第36話「耳をふさげ!地獄の呼び声だ!!」(1972年12月8日)
冒頭、野鳥の声もかまびすしい、朝靄のけぶる山深い森の道なき道を、親子らしい猟師の二人連れが歩いている。

亥ノ吉「イノシシを深追いし過ぎて、飛んだ山の中へ迷い込んじまったな」
おテル「おっとう、なんだか気味の悪いところだねえ」
と、何かが草むらから飛び出すのを見たテルは、思わず悲鳴を上げて父親の胸に飛びつく。

おテル「きゃあっ!」
亥ノ吉「はっはっ、山鳥じゃねえか、猟師の娘があんなモンに驚いてどうするんだ?」
亥ノ吉、いとおしそうに娘の頭を撫でながら言い聞かす。
ちなみにおテル、猟師の設定なのに、若侍が着るような肩衣をつけ、脇差のようなものまで腰に差していて、物凄く不自然だが、
可愛いから許す!! 演じるのは石崎恵美子さんで、前回の植田多華子さんほどではないが、なかなか愛らしい顔立ちの女子である。
次回の西崎緑さんといい、最近やたら美少女ゲストが多いが、やはり、カスミの穴を埋めようと言う意識があったのだろうか。
ちなみに父親のほうは、セブンの「蒸発都市」で宇宙人を演じていた吉原正皓さん。
同じ頃、悪魔道人は、魔女サイレンに命じて、ハヤテを「幻の塔」に呼び寄せ、忍者大秘巻・天の巻をエサに、彼らの持つ地の巻を奪わせようとしていた。

そして、サイレンの出す不気味な鳴き声を頼りに猟師の親子が辿り着いたのが、その「幻の塔」、要するにサイレンのアジトなのだった。
そう、我々が70年代の特撮でイヤと言うほど見させられてきた多摩聖蹟記念館である。
しかし、仮にも時代劇なのに、現代の建物をそのままロケ地に使うというのは
手抜き大胆である。

二人はおっかなびっくり建物の中にはいるが、中はエジプトのピラミッドのようなレンガ造りと言う、節操がないにもほどがある内装であった。
サイレンは元々ギリシャ神話のセイレーンから来てるんだけどね……

亥ノ吉がエジプト風の神様の描かれた壁を押すと、どんでん返しの隠し扉になっていて、中では、白いベールのようなものをまとった得体の知れない女が、エジプト風の神像に向かって一心に祈りを捧げていた。
女「ハヤテ、忍者ハヤテよ、我が呪いの声によって速やかにこの地に来たれ!」

ハヤテ「あっ、うう、あっ……」
タツマキ「ハヤテ殿! どうなさいました?」
ハヤテ「呼んでる、誰かが俺を……俺を呼んでる!」
その特殊な声は、稲木の並ぶ田んぼ沿いの道を歩いていたハヤテの耳まで届き、ハヤテはその場にしゃがみこんで、何かに取り憑かれたような顔になる。
ハヤテはコロッとその術にかかり、おぼつかない足取りで声のする方角へ歩き出すが、女が猟師親子の立てた物音に気を散らされたため、途中で術が解ける。
女「見たな」
おテル「おっとう!」
亥ノ吉「なにもんだ、おめえは?」

サイレン「いーっひっひっひっ、私は南の国のサイレン、私の姿を見たものは生かしてはおかん!」
女はベールを脱ぐと、おぞましい怪物の姿に変わる。
こんな面相だが、この怪人は女性キャラで、声も牧野和子さんが頭のてっぺんから出るようなキンキン声で演じておられる。
「スカイライダー」のドロニャンゴーの人ね。
ちなみに、このサイレン、何か術を使ったり、登場したりする際に、いちいち「ウ~~~」と言う、高校野球の試合開始のときのようなサイレンが鳴るので、そのたびに「お、試合開始か」と思ってしまう厄介な怪人なのである。

外へ出た二人の前に先回りしてあらわれるが、ここでまた「ウ~~~」と鳴る。

サイレン、右手の吸盤のようなもので亥ノ吉の体を吸い寄せると、巨大な槍状の左手を深々とその体に突き立てる。
亥ノ吉「ぐわわーっ!」
おテル「おっとう!」
亥ノ吉「逃げろ、俺に構わず……」
恐怖のあまり、脇差の柄を掴んで立ち竦んでいたおテルは、迫るサイレンに押されるようにしてじりじりと後ずさるが、足を踏み外して谷底へ落ちてしまう。
だが、さいわい、柔らかい落ち葉の上に落ちたせいでかすり傷で済み、たまたま通り掛かったハヤテたちに介抱される。

ハヤテ「そなた、このあたりのものか?」
おテル「……」
ハヤテの問いに、無言で首を振るおテル。
怪物に遭遇した恐怖と父親を殺された悲しみで、その顔はひどく強張っていた。
ハヤテ「とにかく、人家を探して休ませよう」
ハヤテがタツマキの背中におテルを背負わせて立ち上がると、

崖の上に、妙な身なりをした見知らぬ男が立っていて、こちらをじっと見詰めているのに気付く。

タツマキ「何者でしょうか?」
ハヤテ「唐人らしいな」
ツムジ「悪魔道人の手先だよ、きっと」
男の存在が気になるハヤテであったが、ひとまず近くの人家を訪ね、訳を話して娘を休ませてもらうことにする。

ハヤテ「山で怪物に襲われたと言ったな?」
おテル「恐ろしい顔をしたお化けだよ、聞いたこともない変な音を出す」
タツマキ「変な音?」
文章では伝わらないが、石崎恵美子さんの声が、なんとなく昔のアニメ声優っぽくて可愛いのだ。
サイレン「キヒャアアアアーッ!」
おテル「あの音!」
などと話していると、障子の破れ目から、サイレンの出す曰く言いがたい奇妙な声が聞こえてくる。
サイレン「ハヤテ、ハヤテ~」
ハヤテ「またしても、俺を呼ぶ、あ……」

再び術に掛かったハヤテ、女の声に導かれるまま、夢遊病者のように足取りで歩き出すのを、タツマキたちが必死に止めて正気に返そうとするが効果はなく、タツマキはやむなくハヤテに当身を食らわせて気絶させる。
術に簡単に掛かるわ、タツマキに当身を食らうわ、今回のハヤテはいささか情けない。
タツマキはツムジを連れて民家を飛び出し、しばらく山道を走ったところで巨大な切り株の背後から出てきたサイレント出くわす。
しかし、サイレンの正体は、実はその親切な家の女性なのだが、おテルと一緒に家に残っていた筈なのに、タツマキたちの先回りをするのは、物理的に無理なのでは?
まあ、西洋妖怪は、しばしば瞬間移動の術を使うから、絶対にありえないとはいえないが。
タツマキ「さては、悪魔道人に仕える西洋妖怪じゃな」
サイレン「私の名はサイレン、大秘巻・地の巻を貰いに来た。ハヤテは何処にいる?(ウ~~~)」
タツマキとツムジでは西洋妖怪に勝ち目はなかったが、これまたいつの間にやってきたのか、嵐に変身したハヤテがあらわれ、ひとまずサイレンを撃退する。
その後、ハヤテたちは峠の上に亥ノ吉を埋葬し、その霊を手厚く弔う。
……
いや、亥ノ吉の死体はまだ「幻の塔」にあるんだけど、どうやって死体を回収してきたのだろう?
それとも、とりあえず墓だけ立てたのかなぁ?
正直、このシーンは要らなかった……と言うか、早過ぎた。墓参りのシーンは最後にも出てくるからね。
ちなみに、おテルは天涯孤独になったのではなく、母親がいることがハヤテの台詞で判明する。
ハヤテとタツマキは、ツムジとおテルにさっきの家で待つよう言いつけてから、天の巻があるという「幻の塔」へ向かう。
だが、ハヤテはまたしてもサイレンの術に掛かり、タツマキを置いてひとりで建物の中へ消えていく。

追いかけようとするタツマキには、剣と丸い盾を持ち、エプロンをつけた下忍たちが襲い掛かる。
これではローマの剣闘士のつもりだろうが、エジプト、ギリシャ、ローマ、中国(唐人)と、これだけ多種多少の文化がごちゃまぜに混在しているエピソードも稀であろう。
CM後、一体何度目だ? と言う感じの試合開始のサイレンが鳴る中、ハヤテはまんまとサイレンの待つ小部屋まで導かれる。

サイレン「ハヤテ、よく来たな、待っていたぞ」
ハヤテ「あれは!」
サイレン「いかにも、あれは忍者大秘巻・天の巻、欲しくば取って見るが良い」
ハヤテ「おのれ!」
我武者羅に斬りかかろうとしたハヤテの動きを、またもや試合開始のサイレンが封じる。

ハヤテは成すすべもなく吸い寄せられ、亥ノ吉と全く同じ方法で体を貫かれ、その場に人形のようにばったり倒れる。
しかし、亥ノ吉はそれで死んでいるのだから、ハヤテも死なないとおかしいと思うのだが、まあ、化身忍者の手術を受けているハヤテは、嵐にならなくても常人よりは頑丈な体に出来ているのだろう。
サイレンは豚のような鳴き声を出しながら、吸盤状の手でハヤテの体をまさぐるが、肝心の地の巻がない。

そこへあっさり下忍たちに捕まったタツマキが縛られて連行されてくる。
……捕まえたんなら、さっさと殺せよ。
一体今まで何人の仲間を殺されてきたと思ってるんだ?
地の巻はタツマキも持っておらず、
サイレン「ええい、はかられたか、さては、地の巻はあの小僧たちが、急げ、行って地の巻を奪え!」
試合開始のサイレンが鳴る中、剣闘士たちは元気良くグラウンドに向かって走り出す球児のように出撃する。

その場に放置されたハヤテとタツマキは、なんとか立ち上がって神像が咥えている天の巻を奪おうとするが、サイレンともあろうものが何の仕掛けもせずに部屋を空にする筈がなく、神像の前の床がパカッと開き、二人は仲良く地下牢に落とされる。
……
つーかさぁ、なんでハヤテたちの息の根を止めずに行っちゃったんだろう?
はっきり言って、全国の城の抜け穴が書かれている忍者大秘巻などを手に入れることより、この場でハヤテの命を奪うことの方が、遥かに西洋妖怪および血車党にとって有益だっただろう。

それはともかく、二人の落ちた地下牢のセットが、34話の姫路城の牢とまったく同じなのは、さすがにどうかと思う。
「幻の塔」がピラミッドを意識しているのなら、せめて茶色に塗るくらいの手間は掛けて欲しかった。
サイレン「二人とも、その穴の底で飢えて骨になるが良い」
地下牢に落ちたハヤテは、まったく体が動かず、まさにハヤテの息の根を止める絶好の機会だったと思われるが、サイレンはさっさと部屋から出て行ってしまう。
で、案の定、何処からともなくあらわれた謎の剣士・月ノ輪によって、あっさり二人は引き揚げられる。
しかもサイレン、迂闊にも天の巻をあのままにしておいたため、ハヤテにまんまと奪われてしまう。
天の巻を置きっぱなしにしていたサイレンは論外だが、悪魔道人も、わざわざ本物をサイレンに渡したのは大きな手抜かりだったろう。
なんで本物そっくりのニセモノで間に合わせようとしなかったのか、理解に苦しむところだ。

タツマキ「ハヤテ殿、やっと天の巻を!」
ハヤテ「うん、月ノ輪のお陰だ」
それはそれとして、念願の天の巻を取り返し、嬉しさのあまりか、リーゼントを膨らませながらタツマキと喜びを分かち合うハヤテであった。
だが、同じ頃、あの民家の親切な女性がツムジたちの前で本性を現し、ツムジが無用心にも懐から覗かせていた地の巻を奪い取る。

女「これはまさしく、忍者大秘巻・地の巻だな」
ツムジ「なにぃ」

サイレン「地の巻さえ手に入ればお前たちに用はない。死んでもらう」
女はサイレンの姿になると、試合開始のサイレンを鳴らしながらツムジたちの息の根を止めに掛かる。
二人は民家から逃げ出すが、剣闘士スタイルの下忍たちに取り囲まれる。
絶体絶命のピンチであったが、この時、何者かが目にも止まらぬ攻撃を繰り出して、下忍を刈り取りの終わった田んぼに叩き落す。

そう、序盤からハヤテたちの周りに隠顕していた、謎の唐人であった。

男「ここは引き受けた、早く逃げろ」
ツムジ「ふん、その手に乗るか、悪魔道人の手下め!」
ま、冷静に考えて、この状況でツムジたちを騙す必要は全くないのだが、ツムジは警戒して怒鳴り返す。

男「ワシは、百地先生の命を受け、おぬしらを守る」
ツムジ「えっ、ほんと?」
だが、男が伊賀忍者の頭領・百地三太夫の名前を出したことで、ツムジもやっと信用する気になる。
もっとも、ツムジなら、一目でその男が味方であることに気付くべきだった。
何故なら……
男「沢村忠、見参!」 空高くジャンプしながら中国風の服を脱いだその姿は、キックボクサーの沢村忠だったからである!
そう、実は、31話のファイティング原田、32話の高見山に続く、ちびっ子たちの歓心を買うための、人気スポーツ選手の特別出演だったのである。
まあ、過去の反省からか、今回はより自然な登場の仕方になってるけどね。

無論、下忍たちはキックの鬼・沢村忠の敵ではなく、一方的に叩きのめされる。

ツムジ「すげえ、かっこいいやぁ」
今回も、間近で見る人気選手の活躍を、「素」で楽しんでいるツムジ。
ある意味、この企画で一番得をしたのは、この松葉さんかもしれない。
だが、この後、二人はサイレンに襲われて、刀を奪われ、投げ飛ばされて斜面を転がり落ちる。

おテル「きゃああっ!」
……
たとえ、チラの可能性が0.00000000000000000000000000000000000000001パーセントしかなくても、コマ送りしてその可能性に賭けるのが、キャプ職人の宿命なのである!
ま、見えませんでしたけどね、もちろん。
この後、大地の中から嵐が飛び出してきて、サイレンとのラス殺陣となる。
サイレン、馬鹿の一つ覚えのサイレンを鳴らすが、

嵐「その手を食わんぞ、もう音は聞こえん、どうだっ」
嵐は、羽根手裏剣で左右の耳を塞ぎ、サイレンの魔力を封じてしまう。
毎回「悪魔の笛」に苦しめられることが分かっているのに、一向に抜本的な対策を講じようとしないジローに見習わせたい柔軟性である。
嵐、しばしサイレンと戦ってから、「今だ!」と、自分の刀をツムジに投げ渡す。

ツムジ「おテルさん!」
おテル「おとうの仇だぁあああいっ!」
ツムジから刀を受け取ったおテルは、それを持ってサイレンに突っ込んでいく。
ちなみに彼女の名前が出てくるのはこのツムジの台詞の中だけなのだが、正直、「おテル」なのか「お豊」なのか、よく分からない。
たぶん、おテルだと思うが……

ともあれ、おテルは嵐の刀でサイレンの体を貫き、見事、父親の仇を討つ。
だが、サイレン、最後の力を振り絞って、右手に持っていた地の巻を大魔神像の中の悪魔道人に向かって放り投げる。

悪魔道人「サイレンよ、確かに地の巻は受け取ったぞ、
安心して地獄の底へ去れーっ!」
サイレン(無茶苦茶言うなぁ、このおっさん……) サイレン、最低限の仕事を果たすと、仰向けにぶっ倒れ、大爆発を起こして散る。
トドメを刺しただけとは言え、怪人が普通の人間に、それも年端も行かぬ女の子に倒されると言うのは、特撮では極めて珍しいケースである。
こうして、終わってみれば、互いの持っている天の巻と地の巻が入れ替わったことになり、引き続き、忍者大秘巻を巡る争奪戦が続くことになる。
そして悪魔道人は、きっと、心の中で激しく悔やんでいたに違いない。
「ああ、天の巻のコピー取ってたらなぁ……」と。
ラスト、おテルのことを沢村忠(笑)に託して、ハヤテたちは再び旅に出るのだった。
以上、はっきり言って面白くなく、レビューを書くのがしんどいエピソードであった。
女の子が出ていなかったら、喜んでスルーしているところである。
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