第36話「この超獣10,000ホーン?」(1972年12月8日)
冒頭、コンビナートや、ひっきりなしに車両の行き交う道路の映像に、
ナレ「全国のあちらこちらから超獣を見たという情報が殺到した、その超獣は一瞬にしてあらわれ、一瞬にして消える」
と言うナレーションが被さり、

ブラウン管に生じたノイズのような、幾何学的な映像がパッパッと映り込み、

ついで、巨大な超獣の姿がほんの一瞬大空に浮かび上がる。
ナレ「その出現区域は、次第にあるひとつの地域に集中して行った」
そんなある夜、

いくつものヘッドライトが爆音を響かせながら闇を貫き、住宅街を我が物顔で走っている。
そう、21世紀になってもまだしぶとく生き残っている、暴走族の一団であった。
と、彼らの背後の闇空に、例の超獣サウンドギラーが出現し、TACのレーダーが遂にその超獣反応をキャッチする。
TACは非常警戒態勢に入り、北斗と美川は、パンサーでK地区へ急行するが、

北斗「おかしいな」
美川「超獣の気配なんて何もないようね」
何の異変も見られず、二人が困惑していると、

男「まだ分からないのか? 毎晩、毎晩、お前らいつまでヤッてりゃ気が済むんだ?」
突然、寝巻き姿の男性が目の前にあらわれ、苛立たしげな声で二人を叱り付ける。
北斗「あっ超獣だ!! 射撃よーい!!」
美川「オッケイ!!」
男「だーっ、違う!! ワシは人間じゃっ!!」
北斗「人語を解する超獣だ、美川隊員、油断するな」
美川「オッケイ!!」
男「やめいと言うとるだろうがっ!!」
じゃなくて、
男「なんだ、TACか」
闇の中を透かし見て、男性はやっと自分の勘違いに気付く。
北斗「このあたりに超獣が出たと思われるんですが……何か気が付きませんでしたか」
男「何を、超獣だー?」
美川「ええ、たとえば変な光を見たとか音を聞いたとか」
男「光や音? 毎晩見てるよ、そんなもの……あれだよ」
男性が忌々しげに顎をしゃくって示したほうから、さっきの暴走族の連中が口々に騒ぎ立てながら走ってくる。
男性は早々に自宅に引っ込むが、

北斗「やめろ」
俊平「なんだって」
北斗「夜中に走りたいんなら、どっかの原っぱへでも行ったらどうなんだ」
北斗は毅然としてリーダーらしき若者に注意する。
俊平「へーっ、聞いたかよ」
マチコ「さすがTAC、面白いこと言ってくれるよ」
コウスケ「へっ、きざなユニフォーム着ちゃってよ。既製品かい、こりゃ」
だが、暴走族がそれくらいで恐れ入る筈もなく、逆に北斗たちをからかい、あまつさえ、神聖な美川隊員の体に手を伸ばすという不埒な真似をする。
北斗「よせっ」
その手を掴んで捩じ上げる北斗。

俊平「あんまりいきがるんじゃねえよ、それとも俺たちとやろうってのか」
北斗「なにぃ」
お、誰かと思えば、「大江戸捜査網」で菊さんと共演していた小沢直平さんではないですか。
ま、こっちの方が先なんだけどね。
熱血漢の北斗、思わず俊平の襟を掴むが、
美川「北斗隊員、勤務中よ」
北斗「……」
美川隊員に注意されると、すぐ放す。

マチコ「はははは、女には弱いのかね、こいつ」
すかさず、紅一点のマチコと言う少女が北斗の態度をいじりに来る。
「どうせならもっと別のところをいじってくれ」と思う北斗だったが、嘘である。 コウスケ「そうよ、TACなんて人間相手じゃ度胸ねえのさ」
俊平「俺たちには武器が使えねえからな、情けねえTACだ」
暴走族は散々北斗たちをコケにすると、爆音を撒き散らしながら走り去る。

それを憮然とした表情で見送る北斗と美川隊員。
二人の心は勿論ひとつ、
「ああ、撃ちてえ」であったが、それが出来ないのが正義の味方のつらいところなのである。
翌朝、高架下の空き地で、またもや俊平たちがトラブルを起こしている。

俊平「よお、姉ちゃん、今なんて言ったんだよ」
香代子「……」
マチコ「あんた、この子達の先生なの? ふん、なにさ、えらそうに」
いたいけな園児たちとその先生らしき若い女性と言う「悪の組織」の大好物を相手に、ねちっこく因縁をつけているのだ。
俊平「うるせえって言ったろ? 俺たちに静かにしろって言ったろ?」

ダン「うるさいからうるさいって言ったんだよ」
で、何故かこういう時には必ずいるダンがいて、臆せずに暴走族に言い返す。

俊平「何を、このガキ」
ダン「姉ちゃんはほんとのことを言っただけだ」
俊平「小僧!!」
あれ、良く見たら、先生じゃなくて香代子さんじゃないですか。
と言うことは、香代子さん、幼稚園の先生やってるの?
でも、こないだまで町工場で働いていた人が、いきなり幼稚園の先生になれるかしら?
文字通り、女子供相手に激昂するみっともない俊平であったが、

園児「あんまり大きな音しないほうがカッコイイわよ」
幼稚園児にまで忠告され、完全に面目丸潰れとなる。
これにはさすがの俊平も参って、引き攣った顔をして固まる。
ダン「ほら見ろ、誰だって同じ気持ちだ」
俊平「うるせえ」
香代子「やめて、あなたたち人の迷惑を考えたことあるの?」

マチコ「面白いこと言ってくれるよ」

コウスケ「いい度胸してんじゃねえかよ、ハッハッハッ」
あ、誰かと思ったら、「変身忍者 嵐」のツユハこと、佐伯美奈子さんではないですか。
どっちも菊容子さんつながりの俳優だったとは……いくつになっても発見はあるものだ。

その後、俊平たちはミニスカの香代子とダンをバイクで追い掛け回す。
どうせなら、ガバッと香代子のミニスカをめくって欲しかったところだが、お上品なウルトラシリーズでそんな蛮行が許される筈もない。
第一、俊平たちは乱暴なようでいて、実のところは虫一匹殺せないような、可愛らしい暴走族なのである。
なのであるが、是非ここは一念発起、監督に叱られても良いからめくって欲しかった(しつこい)
と、そこへ駆けつけたのが、またしても北斗と美川隊員であった。
北斗は車から出ると、高架から飛び降りて駆け寄り、

北斗「やめろ!!」
にしても、香代子さん、こうして見ると、実に思い切りの良いミニスカをお履きになっておられる。
こう言ってはなんだが、自分からイタズラして欲しいのぉと周囲にアピールしているように見えました……と、人間のクズである痴漢が自己正当化のために言い訳しそうな物件である。
ダン「兄ちゃん」
俊平「兄ちゃん? そう言う訳だったのか、こいつはおもしれえや」
北斗「お前たち、まだこんなことを」

俊平「へっへっ、おい、ひとまず引き揚げようぜ」
その場は大人しく走り去る俊平たちであった。
それはそれとして、ピンクのヘルメットを被った佐伯さんが可愛いのである!!
あと、この手のシーン、女性は大抵スタントが演じるものだが、佐伯さんはちゃんと自分でバイクを運転しているのがえらい。
と言うより、バイクに乗れるということでキャスティングされたんだろうけど。
本部に戻ってくるなり、
美川「私、ああいう暴走族、超獣以上に許せない気がするわ」 美川お姉さまのお口から、全国の暴走族を震え上がらせるような激越なお言葉が飛び出す。
ま、野暮を承知で突っ込ませて頂くと、二人はパンサーに乗って帰ってきたのだから、本部に戻るまでに、そんな話はとっくに済ましてる筈なんだけどね。
北斗「寂しいんだよ、あいつら」
同意を求めるような美川隊員の言葉に、北斗は意外な反応を示す。

美川「え、暴走族の味方をするの?」
美川隊員が咎めるように反問するが、北斗はあくまで穏やかに、遠くを見るような目で、
北斗「そうじゃない、そうじゃないが……何故あいつらがそんなことをしたがるのか、俺にもあんなふうになりかけた時期があったんだ」
美川「バイクになりかけたの?」
北斗「ちゃうわっ!!」 途中から嘘だが、ここ、裕福な家庭に生まれて両親の愛をたっぷり受けて何不自由なく生きて来た(あくまでイメージです)美川隊員と、両親に早くに死に別れ、社会の辛酸を舐めて来た雑草育ちの北斗との発想……大袈裟に言えば人生観の違いを短いながらも端的に表現したシーンとなっている。

コウスケ「ほんとにここ通るのかよ」
俊平「俺の勘に狂いはねえよ」
マチコ「でもさ、あんな女の子いじめるなんて、なんだか男らしくないみたい」
俊平「マチコ、俺に意見しようってのか」
マチコ「そう言うつもりはないけどさ」
翌日(?)、俊平たちは道端にバイクを停めて、執念深く誰かを待ち伏せしていた。
マチコが「あんな女の子」って言うから、てっきり、俊平にきついことを言った女児に仕返ししようとしているのかと思ったが、ショッカーじゃあるまいし、無論、香代子が通るのを待っているのである。
マチコは、あまり乗り気ではないようだったが、かと言って表立って反対するほどではない。
俊平「だいたいTACなんて奴ら、俺はだいっ嫌いなんだ、考えただけでもムカムカしてくるぜ」
コウスケ「そうだぜ、俊平の言うとおりだぜ、奴ら気障な格好しちゃってよ、子供たちにちやほやされていい気になりやがって」
彼らがTACの悪口でフィーバーしていると、他でもない、そのTACの制服に身を包んだ北斗が朗らかに笑いながら近付いてくる。

北斗「はっはっはっ、なんだ、君たちTACが子供に好かれるんで妬いてたのか。その気持ち、分からなくはないよ、誰だって子供には好かれたいからな」
俊平「何しに来た?」
北斗「いや、君たちとちょっと話がしたくてさ」
北斗、あくまで友好的なムードを演出しつつ、子供たちに好かれたかったらバイクのマフラーを静かなものに交換しろとアドバイスする。
要するに、暴走族をやめろと言うのだが、ちょうどそのとき、俊平たちの狙っていた獲物が向こうの八百屋の前を歩いていくのが見えたので、
俊平「わかりましたよ、考えて見りゃ全くあんたの言うとおりだ」
北斗「そうか、わかってくれるか」
俊平「どうもすいませんでした。今後十分気をつけますから」
たちまち態度を軟化させ、心にもない言葉を口にして体よく北斗から逃れるが、

俊平「ははははっ」
またしてもミニスカら伸びる足がなまめかしい香代子を追い掛け回すのだった。
怒り狂った北斗がパンサーで駆けつけると、俊平たちは風を食らって逃げ出すが、北斗はなおも空き地に彼らを追い込んで散々追い掛け回し、遂には俊平をバイクから放り出させる。
北斗、俊平の体に馬乗りになるが、逆に他の若者に羽交い絞めにされる。

俊平「言いたいことがあったら言ってみな」
北斗「言いたいことはさっき言った、バイクに乗るなとはいわん、せめて子供に好かれるようなバイク乗りになれ」
俊平「かっこつけやがって」
俊平たちは身動きできない北斗を散々に痛めつける。

マチコ「……」
マチコは、その様子をつらそうな目で見詰めていた。
勿論、北斗が本気を出せば暴走族など物の数ではなく、すぐ反撃に出て彼らを叩きのめす。
だが、本部に戻ると、今度は北斗が山中隊員にどやしつけられる番となる。
山中「ぶったるんでるぞ!! 北斗、お前が不良高校生と喧嘩してる間にな、工場地帯に超獣が出たんだ」
竜「すぐに姿を消したからいいようなものの、近くには幼稚園もある。あの場で暴れられたら、大変な惨事になるところだった」

竜「これからは、軽はずみな行動は慎むんだ」
北斗「……」
痣だらけの顔をした北斗は、竜隊長の訓戒に悔しそうに俯く。
北斗(俺がいなきゃ何も出来ない癖に……) ……と、心の中で思うのは勝手ですが、口に出すのはやめましょうね、北斗さん。
寅さんの言い草ではないが、この世には、「それを言っちゃあ、おしめえよっ」的な台詞が厳乎として存在しているのである。
その後も懲りずに公園内で暴走行為を行っていた俊平たちであったが、空間にまたノイズが走ったかと思うと、

サウンドギラーが公園内に忽然と出現する。
サウンドギラー、若干「太陽の塔」を思わせる半月形の平たい頭部をカラフルなボタンが埋め、額からは集音マイクとも、アンテナともつかぬ人工的な突起物が生えていると言う、いわく言いがたい、非生命的な造形の超獣であった。
俊平たちはとっとと逃げ出すが、超獣も、ほんの少し暴れただけで姿を消してしまう。
その後、本部で超獣に関するデータを仔細に見ていた北斗は、

北斗「サウンドギラーの目撃者はみんなあの暴走族のバイクの音を聞いてます」
今野「それがどうした」
北斗「つまり、サウンドギラーは奴らと共にあらわれ、奴らと共に消えてるんです」
山中「暴走族が超獣の共犯者だってのか、ばかばかしい、そらぁマンガ的発想だよ」
北斗「そうは言ってません、奴らに何か関係があると言ってるんです」
北斗は自分の推理に自信を持っていたが、
竜「だがな、北斗は肝心なことを忘れている。お前が当の暴走族と喧嘩している間、サウンドギラーは工場地帯へ出た、これをどう説明つける?」
北斗「……」
竜にその穴を指摘されると、たちまち答えに窮してしまう。
そこまでは良いのだが、
竜「これ以上、暴走族などに関わりあうことは許さん」
と、北斗の考えを全面否定してしまったのは上に立つものとしていただけない。
ひとつの例外があったとしても、それだけ頻繁に暴走族と超獣の出現場所が一致しているからには、なんらかの因果関係が成立している可能性を認め、北斗に更なる調査を命じるのが隊長として取るべき道だったろう。
もっとも、北斗は竜隊長の厳命をスコーンと蹴飛ばし、その後も変わらず俊平たちと関わっていた。いや、以前よりもっと深く、四六時中、パンサーで俊平たちにつきまとうという熱心さで関わりまくるのだった。
これを専門用語で、
「竜隊長の面目丸つぶれ」と言う。
これには俊平たちもイライラして、
俊平「やいやい、いつまで俺たちの後をつけてくる気だ」
コウスケ「俺たちが超獣を操ってるとでも言うのかよ」
北斗「そうは言ってない、俺の勘ではサウンドギラーはまた君たちの近くに現れる」
俊平「バカヤロウ、なんて超獣が俺たちにばっかりくっついてくるんだ? ワケをいえ、ワケを」
北斗「それはこれから探す、だが、もし君たちがサウンドギラーに襲われたら、俺はTACの隊員として君たちを守る義務がある」
俊平「そんなことは頼んだ覚えがねえ、これ以上つけてきたら、承知しねえぞ」
北斗「ふっ」
俊平、精一杯凄んで見せるが、北斗から見れば可愛い弟がいきがってるようなもので、軽くいなしてパンサーに戻る。
その後、土手の斜面に腰掛けてリンゴを齧っているという、およそ暴走族らしくないことをしている俊平たち。
しかしまあ、実際、現在の目から見れば、俊平たちって暴走族に分類するのも気が引けるほど行儀の良い不良なんだよね。
もっとも、ちびっ子の見ている番組に、そんなガチガチの不良が出てくる筈もないのだが……

マチコ「俊平」
俊平「ちぇっ、やな野郎だ」
マチコに言われて見れば、彼らの前にまたしても北斗のパンサーがあらわれる。
マチコ「でもさ、万が一ってことがあるから、ついてきててもらったほうがいいんじゃない」
俊平「バカヤロウ、お前までそんな……」
コウスケ「でもよ、確かにあの超獣、俺達のところにばっかり出てくるじゃねえか」
俊平「単なる偶然だよ、あの野郎、口実作っちゃ、仕返しのチャンスを狙ってるんだ」
俊平は頑なであったが、マチコも引き下がらず、

マチコ「それだったらとっくにやってると思うよ。あの人、あんな目にあってもまだ私たちのことを守ってくれようとしているのよ」
俊平「ふざけんな、マチコ、あんなふうに恩着せがましく近付いてくるのがずるい大人たちのいつもの手なんだ。おれたちが一度だって親切にされたことが一度だってあるかよ」
俊平、不良少年の決まり文句「大人はみんな嘘つきさっ」を口にするが、続けて、
俊平「大人だけじゃねえ、子供だって俺達をいつも白い目で見やがる」
子供の視線まで気にするのが、およそ暴走族らしくない繊細さであった。
そう言えば、マチコのしゃべり方だって、今の普通の女子高生よりずっと綺麗だよね。

コウスケ「でもよぉ、それは俺たちにも多少原因があるんじゃねえか」
俊平「コウスケ、もう一度言ってみろ!!」
コウスケ「でもよぉ、それは俺たちにも多少原因があるんじゃねえか」
俊平「コウスケ、もう一度だ!!」
コウスケ「でもよぉ、それは俺たちにも多少原因があるんじゃねえか」
俊平「コウスケ、頼む、もう一度だけ言ってくれ!!」
コウスケ「でもよぉ、それは俺たちにも多少原因が……」
マチコ「って、いつまでやってるのよっ!!」 じゃなくて、
俊平「コウスケ、もう一度言ってみろ!!」
コウスケ「俺、なにも……」
俊平「俺たちはどうせ嫌われ者なんだ、嫌われ者は嫌われ者らしく、スカッとしたところを見せてやりゃ良いんだ」
その後も、北斗にあてつけるように、道の真ん中に広がって気ままに暴走行為を続ける俊平たちであった。
それだけならまだしも、道端にいた園児たちにまでちょっかい出そうとしたので、北斗が慌ててやめさせようとするが、そのタイミングでサウンドギラーが、何かの工場のような建物を突き破って、閃光と共にあらわれる。
俊平たちは例によってとっとと逃げ出すが、園児が一人、転んで逃げ遅れてしまう。
北斗「僕、しっかりしろ、もう大丈夫だ」
北斗、園児に駆け寄ると、覆い被さるように迫るサウンドギラーに銃を撃つ。

俊平「おい、逃げろ」
マチコ「でも、北斗さんが……」
マチコ、子供を抱えて後退している北斗のピンチに、矢も盾も溜まらなくなったように北斗目掛けて走り出す。
もっとも、マチコが助けるまでもなく、サウンドギラーはスッと空に消えてしまう。

マチコ「さ、みんなもう大丈夫よ、ほら、良かったわね」
北斗「さあみんな出ておいで」
それでもマチコは草むらに隠れていた園児たちに優しく話しかけて安心させてやる。
北斗「このお姉ちゃんやね、向こうのお兄ちゃんたちが、超獣なんて追っ払ってくれた」
園児「わー、ほんと?」
園児「TACの隊員じゃないのに?」
北斗「ああ、TACの隊員じゃないのにだ」
北斗、マチコだけじゃなく、俊平たちのことも持ち上げ、子供たちに好印象を抱かせる。
無邪気なもので、子供たちは、脅かされたことも忘れて、ワッとばかりに俊平たちのまわりに押し寄せ、親しげにまとわりつく。
俊平が、いわれのない感謝と熱狂に取り囲まれて戸惑っていると、

北斗「今からこのお兄ちゃんたちが、バイクで良いところへ連れてってくれるぞ」
俊平「おいっ」
勝手に決められて抗議の声を上げる俊平であったが、次のシーンでは、土手の斜面を転がり落ちて、

俊平「はっはっはっはっ」
楽しそうに大笑いしている図となる。

そう、今までの反抗的な態度はなんだったんだと拍子抜けするほど、他愛なく好青年に変貌して、子供たちと仲良く遊んでやっている俊平たちであった。
いや、遊んでやっているというより、久しぶりに童心に帰って、子供たちと一緒に遊んでいるというほうが当たっていよう。
まあ、これは学園ドラマじゃないんだから、その辺をあまりリアルに描写する必要はないとはいえ、いくらなんでも更生の仕方が安易過ぎて、いささかがっかりしてしまうのも事実だ。
さらに、北斗に言われたとおり、バイクのマフラーを普通のものに取り替えてくれるようバイク屋のオヤジにお願いするまでになる。
要するに、本気で暴走族から足を洗う気になったのだ。
そこへ北斗がにやにやしながらパンサーで乗りつけ、
北斗「よお、どうしたんだ?」
俊平「なんでもねえよ」
コウスケ「よお、今日は俺達をつけてこねえのかよ」
北斗「本部に仕事があったんだ、今からつけさせてもらう」
さすがに照れ臭いのか、俊平はぶっきらぼうに応じるが、以前のようなピリピリしたムードは雲散霧消していた。
と、無線が入り、工場地区にまたしてもサウンドギラーが出現したと知らせる。

北斗「一体奴は何を狙って……そうか、音だ」
眉間に皺を寄せて考えていた北斗、俊平たちのバイクを見ているうちに豁然と閃く。
俊平「音?」
北斗「サウンドギラーは騒音に反応して力を増やしていく超獣だったんだ。バイクの騒音、工場の音……」
そう、サウンドギラーは音を食べて生きている、特異な超獣だったのである。
……
いや、サウンドって命名してる時点で気付けよっ!! それはともかく、北斗の推理は半分当たって、半分外れていたことになる。
ただ、この地区にいる暴走族は俊平たちだけじゃないんだから、俊平たち以外の暴走族が捜査線上に浮かんでこなかったのは、ちょっと解せない。
ま、一口に雑音と言っても色んなパターンがあり、俊平たちの出す騒音が、とりわけサウンドギラーのお気に入りだったということは考えられる。
ちなみに「ウルトラマン80」第7話に出て来たノイズラーの元ネタは、これだろうなぁ。
俊平たちは、園児のことが心配だといって、北斗と一緒に現場へ向かう。
TACの戦闘機がサウンドギラーに攻撃を加えるが、相変わらず何の効き目もない。
北斗、工場の出す音がサウンドギラーの餌になっているのだと考え、一帯の工場の稼動をすべてやめさせるが、サウンドギラーは平然と建物を破壊し続ける。
北斗「消えない、音が止まっても超獣は消えない」
この、北斗が工場を停止させて突然の静寂が訪れるという描写、極めて中途半端なので、なかったほうが良かったかな。
それに、これでは北斗の推理が間違っていたのかと、一瞬視聴者が混乱してしまうではないか。

北斗「どあーっ!!」
北斗、不器用ながら前方倒立回転を決め、サウンドギラーの砲火にさらされている俊平や子供たちの前に着地する。
なんでそんなことしなきゃいけないのかと思いがちだが、これは爆発で北斗が吹っ飛ばされたことを表現しているらしい。
で、てっきりスタントだろうと思ったら、

北斗「音だ、でっかい音を立てて奴をこっちへひきつけるんだ」
高峰さん本人が演じていたのが意外だった。
北斗は俊平たちと一緒にわざと爆音を響かせながらバイクを走らせ、子供たちからサウンドギラーを引き離す。

北斗「ぐわーっ、うっ」

ついで、北斗がバイクから投げ出され、体に火がつくファイヤーアクションが見られるが、さすがにこれはスタントだろうなぁ。
火だるまになった北斗、絶叫を迸らせながらそのままAに変身する。
俊平「ウルトラマンA、ほんとにいたのか」
それを見てぽつりとつぶやく俊平だが、これも今更と言う感じがして、ややピント外れ。
初期の頃ならともかく、もう何十回となくAが戦って来たあとだからねえ。
あと、BGMとしてOP主題歌が流れるのだが、普通のバージョンじゃなく、別の音源が使われており、これまた微妙に調子が狂ってしまうのである。
文章で説明するのは難しいのだが、オリジナルと比べると、児童合唱団の声がより大きく聞こえ、なんとなく、オリジナル版のカラオケみたいな感じなのだ。

とりとめのないデザインのサウンドギラーだが、その実力は侮れず、Aは有効打を与えられぬままカラータイマーが点滅し始めるが、特に何のきっかけもなく立ち直り、攻勢に転じて最後はメタリウム光線で木っ端微塵に粉砕するのだった。
……
これも今更の疑問だけど、いちいち殴り合わずに、さっさとメタリウム光線を出せばいいんじゃね?
あと、超獣が音を餌にしているというせっかくの設定が、戦いにおいては全然活かされていないのが残念であった。
事件解決後、幼稚園の前に普通のマフラーに戻したバイクを停め、俊平たちが幼稚園の中庭で園児たちと楽しく遊んでいる様子が映し出される。

その様子を見て、ほっとしたような笑みを浮かべる北斗と美川隊員。

俊平「TACってかっこいいだろう」
園児「でもお兄ちゃんたちのほうがかっこいいや」
俊平「えっ、はっはっはっはっ」
コウスケ「俺たちのほうがかっこいい?」
園児「ウルトラマンAみたいだもん」
コウスケ「ほんとにー?」
北斗「そうだ、このお兄ちゃんたちはとってもかっこよくなったんだぞ、今じゃな、TACよりもずっとえらいんだ」
【悲報】元暴走族>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>TAC 最後、北斗たちも加わって子供たちと楽しく遊んでいる姿を映しつつ、幕となる。
なお、終盤からマチコがヘルメットを脱いで髪を下ろしているのに、そのアップがひとつもないと言うのが、非常に勿体無い話である。
パッと見、「仮面ライダー」のルリ子さんのライダーバージョンっぽいだけに、是非もっと大きく映して欲しかった。
以上、北斗と暴走族青年たちとの交流を爽やかに描いた、なかなかの佳作であった。
34話では超獣の存在とストーリーを無理に絡めようとして失敗したが、今回は、超獣を一種の自然災害のように扱うことでストーリーと距離を置かせ、その分、人間ドラマを丹念に描き切ることに成功した、長坂さんの見事なリベンジ作品であった。
なお、以前、長坂さんとウルトラシリーズは相性が悪いと書いたが、ウルトラシリーズに限らず、その豊かなドラマ性やぶっ飛んだ発想が、ウルトラシリーズや仮面ライダーシリーズのような、フォーマットのきっちりしている既存の特撮と相性が悪いと言うべきなのかも知れない。
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