第9話「死を呼ぶ怪奇電話」(1980年3月29日)
冒頭、安いギタンのような顔をした青年が大きくて平べったい荷物を手にとぼとぼ歩いているのを、車の中から人間に扮したヘドラーたちが見詰めている。

ミラー「あの男です、この三年間、美術展に連続して落選しています」
ヘドラー「ふっふっ、ケラー」
ケラー「はっ」
ヘドラーの指示を受け、ケラーはその男・風間雄一の後を追う。
風間は、自分の安アパートに帰り、ぼんやりと所狭しと置いてある自分の絵を眺め回すのだが、

そのうちの一枚は、どう見ても
まぐわっているようにしか見えず、こんなもん、ちびっ子向け特撮ドラマに堂々と映していいのかしらんと心配になる。
風間は、悔しそうに持っていたキャンパスを叩きつけるが、その絵も、ドクロや妖怪がモチーフの、不気味なものであった。
風間が無念の形相で天を仰いでいると、背後から女の声がする。
ケラー「もったいない」
振り向けば、そこにケラーがにこやかな笑みを浮かべて立っていた。
ケラー、風間が叩きつけた絵を拾い上げると、
ケラー「美しい」
風間「誰だ、あんたは?」
次のシーンでは、ヘドラーが、事務所で風間の絵を食い入るように見詰めている。

ヘドラー「気に入った」
風間「えっ」
ヘドラー「10万で買おう」
風間「10万?」
ヘドラー「不服ですかな」
風間「いえ、そんな……」
ヘドラー「私は君の才能に投資したい、君が血と怨念に彩られた絵を描き続ける限り……ただし、ひとつだけ条件がある」
ヘドラーが具体的にどんな条件を出したのかは、後に分かる。
しかし、仮にも地球支配を目論む「悪の組織」にしては、あまりにみみっちい金額のように思える。どーんと100万円くらいは言って欲しかったが、あまりに高額だと、かえって風間を警戒させると思ったのかもしれない。
一方、あきらが久しぶりにテニス(のコーチ?)をしていると、小学生くらいの女の子が来て、

あきら「どうしたの、みやこちゃん」
みやこ「お兄ちゃんがご馳走したいって」
あきら「えっ」
みやこ「お兄ちゃんです」
あきらが振り向くと、そこにひょろっとした青年が立っていた。
他ならぬ、風間雄一であった。

意味もなく貼ってしまうあきらの美貌。
風間「はじめまして、いつも妹がお世話になっています」
みやこ「絵が売れたんですって」
あきら「絵が? それはどうも」
風間「いかがですか、レストランで夕食でも」
みやこ「ねー行きましょうよー」
みやこ、あきらの腕を掴んで甘えるように誘うが、

あきら「せっかくですけど、そのお金、積み立ててください」
風間「え?」
あきら「ピアノを買ってあげてください、みやこちゃんに」
風間「……」

あきら「うんと練習させてあげたいんです、みやこちゃんに」
みやこ「先生……」
タダ飯のチャンスを惜しげもなく辞退し、教え子のために訴えるあきらの優しさに打たれ、風間も快くOKする。
その夜、布団に入って眠りかけたところで、ガバッと起き上がり、
風間「要するに、フラれたんじゃねえかっ!!」 漸くそのことに気付く風間っちであったが、嘘である。
嘘だけど、結果的にあきらがフッたのは事実である。
あと、あきらの吐く息が真っ白で、たぶん、これも2月以前に撮影してるんだろうなぁ。
一方、ヘドリアンはデンワラーと言うベーダー怪物を誕生させ、美しい絵を描く画家たちの抹殺を命じる。
ヘドラーはその場で風間に電話して、とある指示を出す。
その上で、
ヘドラー「デンワラー、お前の出番だ」
デンワラー「わーかりました」
その造型はかなりゴアなのに、喋り方は妙に軽いデンワラーであった。
ヘドラーの命令は、藤堂八郎と言う著名な画家に呪いの電話を掛けろというものだった。

藤堂「君の絵は汚い、あるのは血の臭いだけだ、早く持って帰りたまえ」
風間、かつて、自分の絵を藤堂に見てもらったときの屈辱的な体験を思い出し、
風間「地獄の電話第一号は藤堂八郎だ!!」
やがて、藤堂家の電話のベルが鳴る。
風間「ふっふっふっふ……見てろよ、藤堂」
すでにベッドに入っていた藤堂は不機嫌そうに電話に出る。
藤堂「誰か知らんが、こんな真夜中に非常識じゃないか」
風間「地獄へ落ちろ、藤堂八郎」
藤堂「誰だっ」
風間「地獄へ落ちろ~」

風間「地獄へ落ちろ、藤堂八郎~」
風間、ひたすら同じ言葉を繰り返すだけであったが、

その呪いのパワーのなせる業か、藤堂側の電話が巨大化してその中に藤堂を吸い込み、殺してしまう。
しかし、これ、無理に風間を巻き込まなくても、普通にデンワラーが画家の家に行って殺せばええだけとちゃうの?
この辺、同じ上原さんが書いた第33話「吸血楽器レッスン」と同じような強引さを感じる。
上原さん、人間の怒りや憎しみなど、マイナスの感情が「悪の組織」に利用されて事件を引き起こすと言うプロットがお好きらしい。
翌朝、藤堂の惨死を知らせる新聞記事を読んで、激しい後悔の念に襲われる風間だったが、そこへケラーが札束を持ってあらわれる。

風間「どうやって殺したんだ」
ケラー「あなたはダイヤルを回す、そして呪文を唱えるだけ」
だが、次のシーンでは、何の躊躇もなく風間が次のターゲットに電話しているのが、若干の違和感がある。

香山「うわぁああっ」
二人目は、香山と言う、安い岡本太郎みたいな画家で、これまた巨大化した電話に吸い込まれて死亡。
ちなみに、藤堂と香山は、それぞれ、ヘドラー将軍役の香山浩介氏の芸名および、改名後の藤堂新二に符合するが、香山さんが藤堂に改名するのは翌年なので、藤堂のほうは偶然かなぁ?
でも、藤堂さん、特撮出身にしては息が長く活躍されてるよね。
それはともかく、二人の犠牲者の写真を輪になって見下ろしている赤城たち。

黄山「完璧過ぎる」
赤城「共通することが二つある」
赤城、そう前置きすると、

赤城「そのひとつは、殺された二人が人間であること、それも日本人だ。もうひとつ、二人とも、殺されるまで生きていた」
一同「……」
もうこんなアホなリーダーについていくのいややと思う青梅たちであったが、嘘である。
赤城「そのひとつは、殺された二人が画家であること、それも売れっ子だ。もうひとつ、二人とも、電話に出たあと殺されている」
黄山「じゃあ、電話が犯人」
黄山の言葉に、
青梅「愛してるぜ!!」 黄山「俺もだ!!」 じゃなくて、
青梅「アホか!! 電話が人殺しするかよ」
黄山「はぁ」
青梅に一蹴されるが、実はそれが正解であるとは本人も含めて誰も思わなかった。
ひとり考え込んでいた赤城は、
赤城「ベーダーの仕業だ。ベーダーは美しいものを嫌う、藤堂画伯も、香山画伯も」
あきら「美しい絵を描いているわ」
緑川「三人会のメンバーのうち、二人が殺されたことになる」
赤城「残る一人は?」
緑川「小林天山」
画壇には詳しいらしい緑川、三人目は小林画伯だと断言する。

案の定、小林画伯の家にも地獄の電話がかかってくるが、警護していたデンジマンによってからくも助けられる。
巨大な電話はデンワラーの姿になると、別の電話の中に逃げ込む。

イエロー「奴は電話回路を使って出入りできるんだ」
つまり、デンワラーは風間の部屋から電話線を伝って標的のいる部屋に移動していたらしいのだが、映像を見る限り、電話そのものが巨大化したようにしか見えないので、矛盾する。
CM後、風間の脳裏には、犠牲者たちの断末魔の様子がこびりついて離れず、日夜わかたず彼の良心を責め苛んでいた。
と、窓からケラーが艶やかな笑みを浮かべて入ってくる。

風間「カーテンを閉めてくれ」
ケラー「仕事はまだ終わってませんよ、小林画伯はまだ生きています」
それでも大金の誘惑に負けて、風間はもう一度地獄の電話をダイヤルする。
だが、今度は画伯の家ではなく、移動中の自動車に掛かってくるのだが、

自動車電話が黒電話と言うのが、なんだか妙におかしい。
実際、そんなのあったのかなぁ?
もっとも、巨大電話の模型は黒電話のしかないので、プッシュ式の受話器にはどうしても出来ない事情があったのだが……
ところが、今度もガードしていたブルーとグリーンによって暗殺は失敗に終わり、今度は電話ボックスの回線から逃亡するデンワラーであった。
一方、風間は、あきらに言われたとおり、みやこにピアノを買ってやる。

作業員「よいしょっ」
風間「奮発しましたよ、可愛い妹のためにね」
作業員「あ、手が滑った」 風間「あぎゃあああーっ!!」 じゃなくて、
風間「奮発しましたよ、可愛い妹のためにね」
あきら「良かったわねえ、みやこちゃん」
みやこ「ええ」

あきら、早速ピアノを弾いて見せるが、その指の動きを見ていると、ほんとに弾いているように見えるんだよね。
まあ、小泉さんがピアノを弾けたとしても、全然おかしくはないのだが。

その後、あきらは、部屋に並べてある絵の中に、今回の事件を連想させるような絵が混じっているのに気付く。
風間もその視線に気付くと、わざとその絵を手に取り、

風間「新聞を読んでイメージで描いてみたんです」
後ろ暗いことがないことをアピールするかのように、自分から話題にする。
あきら「どうして地獄を?」
風間「さあ、小さい頃オヤジは酒ばかり飲んでいました、絵が売れなくてその憂さを酒で晴らしていたんです。そして描くのは地獄ばかり」
つまり、そんな幼児体験から自分もそんな絵を描くようになったらしいのだ。
ただ、風間と亡き父親との関係が決して良好なものではなかったことが推察できるのに、彼が父親と同じような絵を描き続けているのは、腑に落ちないなぁ。
世間に認められなかった父親の遺志を継いで、風間が、同様の画風で画壇に挑戦しているというのなら分かるが……
みやこ「私は嫌い、お兄ちゃんの絵嫌い!!」
あきら「みやこちゃん……」
と、黙って聞いていたみやこが日頃抱えている気持ちをぶちまける。
風間は別に怒りもせず、あきらをモデルにしたらしい素描を見せると、
あきら「これは……」
風間「怒らないでください、是非あなたを描きたくて……暇な時で結構です、モデルになっていただけますか?」

みやこ「せんせーい」
風間「楽しみにお待ちしておりますよ」
あきら「……」
次のシーンでは、アパートを辞すあきらに二人がにこやかに手を振っているので、あきらが色好い返事をしたことが分かる。
しかし、何回も言うが、あきらは綺麗である。
戦隊シリーズには、たくさんの美形ヒロインが登場しているが、彼女のような大人の女性の雰囲気をまとったキャラと言うのは、他にいないのではあるまいか。
悪役なら、ゼロワンとか、アハメスとか、マゼンダとか、一杯いるけどね。
あきら(今の声、何処かで聞いたことがあるわ……)
だが、にこやかな笑顔とは裏腹に、あきらの胸の中ではある疑惑が芽生えていた。

デンジランドに戻ったあきらは、風間に電話してモデルになる約束をして喜ばせる。
その風間の声と、小林画伯に掛かって来た電話の声とを比較すると、同一人物のものと判明する。
言い忘れていたが、赤城たちは念のため、小林画伯の電話に録音装置をつけておいたのだ。

その後、約束どおりあきらがモデルを務め、風間が張り切って描いていたが、背後のドアの隙間からケラーが覗いているのに気付き、戦慄する。
ケラーは、直ちにそのことをヘドリアンに報告する。

ヘドリアン「なに、風間雄一が美しい娘の絵を描いてる?」
ミラー「はっ、それが、こともあろうにデンジピンク、桃井あきら」
いや、ミラーさん、こともあろうに……じゃなくて、尻肉が思いっきりはみ出てますよっ!!
困るなぁ、もう……(註・ほんとはぜんぜん困ってない、むしろ大歓迎している)
ヘドリアン「汚らわしい、将軍、即刻死刑!!」
ヘドラー(えっ、俺が殺されるの?) ……と言うのは嘘だが、ヘドリアンの台詞がちょっと紛らわしいのは事実である。

デンワラー「地獄へ落ちろ。地獄へ落ちろ~」
風間「俺はやめんぞ、あきらさんを描くんだ!!」
即座に、風間の元へ掟破りの地獄の電話が掛かってくるが、画家としての良心(?)に目覚めた風間は屈せず、送話器に向かって叫ぶ。
と、即座に電話がデンワラーの姿になり、風間に襲い掛かる。
そこへ居合わせたあきら、デンジピンクに変身してデンワラーに蹴りを入れる。
ピンク「早く逃げて!!」

デンワラー「あやまっちめ、あやまっちめえ!!」
デンワラーとくんずほぐれつするピンクであったが、さすがに一対一では分が悪く、ベッドに押し倒される。
ちなみにこのデンワラー、黒い脳髄のような顔の横に、白い歯を剥き出しにした口がついているという、かなりキてるデザインをしているのである。
あと、「あやまっちめえ」って、「過ちめ」と言ってるのか、「謝ってしまえ」と言ってるのか、良く分からない。
ついでに、こんな狭い部屋で戦っているのに、窓ガラス一枚割れないと言うのは、いくらセットを大事にしたいと言うスタッフの優しさが溢れているとは言え、さすがにダウトです。
と、そこへ駆けつけたレッドが「ちびっ子向け番組で何をしとんじゃ!!」とばかりに、ピンクを組み伏せていたデンワラーの顔に蹴りを入れる。

だが、粘着質のデンワラー、負けずにピンクの乳を鷲掴みにする。
これが女性スーツアクターだったら多少は嬉しいのだが、中身は男だからねえ……

レッド「とおっ!!」
ここでも「ちびっ子向け番組でなんちゅうことをさらすんじゃ!!」とばかりに蹴りを入れるモラリストのレッドさんでした。
その間に、風間兄妹はアパートから逃げ出すが、

ケラー「裏切り者!!」
風間「うわあああーっ!!」
みやこ「お兄ちゃん!!」
公園で待ち構えていたケラーが投げた短剣が深々と心臓に突き刺さる。
「ゴーグルファイブ」以降なら、重傷は負っても命だけは助かっていた可能性が高いが、コミカルだが意外とハードな「デンジマン」の世界では、あえなく落命してしまうことになる。
ま、藤堂だけなら「まさか殺されるとは思っていなかった」と言う言い訳も可能だが、香山については殺されると知りながら電話しているから、やむを得まい。
ここからラス殺陣となるが、今回も、普通に戦うだけでなく、

デンワラー「ようし、119番」
不利になったデンワラーが自分の体についている電話のダイヤルを回し、

声「はい、こちら消防署」
デンワラー「火事だ!!」

そう言うと、5人の周りに炎の輪が出来ると言う、コントみたいなユニークな演出が見られる。

5人が火の輪からジャンプして抜け出ると、すかさず110番に掛け、
声「はい、こちら警察署」
デンワラー「脱走だーっ!! 直ちに逮捕します」

デンワラー「ででんでんでん!!」
そう言うと、巨大な受話器を小脇に抱えてデンジマンに向かって突進すると言う、あまり意味のない展開となる。
お遊びはこれまでだとばかりに、向かってくるデンワラーをデンジブーメランで撃破、巨大ロボバトルを恙無く終えて事件解決。
ラスト、おじの家に引き取られることになったみやこを5人が見送っている。

みやこ「先生」
あきら「なあに」
みやこが「徒歩」でおじの家に行くと言うのはあまりにビンボー臭いが、たぶん、駅のホームで撮影するのが面倒だったのだろう。
ま、そのおじさんと言うのが、歩いていけるほど近くに住んでいるのかもしれないが、それにしても荷物のひとつも持ってないと言うのはリアリティーがなさ過ぎる。
ただし、みやこは風呂敷に包まれた一枚の絵を携えていた。
風間が描いた、あきらの肖像画である。

みやこ「これは綺麗な絵です、私、好き」
あきら「……」
みやこの言葉に、「そりゃ私がモデルなんだから、あったりまえでしょーが」とでも言わんばかりの勝ち誇った顔で頷くあきら。
みやこ「もらってください」
あきら「ありがとう」
なお、ここで赤城が「寂しかったらアスレチックにおいで」と言っているので、やはり、割りと近所に引っ越すことになったのだろう。

あきら「さよなら」
たった一人の肉親である兄を喪った悲しさを
微塵も感じさせない明るい笑みを浮かべて走り去るみやこに、別れの挨拶をするあきら。
あまりに明るい顔なので、兄の生命保険が8億円くらい入ったのかと思ってしまう。
ナレ「憎しみで地獄の絵を描き続けた雄一が、愛の心で描いたただ一枚の絵、それがこのあきらの絵なのである!!」
ラスト、ナレーションが物語を感動的に締め括るが、

肝心のその絵が、
クソ下手&クソ似てないと言う、完全に笑いを取りに来ているとしか思えないひどいものなのだった。
さすがにこりゃないよなぁ……
これじゃあ、いくら風間が明るい作風に転向していたとしても、画家としての成功は見込めなかっただろう。
以上、ひとりの青年画家の心に付け入り、凶悪な殺人を重ねるベーダーの悪辣さを描いた作品であるが、肝心の青年画家の造型が中途半端なので、ハードな結末の割りに、いまひとつ胸に響いて来ないのであった。
それ以前に、有名な画家を殺すのに、いちいち青年画家の憎しみを借りねばならないと言う必然性のない設定が、ストーリーの面白さを削いでいるような気がする。
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