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「気まぐれ天使」 第21回「破れかぶれで30だァ!!」 後編


 翌朝、珍しく早起きした忍が、階段を降りてそのまま家を飛び出そうとすると、綾乃が口をもごもごさせながら出て来て、

 
 綾乃「どうも、お誕生日、ほんと、おめでとうございます」
 忍「あ、あ、あ、ありがと、ありがと」
 光政「ご愁傷さまだね、30じゃあ」
 忍「この、悪たれ小僧め!!」

 そう言えば、忍が12年前から下宿しているとすれば、光政がまだ物心つかないときから忍と同居してる訳で、ほとんど実の兄弟と変わらないよね。

 
 綾乃「今日はお早くお帰り下さいませね、私、奢りますから」
 忍「バサマがぁ?」

 たかり魔の綾乃の滅多にない言葉に、忍が怪訝な顔になる。

 もと子「ちょっと、ほんと、それ」
 綾乃「鯛の尾頭付きがいいかしら、それともステーキでしょうか、とにかく早くお帰りくださいましね」
 忍「ああ、よっしゃ、よっしゃ」

 忍、半信半疑ながら、悪い気はしないので気合を入れて家を出て行く。

 だが、疑り深いもと子は、指先を舐めて、それで自分の眉毛を触って見せる。

 これ、今の若い人にはさっぱり意味不明の仕草だが、「眉唾」と言って、自分のツバを眉毛に塗ると狐に化かされずに住むという昔からの言い伝えに基づく古式ゆかしい所作で、要するに、綾乃の話が信用ならないと言ってるのだ。

 まあ、当時だって、実際にそんな仕草をする人はあまりいなかったと思うが……

 さて、忍がオフィスに着くと、友江は机の上に顔を伏せてすやすやと眠っているではないか。

 
 忍「あれ? あーあー、あの人よりたまには早く来ようと思ってるのに……」

 てっきり、友江が自分より早く出社したのだと考えるが、

 忍「ねえ、一体どうしたの」
 由利「徹夜したみたいよ」
 忍「ここで?」
 信子「仕事の鬼だからねえ」
 社員「ね、ね、加茂さん、美女のああいう姿もまたいいもんですね」
 社員「ほんと、ほんと」
 由利「でも、台無しねえ、ああなると、美女も」

 そうではなく、あれからずーっと仕事を続けて会社に泊まりこんだことが分かる。

 エキストラ男性社員たちは、友江の寝顔を眺めて喜んでいたが、

 忍「何を言ってるんだ、お前たち、あのままにしといたら風邪引くじゃないか。心の優しさってものがないんだから」

 相手によっては急に真面目になる忍は、同僚を非難しつつ、自分のコートを友江の体にかけてやる。

 由利たちは冷やかすが、そこで友江が目を覚まし、

 
 友江「……」

 振り向いて、そこに忍がとろけるような笑みを浮かべて立っているのを見て、反射的に、プライベート用のなごやかな表情になる。

 友江「いやだわぁ、寝ちゃったのね」
 忍「風邪引きますよ」
 友江「ああ、ありがとう」
 忍「しかしタフですねえ、徹夜するなんて」

 と、ここで一転して部長の顔になって、鋭く忍の顔を見詰め、

 友江「出来たの?」
 忍「はっ?」
 友江「うちへ持って帰った仕事」
 忍「ええ、そりゃもう、勿論、あの、だいたいまだ……」
 友江「だいだいまだ? 時間がないの、モタモタしないで早くやって頂戴」

 友江のエンジンが温まって来たのを見て、由利たちはとばっちりを受けないよう、そそくさと自分の席に戻る。

 一方、荻田家では、渚も友江に負けないくらいの集中力で延々と毛糸と格闘していた。

 
 渚「し、ご……」
 綾乃「み、よ、でしょう、今の……だから、これ長いよ、ここが、あ、ここはいいのか……もう何モタモタやってるのよ、時間がないのよ」
 渚「もう、うるさいなーっ、目数が分かんなくなっちゃったじゃない」

 が、何しろ覚えたばっかりだし、綾乃が自分も編めない癖に横からごちゃごちゃ口を出すので、なかなか捗らずにいた。

 その後、荻田夫妻が居間でじゃれているところに綾乃が降りてきて、自分が食材を買って来ると言い出す。

 もと子がメモを書こうとするが、

 綾乃「任しといて下さい、これでも昔は買い物上手って言われたんですから」
 もと子「そうですか」
 綾乃「行って参ります」
 もと子「あら、ちょっと、お財布、おばあちゃん」

 綾乃はお金すら受け取ろうとせずに鉄砲玉のように飛び出してしまう。

 荻田「持ってんだろう、金ぐらい、今日は奢るって話だったんだからさ」

 最近だいぶ大人しくなったせいか、二人が綾乃の本性を忘れてうっかり任せたのが荻田家の悲劇を招くことになる。

 
 一方、いよいよ友江が忍を従えて予算会議に臨もうとするが、徹夜したせいか、得意の(?)貧血を起こし、オフィスを出ようとしたところでぶっ倒れてしまう。

 忍「部長、どうしたんですか!!」

 友江はすぐ医務室へ担ぎ込まれるが、

 
 看護婦「軽い貧血ですから、ちょっと休んでればすぐ治ります」
 忍「あの、どのぐらい休んでればよろしいでしょうか」
 医者「そうですね、2時間ぐらい」
 友江「2時間も? 寝てられないわ」

 友江はベッドから起き上がろうとするが、やはり足がまだふらつき、忍に寄りかかる。

 ちなみにこの医者を演じてる俳優、スルーした6話(註2)で、渚が就職しようとしたトルコ(ソープ)の支配人やってた人である。

 註2……つまらないからスルーしたのではなく、あまりに面白いのでレビューするのが勿体無くなったのだ。

 友江「加茂さん、あなた出て、予算会議」
 忍「え、僕一人でですか」
 友江「そう、あなたしかいないの」
 忍「ええ、まあ……」
 友江「早く」
 忍「は、はあ、やってみます」

 それはともかく、友江はやむなく忍に代役を頼む。

 最初はとんでもないと言わんばかりの忍だったが、けっきょく引き受ける。

 だが、成算があってのことではなく、そんな会議など出たこともない忍は途方に暮れていた。

 と、いない筈の榎本があらわれたので、忍はまさに「地獄に仏」のような顔になり、

 
 忍「エノ、大変なことになっちゃったんだよ」
 榎本「ええ、今聞きましたよ」
 忍「ほんと、それで来てくれたのか、いやぁ、助かったよ、お前はさすが友情を感じる。はい、これ」

 忍、とっとと資料を押し付けて、榎本に代わってもらおうとするが、世の中そんなに甘くなく、

 榎本「何を勘違いなさってるんですか、僕は今日休暇中ですよ、映画に行く前にちょっと寄っただけです、ま、頑張って下さい」
 忍「おい、エノ、冷たいこと言うなよ」
 榎本「先輩、言ったでしょ、僕はね、無駄なことはしたくないんですよ」

 榎本はつれなくそう言うと、忍を置いてさっさと行ってしまう。

 もっとも、休みを取ったのにわざわざ会社に顔を出す奴もいないだろうから、やはり会議のことが心配になって顔を出したと言うのが本当のところだったのではあるまいか。

 などとやってると、友江を呼び出す社内アナウンスが流れ、忍は死刑の宣告をされたような顔になる。

 忍「来たぁ~っ」

 一方、荻田家でも、とんでもない事態が発生していた。

 もと子「え、ステーキの肉?」
 店員「ええ、こんな特上品、300グラムが6人前入ってます。お祝いだそうですから、12000円に勉強しときます」

 いきなり肉屋が12000円なりの肉を届けに来たのだ。

 ちなみに100グラム当たり666円となるが、あまりに昔の作品なので、安いのか高いのかさっぱり分からない。

 荻田「じゃあ、勘定はまだ済んでないの」
 店員「ええ、こちらで貰ってくれって」
 荻田&もと子「ええっ」

 これだけで済めばまだしも、さらに鯛の尾頭付き6人前、特級酒2本が相次いで届けられ、

 
 もと子「まぁ、あの、ばあさん!!」

 もと子は怒りのあまり、手近にあった亭主の首を絞めるのだった。

 無論、綾乃の仕業だったが、迂闊にも綾乃を信用して野放しにした彼らにも責任がないとは言えまい。

 さて、忍は感心にもばっくれずに会議に出ていたが、何しろ自分たちが提議するプランの見積もりさえ理解できない男にまともなプレゼンが出来る筈もなく、

 
 忍「……」

 会議が始まっても、書類と睨めっこするだけで、一向に発言しようとしない。

 
 ちなみに、経理担当重役と言う役で、柳生博さんが出演している。

 この下書きを書いたときにはご存命だったのだが……

 後ろにいる太めのおばちゃんもやはり重役のひとりで、過去に何度か出ているが、柳生さんはこれ一回きりのゲストである。

 専務「加茂君、どうしたの」
 忍「ただいま、3000億細胞組織のコンピューターを整理しております」
 経理担当重役「コンピューター?」
 忍「そう、つまり、私自身です」
 重役「冗談はよして、早く言いなさい」
 経理担当重役「早く言いなさい」

 いい加減痺れを切らして専務たちが催促するが、忍はいきなりテーブルを強く叩くと、

 忍「シャラップ!! ドントスピーク!! ……英語で今すぐに報告すると言う意味です。いや勿論、ジョークです」
 専務「……」

 この後、忍はクビを言い渡されたそうです。

 「気まぐれ天使」 ―完―

 ……と言うのは嘘だが、忍が、ドラマの中でも滑り倒しているのは事実で、ここはもうちょっとどうにかならなかったのかなぁと言う気がする。

 まあ、このドラマはあくまでホームコメディーであって企業ドラマではないのでその辺のことはごく抽象的にしか描かれず、忍が宣伝プランについて具体的な内容や数字を持ち出すことはないのである。

 医務室の友江の様子、ついで、なんだかんだで心配になって会社の喫煙コーナーに座っている榎本の姿を挟んで、再び会議室。

 
 忍「だからこそ強力な宣伝が必要なんです!! キャンペーンが必要なんです、今までのような通り一遍の宣伝では何の力もありません!!」

 忍、並み居る重役たちを前にして一世一代の熱弁をふるっていた。

 相変わらず具体性はないが、迫力だけは十分で、日頃は口うるさい専務も口を挟まず聞き入っていた。

 忍「ここで我々は下着の持つ意味を、もう一度再認識しようではありませんか。かの有名なアメリカの大統領ドン・カーター氏が仰っております」
 経理担当重役「ジミー・カーターでございます」
 重役「ジミー・カーターだそうよ」
 忍「私の場合は、ボスと言う意味でドンを用いております、かのドンが言っております、寒かったら二枚でも三枚でも履きゃあいいじゃないかと!! おそらくトップレディーであるカーター夫人も大統領の提案を実践して、ニ、三枚、余計に下着を履いているに違いありません!! ドン・カーター氏の声は電波に乗って世界中に広まっております、我々下着屋にとって、これほど強力な宣伝があるでしょうかーっ!!」

 はっきり言って、内容はわやくちゃなのだが、忍が大音声を張り上げて自信たっぷりに断言するので、重役たちも気を飲まれたようにひたすら無言で忍の演説に耳を傾けている。

 ついで、あらかじめ用意していたのか不明だが、日本に大寒波がやってくるという週刊誌の記事を見せ、

 
 忍「地球は氷河期に突入したのです!! つまり、来年も再来年も物凄く寒くなるんだぞ~っ!!」

 ほとんどヤケクソになったように、意味不明の言葉を叫ぶ。

 ここから音声を消して、忍が身振り手振りをまじえて重役たちの間を動き回って必死に説得している様子が、無声映画風に描かれる。

 と、そこへ榎本が入ってきて、忍と一緒になって重役たちを口説く。

 
 忍「2億!! この宣伝部に是非、お願いします!! 僅か2億です」
 榎本「そうです、2億です、私は宣伝マンとしてのすべてをこの予算にかけております。もしこの予算が通らなければ私は辞表を提出します」
 忍「提出します!!」

 最後は自分の首をかけてまで嘆願する二人。

 あれだけ友江の企画のことを非現実的だとけなしていた割りに、いい加減な榎本であったが、友江の為というより、孤軍奮闘している忍の為であったのだろう。

 プレゼンを聞き終わった専務は、経理担当重役に判断を委ねる。

 専務「経理担当重役、どうです?」
 経理担当重役「は、はい、大変迫力のあるお話で数字のゼロを飛び越えておりますね」
 専務「だから?」
 経理担当重役「だから……」

 ……

 ほどなく、二人が肩を落として会議室から出てくる。

 忍「二人ともクビだってさ」
 榎本「でしょうねえ……」
 忍「やっぱ、氷河期はまずかったよなぁ」

 「気まぐれ天使」 ―完―

 ……と言うのは嘘で、

 
 友江「ええ、じゃあ、あの予算通ったの?」
 忍「イエース」

 これはドラマなので、あっさり成功しちゃうのである!!

 しかも、

 
 忍「いや、イエスじゃないんです、あの、2億取っちゃったんですよ」
 友江「なんですって?」
 忍「すいません、部長が出した予算は2000万だったでしょ、それを私、ゼロをひとつ間違えまして2億って言ったら、それ通っちゃったんです」
 友江「信じられないわ、ほんとに?」

 と言う、冗談みたいなオチがつくのだった。

 しかし、見積書にはちゃんと2000万って書いてあったんだろうから、向こうが精査すればすぐ分かることで、これはちょっとやり過ぎのような気もする。

 まあ、このドラマの主眼はそんなところにはないので、目くじら立てるほどでもないか。

 さすがに友江も俄かには信じられない様子だったが、そこへ榎本が顔を出し、

 榎本「ほんとなんです」
 友江「榎本さん、どうして……」
 榎本「いやぁ、この副部長代行、参ったなぁ!!」

 榎本、喜びを爆発させて忍の体を押しやり、

 榎本「部長ねえ、もう僕は先輩と代わりますよ、副部長」
 忍「いやね、会議の途中、こいつが飛び込んできてくれたんですよ、だから僕はね、あと何言ってもこいつがカバーしてくれると思ってね、デタラメ言ってたらね、ゼロひとつ間違えて2億って言ったらそれが通っちゃったんですよ!! みんなこいつのお陰です」
 榎本「なに言ってんです、先輩、先輩がね、あの時強引にやってくれたから僕も強引に出来たんですよ」
 忍「いや、お前だってさ、俺が間違えたの承知してそのまま強引にやってくれたから」

 互いに手柄を譲り合い、果ては感激して握手する二人の姿に、友江は少しやけたように、「羨ましいわ、お二人が」と、その友情の厚さを讃えるのだった。

 対照的に、荻田家の居間では険悪なムードが濃密に垂れ込めていた。

 
 もと子「一体どうするつもりなの、説明して頂戴」
 綾乃「ですから、今日は加茂さんのお誕生日ですから」
 もと子「ええ、そうですよ、けどね、お肉は一枚2000円でこの鯛は6000円なのよ、それにこの酒と花、一体何様だと思ってんのよ、下宿代もろくに入れられない人にね、こんなご馳走する筋合いはないんです、うちは」

 綾乃が勝手に注文した高級食材を前に、もと子がかつてないほどの怒りを爆発させていた。

 肉が12000円、鯛が6000×6で36000円だとすれば5万円以上で、いつも家計のやりくりに苦労しているもと子が激怒するのも無理はないが、さすがに鯛が一匹6000円もしないかな?

 でも、6匹で6000円だとすると1匹1000円で、いくらなんでも安過ぎるか。

 綾乃「悪うございました、私、返してきます」
 もと子「そうしなさい、そうしなさい」

 もと子は綾乃に品物を返させようとするが、

 荻田「何もそこまでしなくたって……」
 もと子「だって一体、こんな豪華なもの、うちじゃあねえ、一生涯縁のないものなんですからね!!」
 荻田「でもさ、この寒い最中にね、こうやって届けてくれたんだから」
 もと子「じゃあどうすんの、こんな大金どうするの?」
 荻田「どうするったって……しょうがないだろう、こうやって受け取っちゃったんだから」

 お人好しの荻田がなだめ、結局うやむやになってしまうのだった。

 再びプリンセス下着。

 オフィスに戻った友江が、みんなに予算会議の結果を報告している。

 
 友江「そう、もう皆さんもご存知のことと思いますけど、2億です。わが宣伝部は大変なことになりました」
 由利「じゃあ、部長、やっぱり本当のことだったんですね」
 友江「ええ、私が出した予算の10倍もの大型予算を獲得したんです、これはまさに信じられないような快挙です。それもみな、このお二人の力です」

 部下の手柄を横取りするようなさもしい友江ではないので、ここでもすべて忍と榎本のお陰だと公言しているが、ぶっちゃけ、榎本が来なくても予算は通っていただろうから、それこそ榎本が忍の手柄を横取りしているように見えなくもない。

 ともあれ、二人は相変わらずお互いを立てて、由利にも「素敵ね、男の友情って」と羨望の眼差しを向けられる。

 友江「ですから、今日はお二人の友情と大型予算獲得を祝って乾杯することにしましょう。私が奢ります」

 友江の景気の良い言葉にどっと沸く一同。

 一方、荻田家でも、ステーキや鯛など、荻田家始まって以来の豪華なディナーが、文字通り所狭しとコタツの上に並べられていた。

 
 もと子「こんなにおごっちゃって、まあ、乗らないじゃないの」
 綾乃「あ、旦那様、その碁盤をこちらに出していただいて……」

 皿を手に右往左往していた綾乃、渚が座って編み物をしている碁盤をテーブル代わりにしようと言い、

 
 荻田「渚ちゃん、どいて、お尻どけて」

 荻田に押されて畳の上に落ち、可愛いお尻を突き出す渚。

 ……

 さっきも言ったような気がするが、尻フェチ系キャプ職人の使命は、どんなに些細なお尻画像も残らず読者の皆様にお見せすることなのである!!

 光政は早速ステーキを食べようとするが、

 綾乃「ダメダメダメ、今日は加茂さんのお誕生日なんですから、お帰りになるまで待ちましょう」
 光政「ちぇっ、熱いうちに食べた方が良いんだよ」
 渚「おっちゃん、ゆっくり帰って来い、じゃないとマフラー間に合わないよー」
 荻田「早く帰って来いよー」
 もと子「子供みたい」

 だが、渚の願いが通じたのか、忍は入社以来初めてとなる大手柄に舞い上がって、誕生パーティーのことなどすっかり忘れていた。

 友江たちはとりあえず居酒屋に行き、

 
 友江「じゃあ、わが宣伝部の前途ある将来の為に乾杯」
 一同「乾杯!!」

 と、そこへ豪華な料理が運ばれて来たので、

 由利「良いんですか、部長、それにこんな活き作りまで」
 社員「部長、ほんとに良いんですか」

 日頃つつましい生活を送っている部下たちは、友江の懐具合を心配するが、

 友江「だいじょうぶよ、そのために出口の近くに席を取ったのよ」
 一同「え゛っ?」

 じゃなくて、

 友江「だいじょうぶよ、ここはね、友達のお父さんのお店なの、遠慮しないでどんどん召し上がれ」
 榎本「じゃ遠慮なく頂きます」

 もと子たちはいつまで経っても忍が帰ってこないので、痺れを切らして食べ始める。

 もっとも、まだ怒りの収まらないもと子は食事どころではなく、腹立ち紛れに花びらをむしゃむしゃ食べる。

 綾乃、それを見て遠慮するようなタマではなく、平然と肉を頬張り、渚にも勧めるが、渚は感心にも、食べずに忍の帰りを待つという。

 一方、忍たちは、居酒屋からダッシュで逃げて(註・逃げてません!!)、クレイジーホースと言うゴーゴークラブに行き、みんなで楽しく踊りまくる。

 ただ、忍たちはともかく、友江までノリノリで踊っているのはいまひとつリアリティーがないし、ダンスシーンが無駄に長く、見ていてあまり面白いものではない。

 
 唯一の収穫は、由利の、乳首の位置が視認できる、割とでかいおっぱいである。

 再び荻田家。

 料理はすっかり平らげられ、荻田と綾乃は特級酒をヒヤで飲んですっかり良い気分になっていた。

 
 荻田「いやぁ、肉は旨かったし、酒も旨いし」
 綾乃「鯛もおいしゅうございました」
 荻田「いやー、一年分ぐらい食った感じだなー」

 調子に乗った光政は、来月は荻田の誕生日だからまたやろうと言うが、

 もと子「冗談じゃありませんよ、もううちはね、とうぶん、お誕生日なんかなし!!」

 渚は延々と編み続けてかなりの長さになったマフラーを荻田と綾乃の首に巻いて、

 渚「ねえ、おっちゃんさー、長いのが良いって言ってたけど、このぐらいでいいかね」

 と、意見を聞くが、酒が入った綾乃は、自分で言い出した事ながら、もう忍の誕生日のことなどどうでもよくなっていて、

 
 綾乃「もう、こんなもの、解いちまってさー、おばーちゃんのズロースにでもして頂戴」
 渚「ダメよーっ!!」

 忍の誕生日を祝いたいというのは結局ただの口実で、こうやって酒にさえありつければ何でも良かったのではあるまいかとさえ思える、綾乃の人間国宝並みのいい加減さであった。

 もっとも、約束をすっぽかした忍にも責任の一端はあるのだが……

 忍たちは、踊りがひと段落したので二階のテーブル席に移り、友江が改めて乾杯してみんなをねぎらう。

 友江「最後にもうひとつ報告があります、加茂さん、お誕生日おめでとう」
 由利「えーっ、加茂さん今日、お誕生日なの?」

 そして、あらかじめ用意していたプレゼントを忍に渡すと言うサプライズをかます。

 しかし、それまで友江が忍の誕生日のことを気にする描写は全くなかったし、昨夜から徹夜で仕事をして、その後は医務室で寝ていた友江に、そんなものを用意する余裕があっただろうかと、若干の唐突さは否めない。

 それに、由利たちはともかく、親友の榎本まで知らなかったと言うのはあまりに薄情ではないか。

 さて、プレゼントの中身は白いシルクのスカーフで、みんなは、それを巻いた忍を「アラン・ドロンみたいだ」などと冷やかすが、ここで漸く誕生パーティーのことを思い出した忍はそれどころではなく、たちまち酔いが醒めてしまう。

 
 忍「誕生日だよ……参ったな、バサマ、ステーキ……部長、あのう、まことに恐れ入りますが、先に帰らさせて頂きたいんですが……いや、急用を思い出しまして」

 忍、友江に断ると、返事も待たずにその場から飛び出す。

 事情を知らない由利たちはあっけに取られて見送る。

 榎本「部長、さすがですね、部下の誕生日まで知ってるとは」
 友江「……」

 すかさず榎本がその抜け目なさを讃えるが、友江はにっこり微笑んで見せるだけだった。

 忍はタクシーを飛ばして下宿に戻り、おそるおそる中に入るが、

 
 もう全員寝てしまったのか、居間には渚がいるだけで、待ちくたびれてコタツの上に突っ伏して眠っていた。

 あ、いま気付いたけど、この渚の姿、忍が出社した時の友江の姿をなぞっていたのだ。

 忍は抜き足差し足で渚の横に座ると、「渚ちゃん」と優しく揺り起こす。

 渚「うん……はぁーっ、おっちゃんお帰りぃ」
 忍「ただいま」
 渚「良かった、無事で……」
 忍「ごめん」

 何の連絡もしなかったので、事故にでも遭ったのではないかと心配していたのだろう、渚は忍の顔を見ると、嬉しさのあまり編んだセーターを抱き締める。

 渚「待ってたのよ」
 忍「食わないで待ってたのか」
 渚「うん」
 忍「あのー、帰ろう帰ろうと思ったんだけどね、ディスコでね、アラン・ドロンがオランウータンになってね……物凄くゴーゴーが楽しくてね」

 あれこれと言い訳をしていた忍だが、

 
 忍「ごめん」

 最後は両手を合わせて謝る。

 
 無論、それくらいで怒るような渚ではなく、慈母のような優しい笑みを浮かべて忍の顔を見詰める。

 渚「おっちゃん」
 忍「うん?」

 渚は立ち上がると、寝食も忘れて編み続けて、とんでもない長さになったマフラーを忍の首に
巻きつけ、

 
 渚「おっちゃん、長いのが良いって言ってたけど、どれくらい長いのがいいの?」
 忍「お前、これ一人で編んだのか?」
 渚「うん、朝からずうっと……おっちゃん、この色嫌い?」
 忍「……」

 自分が冗談で言った言葉を真に受け、ひたすら編み続けた渚のひたむきさに、申し訳ないような、なんとも言えない気持ちになる忍であった。

 渚は残りの部分も忍の首に巻きつけると、忍がつけていた白いスカーフを手に取り、

 渚「綺麗だね、うわーっ、つるっつる」
 忍「ああ……ありがとう、ありがとう」

 忍、シルクのスカーフと、ぼろぼろのセーターにそれぞれ礼を言うと、

 
 忍「加茂忍、昭和22年2月22日イノシシ生まれ、当年30才、きわめて健康」

 カメラに向かって自己紹介し、敬礼して見せる。

 これって、鶴田浩二か何かの真似かしら?

 
 最後は渚がほっぺにチューをしたところで幕となる。

 考えたら、友江と渚、二人の女性に心のこもった贈り物をもらったのだから、忍、幸せものである。

 以上、忍の30才の誕生日と言う軸に、仕事にかける友江の熱意、綾乃の暴走、渚の献身的愛情、忍と榎本の友情、そして忍のまさかの大ホームランなど、いくつものエピソードを多重的に絡めた、後味の良い力作であった。
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Author:zura1980
70~80年代の特撮、80年代のドラマを中心に紹介しています。

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