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「熱中時代」傑作選 第21回「人情タコ焼き先生」 後編



 CM後、君子ちゃんが家の前の道路にチョークで落書きをしていると、荷物を抱えた広大が駆けつける。

 
 広大「平山」
 君子「……」
 広大「おい、待ってたのか、学校で」

 だが、君子はさっさと家の中に入ってドアを閉めてしまう。

 広大「先生、謝るから、な、許してくれ」
 父親「何をしてんだ」
 君子「いいの」
 父親「お、どけ」

 広大がドアを叩いて呼びかけていると、中で話し声がして、右腕を吊るした中年男性が顔を出す。

 
 父親「どちらさまですか」
 広大「はい、僕は若葉台小学校で君子ちゃんの担任をしている北野と言います」
 父親「先生ですか」

 君子の父親を演じるのは、名脇役の山谷初男さん。

 ちなみにこのドラマ、クレジットでは3年4組の生徒の名前が出ることは基本的にないのだが、山谷さんの役名表記が「三年四組児童の父親」と言うのは、あまりによそよそし過ぎるんじゃない?

 普通に「君子の父親」って書けば済むことだし、そうしてくれれば正式な表記も分かって助かったのに。

 
 父親「ほらぁ」
 君子「先生、嘘ついたぁー」

 相手が教師だと知ってたちまち笑顔になる父親、振り向いて娘を叱るが、君子はそっぽを向いて拗ねたような声で広大の違約を責める。

 広大「おい、君子ちゃん、悪かったなぁ、今朝、ゴタゴタしてたもんだから、先生、うっかりしてたんだなぁ」
 君子「私、2時間も待ってた」
 広大「あ、そうか、すまない、謝る、この通りだ、な、君子ちゃん、許してくれ、な」

 君子ちゃんが、デートに遅刻した彼氏をなじる彼女みたいで可愛いのである!!

 広大が頭を下げて謝るが、君子は無言で奥に引っ込んでしまう。

 父親「ま、先生、上がって下さい」
 広大「はい、おい、君子ちゃん、お父さん上がってくれって言うから上がるぞ」

 もっとも次のシーンでは君子の機嫌も直り、小さな手でお茶を入れて広大にすすめる。

 
 広大「怪我ですか」
 父親「はい、一週間前、転んじゃって、折っちゃったんですよ」

 
 父親「この子が、メシの支度やらなにやらしてくれてんですが……」
 広大「あの、奥さんは」
 父親「去年亡くなりました」
 広大「そうですか……」

 と言うのだが、確か去年の12月の父母参観日の日には、君子ちゃん、思いっきりお母さんに手ぇ振ってたような……

 それ以降に亡くなったのなら、広大が知らない筈がないし……

 広大「おい、君子ちゃん、先生に話ってこのことだったのか」
 君子「……」
 広大「そっかぁ、いやぁ、すまなかったなぁ、そっかぁ、うちの手伝いをしてたから宿題が出来なかったんだなぁ」

 広大が、担任としての不明を詫びると、

 父親「どうも、すいません、この子が、内職の手伝い一緒にしてくれてるもんですから」
 広大「お、君子ちゃんもやってんのか?」

 
 広大の言葉に頷くと、君子は山積みになったパーツの前に座り、実際に何か飾りのようなものを作り始める。

 父親「ほんとにどうもすいません、いえ、私、溶接工なんですけど、会社がダメになりましてね、去年の春からタコ焼きの屋台やってんですよ、それが怪我しちゃって休んでるモンですから、内職でもと思ってこんなことをやってるんですが、どうもこれも不自由でしてね」

 と、父親は説明するのだが、技術を持ってるのに再就職せず、一年近くもタコ焼きの屋台を引いているというのは、いささか不自然な気もする。

 
 広大「おい、君子ちゃん」

 
 広大「えらいじゃないか」

 ともあれ、広大、小さな体で頑張って父親を支えている君子を、心から褒め称える。

 父親「あと10日もすれば、タコ焼きの屋台引けるようになりますんで」
 広大「それまで、この、内職ですか」
 父親「そうです」
 広大「はぁ……」

 広大、父親の返事に曖昧に頷くと、無心に作業をしている君子をいたたれまない気持ちで見詰めるのだった。

 次のシーンでは、

 
 広大「タァコ焼きぃ~だよっ!!」

 飲み屋街の一隅で、タコ焼きを売っている広大の姿が映し出される。

 こういうところが広大の最大の魅力であり、また、このドラマの魅力でもあるのだ。

 無論、父親の腕が治るまで代わりにタコ焼きを売って少しでも家計を助けようという無償の行為であった。

 んで、適当な口上を並べ立てている広大の前にあらわれた客と言うのが、

 
 オヤジ「20個!!」
 広大(共食い……)

 ホステス風の女性を連れた、江幡高志さんなのだった。

 もっとも、さすがに始めたばかりなので広大も要領が分からず、肝心のタコを入れ忘れているのを客に指摘される始末だった。

 そして、慣れない仕事に四苦八苦している広大の姿を、

 
 桃子「……」

 物陰から桃子先生が見ていたのだった。

 しかし、桃子先生が、こんな時間にこんな場所を、それもひとりで通り掛かるというのは、これもちょっと不自然なんだけどね。

 とにかくタコ焼きを売り終わったあと、広大は、手間賃を取るなどと言うセコいことはせず、上がりをそっくり父親に渡す。

 
 広大「全部で4380円です。いやー、易しいようで難しいモンですね、なかなかこう手順よく行かないんですよね、でもあの山は割りとあの辺のホステスさんなんかが買ってくれましたし……」
 父親「どうも、すみません、この通りです!!」

 父親、申し訳なさのあまり、テーブルにくっつくくらい深々と頭を下げる。

 しかし、父親の態度では、広大が父親の了解を取らずに勝手にタコ焼きの屋台を出したように見えるのだが、仕入れとかどうしたんだろうと、若干の疑問が湧くが、ま、ドラマだからね。

 広大「あ、いやいや、そんな、とんでもないです。僕が君子ちゃんとの約束を破ったお詫びですから」

 
 君子「さあ出来た、先生、どうぞ」
 広大「あ、そっかー、どうもありがとう」

 などとやってると、台所にいた君子ちゃんがお盆にお銚子などを載せて持ってくる。

 君子「私、宿題全部出来ちゃったぁ」
 広大「お、そっか、どれどれ、先生見てやろうなぁ」

 ついで、飛び跳ねるようにテレビの上に置いていたノートを取り、広大に誇らしげに見せる。

 
 君子「先生、私が作ったの、食べてー」
 広大「うん?」
 父親「そうそう、飲んでってくださいよ、ほんのお礼の気持ちですから」
 広大「いや、あの、しかし」
 父親「いや、こいつがね、なんにもねえからって、さっき缶詰買いに行きましてね」

 父親の台詞にあわせて既に開けられた缶詰が映し出されるのだが、さすがにお酒のお燗と缶詰開けただけで、「私が作ったの」は図々しい言い草だろう。

 ま、小学3年生なら、それだけでも十分立派だが。

 ちなみに、実際に見てもらわないと分からないが、父親の「飲んでってください」の台詞のあたりで、君子ちゃんが、何か言おうとして結局何も言えない様子が見えるが、子役が台詞のタイミングを間違えそうになったのかな、などと想像すると、なんだかとても微笑ましくなる管理人であった。

 君子ちゃんだけじゃないが、3年4組の子供たちが、上野さんなどごく一部を除いて、みんな素人に毛が生えた程度の演技しか出来ないのが、逆に出そうとしても出せないリアリティーを醸し出していることに成功しているように思えるのである。

 特にこの君子ちゃんの素朴で拙い芝居など、現在の、こまっちゃくれた子役には到底出せない破壊的な可愛らしさがある。

 閑話休題、固辞して帰ろうとする広大だったが、しきりと引き止める父親の気持ちを無にするのは悪いと、饗応に預かろうとするが、

 父親「君子、ほら、缶詰そのまま出す奴があるかよ。こういうものはちゃんと皿に……あっ、キャットフードと書いてあるぞ」

 父親が、缶詰を手にしてよくよく見れば、それはキャットフードだった。

 父親「猫の缶詰だよ」
 君子「ほんとー?」

 なんか、その言い方では、猫肉の缶詰売ってるみたいだな……

 「きんどーさん、猫のフレーク」「捨てなさいそんなモン!!」……分かる奴だけ分かれ。

 広大「君子ちゃんがせっかく買って来てくれたんだから、な? うまいですよ、ちょっと塩味が足りませんけどね」

 で、広大、君子の気持ちを傷つけたくないので、構わずキャットフードを食べてしまうのだった。

 これはさすがにちょっと引く。

 もっとも、たけし軍団や稲川淳二ならともかく、演じているのが水谷さんなので、さすがにほんとにキャットフードを食べているのではなく、中身は人間用の缶詰なんだろうけどね。

 
 広大「普通の魚の缶詰とおんなじですよ」
 君子「ほんとー?」
 広大「ほんとだ、ほら、うまい、ほら、ひとつ食べてご覧」

 調子に乗った広大は、君子にも食べるようすすめるが、これもちょっとなぁ……

 このキャットフードのくだりは余計だったように思うが、

 
 手のひらに乗せられたキャットフードを口に含んでもごもごさせていた君子が、

 
 君子「ほんとだー」

 と、笑顔を見せるのだが、もう、食べてるふりをしているのがバレバレで、これがまた、今の子役には求むべくもない素人臭さがたまらない魅力なのである!!

 その後、すっかり良い気分で酔っ払った広大が、本を両手に抱えたまま、「ある日ー、森の中、熊さんに出会った~」などと、高歌放吟しながら夜道を歩いている。

 やがて道端に腰を下ろすが、

 
 広大「あーあー、良い気分だなぁ」
 晴子「まあ」
 小宮「うん、おいおいおい、そんなとこで寝ちゃ風邪引くよ」

 そこにたまたま通り掛かったのが、親友の小宮巡査と、PTA役員をしている主婦であった。

 主婦を演じるのは、毎度お馴染み五月晴子さん。

 
 小宮「しょうがないなぁ、介抱ドロだっているんだからな」
 晴子「呆れた!!」
 小宮「あら、君じゃないか」

 主婦は憤然と立ち去り、小宮は相手の顔を見て、やっとそれが広大だと気付く。

 広大「おーい、なんだ、あんたか、今日はな、酔っ払ってるぞ、嬉しいから飲んでくれ、なーんて言われちゃってね、ついついこうなっちゃってね、またさ、女の子がさ、はっはっ、かぁわゆく勧めるんだよ、おっまわりさん、先生、飲んでって……なぁーんて言われちゃって、へっへっへっへっ」

 完全に出来上がっている広大、ほとんどカミングアウト(何の?)に近い台詞をべらべらまくし立てるが、

 小宮「馬鹿だねぇー、そりゃ水商売の女の台詞じゃないかよ、誰んだってそう言うんだよ」
 広大「……」

 当然、小宮は広大がキャバレーか何かで飲んできたものと思って笑い飛ばす。

 少しの間を置いて、広大が、酔いが一気に醒めたように勢い良く立ち上がり、 

 
 広大「バカなこと言ってんじゃないよ!! 何言ってるんだ、君は? あの子は純粋無垢だぞ!!」

 小宮を教師の口調で怒鳴りつけると、

 広大「ああ、良い子だぁ……」

 ニヤニヤしながら再び座り込むのだった。

 全く同感です。

 下宿に戻った広大が、それこそ猫のように蛇口から直接水を飲んでいると、桃子先生が来て、

 広大「あ、どうも、少し酔っ払っててすみません」
 桃子「お紅茶いかが? あの、お話があるの」
 広大「僕にですか?」
 桃子「ええ」

 外聞を憚るように声を潜め、意味ありげな目をして言う。

 酔いも手伝ってか、広大は日頃から憎からず思っている桃子先生からそんなことを言われたので、てっきり愛の告白でもされるのではないかとドキドキする。

 広大、周りに誰もいないことを確かめてから、食堂のいつもの席に緊張気味に座る。

 
 広大「あのー、へへっ、他の先生方は?」
 桃子「皆さん、お休みになったみたい」

 なんだかんだで、桃子先生は可愛い!!

 桃子「どうぞ」
 広大「頂きます」
 桃子「お砂糖は?」
 広大「いえ、少し」

 シュガーポットに伸ばした手が触れ合い、慌てて引っ込めてドギマギする二人。

 まるっきり「初めてのデート」みたいな雰囲気に、弥が上にも広大の期待は膨らむ。

 
 桃子「あの、二人だけで、ちょっとお話したいことがあったもんですから……」
 広大「なんでしょうか」
 桃子「でも、いけないことかな、こんなこと」
 広大「構いません、何でも仰って下さい」

 思わせぶりな桃子先生の言い方に、広大は、99パーセント愛の告白に間違いないと、マネキン人形のように体を硬直させて身構える。

 桃子「あのぉ」
 広大「どうぞ」
 桃子「……あのぉ」
 広大「はいぃぃ」
 桃子「じゃあ、思い切って言いますけど」
 広大「どうぞ」
 桃子「タコ焼きのことなん……」

 とても言いにくそうに俯いていた桃子先生が切り出した瞬間、

 
 広大「イヒッ!! イガヒッ!!」

 緊張の糸が切れたのか、弾かれたように顔を背け、くすぐったそうな奇声を発する広大であったが、

 
 広大「あ……タコ?」

 その直後、自分の勘違いに気付いて、たちまち「素」に戻る。

 
 桃子「立派だわぁ」
 広大「いや、ああ……そんなぁ」
 桃子「妹さんのために、あんなことまで」

 ここから、今は亡きアンジャッシュの「すれ違いコント」みたいなやりとりが交わされる。

 広大「は、あ、青空のことですか、いや、あれ、売れなくてねえ」
 桃子「大変なんでしょう」
 広大「そうなんですよねえ、神田の古本屋街をずーっと回ったんですよねえ」
 桃子「神田まで行ったんですか」
 広大「すっごく安く値切られちゃうんですよ」
 桃子「あぁ……」
 広大「新宿の質屋でも全然受け付けてくれなくて」

 
 桃子「神田から新宿まで歩いて行ったんですか?」
 広大「いやいや、中央線で」
 桃子「乗せられるの、あんな大きなもの」
 広大「大きいたって、背中に背負える程度ですよ」
 桃子「屋台ですよ」
 広大「は、屋台?」

 ここに来て、漸く話が噛み合ってないことに気付いた桃子は、俄かに気まずそうな顔になり、挨拶もそこそこに、逃げるように自分の部屋に引き揚げるのだった。

 そう、青空のためと聞いて、広大はてっきり本のことだと思って話していたのだ。

 つまり、桃子は、広大がタコ焼きを売っているのは、青空に渡す金を工面するためだと思っているのだ。

 翌日、

 広大「ところで、早速だが、みんな宿題はやって来たかな」

 
 子供たち「はーーーい!!」

 他の子供たちと同様、誇らしげにノートを掲げる君子ちゃんが可愛いのである!!

 広大「ようし、手を降ろせ。あー、他のクラスに追いついたら、もう宿題なんか出さないからなーっ!! はい、それでは宿題のノートを集める係、モモコちゃん、森、そして、はい、平山!!」
 君子「はぁいっ!!」
 広大「よし」

 広大に指名されて嬉しそうに立ち上がる君子に、広大も満足そうな笑みを浮かべる。

 ところが、広大が宿題係の子供たちと一緒に職員室に戻ってくると、ちょっとした問題が持ち上がっていた。

 小嶋田「北野先生、何があったんですか、一体」
 広大「は?」
 小嶋田「PTAの役員の人たちが、今校長室に見えてるんです。心当たりありますか」
 広大「さあ」

 そこへお茶を出しに行った恵子が戻ってきて、

 恵子「なんですか、北野先生がタコ焼き屋さんをやってたとか、酔っ払ってお巡りさんに保護されるのを見たとか……」
 広大「……」

 広大、ハッと我に返ると、急いで子供たちを帰らせる。

 やがて教頭に呼ばれて、広大も校長室へ。

 小嶋田「しかし、どういうわけですかねえ、北野さんがタコ焼き屋と言うのは……」
 恵子「ねえ……」
 小嶋田「教員のアルバイトと言うのは家庭教師とか、参考書の原稿書きとか色々ありますけども、タコ焼き屋ってのは珍しいんじゃないでしょうかね」

 同僚たちがしきりに首を捻っていると、

 
 桃子「たぶんね、妹さんのためなんですよ」
 恵子「ほんと?」
 桃子「青空さんにお金がいるの、それで……」
 恵子「なるほどねえ、そう言う人なのよ、北野先生って」
 小嶋田「妹のためにタコ焼き屋ねえ、泣かせる感じだなぁ」
 
 桃子の見当外れの推理だったが、広大の性格ならさもありなんと、みんなしみじみと納得する。

 と、桃子が恵子を廊下へ連れて行き、

 
 桃子「私たちで何とかしないと大変なことになるわ」

 広大のために一肌脱ごうと動き出す。

 二人がその場を離れると、

 
 背後の柱の陰に君子ちゃんが隠れていたことが分かる。

 君子ちゃんが校長室のドアに顔を近づけると、広大をガミガミ叱りつけている教頭の声が聞こえてくる。

 
 教頭「教員は公務員ですからね、アルバイトを慎むようにと言う通達も出とるんですよ、それをあんたよりによってタコ焼き屋の屋台を引っ張るなんてあまりにも非常識じゃありませんか」

 PTAの肩を持ち、今なら職業差別で炎上必至の表現で広大を教頭が非難すれば、

 マスオ「これね、新聞にでも書かれたらねえ、えらいことですよ」

 同席した父兄も同調して騒ぎ立てる。

 演じるのは、毎度お馴染み、増岡弘さん。

 しかし、教師がタコ焼き屋のバイトしたぐらいで、新聞が記事にするかなぁ?

 ま、当時は今と違って、教師が「聖職者」と見られていた時代だからねえ。

 晴子「それもそうですけどね、夜中に酔っ払って歩くのもねえ……この頃、若いお巡りさん、若い先生、色々問題起こしてますでしょう」
 天城「PTAの方々は、今日の役員会でたまたまあなたの話題が出たもんですから、心配して来て下さったんです、あなたのことです、何か訳でもあったんでしょう?」

 天城がとりなすように尋ねるが、

 広大「いえ、訳はありません!!」

 広大、直立不動できっぱり答える。

 役員「ま、それでしたら、是非お止め願いたいですわ、子供たちに与える影響を考えて頂きませんとねえ」
 教頭「勿論、もうやらんよねえ、北野さん」
 広大「いえ、申し訳ありませんが、あと10日ほど続けようと思っております」

 教頭がおもねるように確かめるが、広大は昂然と胸を張って続行を宣言する。

 当然、事情を知らない役員たちは喧々囂々、口を極めて広大を非難するが、広大は一切抗弁しようとせず、甘んじてそれを受け止める。

 
 君子「……」

 彼らの会話を盗み聞きしていた君子、不意にノブを掴んでドアを開け、大人たちの中に飛び込む。

 無論、まだ3年生の彼女には、彼らの話していることが正確に理解できた訳ではないだろうが、大好きな北野先生が自分のために苦境に立たされていることだけははっきり分かったのだろう。

 ただ、何度も言うように、君子ちゃんに高度な演技は無理だし、3年生の女の子に筋道だった弁護など望むべくもないので、

 
 広大「お、平山」
 君子「みんなで北野先生をいじめないでください!!」

 左手を目に当てた、かなり分かりやすい嘘泣きポーズを取りながら、みんなに向かって訴えるのであった。

 ……

 オンエア時、全国の真性ロリコン戦士たちが大勢討ち死にしたと言う、伝説のシーンである。

 広大「あ、あのな、おい、おい」
 天城「みなさんはね、いじめてるわけじゃない、さ、心配しないであなたあっちへ行ってらっしゃい」

 天城が優しく君子を連れ出そうとするが、君子は聞かず、今度は父兄たちの後ろに行き、

 
 君子「おじさんも、せ、先生をいじめないでください!!」

 同じポーズで同じような台詞を言う。

 
 君子「教頭先生も、先生をいじめないでください!!」
 教頭「……」

 たぶん、マスオさんも小松さんも、心の中では「萌えーーーーーっ!!」と絶叫していたであろうが、表面的にはあくまで仏頂面を崩さず、

 教頭「北野君」
 広大「な、平山、良いから……」

 君子、今度は晴子の後ろに回り、

 君子「おばさんも、先生をいじめないでください」

 同じことを言ってぺこりと頭を下げる。

 広大「平山、おい、良いんだ、な、表行こう」

 だが、君子は言うことを聞かず、最初の場所に戻ると、

 君子「みんなで北野先生をいじめないでください!!」
 広大「おい、こら、平山、泣くな、あのな、先生はな、おい、いじめられてるんじゃないぞ、みんなでお話し合いをしてるんだ、な、お話し合いをしてるんだぞ、泣くな、こら平山、違う、先生はいじめられてないぞ、な、だいじょぶだ、だいじょふだから、ほらっ」
 君子「みんなで北野先生をいじめないでください!!」

 どれだけ説明しても、ほとんど壊れたテープレコーダーのように同じ言葉を繰り返す君子ちゃんの体を、公衆の面前でしっかり抱き締める広大であった。

 一方、桃子は「蜘蛛の巣」に行き、恵子と出し合って作った8万円を青空に差し出す。

 
 青空「いや、あの、お金はお兄ちゃんが用意してくれますから」

 青空、そう言って封筒を突き返すが、

 桃子「それがね、お兄さん、お金ないのよ」
 青空「まさかぁ」
 桃子「ほんとよ、昨日、本を売りに行ったけどダメだったらしいの、それでね、吉祥寺の駅前でタコ焼き屋の屋台を出してるのよ」
 青空「タコ焼き屋?」

 
 父親「良いんですよ、先生、学校で問題になったって言うじゃないすか、聞きましたよ、この子に」
 広大「いや、絶対にやめろといわれたわけじゃないんですよ」

 さて、その日の夜、広大は平山親子に止められながらも、屋台を引っ張っていつもの場所に「出勤」しようとしていた。

 父親「でも、先生、ほんとに大変だから」
 君子「せんせぇ~」
 広大「いやいや、君子ちゃんはな、心配しなくて良いんだぞ、先生、もう慣れたんだ、すっごく上手く焼けるんだ、タコ焼きが……だから、君子ちゃんはその間に宿題をちゃんとやっておくこと、おい、いいか?」

 広大、君子ちゃんの頭を撫でて言い聞かせると、

 広大「あの、ほんとにだいじょぶですから、僕は大学生の時に大抵のアルバイトやってますから、タコ焼きくらい軽いモンですよ」

 さて、広大がワイシャツの上に白衣を着て呼び込みをしていると、青空がやってくる。

 
 広大「青空、どうして分かった、ここが?」
 青空「お兄ちゃん、ごめん、私、知らなかったの、ごめんね」

 青空、屋台の店先で泣き出すと、兄に駆け寄り、

 青空「もういいの、小糸先生と花井先生がお金貸してくれたから、もういいの、もうだいじょぶなの、こんなことまでしてお金作ってくれることないの」
 広大「青空、あのな、これはな、違うんだ、お前のためにこれやってんじゃ……」

 ひとりで勝手に感動して泣き喚く妹を広大が懸命になだめていると、客の気配がしたので振り向くが、

 
 マスオ「……」

 そこには、昼間のマスオさんを筆頭に、小次郎さんこと鈴木正幸さん、そしてもうひとりの男性が、ただならぬ顔をして立っていた。

 一瞬、クレームをつけに来たのかとドキッとする広大だったが、続いてマスオさんの口から出たのは意外な言葉だった。

 マスオ「先生、今日は私にやらせて下さいよ」

 
 広大「はっ?」
 鈴木「みんなで話まとめてね、10日ぐらいだったら、この、夜、手の空いた連中でかわりばんこに手伝おうじゃねえかってね」
 広大「しかし、あの……」
 マスオ「みんなね、素人なんですけどね、私は寿司屋ですから、客商売なら慣れてますから」
 広大「あ、いやいや、ちょっと待ってください」

 訳が分からず、戸惑うばかりの広大であったが、同じく状況が分かってない青空が彼らに礼を言おうとするのを押し止め、

 
 広大「いや、あの、これはですね、僕の妹でして、あの、これには一切関係ない訳なんですけど、それが……ほら、青空、お前が出てくるから話が変な風に行っちゃうじゃないか」
 青空「違うのー?」
 広大「良いんだよ、お前は、バカッ!!」

 広大が苛立たしげにタイミングの悪い妹を叱り飛ばしていると、

 マスオ「妹さんですか」
 広大「はい」
 マスオ「いやぁ、先生はほんとに泣かせるんだから、もう本当にもう……あ、そう言う訳でね、事情はみんな飲み込んできてますから」

 今回のシナリオのもうひとつ残念なのは、これは管理人だけかもしれないが、マスオさんの言い方が曖昧なので、一瞬、マスオたちも、広大が自分の妹のためにアルバイトをしているのだと勘違いしているのかと思ってしまう点である。

 もっとも、広大の家庭のことで父兄が感動するのは変だし、

 鈴木「一言言ってくれりゃ話早かったんですよ」
 広大「ですけど、やっぱり、あの子の家庭の事情喋る訳には行かないすから」
 鈴木「えらい、そこが先生の良いとこなんですよ、ねえ」

 続くやりとりで、父兄が正しく広大の動機を理解していることが分かるんだけどね。

 ついでに、そもそもそどうやって彼らがそのことを知ったのか、肝心の点が抜けているのが惜しい。

 ともあれ、広大は素直に父兄たちの好意を受け入れ、店を三人に任せて家路に着くのだった。

 一方、平山家。

 広大に言われたとおり真面目に宿題している娘に、

 
 父親「君子、お前、勉強しろよな、先生に申し訳ねえぞ」
 君子「うん」

 広大、帰宅すると真っ直ぐ台所の桃子と恵子のところへ行き、

 
 広大「小糸先生、花井先生、青空に8万円貸して下さったそうで」
 恵子「あ、ごめんなさいね、いや、私ね、桃子さんから事情を伺ってね、で、二人で半分ずつ出したの、余計なことだったかもしれないんですけど……」
 桃子「だけど、間に合わなかったら大変でしょ、青空さん」
 広大「どうもすいませんでした!!」

 二人に向かって深々と頭を下げる広大であった。

 そこへ天城が出て来て、

 
 天城「電話で聞きましたよ、PTAのお父さん方が今日から交替でタコ焼きを手伝ってくれたそうですね」
 桃子「PTAの方たちがですか?」
 天城「あ、良かったですねえ」
 広大「はい、嬉しかったです!!」
 天城「ほほほ、いやぁ、ほんとにありがたいもんですねえ」
 広大「はいっ!!」

 二人のやりとりに怪訝な顔をする桃子たちであったが、結局最後まで広大は事情を説明せず、ひたすら二人に感謝の言葉を捧げるのだった。

 以上、人の善意の素晴らしさを、天城夫妻の悶着や、ちょっとした行き違いを絡めて軽快に描き出した傑作であった。

 と言う訳で、「熱中時代」の超厳選レビュー、これにて終了です。

 最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
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コメント

初めましてm(_ _)m

熱中時代・先生編1の中ではこの話が一番好きです。

解説もしっかりとされていて、とてもいい
ブログですねぇ( ー`дー´)

Re: 初めましてm(_ _)m

はじめまして。コメントありがとうございます。

返信が遅れてすみません。

> 熱中時代・先生編1の中ではこの話が一番好きです。

私もです。

> 解説もしっかりとされていて、とてもいい
> ブログですねぇ( ー`дー´)

ありがとうございます。感激です!!

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zura1980

Author:zura1980
70~80年代の特撮、80年代のドラマを中心に紹介しています。

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