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「気まぐれ天使」 第15回「嗚呼!花の成人式」 後編


 第15回「嗚呼!花の成人式」(1977年1月12日)
 の続きです。

 下宿では、引き続き綾乃が病床にあった。

 
 渚「おばあちゃん、ほら、薬」
 綾乃「あ、いやいや、苦いから良い、もう治った治った」
 渚「駄目だよ、そんなこと言ったら治んないよ」
 綾乃「だって苦いんだもの」

 渚の持って来た薬を、子供のような理由で拒絶する綾乃だったが、その態度がいかにもほんとの年寄りっぽくて、そのリアルな描写に感心させられた。

 それでも渋々薬を流し込みながら、

 綾乃「お前、今日、お仕事済んだの?」
 渚「うん、寒いからね、お客も寄り付かないんだよ。だから帰ってきちゃった」
 綾乃「かわいそうに、そんなペラペラなコートを着て」
 渚「おばあちゃん、ここ入っても良い?」
 綾乃「風邪移るのよ」
 渚「平気、平気」

 渚、綾乃の布団の中に潜り込み、体をくっつけるようにして横になる。

 
 渚「うわー、あったかい、ねえ、おばあちゃん」
 綾乃「はい」
 渚「冬の間はこうやって冬眠しよう。そうすればさ、着る物も要らないし、お金も掛かんないから」
 綾乃「うん、そうしよう、でも、かわいそさね、成人式だってのに熊の子みたいにこんなとこ潜ってなきゃならないなんて……」

 綾乃はしきりに渚を哀れむが、当の渚は大好きな祖母と一緒にいられたら、それでもう十分幸せのような顔つきであった。

 いや、実際、幸せなのだろう。

 渚が商売に励むのも、別に何か欲しいものがあるわけじゃなく、祖母に楽をさせてやりたい一心なのだ。

 ドラマとは言え、渚たちの生き方を見ていると、人間にとって何が本当に大切で幸せなことなのか、教えられたような気がする管理人であった。

 同じ頃、階下ではもと子がその渚のために着物の仕立て直しに励んでいた。

 
 荻田「間に合うのかい、成人式に?」
 もと子「そうなんだよ、だから急いでんだよ」
 荻田「うちもなぁ、女の子でもいりゃあなぁ」
 もと子「そう、まあ光政じゃこういう張り合いはないね」

 女の子も欲しかったと、つい本音を漏らす荻田夫妻。

 二人が渚のことを実の娘……とまでは行かないが、親戚の娘程度には思っていることがうかがえる、短いけれど管理人の好きなシーンである。

 一方、忍、帰宅中、例の5万円の着物の前を通りがかり、

 忍「しまった! 真紀なんかが来やがるから……」

 
 忍「待てよ、ターコの預金通帳に、俺の分がまだ残ってたんじゃねえかな?」

 忍、ふとそのことを思い出し、一縷の望みに縋る思いで真紀のマンションへ向かう。

 ところが、部屋には真紀の姿はなく、代わりに真紀の「子分」の大学生たちがいて、黙々とノートを写していた。

 
 忍「ね、真紀ちゃんは?」
 学生「真紀さんだったらいませんよ、国文学概論の単位を貰いに行きましたから」
 忍「概論?」
 学生「試験が30点だったんです。だから色仕掛けで助教授ちょろまかすんだって……」
 忍「助教授を色仕掛けでちょ、ちょろまかす?」
 岡崎「ほんと、ノートは僕らに写させるし、最近の女の子にはかなわん」

 岸部一徳さん演じる、どう見ても大学生には見えない岡崎がぼやくと、ドアが開いて真紀が入ってくる。

 良い気分で酔っ払っている真紀を捕まえ、忍は早速説教をはじめる。

 
 忍「君みたいな不真面目な女がね、エノの人生を狂わす権利なんかないんだよ」
 真紀「不真面目ー? 何で真紀が不真面目よ」
 忍「だってそうじゃないか、色仕掛けで助教授を騙して点数をちょろまかすなんて」
 真紀「ばっかねえ、あのね、お酒ちょっと付き合って、あら先生って甘い顔するだけじゃない。今の大学みんなそう」
 忍「それが不真面目だって言ってるんだよ、エノは君のこと真剣に考えてるんだよ、君だってエノのこと好きだったらもっと真面目に考えたらどうなんだよ」
 真紀「何よ、また邪魔しようっての? 自分がモテないからってね、人の恋路邪魔しないで!」
 忍「バカァッ!」

 忍、カッとなって思わず真紀の顔を引っ叩いてしまう。

 そんな義理はないのだが、元婚約者の妹なので、つい忍も本気で心配してしまうのだろう。

 なりは大きくても中身はまるっきり子供の真紀、ヒステリックにギャンギャン叫びながら忍に教科書やノートを手当たり次第に投げつけ、駄々っ子のように泣きじゃくるのだった。

 翌日、真紀が言いつけたのだろう、そのことで再び榎本に屋上に呼び出される。

 頼むから仕事してくれ……by社長

 
 榎本「先輩、一体何をしてくれたんですか?」
 忍「何をってお前……やめろよ、あんな女、あの子はね、怒ると物ぶつけんだぞ」
 榎本「余計なことするからですよ。頼みもしないのに」
 忍「エノ、俺はお前のためを思って言ってるんだよ」

 忍、真紀なんかやめて陽子と結婚しろといささかお節介なことを言うが、

 榎本「僕たちのことには口を出さないで下さい」
 忍「お前、ねえ……」

 なおも榎本を追いかけて説得する忍であったが、榎本は煩そうに振り払う。

 実際、忍がそこまで榎本の結婚話に口を突っ込んでくるというのは、いささか忍のキャラクターに合わない気がして、違和感がある。

 真紀のいい加減な生活態度を、その姉の元婚約者として叱り付けると言うのは分かるんだけどね。

 二人がオフィスに戻ると、朝子が社長室で大変なことが起きていると告げる。

 社長室では、紋付袴姿の長谷川がソファに陣取り、榎本に今日限りプリンセス下着を辞めさせると無茶苦茶なことを宣言していた。

 応対していた藤平部長が困り果てていると、榎本と忍がやってくる。

 
 長谷川「坊ちゃまをお連れする手段はこれしかありません」
 榎本「いい加減にしろよ、お前が社長に言ったってね、俺はこの会社辞めないからね」
 長谷川「結構でございます。でしたら、大旦那様の指示より銀行に圧力をかけて、この会社を潰して頂く」
 藤平「いや、つ、つ、つ……」
 長谷川「冗談ではありませんぞ、榎本コンツェルンの力を以てすればそのくらいのことは朝飯前でございます」

 藤平はひたすらおろおろするだけであったが、最初は説得しようとしていた榎本も呆れ果て、

 榎本「ま、好きなようにやらせといて下さい」

 付き合いきれないとばかり、部屋を出て行く。

 上司にゴマをすることと部下の手柄を自分のものにすることしか能のない藤平も、忍に全部押し付けて逃げ出してしまう。

 忍はふんぞり返っている長谷川の横に座ると、蕩けるような笑みを浮かべ、

 
 忍「ね、おじいちゃん、エノにはおとなしく帰るように説得しとくからさ、今日のところはひとつ、このまま引き下がってもらえないだろうか? あ、それにね、あいつ俺の言うこと物凄く良く聞くのよ。だから俺を信用して」

 長谷川、ぎょろっとした眼を忍に向け、

 長谷川「間違いござらんな?」
 忍「ございません」

 ひとまずトラブルを片付けた忍は、上機嫌の藤平に給料の前借りを頼むが、1万円しか貰えなかった。

 仕事の後、忍は単身榎本の実家を訪ね、問題の母親に会う。

 母親「なんですって、じゃああの子は帰らないって言ってるんですか」
 忍「いえ、そうじゃありません、一光君は必ず帰ります。あの、ただもうしばらく気ままにして頂きたいなどと贅沢なことを」
 母親「しばらくっていつまで?」
 忍「つまり、その、あと半年気ままに暮らしたい……いやいや、あの、もう少し世間の苦労をして勉強してからうちに帰りたいとそう申しておりました」
 母親「そう、あの子がそう言ってるんですか」
 忍「はいはい」

 忍、榎本の了解も取らずに口から出任せを並べ、強引に母親を説き伏せようとするが、

 
 母親「じゃあ、どうしてあの子は自分でそれを言いに来ないんですか」
 忍「いや、それがあの、つまり……」
 母親「嘘なんでしょ?」
 忍「そうなんです。いや、そ、そんなことないです」
 母親「分かってます、あの子は自分で来ると私の頼みを聞かなければならないからあなたを頼んだんですね」
 忍「いや、あの……」
 母親「ご苦労様、もう結構です。私が直接あの子に会って聞きます」

 付け焼刃の弁舌が、人生の大先輩に通じる筈もなく、母親は決然と自分で榎本に会いに行くと言い出し、完全なヤブヘビとなってしまう。

 忍「参ったな、まずいことになっちゃったよコレ、エノの奴、まだ会社にいるかな?」

 忍、大急ぎで榎本のアパートへ行くが、榎本の姿はなく、代わりに真紀がいた。

 
 忍「なんだ、来てたのか、あのね、エノは?」
 真紀「あ、そこまでタバコ買いに行った」
 忍「あ、そ、ねえ、真紀ちゃん、君がここにいると凄く不味いことが起こるのよ、だから帰ってくんない?」
 真紀「どーして? また邪魔しようってのね、いや!」
 忍「いや、そんな意味じゃ……」

 当然ながら真紀がへそを曲げてしまったので忍が弱っていると、榎本が帰ってくる。

 
 榎本「あー、先輩」
 忍「おい、大変だよ、お前のお袋が来るぞ」
 榎本「えーっ」
 忍「えーっじゃないよ、お前を迎えにくるんだ、えらい剣幕だった」
 榎本「先輩、また何をやらかしたんだよ?」
 忍「いや、そうじゃないんだよ。とにかく説明は後、とにかくこの子がここにいちゃ不味いんだよ」

 襟首を掴んで食って掛かる榎本をなだめると、忍は目の前にいる大きな女の子を指差す。

 榎本も、すぐその危険性に気付き、忍から手を離す。

 
 真紀「どうしてー? 私何にも悪いことしないわよ、お母さんだって誰にだって会うんだからね」
 忍「そんなことしたらね、お前のお袋心臓麻痺でひっくり返っちまうぞ」
 榎本「う、うん……ああ、真紀ちゃんね、ちょっと悪いけど、帰ってくれる? また後で電話……」
 真紀「何よ二人で私のことバカにして、いいわよ、もう二度とこんなとこ来ないから!」
 榎本「あっ、いや、真紀さん……」
 忍「お前は何処行くんだよ、お前はここにいるの!」

 気分を害して部屋を出て行く真紀を慌てて追いかけようとする榎本を、忍が強く引き止める。

 真紀がアパートの階段を降りると、ちょうどそこへ榎本家の高級車がやってくる。

 忍と榎本が戦々恐々として待ち構えていると、まず、毛皮に包まれた陽子が入ってくるが、母親の姿はない。

 榎本「あれ、お袋は?」
 陽子「なだめるのに苦労しちゃったわ、でも、おばさま、子供とおんなじね」
 榎本「……」
 陽子「でも、多少の無理は聞いて上げてね、お淋しいのよ……おばさまね、今までどおり好きにして構いませんって」
 榎本「えっ?」

 
 陽子「その代わり、一週間にいっぺん、顔見せに帰ってあげること、それが条件でおばさま、やっとオーケーしてくださったのよ。だから約束して、ね?」
 榎本「分かったよ、約束するよ」

 仮にも「婚約者」である幼馴染みの女性に上目遣いで頼まれては、榎本も折れるしかなかった。

 陽子「良かった、これで私安心してヨーロッパに発てるわ」
 榎本「え、君、また行くの?」
 陽子「ええ、だってどうやらお兄様にも素敵な方がいらっしゃるようだし」

 こうして榎本最大のピンチは急転直下解決し、二人はにこやかに陽子を見送る。

 陽子、これっきり出てこなくなるのが惜しい爽やかなキャラクターであった。

 と、榎本が思い出したように、

 榎本「あ、先輩、さっき会社に書留来てたよ。俺帰りがけだから持って来たけど」

 
 忍「えっ? あ、こないだの原稿料だよ、やった、やった、帰んなきゃ」
 榎本「先輩、どうしたんですか?」

 忍、榎本に何の説明もせず、書留を手に走り去ってしまう。

 無論、あの着物をゲットするためである。

 しかし、ストーリー上仕方ないとは言え、忍が副業として書いている童話の原稿料が、会社宛に届くというのは変である。

 あるいは、家に金が届くと綾乃に取られるかもしれないと、あえて会社に送ってもらうようにしているのかもしれない。

 ともあれ、原稿料がいくらだったのか不明だが、なんとか5万円の金を作ることに成功した忍は、晴れて着物を手に入れるのだった。

 さて、いよいよここからクライマックスシーンとなる。

 下宿にて、

 もと子「あ、どうおばあちゃん?」
 渚「うん、もうすっかり良いみたい。ほら、こんな綺麗に食べちゃった」
 もと子「わー」
 荻田「そうか、そりゃ良かった」

 渚がお盆に綾乃の食器を載せて降りてくると、それを見た荻田たちも実の家族のように喜ぶ。

 なんだかんだで、二人は善人なのである。

 
 もと子「ねえ、渚ちゃん、これ着てみて頂戴」

 そのタイミングで、もと子が例の着物を渚に披露する。

 
 渚「えーっ、私にぃ? ほんとーっ?」
 もと子「36回払いね」
 渚「金取るんかいっ!!」

 じゃなくて、文字通り躍り上がって喜ぶ渚であった。

 しばらくして、紙袋を抱いた忍が、満面の笑みを浮かべて帰宅する。

 だが、居間にも光政の部屋にも、人の姿がない。

 
 忍「なんだよ、このうちは無用心だなぁ……まあいいや、渚ちゃん」

 忍、弾むような足取りで階段を駆け上がり、

 忍「渚ちゃーん、成人式のお祝いにぃ~」

 歌いながら廊下の一番奥の扉を開けるが、

 
 忍「……」

 部屋の中を見た途端、忍の笑顔が凍りつく。

 
 何故なら、今まさに、渚が着物を着付けてもらっているところだったからである!

 忍「ど、どうしたの、それ?」
 渚「おっちゃん、この着物ね、おばちゃんが作ってくれたの……」

 ポロポロと嬉し涙をこぼしながら説明する。

 
 忍「お、おばさんが?」
 もと子「ふふっ、私のお古なんだけどね、物はとっても良いのよ」
 荻田「ま、喜んで貰えて良かった。はっはっはっ」
 綾乃「加茂さんは何にもしてくださいませんでしたけども、こちらの皆さんにこうして……私、もう……」

 忍にイヤミを言いつつ、感動に声を詰まらせる綾乃。

 
 渚「……」

 渚も感極まった様子で、じっと忍の顔を見詰める。

 別に渚は忍にも「なんかくれ」とねだっているのではなく、純粋に喜びを表現しているのである。

 
 忍「そうか、良かったな、渚ちゃん、良かったなぁ、ほんとに良かった」
 渚「うん」

 忍も、自分の着物のことはさておき、心から渚を祝福する。

 
 忍「良かった、良かった……」

 そして、みんなに気付かれないように、そっと紙袋を体の後ろに隠し、そそくさと部屋を出て行くのだった。

 ちなみにこの「善意の重複」と言う奴、寅さんだと、逆に周りが先に気付いて、寅の気持ちを傷付けないようあれこれ誤魔化そうとして結局バレ、ひと騒動起こるのがパターンである。

 具体的には、24作目だったか、どこからか大量のブドウが送られてきた後で、ふらりと帰って来た寅が持参したお土産がこれまたブドウだったので、さくらたちが困惑するシーンとかね。

 さて、紙袋を抱えて悄然と一階に降りて来た忍、

 
 忍「どうすればいいんだよ、これ、返品はきかねえし……俺が着ても似合いそうもねえし……5万円もかけちゃって……参ったなぁ」

 必死の思いで手に入れた着物が宙ぶらりんとなってしまい、まさに途方に暮れたと言う感じで、とりあえず自分で袖を通してみるが、そこへ静々と降りて来たのが着物姿の渚であった。

 勘の良い渚だから、忍が自分のために何か買ってきてくれたことは察していたのだろう。

 
 渚「おっちゃん……ありがとう」
 忍「いやぁ……赤いべべ着た可愛い女の子!!」

 渚の心からの感謝に、照れ隠しに着物を着たままピョンと飛び上がった忍のカットで終わりです。

 いささか結末があっけない気もするが、人の善意の素晴らしさ、そして、人の善意を大切にする心の素晴らしさをも同時に描いた、文句なしの名作であった。

 つまるところ、この作品のテーマと言うか、真価こそがそれだと思うのよね。

 そう言う意味では、この殺伐として、万事に効率主義が横行し、善意すら寄付金の額でしか測れなくなったような現代社会にあっては、放送時以上の輝きを放っているドラマではないかと思うのである。
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