第23話「夢」(1975年3月16日)
の続きです。
夜、三ッ森家では、甲介がなんとなくいじけた顔をして、遅くまで酒を飲んでいた。
滝代が見兼ねて早く寝るよう勧めるが、甲介はジトッとした目を向け、

甲介「母さん、知ってたんだろ、チャミーが男と一緒にスキーに行くってこと」
非難するように問い質すが、滝代はあっけらかんとして、
滝代「ああ、知ってたわよ」
甲介「何故許したんだよ?」
滝代「だって、子を見ること、親にしかずって言うだろ」
甲介「どうして子を見ると親がハシカにならないんだよ? 母さんね、だいたい考えが甘過ぎるよ」
滝代「そんなねえ、いつまでも取り越し苦労しないで、早くお休み」
甲介「俺はね、とことんまで考えるたちなんだ」
滝代「あら、そうですか。そいじゃ私は先に寝るよ。お休み」
甲介「チッ、近頃の親は無責任だ」
滝代が隣の部屋に引っ込むのを、チャミーの父親のような顔で見遣ると、
甲介「チャミーさん、今の世の中はね、節操のないセックスアニマルがウヨウヨしてるんだよ……兄ちゃん、心配で、心配で……」
苦いタバコをくゆらしながら、再び妄想の世界に入り込む。

フロント「いらっしゃませ」
甲介「あ、君、三ッ森朝美の泊まっている隣の部屋を取れ」
フロント「ただいま満員でございますが」
甲介「満員? バカモン、満員だったらさっさと追い出せ、取れ」
フロント「あなた、どなたさまですか?」
甲介「三ッ森工業の社長だ、バカモン、今や、佐藤も田中も三木もみんなワシのとこに仕事頼みに来るんだ。便所掃除だけど……」
フロント「はぁ?」
いかさま、大会社の社長といったなりをした甲介が、葉巻を吹かしながら朝美たちの泊まっているホテルにあらわれ、横柄な態度で嘘八百を並べ、強引に朝美の隣の部屋を取ってしまう。
そう、つまり、石立さんも(後に分かるが、原田さんも赤木さんも永野さんも)ドラマでは行ってないが、実際にはロケに参加しているのである。
こういうパターンは、ちょっと珍しいのではないかと思う。

甲介「あいてて……はっはっはっはっはっはっ、上手く行った」
ミニスカの、ちょっと色っぽい女性従業員に案内されながら、付け髭を外す甲介。
と、甲介がチャミーたちの部屋の前を通り過ぎた時、
吉田「もう勘弁してくれよっ!」
美智子「ねえ、ねえったらぁ」
甘ったるい男女の声がしたかと思うと、パンツ一丁の吉田が服を抱えて飛び出してくる。

吉田「ああ、お兄さん? いやぁ、今の女子学生ってのは実に大胆ですなぁ」
甲介「大胆?」
吉田「ああ、参った、参った」
甲介「参った、参ったって……」
あくまで甲介の妄想なので、吉田は甲介の顔を見てもさして驚かず、甲介の体をバンバン叩くと自分の部屋に引き揚げる。
甲介が唖然としていると、美智子も出てきて、

美智子「甲介お兄様!」
甲介「あ、君は……」
美智子「やっぱり追いかけて来たのね、チャミーがかわいそう」
甲介「あの、君、今の学生とこの部屋に泊まってんのかい?」
美智子「当たり前でしょ?」
ちょっと恥ずかしそうに、どてらの前を掻き合わせるミッチーがエロ可愛いのである!
ま、あくまで甲介の妄想なのだが。
甲介「それじゃ、チャミーは?」
美智子「隣にいるわ。杉本さんと一緒よ」
甲介「杉本さんと一緒? なんとふしだらな……」
甲介がその部屋のドアを開けようとすると、ちょうど朝美が出てくる。

甲介「……」
思わず背中を向けて、変なポーズのまま固まる甲介だったが、朝美は何も気付かず廊下の反対側へ行ってしまう。

案内係「お客様、どうしたんですか?」
甲介「いや、ちょっと……栄養が悪かったもんで、突っ張っちゃった」
女性に聞かれて適当なことを言って誤魔化す甲介だったが、

甲介「こんなこと(してられない)」
女性の体を軽く押しのけ、チャミーの後を追いかける。
もし管理人が石立さんだったら、間違えたふりをしてそのおっぱいを掴んでいたことだろう。
この女性、てっきり、本物のホテルの従業員なのかと思ったが、クレジットにちゃんと名前があったので、れっきとした女優だったらしい。野中也素子と言う珍しい名前の人である。
甲介は、「ルパン三世」のような軽快なBGMに乗せて、スパイのようにチャミーの後をつけるが、案の定、ラウンジでチャミーを待っていたのは、妙な目付きをした杉本であった。

朝美「おまちどおさま」
杉本「遅い」
朝美「ごめんなさい」
杉本「飲むか?」
朝美「ええ、コーヒー」
杉本「大学に入ったんだ、酒にしろよ」
本物の杉本ならまず言いそうにない言葉であったが、朝美は簡単に頷く。
甲介「チャミー、お前……」

杉本「タバコ……」
朝美「吸えないんです」
杉本「吸ってみろよ」
朝美「……」
チャミーは言われるまま杉本の差し出したタバコを取ろうとするが、物陰から見ていた甲介が叫ぶ。

甲介「おい、チャミー、やめろ、やめるんだ!」
杉本「誰、あの男?」
朝美「知らないわ。赤の他人よ」
なにしろ夢の中の出来事なので、ここでは、杉本も朝美も甲介のことは知らない設定になっている。
ここで甲介が滝代に揺り起こされ、やっと現実世界に戻る。
甲介、妄想の世界に入りつつ、いつの間に酔い潰れて夢を見ていたらしい。
同じ頃、輝夫も布団の上で乙女チックなポーズを取って眠りながら、夢を見ていた。

滝代「ああ、いいお湯だねえ、母さん、幸せだ、こうやって三人で温泉に浸かってられるなんてさ」
輝夫「母ちゃんにな、一度こうやってのんびりさせてやりたいと思ってな。ははっ、夢だったんだ、俺の」
甲介「俺もだよ、俺も」
それは、あのホテルの大浴場に、母親と甲介と一緒に入っているというものだった。
いい年こいた男の見る夢にしては、いささか気持ち悪いが、母親を温泉旅行に連れて行ってやりたいという願望が、ストレートにあらわれたものなのだろう。
考えたら、リアルにそれを描くとなると、親子が別々の風呂に入ることになって分かりにくいから、不自然でも、こうやって描くのがドラマ的には一番手っ取り早いんだよね。
三人があれこれ思い出話に花を咲かせていると、

銀子「輝夫さん、輝夫さん!」
けたたましい声を上げながら、頭に包帯を巻いたパジャマ姿の銀子が飛び込んでくる。
この辺、輝夫が昼間見たときの格好で出てくるのが、夢としては実にリアルである。
銀子「大変よ、チャミーが山で行方不明になったの!」
輝夫「チャミーが?」
と言う訳で、風呂どころではなくなり、地元民の協力の下、大掛かりな捜索が行われることになる。

銀子「チャミーは輝夫さんがほんとのお兄さんじゃなかったことがショックだったのよ」
滝代「朝美、許しておくれ、母さんがお前に隠してたことが悪かったのよ」
次のシーンで銀子が普通のスキー支度になっているが、ま、これは単純に寒かったからだろう。
で、管理人がスタッフの優しさを感じたのは、夢の中に銀子が出ている点である。
つまり、本来なら絶対にロケに参加できない銀子も、夢や想像と言う設定なら、いくらでも鬼怒川に来ることが出来る……言い換えれば、本来は出演シーンのない筈の永野さんも、後ろめたさを感じずに慰安旅行も兼ねた(であろう)ロケに参加することができるようになる訳である。
まあ、別にそこまで深く考えての登場ではなかったかもしれないが……
ちなみに今回、ロケで費用がかさみ、ギャラを抑える必要が生じたせいか、まことに酒井一家、竹造、六郎など、レギュラー陣の半分ほどが参加していない。
もっとも、まことの川口晶さんは多忙だったのか、終盤、ちょくちょく抜けてるから、今回に限ったことではないが。
それはともかく、甲介や輝夫の必死の捜索も空しく、輝夫がチャミーを見付けた時には、既に彼女の体は冷たくなっていた。

輝夫「しっかりしろ、チャミー! チャミー、何故死んだんだ、お前は? お兄ちゃんが悪かった。お前にほんとのことを教えなくて……くっ、お兄ちゃんが悪かった。チャミー、チャミーッ!」
朝美の体を抱き締め、その顔にほお擦りしながら絶叫する輝夫。
しかし、よりによってチャミーが死ぬなんて夢を見なくても良さそうなものだが、これは、輝夫の心の奥底にある願望が歪な形で反映されたものなのではなかろうか?
つまり、どうせ結婚できない相手なら、誰か他の男に取られるくらいなら、その前に死んでくれたほうがいい……と言う、極めて身勝手な愛情表現、いや、独占欲である。
ま、単にチャミーのことが心配で仕方なく、ついそんな結末になったのかもしれないが。
ここでカメラは現実世界に戻る。

輝夫「おっほっほっほっ……おお、おお……」
甲介「テル、テル! なに泣いてんだ、お前?」
枕を抱き締めて号泣している輝夫の声に、甲介が目を覚まして揺り起こす。
輝夫は寝惚けまなこのまま、布団の上に座り直すと、
輝夫「兄貴、チャミーがな、遭難して死んだんだよ」
甲介「チャミーが遭難して死んだ?」
輝夫「兄貴とさあ、お袋と三人でお風呂入ってたろ? その後、銀子ちゃんが来て……」
甲介「お前、何寝惚けてんだよ! せっかくこっちは気持ち良く寝てたのに、バカヤロウ!」
皆まで聞かず、甲介は輝夫の頭を叩いて黙らせると、さっさと布団の中に潜り込む。
輝夫「チャミーの奴、だいじょぶかなぁ?」
翌日、杉本たちは朝っぱらからボウリングに興じていたが、そこで知り合った別の男子大学生三人と意気投合して、夜に「駄弁りバーティー」を開くことになる。
それを朝食の席で聞いた美智子は、いかにも憂鬱そうに、

美智子「男が5人で女が二人だなんて、なんだか私、萎縮しちゃうな」
朝美「あーら、ミッチーでも萎縮することあんの?」
美智子「あっ、ひっどーいっ!」
杉本「そんな気兼ねするような相手じゃないよ」
吉田「そうだ、あそこにいる女子大生のグループ誘ってみようか」
朝美「うんて言うかしら」
美智子「お高い感じよ」
吉田「まかしとけって」
厚かましい吉田は、自分は大学に落ちてる癖に、近くの席にいた女子大生グループのところに行き、堂々と話しかける。

美智子「吉田君って図々しいわねえ」
朝美「あきれたぁ」
そんな吉田の姿に、羨望にも似た嘆声を上げる二人であった。
その交渉の様子は省略されているが、吉田の誘いに女子大生たちもOKしたようで、スキー場に向かうシャトルバスの中には、

一同「雪よ山よ、われらが宿り~♪」
みんなで仲良く「雪山賛歌」と言う、定番の登山ソングを合唱する姿が見られるのだった。
まあ、健全明朗なホームドラマの1シーンと言う点を差っ引いても、昔の女子大生は今よりずっと素朴であった。
もっとも、彼らは彼らで、道すがら見掛けた地元の花嫁に対し、
杉本「断然、素朴って感じだなぁ!」
と、感動してるんだけどね。
美智子「なんだか、私もこんなところで雪景色に囲まれながら結婚式挙げたくなっちゃったなぁ」

朝美「……」
美智子の言葉が引き金になったのか、ここで朝美も忘我の状態となり、一幕の「夢」を見る。

教会の鐘がゆったりと響く中、雪化粧を施されたなだらかな峰々に抱かれたゲレンデで、ウェディングドレス姿のチャミーが、滝代に手を引かれて歩いてくる。

で、それを待っているのが、礼服を着た輝夫であった!!
そう、チャミー、少女の頃から漠然と抱いていた夢……兄である輝夫と結婚したいと言う夢を、遂にここで実現させてしまったのである。

銀子「悔しい、輝夫さんをチャミーに取られるなんて!」
美智子「だいたい無理よ、ライバル意識燃やす方が」
銀子「チャミー、輝夫さんを大事にするのよ」
その場には友人たちもいたが、なにしろ朝美の夢なので、みんな素直に二人の結婚を祝福してくれる。
ついで、神父に扮した甲介が、二人に誓いの言葉を言わせ、指輪の交換を行わせる。
ちなみにその指輪を持ってくるのが、カジモトと言う、セムシ男なのが、今ではどう考えてもNGなお遊びである。
滝代「朝美!」
朝美「母さん」
本来なら、とてもそんなことは許さないであろう滝代も、夢の中では朝美を力いっぱい抱き締め、喜んでくれる。

輝夫「チャミー、行くぞ、しっかりつかまってろ」
その後、二人は空き缶のたくさんついたスノーモービルに乗って、甲介たちに見送られながら新婚旅行に出掛ける。

しかし、ウェディングドレスを着てスノーモービルに乗るなんて、滅多に出来る経験ではないよね。
それと同時に、真っ白な雪の中に村地さんの美貌が照り輝くばかりに映える、実に印象的なビジュアルとなっている。
だいぶ前にも、このシーンを貼った記憶があるが……あれは、美女10だったっけなぁ?

美智子「チャミー、チャミー! 着いたわよ」
朝美「……」
と、ここで美智子に起こされて、朝美の甘美な、禁断の「夢」は終わりを告げる。
この、まだ寝惚けている朝美のムニッとした口がめっちゃ可愛いのである!

朝美「……」
漸く我に返った朝美は、「なんて夢を見たんだろう」とでも言いたげに、恥ずかしそうに声を出さずにひとり笑うのだった。
この後、スキー場に到着し、思う存分青春を謳歌するチャミーたち。
その夜、三ッ森家にチャミーから電話が掛かってくる。
最初は滝代が喋っていたが、それと知った甲介がドカドカ二階から降りてきて、受話器を奪い取り、

甲介「俺だ、俺だ、おい、チャミー、もしかしてお前、あの大学生や落第坊主と同じ部屋に泊まってるわけじゃねえろうな?」
朝美「まっさかぁ、どうしてもう少し私を信じないの? 甲兄ちゃん、すぐ下品な想像しちゃうんでしょう。今に頭がハゲるわよ」
甲介「うん、ああ……それならいいけどさ、俺もね、つとめてお前を信じるように努力するよ」
と、今度は輝夫が降りてきて、甲介から受話器を掻っ攫う。

輝夫「おい、いいか、良く聞けよ、遭難するんじゃないぞ!」

朝美「遭難?」

朝美「バカねえ、今日初めて滑れるようになったってのに、そんな遭難するようなとこ行かれる訳がないでしょう?」
輝夫「ふあっ? あ、そうか、そりゃそうだな、俺ね、お前が遭難した夢見ちゃったんだよーっ!」
うむ、やっぱり、村地さんは可愛い!!
滝代は受話器を息子から取り返すと、

滝代「あのね、うちの兄ちゃんたち、お前がいないとさぁ、気が狂っちまいそうなんだよ」
朝美「ね、私も変な夢見ちゃったの、テル兄ちゃんと結婚式を挙げた夢! うっふっ」
滝代「まあ、いやぁねえ、朝美、お前、そんな夢見たの?」
朝美「でも、夢は逆夢って言うでしょ。テル兄ちゃんと私はいつまで仲の良い兄弟でいたいの」
滝代「うん、そうだよ、そうだとも。それでいいんだよ……」
朝美「……じゃ、お休みなさい」
ここで朝美が、さっきの夢の内容を母親にあっさり話してしまうのが、なんとなく違和感を覚えるが、本人も言っているように、輝夫に対する恋愛感情に自分の中ではっきり決着をつけたことを意味しているのかもしれない。言い換えれば、一連の騒動を通じて、それだけ朝美が大人になったと言うことなのだろう。

夜、現地で知り合った大学生ともども、ラウンジに集まって「雪の降るまちを」を歌っているチャミー。
窓の外にはほんとに森々と雪が降っていて、なんともいえない楽しさと、そこはかとない哀愁がチャミーの心の中を駆け抜けていく。
ドラマはまだ2話残っているのだが、レビューで取り上げるのはこれが最後となる村地さんの画像であった。
正直、ここで切った方がすっきりすると思うのだが、尺が余ってしまったせいか、この後、寝ていた甲介が物音を耳にして、チャミーが帰ってきたのかと寝惚けて玄関まで見に行き、さらに輝夫も起きてきて、どうでもいい会話を交わす、いかにも穴埋め的なシーンが続く。

ちなみに物音の主は、ただの野良猫だったのだが、こうして画像を並べると、なんとなくチャミーと似ているように見えるから不思議である。
と言う訳で、ロケ先のシーンと、甲介たちの「夢」のシーンが大半を占める、異色のエピソードであった。
さて、ドラマの方は、次の24話で遂に輝夫と【
初子】が結ばれ、続く25話で、甲介と【
まこと】が結ばれると言う、おめでた尽くしの終幕を迎えることになるが、ドラマとしてはそれほど面白くなく、銀子もおらず、チャミーの見せ場もあまりないので省略させていただいた。
以上、超厳選「水もれ甲介」レビューでした!!
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