第12話「アイドル誘拐」(1987年1月13日)

「あきれた刑事」は、1986~87年に放送されたコミカルタッチの刑事ドラマである。全22話。
タイトルからもお察しの通り、大人気ドラマ「あぶない刑事」の後番組で、スタッフもほとんど同じだが、これが清々しいくらいにヒットせず、ひっそりと刑事ドラマの歴史の闇に埋没してしまった気の毒な作品なのである。
だいぶ前、2011年か12年あたりに第12話だけ紹介したことがあるが、当時のことなので、お粗末な内容であった。
そのことが以前から気になっており、今回、特に理由もなく書き直そうと思った次第である。

のっけから、ソニーのちっちゃなテレビで、三枝しずかというアイドルが、フィフティーズっぽいサーキュラースカートをふわふわさせながら、元気にしょうもない歌を歌っている様子が映し出される。
演じるのは、管理人が最近割りと良く聴いている「少女隊」のトモちゃん。
と言っても、80年代のアイドルに疎い管理人、彼女たちのことは全く知らず、曲を聴き始めたのも、ここ数年のことなんだけどね。
……えっ、今知ったんだけど、彼女、初代・引田天功の娘なの?

で、それをノリノリで視聴しているのが、主人公の内海が住んでいるアパート「ダコタ・ハウス」で「オフィス石田」と言うスタントマン事務所を構えている石田健であった。
演じるのは説明不要の関根勤さんだが、さすがに若い!!
他に、みどり(河合美智子)、由香里(網浜直子)、木下(松井"ダスマダー"哲也)などがレギュラーだが、今回はほとんどストーリーに絡まないので省略。
脇役に総じて魅力がないのが、本作が弾けなかった理由のひとつであろう。
ついで、運河沿いの公園で、いかにもアイドルっぽい、なんとなくムカつくポーズを決めたしずかが、写真撮影に臨んでいるシーンとなる。
現場には、雑誌記者と言う触れ込みの内海もいて、しずかに張り付いていた。

ちなみに、撮影が終わると、ファンがどっと押し寄せるのだが、それが全部若い女の子と言うのが、よく分からない文化である。
しずかはマネージャーの運転するワゴンで次の現場に移動することになるが、密着取材と言うことで内海も同乗させてもらう。

内海を演じるのは24時間戦えることで有名な時任三郎さん。
さすがに若い!!
どうでもいいが、古畑任三郎と言うネーミングは、時任さんの名前から来てるんだっけ?
内海「えー、好きな男の子のタイプは?」
しずか「……」
ほんとは刑事である内海、いかにもやる気なさそうに、クソみたいな質問をするが、しずかは何も答えない。

内海「答えてもらわないと記事になんないんだよねー」
しずか「アイスクリーム食べたーい」
内海「え?」
しずか「ハーゲンダッツへ寄って」
イケダ「ハーゲン? 2時入りだよ、日テレ」
しずか「アイスクリーム!!」
アイドルあるあるじゃないが、ファンの前ではいかにもぶりっ子で愛想の良いしずか、その素顔はワガママで気まぐれな、ただの生意気なガキなのだった。
ちなみに、マネージャーを演じるのは、「ウルトラマン80」の岡本達哉さん。
役名が分からないので、便宜上、イケダと呼ばせてもらう。
内海、しずかの横に移動すると、

内海「ね、ね、ね、その指輪いつもしてんの?」
しずか「スライスアーモンド」
内海「本物のダイヤ、これ?」
しずか「モカ」
内海「ね、誰に貰ったの」
しずか「バニラとチョコレートのトッピング」
内海「ダメだこりゃ……」
何を聞いても、アイスクリームのことしか言わないしずかに、内海もお手上げとなる。
と、いかにもガラの悪い二人が乗った車が後方から急接近してきたかと思うと、乱暴な運転でワゴンの前に飛び出し、危うくぶつかりそうになる。
イケダが慌ててハンドルを切り、そのせいで、しずかと内海が座席から落ちそうになる。

しずか「何処見て運転してんのよ、タコーっ!!」
内海「……」
可愛い顔に似合わぬ強烈な罵声を浴びせるしずかに、目を白黒させる内海。
その後、色々あって、内海としずかは車を捨てて逃げ出すが、男たちは銃を手にしつこく追いかけてくる。
彼らのやりとりで、二人がしずかの持っている指輪を狙っていることが分かる。
しずかと一緒に資材倉庫の物陰に隠れていた内海、見付かりそうになるが、逆にぶん殴ると、防水シートを落として二人の体に被せる。

しずか「このやろ、このやろ!!」
内海「おい、おい」
ここでも凶暴性を発揮して、シートの上から二人を踏みつけるしずかであった。
内海、しずかに正体を知られたくないので、二人を放置してその場から遁走する。
もっとも、特殊強行犯捜査課と言う、隠密同心のような部署に属している内海、普段でも拳銃や手錠は携帯していないので、その場で彼らを逮捕するのは不可能なのだが。
その後、なんとか日テレに間に合い、スタジオで歌番組の収録をするしずか。

なんとなく、小出早織さんに似とるな……
それを横目で見ながら、内海が相棒の黒木に電話で頼みごとをしている。

内海「頼むよ、その車の持ち主洗ってくれって」
黒木「その前にギャラの交渉だ」
内海「そんなことやってる暇ねえんだよ」
黒木「お互いの立場をはっきりさせておく必要がある、お前はデカだ、ボーナスも出れば恩給も出る、俺はフリーの身だ」
内海「わかった、わかった、危険手当ってことで上乗せするから」
黒木「なら、いいんだ」
内海の相棒だが、刑事ではなく、裏社会に精通している謎の男・黒木を演じるのは、日本を代表する軍人役者・永島敏行さん。
さすがに若い!!
黒木は、内海から報酬を貰って、内海の仕事を手伝っていると言う設定である。
と、内海の前に、上司の藤田課長があらわれる。

藤田「彼女の指輪はまだ見てないのか」
内海「努力はしてるんですけどねえ」
藤田を演じるのは、小林稔侍さん。
さすがに若い!!
藤田「今回の指令を復唱してみろ」
内海「はいはい、半年前、京橋の宝石店が襲われた、ガードマン一人が射殺され、時価4億円相当の宝石類が奪われた。三人組のホシは逃走」
藤田「それで」
内海「最近ひょんなことから事件が浮かび上がった、それが彼女の指輪」
内海の視線を受けて、

可愛い振りつきで楽しそうに歌っているしずかの、左手に嵌められたダイヤの指輪が映し出される。
……
うーん、なんだかんだで可愛い!!
今でも十分アイドルとして通用するルックスである。
内海「三ヶ月前にデビューした新人歌手の三枝しずかがしてるダイヤの指輪が事件で奪われた宝石のひとつに酷似していた」
藤田「それで」
内海「彼女の指輪が盗品なら、ホシは彼女の周囲にいる可能性が高い。だから彼女を引っ張って事情聴取することはできない、ホシが彼女のことを殺すことだってありえますからね」
内海に与えられた任務は、しずかに接近して指輪の真贋を見極めると言うものだった。
うむ、書いててちっとも面白くないプロットだ。
しかも、それを登場人物の台詞だけで視聴者に説明すると言うのは、あまりに芸がない。
一方、とあるスナックにいた岩城と言う男の前に、さっきの二人組があらわれ、

男「奪った宝石は何処へやった」
岩城「押入れの道具箱の中」
男「全部金に換えたんじゃなかったのか? ほとぼりが冷めたら銭に換えるって言ったのはおめえだ。ガキに盗まれやがって」
岩城「勘弁してくれよ」
男は、岩城の言葉が嘘でないことを確かめると、その場で岩城を刺し殺してしまう。
つまり、この三人が宝石強盗の犯人なのである。
しかし、どう見ても岩城を刺した男が主犯格なのに、なんで半年もの間、大事な宝石を岩城に預けていたのか、その辺がどうにも理解できない。
簡単に殺してしまったことから、大して信用している訳でもないだろうに……
その頃、黒木は、内海から教えられた車のナンバーから、その所有者を割り出し、新興不動産と言う、スタッフのやる気のなさが滲み出ているネーミングの不動産会社にやってくる。
黒木、刑事ではないので、泥棒のようにドアの鍵を開け、オフィスに入り込んで秘匿されていた拳銃を発見する。
このシーン、要らないよなぁ。
内海は、みどりに頼んで作ってもらった、しずかの持っている宝石そっくりの模造品を受け取ると、しずかの所属している芸能プロに入り込み、無造作に置かれてあったしずかのバッグの中を漁っていると、イケダが入ってきて、

イケダ「しずか、知らない?」
内海「あ、いいえ」
イケダ「ったく、もう……あんたなんでいんの、ここに?」
内海「あ、いえ、これ渡してくれって頼まれて……おたくこそ、ナニ慌ててんの?」
イケダ「本番だって言うのに、いないの、何処にも」
マネージャーがあたふたと出て行ったあと、内海が近くのハーゲンダッツに行くと、案の定、しずかがいた。

そこでもファンの女の子たちからサイン攻めに遭っていたが、内海はマネージャー然とした口調で強引に割り込んでしずかを引き離す。
しかし、デビューしてまだ三ヶ月だと言うのに、ここまで同性からきゃあきゃあ騒がれると言うのもなぁ……
いみじくも、

内海「全く良い度胸してるよ、本番すっぽかしちゃうんだから」

しずか「だいじょぶだって、歌手の代わりなんいくらでもいるんだから」
当のしずか本人が、三度のメシより大好きなモノをその小さな口でしゃぶりながら言ってるように、アイドルなんて雨後の筍のごとく次々と生まれてた時代だからね。
内海「アイスクリーム屋でも始めたら?」
しずか「ね、どっか行こっか」
内海「おじさんね、子守嫌いなの」
しずか「ね、行こう、ねえ、行こうよ」
まるっきり子供のしずかを持て余していると、あの二人がずがずかと店の中に入ってくる。
うーん、これも、強盗&殺人犯にしては、あまりに大胆と言うか、雑な行動に見える。
内海は、店の外にあったバイクを拝借し、後ろにしずかを乗せて男たちから逃走する。

しずか「刺激的ぃ」
内海「刺激のない生活を送りたいよ、俺は」
しずか「ね、ね、ね、こんな映画どっかになかったっけ」
内海「大脱走か」
しずか「ちぃがうわよー、王女様と記者がローマの街をさぁああ」
内海「ありゃスクーターだろう」
しずか「あ、そうか、そうか」
などと緊張感のない会話を交わしながらストリートをぶっ飛ばす二人。
無駄に気合の入ったチェイスシーンの末、内海は追っ手を振り切る。
内海、とりあえず、自分の住んでいるダコタ・ハウスへしずかを連れて行く。
年甲斐もなくしずかにぞっこんで、ロリコンなどと謂れのない中傷を受けている石田以下、メンバーはスーパーアイドルの到来に色めき立つ。
内海「アクションシーンの後は手を洗った方がいいんじゃない?」
しずか「そうねえ」
さりげなく勧める内海に、しずかは何の疑いもなく指輪を外してから洗面台で手を洗う。
今だったら、
内海「握手会の後は手を洗った方がいいんじゃない?」
しずか「そうね」
と、なりそうだ。
どうでもいいが、日本のアイドルシーンがダメになってしまったのは、握手会などと言うしょうもないイベントが一般化したせいではないかと管理人は睨んでいる。
そりゃ商業的には成功だったかもしれないが、ファンが気軽に会えるアイドルなんて、そもそもアイドルじゃねえだろう、と……
内海「これ、なんだ?」
しずか「花瓶でしょ」
内海、しずかの注意をひきつけている間に、素早くしずかの指輪と、自分の持っていた模造品とを取り替える。
このくだりも、簡単過ぎてぜんっぜん面白くないんだよねえ。
なんで内海は、こんな他愛のない子供を相手に今まで手間取って来たのか?

内海「さ、手を洗ったら、テレビ局に帰りな」
しずか「やだ、スターするの飽きた」
内海「大騒ぎしてるよ、あのマネージャー」
しずか「いいじゃない、騒がせとけば……それが仕事なんだから」
内海「さ、帰ろう」
しずか「やだ」
内海「俺は誘拐犯になるのいやなんだよ」
しずか「やだーっ、やだ、やぁだぁもう」 内海に力尽くで連れ出されそうになって、真性ロリコン戦士たちを大喜びさせる叫び声を上げて抵抗するしずか。
と、ドアに張り付いて盗み聞きしていた石田たちが突入してくる。

石田「何をしたんだ、それでも人間か? 何をしたんだ」
内海「何もしてないって」
しずか「してない、してない、してない」
内海「ほら」
興奮気味の石田にあらぬ疑いを掛けられる内海だったが、しずかがすぐ否定したので、危うくロリコン罪で死刑になるのを免れるのであった。
ここも、ぜんっぜん面白くない。
普通は、しずかが「エッチなことされた」とか、ありもしないことを言いふらして内海がみんなに追い掛け回されてひどい目に遭うというのが、コメディードラマの常道だと思うのだが。
要するに、このドラマ、演出が中途半端なんだよね。
「あぶない刑事」と比べると、シリアスなシーンとコミカルなシーンのメリハリが、びっくりするくらい利いてないのだ。
それはともかく、指輪さえ手に入ればしずかに用はないので、内海は彼女を日本テレビに送ってくれるよう石田に頼み、自分は宝石を手に何処かへ消える。
一方、不動産会社の事務所に戻った二人は、ソファにふんぞり返っている黒木の姿を見てギョッとする。

男「事務所荒らしか」
黒木「荒らすほどのものはなかったがな」
黒木、背の低い方の男を相手にひととおりアクションしてから、事務所にあった銃をリーダー格の男に突きつける。
黒木「こんなはした金じゃ、仕事にならん、もっと出してもらおうか」
男「図に乗るな」
黒木「そっちがな……不動産の他にハジキも扱ってんのか」
男「お前も同類だな」
黒木「長く生きてりゃ、汚れも身につくさ」
男「金に困ってるのか」
黒木「このハジキ、買い戻してもらおうか」
黒木、相手に自分が悪党だと印象付けると、大胆にも銃を男に返す。
で、二人は半信半疑ながら黒木を仲間にするのだったが、これもなんか変だよね。
別に二人は、面子が足りなくて困ってるわけじゃないし、人を殺すことなどなんとも思ってない連中なのだから、この場で撃ち殺される可能性だってあった訳で……
内海は、喫茶店で藤田に会い、宝石を渡して鑑定を頼む。
実は今回限りで転属する、つまり、番組から降板することが決まっている藤田が、なんとなく変な素振りを見せたり、経費についての交渉をしたりするのだが、これがもう、ダイアローグがつまらない上に、テンポが悪いと言う、ドラマ的には理想的な反面教師シーンとなっている。
さらに、藤田の態度が気になった内海があとをつけて、ちょっと色っぽい人妻風の女性と待ち合わせてタクシーに乗り込む姿を見て「不倫か」と疑うシーンがあるが、これも要らねえ。
なんか、要らないシーンばっかりのようだが、ま、ぶっちゃけ、この番組自体要らなかったような気も……レビューする必要すらなかったような気も……
(気を取り直して)内海がダコタ・ハウスに戻ると、なんと、仕事に行った筈のしずかがまだいて、石田たちと遊んでいるではないか。

内海「どうして彼女帰さなかったんだよ」
石田「だってしずかちゃんがどうしてもイヤだって言うんだもん」
しずか「えへっ、ねねねねね、ゲームやろう、ゲーム」
内海「さ、帰ろう」
しずか「何すんのよー」
内海「向こうじゃ大騒ぎになってるんだよ」
しずか「帰りたくないって言ってんでしょー」
内海「誘拐犯になりたくないんだよ」
内海、腕尽くででもしずかを連れて行こうとするが、
しずか「やぁだぁー」
みどり「もうなってるよ」
内海「え」
みどり「さっきニュースでやってたもん」
みどりの言葉に固まる内海。
木下「彼女のマネージャーがインタビューされててさ」
石田「あのね、昼間襲われたんでその連中が連れ去ったんじゃないかと……週刊誌の記者が一緒に消えたってさ」
由香里「この誘拐犯!!」
他人事だと思って大笑いする一同であったが、これも、マネージャーは内海がしずかと一緒に襲撃犯に拉致されたと思ってるだけらしいので、いまひとつ盛り上がらない展開である。
ともあれ、内海が警視庁の藤田に電話して鑑定の結果を聞くと、やはり宝石店から奪われたものだと言うことであった。

藤田「三枝しずかに出所を聞き出したいたが、彼女は行方不明になってる。プロダクションが所轄署に捜索願を出したそうだ、大至急彼女を探し出せ」
内海「いや、あの、その件なんですけどねー」

しずか「ねーねーねー、一緒にやろうよ、電話なんて切っちゃってさぁ」
内海が言い難そうにしてると、当のしずかが、まるで遊びに来た親戚の子供のように、暢気に内海をゲームに誘う。
ちなみに、演じるトモちゃんは当時15才の中学三年生だが、パッと見、小学生にしか見えない。
こういうところも、真性ロリコン戦士たちの琴線に触れる要因であったろうが、彼らは、翌年の某ミヤザキ事件報道の余波により、凄まじい迫害に遭い、一時は絶滅の危機に瀕することになるのである。
内海「……と言う訳なんですよ」
藤田「バカモン!!」
藤田、強盗犯のひとりと目されていた岩城が何者かに殺されたことを告げ、安全のため、しずかを本庁に連れて来るよう厳命する。
内海、今度こそ、力尽くでしずかを連れ出す。

しずか「引っ張らないでよ、こんな暴力的な記者はじめてよ、サイテー」
内海「指輪、誰から貰ったんだ」
しずか「知らない」
内海「1億円するんだぞ」
しずか「うそ」
内海「岩城って男、殺された。警察へ行こう」
しずか「痛い」
で、何故か、内海はタクシーを使わずに徒歩で警視庁へ向かうのだった。
案の定、例の二人組プラス黒木が執拗に追いかけてくるのだが、そもそも、彼らはどうやってしずかの居場所を知ったのか?

ちなみに、その追跡劇にたまたま遭遇したのが、藤田の不倫相手だと内海が思った女性……実は、次回から内海の上司となる川口礼子であった。
演じるのは名優・吉田日出子さん。
さすがに若い!!
……え、いちいち若さに驚くな?
失礼しました。
ま、昔のドラマなんだから、出演者が今より若くて当然なんだけどね。
でも、比較的最近のドラマなので、主な出演者が全員ご存命なのはなんとなく心強い。
ここから、内海がまたしても人のバイクを借りて逃走するシーンとなるのだが、いくらなんでも芸がない。
その途中、二人は埠頭で一休みするが、

しずか「もうサイコー、逃げ切れてラッキー」
内海「……」
人の気も知らず、相変わらずしずかは暢気なのだった。
しかし、仮にもアイドルだと言うのに、私服が色気のないハーフパンツだけと言うのは、あまりに視聴者を舐めた話である。

内海「さてと、指輪の話だ」
しずか「嫌われるから、しつこい人って」
内海「貰ったのか、岩城から」
しずか「ほんとに1億円すんの?」
内海「ああ……言えってほら」
しずか「実はね、黙ってもらっちゃったの。スカウトされる前にさ、遊んでたのよね、結構、そんとき」
内海「岩城からかっぱらったんだな」
しずか「バイトしてたのよ、岩城のスナックで……二階の押入れに道具箱の中にあったんだよね、それでひとつ黙って貰っちゃったの」
内海「いつ頃だ」
しずか「五ヶ月ぐらい前」
内海「清純派が聞いてあきれるよ、まったく」
しずかから事情を聞いて、がっくりうなだれる内海であったが、うなだれたいのは視聴者のほうだと言っておこう。
よくまあ、こんなクソつまんない話が書けるものだと、逆に感心させられる、夢も希望も、ロマンのかけらも、ミステリーの香りも、何もない索漠とした打ち明け話である。
つーか、岩城、何億もの宝石をゲットしたと言うのに、なおも人まで雇ってスナックなんか続けるだろうか?
そもそも、こんな子供をスナックで雇うか、普通?
それ以上に、そんな子供に見付かるような場所に、大事なブツを隠しておくか?
これだけ腑に落ちない話は、昔の特撮ドラマでもなかなかお目に掛かれないぞ。
この後、なおもしつこく男たちが追いかけてきて、黒木はサンルーフから上半身を出して、内海と打ち合わせた上で銃を撃ち、内海のバイクを転倒させる。
これも、内海ひとりならともかく、女の子を後ろに乗せた状態でそんな危険なことをするだろうかと、甚だ疑問である。
……
いや、二人が悪党なのはとっくの昔に分かってるのだから、黒木は仲間のふりを続けず、銃を受け取ったらその場で二人を倒せば良い話ではないか?

男「立て、世話焼かすお嬢だ」
しずか「1億円なんだから、これー」
内海「渡してやんなよ、ニセモノなんだよ、それ」
男は宝石を擦って、それがガラス玉だと確かめる。
男「本物は何処にある」
内海「預けてあるんだ、知り合いの鑑定士に」
男「取って来い、1時間後に米軍跡地三号倉庫だ。1秒でも遅れればこのお嬢は殺す」
と言う訳で、内海はしずかを人質に取られ、宝石を取りに行くことになる。
しかし、内海がしずかを見捨てて逃げることはないと、悪党たちが何の疑いもなく信じ込んでいるのも、変といえば変である。
内海が宝石を持ち逃げするかもしれないと考えるのが普通ではあるまいか。
なので、一番手っ取り早くて確実な方法は、ひとりがしずかを見張り、残りの二人が内海に同行して、鑑定士から受け取ったらその場で取り上げてしまうことだろう。
それはともかく、最寄の電話ボックスに立ち寄り、警視庁の藤田に電話する内海であったが、肝心な時に限って電話に出ない。
しかも、いつの間にかバイクのオイルが漏れていて、いくらキックしてもエンジンが掛からない。
途方に暮れる内海であったが、ちょうど前方から車が来たので両手を広げて止め、

内海「すいません、あの実は……」
礼子「やっと探したわ、乗んなさい」
内海「乗んなさいって……これは俺の車じゃない」
その車を運転していたのが、藤田と一緒にいたワケあり風の女性で、しかも車が自分の愛車(日産エクサ)だと気付いて、目を白黒させる内海。
礼子「急いでるんでしょ、早く」
内海「あ、はい」
とりあえず、警視庁まで乗せてもらう内海であったが、途中、礼子がパトランプを車の屋根に乗っけたのを見て、
内海「あら、使い方までご存知で」
礼子「君の上司よ、内海警部補」
内海「上司って、藤田課長なんですけど……それに俺、巡査部長ですよ」
礼子「本日付で君は警部補に昇進」
内海「ええっ」
礼子「藤田課長は今回のヤマを最後に転勤」
内海「ほんとーっ?」
意外な展開に思わず素っ頓狂な声を上げる内海。
そう、藤田と礼子は不倫していたのではなく、仕事の引継ぎのために会っていただけなのだ。
それにしても、しずかが人質にされている緊迫した状況で、こんなにのんびりしてて良いのかしらと思ってしまう。
見てるほうも、なんか、気勢を削がれちゃうんだよね。
ここは、普通に警視庁まで連れて行ってもらうだけにして、ネタばらしは事件解決後のほうが良かったと思う。
ともあれ、内海は警視庁に行き、藤田に会う。
警視庁にいたんなら、電話に出ろよ……

藤田「なに、彼女を奪われただと」
内海「はい」
藤田「その上、証拠の指輪まで寄越せとはどういうことなんだよ」
礼子「まあまあまあ」
内海「それを持ってかないと殺されちゃうんですよ、彼女」
藤田は苦い顔をするが、礼子の口添えもあって、渋々指輪を内海に託す。
さらに、今までは持たせてもらえなかった警察手帳と手錠を礼子から渡され、
内海「あれ、持っててもいいんですか」
礼子「これからね……頑張るのよ、坊や」
内海「はい……おねえたま」
特殊強行犯捜査課の刑事である内海は、今まで、誰にも正体を知られてはいけないということで、普段は警察手帳さえ携帯していなかったのだが、課長の交代にあわせて、そのルールも改変されることになる。
この番組、視聴率的にかなり厳しかったから、上司の交代や基本設定の変更も、テコ入れの一環だったのだろう。

一方、第三倉庫の片隅では、悪党たちが、人気アイドルを人質にしていながら、彼女には指一本触れずに大人しく待つという、「おまいらほんとに悪人か!! 歯を食い縛れ!!」と、永島敏行っぽく怒鳴りつけたくなる行儀の良さを見せ付けていた。
管理人がもし犯人だったら、とりあえずおっぱい揉むけどね。
ま、それはそれとして、この名前も出てこない二人、とてもゴールデンタイムの1時間ドラマの犯人役とは思えない地味さである。
と、主犯格の男がいきなり銃を取り出す。

それを見て、怯えたように縮こまるしずか。
だが、銃口が向けられた先は、しずかではなく黒木であった。

黒木「何の真似だ」
男「お前に払う金より、弾一発の方が安くつく」
黒木「経済観念がしっかりしてるんだな」
男「それにお前は知り過ぎた」
黒木「言っとくが、俺をやるのは難しいぞ。こういう状況を何度も潜り抜けてるんだ」
男「物事には終わりがあるさ」
黒木「そっくりその言葉、お前に返してやる」
……
前から思うんだけど、なんで悪人はこういうとき、いちいち何か喋ってから撃とうとするのだろう?
とりあえず撃て、話すのはそれからにしろ!! と言う教訓を、世界中の悪の人たちに伝えたい。
それと、さっきも言ったけど、なんで黒木は内海が来るのをバカ正直に待って、何もしようとしなかったのだろう。
さっさと二人をやっつければ良いのに……
ついでに、「こういう状況を何度も潜り抜けてる」って、黒木は自慢してるけど、それって要するに、こういう状況に何度も追い込まれてきたという意味になるので、あんまり自慢げに言うことじゃないんじゃないかと……
それはともかく、黒木、手近にあったワイヤーか何かで男の額を殴ると、足に隠していたナイフを投げて、もうひとりの男の手に突き刺すと、しずかを連れてその場から逃げ出す。

しずか「どうしよう」
黒木「最初からお前を殺すつもりだったんだ」
しずか「アイスクリーム食べたい」
黒木「それだけ元気ならだいじょぶだ」
黒木は、「あぶない刑事」にも良く出てきた廃墟に隠れるが、結局見つかって銃を突きつけられる。
ぜんぜん潜り抜けてないじゃん……
黒木「やるなら、俺だけにしろ」
男「諦めが良いな」
で、男は男で、なかなか引き金を引こうとしない。
……
つーか、黒木と一緒にしずかまで殺しちゃったら、内海との取引が出来なくなるのでは?
なんか、バカとバカが殺し合いをしてるみたいだなぁ。
これじゃあ、視聴率がふるわなくても仕方ない。

と、そこへ、薄い壁を突き破って内海のエクサが飛び込んでくる。
内海「いやぁ、お待たせ、お待たせ」
男「……」
内海「これが欲しかったのは、半年前の強盗殺人がバレたらまずいからだろう」
男「それがなんだ」
内海「もうひとりの仲間だった岩城を消したわけだ」
男「だったらなんだ」
内海「逮捕します」
内海、ここで警察手帳を取り出して見せる。
しずか「うっそぉ~」
内海、指輪を地面に投げて、男たちがそちらを見た瞬間、目にも止まらぬ速さで銃を撃つ。
この後、内海と黒木が二人をボコボコにして事件解決。
ちなみに、黒木が、犯人の顔をコンクリートの壁に何度も打ちつけ、犯人がずり落ちたあと、壁に血が付着しているというカットがあるが、過激なバイオレンス描写で名を馳せた澤田幸弘監督らしさが出ているのは、ここだけかもしれない。

二人が後片付けをしている隙に、指輪を拾ってニタニタするしずか。

内海「こらこらこら、イミテーションで我慢しろって」
しずか「ケチ」
内海「君の休日はもう終わり、早くスーパースターに戻りなさい」
しずか「じゃあ最後に私の言うこと聞いて」
内海「うふーん」
しずか&内海「アイスクリーム!!」 最後は、まるで仲の良い親子のように、声を揃えて叫ぶ二人だった。
その後、改めて礼子と引き合わせされる内海。
また、今度からは原則として警視庁に詰めるように言われるのだが、これでは普通の刑事とあんまり変わらなくなってしまう。
そして、何故かこのタイミングで大家が激怒して、根城にしていたダコタ・ハウスを追い出され、代わりに黒木が内海の部屋に住むことになるのだった。

時任さんの歌う「CARRY ON」の流れるエンディング。
以前も書いたが、たぶん、このドラマで良いのは、この曲と、エンディングタイトルバックのいかにも80年代らしいポップな映像だけだろうなぁ。
「CARRY ON」、今もちょくちょく聴くのだが、二番の歌詞の
「空しさだけが空しく響く」と言うフレーズの、類語反復を厭わない、斬新な表現には皮肉じゃなくて感心させられる。
以上、ゲストヒロイン目当てでレビューしたものの、肝心のゲストヒロインの魅力がほとんど引き出せていないと言う、赤点レベルの内容だった。
トモちゃんのアップさえろくにないんだから、何をかいわんや……
それにこの手の話では、最初はしずかがワガママで生意気だと言うことで反発していた内海が、しずかと一緒に逃げ回っているうちに、徐々にしずかの女の子らしい素顔を知り、なんとなく親近感を抱くようになる……と言うのが定番だと思うのだが、劇中では、二人の関係が深まることは全くなく、しずかの描き方も浅く表面的で、最後まで、「アイスクリームが好きな、性格の悪いアイドル」と言う以上のものにはなっていないのが、チャーシューのないラーメンみたいで、実に物足りない。
悪役二人の存在感のなさも同様である。
また、ゲストに限らず、腋を固めるメンバーの魅力のなさは前記したとおりだし、相棒の永島さんも演技があまりに重くて、時任さんの中途半端に軽いキャラとバランスが取れてない。
取り上げておいてこんなことを言うのもアレだが、この作品、シナリオもダメ、編集もダメ、音楽も主題歌以外はダメ、アクションも(あぶない刑事と比べると)平凡で、これだけ褒めるのが難しい刑事ドラマも珍しいと言わざるを得ない。
と、同時に、なんでこんな作品を再レビューしようと思ったのか、目下、自分の判断の甘さを、全力で猛省している管理人であった。
でもまあ、以前から気になっていた「宿題」がひとつ片付いたということで、とりあえずホッとしておこう。
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