第29話「ひとりぼっちの地球人」(1968年4月21日)
大学を舞台にした、アカデミックな雰囲気漂うドラマ重視のエピソードである。

冒頭、私立京南大学の、コンクリート製のピラミッドのような形をした建物のてっぺんから、数羽の鳩が飛び立つと言う印象的なカット(ロケ地は学習院大学)
日曜の午後の閑散とした敷地内。
どこからか、まどろみを誘うようなのどかな鐘の音が聞こえている。

台形のトンネルのような薄暗い通路を、コツコツとハイヒールの音を響かせながら歩いているひとりの若い女性。
北林早苗さん演じる南部冴子である。
で、さすがにこんな色っぽい女子大生はいないだろうと、てっきり助手か何かだとばかり思っていたら、なんと、これでれっきとした女子大生(2年)らしい。
ま、北林さんの実年齢は24才なので多少のサバを読んでいるとはいえ、24才だとしても十分大人びて見える。
なんたって、あのキリヤマ隊長がオンエアの時点で
40才ちょうどなのだから、当時の日本人が、全体的に大人びていた……と言うより、今の日本人がおしなべて幼稚になってしまったということなのだろう。

それはさておき、冴子が建物の中に入り、真っ直ぐに伸びる廊下を歩いていると、不意に仁羽教授の部屋から、雷鳴のような異様な物音が聞こえてくる。
鍵が開いていたのでドアを開けて、薬品棚の並んだ暗い部屋の中を覗いてみるが、特に異状は見当たらない。
だが、気のせいかと出て行こうとしたその時、

一瞬だが、異形の怪物が机の下に慌てて隠れる姿がはっきりと冴子の目に捉えられる。
うーん、これはちょっと、はっきり見せすぎかなぁ?
もっと照明を落として、影だけが見えるくらいにしておいたほうが効果的だったかも。
冴子は恐れをなして逃げていくが、

素早く人間の姿に戻った仁羽教授は、彼女を追いかけようともせず、落ち着き払ってドアを閉めるのだった。
これも、あまりに早く仁羽教授の正体を視聴者にバラしてしまっているのが気になるし、正体を見られたのに、彼が冴子を放置しているのもいささか解せない。
ここで、宇宙空間を飛び交ういくつもの人工衛星のビジュアルとナレーションによって、日本のとある大学が、教育機関としては初めての科学観測衛星の打ち上げに成功したとのニュースが語られる。
それを踏まえた上で、

ソガ「この衛星の打ち上げをリードした京南大学物理学科の偉業は各界から高く評価され、一介の私立大学に過ぎなかった京南大学の名は、一躍世論の注目を集めている……」
珍しく暇なのか、ソガ隊員が英文のサイエンス系の雑誌をリアルタイムで日本語に訳しながら音読していると言う、お、おい、ソガ、頭でも打ったんじゃないのか、大丈夫か? などとつい心配になるソガの様子が映し出される。
ソガ、会心の笑みを浮かべて指を鳴らすと、

ソガ「どうだ、おい、凄いじゃないか」
同じく英文の雑誌を読んでいたフルハシに、無理に押し付けるようにその雑誌を見せる。
フルハシ「うるさいなぁ、凄いのは分かってるよ」

多分同じことを何度も聞かされてうんざりしているのだろう、フルハシは煩わしそうに自分の雑誌を立てて、ソガの顔が見えないようにするが、

ソガ「分かってないねえ~」
フルハシ「……」
ソガ、容赦なくその雑誌をどけると、まるで城壁を乗り越えて迫ってくる「進撃の巨人」のような不気味な笑みを浮かべてフルハシに顔を近付ける。
フルハシ(こいつ、宇宙人に捕まってどっか遠くの星に連れてかれねえかな……) と、心の中でつぶやくフルハシであったが、奇しくも今回、その願いが実現する寸前まで行くのである。

アンヌ「ふふふふふふっ、フルハシ隊員、分かってあげなさいよ、ねー、ソガ君?」
ここで同じく雑誌を読んでいたアンヌが、含み笑いをしつつ、からかうような口調でソガの名を呼ぶ。

ソガ「ソガくぅん? ソガ君とはなんだ、ソガ君とは?」
年下のアンヌに君づけされたソガ、心外そうな顔でアンヌの前に行き、居丈高に文句を言っていたが、アンヌにニコニコと見透かすような目で見られているうちに何かに気付いたように、
ソガ「……君、分かってんの?」

アンヌ、ソガの顔に視線を向けたまま立ち上がると、
アンヌ「南部冴子さん、京南大学英文科2年生……ふふっ」
ソガが浮かれている原因をズバリ指摘して、楽しそうに笑う。
……
ああ、アンヌのおっぱい揉みてぇええーっ!! あっ、失礼しました。
最近ストレスが溜まってるもので、心の底に秘めていた欲望が溢れ出てしまいました。
フルハシ「変な笑い声出すなよ!」
フルハシ、雑誌を目の前に広げたまま怒鳴るが、すぐに雑誌の下から目だけ覗かせて、
フルハシ「で、なんなの、その冴子さんて?」
興味津々と言った顔で尋ねる。
アンヌ「ミライのソガ夫人……ねえ、ソガ君?」

ソガ「ピュ~ピ~♪」
アンヌの囁き声に、込み上げてくる喜びを抑えきれないといった顔で横を向き、照れ隠しに頭を掻きながら、ヘタクソな口笛を抜くソガ。
つまり、アンヌは冴子のことを知っていて、その口調を真似てソガをからかったのだろう。
容易ならぬことを聞かされたフルハシは、興奮気味に立ち上がると、
フルハシ「お、おい、ソガ、5000円貸してくれ!!」 ソガ「なんでだよっ!!」 じゃなくて、
フルハシ「お、おい、ソガ、ほんとかおい~」
ソガ「ピュピピ~」
アンヌ「10日前に婚約したんですって」
フルハシ「ちきしょう~」
ソガ、なおも口笛を吹きながら、今度はアマギ隊員にあの雑誌を押し売りするが、

ソガ「おい、見たか、婚約者の大学なんだ」
アマギ「それはあまり自慢できんな」
堅物のアマギは、顔も上げずにつぶやく。
ソガ「どうして?」
アマギ「そいつが今司令部で問題になってるんだ」
ソガ「えっ、冴子さんが?」
アマギ「バカ、人工衛星のほうがだよ」
ちなみに今回レビューしてて気付いたのだが、このエピソードで一番面白いのは、実はこの、メインストーリーとはあまり関係のない、隊員たちのリラックスしたトークなのではないだろうか。
と、そこへ、その場にいなかったダンが入ってくるが、ソガたちには見向きもせずに作戦室を素通りして隣接する参謀室へ行く。
参謀室にはタケナカ参謀とキリヤマがいた。

ダン「秘密調査部からの資料です」
キリヤマ「それで、仁羽教授のことは?」
ダン「やはりニセモノでした」
タケナカ「するとスパイか」
キリヤマ「もしそうだとして、一体何処の国の? それにあの科学衛星は何のために?」
タケナカ「そこだよ、第一あれは地球の科学力を遥かに越えている」
ダン「もしか、宇宙人では?」
だが、複数の大学による学術的なプロジェクトだけに、ウルトラ警備隊といえど強制的に衛星の内部を調べることは躊躇われた。
そこで、たまたま京南大学にコネのあるソガ隊員が調査に派遣されることになる。
ダンにポインターで大学まで送ってもらったソガは、雪に覆われた雑木林の中で婚約者と落ち合う。

ソガ「よお、しばらく」
冴子「しばらくもないもんよ、大事な婚約者をほっぽらかしてにしていいの、ソガ君?」
ソガ「そのソガ君と言うのはよしてもらいたいなぁ、みんなが真似すんだよ」
冴子「うっふっふっふっ」
ソガの言葉に弾けるような笑いを響かせる冴子。
うーむ、まさかと思ったが、美人女子大生と婚約したというのはソガの妄想じゃなくて、厳然たる事実だったらしい。
悪夢だ。これは悪夢に違いない。
その後、学舎の二階部分のテラスから、問題の仁羽教授が別の建物から出てくるのを待っている二人。
やがて、教授が、一宮と言うソガと同じくらいの年恰好の青年と連れ立って出てくる。

冴子「物理学科の一宮(いちのみや)さんよ」
ソガ「一宮を知ってるのか」
冴子「ええ、高校時代からの先輩なの……あの頃はとっても親切だったのにすっかり変わってしまったわ」
ソガは冴子に事情を打ち明け、仁羽教授に利用されている一宮を大学から連れ出し、自分たちのところへ送って寄越すよう頼む。
仁羽教授のことで話があると言われて冴子の運転する車に乗り込んだ一宮だったが、仁羽教授が宇宙人であり、冴子の背後にウルトラ警備隊がいると聞かされるや、いきなりハンドルを奪って車を近くの墓地まで走らせると、木にぶつけて強引に車を停めさせる。
そして、乱暴に冴子の手を引いて車から離れると、

一宮「教授が宇宙人だということを何故知ってる?」
転んで地面に倒れている冴子を助け起こそうともせず、冷然と見下ろして詰問する。

冴子「えっ、なんですって、それじゃあなたは……」
惑乱した冴子の問い掛けに、無言で頷いてみせると、
一宮「教授が宇宙人ならどうだと言うんだ?」
開き直ったように反問する。
それに対し、
冴子「だったら侵略者じゃないの!」 冷静に考えたら、めちゃくちゃなことを口走る冴子タン。
もっとも、それは、まさにウルトラ警備隊のモットー
「宇宙人、見付け次第射殺せよ」を体現したような台詞であり、これからソガ隊員のお嫁さんになる人にはふさわしい発想かもしれなかった。
一宮「はっはっはっはっはっはっ……」
それはともかく、冴子の言葉に喉を上下させて大笑いすると、

一宮「宇宙人といえばすぐ侵略者か……教授は違う、彼は僕の電送移動機を作ってくれた。地球の学者が見向きもしなかった電送移動の理論をあの利宇宙人だけが認めてくれたんだ」
冴子「あなたは利用されてるんだわ……私たちは地球人じゃないの」
一宮「君たちに何が分かる。僕は人間を信じちゃいない」
冴子に向かって、痛烈な人間不信を表白する一宮であったが、具体的に何故彼がそこまで人間に愛想を尽かすようになったのか、その具体的な説明がないのが、このシナリオの不満な点である。
まさか、電送移動の理論のことだけが原因ではあるまい。
それこそ、いつまで経っても争いをやめようとしない人類に嫌気が差したとか、類型的なものでいいから一言欲しかったところだ。
それはそれとして、タイトスカートを履いて横座りになっている冴子のポーズがセクシーだと思いました。
さて、ここで、カメラはいきなり仁羽教授と対面しているソガに飛ぶ。

黒ぶちの眼鏡を外してから、
ソガ「勘付かれたとなれば話がしやすい。仁羽教授と言うのは仮の名、シリウス系第7惑星のプロテ星人と言うのが貴様の正体だろう」
小型の銃を仁羽教授につきつける、相変わらず好戦的なソガ隊員。
唐突に話が佳境になるのでいささか面食らってしまう(註1)が、たぶん、身分を偽って仁羽教授に会っていたが、たちどころにウルトラ警備隊の隊員だと見抜かれてしまったところなのであろう。
註1……シナリオでは、ソガが記者に成り済まして仁羽教授に取材するシーンがあったが、撮影時にカットされたらしい。
仁羽「で、私がそのブロテ星人であると言う証拠は?」
ソガ「貴様が打ち上げた科学衛星から、プロテ星へ送った超音波を逆探知したのが最初のきっかけさ」
仁羽(いや、宇宙で超音波て……) ソガ隊員の、明らかに科学的素養に欠ける台詞に心の中で嘆息する仁羽教授であったが、嘘である。
ソガ「宇宙人でもない限り、地球防衛軍の秘密基地などには用はない筈だ」
仁羽「なるほど、で、もし私がその宇宙人だったら?」
椅子から立ち上がり、ゆっくりとドアの前へ移動した仁羽教授の質問に、ソガは「しばらく眠ってもらう」と銃の引き金を引き、レーザーのような弾を発射するが、仁羽教授は涼しい顔で立っている。

仁羽「次は私の番だね」
教授、右手でピースサインを作ると、指の先からビームを放ち、

ソガ「うっ、ぐあっ!」
逆にソガ隊員を一撃のもとに気絶させてしまう。

仁羽教授が机の下のスイッチを入れると、本棚が壁ごと反転して、その奥に、いつの間にか作られた隠し部屋があらわれる。
教授はソガの持っていた発信機を握り潰すと、ソガの体を部屋の中に運び込む。
そうそう、言い忘れていたが、仁羽教授役は、ロボット長官でお馴染み、成瀬昌彦さんでした。
ちなみに、さっき年齢のことを話題にしたが、成瀬さんのオンエア時の年齢は43才!
つまり、2020年現在(註・この記事は2020年に執筆しました)の
猫ひろしと同い年と言うことになる。
マジかよ……
さて、ウルトラ警備隊作戦室では、
アマギ「隊長、ソガ隊員からの連絡がなくなりました」

キリヤマ「基地よりポインターへ、ソガ隊員が京南大構内で消息を絶った。
これで厄介払いが出来たなどとは考えずに、直ちに現場へ急行せよ」

ダン「了解、アンヌ、大至急こっちへ来て、冴子さんを頼む」
キリヤマは、アマギとフルハシを連れて、ホーク2号で宇宙へ飛び立つ。
ソガは、「科学衛星より宇宙船へ」と言う教授の言葉で目を覚ます。見れば、見知らぬ部屋にいて、椅子に縛り付けられていた。

仁羽「科学衛星より宇宙船へ」
教授の呼びかけに、細い金属の枠で作られた四角い空間が、

虚空に浮かぶ宇宙船の映像に切り替わる。
これ、一度でパッと映像に切り替わるんじゃなくて、走査線のように上から下に段階的に切り替わるのが、実に芸の細かい合成ショットとなっている。
こういう、ちょっとしたこだわりの有無が、名作と凡作とを分ける重要な境目なのである。
もっとも、この宇宙船の映像は誰が撮ってんだと言うことになるので、本来なら、宇宙船の中の別のプロテ星人の姿が映らないといけないんだけどね。
仁羽「到着予定時間を繰り上げてもらいたい、地球防衛軍が65分後にここへ来る」
プロテ星人「了解、準光速に切り替え、30分内に到着する」

ソガ「貴様、何をしてるんだ?」
仁羽「おめざめかな、ソガ隊員?」
ゆっくりと歩く教授の背後に、あちこちに銀色の灰皿のようなものが貼ってある衛星内部が映し出される。
この内装も、実に凝っているのだが、ドアの周りのトゲトゲの模様は、ちょっとやり過ぎじゃないかと思う。

ソガ「今の宇宙船はなんだ?」
仁羽「この衛星を持ち去るためにやってくる我がプロテ星の宇宙船です」
ソガ「なに、すると、ここは……」
ソガ、ようやく、自分が宇宙空間の真っ只中に浮かんでいることに気付いて愕然とする。
仁羽「地上36000キロ上空に静止している科学観測衛星の中です。あなたをここへお連れしたのはほかでもない、地球防衛軍の到着時間が知りたかったからです」
ソガ「バカな、そんな秘密事項をベラベラ喋るとでも思っているのか?」
仁羽「ところがもうすっかり伺いました」
ソガ「なにっ」
仁羽「寝言で全部喋ってましたよ」 ソガ「うそぉ~ん」
じゃなくて、
仁羽「あなたのお掛けになってらっしゃる椅子は、ただの安楽椅子ではありません。記憶探知機と申しましてな」
ソガ「はうっ」
仁羽「あなたの記憶をひとつ残らず引き出す役を果たしてくれました」
ソガ「くそぉっ」

仁羽「地球防衛軍がこの衛星を怪しいと思ったのはさすがだったが、一足遅かったようだ」
教授、喋りながら電送機の上に上がると、冒頭で冴子が聞いた雷のような音がして、

教授の体が光に包まれ、ウルトラマンがテレポーテーションした時のように、上から水平にスライスされながら消えていく。
ソガ(やべぇ……)
このままではクビどころか、プロテ星にお持ち帰りされてしまうと青褪めるソガ隊員であった。
一瞬で大学の隠し部屋に戻った仁羽のところに、息を弾ませて一宮があらわれる。
一宮「すぐ出発しましょう、ウルトラ警備隊が追ってきます」
仁羽「わかっています、宇宙船は30分後に出発します」
一宮「迎えが来るんですね。そうか、いよいよ来たか」

一宮「はっはっはっ、これで地球を脱出できる。僕たちが行った後、この電送装置や科学衛星はどうするんです?」
仁羽「勿論、破壊していくよ、ただ、あの衛星だけは持って行くがね」
一宮「あんなもの二人でいくらでも作れるじゃありませんか」
仁羽「そうはいかん、あの中には地球防衛軍の各国の秘密基地を観測した戦略資料が収めてあるんでね」
ここまでは完璧な仁羽教授の手並みだったが、その余計な一言が、計画に破綻をもたらしてしまうことになる。

一宮「え、それじゃあ、あの衛星は?」
教授の思いがけない言葉に、有頂天から、奈落に突き落とされたような顔になる一宮。
この電送装置のランプにしても、単に光ってるだけじゃなくて、いかにもそれらしい模様が入っているのが心憎いディテールである。
これは、クリスタル製の灰皿か花瓶でも使ってるのかな?
仁羽「さよう、科学観測衛星と言うのは表向き、実は地球侵略のためのスパイ衛星」
一宮「……」
仁羽「君の協力でその目的も完了した。あれだけの資料がプロテ星へ持ち込まれれば、地球を侵略するなど赤子の手を捻るようなもんだ」
一宮「あなたは僕の知識をそんなことのために……」
自分が冴子の言ったように利用されていたことを知った一宮、愕然として言葉を失う。
教授は意外そうな顔で振り向くと、
仁羽「何を驚いてるんだ。君があれほど軽蔑していた地球だ。どうなろうと知ったことではないだろう」
一宮「ちきしょう!」
一宮、いきなり教授に飛び掛かると、その襟首を掴んでもつれるようにして隣の部屋に移動する。

一宮「教授、衛星は渡せません」
仁羽「これはまた……あれほど地球を脱出したがっていた男が今度はその地球を命懸けで守ろうというのか……いやはや、地球人と言うものは全く分からん生物だ」
一宮の心境の変化に、揶揄ではなく心底から不思議がってみせる仁羽教授であった。
実際、見てる方も、一宮が一体何を考えているのか分からなくなるのだが、これも事前に、一宮が戦争中毒の地球人に嫌気が差し、プロテ星が平和を愛する星だと思い込んで移住を決意していたと解釈すれば、その豹変も理解できたのだが……
無論、ドラマとしては、なんだかんだ言って生まれ故郷の地球に愛着があり、その侵略の手助けは死んでも出来ないと言う、人間としての良心がそうさせたのだと言うことなのだろう。
一宮、教授に跪いてまで撤回を求めるが、
仁羽「一宮君、君の能力は私も欲しいと思うが……やもえんな」
一宮「教授!」
再び暴力モードになった一宮が教授に掴みかかり、ソファの向こうに押し倒すと、教授はプロテ星人の姿になって起き上がり、一宮に向かってくる。

一宮、慌ててドアから逃げようとするが、素早く金属製のシャッターが閉まって閉じ込められる。
この、木製のドアが一瞬でシャッターに入れ替わるギミックも、素晴らしい。
ほんと、「ウルトラセブン」の美術センスって、凄いの一言である。

すぐ目の前にプロテ星人が迫って立ち竦む一宮であったが、このプロテ星人の造型が、妙に可愛いんだよね。
両手が大きく、顔もなんかペンギンみたいで愛くるしい。
ここでやっとダンが駆けつけ(今までなにしてたんだ?)、ドアの向こうのシャッターを、ウルトラガンの先端にバーナーカートリッジを取り付け、素早く焼き切る。
色々あって、ダンはセブンに変身し、プロテ星人も巨大化して、大学の構内で、二人の巨人が対峙することとなる。

んで、この立ち回りの舞台となっている大学の建物や敷地を忠実に再現したミニチュアセットが、これまた素晴らしいの一語。
特撮の都合上、夜間のシーンとなって細部まではっきり見えないのが惜しい。
プロテ星人、火力は弱いものの、自由自在に姿を消したりあらわしたりして、セブンを翻弄する。
アイスラッガーで首を切断されても、平気な顔で宙に浮かんだ顔と一緒にワシャワシャしているのだから、その不死身ぶりは尋常ではない。

だからして、二体に分離にしてセブンを挟み撃ちにすることなどお茶の子さいさい。
いくら攻撃しても手応えのない相手にほとほと弱り、思わず家に帰って鍋焼きうどんが食いたくなったセブンであった。
正直、このまま延々とセブンをなぶっていれば、やがてエネルギーが枯渇したセブンを倒すことも可能だったろう。
だが、それよりも戦略資料のほうを重視したプロテ星人は、途中でこっそり自室に戻ってくる。

仁羽「はっはっはっはっ、いつまでも私の抜け殻と戦ってるが良い」
そう、いつの間にか自分の幻影を作り出し、それにセブンの相手をさせていたのである。
しかし、考えたらプロテ星には、こんな特殊能力を持った人がうじゃうじゃいるのだから、わざわざウルトラ警備隊のデータを盗まなくても、プロテ星の暇な人を50人ばかり集めて一度に攻めれば、ウルトラ警備隊はもとより、セブンだってそれこそ赤子の手を捻るように潰せていたのではないだろうか。

それはさておき、教授が隠し部屋に行き、電送機の上に立つと、一宮も追いかけてくる。
仁羽「一宮君、やはり私の星に来たいのか?」
この期に及んで、一宮の才能を惜しんだことが、プロテ星人にとって痛恨のミスとなる。

一宮「教授、二人同時では再生不能ですよ!」
仁羽「なにっ」
一宮、やにわに教授の体に抱きつき、正常な電送を自らの命を擲って阻止する。
二人の姿は消えるが、変な使い方をしたせいで異常な負荷が掛かったのか、電送機が火を吹いて壊れる。
それと同時にプロテ星人の幻も消えたため、セブンはすぐさま宇宙へ向かって飛び立つ。
ここまでくれば詳しく書くこともない。
セブン、宇宙船が一度は捕獲した観測衛星(ソガ入り)をもぎとって地球に運ぶ。

セブン、この時、観測衛星をシェイカーのように激しく振りたいと言う衝動を抑えるのに、大変苦労したそうであるが、嘘である。
宇宙船は無謀にもしつこくセブンを追いかけるが、セブンと入れ違いに飛んできたホーク2号に攻撃され、あえなく撃滅される。
エピローグ。
冒頭と同じように、鐘の音に驚いてピラミッドの頂点から鳩が飛び立つのを、屋上にいるダンが眩しそうに見上げている。
コンクリートのベンチに腰掛け、柄にもなく考え込んでいるソガのそばにいき、

ダン「何を考え込んでるんですか?」
ソガ「いやぁ、あの天才児のことが、ふと……生きてたら立派な科学者になったのにと思ってね」
ダン「死んだとは限らないでしょ。宇宙を彷徨ってるうちに元の姿を取り戻してどっか遠くの星からこの地球を懐かしがって見ているのかもしれないし、あるいはひょっこり、またこの学校へ戻ってくるかもしれない」
しかし、いくらなんでも二十歳過ぎてる青年をつかまえて「天才児」はないよね、「児」は。

続いて、これまた冒頭のリフレインのように、台形のトンネルを抜けて、別棟に入っていく冴子の姿。
今や無人となった仁羽教授の部屋を通り掛かると、コトンと、何かが倒れるような音がする。
もしやと思ってドアのノブに手を伸ばすが、

ナレ「おっと、また宇宙人がいるのかもしれませんよ」
まるで、ナレーションの警告が聞こえたかのように、笑って肩を竦めると、中を確かめずに歩き去る。
その後、カメラは部屋の中を映し出すが、

無論、そこには宇宙人も一宮もおらず、開いていた窓から風が入り、カーテンが揺れて花瓶か何かに当たって倒れただけのようであった。
ナレ「さっきの物音はどうやら春風の悪戯だったようです……」
と言う、のんびりしたナレーションで幕となる。
以上、地球を侵略しようとした宇宙人と、地球を見捨てるつもりだった地球人とが一緒になって宇宙の何処かへ消えてしまうと言う、怖いと言えば怖いけれど、なんとなく物悲しい結末が胸に沁みる佳作であった。
ただ、本文で記したように、一宮がそうまでして地球とおさらばしたいという心理描写の掘り下げが足りず、結果として、傑作と呼ぶところまでドラマ性が高くなっていないのが惜しまれるのである。
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