第22話「兄妹じゃない!」(1975年3月9日)
の続きです。
朝美、帰宅するが、母親にも一言も口を利かず、まっすぐ二階の自分の部屋に行く。
滝代もまことも、てっきりテストの出来が悪かったのだろうと考えるが……

朝美「……」
机の前に座り、何もせず、ひたすらあの一文を頭の中でリフレインさせている朝美。

岩のように、そのままの姿勢で座り続け、夕方となり、

そして夜となる。
時間の推移と朝美の心情を的確に表現した、スタジオ撮影ならではの優れたシーンである。
やがて、心配した甲介たちが猫撫で声を出しながら真っ暗な部屋に入ってくる。

輝夫「なんだよ、ちょっと試験にミスしたぐらいで……いやね、自分でこいつはダメだと思ってもね、案外いけるもんなんだぞ、俺がそうだったんだから……」
甲介「あのな、チャミー、試験なんてもっと気楽にやるもんだよ、今年失敗したってまた来年があるじゃないか」
輝夫「そうだよ、一年ぐらい浪人したって構わないじゃないか」
甲介「俺たちな、チャミーにどんなことがあっても大学行って欲しいんだよ、な?」
輝夫「ああ」
甲介「だからな、何の心配もなく……」
滝代から聞いたのだろう、二人はさもなんでもないことのように、こもごも落ち込んでいる妹を慰め励まし、気分を浮き立たせようとする。

朝美「……」
前を向いたまま二人の話を聞いていた朝美、不意に振り向いて、何か言いたそうな目をするが、結局何も言い出せずに黙りこくる。
甲介「そうだ、メシにしよう」
輝夫「なあ、チャミー、俺たちは構わないけどな、お袋さんにはあんまり心配掛けない方が良いぞ」
朝美「今行くわよ」
甲介「よっし、そうこなくちゃ」
朝美の返事に、二人は愁眉を開いてどたどた降りていく。
やがて私服に着替えた朝美が居間に下りてくる。
甲介と輝夫、朝美の前でわざとらしくはしゃいでみせるが、朝美は相変わらず押し黙ったまま。

竹造「チャミー、何をくよくよしてんだ、人間いたるところに青山ありだ!」
仕事から帰った後、そのまま神輿を据えて手酌で飲んでいた竹さんが適当なことを言って励まし、調子に乗って都々逸をうたいはじめると、甲介たちも手を叩いて盛り上がる。

朝美「私、食べたくない!」
朝美、耐えられなくなったのか、パンツラインが見えそうなほどパツンパツンの生地に包まれたお尻を持ち上げると、苛立たしげな声で叫ぶ。
そしてそのまま二階に上がろうとするが、輝夫に呼び止められて立ち止まる。

輝夫「チャミー!」
朝美「なんでもないわよ……私はただ、今日病院に行って」
甲介「病院?」
朝美「銀子がかわいそうになっただけ」
それでも心配掛けまいと、その場で思い付いた言い訳をして階段をのぼっていくチャミーであった。
と、無言だったまことが、ぽつりとつぶやく。

まこと「私、なんだか他に訳があるような気がするな」
甲介「なんだよ、ほかのわけって?」
まこと「それは分かんないけど……」
甲介「分かんなきゃ余計なこと言うな、このバカ!」 チャミーのことでのイライラを、まことにぶつけて発散させる甲介であった。

竹造「なにをくよくよ……」
甲介「しつこいんだよ、バカ!」 空気を読まず、再び都々逸をうたいはじめた竹造も、甲介に怒鳴りつけられてシュンとなる。
竹造「どうもすいませんね、ほんとに……」
怒り狂った甲介には、誰も逆らえないのであった。
翌日、輝夫は約束どおり見舞いに行って銀子を喜ばせ、そのついでにチャミーのことを聞いて、自分たちのおそれていたことが現実になってしまったことを知る。
一方、試験を終えたチャミーは、同じ大学を受けた見知らぬ男子生徒に誘われ、ディスコへ行く。
別に、ディスコやその男子生徒に興味があった訳ではなく、家に帰りづらかったからだろう。
三ッ森家では、チャミーの受験終了を祝ってご馳走がテーブルに並べられていたが、肝心のチャミーがなかなか帰って来ないので気を揉んでいた。
と、輝夫が帰ってきて甲介を二階へ連れて行く。

輝夫「わかっちまったんだよ、きっとそうだ、そうに違いないよ」
甲介「お前何言ってるんだよ、さっぱりわかんねえじゃねえか」
輝夫「チャミーのことだよ、俺たちがほんとの兄弟じゃないってあいつにわかっちまったらしいんだよ」
甲介「なにぃ、そんなまさか……」
たちまち甲介の顔が強張り、思わず輝夫の襟首を掴む。
輝夫が病院で聞いてきたことを話すと、甲介はその横っ面を思いっきりぶん殴る。

甲介「ばかやろう、だから言ったじゃねえか、俺があれほど言ったじゃねえか!」
輝夫「そんなこと言ったってなぁっ!」
甲介「そうだよ、きっとそうだよ。だからチャミーの奴、きっと今夜だって……」
甲介、やっと昨日からの朝美の異変の原因に気付いたのであった。
その朝美、結局家には帰れず、家族同然の付き合いをしている酒井工務店へあらわれる。
チャミー、忠助に甲介たちのことを聞こうとするが、やはり聞けず、代わりに、受験の後に役場で貰ったものの、怖くてまだ見ていない戸籍謄本の入った封筒を預かってくれと頼む。
だが、チャミー、忠助がしまおうとした封筒を奪い、封を破ると、薄いピンク色の書類を取り出す。

朝美「……」
素早く書類に目を通したチャミー、そこに「養子縁組」と言う4文字を見て、覚悟していたことながら、激しいショックを受ける。
そう、思ったとおり、甲介と輝夫は滝代たちの養子であり、チャミーの異母兄ではなかったのだ。

自分の世界が音を立てて崩れていくような感覚に襲われ、眩暈を覚えるチャミー。
そのまま、酒井の家から飛び出してしまう。
チャミーのただならぬ様子に胸騒ぎを感じた忠助はすぐ三ッ森家に電話をし、甲介たちはチャミーを探しに家を出て、夜の街を駆け回る。
だが、最初にチャミーを発見したのはまことであった。

まこと「チャミー、なにしてんだい、こんなところで? みんな心配してるのに」
朝美「いくらでもすればいいわ、なによ、あんなひとたち……ほんとはね、私のことなんてどうでも良いのよ、だって、甲兄ちゃんもテル兄ちゃんも……あの人たち、ほんとはわたしの兄弟じゃないのよ」
まこと「……」
朝美「あの人たち、死んだ父さんの養子よ。だから私とは何の血の繋がりもないの。驚いたでしょう?」
まこと「……」
朝美「私だって生まれてからずーっと騙され続けてきたんだもの」
少々のことには動じないまことであったが、さすがにこの告白には衝撃を受けたようで、しばし言葉もなく立ち尽くしていたが、やがてチャミーの隣のブランコに腰を下ろす。

まこと「驚い、た」
朝美「あの人たち、私のことずーっと裏切り続けてきたのよ、チャミーだなんて猫撫で声なんて出しちゃって」
まこと「だけど、とっても信じらんないな、チャミーと甲介たちがほんとの兄弟じゃないなんて」
朝美「でも、そうなの、あの人たち……」
まこと「チャミーのことを騙し続けてきた、裏切り続けてきたって言いたいんでしょ?」
まこと、朝美の台詞を先回りして言うと、はーっと白い息を吐き、
まこと「だけど大したもんだねえ、今まで気付かなかったなんて……あの人たちよっぽど芝居が上手いんだよ、役者になれるよ。それとも詐欺師の方が向いてるかな」
朝美「マコちゃん!」
裏切られたと言いつつ、兄たちのことを悪く言われるのはつらいのか、冗談口調で言うまことを見詰めるチャミーであったが、
まこと「それとも、よっぽどチャミーのこと愛してたんだよ」 朝美「……」
まことのひとりごとのような述懐に、神妙な顔で黙り込んでしまう。
甲介「チャミー」
突然、背後から名前を呼ばれ、振り向くと、

いつになく真剣な顔をした兄が息を整えながら立っていた。

それを見ている朝美の顔が奇麗なので貼りました。
甲介「チャミー、帰ろう、母さんも待ってるし、それにテルだって……」
朝美「何故? 何故私を騙したの?」
甲介「騙すだなんて、そんな……俺たちはただチャミーと血が繋がってないなんて考えたこともなかったんだよ……チャミー!」
朝美「帰るわよ。他に帰るとこないもん」
不貞腐れたよう声で言って、ひとりで歩き出すチャミーに、甲介とまことが、まるで夫婦のように深刻そうな顔を見合わせるのだった。
帰宅した朝美は、相変わらず無言でそのまま二階に上がろうとするが、滝代に話があると呼び止められて居間のコタツに座らされる。
甲介たちもコタツに入り、初子とまことは、土間の応接セットにとりあえず腰掛ける。

甲介「チャミー、許してくれよな」
輝夫「俺たちはな、知らなかったんだよ。おやじが息を引き取る時にね、兄貴にほんとのことを言ったんだ」
朝美「……」

甲介「俺達の本当の父親は戦争で死んで、本当の母親は……テルを生むとすぐに病気で死んじまったんだ。だから、まだ小さかった俺たちを引き取って育ててくれたんだって」
朝美「じゃあ、何故その時教えてくんなかったの?」
甲介「それは……」
甲介が助けを求めるような視線を母親に送ると、

滝代「甲兄ちゃんたちはね、お前の気持ちを動揺させたくなかったのよ。だからお前がもっと大人になるまで……」
滝代が二人の気持ちを代弁するが、朝美は刺々しい目を向け、

朝美「そんなの私の人間性を無視してるわよ、みんな知ってるのに……テル兄ちゃんだって」
滝代「だって、甲兄ちゃんに違いないじゃないか、テル兄ちゃんに違いないじゃないか。血は繋がってなくたってさぁ、お前が生まれてきたときからずーっと兄弟として育ててきたんだもの」
朝美「……」
なおも不服そうに唇を結んでいる朝美に、
滝代「母さんねえ、ただの一度だって兄ちゃんたちを他人の子だなんて思ったことはないよ」
甲介「俺たちだってそうだよ、母さんやお前のことを他人だなんて……」
この手のシーンの常套句を並べる三人であったが、依然として朝美の態度は軟化の兆しを見せない。
滝代「ねえ、お前たち良いだろう? こないだのこと言ったって」
甲介「……」
輝夫「……」
滝代に聞かれて、二人が仕方なさそうに頷くと、
滝代「ほんとはね、甲兄ちゃんたちを生んでくれたお母さん、生きてたのよ」
朝美「……」
滝代「ついこないだそれが分かったんだけどね。母さんね、それでも私たちと一緒に暮らしたいって言う甲介たちの気持ちを素直に受けることにしたのよ。だって甲介たちの本当の母親は私だけなんだもの。ほんとの妹はお前だけなのよ!」
と、21話で発覚した大映ドラマ的事実まで打ち明けて朝美に分からせようとする。
それを受けて、
甲介「俺たちはその時はっきりわかったんだ、人と人とを結びつけるのは血の繋がりなんかじゃない、もっと別の……その人にいて欲しいって気持ちだって」 朝美「……」
滝代はさらに、二人がそれぞれの道を捨てて工業所を継いでくれたことこそ、親子の絆の証だと強調するが、大映ドラマのキャラクターと違って朝美はなかなか手強く、

朝美「そんなのインチキよ、本当の母親だったら、子供たちの好きなことさせてる筈よ、ほんとの子供だったら親の犠牲になんかなんないで、自分たちの好きなことしてる筈!」
それを逆手にとって反論してくる。
輝夫「そうじゃないんだよ、チャミー」
朝美「そうに決まってるわ、私はいやよ、私には出来ない。ほんとの兄弟だったらともかく、この人たちに食べさせてもらったり、大学に行かせて貰ったりするなんて!」
朝美の悲鳴のような叫びが、遂に甲介の怒りを爆発させる。

甲介「バカヤロウ……バカヤロウ!」
たちまち鬼の形相になると、チャミーの頬を引っ叩き、なおもそのケツを叩こうとするのを、

甲介「このぉ」
輝夫「もういいよ、兄貴」
甲介「じゃあ何かチャミー、俺たちは血が繋がってないからってこの母さんは俺たちの母さんじゃないってのか、俺たちの母さんじゃないってのか、えーっ?」 輝夫に必死に止められながら、今まで出したことのないような激しい怒声をぶちまける。
もっとも、それは怒りと言うより渾身からの嘆きに近い叫びであったが……
朝美「ああーっ、ああああーっ!」
やがて朝美、両手をついたまま、大音声を上げて盛大に号泣し始める。
胸の奥から込み上げてくるたとえようのない悲しみが、血を吐くような慟哭となって、いつ果てるとも知れず続き、その背中を見ている滝代の頬にも熱い涙がほふり落ちるのだった。
シリーズにおける、最大の修羅場であったが、村地さんにとっても、シリーズで一番難しい芝居だったのではないかと思われる。
さて、この問題の解決にはまだ相当時間が掛かるであろうと思われたが、基本的にこれはお気楽なホームコメディなので、そう言うことにはならない。
深夜、同じ部屋に布団を並べて天井を見上げている甲介と輝夫。
甲介「テル、勘弁しろよな」
輝夫「なに?」
甲介「今度と言う今度は……てめえに愛想が尽きちゃったよ。チャミーにあんなことするなんて……今が一番大事なときなのに」
輝夫「仕方ないよ、俺だって止める側にまわんなかったら、ああしてたかもしれないもんなぁ」
家族争議の反省会をする二人だったが、甲介の「今が一番大事なとき」と言う台詞が、ちょっと引っかかる。
何故なら、試験は今日すべて終わったのだから、あとは結果発表を待つだけであり、既に「大事なとき」は過ぎ去ったと思われるからである。
まあ、受験などとは切り離して、多感な年頃のチャミーにとっての「一番大事なとき」と言いたかったのかもしれないが、それが「今」に限定されると言うのも変な話であり、やはり違和感は拭えない。
と、「入るわよ」と言う朝美の声と共に、目の前の障子が開き、

パジャマ姿で、大きな枕を抱えたチャミーがあらわれる。

甲介「なんだ、お前?」
二人とも唖然として、言うべき言葉が見付からずに固まってしまう。
朝美「今夜、私を抱いて!! むちゃくちゃにして欲しいの!!」 輝夫「な、何言ってるんだ、お前?」
そう叫ぶと、その場でパジャマと下着を脱いで一糸まとわぬ裸身になる朝美であったが、いい年こいて、こんな妄想をたくましゅうしている管理人に、ハゲ増しのお便りを送ろう!!
正解は、
朝美「今夜ここに寝かせて」
輝夫「な、何言ってるんだ、お前?」
何を思ったか、とても羨ましい、いや、とんでもないことを言い出し、兄たちを狼狽させる。
それにしても、やっぱり村地さんは奇麗である!
朝美は構わず二人の間に座ると、
朝美「死ぬまで、妹だって言って」 甲介「あ、当たり前じゃないか、な、な、テル?」
輝夫「おお、妹だよ」
妹萌えが聞いたら死にそうな朝美の台詞に、二人は戸惑いつつもはっきり答える。
朝美、枕を投げると、その上に頭を乗せ、さっさと布団の中に潜り込んでしまう。

朝美「おやすみなさい」
甲介「……」
輝夫「……」
一体何を考えているのか分からず、ただただ、妹の寝顔を見詰める二人であった。
まだ起きて三人のことを案じていた滝代のところに、パジャマ姿のまことが降りてきて、朝美が兄たちと和解したことを告げるというシーンを挟んで、

甲介「重いなぁ、こいつ」
輝夫「すっかり太っちゃってなぁ」
朝美を前と後ろから抱えた甲介と輝夫が、静かに廊下を伝って朝美の部屋まで連れてくる。
年頃の妹と一緒に寝るのはさすがにまずいと判断した二人の苦渋の選択であった。
それはそれとして、曲線が丸出しになった朝美のお尻がたまらんのです!
朝美のムチムチした体をお人形でも扱うように優しくベッドに寝かせて布団を被せ、二人は他愛なく眠りこけているその横顔を満足そうに見守っていたが、やがて、そろそろと自分たちの部屋に引き揚げて行くのだった。
だが、案の定、朝美は眠ったふりをしていただけであった。

二人がいなくなるや、パッと目を開け、その目に薄っすら涙を滲ませ、悲しそうな顔で宙を見詰めているのだった。
心の中で整理はつけても、やはり、兄たちと血の繋がりがなかったことがつらいのか、あるいは、兄たちや母親の気遣い、思いやりに感動しているのか、さだかではない。恐らく、本人にも理由の分からない涙であったろうが、こうして三ッ森家に起きかけた家庭崩壊の危機はあっけなく終着するのだった。
正直、チャミーがあっさり甲介たちと和解したのが物足りなくも感じるが、これを次週まで引き摺ると、あまりに話のトーンが暗くなってしまうというスタッフの判断であったろう。
ただ、それでもなんらかのきっかけが欲しかったところだ。
たとえば、部外者のまことが、チャミーに説教するとかね。
もっとも、過去にもまことがチャミーの説得で折れるという似たようなオチがあったから、さすがにマンネリになるのを恐れたのかもしれない。
以上、シリーズでは珍しく深刻なドラマが展開して、書くのがしんどいエピソードであった。
これでもだいぶ省略してるんだけどね。
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