「こら、だめじゃない、ラストスパート掛けようって言ったの誰なのよ」
銀子「もうやめた! 諦めたわぁ、いまさらハッチャキになったって手遅れよ」
頭は悪いが、集中力と根気もない銀子、チャミーに注意されると、雑誌を机に叩きつけてヤケクソ気味に叫ぶ。
実際、チャミーと違い、銀子の場合は本人もまわりも、なにがなんでも大学に入ろうなどとは思っていないようであった。

銀子「私、一年浪人する!」
銀子、試験も受けていないのにいきなりそんなことを言い出す。
朝美「私もー」
と、本気なのかどうか、朝美も言下に同調する。
銀子「だいたい私は優雅過ぎてさ、受験勉強なんて品のないものには向いてないのよ」
朝美「おんなじ!」
銀子「うふふふ」
チャミー、銀子の横に座り込むと、銀子の持っていた雑誌に目を落とす。
無論、甲介たちに迷惑を掛けることになるので、浪人する気などさらさらなかったろうが、ちょっと息抜きがしたかったのだろう。

朝美「ふんふん、現実に理想の男性がいると思いますかねえ?」
チャミーがさっきの質問を繰り返すと、
銀子「はい、はい! 思います、いると思います」
朝美「へーっ、どこにいんの、その人?」
銀子「やぁだぁ、わかってるくせに、ふふふ」
朝美「わからないわ、ぜんぜん」
銀子「いじわる!」

銀子「おお、私のロミオ様!」
いつも、若さがその小さな体の中ではちきれんばかりに駆け巡っていると言う感じの銀子が猛烈に可愛いのである!
あと、何気におっぱいがでかいのもたまらんものがあるのです!
やがて甲介が帰ってくるが、居間にいた滝代に誇らしげにあるものを見せる。
滝代「お守り?」
甲介「そう、湯島天神入学試験用、霊験あらたかなるお守りでござるぞ」
おどけた口調で披露してから、いそいそと二階に上がりチャミーの部屋に行くが、お守りを渡す前にあれやこれや話しているうちに、輝夫が顔を覗かせる。

銀子「あっ、理想の男性!」
「理想の男性」の出現に、思わず叫ぶ銀子。
輝夫「うん?」
甲介「こいつが? はっはっはっ、冗談だろ」
輝夫「兄貴、何やってんだ、こんなところで? 勉強の邪魔じゃないか」
甲介「そ、そうじゃないよ、俺はね……」
輝夫に注意された甲介、急いでお守りを取り出そうとするが、

甲介「これをね……」
輝夫「チャミー、これな、湯島天神入学試験用、霊験あらたかなるお守りであるぞ。これさえあれば合格間違いなしだからな」
銀子「うらやましいなぁ、チャーミーったら」
それより一瞬早く、輝夫が甲介と同じような口上を述べながら、全く同じお守りを取り出して朝美に渡したので、甲介、出すに出せなくなってしまう。
銀子「やっぱり違うわね、邪魔するだけの人とは」
甲介「ばかやろう、そんなお守りなんて効くわけねえじゃねえか、お守りが効くんだったらねえ、日本中みんな大学生になってるよ、ばかやろう……聞くわけねえよばかやろう……」
甲介、勢い、お守りの効用を否定する側にまわりつつ、人知れず袖を涙で濡らすのだった。
これはあくまで「まくら」のような小エピソードだが、次回作「気まぐれ天使」の15話「嗚呼!花の成人式」では、お守りを晴れ着に代えて、なかなか感動的なメインストーリーに仕立て直されている。
だが、OP後、銀子は幸か不幸か、本当に浪人する羽目になる。
と言うのも、翌日かどうか不明だが、三ッ森工業所の電話がけたたましく鳴り響き、輝夫が出ると、
輝夫「どうした、チャミー? え、銀子ちゃんが?」
朝美「下校の途中、事故に遭っちゃったの、私の目の前で……テル兄ちゃん、早く来て、お願い」
輝夫は取るものも取りあえず病院へ向かう。

輝夫「どうした?」
朝美「今から手術だって」
輝夫「家族の人は?」
朝美「お母さんだけ、お父さんは会社が遠いもんだから」
輝夫「そうか」
と、朝美は説明するのだが、肝心の母親が顔を出さずじまいと言うのはちょっと物足りない。
まあ、女優さんの都合がつかなかったのだろう。

朝美「怖いわ……」
親友の銀子の身に万が一のことがあったら……と、生きた空のしない朝美、自然と兄の胸に顔を押し当て、

輝夫も、優しい手つきでその頭を撫でてやるのだった。
と、手術室からひとりの看護婦さんが出てきて、
看護婦「すいません、O型の血液型の人、いらっしゃいませんか」
ドラマでは定番の台詞を口にする。
教師「あ、僕、O型です」
生徒「私も……」
朝美「私はA型だわ」
輝夫「あ、僕はO型だと思いますけど」
輝夫も、それが後々重大な問題に発展するとも知らず、何の気なしに応じてしまう。

看護婦「鮮血を輸血しなければならないかもしれないんです、採血してもいいってかたは、一応調べさせていただきたいんですが……」
ちょっと小奇麗な看護婦さんを演じるのは有吉ひとみさん。
このレビューを書いた後で知ったのだが、「パパと呼ばないで」にもレギュラー出演しているのである。

教師「いいですよ、どうぞ」
看護婦「ではこちらへお願いします」
看護婦さんに案内されて、O型の人たちがぞろぞろ部屋の中に入っていく。
ちなみにこのツインテールの女の子もかなりの可愛らしさだが、次の23話では、朝美と一緒にスキー旅行に行くことになる。
朝美「私も使って欲しいわ」
女生徒「仕方ないわよ、血液型が違うんだもの」
結局、朝美の心配は杞憂に終わり、その晩、いつもと変わらぬ夕餉を囲んでいる三ッ森家の人たち。
滝代「でも、良かったわねえ、手術が上手く行って」
味噌汁を啜りながら、自分の娘のことのように銀子の無事を喜ぶ滝代。
赤木春恵さん、「渡る世間」と違って、このドラマではめちゃくちゃイイ人なのである。

朝美「一月もすれば全快するって、怪我の跡も残んないって」

まこと「ほんとによかったねえ、銀子さん」
朝美「テル兄ちゃんが献血してくれたお陰よ」
まこと「でも珍しいね、最近じゃ保存してあるの使うんでしょ?」
輝夫「いや、時々ね、患者の体質によってはね、新鮮な血を輸血した方がいいときがあるんだよ」
まことが視聴者のツッコミを先回りするようにもっともな疑問を呈するが、嘘かほんとか、輝夫がそんな解釈を加える。
これから10年後の作品だと言うのに、臆面もなくそんなシーンを入れた上、何の言い訳もしなかった「スクールウォーズ」に比べれば、100倍良心的と言えるだろう。

朝美「でも、がっかりだわ、テル兄ちゃんと血液型が違うなんて……」
そんな中、朝美が何気なくつぶやくが、

甲介「……」
輝夫「……」
それを聞いた途端、甲介たちが固まり、滝代もご飯が喉につっかえそうになる。
が、さいわい、朝美は何も気付いていない様子。
まこと「仕方ないよ、私だって兄ちゃんとは違うよ」
朝美「甲兄ちゃん、何型?」
甲介「いや、さぁ、俺は何型だったっけな?」
滝代「そんなことよりね、こうなったら明後日からの試験、銀子さんの分まで頑張らなきゃダメよ」
三人にはその話を広げて欲しくないと言う気持ちがあるので、滝代はさりげなく話題を逸らして、とってつけたように発破を掛ける。


朝美「……」
滝代の顔を見返すチャミーが奇麗なので思わず二枚も貼ってしまった管理人であった。
しかし、さすがにそろそろ髪切ったほうが良いんじゃないかとは思う。
夕食後、自分たちの部屋に戻ってきた甲介は、障子を閉めるなり、輝夫をぶっ飛ばす。

輝夫「なにすんだよぉー」
甲介「シーッ、人の寿命縮めやがって」
輝夫「血液型のことか?」
甲介「そうだよ、お前はO型、チャミーはA型だよ、お袋は何型だと思ってんだ? AB型だよ、AB型の女からはな、絶対O型の子供は生まれねえんだっ!」
輝夫「兄貴ぃ」
甲介「チャミーにもしこのことが分かったらどうすんだよ?」
輝夫「だ、だって、しょうがなかったんだよ」
頭は良いのに抜けているところのある輝夫、兄に言われて初めて自分のやったことの意味を理解する。
そう、甲介と輝夫が死んだ父親の先妻の息子、つまり、チャミーの異母兄弟ではなく、実は、何の血の繋がりもない養子であることが、血液型の違いでチャミーに気付かれてしまうかもしれないのである。
甲介「でも、いつかはチャミーにほんとのこと言わないとな」
輝夫「何故よー、このままでいいじゃないか、このまま俺たちが本当の兄弟だと思ってくれてたほうがよっぽどいいじゃないか」
輝夫はこの問題はうやむやにして後回しにしようと言うが、戸籍謄本を見れば一発で分かるし、その機会はこれからいくらでもあると甲介は指摘する。
輝夫「俺は知らないよ、そう言う役は兄さんに任せるわ」
甲介「こんな時ばっかり兄さん兄さん言いやがってこのぉっ!」
輝夫、甲介に全部押し付けてさっさと布団に潜り込んでしまう。
水道屋としてのキャリアは輝夫のほうが上だが、早くに家を出て社会の荒波に揉まれて来た甲介の方が、「大人」だと言うことなのだろう。
もっとも、輝夫は相手が妹と知りながら朝美に仄かな恋心を抱いていた(いる?)くらいだから、ことチャミーの問題になると、ほかのこと以上に臆病になってしまうのかもしれない。
さて、遂に大学入試が始まるが、特に詳しい描写はされない。
明日は最後の試験と言う日、チャミーが銀子の見舞いに病室を訪れる。
銀子、頭に包帯を巻いて寝ていたが、血色は良く、普段と変わらぬエネルギッシュな様子であった。
朝美「銀子のことが気になっちゃって……」
銀子「うんー、気にしない気にしない、どうせ今年は自信なかったんだもん」

銀子「それにさ、チャミーには悪いけど、輝夫さんの血が私の中に流れてるんだって思うと」

銀子「なんだかボーっとしちゃって……うふふふ」
受験がダメになって、落ち込んでいるかと思った銀子が、案外元気そうなのを見て、朝美もホッとしたような笑みを浮かべる。
朝美「テル兄ちゃんも一度お見舞いに来るって言ってたわ」

銀子「わーっ、ごきげん! あっ、いたたたたっ」
思わず起き上がって叫んだ後、額に手を当てて痛がる銀子。
ああ、かわええ……
ま、そんなに美人ではないのだが、これだけ表情豊かで溌剌としている女の子は、それだけで十分貴重なのである。
と、そこへあの看護婦さんが検温しに入ってくる。
看護婦「でも幸せね、あんないい先生やお友達がいて」
銀子「うふふ、この人嫉妬してるんですよ、この人の兄さんと私の血液型が同じだったから」
朝美「やだわ、銀子ったら、私はただ、お母さんがAB型で私がA型だって知ったから、当然テル兄ちゃんだって私たちと同じじゃないかって……」
看護婦「あら、それはおかしいわねえ」
朝美があれこれ血液型について話していると、銀子の脈を計っていた看護婦さんがひとりごとのようにつぶやく。

朝美「えっ、なにがですか?」

看護婦「ううん、なんでもないのよ」
看護婦さんも、自分の失言に気付いて適当に誤魔化す。
でも、新米看護婦ならともかく、そこそこベテランの看護婦さんが、聞こえよがしにそんなことを言うだろうかと言う感じはする。
まあ、チャミーの家庭のことなど知りようもない看護婦さんが、血液型に関するありえない事実を見聞して、つい感想を漏らしてしまった……と言うことなので、さほど不自然さはないが。
だが、やはりこの前の輝夫たちの態度におかしなものを感じていたのか、朝美はそのことが気になり、その後、看護婦さんを呼び止めて改めてさっきのことを尋ねるが、うすうす事情を察している看護婦さんは知らぬ存ぜぬで通す。
無論、チャミーはそれくらいで諦めず、その足で本屋に行き、血液型の本を見て調べるが、

そこに掛かっているのが「犬神家の一族」と同じような音楽なので、なんか、本格ミステリーの一場面のような、スリリングなシーンとなっている。
やがて、遂に朝美は「真実」を知ってしまう。
ナレ「母親の血液型がAB型の場合、配偶者の血液が何型であろうと、O型の子供が生まれることは絶対にありえない」
その本に書かれていた恐ろしい一文を、頭の中で繰り返しながら、蹌踉と家路に着くチャミー。
ちなみに、声は、池田勝さんである。
途中、都電の線路脇で六郎と正次のモテないコンビと会い、あれこれと話しかけられるが、チャミーは一瞥をくれただけで、一言も発さず走り去る。
そこへ通り掛かった初子、ぼーっとチャミーの後ろ姿を見送っていた六郎の肩を叩き、
初子「どうしたの、干物の出来損ないみたいな顔して」
六郎「いや、チャミーがね、かわいそうになぁ」
初子「チャミーがどうかしたの?」
正次「試験の成績ひどかったらしいんだよ」
初子「まあ……」
何も知らない六郎たちが、朝美の暗い眼差しの理由をそう解釈したのも無理からぬことであった。
後編に続く。
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