第20回「若草物語 熱中篇」(1979年2月16日)
の続きです。
下宿に帰り、一部始終を綾子たちに話して聞かせる広大。

桃子「考えるもんですねえ、子供たちって」
恵子「そうよー、子供は天使であり、且つ又悪魔でもあるわけよ」
広大「とにかく自分たちを一生懸命育ててくれたお姉さんのことをその子たちは本当に心配してるですよねえ」
恵子「でも、北野さんが悩むことないんじゃないかしら」
恵子は他人事なので、簡単に言うが、

広大「お願いします、なんて小さな手でこうされちゃうと、なんか断りにくくなっちゃうんですよね、やっぱり」

桃子「じゃ、結婚なさったら?」
ほんとは広大のことを憎からず思っている桃子だが、得てして人間と言う生き物は本心と真逆のことを口にするものなのである。
広大「またまた、小糸先生……」
などとやってると、その美千代から広大に電話が掛かってくる。

美千代「あの、私、あれから妹たちに色々聞きまして、ほんとにびっくりしちゃいまして、色々とすいませんでした。それで……そのことでもって、明日会って頂けません?」
電話の内容を知った綾子たちは、てっきり美千代がほんとに広大に好意を持っているのではないかと、完全に興味本位で色めきたつ。

恵子「女の方から会いたいなんて言ってくんのはよくよくのことですよ。だって断りたいんだったら、会ったりなんかしないわ」
桃子「どうなさるの?」
広大「えっ、ど、ど、ど、ど、ど……どうって」
桃子に聞かれて思わずどもる広大に、
綾子「北野さんの気持ち」
広大「凄く良い人だとは思うんですよね、綺麗だし、しっかりしてるし」
桃子「悩むぐらいならお付き合いしてみたら」
広大「いや、結婚とかそう言うんじゃなくて、つまり、もし、向こうの方が僕のことを気に入ってくれたんだったら、相手の方をですね、傷付けないように……」
恵子「あら、お断りしたいわけ?」
結局、美千代と結婚するつもりはない広大であったが、なにしろ由加利たちのことがあるので、どうやれば子供たちの気持ちを傷付けずに破談に出来るか、経験豊富な女性陣に助言を求める。
で、お見合いを何度もしている恵子の案で、相手に嫌われるような言動をして、こちらが振られる形を取れば良いのではないかということになる。
具体的な方法をあれこれ考える恵子たちだったが、「汚い食べ方をする」「金遣いがあらい」も、すぐに綾子に却下される。
桃子「私はいっそ、はっきりとお断りした方が良いと思うんだけどなぁ」
広大「いやいや、それは絶対ダメです。それはやっぱり出来ません」
恵子「じゃあ自分で考えたら? 女心を傷付けずに断る方法」
綾子「まあ自分でやってみることね」
広大「はい」
広大、早速何か思いついたのか、バンッとテーブルを叩き、立ち上がりかけた綾子に向かって、

広大「僕はあなたにふさわしい男ではありません」

綾子「まあ、そんなこと……私、あなたのそういう控え目なとこが好き」
広大「奥さん!!」
恵子「カーン!!」
逆に良い感じになってしまい、恵子が失格のゴングを鳴らす。
綾子、昔は学生演劇をやっていたので、お芝居は得意なのだ。
広大「では」
広大、今度は恵子に向かい、
広大「あなたは僕には勿体無い方ですよ」
恵子「あら、勿体無いのはあなたの方よ」
桃子「カーン!!」
今度も瞬時に切り返され、あえなく失格となる。
恵子「ありきたりなのよ、北野先生のは」
恵子の容赦ない批評にもめげずに、

広大「趣味を聞きます。あなたのご趣味は」
綾子「あら、私? フォークソングですの」
広大「いやー、残念だなー、僕は浪花節なんですよ」
綾子「あら、じゃ、私、浪花節好きになるわ」
広大「……」

恵子&桃子「カーン!!」
めっちゃ楽しそうにゴングを鳴らす二人。
綾子「女ってね、好きな人に合わせるのが喜びなのよ、亭主が好きな赤烏帽子って言うでしょ」
広大「弱っちゃったなぁ」
万策尽きて広大がふらふらと自室に戻ろうとすると、今度は綾子がテーブルを叩いて立ち上がる。

綾子「わかった、これから簡単よ、女性に絶対嫌われる方法」
広大「ありますか、そんな方法」
綾子「今の北野さん」
広大「は?」
綾子「煮え切らない態度をするのよ、あらゆることにうじうじ煮え切らないの」

綾子「どう、恵子さん、そう言う男性」
恵子「いやいやいや、私絶対にいや」
桃子「私も~」
二人が身震いして否定するのを見て、綾子は得たりとばかり、
綾子「でしょう、煮え切らなくて自信のない男」
広大「たとえば?」
綾子「アメリカの俳優でバート・ランカスターって言ったかしらねえ、その人がね、自信のない男って役を貰ったの、そうしたら何したと思う? ベルトとね、ズボン吊りと両方してきたの」
広大「は?」
恵子「つまり自信がないのだ」
綾子「そうなのよ、それならば、ほら、お姉さんだっていやになるでしょう」
何とか方針を決めた広大は、翌日の放課後、

小嶋田「ベルトもして、ズボン吊り2本もするんですか」
恵子「どうしてもズボンがずり落ちそうな気がするんですって」
バカ正直に、言われたとおりのスタイルで美千代との待ち合わせの場所に向かうのだった。
……
いや、わざわざそんなことしなくても、とっくの昔に広大は女性から嫌われている人間になってると思うんですけどね。
すなわち、
「何でも人の言いなりになる男」と言う……
ともあれ、広大は、大きな池をまたぐ橋の上で美千代と会う。

広大「喫茶店行きますか」
美千代「はい」
広大「お、財布持って来たかな」
わざとらしく言いつつ、前を開いて、例のダブルサスペンダー+ベルトを見せびらかす。
美千代「あらぁ」
広大「これですか、いやー、僕は心配性なんですよねー、ベルトだけだとどうも頼りなくて」
美千代「それ面白いですね。だって両方してれば絶対安心ですもんね」
だが、美千代は白けるどころか、逆に好意的に評価してくれる。
考えたら、もし美千代がほんとに広大のことが好きなら、その程度のことで愛想を尽かす筈がないのだが……

広大「……」
広大、のっけから思惑が外れ、一気にテンションが落ちる。
それでも、シミュレーションどおり、喫茶店に行こうか、汁粉屋に行こうか、あるいはピザハウスに行こうか、不自然なほど長々と迷ってみせ、優柔不断な男を印象付けてから、結局喫茶店に落ち着くのだった。
さらに、オーダーの際にも、アメリカンにするか、ウィンナーコーヒーにするか、延々悩み続け、伊藤かずえと片桐はいりを足してニで割ったような顔のウェイトレスが根負けして「お決まりになりましたらお呼び下さい」と、途中で引っ込んでしまう。

広大「えっと、さてと、何にするかなぁ」
美千代「……」
広大「おかしいっすか?」
そんな広大の様子をじっと見ていた美千代が、不意に、口に手を当て、声を出さずに笑ったので、作戦が成功したかと思いきや、
美千代「妹たちが優しくて素敵な先生だって憧れる筈ですわ」
広大「は?」
美千代の口から出たのは、思いもかけぬ言葉だった。

美千代「いいんですよ、そんな無理なさらなくても」
広大「いや、僕は別に、あの……」
美千代「それが昨日のお見合いに対するお返事なんでしょ?」
広大「……」
美千代「ふふっ、だったら良いんです」
そう、聡明な美千代は、とっくの昔に何もかもお見通しだったのである。

美千代「どうぞ、結婚する気はないからってはっきりそう仰って下さい。そんな無理に私に嫌われるようなお芝居なさらなくたって……」
広大「あ、いや、そ、そんな……」
美千代「さっきほら、私が面白いですねって言ったら、がっかりした顔なさったでしょ」
広大「あいやいやいや……参っちゃったなぁ」
美千代「うふふ」
美千代の鋭い指摘に、潔くカブトを脱ぐ広大であった。
笑いを収めると、
美千代「私、実は好きな人がいるんです」
広大「え?」
ここで一旦カメラは由加利たちが待っているアパートに飛ぶ。
向かい合ってコタツに入り、互いに頬杖を突きながら、

由加利「お姉ちゃん、北野先生のコト、お兄さんって呼ぶの?」

真由美「決まってるじゃない」
由加利「学校でも?」
真由美「学校では先生に決まってるじゃない」
広大と美千代が結婚するとばかり思い込んでいる二人、そんな未来のことにまで思いを馳せ、なんとはなく天井を見上げて溜息をつくのだった。
再び喫茶店。

美千代「その人、商社に勤めてるんですけど、私のこと好きだって言ってくれてるんです」
広大「三日にいっぺん頭刈る人?」
美千代「あ……」
広大「失礼しました。金田さん」
美千代「妹が言ったんでしょ」
広大「はい」
金田は、美千代恋しさのあまり、彼女の働いている理髪店に三日置きに髪を切りにくるという、寅さんみたいな逸話の持ち主なのである。
美千代「妹たちは彼のことあんまり気に入ってないんです。でもあの子達が中学生になったらきっと彼の良さが分かってくれると思うんです。だから由加利が卒業するまで、あと3年待って下さいって言ってるんです。彼ならきっと待ってくれると思います」
広大「優しい人なんですねえ」
美千代「ええ、あの子達、二人とも一緒に面倒見てくれるって言ってるんです」
広大「由加利ちゃんも真由美ちゃんも、いつかきっと分かってくれますよ」
事情がすっかり飲み込めた広大、全力で美千代にエールを送る。
ただ、3年後って言うと……

金田さん、待ち切れずに悪の道に入っちゃったみたいです……
嘘はさておき、美千代の説明で、由加利たちが、「今、彼と結婚しない」と言う姉の言葉を額面どおり受け取り、それが今度の騒動につながったことが分かる。
美千代「ですから私、今日はほんとのことを言って、お断りしなければと思って来たんです」
広大「……」
美千代「どうもごめんなさい」
改めて深々と頭を下げると、肩の荷が降りたように清々した様子で顔を上げ、

美千代「妹たち、きっとがっかりするわ、でもね、私、謝ります、先生はお姉ちゃんには勿体無過ぎるからお断りしたわって」
広大「いや、それはダメです、気に入らなかったからってはっきりそう言って下さい、そのほうが良いです」
広大が慌てて注文をつけるが、

美千代「いいえ、だってほんとのことですもの。嘘をつくわけには行かないでしょ」
美千代、悪戯っぽい、けれど真剣な眼差しで反論する。

広大「えっ……」
美千代「……」
上目遣いでじっと見詰められて、お地蔵さんのように固まってしまう広大。
そう、美千代は、金田のことは別にして、広大に女性としての好意を抱いていることを、それとなく告白したのだ。
……
にしても、モテ男って良いよなぁ。
自分から嫌われようとして、逆に好かれるんだから……
なんとなく気詰まりな空気を抱えたまま、二人は店を出ようとするが、

英子「昨日の予備校の試験に出てたでしょう」
育民「俺、出来なかったもん、昨日」
広大、別の席で、育民と英子と言う女子高生が一緒に勉強しているのを発見する。
しかし、広大があれだけでかい声でべらべら喋っていたのに、育民たちがまるで気付かなかったというのはいささか不自然である。
ほどなく英子も気付いて嬉しそうに広大に駆け寄る。
英子、以前、進学問題で広大の世話になったことがあるのだ。
そう、竹井みどりさんの、うれしはずかしセーラー服姿なのである!!
英子「北野先生!!」
広大「おお、しばらく、元気か」
で、最近遊び呆けているとばかり思われていた育民が、意外にも予備校に通っていることが分かったのだった。
……え、どうでもいい? 奇遇ですね、僕もなんです。
広大が下宿に帰ると、ちょうど夕食の鍋が始まろうとしているところだった。
席に着いた広大に、綾子たちが固唾を飲んで首尾を尋ねるが、

広大「僕の方で断るまでもなく、見事、彼女の方にふられました」
天城「そうですか!!」
広大「はい、彼女には今好きな人がいまして、妹の由加利ちゃんが小学校卒業したら、結婚すると言うことでした」
桃子「なぁんだー、じゃあんなに悩むことなかったんだ」
恵子「良かったわぁ」
広大「はい、そう言うことです」
広大のために骨を折った桃子たちも、揃って安堵の表情を見せるのだった。
広大「いやはは、完全な三枚目でした!!」
無論、実は脈がなかった訳ではないなんてことが言える筈もなく、広大は自分で自分に引導を渡す。
八代「しかしまぁ、みなさん心優しい方ばかりだ」 完全な傍観者の八代が、このドラマの真髄を一言で表現したような印象的な台詞を放つ。
桃子「由加利ちゃんがっかりするでしょうね。でも、仕方ないのよね、こう言うことは」
早苗「そりゃそうよ、同情で結婚するわけには行かないし」
桃子「北野先生、取りますね」
桃子が、広大の分を取り分けてやろうとすると、

八代「桃子先生、何か良いことでもあったんですか?」
桃子「は?」
こういうことにはやたら目端の利く八代が、すかさず口を挟む。
キョトンとした目をする桃子が可愛いのである!!

八代「なんだか急にウキウキなさってるみたいですよ」

桃子「そ、そんなことありませんっ!!」
照れ臭そうに否定する桃子が可愛いのである!!
この後、育民が帰ってきて、辛抱強い天城も遂に堪忍袋の緒を切ろうとするが、広大が、口止めされていたにも拘らず予備校の一件を話し、未然に親子喧嘩を防ぐのだった。
翌日、案の定、由加利がしょんぼりして廊下の壁に凭れ掛かっている。
そこへ広大が通り掛かり、

広大「どうした」
由加利「美千お姉ちゃんバカみたい」
広大「どうしてー?」
由加利「だってえ、北野先生と結婚しないって言うんだもん」
広大「由加利ちゃん、それはな、仕方ないんだよ、いいか、由加利ちゃんのお姉さんは自分が一番好きな人と結婚するのが一番幸せなんだぞー、な、由加利ちゃんが卒業する頃には、きっと素敵なお兄さんが現れるぞ、おい」
それでもまだ未練ありありの由加利を適当に励まして立ち去る広大であったが、物陰から見ていた真由美が妹のところにやって来て、

真由美「仕方ないわよ」
由加利「だってえ」
真由美「平気、平気、だって
私が大きくなったら北野先生のお嫁さんになるから」
由加利「ほんとー?」
真由美「絶対なるからぁ」
……
敬介&電&疾風「ぢぐしょおおおおっ、羨ましいぃいいいいいっ!!」 と、またもや真性ロリコン戦士たちの歯軋りが聞こえてきそうな過激なことを口にする小悪魔・真由美であった。
トイレから広大が出て来て、二人の姿に気付き、
広大「うん、なんだ?」

由加利「いーえ」
真由美「うふふふふっ」
素知らぬ顔で答えると、口を手で隠して、悪巧みでもしているように一緒にクスクス笑う姉妹であった。
広大「そうか、分かってくれたか」
由加利「うふふっ」
広大「……」
まさかそんな「陰謀」が話し合われているとも知らず、二人の真似をして笑って見せる広大であった。
この後、恵子が、真由美から預かったのだろう、美千代からのバレンタインのチョコレートを広大に渡すシーンがあるのだが、はっきり言って蛇足だったと思う。
ラスト、すっかり元気になった由加利の様子に安心しつつ、社会の授業をしている広大の姿で幕となる。
以上、広大と姉をあの手この手でくっつけようと画策する、可愛らしい策士の姿を描いた佳作であった。
そして今回も、台詞のあまりの多さに途中で泣きそうになった管理人であった。
これでもだいぶ省略してるんだけどね。
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