第35話「倒れたら立ちあがれ電!愛は生命の輝き」(1983年11月4日)
前回、マドーの新たな大幹部、泣く子も黙ってチャンネルを変える死霊界の総帥レイダーの妖術に苦しめられ、死の淵を彷徨った電であったが、リリィの献身的な看護と「聖なる者」の導きによって、何とか命を取り留める。
冒頭、崖の上に立ち、静かに横たわる海を見詰めている電。

電「出て来い、マドー!! 今度こそ容赦はしないぞーっ!!」
一見、心身とも元通りになったようであったが……
一方、電が衰弱死すると公言していたレイダーを、ポルターとガイラーがそれ見たことかと非難する。
ポルター「生きてるぞ、シャリバンが生きてる」
ガイラー「大口ばかり叩きおって、奴はまだピンピンしてるぞ!!
JAROに言いつけるぞ!!」
レイダー「屍も同然、そう言った筈」
ポルター「屍も同然?」
魔王サイコ、ワシビーストと言う魔怪獣を作り出し、レイダーの言葉が正しいかどうか、お試しで電を攻撃するよう命じる。
電、森の中の広っぱのそばをジープで走っていると、子供たちと野球をしていた千秋に呼び止められる。

千秋「電さーん、電さんも入れてあげるわ。一緒にやりましょうよー」
千秋「電さーん、電さんにも入れさせてあげるわ、一緒にヤリましょうよー」 ケース1・千秋の誘いに対する電の反応。

電「よーっ!!」
やる気40パーセント。

千恵「おいで、おいでー」
ケース2・千恵の誘いに対する電の反応。
電「よっしゃああああああーっ!!」 やる気200パーセント!!
げにも幼女の力は偉大である。
ま、実際は、千恵に対しても「よし!!」と、同じテンションで応じているのだが、映像を見てると、ツインテールが激カワイイ千恵に誘われたからやる気になったようにしか見えない。
いつもと変わらぬ明るさで、明に手取り足取りバッティングの指導をし、ついでに千恵にも手取り足取り指導したかった電だったが、それより先に事件が起きる。
ボールを取りに森の中に消えた千恵の、助けを求める悲鳴が上がったのだ。
それを聞いた電が、短距離走のワールドレコードをまとめて塗り替えるくらいの凄まじい俊足で、千恵を助けに向かったのは言うまでもない。

千秋「千恵!!」
一同が森の入り口に立って見下ろせば、JACの若い衆に似た浮浪者のような男が千恵を捕まえているのが見えた。

電「さあ、子供を放すんだ」
相手が素手なのを見て、ずんずん距離を縮める電であったが、森の中には同じ恰好をした仲間がいて、ナイフを手に襲ってくる。

電「いやっ!!」
前にも書いたが、電は幼女を前にすると、戦闘力が5倍に跳ね上がるのである!!

電「さ、千恵!!」
助けた千恵をお姫様抱っこしながら、敵の攻撃をかいくぐる電。
……
電からすれば、「マドーのみんな、ありがとう!!」と、あとで幻夢城にビール券でも贈りたい気持ちだったのではあるまいか。
電、千恵の体を高々と上空に放り投げ、その滞空時間の間に浮浪者たちをぶちのめし、

もう一度千恵の体を受け止めると言う、真性ロリコン戦士が生涯に一度はやりたいと願う華麗なアクションを決める。
電、千恵を千秋に手渡して、全員その場から逃がし、ファイトローの正体をあらわした浮浪者たちと激闘する。
ついで「赤射」すると、ワシビースト、ガイラーたちがあらわれるが、レイダーの仕業か、急に体が動かなくなり、
レイダー「お前は死ぬ、間もなく死ぬ」
幻影か実体か不明だが、レイダーがあらわれ、不吉な台詞をシャリバンの耳に吹き込む。

さらに、傍らの棺の蓋がひとりでに開き、中から、前回も出てきた死化粧をした電自身の体が転がり出る。
シャリバン「ああっ、くっ……」
戦意を喪失したシャリバンを、かさにかかって攻め立てるガイラーだったが、間一髪でリリィに救出される。
ガイラー「シャリバンめは尻尾を巻いて逃げて行きました、全く手応えなしです」
ポルター「生ける屍か」
ガイラー「シャリバンなどおそるるに足らん」(註1)
サイコ「ここで手を緩めるな、おびき出して今度こそトドメを」
註1……1983年度の「お前、どの口が言うてるの?」大賞に選ばれた名台詞。
と、背後にいたレイダーが、「私に任せろ」と、その任務を買って出る。
ポルター「いや、シャリバンは我らの敵だ」
ガイラー「余計な手出しは無用だ!!」(註2)
註2……1983年度の「人のフンドシで相撲取る奴」大賞に選ばれた名台詞。
サイコ「共同作戦で行け」
今度こそシャリバンの息の根を止めたいサイコは、大幹部総出による攻撃を命じる。
一方、電の異変を知ったコム長官は、秘書のマリーンを連れて、はるばる地球にやってくる。

そして、ハイテクメカを使って、電の脳を診察し、彼を悩ませているものの正体を知ろうとする。
その調査には快く協力した電だったが、

電「大袈裟だよ、何もコム長官まで来ることはなかったんだ」
リリィと二人きりになると、子供扱いはよしてくれと言わんばかりに憤慨して見せる。
電「今度会ったら叩きのめして見せるぜ、ほんとだよ」
リリィ「……」
相変わらず口だけ番長の電を、心配そうに見遣るリリィ。
コム長官とマリーンは、診察データを分析するが、モニターに映し出されたのは白い、ぼんやりした人形のようなものだった。

マリーン「一種、気体化した細胞体です」
コム「エクトプラズムだな」
マリーン「『恐怖新聞』の章タイトルで、男の人が吐いてる奴ですか?」
じゃなくて、
マリーン「あの霊的エネルギーですか?」
コム「うん、どうやらマドーは霊界と手を結んだようだ」
要するに、そのエクトプラズムこそ、レイダーの本当の姿なのだろう。
これがもやしっ子大ちゃんなら、コム長官が稽古をつけてやれば一発だが、経験が少ないとは言え、既に一人前の宇宙刑事である電に対し、そんなことをしても無意味なので、サバイバルテストを行い、電の闘争本能を呼び覚まそうと言うことになる。
もっとも、テストと言っても、バーチャル方式で、電の脳内で繰り広げられるアトラクションであった。
だが、電の心にレイダーが植えつけた「毒」は、コム長官の想像を超えて根深く侵食しており、そのシミュレーションの中でさえ、電はレイダーの影におののき、炎の罠から逃げることをやめてしまう。
コム長官、やむなくプログラムを中断する。
現実世界に引き戻された電には、その自覚がないらしく、
電「どうかしたんですか、俺……急に体が動かなくなってしまって……」
コム「焦っちゃいけない、今の君に一番必要なのは十分な休養だよ」
今回のコム長官、異様なほど優しく、逸る電を慈父のように言い聞かせるのだった。
その後、マドーは子供を人質にしてシャリバンをおびき出そうとする。

ポルター「ふふふふ、早く助けに来い、シャリバン、さもないと、子供たちはこの上から次々と……」
電「マドーめえっ!!」
出撃しようとする電の腕を、コム長官が掴み、
コム「行ってはいかん、これは君をおびき出すための……」
電「俺は行きます、放ってはおけません!!」
電、コム長官の制止を文字通り振り切ってグランドバースをあとにする。
その後、
コム「で、君は行かんのか?」 リリィ「え? あ、はは、まぁ、その……」
などと言う、心温まる会話が交わされたと想像するのもオツである。
実際は、

コム「臨戦態勢を取れ、いつでもシャリバンを救出できるようにな」
リリィ「はいっ」
コム長官はあくまで裏方に徹し、インドア派のリリィにイヤミを言ったりはしない。
今は、電の闘志を甦らせることが先決で、仲間の力を借りて勝利しても意味がないからである。
それに、コム長官はあの人質がダミーであることも見抜いていたのだろう。

果たして、電が現場に到着すると、子供たちの姿はなく、絞首刑の輪のように4本のロープがぶら下がっているだけだった。
電が振り向けば、土砂山の上に子供たちが立っていたが、やはりレイダーの作り出した幻影で、すぐにレイダーの姿に変わる。
レイダー「全てが幻」
電「貴様ぁ!!」
さらに、ガイラー、ポルター、ワシビースト、ファイトローたちが束になって襲いかかってくる。
ここから、ちょっと早いラス殺陣となるが、幻夢界に場所を変えると、再びレイダーの不気味な声が聞こえてきて、

人間の姿に戻った電が、自分自身にメスで切り裂かれそうになったり、自分の死体の入った棺が爆発して吹っ飛んだり、まさに夢とも現実とも突かぬ、恐ろしい目に遭う。
グランドバースを呼ぼうとしても、妨害電波が張り巡らされていて、それも出来ない。
本来の力を発揮できず、ワシビーストに良い様に切り刻まれるシャリバンを見て、

サイコ「ふぇーっへっへっっへっっ、へっへっへっへ……」
魔王サイコ、それが謹厳な仮面の下に隠された魔獣としての本性なのか、舌なめずりでもするように下劣な笑い声を上げる。
再び人間の姿になった電、夢中で目の前の川を渡ろうとするが、

優子「電」
電「母さん」
優子「その先は深くて危険よ、上がってらっしゃい」
背後の崖の上に、死んだ筈の母・優子があらわれ、優しく電に呼びかける。
これは、いわゆる「三途の川」を渡ろうとした電を、母の霊が引き止めた、怪談でよくあるパターンを表現しているのだろうか?
電の脳裏に、幼き日、山や川で、母と過ごしたときの懐かしい思い出が蘇る。

優子「これが雪割草よ、厳しい寒さに耐え、雪の中から元気に顔を出すから雪割草と言うのよ。なんて逞しいんだろう、こんな可憐な顔してて……電もこの花に負けちゃだめよ、厳しい寒さや冷たい雪も撥ね退けるくらいでなくちゃ」
電
「うん」 そう答える子役が蚊の鳴くような声なのが笑える。
ナレ「野草の好きだった母は、沢で足を滑らせて転落、その傷が元で若くして死んだ。母はことあるごとにシャリバンに教えた、名も知れない野草にも自然の猛威に耐えた育つ逞しい生命力があることを」
と、ナレーターによる説明が入るのだが、その死に方がいまひとつピンと来ないので、普通に病死で良かったんじゃないかと……
なお、優子を演じるのは「マスクマン」でもアキラの母親を演じていた吉野佳子さん。
ここで、シャリバンは現実世界に引き戻される。
シャリバン「母さんの夢を見た!!」
叫ぶシャリバンだったが、

目下のところ、あまり意味がないのだった。チーン。
ここは、千恵たちのことを思って自らを奮い立たせた11話のように、
シャリバン「そうだ、俺は母さんと約束したんだ、雪割草のような強い男になるんだって……こんなことでくたばってたまるか!!」
みたいな感じで、母親の思い出と結び付けて、一気に逆転した方がスッキリしたかな、と。
実際は、
シャリバン「ここでくたばってたまるか!!」
一応、奮起するのだが、それだけでは足りず、

聖なる者「諦めてはいけない、最後の力の一滴まで振り絞るのだ、シャリバン」
シャリバン「聖なる者よ!! 別に諦めてませんが……」
聖なる者「あ、そう? 余計なお世話だった?」
途中から嘘だが、前回同様、聖なる者が忽然と現れてシャリバンを励まし、それでやっと拘束を外すと言う段取りになっている。
しかし、これでは、母親のエピソードの役割がぼやけてしまい、11話と比べると、カタルシスに乏しいクライマックスになっている。
それに、二週続けて聖なる者に助けられた恰好になるのは、ヒーローとしていささか情けないものがある。
こうして、いまひとつ納得できないのだが、漸くレイダーの呪縛を払い除けたシャリバンは、闘志を取り戻してワシビーストを撃破する。
サイコ「カーッ!!」 あと一歩のところで勝利を逃したサイコ、悔しさのあまり、巨大な痰でも吐きそうな勢いで叫び声とも呻き声ともつかない声を上げるのであった。
勝利したものの、電は疲労困憊の様子でグランドバースに帰ってくる。

電「……」
コム「良くやったぞ、シャリバン」
倒れるように椅子に座り、「助けに来てくれませんでしたね」とでも言いたげな上目遣いでコム長官の顔を見上げる電を、大急ぎでねぎらうコム長官であった。
でも、いくら妨害電波に邪魔されたにしても、電の絶体絶命のピンチに彼らが何もしなかったのは動かせない事実で、電が恨みがましい目で見たのも、あながち管理人の妄想だけとも言い切れまい。
そう言えば、せっかくグランドバースの来援を封じながら、マドーが今回に限って戦闘母艦などによる攻撃をしなかったのは変だよね。

電「……」
ともあれ、コム長官の言葉に、今にも泣き出しそうな、感動に満ちた笑みを浮かべる電。

わざわざバード星から来た甲斐があったと、電の勝利をことほぐマリーン。

何もしなかったくせに、何かをやり遂げたような顔で微笑むリリィ。
以上、番組始まって以来の電の苦闘をあますところなく描いた力作であった。
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