「天国と地獄の美女」は、1982年1月2日に放送された、美女シリーズ第17作目である。
原作は、乱歩の代表作のひとつ「パノラマ島奇談」。
原作では、自分と瓜二つの大富豪になりすました売れない作家・人見広介が作り出した、彼の言うところの理想郷「パノラマ島」の描写がメインとなっているが、それをそのまま再現するのは難しいし、大して面白いものではないので、ドラマでは、そちらはかなりあっさり風味で片付けられ、代わりに莫大な財産や爛れた愛欲をめぐるドロドロした陰謀や人間関係にスポットが当てられ、また、原作にもない予想外のどんでん返しもあって、ミステリーとしてもドラマとしても、かなり満足度の高い一本に仕上がっていると思う。
なにより、原作に劣らぬ物量がつぎこまれた、数えれないほどのおっぱいとお尻の洪水!!
正直、こんな作品が地上波で堂々と放送されたという事実そのものが、日本ドラマ史上におけるひとつの奇跡だったのではないかと思うのである。
しかも、こともあろうに
正月の二日に放送するという、今の腑抜けたテレビマンには逆立ちしても出来ないクソ度胸!!
前置きが長くなった。
今回はシリーズ中最大規模の作品だけあって、幕開けからしていつもと違い、

事務所に飾られた鏡餅の前に明智さんが立ち、
明智「あけましておめでとうございます、明智小五郎です。今夜は私の手掛けた事件の中でも一番スケールの大きい、そして一番恐ろしい物語をお送りしましょう。パノラマ島、この幻の島を巡ってすざまじい事件が次から次へと起こります。不気味なカラス、えぐりとられる目の玉、浴室の殺人、地獄谷、そして天国の園に奏でられる愛の調べ……息も継がせぬ面白さです。正月の夜をごゆっくりとお楽しみください」 と、自分の監督した映画を臆面もなく絶賛するマイク水野みたいな口調で視聴者に呼びかけるという、珍しい導入部。
しかし、以前レビューした時は気にもならなかったが、改めて見ると、この明智さんの不自然なほど黒々とした髪、どう見ても……いや、なんでもないです。
で、早くもOPクレジットとなるのだが、
はい、もう、お尻見えてるねーっ!!by小峠
しかも、ほぼ全裸の白人女性と黒人女性の間に、叶和貴子さんがにっこり微笑んで立っているという、物凄い状況。
OP自体はいつもと同じだが、

最後に、物語で重要な役を果たすカラスまできっちりクレジットされている茶目っ気が楽しい。
なお、脚本ジェームス三木、監督井上梅次と言う、最強タッグでお送り致します。
そして、「天使と悪魔の美女」同様、本作も二部構成になっており、まず「第1部 カラスの化身」と言う、いまひとつ内容と合ってないようなタイトルが表示される。
人見「よおくご覧下さい。神によって与えられた大自然をそのまま受け入れる時代は去りました。私は人間のちからで大自然を一層美しく、一層芸術的に作り変えたいのです」
のっけから、主人公・人見広介(伊東四朗)が、彼の理想とする世界、いわゆるパノラマ島の想像図を見せながら、熱っぽく語っている。
その語りにあわせて、実際のパノラマ島の様子が映し出されるが、

人見「音楽家が楽器を使うように、絵描きがキャンパスと絵の具を使うように、また詩人や小説家が文字を使うように私は自然とそこに住む生物を自由自在に使って今まで誰も見たことがないような大理想郷を作りたいのです」
うーむ、テレビで、こんなにあけすけにおっぱいが見れて良いのだろうか?
良いんです!! 
人見「ピラミッドやスフィンクス、万里の長城、金閣寺や銀閣寺などは当時の英雄や王様の夢の所産です」
ついで、大理石の裸婦像が本物の人間となって起き上がり、

くるっと一回転して、ケツ丸出しになる。
軟弱なTバックとかじゃなくて、ヒモパンと言うのが納得のチョイスなのです。
まあ、当時の視聴者、人見の台詞なんか全く頭に入らなかっただろうなぁ。

すけすけのローブをマントのように背中につけて、腰を振る女性。

人見「コンピューターや宇宙ロケットを駆使するに至った現代人にも夢がある筈です」

ついで、白いローブをまとった女性が回転すると、ローブについた糸が引っ張られてすっぽんぽんになるという、全世界の男性が夢にまで見たセクハラショット。

そして、アラビアンナイト風の半裸美女たちが軽やかに舞い踊り、其処此処に立つヌーディストたちもくねくねと体を動かしているという、人見の言うところの「夢の世界」の全景。
本作では、脱ぎ女優さんとダンス女優さんと言う風に、きっちり役割分担がされていて、踊り子は絶対脱いでくれないのが、残念といえば残念である。
人見「私は森を作ります、湖を作ります、空を作ります、この世の楽園を作ります、そしてそれを一瞬にして破壊することも出来るのです」
最後は火山の噴火で、その理想郷が消滅するビジョンが描かれるが、無論、これらはすべて人見の想像に過ぎず、

人見「いかがでございます、お分かり頂けたでしょうか?」
銀行家「要するに君はおっぱいが見たいわけだな?」 人見「え? ええ、まあ……」
銀行家「よし、じゃあ、これから私の行きつけのおっぱぶに行こう、勿論、私の奢りだ」
人見「ほんとですかーっ?」
こうして人見は、ユートピア願望の奥底に秘められていたおっぱい願望を思う存分充足させることが出来、パノラマ島のことはすっかり忘れてしまったということです。
「天国と地獄の美女」―完― となれば、人見も大喜び、管理人も大変ラクチンで結構なのだが、残念ながら世の中はそんなに甘くなく、
銀行家「要するに、君は遊園地や博覧会を作りたい訳だな」
人見「とんでもない、私はユートピアだと申し上げた筈です。今までの世界博やポート博(註・1981年に開かれた神戸ポートアイランド博覧会のこと)は子供騙しの見世物ですよ。私は教養ある大人が人間の陶酔境に遊び、荘厳なエロスの美に身を委ねる、そんな世界を創造するんです」
銀行家「何よりも現実性が極めて薄い、商売にならんものに投資するほどうちの銀行は甘くないんでね」
極めて常識的な理由で、人見のプレゼンはあえなく却下されるのだった。
まあ、ドラマに出てくる映像を実際に見れば、多少は銀行家も食指を動かしてくれていたかもしれないが、人見の言葉とイラストだけで実際に金を引き出すのは、土台無理な話であった。
むしろ、一介の工芸家、その実態は無職のヒモである人見の妄言を、最後までちゃんと聞いてくれただけでもめっけものと言うべきだろう。
ちなみに原作の人見は、金がなく、いつも愚にもつかないそんな妄想を抱いているという点では同じだが、ドラマの人見のように自ら投資家にアタックするほど行動的ではなく、せいぜい自分の小説の中にそんなユートピア願望を描くくらいが関の山だが、原作ではそれが事件解決の重要な手掛かりとなるのである。
人見「自然はどんなに美しくても、そのままでは完全な芸術とはいえません、人間の手が加わってはじめて真の美しさが生まれてくるんです。たとえば人工の海の底では海草や魚がいくつかの色に染め分けられ、調和を保って動いています。岩の間に埋め込まれたオーディオ装置からは音楽が絶え間なく流れ、豊麗な海には熱帯魚も深海魚もいます。スイッチひとつで恐ろしい光景を見ることも出来るのです」
めげない人見、今度はゴルフをしている大物っぽい人たちを相手に、同じような夢を滔々と語っている。
人見の台詞に合わせ、毎度お馴染み、近藤玲子水中バレエ団の皆さんの素晴らしい演技が映し出されるが、

最後は、巨大なタコに全裸美女が犯されているという、妖しくも背徳的なビジュアルとなる。
それにしても、このタコ、このドラマのためにわざわざ作らせたのかなぁ?
それとも、別の作品から借りてきたありものフィルムなのか?

人見「いかがでしょう、社長、この人類最大の夢の実現にご協力願えませんか?」
社長「それでいくらぐらいかかるんだね」
人見「はい、土地さえ確保できれば100億円くらいで収まるでしょう」
社長「100億?」
政治家「正気で言っとるのかね、君は?」
人見「大日先生、これは国家的な大事業なんですよ、骨を折っていただければ後世に名を残すことが出来るんです」
コネもないのに社長や政治家に会ってもらえるだけでも大したものだが、無論、そんな酔狂な計画に金を出そうという物好きはおらず、パットの邪魔をしたとして、すげなく追い払われるのだった。

と、ゴルフ場の道をとぼとぼ歩いていた人見に、何処からともなく飛んで来たカラスがまとわりつき、人見は何とか振り払って逃げ出すが、その出来事が自分の人生を大きく変えることになるとは夢にも思わないのだった。
その頃、線路のすぐ近くにある、人見の自宅兼作業場となっている人見工芸では、妻の英子(宮下順子)が、大野雄三(小池朝雄)と言う怪しげな男を引っぱり込んでいた。

英子「これが主人の仕事場です」
大野「ふーん、今何を作ってるんだね?」
英子「パノラマ島のミニチュアだそうです」
大野「映画の撮影にでも使うのかね?」
英子「夢の楽園なんですって……撮影所はとっくにクビになったのに、人の稼ぎをこんな道楽につぎ込んでスポンサー探してるんです。勿論誰も相手にしてくれませんけどね」
大野「その純粋さが貴重なんだよ。
男は誰でも見果てぬ夢を見る。あたしだって薔薇密教の大殿堂を建立するのが夢なんだよ、熱烈な信者である君にも是非協力してもらわなきゃ」
大野、感心したようにテーブルのミニチュアを見ていたが、俗物らしからぬ名言を吐くと、親しげに英子の腕を触るが、英子は嫌がるどころかとろんとした眼差しで応え、
英子「私、教祖様のためなら何でもします」
二人は口付けを交わすと、抱き合ったまま奥へ消える。
この英子も大野も、原作には出て来ないのだが、ある意味、今度の事件の原動力or発起人と言ってもいいくらい重要な役目を果たすキャラクターなのである。
ちなみに英子の職業については何の説明もないのだが、亭主を養っている上に大野に貢いでいるくらいだから、水商売などの割りの良い仕事でもしているのだろう。
場面が暗転し、いかにも大人っぽいサクソフォンが鳴り響いた後、
大野(男って、どうしてナニの後にタバコ吸うんだろう?) タバコをくゆらせながら、人類最大の謎のひとつについて考えている大野のアップとなる。
このドラマ、おっぱいやお尻は見放題なのだが、肝心のセックスシーンについては全体的にあっさり風味なのが、残念といえば残念なのである。
まあ、原作自体、別にエロがメインの小説ではないので、それくらいでちょうど良いのかもしれない。

英子「激しいのね、先生って」
大野「うん、私はいつも燃えるんだよ」
ヤリチンを気取ってそう嘯く大野であったが、その割りに体がおじいちゃんなのが、ちょっと悲しい。
と、不意にガンガン戸を叩く音がして、助けを求めるような人見の喚き声が聞こえてくる。
英子が急いで服を着て行って見ると、驚いたことにあのカラスが家までついて来て、家の中に入り込んで飛び回っているではないか。
ゴルフ場から家まで、延々カラスにつきまとわれて相当頭に来ているのだろう、

人見「この野郎、どけ、ようし、なんかないか?」
人見、カラスを追って奥の部屋に飛び込むが、初対面の大野には目もくれず、

振り向いて桟に引っ掛けてあったハンガーを手に取るが、それでもまだ大野の存在に気付かず、

人見「うん……」
一旦背中を向けてから、

人見「あんた誰?」
と言う、お笑い芸人のように切れ味鋭い「二度見」を披露する。
しかし、伊東さんがコメディアンだったってこと、今の若い人は知らないんだろうなあ。
大野「大野と申します」
人見「大野?」
英子「私たちの教祖様よ、あんたのパノラマを見たいって言うからご案内したの」
人見「ほぉー」
さすが新興宗教の教祖だけあって大野は慌てず騒がず、シャツの袖を直しながら悪びれずに自己紹介し、英子が急いで言葉を添える。
人見、乱れたベッドを見て何が行われていたか察するが、既に冷え切っている夫婦なので、怒るどころか、問い質そうとさえしない。
英子「それより、どうしたの、このカラス?」
人見「わからん、なんだか知らんが一日中俺につきまとってるんだ」
英子「気味が悪いわねえ」
人見「ぶっ殺してやる」
大野、ハンガーを振り上げた人見の手を掴み、
大野「いけません、いけません、カラスを殺すと三代祟りますよ」
いかにも宗教家らしいことを言うと、カラスを窓から追い出す。
大野は本心なのかどうか、人見のパノラマ島の夢を気味が悪いほど絶賛して帰っていく。
その後、夫婦の間に楽しからざる空気が流れたのは言うまでもない。

人見「ふっ、何が教祖様だ、インチキ宗教の詐欺師野郎め……お前、いつからあいつと出来てたんだ?」
英子「ふん、私のすることに文句は言わせませんよ、一銭にもならないことに入れあげて女房を食い物にしてるんだから」
しかし、英子はとっくの昔に亭主に愛想を尽かし、その一方でだいぶ前から大野にぞっこんらしいのに、なんでヒモ同然の人見と別れて大野と結婚しようしないのか、その辺が不可解といえば不可解である。
さて、あのカラスはその後もしつこく人見につきまとい、遂には警察まで出動する騒ぎとなる。
で、ストーカーのカラスの捕獲と言うご立派な仕事に狩り出されたのが、我らが波越警部なのだった。
ブツブツ文句を言いながらも、波越は見事カラスを捕まえるが、殺す訳にも行かず、それを明智事務所に押し付けてしまう。

文代「カラスもカゴに入れると可愛いわね」
カラスに箸でエサを与え、甲斐甲斐しく世話をする文代さん。
小林「逮捕の理由はなんですか?」
波越「そう、安眠妨害罪、家宅不法侵入罪、公務執行妨害罪、ま、そんなところかな」
文代「何故このカラスが一人の男にしつこく付きまとうのかしら?」
波越「いや、そこなんだよ」
波越たちはその理由についてあれこれ話し合うが、
明智「これは野生のカラスじゃありませんね、妙に人懐っこいし餌付けをされているようですね」
文代「じゃ、ペットだったのかしら」
明智「こういうことは考えられませんか、迷子になっていたカラスが飼い主を探していた、そこへ飼い主に似た男があらわれたので、何処までもついていった」
波越「なぁるほどぉ」
結局、こんな市井の小問題に対しても、見事な推理の冴えを見せる明智さんカッケー!! となるのだった。
果たして、ラジオでカラスの件が放送されるや、西伊豆の菰田源三郎と言う49歳になる男性のペットだったことが判明する。
で、そのカラスを何故か英子と大野のコンビが西伊豆まで車で送り届けることになるが、

大野「山林王か」
英子「だからわざわざ届けに行くんですよ、御礼もたっぷりの筈ですからね」
それは、菰田がかなりの資産家だということを知ったからであった。
自分たちの欲望に大変素直なカップルであった。
見ていて気持ちが良いよね。
大野「何故俺誘った?」
英子「薔薇密教の大本堂を立てたいんでしょう? お金持ちと顔見知りになって損はありませんよ」
と言う訳で、二人は夫婦と言うことにして、菰田家に乗り込むことになる。
ちなみに原作では西伊豆ではなく、乱歩の故郷でもある三重県の資産家と言う設定である。
んで、その屋敷と言うのが二人の想像を超える規模の大きさで、敷地に入って家に辿り着くまででも車でだいぶ掛かるという、お城みたいな豪邸であった。
中庭には大きな鳥の檻が設けてあり、例のカラス以外にも、数羽のカラスが飼われているようであった。

英子「はぁーーー、すっごいお屋敷ですねえ」
大野「キョロキョロするな、お里が知れるぞ」
応接間に通されるが、これだけのセレブとなるとなかなか主人には会えず、

まず、支配人の角田と、菰田の妻・千代子(叶和貴子)がお礼にあらわれ、豪華な晩餐を振舞われる。
さらに食事が終わる頃、角田から「寸志」として金一封まで貰い、ホクホク顔の英子たちであったが、

夜になって漸く帰宅した菰田源三郎と対面した英子と大野は、挨拶するのも忘れて思わずその場に固まってしまう。

何故なら、菰田が、人見と瓜二つの顔をしていたからである!!
一瞬、人見本人ではないかとさえ思う二人であったが、
角田「旦那様、こちらがわざわざ東京から勘太郎を届けてくださいました」
菰田「ほお、お手数をおかけいたしました……いや、たかがカラスとお思いでしようが、いわば私の分身でしてな。可愛い奴です」
その大人(たいじん)然とした物腰といい、風格といい、なにより、英子たちの持ってきたケージから勘太郎を取り出して、自分の子供のように抱きかかえて席に着くあたり、完全な別人であるのは間違いなかった。
第1部のタイトルは、この菰田の台詞から来ているのだが、菰田は自分たちに子供が出来ないので、代わりにカラスを飼っているのだから、「私の分身」と言うより「私の子供」のほうが普通だと思うんだけどね。
二人は驚きのあまり、人の声も耳に入らない様子でまじまじと菰田の顔を見詰めていたが、やっと我に返り、

英子「いえ、あの、あんまり……」
大野「いえ、あんまり良く……飼い慣らしておられるので驚いております」
「主人に似てますもので」と、言いかけた英子の言葉を遮り、大野がなんとか取り繕う。
二人は夫婦としてここに来ているので、話がややこしくなるからそう言ったのだが、あるいは、既にこの時点で、大野の胸にはあの大それた企みが萌していたのかもしれない。
菰田「ま、お互い惚れあってるということですか、人間は私を裏切るが、勘太郎は絶対裏切りませんからな。はっはっはっはっ」
笑いに紛らせつつ、人間に対する不信感を吐露する菰田であった。
ちなみに原作では、菰田は学生時代の人見のクラスメイトと言うだけで、実際に物語に登場することはなく、突然病死したと言うことを人見が知るだけの存在である。
当然、その死は本当にただの病死で、このドラマのように意外なオチなどは用意されていない。
その2へ続く。
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