「熱中時代」傑作選 第18回「三年四組学級閉鎖」 前編
- 2021/07/03
- 20:16
第18回「三年四組学級閉鎖」(1979年2月2日)
冒頭、図画工作の授業をしている広大。
内容はマリオネットを作ることであったが、広大はついでに子供たちにナイフの使い方を覚えさせようとする。

広大「今日の宿題は、明日までに鉛筆を三本ずつ削ってくること、それからな、うちに帰ったら、うがいを忘れるな、風邪が流行ってるからな。もう6人も欠席してるんだぞ。後二人休んだら学級閉鎖になっちゃう」
季節柄、インフルエンザが大流行しており、広大のクラスにも空席が目立っていた。

教頭「推薦者、若葉台小学校校長・天城順三郎……確かに不味いですな、ほっといちゃ」
広大が授業後も教室に残って子供たちとじゃれている頃、職員室では教頭と小嶋田、桃子が額を集めて何やら深刻な相談をしていた。
勝手に校長の名前を騙り、参考書の宣伝ビラを撒いている不届きな輩がいるらしいのだ。
コトの善悪は別にして、そのチラシがワープロではなく手書きと言うのが、なんかほのぼのした気持ちにさせられる管理人であった。

教頭「いや、しかし、問題は誰に頼むかってコトですねえ」
桃子「北野先生はどうでしょう?」
小嶋田「不味いんじゃないですか、彼じゃ」
桃子「どうして?」
小嶋田「ヤブヘビですよ北野さんじゃ」
教頭「確かにその点の心配はありますなぁ、北野先生は猪突猛進て言うか、平たく言うと」
小嶋田「おっちょこちょい」
教頭「そう、そのおっちょこちょいのところが多分にありますからな」
三人が誰にその輩に注意すべきか話し合い、ついでに広大の悪口を言ってると、当の広大がマリオネットを手に入って来る。
小嶋田、ついで教頭もその存在に気付き、バツの悪そうな顔でそそくさと部屋を出て行く。
小松方正さん演じる教頭は、このドラマではほとんど唯一と言っていい憎まれ役なのである。と言って、広大を目のカタキにしているというほどでもない。
翌日、広大は出席を取りつつ、昨日出した宿題の成果を子供たちの間を歩きながらチェックしていく。
子供たちは競うように自分の削った鉛筆を広大に見せようとするが、

広大「おい、足立、どうした、ものもらいか……あれ、お前は鉛筆削りで削って来たのか」
足立「だってママがナイフ使うのダメだって言うんだもん」
片目に眼帯をつけた足立と言う男子は、しょんぼりと出来なかったワケを話す。
と、あたかも足立のそんな情けない発言を嘲笑うかのように、廊下から子供たちの笑い声が聞こえてくる。

男子「これじゃあ落ち着いて勉強できねえよなー」
広大「わかった、わかった、先生がな、今行って静かにしてもらってくるから、待ってろ」
口々に不満を漏らす子供たちをなだめ、広大は後ろの入り口から廊下へ出る。
広大がいなくなった途端、藤森たち、いわゆるガキ大将系の男子たちが足立のものもらいを見ようと追い掛け回すのだったが、そんなことはどうでも良くて、この画像の一番手前に映っているポニーテールの女の子こそ、管理人イチオシの平山君子ちゃんなのである!!
それはともかく、広大が廊下に出ると、小嶋田先生の3年2組の生徒たちがどやどやと帰っていくのに巻き込まれる。

小嶋田「北野さん、とうとう学級閉鎖ですよ」
広大「へーっ」
二人が話していると、隣の3年3組からもランドセルを背負った子供たちと、担任の桃子先生が出てくる。
小嶋田「小糸先生、お宅のクラスもですか」
桃子「ええ、昨日まで欠席4人だったんですけど、今日は一挙に10人になっちゃって」
ちなみにどうでもいいことだが、このシーンを見ると、教室の並びが、左から、3組(桃子)→4組(広大)→2組(小嶋田)となっているようで、なんとなく違和感がある。
まあ、クラスの番号順に教室が並んでないといけないという法律はないのだが。
その後、こちらも管理人イチオシの茂木由美子ちゃんが、足立を連れて廊下へ出てくる。

由美子「先生、足立君、早引きだってえ」
広大「おい、どうした、足立」
由美子「目が痛いんだって」
広大「先生と医務室行くか」
足立「いいよーっ」
足立、広大の手を振り切って逃げるように帰っていく。
教室に戻って授業を再開しようとする広大であったが、

男子「足立君が早引きしちゃったから、あと一人早引きすると学級閉鎖になるんですか?」
広大「あ、いや、えー、足立は目の病気だからな、もし風邪であと二人出るとそう言うことになるけども、おーい、なんだ、みんなは学級閉鎖になりたいのか? 学級閉鎖になった方が良い人?」
広大が開き直ったように問い掛けると、藤森たち数人が手を上げる。

由美子「ならない方がいいです!!」
由美子タンは真面目なので、はっきり声に出して否定する。
広大「そうだよなー、うちで宿題なんかしてるよりも、学校でみんなと勉強してる方が楽しいもんなー、ようし、それでは学級閉鎖にならない方が良い人」

子供たち「はーい!!」
広大の質問に、ほとんど子供たちが一斉に手を上げる。
広大「ようし、じゃあ楽しく社会の勉強を始めよう」
教師としての自信を再確認し、満面の笑みで授業を始める広大。
もっとも、後に分かるように、内心では学級閉鎖になったほうがいいと思っていた子供たちも少なからずいたようである。
さて、授業のテーマは、「みんながどんな願いを持っているか」と言うことなり、
広大「誰か、議長になる人」
由美子「はーい、はーい、はい」
広大「茂木か」
広大の呼びかけに、即座に由美子タンが手を上げて前に出る。
由美子、別に学級委員長(註1)というわけではないらしいが、足立のことを取り次いだことといい、そういうことをするのが好きな性格なのである。
註1……この学校では、学級委員長と言う役職自体ないらしい。少なくとも学級委員長を選ぶなんてシーンは一度も出て来ない。

広大「それでは議長、お願いします」
由美子「はい、わかりました、座っててください」
広大「はい、わかりました」
由美子に言われて、素直に横の椅子に座る広大であった。

由美子「誰か、願いがある人」
白井「はーい」
由美子「白井さん」
白井「宿題を一杯出した方がいいと思います」
由美子「どうしてですか」
白井「宿題が一杯あると、テレビを見る時間が少なくなるからです」
白井さんのいささか屈折した理由に思わず笑う広大であったが、
男子「そんなの嘘だよー」
女子「そんなの自分の願いじゃないわ」
男子「そんなの親の願いだよ」
即座に他の子供たちに否定されてしまう。
由美子「静かにしてくださーい」
広大「はい、はい、はい、そうだなー、ほんとに、自分の願いなのかどうか確かめるのも必要だな。おい、誰か他に願いはないか」
藤森「俺、願いなんてないなー」
広大「そうか、先生なんか一杯あるけどなー」
男子「どんなのー、たとえば」
広大「たとえばか……そうだなぁ……」
突っ込まれて広大が考え込んでいると、

男子「結婚したいっ!!」
クラスには必ずこういうのがひとりはいたよなー、と言う感じの、ひょうきんものの男子が勝手に広大の気持ちを代弁すると、

他の子供たちも「ヒューヒュー」などと嬉しそうに囃し立てる。
はい、画面右手前で楽しそうに笑っているのが、管理人イチオシの平山君子ちゃんです。
え、もう言いましたっけ?
広大「それは、結婚もしたいけどもさ、先生は今よりもっと良い先生になりたいなぁ」
男子「うわー、かっこつけちゃってるー」
広大「馬鹿言え、ほんとだぞ……うるさいな、静かにしたまえよ!!」
いつまでもはしゃいでいる子供たちに、遂に広大がキレる。
広大「本当に先生は思ってる……」
その後、遂にあのビラをばら撒いていた男が小嶋田先生に引っ張られて職員室にやってくるが、

その男と言うのが、悪魔元帥だったので、管理人が大笑いしたことは言うまでもない。
このおっちゃんが数年後には世界征服を企む悪の秘密結社の首領に就任するのだから、人生は面白い。
悪魔元帥ことカジケン、いつになくコワモテの小嶋田先生にこっぴどくやっつけられ、すごすごと退散するのだった。
教頭「小嶋田君もなかなかやりますね」
桃子「ほんと、素敵だったわ小嶋田先生」
小嶋田「とんでもない、わきの下汗びっしょりですよ」
密かに思いを寄せている桃子タンにも憧れの眼差しを向けられ、謙遜しつつ、内心では有頂天になる小嶋田先生であった。
結局この問題については、広大は終始蚊帳の外に置かれたまま解決してしまう。
と、弓恵子さん演じる足立の母親が広大に会いに来る。
校長室兼応接室で、天城たちと一緒に母親の訴えを聞く広大。

広大「えっ、じゃあ、足立君は目の病気で早引けをしたんじゃないんですか」
母親「はぁ、どうしても学校行くのイヤだと申しまして、日頃から口答えの多い子なんですけど……今日早引けして帰ってきましたのをちょっと叱りましたら、じゃあ家出するから良いよって家を飛び出しちゃったきりです」
広大「家出? 家出したんですか」
色々聞いていくうちに、足立が宿題の鉛筆削りをしようとカミソリをいじっているうちに、自分で自分の片方の眉毛を剃り落としてしまったことが分かる。
教頭「どうして眉毛を?」
母親「たぶん、私が毎日剃ってるのを見て、それで自分もイタズラするつもりで試してみたんじゃないでしょうか、それでつい……」
つまり、足立が眼帯をしていたのはものもらいのためではなく、眉毛がないのを隠すためだったのである。
早引けしたのも、藤森たちにそれを見られるのを恐れたからであろう。
放課後、広大はとあるゲームセンターに行き、そこでゲームに興じている足立を発見する。
いかにも広大らしく、頭ごなしに叱り付けるようなことはせず、

足立「あ、先生……」
広大「お、なんだ、最後の一発か、おい、ちょっと先生にやらしてくれよな」
カバンを足立に押し付け、自分もゲームに興じて見せるのだった。
もっとも、すぐにゲームオーバーになってしまうのだが、まだインベーダーゲームの時代なので、そのゲームも、なんというか、ピンボールの一番下だけ切り取ったようなトホホなものであった。
さらにその後、生徒を誘ってラーメン屋でラーメンを食べるという、今ではまずありえなさそうなことをする広大であった。

広大「お前さあ、食いにくいだろ、な、そんなもの外しちゃえ、外しちゃえ」
足立「いいんだよー」
広大「なんだこら、恥ずかしいか、イタズラ坊主の癖に」
足立「だってさぁ」
頑なに眼帯を取ろうとしない足立をからかう広大であったが……
夕方、広大は、足立と一緒に母親の経営している美容院に帰ってくるが、いつの間にかその右目には足立と同じく眼帯が巻かれていた。
足立はすぐ自分の部屋に引っ込み、母親は広大にお茶を入れようとする。

広大「足立君にはもう何も仰らなくても大丈夫だと思います。さっき、二人で話し合って明日から学校に行くって約束しましたから」
母親「はぁ……でも先生、その眼帯は?」

広大「は、はぁ……」
母親「あらあっ!!」
広大が眼帯を外すと、足立と同じく、右の眉毛が剃り落とされていた。
広大「眉毛なんかなくても平気だって言ったら、証拠見せろなんていわれちゃって」
母親「まあ」
教え子にはあんなことを言った広大だが、その後も眼帯をつけたまま帰宅する。
と、玄関先にスキーウェアを来た小嶋田先生が立っていて、学級閉鎖を利用して、これから魚津先生と桃子先生と三人で泊りがけでスキー旅行に行くと言う。

んで、なんとなく雪だるまっぽいウェアに身を包んだ桃子が可愛いのである!!
広大「小糸先生も行くんですか」
桃子「はい」
天城「学級閉鎖の三日間はね、先生方に登校して頂いて日常事務を取ることになってんですが、ま、一日ぐらいは体育実習した方が授業の意欲を増すという小嶋田先生の意見がありましてね……言われて見りゃその通りだと思って」

結局、小学教師で残ったのは広大と恵子だけになり、遠近感が狂って箸をうまく扱えない広大を見兼ねて手助けしてやる恵子の姿は、まるで甲斐甲斐しく夫の世話を焼く奥さんのようであった。
広大「どうもありがとう」
恵子「どうしてもうちのクラスの生徒たちは健康優良児ばっかりなんでしょう」
広大「あら」
恵子「ねえ、学級閉鎖になれば私だってスキーに行けましたのに」
恵子がつまらなそうにぼやいていると、すっかり酔っ払った八代が帰ってくる。

八代「北野先生、あなた七五三をご存知ですか?」
広大「はい、僕はもう20年前に済みましたから」
八代「いやーっ、その七五三じゃないです、花井先生、勿論、七五三、ご存知でしょうね?」
恵子「さあ」
八代「ご存じない? はぁーっ、小学校の教師と言うのは気楽なもんですなーっ!! 花井先生、すいません、水一杯ください」
塾の講師をしている友人と飲んで大いに啓蒙されて来たと言う八代、広大の隣に腰掛け、

八代「僕はね、広大君、今日と言う今日はまさしく目ン玉から鱗が落ちたような気がしたわけですよ」
広大「……」
八代「いや、落ちたといえば落ちこぼれと言う言葉ご存知ですね」
広大「はあ、それは知ってますけど」
八代「しかし落ちこぼれの統計はご存じないでしょう?」
八代、恵子からもらった水を飲んでから、
八代「いいですか、全体の3割、小学校三年までに落ちこぼれるわけです。中学で5割が落ちこぼれ、高校で7割が落ちこぼれる、つまりこれが七五三ってわけですよ」
広大「はぁ」
八代「通算しますとね、7かける5かける3で、これ、全体の一割がエリートね。残りの9割までが落ちこぼれてしまうわけです。いや問題はですよ、何故、9割もの人間が落ちこぼれるかと言うことですよ」
恵子「あの、受験体制がおちこぼれを……」
八代「ご名答です!!」
横からおそるおそる恵子が口を挟むのを、みなまで聞かずに手のひらでバンとテーブルを叩いて叫ぶ八代。

広大「……」
それにびっくりして思わず箸を落とす広大。
八代「しかしこれは落ちこぼれるんじゃない、落ちこぼすんだよ、君ぃ!! ね、いいかい」
広大「は、はい……」
触らぬ神と酔っ払いに祟りなし、広大は怪気炎を上げる八代に対し、ひたすら聞き役に徹するが、ぞろぞろと天城家の人たちが集まってきても、八代の懸河の弁は留まるところを知らず、

八代「来るべき21世紀、この素晴らしい21世紀(註2)はいかなる時代か社会かと言いますとね……これはコンピューターエイジです、原子力エイジですよ。いいですか、ここでは1割のエリートが残る9割の人間を引き摺っていく時代なんだ。残る9割はつまり甘んじて落ちこぼれて結構、いや、落ちこぼさなきゃいけないんです、と言うことはですね、教育体系はですね、1割のエリートを選りすぐって残る9割をふるい落とす篩(ふるい)の役目をしてるんですよ。つまり我々教師はだな、落ちこぼさなきゃいけない、全力を振るって落ちこぼすべき役割があるんだ、これ、我々の役目、しかし、なんですか、あんたがた教師は、その役目をサボってるでしょう!!」
自分の言葉にどんどんヒートアップして行って、最後は義兄たる天城まで文字通り指弾する八代の舌鋒に、一同は返す言葉もなく黙りこくる。
もっとも、別に彼の主張の内容に畏れ入ってる訳ではなく、ただその異様な剣幕に驚いているだけなのだが……
註2……実際に来たら、割とクソでした。
八代、甥の育民の顔を見ると、猫でも扱うようにその襟首を掴み、

八代「お、七五三の坊や、勉強してるか」
育民「うるさくて勉強なんか出来ないよ、やっと静かになったと思ったら酔っ払いが帰ってきて勝手なおだを上げちゃってさ」
育民も負けずに言い返すが、
八代「フィーバーッ!! 一流大学に入りたければ俺について来い」
育民「なぁに言ってんの、それじゃまるっきし塾の教師じゃない」
八代「そう、僕はね、明日から中学を辞め、塾の教師になる!! おやすみ!!」
いきなり爆弾発言をかますと、物にぶつかりながら自分の部屋に帰っていく。
まるで台風が通り過ぎたあとのような、なんとも言えない引き攣った顔を見合わせる広大と恵子であった。
後編に続く。
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