第10話「11コレクション!! 幸福への招待」(1977年6月18日)
冒頭、若い女性が、純白のロングドレスと言う、いささか浮世離れした恰好で、横浜港の岸壁に立ち、汽笛の音に耳を澄ませたり、様々な種類の船が行き交う様子をぼんやりと眺めたりしている。
たまたまその近くに竜もいたのだが、こちらは単なる定期パトロールであった。
と、望遠レンズ付きのカメラをぶら下げた男がその女性、太田美紀の前に立ち、

男「すいません、海をバックに一枚撮らせて下さい」
美紀は快く応じるが、美紀の後方からその様子を見ていた竜は、カメラに武器が仕込んであることを見抜き、
竜「危ない!!」
豪快にジャンプして男の腕を掴み、
竜「何者だ?」
男「ぐっ」
と、植え込みから複数のマシンガンが突き出て、三人に向けて発射する。

今度も竜が美紀を地面に伏せさせ無事だったが、男のほうはあえなく射殺される。
美紀を狙うと同時に、男の口を塞いだのだろう。
しかし、だったら、最初からそれで撃てば良かったのに……
狙撃手がいなくなったあと、竜がカメラを誰もいないところへ向けてシャッターを切ると、

レンズから刃物が発射されるのだが、これが、発射の時点で下に傾いているようなポンコツ武器だったので、余計、クライムがおバカさんに見える。
竜「君を殺そうとしたんだ」
美紀「何故?」
竜「心当たりはないのか」
美紀「いいえ……でも、そんな、何かの間違いよ」
竜「とすると、人違いってことになるな」
あっさり結論付ける竜だが、さすがに人違いでマシンガン撃ってくる奴はいないだろう。
なので、ここは、自分自身(竜)が狙われたと思うのが自然ではないか。
美紀「いやだ、今日は良いことが起こるはずだったのにぃ」
また、それに対する美紀の反応も軽過ぎる。
人違いかもしれないとは言え、マシンガンで射殺されかけたんでっせ?
ぼやいていた美紀、ふと、竜のつけている赤いスカーフに目を留めると、笑みを浮かべ、

美紀「ママの言ってたことが当たったわ。もしほんとうに私が狙われたのなら、あなたは私を救ってくれた。やっぱり今日は良いことが起こったわ」
竜「良いこと?」
美紀によれば18歳の誕生日に赤いスカーフを巻いた男が彼女に幸運をもたらすと、彼女の亡き母親が言い残したらしい。
竜「お父さんは?」
美紀「知らないわ、どんな人かも」
などと話していると、今度は背後から乗用車が突っ込んできて美紀を轢き殺そうとするが、竜がお姫様抱っこして宙に舞い上がり、美紀の命を救う。

竜(どうやら人違いではなさそうだ……)
しかし、よくよく考えたらクライムは美紀の近くに竜がいることを知りながら襲ってるわけで、これじゃあおバカさんと言われても仕方あるまい。
人込みならともかく、他に誰もいないこんな見通しの良い場所で、長身の竜の存在に気付かないわけがないのだから……
ともあれ、竜は美紀が狙われる理由を探る為、そして美紀の護衛もかねて、マッハダイヤで美紀の勤めている花屋まで送るが、
クソ狭かった。チーン。
何しろ、元々レース用の車両だからね。
その後、竜とカレンは花屋で美紀の護衛をするが、出入りの業者や客に化けた刺客が次々と美紀を襲ってくる。
無論、竜たちが全て防ぐが、ジャッカーが護衛しているのを知りながら襲ってくるクライムが相変わらずアホに見えて仕方ない。
美紀はショックのあまり、店の二階の自分の部屋に駆け込み、テーブルに突っ伏して泣く。

カレン「美紀さん、もう大丈夫よ……」
どうでもいいが、美紀はこの店で住み込み店員として働いているのだろうか?
竜は窓際に立ち、
竜「誰か忍び込んでる」

美紀「えっ」
竜「さっきまで閉まってた筈だ」
いや、住人でもないのになんでそんなこと知ってるの?
第一、クライムは美紀の命を狙っているのだから、彼女のいない部屋に忍び込む必要はあるまい。
と、部屋の隅に写楽っぽい浮世絵を入れた額が落ちる。竜はそれを借り受け、鯨井に見せるのだが、なんでその絵が事件の鍵を握っていると考えたのか、その辺が良く分からない。
ともあれ、その絵は清川国丸と言う浮世絵師の肉筆画で、時価5000万はすると言う。

五郎「清川国丸の浮世絵はすべてあの有名なヨーロッパの美術商、ヘンリー・オオタのコレクションにしかない筈です」
鯨井「そうだ、戦後のどさくさにヘンリー・オオタがすべてヨーロッパへ持ち出したらしい」
五郎「何故一枚だけ日本に?」
竜「ヘンリー・オオタと太田美紀」
竜の指摘に五郎と鯨井がハッと振り向く。
そこへ文太が入ってきて、
文太「ヘンリー・オオタは一ヶ月前に死んでますね」
五郎「オオタコレクションを相続するのは誰か? 時価800億円の浮世絵コレクション……」
文太の持ってきた海外の雑誌に、ヘンリー・オオタの死についての記事が載っていた。
雑誌を手に取った竜は驚きに目を見張る。

何故なら、写真の中のヘンリー・オオタが、自分と同じような赤いスカーフを巻いていたからである。

鯨井「赤いスカーフはヘンリー・オオタのトレードマークだ」
竜「……と言うと、美紀さんが言った、赤いスカーフの男が幸せを運んでくるというのは……18歳になった父親が迎えに来るということだったんだ」
鯨井「そうか、太田美紀はヘンリー・オオタの娘だ」
五郎「800億円の相続人」
今回の話がいまひとつなのは、美紀が狙われる理由があっけなくジャッカーに分かってしまうことだろう。
ここは、理由が分からないまま美紀を守り続け、終盤になってその謎が明かされる……と言うようにした方が断然面白かったと思う。

カレン「どう?」
鯨井「うん?」
ここで、会話に加わらず一心不乱に鏡に向かっていたカレンが立ち上がり、誇らしげにこちらを振り向く。

なんとその顔は、美紀そっくりになっているではないか。
そう、天知茂方式で、カレンがゴムマスクで美紀に変装したことを表現しているのである。
言い忘れていたが、美紀を演じるのは清水めぐみさん。
特に美人ではないが、親しみやすい顔つきである。
一方、アイアンクローは、なかなか美紀を消せずにいるクライムボスを叱り付けていた。

アイアンクロー「娘を殺せばヘンリー・オオタコレクションはヨーロッパ独裁国のものになる」
クライムボス「この際、クライムで横取りしては」
アイアンクロー「たわけ、小娘を片付けたら数百億円にのぼる武器を売りつける手筈になっておるのだ」
クライムボス「!!」
アイアンクローの言葉に驚きの色を見せるクライムボスだったが、
「数百億の武器を売るより、800億そっくり奪った方がお得やん!!」と思ったからに違いない。
しかし、この話、色々と突っ込みどころがある。
何故オオタは妻子を捨ててヨーロッパに行ったのか?
そして、美紀が18歳と言うことは、オオタがヨーロッパへ渡ったのは1959年頃と推定できるが、さすがにその頃には「戦後のどさくさ」は収まっていたのでは?
また、アイアンクローの台詞から、オオタはその独裁国家に住んでいて、浮世絵コレクションもその国にあるらしいのだが、独裁国家なら、相続人の存在など無視してさっさと自分のものにしてしまえば良いのではあるまいか?
それをわざわざクライムに数百億円の対価を払って美紀殺しを依頼し、それで自分たちのものにしようというのは、物凄くまわりくどいやり方である。
なので、ここは、美紀が死んだ場合に浮世絵を相続することになる人物を登場させ、その人物の依頼でクライムが美紀の暗殺を狙っていることにした方がわかりやすかったと思う。
ついでにそれを赤尾弁護士にしておけば、ミステリーとしての平仄も合っていただろう。
それはともかく、アイアンクローは、パリにいるオオタの顧問弁護士・赤尾と、秘書の林愛子を利用して目的を遂げろとクライムボスに指示する。
クライムボスは直ちにパリに飛び、赤尾弁護士をあっさり射殺するが、

クライムボス「君はヘンリー・オオタの命を受けて孤児院でシスターをしていたことがある。つまり娘の養育係であった。だから本物か偽者か見れば分かる筈」
秘書の愛子は生かして、美紀の真贋を確かめる為に利用しようとする。
……
いや、ヘンリー・オオタ、美紀が孤児院にいることをずっと前から知ってたの?
じゃあ、なんでさっさと自分のところに引き取らなかったの?
バカなの? ねえ、そうなの?
そして当然、顧問弁護士の赤尾も、相続人たる美紀のことは知っているだろうに、オオタが死んで一ヶ月になるのに、なんで美紀に連絡して来なかったの?
バカなの? それとも面倒臭がり屋さんなの?
あと、愛子はせいぜい30歳くらいにしか見えないが、18年前からシスターをしていたって、おかしくないか?
まあ、こう見えて40歳くらいだとしたら辻褄は合うが、正直、今回のストーリー、支離滅裂である。
そのシスターだった女性が、赤尾の秘書をしていたと言うのも偶然の度が過ぎる。
それはさておき、今回のクライムボスを演じるのは、毎度お馴染み、ドクター・メデオの三重垣恒ニさん。
続いて、死んだはずの赤尾が愛子と一緒に来日するが、無論、その赤尾はクライムボスの化けた偽者であった。
空港では五郎と文太が迎えに来ていたが、手筈通り、隠しカメラで捉えた赤尾たちの映像を、ホテルに竜と一緒に隠れている美紀がチェックする。

竜「どうだい、本物?」
美紀「愛子さんです、あのブローチ、私がプレゼントしたんですもの」
竜はそれを鯨井に伝え、鯨井はそれを美紀に化けているカレンに伝える。

カレン「本物?」
鯨井「何しろ相手はクライムだ、本物とは言え、油断するな」
カレン「ええ、上手く演じて見せるわ」
美紀に化けたカレンの声は、ミッチー・ラブさんが吹き替えている。
やがて赤尾たちは、ニセの美紀の待つ大使館のような建物にやってくるのだが、ここは、国際科学特捜隊の施設なのだろう。

カレン「愛さん!!」
愛子「お嬢様!!」
玄関で、抱き合って喜ぶニセ美紀と愛子。
愛子が「お嬢様」と呼んでいるということは、愛子は子供の頃の美紀に、父親のことも話していたと考えるのが自然だが、美紀は父親のことは全く知らないと言っていた……
その後、オオタの写真を見せられたカレンは、
カレン「そう、この人がパパ……」
愛子「お嬢様との再会を心待ちにしておりましたのに」
赤尾「お父様もいつも心配していらっしゃいましたよ」

カレン「うっううっ……」
美紀になりきって嗚咽するカレンを背中で見ながら、
文太(良くまあ、泣けるもんだねえ……)
カレンの名演に半ば呆れ顔で感心する文太であった。
その後、庭を散歩していたカレンにナイフが飛んでくるが、カレンは人間離れした動きでかわし、木の上に飛び上がる。
……
いや、あくまで替え玉なんだから、そんなことしたらあかんやろ。
五郎たちに助けてもらわないと。
もっとも、それを見ている赤尾も愛子もぜんっぜん怪しまないのだから良い勝負で、なんだか、バカとアホが騙し合いをしているようで、そんなものを見せられている視聴者こそ良い面の皮である。
CM後、カレンが真新しいドレスを着ているが、

カレン「パパからの贈り物?」
愛子「亡くなる前、パリでお求めになったんですよ」
ここでまさかのサービスショットが炸裂する!!
ただし、これにはちゃんと意味があって、

愛子(ない、お嬢様の背中には、確か大きなほくろがあった筈……)
着替えを手伝っていた愛子に、自然な形で目の前にいる美紀が偽者だと見破らせる為であった。
しかし、くどいようだが、ヘンリー・オオタ、生前も自由気ままなリッチライフを送っていたらしいのに、なんで美紀と会おうとしなかったのか?
アイアンクローの言う、ヨーロッパ独裁国に住んでいて、自由に行動できなかった……と言うのなら、今まで挙げた疑問もだいぶ解消されるのだが。
ちなみに、赤尾たちが日本に来たのは、無論、相続の手続きをする為だろうが、その話が全く出て来ないのも不自然だよなぁ。
ともあれ、美紀が偽者だと知ったアイアンクローは、組織の力を利用して本物の美紀の行方を探させる。

具体的には、美紀の写真を大量に作り、それを、ごく普通の若者として街に溶け込んでいるクライムのメンバー(協力員?)に配るというものだった。
ちなみにこのゴーゴー喫茶のシーン、右端で、写真を手に踊っている女の子がいるが、この女の子の手の振り方が妙に遠慮がちで可愛らしいので、是非実際の映像をチェックして頂きたい。

アイアンクロー「ようし、ジャッカーは必ず娘と接触する筈だ」

鯨井「ジャッカー、クライムが動き出したとの情報あり」

アイアンクロー「尾行するんだ」

鯨井「尾行に気をつけろ」
ここで、それぞれの本部から部下に指示を出すアイアンクローと鯨井の姿がカットバックされるのが、ちょっと面白い演出。

美紀「東さん、退屈なさったでしょう」
竜「いや、美紀さんこそ」
その美紀は、引き続き竜に守られながら、とあるホテルの一室に閉じ篭もっていた。

そこへメイドがルームサービスのコーヒーを届けに来るが、そのメイドこそクライムのメンバーで、写真で見た女性が目の前にいるのを見てハッとする。
しかし、そうしないとストーリーが進まないから仕方ないのだが、竜が部屋の中にまでメイドを入らせているのが、いかにも不用心に見える。
コーヒーなど、入り口で受け取れば済む話ではないか。
それ以前に、この状況でルームサービス頼むなよ。
メイドがじっと美紀の顔を見ているのを見て、
竜「どうしたんです?」
メイド「い、いいえ……」
メイドはそそくさと部屋を出ると、すぐに電話をかけて仲間に知らせる。
その後、メイドは黒服の殺し屋を引き連れて再び部屋にやってくるが、またしても竜に妨害される。
竜が敵を追いかけて部屋を出たあと、建物の外から戦闘員が窓越しに美紀を狙撃しようとするが、誤ってメイドを撃ってしまう。
目の前で人が殺されるのを見た美紀はいわゆる心神喪失状態となり、ホテルを抜け出て、ドレスに裸足と言う異様な恰好で街をさまよう。
どうでもいいが、美紀がずーっと白いドレス着てるの、どうにかならなかったのか?
花屋で、白いドレスの上にエプロンつけて働いている姿もたいがい不自然だったが……
入れ替わりに竜が戻ってくるが、

部屋にはメイドの死体が転がっているだけだった。
……
惜しい!!(何が?)
何気にこの女優さん、妙な色気を漂わせてるんだよね。
五郎は、美紀が行方不明になったとカレンに告げ、ここでカレンは変装を解いて本来の姿になる。
そこへ鯨井から通信が入る。
鯨井「パリ支部より連絡が入った。パリ郊外で赤尾弁護士の死体が発見された。日本にいる赤尾は偽者だ!!」
それに続けて、車の後部座席で大笑いしている赤尾がゴムマスクを剥いでクライムボスの素顔になるが、これもとっくの昔に予想されたことなのであまり意味のないシーンとなっている。
ただ、ヒーローと「悪の組織」が、どちらも相手を騙そうとして偽者を作り出しているのは面白いかもしれない。
色々あって、美紀がほとんど無意識のうちにやってきたのは、冒頭の港であった。
そして再び竜と出会う。
今回の話、はっきり言って穴だらけなのだが、この再会のシーンはなかなか感動的である。

美紀「東さん……」
竜「美紀さん!! きっとここだと思ったよ」
美紀「私も」
この後、クライムボスと愛子、戦闘員、そして、極めて影の薄い今回の怪人デビルケーンがあらわれ、襲ってくる。
愛子が笑っているところから見て、彼女は金に目が眩んで積極的にクライムに協力していることがうかがえる。
でも、仮にもシスターとして長いあいだ美紀を育てて来たであろうに、このなし崩し的な闇落ちはいささか腑に落ちない。
ともあれ、ここからラス殺陣となり、その途中、クライムボスも愛子も、味方の銃弾によってあえない最期を遂げる。
エピローグ。
遺産相続のためにヨーロッパへ行くことになった美紀を竜が空港まで見送るが、

ゲストヒロインが最初から最後まで同じ服って、ありえない話だよね。
いくらカレンが化けたニセモノとして、女優さんが別の服を着ているとは言え。
それこそ、父親が買ってくれたと言う、あの服でも着せれば良いのに……
美紀「私、パパのコレクションは日本に里帰りさせて美術館に寄付することにします。じゃ行って来ます」
なかなか良い雰囲気の二人だったが、健全明朗なちびっ子向け特撮ドラマと言うことで、キスは勿論、手を握ることさえなく二人は別れるのだった。
以上、プロットそのものは期待できるのだが、シナリオが杜撰で意外性もなく、道具立ては賑やかだが、いまひとつ盛り上がりに欠ける惜しい作品であった。
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