第32話「俺の愛した小さい奴」(1980年5月18日)
冒頭、リキが線路沿いの安アパートの2階に引っ越してくるが、無論、捜査の為である。
リキの回想で、数日前、山科と言う総会屋が何者かに撃ち殺され、現場にいたリキも犯人に腕を撃たれて負傷したことが分かる。
犯人は山村弘三と言う射撃の得意な前科者で、リキのアパートに隣接した一軒家に住んでいるのが、その山村の妻子なのだった。
だが、山村は三年近く家には帰っていないらしい。
つまり、アパートに住んで隣家を見張り、山村が妻に接触して来たところを捕まえるというのが、リキに与えられた任務なのである。

谷「殺された総会屋の山科、奴のコレ(情婦)に当たったんですがね、志村弘三っ
ちゅうのは聞いたこともないっ
ちゅうんです、ただ、山科は近々億っ
ちゅう金を手にすると、その女に言うちょるんですよ」
大門(ちゅうちゅうちゅう……谷さん、可愛いなぁ……) 最近、谷のことが可愛くて可愛くて仕方のない大門であったが、嘘である。

小暮「山科は汚職のネタを掴んで強請った、それが仇になって志村に殺されたってわけか」
小暮っちは小暮っちで、緩くカールしたモミアゲが、まるで女の子みたいに可愛いのだった。
大門「しかし、志村と山科の関係がいまひとつ……」
谷「志村はただの殺し屋です、山科に強請られたやつが殺しを依頼したんじゃないでしょうか」
二宮「道路建設の汚職に関係しているとなると……」
小暮「まあ、簡単には行きませんな。俺は上のほうを当たってみる」
大門「お願いします」
自分の執務室に引き揚げる小暮を、ぺこりと頭を下げて見送った後、
大門「ところで、上のほうってなんなの?」 谷「さあ」
と言うのは嘘だが、ほんと、なんなんだろう? 天井裏かな?
ま、今まで何度も言ってきたように、元々エリートである小暮っちは、上層部とのコネをたくさん持っているので、そちらから情報を引き出そうということなのだろう。

涼子「2000円お預かりします」
ここで、スーパーでレジ打ちのパートをしている山村の妻・涼子の姿が映し出される。
そう、演じるのは、「ウルトラマンタロウ」の二代目さおりさんこと、小野恵子さんである!!
どうやら、管理人がこのエピソードを選んだのは、この為だったようである。
うふふ、我ながら好きねえ……
リキが、店の外から様子を窺っていると、リュウがやってくる。
リュウ「応援に来ましたよ、志村は?」
リキ「いや、全然だ」
リュウ「志村から連絡あったんですかね」
リキ「あったら、ああ落ち着いては働いていられんだろう」
リキ、急に何か思い出したように、その場をリュウに任せて「新居」に戻る。
リキは、コインランドリーにいた涼子の息子・学に話しかけ、一緒に銭湯に入るまでの仲になる。
学「おじさん、出ようか、背中洗ってやるよ」
リキ「そうか」
学「片手じゃ洗いにくいでしょう」
学を演じるのは、「星雲仮面マシンマン」の大原和彦さん。
この後、学は風呂から上がってティンティンをフルバーストさせているが、今ではまず無理だろう。
良くも悪くも、昔のドラマはおおらかだ。
勿論、リキが学に近付いたのは、山村の手掛かりを得るためであった。
その後の調べで、志村が防衛隊をやめた後、新陽青年隊なる団体に加入していたことが分かる。
新陽青年隊……字面だけ見ると、台湾あたりの男性アイドルグループぽかったが、

……って、これ、完全に軍隊じゃねえかっ!!
ここほんとに日本なのかと目を疑いたくなる管理人であった。
まあ、自衛隊のことを「防衛隊」と言ってるくらいだから、スタッフ的にはパラレルワールドみたいな世界観で撮ってるのかも知れない。
あと、
仁「表向きは政治結社ですが、実態は殺しの請負業やってるんです」
……
分かってるんなら逮捕しろぉおおおおおっ!! せめて、「裏で殺しの請負業をしてるんじゃないかとの噂です」くらいにして欲しかった。
ともあれ、大門軍団は、軍隊の駐屯地みたいな新陽青年隊の関東支部を訪ねる。

黒川「志村が殺人罪ですか」
源田「とぼけんなよ、黒川、お前が志村に殺しをやらせたことぐらい分かってるんだよ」
谷「殺しの依頼主は誰だね」
黒川「妙なこと言わんでください、我々は殺し屋じゃない」
組織のボス黒川を演じるのは、毎度お馴染み田口計さん。
当然、黒川は知らぬ存ぜぬで、志村も二ヶ月前に出て行ったとうそぶく。
証拠がないので谷たちは引き下がるしかなかったが、無論、そんなことは百も承知で、彼らの狙いはそうやって黒川たちに揺さぶりを掛けることであった。
果たして、谷たちが帰った後、黒川は部下に志村の口封じを命じる。
一方、小暮っちは、早くも事件の核心に関わる情報を入手していた。
小暮「山科が言ってた道路云々だがね、近々行われる大規模な敷設工事は、東海地方の高速道路の工事だけだ。そこで色々調べたんだが、浮かんできたのがコイツだ」
小暮はそう言って、年輩の男性の顔写真を大門に見せる。
小暮「小株義人、運輸官僚出身の代議士だ。道路工事落札の建設会社の社長と刎頚の友だそうだ」
大門「収賄ですか」
小暮「いや、確たる証拠はないんだがね、億単位の強請りのネタと言うと、これしか考えられんのだよ」
相変わらず、東京地検特捜部が束になってもかなわない捜査能力を見せ付ける小暮っち。
実際のところ、小暮は特捜部の部長でもしたほうが、西部警察でドンパチの尻拭いしているよりよっぽど建設的だし、日本のためにもなると思うんだけどね。

大門「するとこの代議士が、殺しの依頼人ですか」
小暮「十中八九間違いない。しかし、証拠がねえんだ」
大門(モミアゲが可愛い……) 思わず小暮っちに頬擦りしたくなった大門であったが、嘘である。
どうでもいいが、証拠もないのに「十中八九間違いない」って、それ、要するにあなたの推測ですよね?
そんなテキトーな捜査でいいのかしら?
まあ、小暮や大門の見込みが外れることは100パーセントないので、彼らが犯人だといえば犯人なのである!!
源田とリュウが、新陽青年隊の事務所を、別のビルの屋上から監視している。

源田「リュウ、ふやけちゃうよ、食えよ」
リュウ「車を買うまでは無駄遣いは厳禁です」
源田「バカ、お前から金取ろうなんて思ってねえよ」
リュウ「あっ、いただきすます」
源田の言葉を聞くや否や、カップヌードルをうまそうに啜る現金なリュウであった。
……
謎はすべて解けた、スポンサーの中に日清がいる!!
色々あって、黒川の部下の乾が、志村の愛人のアケミと一緒に、志村の潜伏しているラブホテルへ行き、志村を殺そうとするが、逆に殺されてしまう。
アケミも死に、志村の手掛かりはぷっつり切れてしまう。
大門は、スーパーで張り込みをしているリキに会いに行く。

大門「全員で(志村を)探してるが、どうしても行方がつかめん」
リキ「こちらも連絡の入った気配、ありません」
などとやってると、
学「おじさーん、お母さん、ここで働いてるんだよ」
リキ「あ、そーか」
学「お風呂一緒に行かない? 背中洗ってやるよ」
リキ「よし行こう」
学はすっかりリキに懐いているようで、二人で銭湯に行った後も、リキのアパートに上がり込んで遅くまで遊んでいた。
学「そっかー、眼鏡を掛けた女の人、嫌いかー」
リキ「あんまり拘んないけど、ま、どっちかって言うとな」
リキも学を実の息子のように可愛がり、女性の好みまで話す間柄になっていた。
学が熱心に人の顔を描いているのを見て、
リキ「誰だい、それ」
学「お父さん」
学の答えに、リキの顔がたちまち刑事の顔に戻る。
リキ「会ったのか、何時会ったんだ?」
学「夢の中でだよー」
リキ「夢か……」
学「だって、お父さん死んじゃったんだもん」
リキ「死んだ?」
学は、父親が三年前に事故で死んだと母親から聞かされていて、それを露ほども疑っていない様子であった。
やがて涼子がアパートに迎えに来る。
涼子「学がお邪魔してすいません。置手紙があったものですから」

学「おじさんとお父さんの話してたんだよ」
リキ「交通事故でお亡くなりなったとか……」
涼子「……」
リキの言葉に、後ろ暗いところがあるように俯く涼子。
色気のない格好してるけど、やっぱり小野さんは美人である。
学「おじさーん、僕のお父さんになってくれないかなぁ」
学、からかうような口調でリキにねだると、トコトコとリキのそばに来て、
学「おかあさーん、おじさんは眼鏡かけた女の人、好きじゃないんだって」
リキ「冗談だよ、冗談、余計なこと言うな、ほら」
涼子「学、いらっしゃい。失礼します」
涼子、リキが父親のことを持ち出したせいか、急に態度が硬化して、そそくさと学を連れて帰っていく。
一方、いつものバーでは、小暮が、

小暮「ひとつ目の秋~♪ あのレコード売れてるらしいね」
薫「はい、お陰さまで」
実際に歌手として、ユージロウと同じテイチクレコードから「愛のゆくえ」を出している薫をネタにした楽屋落ちに、臆面もなく興じていた。
小暮「あのな、薫ちゃん、こんなちっちゃな店じゃなくてさ、もっとでかいとこでパーンと弾き語りやってみない?」
薫「ほんとに?」
朝比奈「困りますよ、ウチの看板娘引き抜いちゃ」
小暮「その代わりこの看板おじさんが毎晩来ますから……冗談は差し置いて薫ちゃんに頼みてえことがあるんだなぁ」
薫「なんですか」
小暮「同じ歌ばっかりエンドレスで歌うのやめてくれぇええええっ!!」 朝比奈(その気持ち、痛いほど分かる……)
途中から嘘だが、小暮の頼みごとの内容は後のシーンで明らかになる。
さて、志村は依然、姿をくらましたままであったが、そんなある日、学が家から飛び出してくると、母親が倒れたと言って、アパートにいるリキに助けを求めてくる。
もっとも、救急車を呼ぶほどではなく、過労による発熱であった。

涼子「すいません、もう大丈夫ですから、お引取りに」
リキ「いや、遠慮しないで下さい、どうせ腕怪我してて失業中で暇なモンですから……一日寝てればすぐ良くなるってお医者さんも言ってましたよ」
リキは医者が帰った後も志村家に残って、つきっきりで涼子の看病をする。
仕事のためと言うより、「お隣さん」に対する純粋な親切心からであった。

涼子「……」
深夜、ふと目を覚ました涼子が、隣の部屋で学のためにプラモデルを作っているリキを見遣る。
その時、家の周りで物音がしたので、リキは志村が帰ってきたのかと慌てて見に行くが、ただの野良猫であった。
リキが居間に戻ってくると、涼子が布団から起き出していた。

リキ「すいません、起こしちまいましたか」
涼子「いいえ、すいません、学が変なお願いして」
リキ「いえ、いいんですよ」
涼子「松田さん、ごめんなさいね。昨夜、失礼な口の利き方をして……主人の話、学の前でして欲しくなかったんですの……強がっていても、やはり父親の欲しい年頃ですから」
涼子、甲斐甲斐しくお茶を入れながら、昨日のことを詫びる。
うう、こんな慎ましやかで別嬪の嫁はんを三年間もほったらかしにしている弘三っちが、バカにしか見えない。
リキ「申し訳ありません、そこまで気が付かなくて」
涼子「いいえ、松田さんを責めているんじゃないです」

涼子「実は、学の父親は生きているんです」
リキ「……」
涼子「三年前に、家を出て行ったきり、音信不通です。昔、防衛隊員で、ぐれて傷害事件を起こして……今はヤクザまがいの組織にいるそうです」
やがて涼子が、ぽつぽつと夫のことを打ち明ける。よほどリキのことを信用している証拠だろう。
リキ「何の連絡もないんですか?」
涼子「ええ……もう諦めてるんです」

涼子「私は学との生活に満足していますし、あの人は学のためにはならない人です」
……
小野さん、綺麗過ぎます!! 考えたら、「仮面ライダー」にゲスト出演してから7年以上経っているのだが、その美しさは衰えるどころか、ますます輝きを増している。
しかも、こんな色気のない格好でありながら……その美女ポテンシャルがとんでもなく高いことの証である。
涼子「学も父親は死んだと信じております、ですが、何時かあの子に分かってしまうのではないかと心の休まる日は一日もありません」
リキ「話はそれくらいにしてお休みになったほうがいいですよ」
涼子「はい、すいません」
普段、そんなことを打ち明ける相手もいなかったのだろう、自分の気持ちを洗い浚い話した涼子は、どことなく晴れ晴れとした顔になり、涙を手で払うと素直に布団に戻る。
翌朝、いつの間にか眠ってしまったリキは電車の音で目を覚まし、部屋に誰もいないのでドキッとするが、涼子も学も、ちゃんと庭にいて洗濯物を干していた。
リキは、まるで妻子に逃げられたかと思った夫のように、心の底から安堵の表情を見せる。

リキ「あー、こりゃだいぶ腐ってるな、明日にでも取り替えましょう」
涼子「あ、でも、手が」
リキ「だいじょぶです、もうすっかり良いんですから」
リキも庭に出て、壊れかかっている物干し竿の支柱をトンカチで叩いて、気前良く請合う。
縁側に座っていた学がリキを呼び、

学「今度は僕と遊ぶ番だよ」
リキ「ちょっと休ませてくれよ、明日遊んであげるから」
学「ほんとー、動物園連れてってよ」
リキ「よし、連れてってやろう」
学「男の約束」
リキ「ようし、男の約束だ」
互いの小指を絡ませ、固く約束を交わす二人。
涼子「すっかり松田さんに甘えてしまって」
学「おじさん、気が付かない?」
リキ「なに?」
学「耳貸して」
学、リキの耳に口をつけると、母親が眼鏡を外していることを告げ口するように囁く。
涼子「なあに、内緒話なんかして……」
言われて見れば、今朝の涼子は眼鏡を掛けていなかった。
そう、「おじさんは眼鏡を掛けた女は好きじゃない」と言う息子の言葉を意識してのイメチェンであった。
それに気付いてニヤニヤと学と目を見交わせるリキであった。
リキも、涼子のことを憎からず思っているようで、これが仕事がらみでなければ、本当に彼らは親子になりえたかもしれない。
後編に続く。
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