「湖底の美女」の続きです。
翌日、文代さんと小林少年と共に、岸辺の小径を伸びやかな気持ちで散歩している明智さん。

明智「いやぁ、久しぶりにのんびりしたなぁ」
文代「たまには東京を離れるのもいいもんですね!」
小林「でも、いつ、波越警部から電話が掛かってくるかもしれませんよ。殺人事件発生、応援頼むって」
明智「当分事件はお断りだよ」
小林「ほんとうですか、内心はこの湖畔で、世にも不思議な怪事件が起こるのを待ってるんじゃないですか?」
小林少年がそうやって茶化すが、

明智「冗談じゃないよ、退屈してんのは君の方だろう。あ、ボートに乗ろうか?」
文代「あ、先生、あれが良い!」
前方に係留してあるボートを見て明智が言うと、文代さんがまるで実の娘のように明智の腕を取ってせがむのが可愛いのである!

二人乗りの足漕ぎボートに乗って楽しく遊ぶ、ほんとの親子みたいで微笑ましい明智と文代さん。
その後ろから、一人乗りのボートを必死で漕いでいる小林少年が続く。
こういうのを専門用語で「みじめ」と言う。
と、湖岸の方から名前を呼ばれたので振り向くと、忍が立ってこちらに手を振っている。
何事かとボートを寄せると、忍から河野家の家庭内争議について相談されるが、明智は休暇中だからと断る。それでも忍は強引で、「ロビーでお待ちしております」と、明智の返事も待たずにさっさと行ってしまう。
後から来た小林少年が、仕事の依頼をされたと聞いて目を輝かせるが、

小林「どんな事件です?」
文代「離婚の揉め事」
文代さんが
「ああ、おめえ、ドコ中だぁ?」的な顔で答えると、
小林「ええっ、独身の僕にはまだまだ早いですよ」
明智「はっはっはっ」
……
いや、明智さん、笑ってる場合じゃないですよ。あんたも独身なんだから。

この後、ホテルに戻る途中の忍がゆかりと会い、あれこれ話す。
どうやら忍、いささか被害妄想的になっているようで、今回の企みにゆかりや陽子まで加担しているのではないかと疑っていた。
遠くからそれを見ていた文代さんは、
文代「あのゆかりさん、先生好みなんでしょう。(忍の依頼を)引き受けたら?」
と、やっかみ混じりに勧めるが、
明智「折角の休養だ。煩わしいことに首を突っ込みたくないよ。ところで、
お腹空いたなぁ」
あくまで明智さんは休暇をエンジョイすることに拘り、まったく関わろうとしない。
それにしても、「お腹空いたなぁ」と言う明智さんの台詞がめっちゃ可愛い……
そう言えば、この間「憲兵と幽霊」と言う映画を見たのだが、若き日の天知さんが、めちゃくちゃイケメンで笑ってしまった管理人であった。
散々遊んだ三人がホテルへ引き揚げると、ちょうど水中ダンスショーの始まる時間(午後1時)だった。

文代「ねえ先生、見に行きましょうよ~」
ここでも文代さんが子供っぽく明智にねだり、三人で大型テレビの置いてあるロビーに陣取るが、

やがてテレビに、陽子の全裸死体が映し出される!
キャプでは伝わらないが、一枚目の死体が、カクカクと上下に動いている様子はかなり間抜けである。
なんか、透明人間とエッチしてるみたいで……
もっとも、これは女優さんではなく、スタント、それも近藤玲子水中バレエ団の人ではないかと思うが、なかなか大変な死体役である。
無論、ホテルは上を下への大騒ぎとなる。

さすがの傲岸不遜な河野も、一人娘が殺されたとあっては平静でいられず、運び出される娘の死体に取り縋った挙句、悲嘆のあまり心臓の発作を起こしてぶっ倒れてしまう。
河野はもともと心臓が悪かったのだ。
それはそれとして、

水槽から引き揚げられて担架に乗せられた全裸の陽子の胸の谷間が、ちょっとエッチだと思いました。
これだけ立派なモノをお持ちなのに、それを活用しないのは実に勿体無い。
兎にも角にも、警察の捜査が開始され、まずは、地下室の管理を任されている古田三造が事情聴取を受ける。
地下室の巨大水槽の前には、2台のビデオカメラが設置されていて、水中ショーの時間になると、三造が制御盤のスイッチを入れて、広間のテレビに映像を送るようになっていた。
で、この、離れたところにある死体がテレビに映し出されると言うのが、原作の内容をアレンジした数少ない箇所で、原作では、窃視癖のある主人公が、滞在していた旅館で、鏡を組み合わせた筒状の装置を自分の部屋から浴室まで設置し、入浴中の若い女性を覗き見ようとしたら、偶然、女性の殺害現場らしき光景を目撃するという筋なのである。
ちなみに原作の三造は知恵遅れの風呂焚きで、真犯人に罪を着せられ、容疑者扱いされた末、死ぬ(他殺か、事故かはっきりしない)と言うひどい扱いだった。

刑事「昨夜から死体が発見されるまでのあなたの行動を話してください」
三造「昨夜は11時までゆかりさんとロビーのスナックで話しとって、それからここへ帰って寝たです。6時半に起きて9時半まで水槽の掃除をしとったで、それから疲れて、モニターテレビのスイッチも押し忘れて、ここで寝てしまったですよ。歯が痛くて薬を飲んだのがいけんかったね。気がついてみたら12時を過ぎとった」
その歯痛の薬と言うのが、さっきゆかりから渡されていた薬であった。
三造はその後、ロビーのスナックで昼食を取り、部屋に戻ってきてスイッチを入れ、そこでやっと陽子の死体に気付いたと言う。
刑事は支配人にも聞いて裏を取るが、支配人によれば、確かに午前11時ごろ、三造の部屋を見に行くと、三造が大鼾をかいて眠っていたと証言する。
一方、ゆかりはコケシのことを明智に話し、調べて欲しいと懇願するが、仕事をしたくないと言う明智の意志は岩のように固く、やんわりと断って警察に相談すべきだと素っ気無い返事。
ゆかりがいかにも気落ちした様子で立ち去った後、

文代「あのコケシ、殺人の予告のようですね」
明智「さー、知らんよ、僕は関係ない」
小林「先生、あんな美人に頼まれても乗り出さないんですか? 事件はこのホテルの中で起こったんですよ」
むしろ助手たちの方が乗り気で、明智を焚きつけるが、

明智「ほぉー」
文代「小林君、一人で張り切ってんのね」
小林「何言ってんの、文代さんだってすっかり乗り気の癖に」
明智「……」
興奮気味の助手たちの視線を避けるように、とぼけた顔で横を向く明智さんだった。
さて、今回は東京が舞台でないので、警視庁の波越警部をどうやって話に絡ませるのかと思っていたが、たまたま地元警察に別の事件の裏取りで訪れていたと言う強引な手法が採られている。
山幸閣での事件を聞いた警部は、
波越「そのホトケ、拝みたかったですなぁ。水槽の中で鎖で縛られて、全裸の若い女だそうですな」 と、ドラマだから笑って聞き流せる暴言を放つ。
その後、地元警察から協力を要請され、オブザーバーとして忍の事情聴取に立ち会う。

陽子の死亡推定時刻は午前11時だったが、ちょうどその頃、忍は明智に話し掛けていたため(一応)アリバイが成立する。
その忍の口から明智と言う名前が出ると、途端に目を輝かせる波越警部。
波越「明智探偵?」
忍「ええ、同じホテルにいらっしゃるんです」
波越「あ、そー、署長、この事件はすぐ解決しますよ。明智君の知恵をどんどん取り入れたら良い。なんてったって、彼は日本一の名探偵ですからね。はっはっはっ」 刑事のプライドがカケラも感じられない波越の台詞に、周りの刑事たちはうんざりした顔になる。
次のシーンでは、早くも明智たちと合流している。

波越「あのね、今日は僕がコーヒーおごるからね」
文代「ええーっ! どうしたの、警部、また何か企んでるんでしょう~?」
波越の言葉に大げさに驚いて見せてから、悪戯っぽい声で囁く文代さん。
波越「また俺がそんなケチなこと考えるかよ。(明智に)ねえねえそろそろあたりがついたんだろう? 動機は何?」
文代「ほら来た!」
波越「またうるさいな、っんとにぃ!」

明智「僕はあいにく、休養中でしてね」
波越「そんなことは通用しないよ、だって事件は君の目の前で起こったんだよ、え、つまり、犯人は名探偵に挑戦状を叩きつけたわけだよ。黙ってちゃ男が廃るよ~」
小林「先生、どうです、この辺りで神輿を上げたら?」
波越警部の慫慂に、小林少年がそばから援護射撃を加えれば、

文代「水槽責任者の古田三造って人ね、自分の管理ミスだと悩んで寝込んじゃったんですって」
文代さんも明智の気を引くようなことを言って、明智の顔を覗き込む。
明智「良く知ってるねえ」
文代「かくもあらんと、今朝からリサーチしておいたんです」
小林「さすが先輩」
波越「よし、これで決まり!」

明智「あっふっ……いやぁ、全く君たちにはあっちゃかなわんな」
口ではぼやきながらも、周りから期待されて、いかにも嬉しそうな明智さんであった。
こうして番組開始から30分以上経過して、やっと明智さんが重い腰を上げることになる。
ぶっちゃけ、明智さんが不自然なほど頑なに捜査に乗り出そうとしないのは、もともと今回のストーリーが極めて単純なので、その時間稼ぎのためとしか思えない。かなり時間を割いて描かれる河野と忍の離婚問題にまつわるドラマも、貧弱な骨格を誤魔化すための上げ底にしか過ぎないのである。
ともあれ、明智はまず犯行現場である地下室へ向かう。
地下室の裏口は、非常口も兼ねているので常に開きっぱなしで、誰でも出入り可能であった。

波越「これが問題の水槽かー」
小林「ビデオカメラが二台……」
文代「管理人室のモニターテレビに常時映ってるそうですよ」
4人は水槽やビデオカメラを確認した後、水槽の横手にある管理人室を訪ねる。

明智「このモニターテレビは絶えず映ってるんですか」
三造「モニターのスイッチは朝起きて入れ、寝るとき消すだから」
文代「12時過ぎ、スナックで食事をしてロビーへ送信するスイッチを入れに戻ったんでしょ? その時、水槽の前を通ったんでしょ?」
つまり、もっと早く陽子の死体に気付いたのではないかと言外に問うが、
三造「水槽の管理はモニターテレビでやる癖がついてるで、直接水槽は見ねえです」
明智はふと壁にかかっている雪山のパネルに目を留める。

明智「山がお好きなんですか」
三造「いやー、こんな地下室で働いてると明るい自然が心を慰めてくれっから」
明智「どこの山ですか」
三造「さー、貰いもんだで」
その後、明智と波越は、病床の河野を除いた関係者を一堂に集め、11時前後のアリバイを尋ねるが、忍を含めてはっきりしたアリバイのある人間はひとりもいなかった。
続いて明智は例のコケシをみんなに見せるが、

明智「ところで野崎さん、あなた、腕に怪我をしてませんか?」
野崎のふとした仕草から、野崎が怪我をしていることを見抜く。
観念した野崎が右袖をまくると、腕には真新しい包帯が巻かれていた。

波越「野崎さん、あんた陽子さんを殺そうとして揉みあってるうちに怪我をした。そうでしょ」
野崎「違います。奥さんにナイフで切られたんです」
「冤罪量産マシーン」の異名を持つ波越が即座に野崎が犯人だと決め付けるが、野崎は事件の日の朝、忍に林の中に呼び出されて、ナイフで襲われた時に出来た傷だと説明する。
わざわざ回想シーンまで使ってその時の情景が描かれるが、さっきも言ったように、殺人事件とは何の関係もないのだった。
ま、明智さんの並外れた観察力をアピールするためのシーンであろう。
動機の面では、河野を憎んでいた忍、陽子にフラれた野崎、河野と結婚すると噂されていたゆかりの三人が浮かび上がるが、ゆかりは河野と結婚するつもりはないときっぱり否定する。
考えれば、財産目当て(の結婚)だとしても、何も危険を冒してまで陽子を殺す必要はないのだから、大して強い動機とは思えない。
もっとも、上村弁護士によると、河野がゆかりと結婚しよう思っていたことは事実らしい。
小林少年が陽子の事件前の足取りを追う一方、文代は、マリンガールのマキを尾行し、加賀と連れ立って何処かへ出掛けるのを目撃する。
その後、水槽の前を通りかかるが、

三造「やっと直っただ」
文代「どこか故障してたんですか?」
三造「いや、空気のパイプが一本イカれてただよ。やっと三本になった」
三造とそんな会話を交わす。見え見えの伏線である。

で、加賀とマキは、案の定、男女の関係にあり、近くのラブホテルで一戦交えた後、
加賀「え、200万?」
マキ「明日までに」
加賀「俺にはそんな金はないよ」
マキ「あら、河野先生に貰えば?」
加賀「ええっ?」
マキ「私知ってるのよ、あなたと河野陽水の特別な関係」
加賀「誰に聞いたんだ?」
マキ「死んだ陽子さんよ」
加賀の何らかの弱みを握っているらしいマキ、そう言って加賀を脅す。
残念なことに、このマキ役の女優さんも脱ぎNGらしく、おっぱいの一つも見せてくれない。
おっぱいの出てこない美女シリーズなど、タコの入っていないタコ焼きのようなものである。
その河野は、依然、病臥していたが、意識ははっきりしており、陽子の葬儀について上村と打ち合わせた後、

河野「離婚届はどうした?」
上村「は? あ、東京へ送りました」
河野「じゃあ法律的には効果があるんだな」
なんとなくそのことには触れられたくないような顔の上村弁護士が、逃げるように出て行くのと入れ違いに加賀がやってくる。加賀は、看護婦を下がらせて河野と二人きりになると、

加賀「俺もそろそろ人物画からおさらばしようと思ってな」
河野「何故だ?」
加賀「お前の下絵を描いて、金を貰う生活はやめだ。当座の生活費に、500万用立ててくれるか」
河野「断る」
加賀「俺が霧ヶ岳を描くと言ってもか?」
河野「……」
加賀の斬り込むような声に、つらそうに顔を歪ませる河野。
つまり、加賀は、河野の人物画のゴーストライターのような仕事をしているらしい。
マキが掴んだ「特別な関係」とはそのことを指しているのだが、それとは別に加賀が口にした「霧ヶ岳」こそが、今回の事件の淵源なのである。

ひとり、ロビーのゲーム機で憂さ晴らしに「ドンキーコング」で遊んでいる野崎。

ゲームに熱中するあまり、自分もゴリラみたいな顔になってしまうのだった。

忍「本当に離婚届、送ってないのね」
上村「ああ、あんたが判を押すまでは陽水の指示通りにしたがね、あれを送ってしまうとあんたには遺産は一銭も入らない。どうしようか考えてるんだよ」
忍「あなたってほんとに悪党ね。陽水と組んで私を騙し、私と組んで陽水を騙す。陽水からいくら貰うつもりだったの?」
上村「500万」
忍「たったそれっぽっち? 私と組めば何億と入ってくる」
上村「しかし陽水が死ななければ」
忍「一銭も入ってこない、か……ねえ、あの人心臓が弱ってるから、何かもうひとつショックを与える方法ない?」
上村「恐ろしいことを考えるなぁ……」
一方、コウモリのように節操のない上村は、いつの間にか忍と男女の関係になっており、今度は逆に、忍と組んで河野の財産を巻き上げる算段をしていた。
おそらく、陽子が死に、河野もいつ死んでもおかしくない状態になったことから、心変わりをしたのだろう。
ま、これまた、メインストーリーとは
全く関係ない話なのだが……
明智たちは、一室に集まって人間関係相関図を見ながら事件について話し合っている。

波越「この中でアリバイがないのは?」
小林「画家の加賀に、野崎」
波越「野崎は怪我をしている。残るは加賀か」
文代「加賀といえば、私見たんです。マリンガールのマキさんとこそこそ逢ってるの……二人はただの仲じゃないわね」
明智「動機はなんでしょうね、警部?」
珍しく明智から意見を求められた波越は、

波越「加賀は河野陽水の若い頃からの友人だ。だが今は(河野の)ヒモみたいなもんだな。従ってコンプレックスがある。心の底では陽水を憎んでいるようだ。そこでだ、可愛がってる陽子を殺して、陽水の精神錯乱を狙った。動機はこれだっ!」
自信たっぷりに断言するが、
文代「そんなことで人が殺せるかしら?」 文代さんの反応は、ピノのように冷たかった。
ま、確かに、河野を苦しめる為にその娘を殺すなどと言うのはいかにも非現実的な動機である。

波越「ところがね! そこが芸術家の不思議なところなんだよ。ねえ、明智君?」
明智「うっ? ああ、なるほどねえ……波越式推理ですね」
明らかに上の空で聞いていた明智さん、波越警部に振られて一瞬まごつくが、適当に相槌を打つ。
波越「ひやっはっはっはっはっ、おだてんなよ、そんなにー」 
別に誰も褒めてないのに、勝手に謙遜して困っている波越の反応に、思わず俯いて吹き出してしまう文代さんと小林少年。
波越「おい、何がおかしいんだよ、俺だってたまには明智君が感心するようなこと言うんだい。頭使ってんだからね」
気分を害したように文句を言う波越に対し、
文代「あー、それで後ろが薄いんですね」 時と場合によっては、血の雨が降ってもおかしくない恐ろしいツッコミを入れる文代さん。
波越「そうだよ、俺は後頭部でモノ考えるんだ。悪かったな」
もっとも、波越警部の頭が薄いのは誰が見てもはっきりしているので、波越もあえて否定しない。
こんなほのぼのしたやりとりも、今回で見納めかと思うとちょっと寂しい。
やっぱり美女シリーズのベストメンバーは、この4人だよね。
その3へ続く。
- 関連記事
-
スポンサーサイト