「白い素肌の美女」は、美女シリーズ第21弾、1983年4月16日放送。
原作は「盲獣」となっているが、部分的にそのモチーフが使われているだけで、ストーリー自体は「一寸法師」である。
なにしろ「盲獣」は、乱歩の作品の中でも最高にグロくてエグい描写が山盛りの問題作なので、忠実に映像化したら、とてもじゃないがテレビで流せるような代物ではないのだ。
もっとも、スタッフは別に「盲獣」の映像化を目論んで挫折し、やむなく「一寸法師」にした訳ではなく、最初から「一寸法師」をベースにするつもりだったのだろう。
ただ、今度は「一寸法師」と言う言葉がコードに引っ掛かりそうなので、内容とはあまり関係のない「盲獣」をタイトルに入れたのではないかと管理人は推理しているが、本当のところは分からない。
まあ、今となっては、どっちのタイトルも無理っぽいよなぁ。
冒頭、80年代のケーハクな世相を煮詰めてレコードに焼き固めたような極めて薄っぺらなディスコミュージックの流れるディスコ。

およそ「美女シリーズ」らしからぬ導入部であったが、もっとらしからぬことに、文代に引っ張られてイヤイヤ踊っているうちに、だんだん楽しくなってくる明智さんのトホホな姿が、正直、幻滅なのである。
この滑り出しが、早くもこの作品が凡打に終わることを示唆していたが、

文代「先生、大好き」
明智「えっ、なんか言ったか」
文代「いいの」
喧騒に紛れて明智に愛の告白をする二代目・文代こと高見知佳さんはなかなか可愛い。
ただ、五十嵐さんと比べても幼く見える高見さんでは、まるっきり明智の娘にしか見えず、いまひとつピンと来ないシーンである。
「パパ、大好き」と言わせた方がしっくり来る。
で、驚いたことに、このディスコのシーン、ストーリーには全く関係ないのである!!
要するに、ディスコブームだからディスコのシーン入れるべと言う、農協のおやじ的発想なのであろう。
※追記 後になって気付いたが、原作では、主人公が浅草で若い娘たちの「安来節」を見たあとから物語が始まっているので、一応、それをモチーフにしているのだろう。
ま、ストーリーと関係ないのは事実だが。
それはさておき、熱気むんむんのディスコからひとり抜け出てホッと一服する明智さん。
と、噴水を隔てた闇の中に、若い尼さんらしき女性がいたが、なんと、若い女のものらしい切断された片腕を、風呂敷に包んでいるではないか。
明智、ギョッとしてその尼僧のあとを追いかけ、とある山寺まで来て見失う。
その寺の住職に訪ねてみるが、「当山は尼寺はない」とニベもない。
さっきの出来事が現実なのか夢なのかもはっきりせず、狐に抓まれたような気持ちで頭上の夜桜を見上げる明智さん。

明智の声「桜の木の下には死体がある、そんな小説の一節を思い出させるような春の宵だった。美しい満開の桜は何かしら怪しい気持ちを掻き立てる。事実、この時既に、美しく残酷な愛の悲劇が始まっていたのだった」

明智の予言者めいたモノローグに続いて、その、何処となく不吉な桜木の上に、タイトルが重なってオープニングとなる。
ちなみに乱歩ファンには説明不要だが、この導入部は、「一寸法師」の冒頭、主人公の野崎三郎が夜の浅草公園をのたくっていると、目の前で一寸法師(小人)が風呂敷から生腕を落とすと言う印象的なシーンから来ているのである。
オープニング後、色とりどりの風船を結ばれた小包のようなものがふわふわ空から降ってきて、河川敷に落ち、その場にいたビンボーでビンボーでしょうのない子供たちが餓狼の群れのように殺到し、包みを開くが、

中に入っていたのは、切り口も生々しい、切断された二本の女の足だったと言う、とんでもない事態となる。
今なら、このシーンだけでお蔵入りである。

回転する輪転機に扇情的な見出しが躍るという、今では見られなくなった定番演出となるが、

この見出しが、心ある読者から、
「なんで足だけなのに美女だって分かるんだーっ!!」 と言う、強烈なツッコミを入れられたのは言うまでもない。
いつものように、明智事務所に顔を出して油を売っている波越。

文代「まだ身元分からないんですか」
波越「ああ、全然手掛かりなし……文代君、灰皿は?」
文代「その大きな目は伊達についてるんですか」
波越の問い掛けに、文代は憤然と壁の一方を指差す。

そこには、スモーカーにとっては死刑宣告に等しいきつい標語が掲げてあった。
しかし、いくら明智さんの健康のためとはいえ、仮にも客商売なのに灰皿が一枚もないと言うのは非常識だよね。

波越「あちあち、おい、小林君、なんかないかよ」
小林「はい、これどうぞ」
波越「なんだよ、ひどいバケツだな」
灰の処分に困った波越の前に、笑顔で水の入ったバケツを差し出す小林少年。
波越によれば、死体は切断されてから三日ほどの、二十歳前後の女性と言うことしか分からないと言う。
波越、肝心の明智がなかなか来ないのでイライラしていたが、文代さんがパソコンに向かってなにやら打ち込んでいるのを見て、興味深そうに覗き込む。
波越「あれ、これマイコンじゃない、何のデータだ」
文代「先生の結婚相手の条件です」

それでモニターに表示されるのがこの表なのだが、はっきり言って
クソみたいなデータだった。
つーか、これ、結婚相手の条件じゃなくて、文代が花嫁候補(見合い相手?)のデータを主観で数値化したものではあるまいか?
その後で、「100パーセント完璧じゃなきゃ、絶対に許さない」と言っているが、そんな化け物みたいな女性がいる訳がなく、文代さん、明智を結婚させたいのかさせたくないのか、いささか態度が分裂気味であった。
どっちにしても、意味不明のシーンで、ここは是非カットして頂きたかった。
たぶん、流行りのマイコン(死語)を画面に出したかっただけなのだろう。
やがて、珍しく和服姿の明智が飄々と入ってくる。

文代「わあ、先生、わはは、渋い渋い」
明智「えー?」
小林「ほんと、決まってますよ」
まるで、七五三の時の母親のように、明智の着物姿を絶賛する文代さん。
波越「なんだい、落語の研究会かい」
明智「まさか、ちょっと茶会に呼ばれましてね」
波越「のどかだねえ、良いのかなぁ、そんなのんきなことをやってて」
明智「例の両足が発見された事件ですね。私も昨夜気になるものを見たんですよ」
波越「そう、またしても明智君が手を貸してくれるなんて心強いなぁ」
図々しくも、勝手に明智が出馬するものと決め付け、その手を握る波越だったが、

文代「ストップ、ストップ!!」
すかさず文代さんが割り込んで、チョップでその握手を断ち切る。
文代「先生の社交生活の邪魔をしないで下さい」
波越「社交生活?」
文代「そうですよ、それでなくても婚期が遅れてね、大変なんですからね」
明智「う、うん……」
文代「ほら、先生、行きましょ行きましょ」
明智「あ、ああ」
文代に腕を取られ、入り口の方に連れて行かれる、それこそ七五三を迎えた子供のように他愛のない明智さん。
あるいは、ファザコン娘に言いように振り回されるマイホームパパと言ったところか。

文代「はい、今日の分」
明智「気が利くね」
それでも、外出すると言うので、文代さんに金側のシガレットケースを渡され、顔をほころばせる明智さんだったが、

蓋を開けてみると、中には5本しか入っていなかった。
明智「これだけ?」
文代「そ、はい、先生、行ってらっしゃい」
明智「ふっ」
明智、やれやれと言う顔でシガレットケースを胸元にしまい、部屋を出て行く。
今更言っても仕方ないが、文代さんには5本などと言う甘っちょろい処置ではなく、0本で明智さんを送り出して欲しかった。
ほんと、煙草は体に毒やで。
ともあれ、明智は山野文化学院の院長&経営者である山野五郎の屋敷を訪ねる。
茶室に通された明智だったが、茶会と聞いていたのに他の客の姿がなく、所在なげに座って待っていると、

百合枝「お待たせ申し上げました……はじめまして、山野の家内・百合枝でございます」
待つほどのこともなく、桜色の着物を着た若く美しい女性があらわれ、丁寧に挨拶を述べる。
ヒロイン、山野の後妻・百合枝を演じるのは、シリーズ二度目の出演となる叶和貴子さん。
いまひとつ状況が飲み込めない明智であったが、とりあえず、百合枝の点ててくれたお茶を、ししおどしの音を聞きながら、作法どおりに喫す。
百合枝「実は少しばかりお願いしたいことがございまして」
明智「は?」
百合枝「……誰っ?」
改まった口調で何か言いかけた百合枝であったが、誰かの気配を感じて部屋を飛び出す。
見れば、サングラスを掛けた男が、廊下に膝を突いて控えていた。
百合枝「こんなところで何をしているのです」
鉄心「はい、奥様の御用がおありかと」
百合枝「用があるときは呼びます」
鉄心「申し訳ございません」
男は、百合枝の咎めるような声に深々と頭を下げるが、

サングラス越しに見える右目が、なんとなく人をバカにしたような義眼になっていた。
百合枝「下がっていなさい」
鉄心「はい」
鉄心を演じるのは「魅せられた美女」にも出ていた中条きよしさん。
これが「盲獣」の主人公の快楽ド変態殺人鬼のアンマにあたるのだろうが、原作では、こんなにイケメンではない。
出鼻を挫かれた百合枝は、明智を誘って庭に出る。
明智「マッサージ師?」
百合枝「はい、宇佐美鉄心と申します。私がこちらに嫁ぐ前からかれこれ20年、出入りしてますの」
明智「目が御不自由のようですね」
百合枝「でも片方だけですから日常生活に不自由はないと思いますわ……お茶会の名を借りて失礼かと思ったんですが、どうしても内聞にお願いしたいことがございまして……」
百合枝、ここで茶会と言うのが明智を呼び出すための口実だったと打ち明ける。

明智「ははぁ」
百合枝「明智先生、一人娘の三千子を探し出してくださいませ」
明智「お嬢さんを?」
百合枝「突然姿が見えなくなりましてもう五日になります」
娘と言っても先妻の娘で、百合枝の口ぶりから折り合いが悪いことは察せられた。

百合枝「お帰りなさい……酔ってるのね」
三千子「ほっといて、私の勝手でしょう、なによ、パーティーで少しお酒飲んだくらい。はぁーっ、息が詰まる、お父様は例によって書斎ね」
百合枝「心配してらしたのよ、お父様」
三千子「嘘、娘の私なんかどうだっていいのよ、お父様が大事なのは山野家と山野文化学院の名誉と体面」
百合枝「何を言うの、子供が可愛くない親が何処にいます? お父様はあなたが可愛いからこそ……」
ある夜、酔っ払って帰ってきた、いかにも素行不良娘風の三千子に、百合枝があれこれ言い聞かせようとするが、

三千子「聞き飽きたわ、そんなおためごかし、心配そうな顔の下であざ笑って舌出してんでしょう」
百合枝「三千子さん……」
三千子役の美池真理子さん、演技はいまひとつだが、ふっくらとした丸顔が、なかなか可愛いのである。
三千子「私の悪口、あることないこと言いつけて、継子イジメがそんなに面白い?」
百合枝「あんまりだわ……」
大映ドラマの見過ぎか、百合枝のことを典型的ないぢわる継母だと決め付ける三千子に、耐えられなくなったように俯く百合枝。
これ、少し前の「天国と地獄の美女」のことがあるので、百合枝が貞節な妻&継母のふりをして、実際は三千子の言うとおりの人間なのではないかと一瞬視聴者に思わせてしまうのが、なかなか優れたキャスティングになっている。
三千子「私に嘘泣きは通じないわよ、お父様とは違うんだから」
三千子がなおもネチネチ百合枝をいたぶっていると、その父親・山野五郎が二階の書斎から降りてくる。

三千子「おとうさまぁ、三千子が悪いんじゃないのよぉ、百合枝さんがぁ……」
コロッと態度を変えて、甘ったるい声で父親に媚びるように訴える三千子であったが、山野は聞きもあえず、
山野「百合枝さんじゃない、お母様だろ、お母様と言いなさい」
三千子「私と7つしか違わないのにお母様だなんて、お気の毒だと思って……」
山野「どうしてそう素直になれないんだ」
三千子「……」
それこそ「おためごかし」にあれこれ言い訳する三千子を一喝すると、
山野「この百合枝がお前のことでどれだけ心を砕いているか、君も遠慮せずにもっと叱ってやりなさい、母親なんだから」
百合枝「……」
山野「良いかね、下らん男たちとの夜遊びはいい加減にしてお母さんの言いつけ守りなさい」
山野、娘に厳しく申し渡して出て行くが、

三千子「なによっ!!」
その目付きから、口では憎まれ口を叩きながら、心の底では父親の愛を求めているのは明らかであった。
いやぁ、正直、ノーマークだったけど、真理子ちゃん、いいよ!!
特に、子犬のようにツンと上を向いた鼻がたまらなく可愛い!!
それを踏まえた上で、
百合枝「今時、神隠しなんてあるんでしょうか」
明智「神隠し?」
百合枝「だってそうとしか思えないんです」
百合枝によれば、原作(一寸法師)の章タイトル「令嬢消失」と言う言葉通り、三千子がいなくなった時の状況は、それこそ神隠しにあったようにしか思えないと言う。
山野はそれがショックで寝込んでしまったので、代わりに百合枝が明智と会う為にセッティングされたのが、今回の茶会だったのだ。
明智はともかく、三千子のいなくなったと言う部屋を見せてもらい、家政婦のキミさんから話を聞く。

キミ「五日前でしたか、旦那様はひとみさんとご一緒にお帰りになりました」
明智「ひとみさん?」
キミ「学院で主人の秘書をしております、小松ひとみさんです」
再び回想シーン。

山野「書類の整理が終わったらゆっくりして行くといい」
ひとみ「はい」
山野「何か三千子が話したいと言ってたから」
秘書と言うより、お嬢様のような格好のひとみであったが、山野の態度も、三千子に対するのとはまるで別人のように穏やかであった。
ひとみは、仕事を終えると三千子の部屋に行き、何やら話していたと言う。

三千子「あとは、あなた次第……」
映像では、三千子の台詞がはっきり聞き取れるが、実際にはキミさんにも詳しい内容までは分からなかったのだろう。

ひとみ「……」
ひとみを演じるのは、管理人イチオシの飯野けいとさん。
三千子「ひとみさんがお帰りよ」
キミ「まあ、お紅茶入れましたのに……夜分ですのでくれぐれもお気をつけて」
ひとみ「ありがとう」
キミさんが紅茶を持っていくと、入れ違いに帽子を目深に被ったひとみが出て来て、言葉少なに帰って行ったという。
それが午後10時頃の出来事で、その1時間後に外出していた百合枝が帰宅する。
百合枝は三千子の部屋に行き、ノックをして声を掛けるが、もう寝てしまったのか、何の反応もない。
翌朝、新しいピアノが届いたので三千子に知らせに行くが、やはり反応がない。
不審に思って合鍵で中に入ると、三千子の姿は影も形もなかったと言うのだ。
しかも、窓は内側から鍵が掛けられ、いわゆる密室状態となっていた。

明智「靴はどうですか、もし家出をなすったとすれば、一足はなくなっている筈ですが」
キミ「それなら普段お履きになってる赤い靴が見えません」
百合枝「あ、それと、赤い小さなバッグ……ポシェットって言うんですか」
明智は考え深げに腕を組むと、
明智「一方では厳重な戸締りがしてあって、一歩も外へ出られない筈なのに、家出をなすった証拠が揃ってると言うわけですね」
百合枝「はあ」
明智「ひょっとしたら、お嬢さんはまだ家の中にいらっしゃるんじゃありませんか」
百合枝「えっ」
明智「このピアノは?」
百合枝「はい、あの日、新しく入れ替えたものですが……」
明智、ドキッとさせるようなことを言うと、ピアノの前に行き、重い蓋を開ける。

百合枝の目には、一瞬、ピアノの中に横たわっている全裸の三千子の死体が映るが、無論、それは百合枝の見た幻に過ぎなかった。
ちなみにこのヌードは、本人なりか、脱ぎ女優さんなのか、良く分からない。
本人なら、もっとはっきり分かるように見せるだろうから、脱ぎ女優さんだろう。
自分の描いた幻影にショックを受け、百合枝はその場に倒れてしまう。

続いて、別室に寝かされている百合枝の体を、鉄心が人形でも弄ぶように撫で回しているシーンとなる。

鉄心の愛撫を嫌がるでもなく、夢見心地で快感を覚え、赤い唇をあえがせる百合枝。
大変気品のあるエロスであったが、「盲獣」の剛速球のエロ描写と比べると、いかにも物足りず、工事用の安全靴越しに痒いところを掻いているようなもどかしさがある。
せめて、パイは出してもらわないと……脱ぎ女優さんでもいいから。
その2へ続く。
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