第12話「死刑執行10秒前」(1977年4月20日)
「ズバット」では、長坂さん以外の作家がシナリオを書いた作品が二本あるが、これはそのうちのひとつで、執筆したのはウルトラシリーズを多く手掛けている田口さん。
舞台は、急峻な山々の谷間に、僅かな民家がこびりつくようにして集落を形成している、町と言うより村と言ったほうがしっくりくる西町と言う田舎町。

若いカップルが楽しそうにおしゃべりしながら坂道を登ってくるのを、悪漢たちが注視している。
ブーメランジャック「あいつが新治か」
戦闘員「そうです、その横の女が許婚の夕子、あの若造さえいなければ今夜の暗闇計画は手間が省けます」
ブーメランジャック「任せておけ、腕のニ、三本もこのブーメランでへし折ってやる」
戦闘員「三本は無理じゃないかと……」
ブーメランジャック「おだまりっ!!」 ……と言うのは嘘だが、夕子と言う名前は、「A」の南夕子から来てるのかなぁ?
ブーちゃん、すぐに数本のブーメランを投げつけ、二人を驚かす。
新治「誰だっ?」

ブーメランジャック「ふふふふふふ……」
新治「なんだ、ただのバカか」 ブーメランジャック「誰がじゃっ!!」 ……と言うのは嘘だが、バカにしか見えないのは事実である。

夕子「やめてえ」
戦闘員「おらおら」
夕子「放して、いやっ!!」
尻餅を突いた夕子に、戦闘員が群がって無理やり立たせるのだが、夕子の色っぽいあえぎ声とあいまって、なかなかのエレクトポイントとなっている。
あと、スカートの奥に、ほんのりと白いものが見えるようなのだが、これをチラ認定するのは気が引ける。
例によって、白ギターを弾きながら早川が登場。
ブーメランジャック「誰だ、貴様は?」
早川「誰だと聞く前に自分の名前を先に名乗るのが礼儀ってもんだぜ」
ブーメランジャック「つまらん手出しはしないほうがいいぞ、俺の名はブーメランジャック、日本で一番のブーメランの使い手だ」
早川「おーっと、そいつは何かのお間違いでしょう」
と言う訳で、近くの日輪堂と言うお寺に場所を移して、いつもの珍技対決となる。
さて、先攻のブーちゃん、お寺の正面に掲げてある扁額を真っ二つに割るという、冷静に考えなくても全然凄くない技を披露する。

ブーメランジャック「どうだ? 若いの、日本一の腕とやらを見せてもらおうか」
このシーン、後ろに控えている二人が、
夕子「ねー、めんどくさいから帰らない?」
新治「もうちょっとの辛抱だから……」
みたいな会話を交わしているようにも見える。
続いて早川のターンとなるが、早川、ブーメランで割れた扁額をくっつけて元の場所に戻し、さらに、戦闘員たちのズボンのベルトを切り裂き、最後は自分の手元に戻ってくるという、いささかとりとめのない技を披露する。

早川「村の人たちが心の支えとしている大切な社だ、失礼とは思わんか」
早川、ブーちゃんに説教じみた台詞を叩き付けてからブーメランを返す。
早川「ぷしっ!!」
その上で、鋭く息を吐き出すと、

戦闘員たちのズボンが一斉にずり落ち、色とりどりのブリーフがあらわになるという、管理人の長いキャプ人生の中で、おそらく最悪のシーンとなる。
しかし、これ、股間のもっこりまで克明に撮られていて、女性のそれとは別の意味でNG物件だよね。
ベテランカメラマンの源さん(仮名)も「ちくしょう~、なんでこんなもん撮らにゃならんのだ~っ」と、怒りに打ち震えながらファインダーを覗いていたに違いない。

早川も、汚物が視界に入らないようにと手で目を隠すが、

指を広げてやっぱり見ちゃうと言う、誰も得しないオチとなる。
サブタイトル表示後、早川は、西町郵便局にいた。

夕子「お茶どうぞ」
早川「あ、こりゃどうも」
山本「どうも、私が夕子の父です、若い二人の危ないところをほんとにありがとうございました」
早川「いえー」
山本「あいつら、最近町に入り込んできた暗闇組の連中なんです。あ、早川さん、お急ぎでなかったらいかがです、お礼と言っちゃ何ですが、私のうちにお泊りくださいませんか、たまにはこういうところの空気も良いもんですよ」
早川「あっははっ」
夕子の父親で郵便局長の山本は、早川に礼を言うと、自宅に泊まらないかと誘う。
長坂さんの書く早川だったら、結局断ってるところだが、田口早川は妙に常識的と言うか、社交的で、好意に甘えて夕子に自宅まで案内される。
ちなみに早川が、用心棒のことを知りながら、その所属している組織のことを知らなかったのも、かなり珍しいケースである。
その後、警察署の署長が郵便局にやってくる。

署長「局長さん、2億7000万ですって?」
山本「はい、署長さんはまだ町へ来られたばかりでご存じないかもしれませんが、町民会館を作るために10年がかりで町の人たちの寄付と少ない町の予算の中から積み立てをして貯めたものなんです。明日、建築業者に渡すんですが、この局の金庫に一晩保管することになりまして」
署長「で、金庫の鍵はどなたが?」
山本「鍵は私だけが開けられます、なにぶんにも、ここは辺鄙な山の中なものですから、ガードマンも間に合いませんし、私と中山(新治)くんとで一応警備は致しますが、ひとつ、警察のご協力を……」
署長「わかりました、町の安全を守るのは我々の役目ですからな」
局長の頼みに、署長は朗らかな笑みを浮かべて引き受ける。
一見善人風の署長を演じるのは中田博久さん。
そして、山本を演じるのは、管理人の好きなおじいちゃん俳優・武内文平さんである。
ところが、クレジットや資料を見ると、山本役は五藤雅博となっていて、一瞬、良く似た別人なのか思ったが、ちょっと調べたら、五藤雅博と言うのは武内さんの別名なのだった。
昔のドラマは、こういうことがちょくちょくあるから困るのだ。
あと、管理人、ついさっきそれを知って「えーっ」と声に出して叫んでしまったのだが、武内さん、Wikiのデータが正しければ、まだご存命らしい……今年100歳だって。
ちなみに何の関係もないが、小林昭二さんの9個上である。
さて、その日の夜、山本たちが寝ずの番をしていると、警官が見回りにやってくる。

山本「ごくろうさまです、今までのところ異常ありません」
警官「そうですか、お手数ですが、金庫の中の現金を拝見させて頂きます」
警官の言葉に戸惑う山本であったが、署長命令と言うことでやむなく金庫を開け、警官たちにケースに入った現金を見せる。
と、味方である筈の警官たちがいきなり襲い掛かってきて、ケースを持ち去ろうとする。
早川も駆けつけて乱闘になるが、なにしろ相手はピストルを所持しているので分が悪い。
そのうち、新治が警官の銃に斃れ、結局金も奪われてしまうが、

まるで、予想外にでかかったので(何が?)びっくりしている女子のような顔(註1)で驚く署長の姿が映し出され、早くも首謀者が他ならぬ署長であったことが視聴者に示されるのは、ちょっとどうかと思う。
要するにネタばらしが早過ぎるのである。
だいたい、こんな荒事に署長(暗闇組組長)自身が乗り出す必要はあるまい。
早川、それでも何とか敵を追いかけるが、警察署のあたりで見失ってしまう。
そして、新治はあっけなく命を落としてしまう。
註1……実際は顎の傷を押さえているのである。
ちょっと早いCM後、

夕子が、新治の墓の前で手を合わせ、とめどなく嗚咽している。
山本「あんなに中山くんのことを愛していたのに……この秋には二人は結婚する筈だったんです」
早川「……」
そこへ警官が二人やってきて、

警官「局長、強盗殺人の容疑であなたを逮捕します」
山本「なんですって?」
令状を見せ付け、こともあろうに被害者の山本に手錠を嵌めてしまう。
しかし、その警官と言うのが、昨夜金を盗んだのと同じ人と言うのは、いくらなんでも乱暴ではあるまいか?
なので、
早川「局長の潔白はこの俺が証言したじゃないか、犯人は君らのような制服の警官だった」
警官「言葉を慎んで下さい、町民の安全を守る警察がそんな大それたことをしますか」
早川「だが俺は見たんだよ」
警官「夢でも見たんじゃないですか」
山本「……」
続く、早川と警官の口論を、山本が黙って聞いているのがとても不自然に感じられる。
何故、彼は、
山本「いや、盗んだのお前らじゃん!!」 と、その場ではっきり言わなかったのだろう? ってことになるからね。
ともあれ山本は、いきりたつ早川をなだめ、大人しく連行されていく。
許婚を失った直後に、父親を不当逮捕された夕子の悲しみはいかばかりか……
一方、首尾よく金を手に入れた暗闇組組長は、意気揚々とダッカーの首領Lにその金を献上するが、おこりんぼのLは、褒めるどころか、
L「貴様、なんと言う手抜かりをやったんだ?」

組長「なんと申されます?」
怒鳴りつけられ、目を白黒させる組長。

L「貴様、早川健の存在を忘れておるではないか」
組長「何の、早川ごときになにができます」
L「間抜け!! 早川の本業は探偵だぞ、奴は間もなく証拠を掴もうと動き出す、早く奴を消すんだ、貴様も今の地位の安泰を望むのなら、いかなる手段を取ろうとも早川を殺せ!!」
厳しい口調で早川抹殺を命じられる組長だったが……
早川、Lの睨んだとおり、郵便局の中を調べ、手掛かりを探していた。
現場には何も残されていなかったが、早川、自分の靴に昨夜の銃撃戦で使われた弾丸がめり込んでいるのに気付き、掘り出す。

早川「このマーク……そうか、2億7000万円奪ったのは……」
その弾丸には、見覚えのあるDマークが刻まれていた。
早川の脳裏に、今まで倒して来たDマークを付けた悪党たちの愉快な面影がよぎる。
しかし、弾丸にそんなマークつけたら、まともに飛ばなくなるのでは?
早川「これで局長の潔白は証明できるぞ」
早川が意気込んで建物から出ようとすると、いつの間にか建物に入り込んでいたブーちゃんが背後から呼び止める。
ブーメランジャック「早川、そうは行かんぞ、証拠の品と貴様の命は貰ったぞ」
色々あって、早川はブーメランジャックが警察署に逃げ込むのを目撃する。
早川(やはりそうだったのか……)

署長「……」
署長室で、煙草を吹かしながら、これ以上はないと言うほどリラックスしている署長こと、暗闇組組長。
中田さんのこんな脱力した顔、他では見たことないなぁ。
悪役として笑うにしても、こんなふぬけた表情はありえないからね。
早川「ニセ警察署長さんよ」
署長「……誰だ?」
扉が開いて早川が入ってきて、

早川「暗闇組組長、チュッチュッチュッチュッ、署長に化けるとは畏れ入ったぜ」
ネズミのような音を出しながら、その正体を指摘する。
しかし、今までのデータだけで、署長=組長と断定するのは、いささか早計のような気もする。
昨夜の事件、テレビ的にははっきり署長の顔が見えていたが、実際は(暗闇組だけに)暗闇の中での戦いとなっているので、早川はその顔までは見てない筈なんだよね。
ちなみに、劇中ではおちょくりまくっているが、宮内さんにとって中田さんは「立ち止まって最敬礼しなければならない先輩の一人」だそうな。
署長「何を言うか、はっはっ」
早川「ふっふっ、証拠は上がってますよ」
しらばっくれる署長の四角い顎を掴み、絆創膏(ガーゼ?)を剥がして傷を露出させる。
早川、例の弾丸を取り出し、
早川「こいつを見な、俺からこれを奪い取ろうとしたブーメランジャックは、ここへ逃げ込みましたよ」
署長「……」
早川「どうやら年貢の納め時ってもんだ」
探偵っぽく署長を追い詰める早川だったが、最初から警察署全体が敵だと知りながら、こんなところにのこのこと乗り込んできたのは、あまりに迂闊と言うものではないだろうか。
なので、警官の一部が事件に関与していることは分かっていたが、署長までがグルだったとは知らなかった……つまり、署長にそのことを教えに来たところを捕まってしまう、と言うようにした方が良かったと思う。

それはそれとして、早川は署長の用意していた檻に閉じ込められてしまう。
続いて、ブーちゃんや警官たちが入ってくる。
署長「まんまと罠に嵌まったようだな、俺の正体を見破ったのは褒めてやる、だが、どうやら年貢を納めるのはお前のようだ」
つまり、今回のお話、「悪の組織」が堂々と警察に扮していたという、かなり珍しい設定だったのである。
ただ、具体的にどうやってそんな離れ業を演じることが出来たのか、何の説明もないのは物足りない。
新しく赴任して来た本物の警察署長を捕まえ、監禁するか殺すかして、なりすましていたのだろうが、元からいた警官たちまでひとり残らず(註2)暗闇組のメンバーと入れ替えるというのは、さすがに無理があるのではあるまいか。
註2……そうしなければ、この後の公開処刑なんて出来る筈がない。
で、早川は、山本と同じ留置所にぶち込まれるのだが、
署長「早川、ゆっくりそこで頭を冷やしておくがいい、後でゆっくり料理してくれるわ。その前に局長を始末せねばな」
Lにあれだけガミガミ言われていたにも拘らず、何故か、肝心の早川は後回しにして、急ぐ必要のない山本の処刑を行おうとするのだった。

ほどなく、とても日本とは思えない恐ろしい布告が張り出される。
たまたま町に来ていたみどりさんとオサムがそれを見るが、

みどり「死刑だなんて……おそろしい」
そんだけかいっ!! なんか、全員まとめてパラレルワールドに飛ばされたような錯覚に陥ってしまう。
もっとも、最後に東条と一緒に駆けつけたのを見ると、この後、東条に通報したと思われる。

早川「出せーっ、出すんだーっ!! ぼやぼやするなっ」
警官「うるせえな」
早川「出せと言ってるんだ、もたもたするんじゃねえっ!!」
警官「静かにしろ!!」
留置所では、早川がお猿さんのように鉄格子にぶらさがって、口汚く騒ぎ立てて見張りの警官を呼びつけるが、出せと言って出してくれる筈がなく、警棒で殴り倒される。
早川「罪もない人が、殺されようとしてるんだ!!」
警官「ぃやかましいやっ!!」
早川「ぐわっ……出せーっ!!」
毎度お馴染み、五野上力さん演じる偽警官に向かって叫んでは、その都度ぶん殴られる早川。

同じ頃、町外れの広場では、上半身裸に黒いトンガリ頭巾をかぶった異様な男たちが、山本局長を絞首台に続く階段に向かって歩かせていた。
仮にも警察を名乗っているのに、こんな中世ヨーロッパみたいな死刑執行人が出てくるあたり、「ズバット」を通してもひときわ不気味で印象的なシーンとなっているが、あまりに荒唐無稽と言う感じがしなくもない。
その動きと並行して、しつこく警官に処刑場の場所を聞き出そうとして何度も何度も殴打される早川の姿が映し出される。
そのうち、油断した警官は、遂に早川に腕を取られてしまう。
再び刑場。

夕子「お願いします、署長さんに頼んで下さい、父は無実です」
警官「帰れ、お前の父親は犯行を認めておるんだ」
そこへ夕子があらわれ、見張りの警官に縋り付いて哀訴するが、無慈悲に突き飛ばされる。
そして、ここで、今回最大の収穫と言えるシーンが出現する。

そう、突き飛ばされた夕子が見せる、豪快なパンチラである!!
いやぁ、まさかこんなお宝ショットが眠っていたとは、今までまったく気付かなかった自分の不明を恥じたい。
夕子「そんな筈ありません、亡くなった新治さんは私の婚約者です、彼を殺すなんてことがあるでしょうか」
警官「帰れといったら帰れ!!」
なおも警官にむしゃぶりつく夕子であったが、再び突き飛ばされて濁った水溜りに落ちる。

夕子「うっ……」
泥まみれになりながらの、なかなかの熱演であった。
そんなに美人でもないが、この女優さん、割りと好きである。
留置場を抜け出し、道なき山野を必死に走っている早川の姿を挟んで、

夕子「お父さーんっ!!」
輪になったロープを見上げる山本の背後で、夕子の悲痛な叫びがこだまする。

夕子「お父さん!!」
時代劇の処刑シーンよろしく、刑場を囲っている金網にしがみついて叫ぶ夕子。

川の中を走っている早川。

夕子「お父さん!!」
このように、山本、夕子、早川の姿が細かくカットバックされて徐々に緊張感が高まっていくのだが、正直、いささか長ったらしくなっている感じは否めない。
早川「こんなことが、こんなことがあってたまるかっ!!」 神の無慈悲さを呪い、絶叫する早川。
これも、長坂脚本ではあまり見られない早川の一面である。
と、前方から、銀色に光るズバッカーのウィングがクルクル回りながら飛んでくる。
早川「ズバッカー!!」
まるで、ズバッカーが意思を持っているかのようなヒーローっぽいシーンで、これも、他の回では見たことがない。

そうこうしているうちに、山本は階段を登らされ、ロープを首に掛けられる。

夕子「お父さん……」
しかし、布告まで出したのに、刑場に町民の姿がほとんど見えないと言うのは解せないなぁ。
ともあれ、ここでやっとズバッカーに乗ったズバットがあらわれ、山本を助けてラス殺陣となる。
ちなみに悪を糾弾するズバットの台詞の中で、「偽警察署を作り……」とあり、警察署の建物も暗闇組が用意した偽物とも受け取れるのだが、さすがにそれは無理なんじゃないかなぁ。
それに、そんな手間隙掛けた作戦の報酬が2億7000万では割に合うまい。
まあ、ズバットは比喩的な意味で言ってるのであって、建物自体は本物の警察署だと思いたい。
雑魚を倒したあと、署長の体に何度もムチをふりおろし、その衣装を剥いで暗闇組長としての正体を暴くズバット。
それは良いのだが、
ズバット「飛鳥五郎と言う男を殺したのは貴様か?」 組長(えっ、なにっ? 何言ってるの、この人?) 次のカットでは、今度の事件とは何の関係もないことを言い出すのが、まるでヒーローが分裂症に罹っているように見えてしまう。
まあ、このくだりは今に始まったことじゃないけど、考えてみれば変だよね。
さらに、
組長「知らんっ」
ズバット「では誰だ?」
組長「知らん」
ズバット「言え!!」
組長「そんな奴知らん」
畳み掛けるようにズバットの理不尽な質問と脅迫が続き、それをひたすら否定する組長の狼狽振りに、
「だろうなぁ……」と、思わず共感してしまいそうになる。
特に、「知らん」からの「では誰だ?」と言う会話の流れが、「悪の組織」も真っ青の不条理さである。
これをちゃんとした文章にすると、ズバットの言ってることの無茶苦茶さが良く分かる。
ズバット「飛鳥五郎と言う男を殺したのはあなたですか?」
組長「いいえ、そんな人は知りません」
ズバット「では、殺したのは誰ですか?」
組長「知りません」
ズバット「誰か言いなさい」
組長「そんな人は知らないって言ってるでしょおおおおっ!!」
ね?
言ってること滅茶苦茶でしょ。

事件解決後、ひしと抱き合う親子。
夕子「お父さん!!」
山本「夕子、良かった……」
でも、これ、一見ハッピーエンド風だが、よくよく考えたら、全然ハッピーじゃないんだよね。
夕子は婚約者を殺されたし、肝心の2億7000万は組長がLに献上しちゃったので、もう戻ってこないし……
せめて、金は警察署に残っていたので取り戻せた……と言うことにして欲しかった。
もっとも、新治が殺されてしまっては後味の悪いことに変わりはないので、新治は殺されず、あくまで強盗事件の濡れ衣で山本が処刑されそうになる……だけで良かったんじゃないかなぁ。
ともあれ、そこへやっと東条以下、本物の警官たちが到着する。

東条「無事でしたか」
山本「はい、おかげさまで」
東条「そりゃよかった」
東条の後ろで、ニカッと言う感じで笑っているみどりさんが可愛いのである!!
普通は、夕陽の中に去って行く早川の背中に、山本親子orみどりさんたちが「早川さーん」と呼んでクロージングなのだが、

オサム「あ、早川さん!!」
口笛がしたのでオサムが振り向けば、そこに暢気な顔した早川がいるではないか。

早川「やーやーやー」
オサム「何処行ってたんだよー」
みどり「もうとっくに事件はズバットが解決しちゃったわよ」
早川「ふーん、そりゃまた」
さらに、みどりさんたちが、早川のことを軽蔑に近い目で見るのも、長坂脚本では見られない面白い演出。
オサム「それにしてもズバットって言うのは一体誰なんだろう? 早川さん知ってる?」

早川「えっ? あはっ、俺は、正体は知らんが、日本一、正義と愛の心を持った奴、だろうな」
オサム「えっ?」
早川はいけしゃあしゃあと自分のことを持ち上げると、
早川「な、東条?」
東条に意味ありげな笑みを投げる。

東条「うんー?」
唯一ズバットの正体を知っている東条、ニヤニヤしながら曖昧な返事をする。
早川「きっとそうだよ、すーっ、えっへっへっへっ」
そして、子供っぽく照れ笑いを浮かべる早川の顔でエンディングと言う、これまた珍しいパターン。
見てて思ったのだが、この辺の妙にほんわかしたムード、田口さんのホームグラウンドと言うべきウルトラシリーズで、ウルトラ戦士が怪獣を倒したあと、
隊長「あれ、○○は何処行ったんだ」
○○「おーい!!」
隊員「なんだ、お前、何やってたんだ」
○○「いや、ちょっと……で、怪獣は?」
隊員「あら、怪獣ならウルトラマンがとっくに倒しちゃったわよ」
○○「なんだー、そうかー」
隊長「まったく頼りにならん奴だな」
一同「どわっはっはっはっはっ」
みたいなお約束のやりとりがある(註3)が、それを意識したシーンじゃなかったのかなぁ。
以上、普段とはちょっと異なるテイストが其処此処に見られるが、「悪の組織」が警察署をまるごと乗っ取るという大胆なシチュエーションと、ハードな描写が光る力作であった。
前回レビューしたときには気付かなかったが、精査してみると、だいぶ突っ込みどころがあるシナリオで、この辺の完成度ではやはり長坂さんに一歩及ばないようであるが、個人的には、一人の作家が書くより、色んなライターが参加したほうが話に幅が出来るので、たまには違う作家が書くことも必要ではないかと思う。
註3……実際はそんなにないのだが、あくまで一般的なイメージである。
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