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「気まぐれ天使」 第11回「海の向うに何がある?」


 第11回「海の向うに何がある?」(1976年12月15日)

 だいぶ間が空きましたが、完全に自分のためだけに書いている「気まぐれ天使」のお時間です。

 冒頭、プリンセス下着のビルの中で、ちょっとしたファッションショーが開かれている。

 
 MC「デザインは大隅妙子です……」

 司会の言葉に妙子が立ち上がって会釈すると、周囲から拍手が起きる。

 ……

 管理人がこの画像を貼った理由は、昔からの読者の方にはお分かり頂けると思う。

 妙子が華やかなスポットライトを浴びている頃、妙子の婚約者である加茂忍は、裏方の仕事でてんてこ舞いの状態だった。

 忍「さあ、次はこれだからね、はいはいはい、早く早く時間がない時間がない! 早くして!」

 

 
 忍にせかされ、下着だけのあられもない姿をしたモデルたちがステージに向かって飛び出していく。

 この真ん中の女の子の、ひらべったい、いかにも70年代の女の子っぽいスタイルや、ちょっと恥ずかしそうな表情がたまらなく可愛いと思いました。

 あと、手前のマネキン人形の首が、女の子の股間に突き刺さっているように見えるのがちょっとエロいと思いました。

 
 榎本「ルベールさん、我々のショーを見てくださって大変光栄です」

 ショーの後、榎本たちは同じテーブルで見ていたフランスの高名なデザイナーであるルベールとあれこれ社交辞令を交わしていたが、ルベール、妙子の才能によほど惚れ込んだのか、

 通訳「榎本さん、大隅さん、パリに寄越しなさい、3年で私は一流のデザイナーにして見せます」
 榎本「そりゃ凄いなぁ……おい、ターコ、ルベールさんが君を見込んでくれたんだぞ」
 妙子「どうもありがとうございます」

 突然の誘いに、榎本が興奮気味の声を上げ、妙子も最敬礼で応える。

 ちなみに、プリンセス社は、ルベールのブランドを自社の製品に使わせてもらうため、ルベールを日本に招待しているのである。

 そんなこととは露知らない忍は、ショーが終わるや私服に着替えてさっさと帰って行ったモデルたちが脱いだ下着の山を前にして、

 忍「何がお疲れ様だ、くっ、これが男一生の仕事かねーっ!」

 心底ウンザリしたように叫ぶのだった。

 翌朝、珍しく下宿の居間で食事をした忍が、ひとりでどたどた2階に上がっていくのを見ながら、

 渚「おっちゃん、この頃イライラしてるみたいだよ」
 綾乃「お嫁さんが欲しいんでしょ」
 荻田「いつか来てた娘さん、恋人じゃないのかねえ。えらい別嬪だったけど……」
 もと子「うへっ、じゃあ違うわ、たぶん」
 綾乃「あんな良い方なんですもの、すぐ出来ますよ……この子がもうちょっと大人だったらば良かった」
 渚「……」

 忍が自分の部屋でスーツに着替えてネクタイを締めていると、

 
 ガラッと戸が開いて、渚が子犬のような悪戯っぽい顔を覗かせる。

 うう、可愛い……

 渚「おっちゃん、お嫁さんが欲しいの?」

 
 忍「なんだ、いきなり」
 渚「みんなそう言ってるわよ」
 忍「余計なお世話だよ、自分の嫁さんぐらいねえ、俺は自分で見つけるよ」
 渚「見付かったぁ?」
 忍「いや、まだだ」
 渚「かわいそーね……ね、私がなってあげようか、お嫁さん」
 忍「バカなこと言うんじゃないよ! まったく、このうちの奴は何考えてるかわかりゃしない。特にお前はそうだ」

 忍、渚を怒鳴りつけると、朝っぱらからカリカリしながら会社に行く。

 渚は座椅子に体を預けると、夢見るような眼差しで、

 
 渚「恥ずかしがってんのかなぁ」

 うう、可愛い……あ、さっき言ったか。

 一方、榎本と妙子は、パリに帰国するルベールの出立を見送った後、連れ立って空港から出てくる。

 
 榎本「ルベールさん、ほんとに君を連れて帰りたがってたなぁ」
 妙子「光栄だわ、お会いできただけでも感激なのに」
 榎本「だったら真剣に考えたらどうだい、パリ行きを?」
 妙子「ダメよ、私には……」
 榎本「婚約者か……三年だけ結婚を延ばしてもらえばいいじゃないか」
 妙子「そうはいかないの、今まで延ばしに延ばしてきたんですもの」

 上司として榎本は、何の他意もなく妙子にパリ行きを勧めるが、妙子は婚約者の存在を理由にきっぱり断る。

 
 榎本「よし、俺が話してやるよ」
 妙子「それがダメなの」
 榎本「信用がねえなぁ、一体何処の誰なんだい、その運の良い男は? 名前ぐらい教えてくれてもいいだろう」

 榎本、それが親友の忍とも知らず、妙子に尋ねるが、

 妙子「もうやめましょ、夢は夢のままで良いのよ」

 二人が婚約を秘密にしているのは、特に理由があってのことではないのだが、あまりに長いこと隠していただけに、周囲に打ち明けるタイミングを逸してしまっているのだ。

 特に、妙子は、榎本からの愛の告白を婚約者がいるからと断ったことがあるので、余計言いづらくなっているのである。

 社に戻ってきた榎本は、忍を誘って屋上へ行く。

 
 榎本「この前街で会った子ね、ほら、あのノッポの……」
 忍「なんだ、お前まだあんな子に未練があんのか」
 榎本「いや、そんな訳じゃないけどさ、なんか、すっきりしないんだなぁ。何処の誰だか分からないし、もう会うこともないだろうしね」
 忍「思う壺だなぁ」

 榎本、第9話で偶然出会って意気投合した背の高い女の子のことを持ち出すが、その女の子、真紀こそ妙子の妹であることを夢にも知らないのだ。

 すなわち、忍から榎本が女性との偶然の出会いを求めていると聞いた真紀は、手下の岸部一徳に協力させ、榎本の出先に先回りして、あれこれ画策し、なんとか榎本と親しくなることに成功したのである。

 もっとも、榎本の本題はそのことではなく、やはり妙子のことだった。

 
 榎本「あの子、ほんとにいると思いますか? 婚約者なんて」
 忍「彼女が言ったんだからいるんだろう、たぶん……それがどうした」

 相手が当の婚約者とも知らず、そんな間抜けな質問をすると、

 榎本「僕はね、会ってこう言ってやりたいんですよ、君は掘り出したダイヤモンドを磨きもせずに自分の引き出しの中に放り込んじまうのかってね」
 忍「えっ」
 榎本「要するにその男はターコの邪魔者、靴の中の小石みたいなもんですね」
 忍「なにぃ?」

 「靴の中の小石」呼ばわりされてムカッとする忍だったが、妙子との関係をバラす訳にもいかず、「忍」の一字で耐えるのだった。

 一方、渚は、いつものように路上で自作のアクセサリーを売るかたわら、気の向くまま自作の歌を弾き語りしていたが、商売を終えて帰ろうとしていると、

 
 木下「歌が上手だねえ、君ぃ」
 渚「ありがとう」
 木下「名前は?」
 渚「伊集院渚」
 木下「ふーん、珍しい名前だね、ね、どう、こんなことよしてね、プロの歌手になる気はないの?」
 渚「……」

 見知らぬ中年男から意外な誘いを掛けられる。

 
 木下「私はね、小さな音楽のプロダクションを持ってるもんだけど、良かったら、レコード会社に紹介してあげるよ」

 男はそう言って、自分の名刺を取り出してホテルの名前と部屋番号を記し、

 木下「その気になったら訪ねて来なさい、ゆっくり相談しよう、ね」
 渚「……」
 木下「待ってるよ」

 くどいほど念を押してから、いかにも胡散臭い男は立ち去る。

 演じるのは、このシリーズの常連の北村総一郎さんである。

 もっとも、およそ普通の女の子らしくない渚は、芸能界には全く興味がなく、貰った名刺はそのまま帽子の中に投げ込んでしまい、それっきり忘れてしまう。

 一方、社内の喫茶コーナーに場所を移して、なおも妙子のパリ行きについて話している忍と榎本。

 
 榎本「うまくいけば、世界の大隅妙子ですよ。こんなチャンスをですね、たかが結婚のために棒に振っちまうなんて下らないと思いませんか」
 忍「たかが結婚とはなんだよ、婚約者の身にもなってみろよ、三年間もね、ひとりで毛唐のところへターコを預けといて何をされるかわかったもんじゃないよ……と、俺は思うよ」
 榎本「ルベールは真面目な男ですよ、女房も子供もあるし」
 忍「フランス人はね、女房や子供がいても女を口説くのは物凄く上手いんだから! ……と俺は思うよ」
 榎本「はっはっ、いやにその婚約者の肩持ちますね」
 忍「そっちこそ、イヤに乗り気だな」
 榎本「ああ、良い話だからですよ」
 忍「ほんとはターコの婚約者をぶっ壊しといて、あわよくば自分で……」
 榎本「えーっ? 僕はね、そんな卑怯な男じゃありませんよ」
 忍「じゃあ余計なお節介はやめろよ」
 榎本「余計なお節介? たとえ先輩でも許しませんね、そんなことは」

 妙子を是非パリに行かせてやりたい榎本と、当然ながら行かせたくない忍の話は平行線を辿り、遂にはちょっとした喧嘩にまで発展してしまう。

 さて、渚、仕事を終えて自宅に帰り、新たに拾い集めたガラクタの品定めをしていたが、帽子の中に、稼いだ小銭と一緒にあの名刺が入っているのを綾乃が見付け、

 綾乃「なあに、これ?」
 渚「私を歌手にしたいからそのホテルへ来いって」
 綾乃「行くんでしょ、あなた?」
 渚「ううん」
 綾乃「あら、どうして、もぉ、美空ひばりさんみたいになれるかもしれないじゃないの」
 渚「私ね、自分が好きな時だけ歌いたいの、商売人なんかなりたくないもん」

 綾乃、ならば自分がホテルに行くと言い出し、渚をびっくりさせる。

 渚「おばあちゃん、歌手になるの?」
 綾乃「私がなるわけじゃありませんの……でも、これでも民謡歌わせたらちょっとしたもんなんだけど、もう5年若けりゃねえ」

 相変わらず、たとえ話まで図々しい綾乃であった。

 ちなみに綾乃の年齢ははっきりしないが、最初に病院に担ぎ込まれた時のカルテでは60代だが、後の自己申告では70代である。

 退社後、会社の近くの蕎麦屋で差し向かいで話している忍と妙子。

 
 忍「行きたいのか、パリ?」
 妙子「まさか、三年間よ。それにせっかく貯めたお金もフイになっちゃうしね」

 忍は単刀直入に妙子の気持ちを尋ねるが、妙子が即座に否定したので思わず安堵の息をつく。

 忍「いや、それ聞いて安心したよ、はははっ」
 妙子「何もパリに行かなくたってデザイナーになれるもん」
 忍「そうなんだよ、だいたい日本人ってのは外国のものを有り難がり過ぎるんだよ……ほんと行かない?」
 妙子「だいじょうぶよ、心配しないでも、はっきり断るから」

 妙子の優しい笑顔を見て、心底ホッとする忍であったが、その実、妙子がなんとなく浮かない顔をしているのには全く気付かない。

 夜、無駄に行動力のある綾乃は、ほんとに例のホテルへやってくる。

 ホテルマンに木下の部屋の前まで案内された綾乃は、部屋の前に出されていたルームサービスの食べ残りをつまむと、いつもの癖でナイフやスプーンをネコババしようとするが、

 
 綾乃「これはー、私のものじゃないからね」

 今まで何度も忍に説教されてきたせいか、ここではなんとか自制心を働かせて元に戻す。

 フロントから伊集院と言う女性が来ると聞かされて、てっきり渚が来たのだと思ってワクワクして待っていた木下だが、入って来たのが見知らぬ老婆だったのでがっかりする。

 それでも渚の祖母ということで無碍に追い返すわけにも行かず、部屋に入れて一応話を聞くが、

 
 綾乃「あの、テレビで歌いますとお金いくらぐらい頂けるんでございましょうかねえ?」
 木下「あのねえ、おばあちゃん……あの子を歌手にしたいんだったらね、本人を呼びなさいよ、本人を」
 綾乃「でもね、あの本人はお風呂かなんかで歌ってるほうが好きだと申しまして……全く欲のない子でして……で、あの、レコード一枚売れるといくらぐらいレコード屋さんから頂けるんですの?」
 木下「そりゃねえ、先の話なの、今ね、本人と話したいの……いいから帰ってください」

 ひたすら金のことしか頭にない綾乃に嫌気が差し、うんざりした顔で部屋から追い出すのだった。

 綾乃「何よ、呼ばれたから電車賃使って来たのに……まぁー」

 憤慨した綾乃は、さっきのワゴンの上に高そうなライターとパイプが置いてあるのを見て、

 綾乃「これはね、警察に届けてあげなくちゃ」

 腹いせに、それを「拾って」持って帰ってしまう。

 一方、荻田家。

 
 光政「俺たちのクラスの女の子でさ、もう男を知ってるのが最低で三人いるんだ」
 渚「中学生で? 信じられないよ~」

 渚に英語の勉強を見てもらいながら、ちょっと際どい話題を持ち出す光政であったが、

 光政「どうってことないよ、ちゃんとピル飲んでるもん」
 渚「ピルってなぁに?」
 光政「えっ、知らないの、お姉ちゃん? 年いくつ?」
 渚「年に関係あんの?」
 光政「恋愛したことないの~?」
 渚「ないよーっだ、男の子より犬猫の方が好きだもん」

 渚が想像を絶する奥手だと知って、いささか呆れていた。

 この手の話が大好きな光政、渚の好みのタイプが中年だと知ると、

 光政「じゃあ、加茂さんみたいなのは?」
 渚「だーめっ、おっちゃん、私のこと怒ってばっかいるんだもん」
 光政「でも好きだから怒るってこともあるよ」
 渚「ほんと?」
 光政「でも、無理かな、ナンシーがあんなイカしてちゃ、お姉ちゃん程度じゃちょっとね」

 渚を喜ばしておいてから、妙子と渚の容姿をズケズケと比較してみせる。

 ナンシーと言うのは、お色気ラジオ番組における妙子の芸名(?)なのである。

 光政はその番組の熱心なリスナーで、以前、たまたま忍に会いに来た妙子の声を聞いて、彼女がナンシーだと見抜いてしまったのである。

 渚は気を悪くした風もなく、トランプを取り出すと、シャッフルして並べ出す。

 
 光政「なにしてんの?」
 渚「占いよ、これが私でこれがおっちゃん、見ててご覧、すっごい良く当たるから」

 この、渚の占いが得意と言うキャラクターは、次回作「気まぐれ本格派」の楓(山口いづみ)に受け継がれているようである。

 と、そこへ綾乃が帰ってくる。

 よたよたと2階に上がってきた綾乃を、忍が自分の部屋に引っ張り込んで説教する。

 忍は渚から一部始終を聞いているのだ。

 
 忍「どうしてあんなインチキな野郎と係わり合いを持とうとするんだよ? だいたい本人がね、全然乗ってないじゃないか」
 綾乃「インチキじゃありませんのよ、あなた、だってね、何十階ってこう、高いホテルのね」
 忍「それが奴らの手なんだよ、でなきゃね、若い娘をね、ホテルまで呼び寄せるはずがないだろ、なんか魂胆があるに決まってるじゃないか! バサマ、自分の可愛い孫娘を野良犬の餌食にして良いのか、ええっ?」
 綾乃「なぁに、そんな……」

 
 渚「相性ぴったしだわぁ~」
 忍「俺はね、渚ちゃんのためを思って言ってるんだよ、わかんねえかな、この愛情が?」
 渚「ありゃあ?」

 トランプを手に2階に上がってきた渚、廊下まで聞こえてきた忍の言葉をそのままの意味で受け取り、思わずニンマリする。

 自分たちの部屋に戻り、コタツの上にもう一度カードを並べながら、

 
 渚「ほんとかなぁ、全然気がつかなかった……ふぅーん、そしたらあの人、なんだろう? おっちゃんの」

 両手の上に顎を乗せ、忍と妙子の関係に思いを馳せるのだった。

 うう、可愛い……あ、さっきも言ったか。

 深夜、そのナンシーこと妙子、いつものようにラジオ局のブースで、本番前の打ち合わせをしていたが、

 
 鈴木「今日使うレコードはこれ」
 妙子「これ……?」
 鈴木「なんか冴えてないよ、今夜は」
 妙子「ねえ、鈴木さん、この番組、誰か私の代わりにやる人いないかしら?」
 鈴木「えーっ、降りたいのかい?」
 妙子「会社勤めをして、その上、夜遅くまででしょう。この頃とっても疲れんの」
 鈴木「うん、なんか声が張りがないとは思ってたよ」
 妙子「このままずっと続けられる自信がないのよ」

 妙子の突然の辞意表明に、担当ディレクターの鈴木は何年でも続けて欲しいと慰留するが、妙子はデザイナーの仕事に集中したいと訴える。

 鈴木「ま、それは改めて後で相談するとして……そろそろスタンバイして」
 妙子「はい」

 一方、忍はそのラジオを聴きながら、頑張って童話の内容を考えていたが、突然、隣の部屋から渚の呻き声が聞こえてくる。

 渚「うーん、うーん」
 忍「どうした?」
 渚「痛いよー、痛いよー」
 忍「渚ちゃん!」

 忍が慌てて仕切りの襖を開けると、

 
 渚「歯が痛いよ~」

 渚が頬に手を当て、泣きそうな顔をしていた。

 忍「なんだ、虫歯か、しょうがねえなぁ、こんな夜中に……ああ、待ってろ、頭痛薬やるからな。痛み止めになるだろう」

 
 忍「あんして、あんして」
 渚「ああー」

 忍、粉薬を渚の口に直接入れて飲ませる。

 渚「痛いよ~」
 忍「我慢しろよ、子供じゃあるめえし」
 渚「痛-い……このお薬、ちっとも効かないわよ」
 忍「バカ野郎、薬がそんなに早く効いてたまるか……明日な、金やるから歯医者行って来い」
 渚「やーっ、私、歯医者さんだいっ嫌い」
 忍「歯医者の好きな奴なんか誰もいやしないよ」

 
 忍「ちょっと見せてみろ、もっとあーんして……何処だ?」
 渚「奥の奥……」

 忍、渚の顎をツンと持ち上げ、部屋の明かりもつけずに口の中を覗こうと顔を近付けていたが、

 
 間近で見た渚の顔のパーツに、ドキッとするような色気を感じてしまい、

 
 忍「……」

 なんともいえない気まずい表情になり、生唾を飲みながらゆっくりと顔を離す。

 忍が子供だ子供だとばかり思っていた渚の中に初めて「女」を見た瞬間であったが、

 
 渚「分かったぁ?」

 当の渚は何も気付かず、あっけらかんとして尋ねる。

 忍「ああ、分かったよ、あ、静かに寝てろ。す、じきに薬が効いて、効いてくるからな……」

 忍、へどもどしながら言うと、そそくさと逃げるように自分の部屋に帰っていく。

 翌日、会社を訪ねて来た真紀と、喫茶ルームで話している忍。

 
 真紀「結婚ねえ……ついでにもう三年待てない?」
 忍「軽く言うなよ」
 真紀「私もひとりで淋しいけどお姉ちゃんの一生の問題でしょ」
 忍「君が心配することないんだよ、ターコとは話がついてるんだよ、彼女ね、パリなんか全然行きたくないって、ははは」
 真紀「それお姉ちゃんの本心じゃないもん」
 忍「どうして分かるの?」
 真紀「分かるの、二人きりの姉妹だもん」

 真紀は、素直に妙子をパリに送り出してやるべきだと忍に説き、ついで、幼い頃に両親を亡くし、親代わりに真紀の面倒を見てきた妙子の苦労を語り、

 
 真紀「そりゃ勿論、加茂さんとの結婚だって幸せには違いないわ、だけど、パリ行きは一生に一度、それも、今だけにしかないチャンスだもん。お願い、お姉ちゃんの気持ち分かってあげてよ」

 いつになく真剣な様子で懇願する真紀であったが、忍は茶化したような口調で、

 忍「わかったわかったわかった、つまり俺のことなんかどうでもいいってことだろう、なにそれ、お姉ちゃんに買収された訳?」

 それを聞いた途端、真紀はいきなりお冷の水を忍の顔にぶっかける。

 
 忍「なにすんだよ!」

 
 真紀「……」

 激昂する忍だったが、真紀が目に涙を溜めているのを見て、自分も俄かに深刻な顔になって沈黙する。

 逃げるように帰っていく真紀を、茫然として見送る忍。

 暗い、思い詰めた目でひとり考え込んでいたが、職場に戻ってくると、

 
 忍「昨日のフランスの野郎、なんつったっけ」
 妙子「ルベールよ」
 忍「ルベールだかシャベールだか知らないけどね、行って来いよ、フランスに」
 妙子「ええっ?」
 忍「三年なんてね、六年の半分だから、どうってことないさ」

 忍はそれだけ言うと、すぐ部屋を出て行く。

 婚約者の突然の翻意に妙子は戸惑うばかりであった。

 一方、忍と真紀が話すのを見ていた榎本は、会社から飛び出した真紀を捕まえ、やっと彼女が妙子の妹であり、この間の出会いも偶然ではなく、真紀が仕組んだことだったことを知る。

 榎本は別に怒らず、

 榎本「加茂さんも共犯かい?」
 真紀「あの人に私を尾行させようとしたのはあなたじゃない」
 榎本「あの時が初めて、彼と?」
 真紀「え?」
 榎本「なんか深刻な話してたじゃない、結婚かどうとかこうとか」
 真紀「ああ、あれ、お姉ちゃんの……」
 榎本「何故怒ったの、姉さんの話で?」
 真紀「それは、その……」

 榎本、真紀が何か隠し事をしていると睨み、あれこれ揺さぶりを掛けるが、

 
 榎本「な、ほんとのこと言えよ、ほんとは加茂さんと恋人同士なんだろ」
 真紀「とんでもない、彼はお姉ちゃんと……」
 榎本「えっ?」

 嘘をつくのが苦手な真紀は、榎本に鎌を掛けられると、うっかり口を滑らせてしまう。

 
 真紀「いっけねえ……誘導尋問上手いのね、榎本さんて、テレビの刑事さんみたい……」

 
 榎本「先輩がターコの?」

 二人の関係に全く気付いていなかった榎本にとって、それはまさに青天の霹靂であった。

 さて、渚、すっきりした顔で歯医者から戻ってきて綾乃にじゃれていると、綾乃が高そうなライターとパイプを弄っているのに気付き、

 渚「あら、なあに、それ?」
 綾乃「拾ったの」
 渚「拾ったぁ?」
 綾乃「うん、ホテルの廊下のテーブルの上で、ね」
 渚「テーブルの上?」

 
 渚「おばあちゃん……」

 渚、綾乃がまた悪い癖を出してしまったことを知り、困ったような目で祖母を見詰めるのだった。

 再び会社。

 榎本が真紀と別れて戻ってくると、忍は話があると外へ連れ出す。

 
 忍「パリ行きの話だけどな、考えたら悪い話じゃないと思うんだよ、昨日はああ言ったけどね、説得に協力してもいいよ」
 榎本「どうぞご自由に……先輩とターコが相談して決めてください」
 忍「え? おい、エノ、どういうことだよ?」

 にべもなく言い捨てて、さっさと立ち去ろうとするのを忍が慌てて引き止めると、榎本はほろ苦い笑みを浮かべ、

 榎本「先輩、もういいですよ。とぼけないでください」
 忍「え?」
 榎本「ああ、まだ言ってないから、ここで二人の婚約のお祝いだけは言わせていただきます。おめでとうございます」
 忍「エノ……」
 榎本「そのかわり、先輩とは仕事以外では絶交ですからね!」
 忍「……」

 忍にとってもそれは青天の霹靂のような出来事で、憤然と去っていく榎本の背中を、ただ見送ることしか出来なかった。

 忍「とうとうバレたか……」

 しかし、忍、なんで急に妙子のパリ行きに賛成すると言い出したのか、その辺の心理描写がやや雑と言うか、おざなりであるように思う。

 まあ、真紀にきつく言われたからとしか考えようがないが、いささか唐突な感じは否めない。

 夜、木下の部屋に、今度は渚がやってくる。

 
 渚「こんちはー、ちょっと入ってもいい?」
 木下「勿論だよ、さーさーさー、どうぞ、入りたまえ」

 すっかり諦めていた木下が、小躍りして渚を部屋に入れたのは言うまでもない。

 一方、荻田家の食卓。

 
 荻田「するとなにか、渚ちゃんもいよいよ歌手か」
 もと子「偉い先生なの、その人?」
 綾乃「さあ、お金はあるみたいですよ。ですからパイプやライターなんかお返ししなくてもよろしいのに」

 
 光政「やばいよ、それは」

 大人たちの話を聞いていた光政が、思わず口を挟む。

 荻田「何が?」
 光政「近頃はさあ、インチキ芸能プロダクションがわんさとあるんだよ。だいたいちゃんとした人間がさ、ホテルなんかに女の子呼ぶかよ」
 もと子「変な想像すんじゃないよ、子供の癖して」
 光政「想像だけで済めばいいけどさ。そいつの狙いはお姉ちゃんの肉体だよ。こんな簡単なことがわからねえのかなぁ」
 もと子「およしなさい、光政!」

 もと子は光政を叱るだけで真剣に考えようとしなかったが、

 荻田「いや、待てよ、これはひょっとすると……」

 荻田は、光政の言にも一理あることに気付き、俄かに緊張した面持ちになる。

 綾乃「そう言えば、スケベったらしい顔の男でしたのよ」
 荻田「ほお」
 綾乃「あら、どうしましょう」

 暢気にご飯を食べていた綾乃、ここでやっと孫のことを心配し始める。

 
 もと子「ちょっと、あなた行って来たらどう?」
 荻田「うん?」
 もと子「見て来なさいよ、ちょっと」
 荻田「いやいやいやいや、しかし俺はお前……」

 さすがに荻田が困っていると、ちょうどいい具合に忍が帰ってくる。

 すぐ2階に上がろうとする忍の服を綾乃が引っ張り、

 光政「お姉ちゃんの貞操のピンチだって言ったらどうする?」
 忍「渚ちゃんの?」
 綾乃「ホテル行ったんですのよ、あの子」
 忍「えっ?」

 次のシーンでは、ミッションインポッシブル的な音楽をバックに、スーツのまま下宿を飛び出して走っている忍の姿が映し出される。

 忍「バカ野郎、羊と狼の区別も出来ねえんだから、二十歳にもなりやがって!」

 忍、タクシーを拾ってホテルへ急ぐ。

 ちなみに忍はここで渚の年齢のことを口にしているが、少しのちの15話では、渚が成人式を迎えると知らされて驚いているので、少し矛盾している。

 
 木下「ね、うちは他のプロと違って特殊なコネがあるんだよ。僕がこうと決めたら絶対にスターにして見せるよ」
 渚「……」

 ホテルでは、木下があることないことまくしたてて渚を掻き口説いていたが、もともと歌手になる気などなく、単に祖母の盗んだパイプとライターを木下に知られずに返しに来ただけの渚は、右から左へ素通りであった。

 
 木下「君の才能と、僕のマネッジ、この二つがあればね……君、何やってんの?」
 渚「何処に置こうかなと思って」
 木下「何処にも行くな、僕の懐に飛び込んできなさい」

 渚は木下の目を盗んで、ライターとパイプを枕の下に潜り込ませるが、彼女のそばににじり寄った木下が、遂にその本性をむき出しにして渚に迫ってくる。

 そう、光政が聡くも看破したように、木下の狙いは最初から渚の体だけだったのだ。

 
 渚「なにすんのよ、おっちゃん!」

 渚もすぐに危険を察して枕を振り回して逃げようとするが、

 
 木下「待ちたまえよ」
 渚「いや、いやっ」

 所詮はか弱い女の子、木下に腕を捕まれて身動き取れなくなる。

 木下「何もしやしないよ、ただ僕はね君と話し合いをしようと思っただけなんだ」
 渚「触んなくたって話し出来るでしょーっ!」
 木下「人聞きの悪いこと言うなよ、僕はね、君とスキンシップを深めながら……」
 渚「あ、あ、あ……」

 普段はあっけらかんとして何事にも動じない渚が、全力で怯えて嫌がっている様子が萌えるのである!

 渚「助けておばあちゃーん!」

 それでもなんとか部屋から逃げ出す渚であったが、木下は執拗に追いかけてくる。

 と、そこへやっと忍が駆けつける。木下は、忍の顔を見るやすぐ部屋の中に引っ込む。

 
 渚「おっちゃん!」
 忍「どうした?」
 渚「怖かったよぉおおおっ、おっちゃんーっ」
 忍「だいじょうぶだ、俺が来たから大丈夫だぞ」

 子供のように忍の体にしがみついて泣く渚が可愛いのである!!

 
 真紀「困っちまったなぁ、お姉ちゃん、烈火のごとく怒るだろうし……今夜野宿しようかなぁ」

 同じ頃、真紀は歩道橋の上で、文字通り立ち往生していた。

 他言しないようにくれぐれも言われていた妙子と忍の関係を榎本に喋ってしまったことで、姉が激怒しているだろうと思い、帰るに帰れなくなっているのだ。

 もっとも、妙子は榎本にバレたことは忍から聞かされていたが、妹がバラしたとまでは聞いていないので、真紀の杞憂だったのだが。

 その妙子、ラジオの仕事を終えて鈴木に車で送ってもらっているところだった。

 
 鈴木「ルベールの直弟子か、凄いじゃないか」
 妙子「今のところは行かないつもりなんだけど……この番組もあるし」
 鈴木「そう言われると弱いな」
 妙子「私、体が二つか三つ欲しい」
 鈴木「三つできたら、ひとつ僕も予約しときたいな」
 妙子「ちょっと悪いけど止めて!」

 二人がシャレた「大人の会話」を交わしている最中、急に妙子が叫ぶ。

 鈴木は言われたとおりブレーキを踏み、路肩に車を停める。

 
 鈴木「どうしたの?」
 妙子「……」

 妙子、何か信じ難いものでも目撃したように、無言である一点を見詰めていた。

 妙子が驚いたのも道理、

 
 彼女の視界に飛び込んできたのは、恋人同士のように体を密着させた忍と渚が、こともあろうにホテルから出てくるところだったのだ!!

 忍「もう泣くな、これから気をつけりゃいいんだから、な、そうだ、どっかであったかいラーメンでも食って帰るか」
 渚「うん、やっぱおばあちゃんの言うとおりだった」
 忍「何が」
 渚「おっちゃんて良い人!!」
 忍「そうくっつくなよ、ほかに知ってる人に見られたら、まずいじゃないか」

 
 妙子「……」

 抱き合いながら歩いていく二人の様子を目の当たりにした妙子の頭の中に、「浮気」の二文字が浮かび上がったのは無理からぬことであった。

 果たしてこの顛末やいかに……と言うところで「つづく」のです。
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70~80年代の特撮、80年代のドラマを中心に紹介しています。

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