第30話「魔女ザルバー!恐怖第三の眼!!」(1972年10月27日)
と言う訳で、今回は、シリーズ中最大の衝撃作と呼ばれている(誰に?)「魔女ザルバー!恐怖第三の眼!!」なのである。
確か、すげー昔にちょっとだけ紹介したことがあると思うが、誰も覚えてないだろう。
冒頭、人も通わぬ鬱蒼とした山道を、旅芸人(飴売りかな?)の格好をした壮年の男性が走っている。

伊賀忍者の黒丸である。演じるのは名優・藤岡重慶さん。
さすがに若い。と言っても、当時40間近だけどね。
その黒丸が、池と言うか、沼のそばを通りがかった時、なにやら怪しい気配を感じて立ち止まり、鋭い視線を四方に飛ばす。
見れば足元の草むらにツヤツヤした毛並みの真っ黒な猫がいて、にゃーと鳴く。
黒丸「猫か」
ザルバー「ひぇっへっへっへっへっ」
ホッとした黒丸だが、続けてどこからか不気味な女の笑い声が、枝葉を揺らす風と共に鳴り響く。
黒丸「誰だ、何を笑う?」
ザルバー「伊賀者忍者黒丸よ、お前の目の前にいるのがわからんのか?」
ザルバーを演じるのは広瀬楊子さんだが、人間態以外の声は、毎度お馴染みキンキン声の沼波輝枝さんがあてている。
と、沼の水面に血のあぶくが湧いたかと思うと、その上に、ザルバーの姿が浮かび上がる。
ザルバー「私の名はザルバー、火の国イタリアの魔女ザルバー」
黒丸「魔女ザルバー?」
ザルバー「伊賀の百地仙人からハヤテに送る手紙を大人しく渡すが良い」
黒丸「ふざけるな、俺の手で片付けてやる」
黒丸、ザルバーに向かって手裏剣を投げ付けると、木の上に飛び上がる。

猫「にゃああ」
黒丸「あっ」
ふと見上げれば、少し高いところにさっきの黒猫がいて、牙を剥いて可愛らしく威嚇する。

猫「にゃーにゃーにゃー(エコー)」
そのまま黒丸に飛び掛かる……って言うか、
これ、完全にスタッフに放り投げられてるねーっ!! by小峠
黒猫に飛び掛かられた黒丸、地面に落ちて転がるが、いつの間にか猫が赤いマントに変わっている。
ザルバー「見たかえ、魔女ザルバーの魔術・紅のマントぉっ!」
黒丸、伊賀忍者にしては珍しく強そうな忍びだったが、マントの炎に包まれてあえなく焼死する。
ザルバー「伊賀者の腕も、大したことはないねえ」 ザルバーにしみじみ言われても、全く反論できないのが悲しい伊賀忍者の底抜けの弱さであった。
良くこんな連中を召抱える気になったな、徳川家も。
足で黒丸の体を起こすと、その懐に手を入れて手紙を奪おうとするザルバー。
ザルバー(取りづらいわぁ~) たとえ任務に支障が出ても、オシャレをやめるわけにいかないのが女のたしなみなのである!
それでもなんとか手紙を摘み出す。
ザルバー、無論、その中身を読んだのだろうが、ザルバーは宛名書きからハヤテたちの行き先を知りたかっただけで、内容はどうでも良かったらしく、最後までそれに何が書いてあったのか不明なのが、いささかもどかしい。
で、ハヤテたちは、手紙に書かれていた通り、新宮宿の外れに佇む妙法寺と言う古刹にやってくる。

ハヤテ「これが伊賀忍者の隠れ家か?」
タツマキ「は、きっと伊賀の百地大先生からの手紙が着いておりましょう」
三人は山門をくぐって本堂に向かうが、

ザルバーも既に寺にやってきており、不貞腐れた美川憲一みたいな顔をして、なにやら企みがあるようにほくそ笑んでいた。
しかし、一応お寺なのに、住職どころか小坊主すら出迎えに来ないというのは、いささか手抜きの度合いが過ぎると言うものである。
余計な俳優を使いたくなかったのだろうが、仮にも隠れ家として使っているのなら、番をする伊賀忍者のひとりぐらいいないと締まらないよね。
この後、色々どうでも良いシーンの後、死んだ筈の黒丸が、タツマキ、ハヤテと建物の外で合流する。
と、本堂からツムジの叫び声が聞こえてきたので慌てて走り出す三人。

見れば、ツムジが畳(と言うか、ゴザだが)の上に仰向けになって気を失っていた。
タツマキ「こりゃ、しっかりせんかい、妖怪が出たのか?」
ツムジ「で、出たんだよ!」
ハヤテ「見たのか?」
タツマキ「どんな妖怪じゃ?」
タツマキに揺り起こされたツムジ、おそるおそる起き上がって振り向くが、
ツムジ「まだいるーっ!」
素っ頓狂な声を上げて手で顔を覆って飛び退く。
だが、ツムジの視線の先にいたのは、カラスのように真っ黒な黒猫であった。
ツムジ「俺、猫と生卵に弱いんだぁ」
タツマキ「バカモン、お前が見たのはあれかっ」
ツムジ「怖いよう!」
タツマキ「いい加減にせんかい」
意外なものに恐怖を感じて抱きつくツムジの鼻をタツマキがつまんで叱り付ける。
黒丸「ところで忍者大秘巻・地の巻は無事ですかな?」
タツマキ「安心してくれ、万一に備えてツムジの竹筒の中に入れてあるんじゃ」
さりげない黒丸の問いかけだったが、タツマキは何の疑いも持たず、あっさりそのありかを教える。
ハヤテ「悪魔道人とその手先の西洋怪人は当然俺が持っていると思って狙ってくるだろうからな」
黒丸「なぁるほど」
だが、感心して頷いて見せた直後、黒丸はいきなりツムジに躍りかかって、その首に刃をつきつける。

タツマキ「黒丸!」
ハヤテ「図ったな西洋怪人め!」

黒丸「はははは、忍者大秘巻・地の巻、確かに俺がもらったぞ!」
ツムジ「う、くっ……放せっ」
黒丸に刀を突きつけられて怯え切っているツムジが、女の子みたいでめっちゃ可愛いのである!!
ああ、松葉さんが女に生まれてたらなぁ……かなりの美少女になっていただろうに。
タツマキ「狂ったか、黒丸?」
黒丸「狂ってはおらぬわ!」
黒丸、ツムジを押さえたまま立ち上がると、自分の胸元を広げ、

黒丸「俺の本当の顔はこれだ!」
そこに張り付いている不気味な目玉を見せ付ける。
そう、黒丸(の死体)はザルバーの第三の目に操られていたのだ。
だが、その黒丸の首筋に天井から吹き矢を放ったものがいる。
黒丸、あえなくその場に倒れると、死体に戻ってどろどろに溶けてしまう。
続いて、天井裏に潜んでいた黒装束の女の忍びが降りて来て、ハヤテたちの前にかしこまる。

タツマキ「何者じゃい」
ザルバー「朧と申します、私が本物の伊賀からの使いです」
ハヤテ「あなたが本当の使い?」
そう、他ならぬザルバーの人間態であった。
前述したように、この状態での台詞は、女優さん本人が喋っている。
ちなみに、なかなか凛々しい声をしておられる。
声だけ聞くと、宝塚歌劇みたいな感じである。

ハヤテ「女の身ではるばるの使い、ごくろうです」
朧「これが百地大先生より預かった手紙です」
ザルバー、黒丸の持っていた手紙を渡すが、無論、その中身はザルバーのこしらえた偽書であった。
ハヤテ「奪われし天の巻、無事取り返し候、かくなるうえは、使いのくノ一朧なるものに地の巻、お渡しくだされたく候……百地」
ツムジ「やっほーっ、天の巻が戻った!」
タツマキ「はっ、これで一安心ですな」
ハヤテが手紙を読み終わると、飛び跳ねるように喜ぶツムジ。
しかし、「やっほーっ」って、もともとドイツから来た言葉なので、この時代の人間が言うのはちょっと変かもしれない。
普通に考えたら、ヘッポコ伊賀忍者たちだけで悪魔道人から取り返せる筈がないのだが、ハヤテはなんら怪しむことなく、即座に地の巻を朧に託す。
ザルバー「はっ、確かにお預かりいたします」
隠し切れない喜色を浮かべて受け取るザルバー。
黒丸を西洋怪人の手先にして、それを自らの手で倒すことでハヤテたちの信頼を勝ち得るとは、なかなか巧妙な手口であった。
だが、得意満面で悪魔道人のもとへ向かっていたザルバーの前に、煙幕がたなびいたかと思うと、爆発音が響く。
ザルバー「誰、誰なの?」
黒丸「俺の声を忘れたかーっ?」 ザルバー「いや、忘れるも何も、まだ何も聞いてないんで……」 黒丸「あ、そう?」
途中から嘘だが、黒丸の台詞のタイミングがおかしいのは事実である。
ザルバー「その声は?」
黒丸「はーっはっはっはっはっ」
ザルバー「黒丸?」
なんと、最初に黒丸の前にあらわれたときと同じく、血のあぶくの立つ水面に浮かんだのは、死んだというより、溶けた筈の黒丸であった。
黒丸「俺を殺して操り、挙句の果てに二度まで殺したな。悪魔道人の手先めえっ」
ザルバー「ふふ、なぁにをいう、私は、私は知らない」
黒丸「知らぬとは言わせん、
動かぬ証拠はその黒い猫」
猫「にゃあーう」
ザルバー「思い切り動いてますけど……」
黒丸「揚げ足を取るんじゃないっ!!」 途中から嘘だが、ザルバーの足元のニャンコを指して黒丸が叫ぶのだが、黒猫が足元にうずくまっているからって、朧が悪魔道人の手先だと言う証拠にはならんだろう。
もっとも、朧ことザルバーはあっさりそれを認め、高らかに笑うと、
ザルバー「あたしの正体に気付いていたのね、とすれば黒丸の幻の正体は、ハヤテ?」
ハヤテ「そのとおり」
黒丸が印を結んで呪文を唱えると、ハヤテの姿に変わる。
しかし、なんでハヤテが朧のことを怪しいと睨んだのか、その理由が何も描かれていないのが大いに不満である。
また、黒丸がザルバーに殺されたとわかっても、どこで、どのようにしてザルバーと遭遇したかまでは分からない筈なんだけどね。
ともあれ、CM後、嵐に変身したハヤテと烈しく戦うザルバー。

ザルバー「うううう、ううああっ! 魔女ザルバーが地の巻を頂いたぞっ!」
両手を合わせ、物凄い顔で呪文を唱えて周囲の炎の壁を作り出すザルバー。
西洋怪人だけあってフェンシングのような剣で嵐と斬り結ぶザルバーであったが、そこへタツマキが駆けつける。

タツマキ「嵐どのーっ! こやつはただの女芸人でござるぞっ!」
嵐「なにっ? イッテQとかに出てるあれか?」
ザルバー「ちょっとぉ、二人でなにコソコソ話してんのよー? 感じワルー」
じゃなくて、
タツマキ「嵐どのーっ! こやつは猫を操る怪人、マタタビを使えば」
嵐「なにっ?」
ザルバー「マタタビ?」
タツマキ「猫はこいつで気が狂うんじゃい!」
なんでそんなもん持ってたのか謎だが、タツマキがマタタビをいぶすと、ザルバーはあえなく体の自由を失って嵐にとらえられる。

嵐「はるばる海を渡り、異国の地で死んではお前の魂も浮かばれないだろう、それより悪魔道人を隠し寺までおびきださんか? そうすれば、生まれ故郷に帰してやろう」
嵐、過去二人の魔女は容赦なく斬り殺したのに、ザルバーに対してはそんな寛大な提案を持ちかける。

ザルバー「うっ、生まれ故郷イタリアに? 悪魔道人が滅べば私は自由になれる」
嵐「……」
ザルバー「嵐、ほんとうかい?」
嵐「嘘はつかん」
ザルバー「ふんっ」
……

ザルバー、取引に応じる気になったのか、地の巻を素直に嵐に返すと、一緒に妙法寺に戻り、即席の祭壇を築いて、はるか遠くにいる悪魔道人にテレパシーを送ろうとする。

ザルバー「ご主人様よ、ザルバーの祈りを受けたまえええーっ!」
悪魔道人「聞こえるぞ、この道人に何を伝えたいのだ?」
ザルバー、地の巻を手に入れたが、怪我をして動けないので寺まで取りに来て欲しいと悪魔道人に頼む。
悪魔道人「でかしたぞ、ザルバー、待つが良い、道人は行く。風に乗り、山を走りぃ、谷を渡ってぇ、お前のもとへ道人は行くーっ!」 喋っているうちに自分で自分の言葉にコーフンしたのか、どう考えてもそこまで力まなくても良いのに、目をカッと見開いて頬を震わせ、絶叫を張り上げる悪魔道人。

ザルバー「うんっ!」
……
ザルバーは精神的疲労で気絶してしまうが、ハヤテはその体を縛ってツムジに見張りを任せると、タツマキと二人で寺の外で悪魔道人が来るのを待ち構えることにする。
その後、意識を取り戻したザルバーは、ツムジに縄を解いてくれと頼むが、当然、ツムジは断る。

ザルバー「ひとつだけお願い、魔女でも女、せめて美しく死にたい」
かなり図々しい要求を出すザルバーであったが、具体的にはぼさぼさの髪を梳かしてくれと言うものだったので、お人好しのツムジは「それくらいならいいでしょう」と、ザルバーに近寄り、その前髪を手で梳かしてやる。

ザルバー「後ろもお願い」
……
なんか、最初はひたすらエグい顔した姉ちゃんだなぁと思っていたが、レビューしてるとだんだん愛着が湧いてきた管理人であった。
二年に一回くらい会う親戚にこんな人がいたらちょっと楽しいかもしれない。
ツムジ、後ろを向いたザルバーの後頭部をすいてやると、髪の毛の間から、黒丸の胸にあった不気味な目が自分を睨んでいるのに気付いてギョッとする。
ツムジ「頭にも目が!」
ツムジ、第三の目の催眠術にかかり、その場にばったり倒れてしまう。
しかし、普通、フィクションの世界で第三の目と言ったら、たいてい天津飯みたいに額にあるものだが、ザルバーの場合は後頭部にあるのが面白い。
まあ、妖怪「二口女」の眼球バージョンと言ったところか。

ザルバー「はははははは、ザルバーは、ごほっ、悪魔道人をうら、げふっ、げほっ、裏切りはしないのだっ! げっふっ! み、見てるがいい……」
足元に仕込んだ火薬を燃焼させて、体を縛る縄を焼き切ろうとするザルバー、煙に思いっきりむせながらタンカを切る。
ま、実際はアフレコなので沼波さんはすらすら喋っているのだが、撮影時の広瀬さんがこんな感じだったのは間違いない。

ザルバー「地の巻を頂いていくとしよう」
ツムジの持っていた地の巻を奪うザルバー。
いいよね、なんか人生楽しそうで……
だがそこへいつものお邪魔虫・月ノ輪が登場。
ザルバー、寺の外へ逃げてハヤテに例のマントを被せて焼き殺そうとする。

ザルバー「見たか、ザルバーの魔力、紅のマント! 燃えろ、燃えろ、ハヤテは死ぬ!」
勝ち誇るザルバーであったが、例によってそれは変わり身の術で、

嵐「はははははっ、嵐、見参!」
またまた変身ポーズを省略して嵐になったハヤテが、二階の欄干の上に颯爽とあらわれる。
嵐「お前の言葉を信用したのが間違いだったな、だが地の巻を持った以上、ここからは出さんぞ!」

ザルバー「面白い、取れるものなら取ってみたらいいわーっ!」
嵐「……」
この後、どっからか湧いて出た血車党下忍たちを倒してから、再びザルバーとの一騎打ちとなる。
ザルバー、妖術のみならず剣術にもなかなか優れ、嵐と互角の勝負を繰り広げる。

ザルバー「どうだ、嵐?」
嵐「……」
この状態で、ザルバー得意の顔芸を決めていれば、ひょっとしたら嵐に勝てたのではないかと思うが、特に面白い顔も見せないまま奮戦し、最後は後頭部の第三の目を貫かれ、

ザルバー「道人さま、ザ、ザルバーは死にまする!」
タイヤ痕のくっきり残る道端に倒れ、全身から炎を噴き上げて壮絶な死を遂げるのだった。
ちなみにザルバー、普通考えれば、ギリシア神話にちなんだ魔女ゴルゴン、魔女メドーサと同じ三姉妹のひとりの筈だが、二人の名前は一切口にしていないので、赤の他人だったと思われる。
※参考画像 
魔女ゴルゴン

魔女メドーサ

魔女ザルバー
……
こうして、なかなか良いところまで行ったザルバーであったが、結局嵐の前に敗れ去ってしまったのであった。
以上、ザルバーの強烈な顔芸(註・芸じゃないです)ばかりが印象に残りがちだが、ザルバーが二重の仕掛けでハヤテたちを欺こうとするくだりも楽しい、なかなかの力作であったと言えるだろう。
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