最後です。
焼香を済ませたあと、波越たちと言葉を交わすこともなく式場を後にする静子であったが、境内で、「奥さん」と男の声に呼びかけられて振り向くと、

墓石の陰から、死んだ筈の平田があらわれる!!
静子「あなたは!」
平田「しばらくですね、奥さん。どうしました、平田ですよ」
静子は幽霊でも見たように、体をぶるぶる震わせながらあとずさる。
静子「そんな筈ないわ、あなたは私の目の前で車ごと断崖から落ちてった。焼け爛れた車の中からあなたの黒焦げの死体が出てきたって、警察の調べでも……」
平田「それは、明智小五郎の死体でしょう。私は危く、運転席から脱出した」
と、そこへ波越や文代たちがどやどやと駆けつけて、平田を取り囲む。
波越「貴様、平田だな!」
平田「またの名を大江春彦とも言います」
平田は慌てる色もなく堂々と名乗ると、懐から原稿用の束を取り出す。

平田「最終回の原稿がやっと出来たんで持ってきたんですよ。事件の解明、これからの結末が書かれてます。静子さん、あなたと私とは固く結ばれることになってんですよ……」

当然、波越は、平田を逮捕しようとするが、平田はその手を振りほどくと、手榴弾を取り出して彼らを脅し、静子を連れて本堂とは別の建物の中に逃げ込む。
しかし、いくらなんでも手榴弾はないだろう、手榴弾は……風情がないにも程がある。
ここは、普通にピストルで良かったんじゃないかなぁ。
平田「静子さん、私はあなたが好きだった。セーラー服の頃から憧れていた。どんな犠牲を払ってでも、自分の物にしたかった。だからこそ静子さん、あなたの命令どおりに……」
静子「あたしの命令どおりに?」
平田「そうですとも!!」
廊下を移動しながら、事件のからくりを語り始める平田。
ここで回想シーンとなり、

静子「分かったわ。そんなに欲しいんだったら、私を上げる」
平田「静子さん、私と結婚して下さるってんですね」
静子「ただし、その前に、小山田が邪魔だわ。私にとっても小山田は仇、私の復讐に手を貸してくれるわね?」
平田商会で、二人が悪魔の契約を取り交わしている様子が再現される。
そう、平田は最初から静子の操り人形に過ぎなかったのだ。
「妖しい傷あとの美女」も、元々静子が書いたものであり、平田はそれをワープロで打ち直して大江春彦の名で投稿し、編集者の本田にもさも自分が大江であるかのように振舞っていたのである。
原作では、大江の正体について、平田と思ったら○○○で、○○○だと思ったら静子で、静子だと思ったらやっぱり平田? と言うように、主人公が次々と推論を重ねていくのがひとつの売りになっている。
ただ、原作では、静子は夫に知られると困るので、変名を使って小説を発表していたのだから、元々文才はあったし、表現したいことがあったのだが、ドラマでは、計画殺人の小道具としてしか小説を書いていない。それなのに、それが新人賞をとったりしちゃ、真面目にエロ小説を書いている人たちに申し訳ないと言うものだ。

平田「全てが終わったら私のものになる、あの約束はどうしたんですか? 静子さん、私と結婚して下さい。あなたを下さい。もしそれが叶わないんなら、私はもう生きている望みはない。ここで、この手榴弾であなたと心中して果てるつもりだ」
平田は、つかず離れず追ってくる波越たちに聞こえるように大声で喚きながら、縁側を進み、お堂の中に入る。

平田「答えてくれ、俺と結婚するのか、しないのか? これほどまで言っても、まだ俺の気持ちが分からないのか。ここで俺と一緒に死ぬと言うのか?」
静子「あたしは……」
平田「どっちなんだ! 死を選ぶのか、それとも平田一郎の愛を受け入れるか?」
静子「……違う!」
平田「違う? 違うってどう違うんだ? 三つ数える、その間に答えるんだ。ひとぉーつ、ふたつ、みっつぅ……」
平田、ピンを口で咥えて引き抜こうとする。
静子は半狂乱になって、「違う!」と叫びながら、平田の側から離れる。
静子「あんたは平田じゃない、平田は死んだのよ! 私の目の前で!!」 
静子「平田は、車に乗る前から死んでたのよ。私が、私がこの手で……」
自分の両手を見ながら、涙声で告白する静子。
静子「あんたが平田である筈がない、私が、平田を殺したんだから……」
静子の台詞に合わせて、別荘の庭で、平田が静子に殴り殺されるシーンが映し出される。
と、このタイミングで、アキラの声が天知先生の声にスイッチする。
平田「静子さん、あなたの口からその言葉を聞きたかったんです……」
静子「あなた、あなた、まさか……」
ここでやっと、静子が相手の正体に勘付く。
と言う訳で、いつもの変装解除タイムとなる。

まず、付け髭を外し、おもむろに顔に指をかける。

アキラの出番はここで終わり、次のカットから、熟練の技が冴える
「ベリベリベリ」を披露して、明智の顔になる。
静子「はぁっ、明智先生!」
そして、これがなくっちゃ美女シリーズじゃないとも言われている、渾身の早着替え。

あ、ワン、

ツー、

スリー!

概ねスムーズに脱げたものの、最後、ちょっと腕に絡まる上着を振り払う明智さんでした。
明智(92点!!) 匠の目は常に己に厳しいのである。
波越「明智君!」
文代「先生!」
毎度のことだが、付き合いなので、驚喜してみせる文代たち。
明智「静子さん、神は私を見捨てませんでした。冷たい海底の死の渕から、辛うじて這い上がることが出来たんです。それから半月の間、事件の奥深い真相を探る為に、私は密かに調べを進めていたんです……あなたの過去をです」
しかし、半月も調査をしていたのに、波越や文代たちに自分が生きていることを伝えなかったのは、さすがに薄情ではないか。
ともあれ、ここから、明智の調べた事件の動機が語られる。

明智「あなたはまだ年端も行かぬ少女の頃に、ご両親を亡くされていますね。あなたのお父さんは小さな会社をやっておられた。規模こそは小さかったが、当時の科学技術では最先端の特許を持っていた。そこに目をつけた悪徳商人がいた、何も知らないお父さんを騙して、資金繰りを悪化させ、倒産寸前に追い詰めて、命綱ともいえる特許を二束三文で買い叩いた。お父さんは全てを失い、失意のどん底に突き落とされて……」
明智の説明の半ばから、静子はしゃくりあげるように荒い息をつきながら、大粒の涙をこぼしていた。

明智の声「あなたの両親を無理心中にまで追い詰めた悪徳商人こそ、小山田六郎だった!!」
首を吊っている両親と、それを見上げている幼い静子のイメージ。
しかし、「無理心中」と言うけど、静子は道連れにされていないので、普通の「心中」じゃないのかなぁ?

明智「略奪した特許が物を言って、小山田商会はみるみるうちに勢いを伸ばし、今日を築いたのです。そればかりではありません。あなたが高校生となり美しい女性に育っているのを知った小山田は、過去を償うふりをして近付き、あなたを後妻として迎え入れました。それも変態的な、戯れのおもちゃとして」

静子「私は耐え続けてきました。いつかきっと、両親の恨みを晴らせる時が来るかもしれない。小山田と結婚したのだって、その機会を窺う為に……そのことだけ考えて……いつかきっと、今にきっと、そう思い続けて……」
血のような涙を流しながら、秘めていた思いの丈をぶちまける静子。
そう、結局、動機は、美女シリーズ及び「金田一少年の事件簿」で定番の、過去の事件の復讐だったのである。
いやぁ、実に意外な動機ですね……って、
そんなの分かるわけねえだろっ!! しかし、いくら復讐の為と言っても、その相手と結婚しようとするかなぁ? もし子供でも生まれたらどうするんだ?
小山田にしたって、相手が自分のことを恨んでいると承知の上で、そんな女性と結婚しようとするだろうか?
ま、小山田はサディスティックな性癖の持ち主だったようだから、明智が言うように、自分に遺恨を抱いている娘を自分の慰み者にすることに限りない愉悦を感じる……と言うのは理解できるが、だからといって後妻に据えると言うのはねえ……
いつ寝首を掻かれるか、知れたものではあるまいし、そんな女性と一緒に生活するなど、ほとんど正気の人間のすることとは思えない。
原作では、静子は平田と交際があったが、金持ちの小山田に誘われてさっさと嫁に行ったと言う身も蓋もない設定で、無論、小山田が親の仇などと言う話は出て来ない。
明智「そんな折に、偶然再会したのが平田一郎だったわけですね?」
静子「平田は私にしつこく言い寄ってきました」
明智「そこであなたは、小山田への復讐に平田を利用することを思い付いた。平田を操って、全ての罪を被せてしまうと言う、一石二鳥の完全犯罪計画だ!」
静子「平田を推理作家にしたて、大江春彦と言う謎のペンネームで、推理小説を雑誌に発表する。それと同時進行で殺人が起これば、誰もが大江春彦を犯人だと思い込むでしょう。それが狙いでした。この世の中で一番愛してる者を失った悲しみ、悔しさを思い知らせてやりたかった!」
静子の台詞にあわせ、最初のプールでの電流による小山田の愛娘の殺人が回想される。無論、スイッチを入れたのは平田ではなく、静子自身だった。

静子「20年前のあの、哀れな両親の姿が焼きついて離れないんです!」

明智「静子さん、私にはひとつだけどうしても判らないことがある。第二の犠牲者として何故秘書の後藤由美子を選んだかと言うことです。小山田氏の愛人だったからですか?」
静子「いいえ、それだけじゃありません。後藤由美子は小山田の娘と結託して私を殺そうと仕組んだんです!」
ここで、冒頭に静子が話していた、点茶中に、茶碗から青酸ガスが立ち上って死ぬかと思ったと言う場面が回想される。それは静子の作り話でなく、実体験だったのだ。
静子は盗聴マイクを使って、由美子と洋子の会話を聞き、彼らが財産目当てに自分を殺そうとしたことを知ったのだ。
しかし、洋子が継母の静子を消したがるのは分かるが、それを、静子の後釜を狙っている由美子と結託して行うと言うのは、なんか変じゃないか?
だって、仮に静子を始末しても、代わりに洋子が継母になるのでは、洋子の遺産の取り分は同じと言うことになるのだから……
第一、青酸カリなんて使ったら、警察沙汰になるのは目に見えていて、逮捕されては元も子もなくなるわけで、黙っていれば合法的に遺産を貰える立場の人間が、そんな危ない橋を渡ろうとするだろうか?
よって、静子殺しは由美子の単独犯行と言うことにしておいたほうが良かったかもしれない。
静子「私がはっきりと復讐の実行を決意したのは、そのときだったわ」
由美子を刺殺したのも、小山田を轢き殺したのも、全て静子ひとりでやったことであった。
明智「あなたは大江春彦として殺人を重ねながら、その一方では、もうひとつ大切な役柄も務めていた」
今度は明智が回想する。
平田商会のビルの屋上から、大江の妻がロープを伝って向かいのビルへ逃げたように見えたのは、大江の妻に扮していた静子のトリックで、実際には、そのまま機械室へ入り込み、急いで変装を解いて、元の静子に戻って、それから監禁されていたようなふりをしていたのだ。

その際、静子はカツラは勿論、つけぼくろ、ふくみ綿、金歯、口紅シールなどなど、かなり細かい変装パーツを駆使していたことが分かり、はっきり言って、明智さんの
ベリベリベリよりよっぽどリアルで説得力がある。
明智は、張られていたロープに擦れた後がなかったことから、ロープが偽装であることを最初から見抜いていたのである。
でもねえ、それ以前に、繁華街のビルの谷間をロープを伝って移動するなんて目立つことをしていたら、必ず目撃者がいた筈で、波越たちがちゃんと聞き込みをしていれば、そんなことはすぐ分かった筈である。
明智「その時、私はあなたにはっきりと疑惑の目を向けたんです」
静子「そうだったんですか、さすが、明智小五郎だわ」
明智「もうひとつ、小山田社長が周囲の誰にも隠していた、自分がハゲ頭であると言う事実を犯人だけは知っていた。それは小山田氏のよほど身近にいるものでなければ知ることのできない秘密だった筈です」
クライマックスの謎解きシーンで、あまり耳にしたくない単語が混じってますが……
静子「何もかもお見通しでしたのね……」
明智「いや、別荘での最後の筋書きだけは読み切れませんでした」
最後の平田殺しについて語る明智。
平田は静子に別荘付近に呼び出された挙句、漬物石で撲殺され、死体となって車の運転席に座らされていた。
そして、その車には無線によるリモコン操縦装置がセットされていたのだ。
だから、崖上で走り回っていた車も、実は、静子が小さなリモコンで操縦していたのである。
しかし、これをトリックと言って良いものかどうか……
原作の、真犯人の正体に関する三段重ねの謎解きと比べると、まるっきり深みがない。
どうでもいいが、このドラマ、ワープロとか、盗聴マイクとか、リモコン操縦装置とか、小型発信機とか、無線電話とか、
手榴弾とか、不粋なハードウェアがやたら出てくるんだよね。
静子「許して下さい先生、復讐を遂げる為にはああするしかなかったんです。いいえ、何度思い止まろうとしたことか……復讐なんてどうだっていい、何もかも投げ捨てて先生の腕の中に飛び込んでいけたら! でも、到底、叶わないことだった。戯れの小説の中でさえ、決して、
叩いてはいけないキーだったんです」
明智(うまいこと言う!!) こんな状況ながら、静子のトンチの利いた台詞に唸る明智さんであったが、嘘である。
波越「話は分かった。だいたい想像していたとおりだ」 ひたすら聞き役に回っていた波越が、一歩進み出て、渾身のギャグで湿っぽくなった場を和ませようとする。
さすが、元ドリフである。
だが、静子は隠し持っていた毒薬のカプセルを口に含み、一気に嚥下する。

明智「静子さん!」
死を目前にして、静子は、むしろ清々とした笑顔を明智に向ける。
静子「報われることの少なかった私の人生、その最後の復讐劇のパートナーにあたしが先生を選んだのよ。初めから、こうなって、死ぬことまで覚悟して……明智小五郎の知能に挑戦してみようって思ったの……」
それにしても、小山田の後妻としての務めの傍ら、ミステリーを書き、挿絵まで描き、平田を操り、大江春彦の妻になりすまし、次々と人を殺し、おまけに明智小五郎に挑戦までしようとしたマルチタレント静子。
さすがに忙し過ぎでは?

静子「大それたことだって言うのは分かってたわ、先生は想像以上に素敵な人だった。あたし、心まで奪われそうになっ……」
泣き笑いを浮かべながら、明智の腕にしな垂れかかっていた静子の体が、がくりと崩れそうになるのを明智が慌てて抱き寄せる。

明智「静子さん!」
静子「その先生に負けたんだから、恨みっこなしだわね」
明智「私にとっても、あなたは決して忘れることの出来ない人だった」 死にゆく犯人に、最高の賛辞を贈る明智。
静子「先生、ありがとう……」
明智「静子さん、静子さん!」
静子「あ……」
最後にうっすら、満足そうな微笑みを見せてから、静子はこときれる。
静子の体をしっかと抱き締める明智さん。

夕陽の照り返しがとても美しかったが、

波越たちが慌てた感じでフレームに入ってくるのがいかにもお芝居と言う感じで、これはやらないほうが良かったと思う。
ちなみに原作では、[
遂に真相を看破した主人公が、静子の罪を暴きたて、そのショックで静子が自殺する]と言う救いのない結末だった。
最後、今度の事件の象徴とも言うべきワープロに向かっている明智さん。

それは、復讐に人生の全てを捧げた静子と、彼女によって生み出された「妖しい傷あとの美女」へ手向けられた鎮魂の祈りだった……
以上、この作品、色々とつっこみどころはあるし、トリックらしいトリックがないのが不満だが、ミステリー小説どおりに殺人事件が起きるという魅力的なプロットがぐいぐい視聴者をひきつけ、シリーズ後期としてはかなりの出来映えだったと言えよう。
なにより、佳那晃子さんの翳りのある美貌と、終盤で見せた渾身の演技が印象に残った。
※増補版編集後記 久しぶりの増補版の執筆であったが、思ったより早く書き上げられたのでホッとしている。
それでも、丸二日ほど掛かったけどね。
しかし、それほど昔に書いたレビューではないので、もう少しマシな文章を書いていたと自分では思っていたのだが、今回オリジナル版を読み直してみて、そのあまりのお粗末さに愕然とする管理人であった。
ま、だからと言って、現在の文章に満足しているわけではないのだが……
ともあれ、DVDをチェックしつつ、30枚近く画像を追加し、文章もほとんど全面的に手直ししたので、増補版と言うよりはリテイク版に近いレビューとなったが、自分的にはまずまず納得のいく内容になっていると思う。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
- 関連記事
-
スポンサーサイト