第7回「拾いものには御用心」(1976年11月17日)
の続きです。
一方、忍は妙子を会社から連れ出して、弘済会館と言う結婚式場の下見に来ていた。
忍「式を挙げてもね、お互いに今までどおり別々に暮らすんだよ。披露宴やハネムーンはね、正式に二人が結婚を発表したときにすればいいじゃないかな」
妙子「慌しいわよ、来週じゃあ」
忍「何を言ってるんだよ、貯金を減らさずに済むんだぞ。君の方針通りじゃないか」
妙子「うん、それは魅力だけど」
当然、建物のあちこちにはウェディングドレスを着た花嫁がうようよしていて、

妙子「ね!」
忍「はっはっはっはっ、ターコのああいう姿、早く見てえなぁ」
初々しい花嫁を見た二人は、なんとなく温かい気持ちになる。
あまり乗り気でなかった妙子も、

ウェディングドレスを着た自分の姿を思い浮かべてうっとりしてしまう。
忍「どうしたんだよ?」
妙子「う、ううん……なんでもない」
忍「式場あっちだな、行ってみよう」
忍が権利を譲ってもらうことにしている式場は、神式のこじんまりとした式場だった。
忍「意外に狭いんだね」
妙子「十分よ、お互いに家族や親戚があるわけじゃなし」
二人は新郎新婦の位置に立ってみる。

妙子「どんな気持ちかしら」
忍「まあな、小学校の頃、学芸会に初めて出た時のような気持ちじゃねえかな」
妙子「さっきの花嫁さん、泣いてたわね」
忍「あれより気楽さ、俺たちにはうるさい親もいねえし」

妙子「お母さん死ぬ前に言ってたわ、母親って女の子が生まれた時からもう娘の結婚式のこと考えちゃうもんだって……もうちょっと生きてりゃ良かったのに」
忍「ターコ……」
珍しく死んだ母親のことを話題にし、やや涙声になってつぶやく妙子を、忍がいたわるような眼差しで包む。
このまま何事もなければ二人は本当に結ばれていたかもしれないが……
さて、渚の方は、適当に街をうろついてから、同じく露天で絵を売っていた蛾次郎さんの隣に座らせてもらい、「作品」を並べて商売を開始するが、物珍しさにすぐに客がつく。
やりたい放題の渚は、商売そっちのけで歌を歌うが、後にスカウトされて歌手デビュー寸前まで行った渚の歌声はなかなか魅力的で、たちまち人の輪ができる。
ま、坪田さんは元々ミュージカル女優なので、歌うのはお手の物なのだ。
そこに偶然通り掛かったのが妙子と別れたばかりの忍であった。

忍「渚ちゃん!」
渚「あーっ、おっちゃん!」

忍「なにやってんだよ、こんなところで」
渚「見て見て、こーんなに儲かっちゃった」
忍「乞食みたい真似すんなよ! こういうことはねえ、社会の生存競争に負けた人が……」
蛾次郎「……」
忍「さ、行こう」
忍は半ば無理矢理渚の手を引いて連れて行く。
ちなみに忍の後ろに立っているのは、青春ドラマでお馴染みの清水昭博さんである。
また、客の中に泉じゅんさんもいたらしいが、顔はほとんど見えなかった。
その後、地下街を一緒に歩いている忍と渚。

忍「えっ、これが400円?」
渚「うん、あっという間に売れちゃった」
忍「やるなぁ、さすがバサマの孫娘ってとこだな」
大胆な街頭ロケがこの番組の売りのひとつで、ここでもガンガン通行人が二人を見ている。
渚「ね、おっちゃんの名前、なんて言うの?」
忍「やっと覚える気になったか……加茂忍」
渚「変な名前だねー」
居候させてもらっている相手の名前を今まで知らなかったと言うのが、いかにも渚らしい。
まあ、ドラマの中では、二人が出会ってまだ三日目なんだけどね。
だが、まるで恋人同士のように腕を組んで歩いている二人を、たまたま妙子の妹の真紀が目撃してしまったことから、話がややこしくなる。
口の軽い真紀は、早速会社の妙子に電話して、注進に及ぶ。
電話を切った直後は「ばかばかしい」と一笑に付す妙子であったが、すぐに胸の中に疑雲がむくむくと膨らんでくる。
さらに榎本から、忍が急用で社に戻らず直接帰宅すると聞かされて、居ても立ってもいられない気持ちになる。
渚、そんなことは露知らず、下宿に戻ってくると、

渚「これ、加茂さんから頼まれたの」
光政「なんだろ」
渚「それからこれタイヤキ、お母さんに冷めないうちに食べてねって」
忍から預かった封筒と、約束どおり買ってきたタイヤキを光政に渡す。
だいぶ頭のネジが弛んでるけど、こういう優しいところが渚の一番の魅力なのである!!
渚が二階に上がった後、封筒の中を見た光政は、嬉しさのあまりその場でごろんと一回転すると、

光政「おねえさまっ! むちゅっ! チョンワ、チョンワ、チョンワーッ!」
ナンシーのキスマーク付きサイン色紙を抱いて、それにキスまでするのだった。
荻田「ありゃー、またひとつチ○ポが増えちゃった……」
だから、山田さん、チ○ポはまずいですって!! ま、正確には珍本って言ってるんだろうけどね。
忍の方は、また「八重」に行って、例の男性が来るのを待っていた。正式に男性から権利を譲ってもらうつもりなのだ。
渚は光政の英語の勉強を見てやる。

渚「じゃ、過去形は?」
光政「お姉さま、風邪治ったかなぁ?」
渚「……」
光政「あつっ、いってぇーっ! 乱暴だなぁ、今度の先生」
ナンシーの色紙に見惚れて上の空の光政の頭を定規で思いっきり叩く渚。
渚「何でも一生懸命やんない人、私だいっ嫌い、勉強でも物拾うんでも……やんの、やめんの?」
光政「やるよ……ウィーハブトゥ、スチャッ……」
渚「スタディ!」
光政「ウィーハブトゥスタディ」
渚「なーんか、言語障害と話してるみたいだな……くっしゅっ! なんか寒気がするみたい」
可愛らしいくしゃみをすると、

渚「だいじょぶよ」
光政の首に手を回し、

光政「……」
自分の前髪を掻き上げて、額と額をくっつける。

渚「熱がある、やっぱり……」
思春期の少年には刺激の強い、そんなことをされた光政の反応が描かれないのが物足りないが、光政役の脇谷透さんも、演技抜きでちょっとドキドキしたのではあるまいか。
脇谷さん、子役としてはかなり上手いのだが、これ以外はあまり出演作がないのが惜しい。
その後、帰宅した忍が自分の部屋で原稿を書いていると、隣の部屋で物音がしたかと思うと、綾乃のいつになく真剣な声が聞こえてくる。

綾乃「渚! 渚!」
忍「どうした?」
綾乃「ふらふらしてると思ったら、なんだか急にばたって……」
忍「凄い熱だよ!」
渚の額に手を当てた忍は、おろおろする綾乃を押し退けて、慌てて一階に駆り下りる。
綾乃「渚、渚……」
涙ぐみながら渚の体をしっかり抱き締める綾乃。
次のシーンでは、雨の降る中、往診に来た医者が二人の部屋から出てくる。

医者「疲れから来た熱でしょう。ま、大したことありませんよ、注射を打っときましたから熱はすぐ下がります」
荻田夫妻「ありがとうございます」
もと子は医者を見送りに階段を降り、荻田は渚たちの部屋に戻る。
布団が敷かれ、渚の枕元には忍が座っていた。

荻田「どうだい?」
忍「だいじょうぶらしい。ゴミにバイ菌が付いてたんだろう、もう二度とこんなバカなことさせないからな」
渚「やるわよ……治ったら」
忍「起きてやんの」

渚「お金稼いでおばあちゃんに渡さなきゃ……死んだお母さんと約束したんだもん」
天井を見上げてつぶやく渚のいじらしさに、なんとも言えない表情になる忍たち。

忍「分かったよ、ベラベラ喋らないで一眠りしろ」
荻田「本降りになるかなぁ……」
思い出したように暗い窓の外を見て独り言のようにつぶやく荻田。
ちなみにこのシーン、個人的には「気まぐれ天使」の中で特に好きなシーンである。
しとしと降る夜の雨が実に良い舞台効果を出しているし、こういう、ゆったりとした時間の流れが感じられるシーンって、好きなのである。
最近のドラマ(ほとんど見ないけど)に欠けているのは、こういう、一見無意味な「間」じゃないかと思うのである。
だいたい最近のドラマ(しつこいようだが、ほとんど見ないけど)は全体的にテンポが速すぎるし、BGMがうるさ過ぎる。まるで無音の状態を恐れるラジオ番組みたいな感じである。

渚「ねえ、忍さん……」
渚、顔を傾けて、はじめて忍の名を呼ぶ。

忍「なんだよ、色っぽい声出すなよ……なんだ?」
渚「おばあちゃんは?」
忍「し、下だろ」
荻田「いなかったけどなぁ」
渚はそれを聞くとニッコリ微笑み、
渚「八幡様だわ」
忍「八幡様?」
渚「東京のお医者さまは当てにならないからって……きっとそうよ」
荻田「この雨の中を?」
忍「あのくそババァ、人に迷惑ばっかり掛けやがって……」
毒づきながらも、傘を差して神社に様子を見に行く忍であった。
忍が神社に着く頃には雨は上がっていたが、

渚が言ったとおり、綾乃は履物を脱いで足が泥まみれになるのも構わず、石畳の上を往復していわゆる「お百度参り」をしているところだった。
無論、孫の病気治癒を祈っているのである。

忍「バサマ……」
煮ても焼いても食えない綾乃だが、孫に対する愛情だけは人一倍あるんだと胸が熱くなる忍。

綾乃「どうぞ、神様、代わりに私の命差し上げても構いませんから、もうこれ以上長生きしても、あんまり良いこともなさそうですのでお願いいたします……」
綾乃は拝殿に向かって深々と頭を下げてから振り向くが、忍の存在など眼中になく、百度石代わりに置いてある履物と傘のところまで下がり、

忍「バサマ……」
綾乃「声掛けないで、効き目なくなってしまう」
話し掛けようとする忍を手で追い払うと、再びヒタヒタ拝殿の前まで行き、

綾乃「神様、(渚が)助かりましたら、今度はお金のほうをお恵み下さいませ」
と、今度はいかにも綾乃らしい図々しいお願いをするのだった。
その声までは聞こえない忍は、

忍「羨ましいな、渚ちゃんが……」
親身になって心配してくれる肉親のいる渚を、心底から羨むのだった。
下宿の古本屋で、光政がひとりで英語の宿題をやりながら店番をしていると、

妙子「こんばんは」
光政「はーい」
妙子「あの、加茂さんいらっしゃる?」
光政「え?」
妙子「大隈って言うんですけど……」
光政「……」
妙子「君じゃわからない? 他にどなたかいらっしゃらな……ぐしゅっ! ごめんなさい」

光政「まさか……」
途中で妙子がくしゃみをした瞬間、光政の頭に閃くものがあった。
と、ここで最悪のタイミングで渚が降りてくる。しかもパジャマ姿で。

渚「光政くぅ~ん、忍さんは?」
光政「駄目だよ、起きてきちゃ」
渚「もう大丈夫! 英語やっちゃわなきゃ……こんばんはー」
光政のそばに来た渚、妙子に気付いて屈託なく挨拶する。
妙子「こんばんは……」
妙子も仕方なく笑顔で挨拶を返すが、

忍「ただいまー……あれ?」
今度は妙子の後ろから、これまた最悪のタイミングで忍が戻ってくる。
妙子は冷ややかな笑みを浮かべながら、
妙子「さっきの話、まだ決めないで欲しいの」
忍「ターコ?」
妙子「それだけ言いにきたの、じゃあね」
忍「ね、あの……」
渚を見て、てっきり忍が浮気しているのだと思い込んだ妙子、さっさと帰ろうとするが、
光政「ナンシー!!」 妙子「……!」
突然「芸名」を呼ばれ、反射的に振り向いてしまう。

光政「やっぱりぃ! 声で分かるよ。俺、毎晩聞いてるもん!」
予想が当たって、有頂天になる光政であったが、

忍「ナ、ナンシーって……君が?」
妙子「……」
思いもよらぬ暴露に、唖然として婚約者の顔を見詰める忍であった。
まあ、仮にも婚約者ならラジオの声聞いた時点で気付けよって話なんだけどね。
それでも、妙子が忍の秘密(誤解なのだが)を握ったと思ったら、同時に妙子の秘密も忍にバレてしまうと言う、この辺のストーリー展開が実に面白い。
なお、次の8話はレビューしないので簡単にこの顛末だけ書いておくと、最初は怒り狂っていた妙子も、忍の必死の釈明を聞いたり、実際に綾乃と話したりして、やっと忍と綾乃たちの関係を理解して、機嫌を直すのである。
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