第26話「女体を人体実験する悪魔の病院長」(1984年2月10日)
と言う訳で、久しぶりの「新ハングマン」のお時間です。
以前から、最終回をレビューしていないことが気になっていたのですが、今回、やっと素材を入手できたので書きました。
冒頭、川に架かる橋の上を病院から抜け出してきたような男がふらふらと歩いている。
男は橋を渡りきったところで、力尽きたようにその場に座り込んでしまう。
(ワシって、こんな役ばっかり……) と、演じている大村千吉さんが思ったかどうかはさだかではない。
近くにいたパトカーの警官が声を掛けていると、早くも救急車がやってきて、医者によると、男は「太陽の里」と言う介護施設から逃げ出した患者だという。
だが、救急車に乗せる前に、男は死んでしまう。
その後、「夢の島公園」に園山がやってきて、待ち合わせをしているチャンプの姿を探していたが、

ふと茂みを覗き込むと、いましもアベックが一戦おっぱじめているところであった。
いま、真冬なんですけど……

園山「……」
一見、謹厳な紳士風の園山、実はかなりのスケベで、目を逸らさずにその痴態を食い入るように見詰めていると、頭上からチャンプの声が飛んでくる。
チャンプ「すっきやなぁ、そのやんも」
園山が驚いて見上げると、なんと、木の上にチャンプがいるではないか。

園山「なにしてんだ、そんなとこで」
チャンプ「え、マンウォッチング……いわゆる人間観察やね。こっから見下ろしとると、アベックがよう見えまんのやわ」
園山「昼間からご苦労なこったな」
チャンプ「この場所は特等席やさかい」
チャンプの言う「マンウォッチング」って、絶対違う意味で使ってるよな。
その後、場所を変えて、やっと仕事の話になる。
チャンプ「報酬は?」
園山「300万」
チャンプ「なぁ、そのやん、人間っちゅうのは飴玉で動くもんだっせ」
園山「そりゃとりあえずの調査費だ、報酬はそのほかにひとり頭100万ずつ……合計700万」
チャンプ「ほんまかいな、そのやん」
妙に気前のいい園山にチャンプが疑いの目を向ける。
園山は条件としてさっきの「特等席」を譲ってくれと言うが、無論ただの冗談で、どうせ最終回だから景気良く出しちまえということなのだろう。
チャンプが会社に戻ると、加代子が焼き芋を食べながら週刊誌を読み耽っていた。

チャンプ「あら、野川さん、お芋ですか、絵になってますね」
加代子「何がです」
チャンプ「孤閨をかこつ人妻が、冬の昼下がりに焼き芋を手にしながら、溜息ついて皮むいて……あのひと今頃どうしているかしら」
加代子「あーっ、もう、いやらしい!!」
チャンプの意味ありげな言い方に、加代子は悲鳴を上げて食べかけの芋を放り投げる。
チョメチョメの面目躍如と言う感じの、遠回しのセクハラであったが、この直前に書いた「マシンマン」のレビューの下書きで、焼き芋をネタに似たようなことを書いていたことを思い出し、遂にチョメチョメと思考回路まで同じになったのかと、若干衝撃を受ける管理人であった。
それはともかく、加代子が見ていたのは芸能人の婚約記事で、2000万円と言うエンゲージリングに羨望の眼差しを向ける加代子に、チャンプは旦那の生命保険で買えばよろしいと冗談を言うが、加代子は本気で怒り出して早引けしてしまう。
それと入れ替わりにETたちが来て、やっと仕事の話となる。
まずスライドに映し出されたのが、冒頭に出て来たあの男だった。
チャンプ「赤城良次57才、死因は肺がんだ」
ヌンチャク「死因に何か不審な点でも?」
チャンプ「いや、不審な点はない。いやぁ、あると言えばあるかな」
ET「どういうことだ」
赤城はいわゆる浮浪者で、慈善団体の「太陽の里」に入院していたと言う。
「太陽の里」は、海津洋一郎と言う男が経営している、高級老人ホーム、病院、障碍者の作業施設、刑余者の更生職業訓練施設など、複合型の厚生施設であった。
ヌンチャク「確か海津ってのは、その前歴を決して語らないって言う」
チャンプ「そうそうそう、謎に包まれた慈善家と言われてる」
しかし、赤城良次って、どっかで聞いたような名前だな。
まぁ、漢字はあてずっぽだけどね。
チャンプによると、「太陽の里」では、この一年間で54人の死亡者が出ているらしい。
ET「太陽の里の中に人を死に追いやる何かがあるに違いない、GODはそう睨んでるんだな」
と言う訳で、彼らに与えられた任務は、「太陽の里」および海津の正体を暴くことであった。
まず、チャンプが、老人ホームを経営している小出と言う男に扮して、真っ正面から「太陽の里」に見学を申し込む。
一見、善人そうな事務局長(?)と、その部下は、快くチャンプの願いを聞き入れ、施設内を案内してくれる。

岡部「あそこで踊ってらっしゃる方が、海津先生です」
チャンプ「はぁ、ご老人と一緒にフォークダンスですか」
中山「えらぶったところのない、立派なお方です」
チャンプ「なるほど、同じ老人ホームを経営していくものとしては見習うところ大ですな」
海津の姿を見て、心にもない賛辞を述べるチャンプ。
ちなみに海津は多々良純さん、事務局長を中山昭二さん、その部下を美女シリーズでお馴染みの岡部正純さんが演じているが、後者二人の役名が分からないので、便宜上、俳優の名前で呼ばせていただく。
そう言えば、多々良さん、「ギャバン」でも踊ってたよなぁ。
海津は、世界平和文化アカデミーと言う、いかにも胡散臭い団体から叙勲を受けるため、五日後、NYに行く予定だと言う。
チャンプはさらに所内を見て回る。
チャンプ「24時間態勢ですか」
中山「ええ、いつ誰でも診察が受けられるようにと海津院長の方針です」
チャンプ「なかなか出来ることじゃありませんね」
岡部「ここには無料で入院中の患者もかなりいます」
チャンプ「無料ですか」
中山「弱者切捨ての世の中に、何とか楔を打ちたいという願いからやっています」
後から思えば噴飯モノの抱負を語る事務局長。
チャンプは窓から見える別棟の建物について尋ねる。
中山「特別病棟です」
チャンプ「ご案内いただけませんか」
中山「いや、あそこには重症患者や伝染性の病気の患者が隔離されていますんで、ちょっと……」
やんわりと断られ、チャンプもあっさり引き下がる。
チャンプが引き上げようとしていると、ちり紙交換の軽トラが乗り付けて、

あけみ「オサムちゃん、私みたいな女でも務まるかな」
オサム「心配すんなよ、みんなここで職業訓練受けて、立派に社会人としてやってんだ」
あけみ「体売ってお金儲けること覚えちゃってるしさぁ」
オサム「そのことは忘れろよ、この門くぐった時から、あんた別人に生まれ変わるんだから」
いかにもやさぐれた感じの女性が、暴走族崩れのクールス風の若者に紹介されて「太陽の里」に入所しようとしているところであった。
ヨウスケ「お姉ちゃん、頑張ってね」
あけみ「ありがとう、坊やの為に頑張ってみるか」
だが、オサムたちが生きているあけみを見たのはそれが最後となってしまう。
チャンプは念のため、オサムの写真も撮っておく。

ET「怪しいのはこの特別病棟だな」
マリア「ちり紙交換屋が紹介者ってのもちょっと臭うわね」
チャンプ「あの様子ではぎょうさん紹介しとるようやね」
とあるビルの一室で、「人類幸福の輪 太陽の里 後援会~」と言う、完全にどっかの宗教団体がやってるとしか思えない会合が開かれている。

岡部「支部長をはじめ、皆様方班長のお力で先月は無事10名の方が社会復帰されました……その結果、施設のほうにも余裕が出来ましたので、今月は出所間もない刑余者、特に若い男性を重点的に紹介していただきたいと……」
それはオサムのような「太陽の里」の紹介者を集めた定例会議のようで、参加者の中にはセーラー服の女子高生の姿もあった。
どうせなら、この小奇麗な女子高生に人体実験して欲しかったなって、管理人の隣に住んでる変質者が言ってました。
しかし、彼らは純粋に善意でこんなことをしているのだろうが、男の言う「社会復帰」と言う言葉が本当は何を意味しているのかを知れば、卒倒していただろう。
まぁ、10人全てではなく、中にはほんとに更生した人もいるのかもしれないが……
ETとマリアは、週刊誌の記者を名乗ってそのオサムから話を聞く。

ET「海津洋一郎の特集を組むことになってな」
オサム「おい、口の利き方に気をつけろよなぁ、言い方があるだろうが、海津さんとか、海津先生とか、俺、あの先生のこと尊敬してるんだから」
ET「そいつは済まなかったな、ところであんた、太陽の里に色んな人を紹介してるらしいな」
マリア「赤城さんを紹介したのもあなた?」
オサム「ああ、自慢じゃないけどもう20人以上紹介しているよ。今月の目標は刑務所帰りの若い男だ」
オサムは海津に心酔しており、彼とじかに会えるのを自慢していたが、二人がどんな経緯で知り合ったのか、何の説明もない。
普通は、オサムもあの施設の出身者と言うことになるのだろうが、今回はちょっと無理だからね。
チャンプ「ボランティアか、どうも寒イボの立つ言葉やな」
マリア「太陽の里のガードが堅い以上、突破口は木所オサムしかないわね」
ET「刑務所帰りの若い男を捜していたな……」
と言う訳で、彼らはヌンチャクを出所したばかりのどチンピラに仕立て、オサムのツテで「太陽の里」に潜り込ませる。
ヌンチャクはまず身体検査を受ける。

中山「前田アキオ25才、家族はなしですね」
ヌンチャク「はい」
中山「ここでの生活は規則規則で厳しいが、耐えられますか」
ヌンチャク「はい、頑張ります」
中山「じゃあ職業訓練所のほうへどうぞ」
だが、尺の都合か、施設でのヌンチャクの様子が一切描かれないのは物足りない。
しかも、24時間態勢で見張られている筈なのに、次のシーンでは早くも自分の部屋を抜け出して特別病棟に侵入し、誰にも見咎められずに事件の核心となる部屋に到達してしまうのだから、ますます物足りない。
部屋には、たくさんのモニターが置かれ、人体に関する様々なデータが表示されていたが、

ガラス窓の向こうには、全裸の若い女性がベッドに拘束されて横たわっていた。
今ではまずありえない過激なシーンだが、どうせならもっと可愛い子にして欲しかった。
ちなみにその女性こそ、オサムが紹介したあけみであった。

ヌンチャクが盛んに写真を撮っていると、帝国軍のヘルメットみたいなのを被った二人の人間があちら側に入ってきて、メスで女性のお腹を引き裂いている様子。
てっきり、以前にもあった臓器売買でもしているのかと思ったが……
ヌンチャクはほどよいところで引き上げるが、敵に見付かりそうになるとか、警報装置に引っ掛かるとか、最後まで、ドキッとするシーンがないのには困ってしまう。
また、ヌンチャクは侵入する際に窓を切り抜いているのに、その後、施設の人間がそれに気付いた様子がないのはおかしい。
もっとおかしいのは、

チャンプ「ちり紙交換屋が連れて行った女やないか」
ヌンチャク「ええ、既に死んでました」
次のシーンで、ヌンチャクがあっさり施設から出て、仲間に写真を見せていることである。
いや、海津たちにとってはヌンチャクは囚人or家畜みたいなものなのだから、こんな好き勝手に行動できるというのはどう考えても変である。
せめて施設から脱出するシーンが欲しかった。
それはともかく、ヌンチャクの台詞でさっきの女性が死体だったことが分かり、視聴者をヤな気持ちにさせてくれる。

マリア「海津たちの狙いが分かったわ、ヌンチャクが撮ったこの写真はBHCとコレラ菌が人体に与える影響を追ったデータよ」
チャンプ「なんじゃそのBHCっちゅのは」
ET「神経を麻痺させる猛毒だ。高濃度となれば呼吸神経を麻痺させて瞬時のうちに人を殺すことも可能だ」
チャンプ「すると彼女はその犠牲者か」
マリア「なんのためにそんなことを?」
ET「細菌兵器だ、海津は密かに細菌兵器を開発していたんだ」
マリア「じゃあ、死亡率が異常に高いって言うのも……」
ヌンチャク「実験の犠牲者か」
そして、彼らの目的が臓器売買以上にヤバいものであることがわかる。
……って、それをサブタイトルに堂々と書くのやめてーなー。
熱血漢のヌンチャクは直ちにハンギングしませうと鼻息を荒くするが、
ET「海津が細菌兵器を開発してどんなメリットがある?」
チャンプ「いや、裏で操ってる人間がいるんだろう」
冷静なETに指摘され、その前に海津の黒幕を突き止めるべと言うことになる。
その後、マリアとETが再びオサムに会っていると、アパートの管理人のおばさんがヨウスケを抱いて慌てふためいてやってくる。
おばさん「ヨウスケの様子がおかしいんだよ」
マリア「熱があるわ」
と言っても、救急車を呼ぶほどではなく、医者が駆けつけてヨウスケを診察し、マリアたちもそれに付き合う恰好となる。

オサム「俺の命、どうなってもいいよ、こいつだけは助けてくれよ、頼むよ、先生」
医者「心配要りません、ちょっとした消化不良です。明日になれば治りますよ」
オサム「なんだよ……心配掛けやがって」
その子煩悩な様子からも、オサムがとても悪事に加担するような人間には見えず、彼が何も知らされずに海津の手助けをしていることは明白であった。
ちなみに、診察を終えた医者が、部屋の隅にカップヌードルの容器などが無造作に積み上げてあるのを見て、
医者「食事は時間通り食べさせていますか」
オサム「はい、すいません、男手なもんですから」
医者「いけませんな、きちんと時間通りに食べさせないと」
と、注意するのだが、なんか、ものすごーく奥歯にものの挟まった言い方に聞こえる。
この場合、問題なのは食べる時間じゃなくて、食べるモノだと思うんですが……
たぶん、日清がスポンサーだったんだろうなぁ。
医者が帰った後、おばさんはヨウスケを施設に預けるべきだと主張する。
どうやらヨウスケはオサムの実子ではないらしい。
熱に浮かされながら、「ママー、ママー」と必死に訴えるヨウスケに、

マリア「だいじょうぶよ、ここにいるわよ」
母性本能をくすぐられて、その手をしっかり握り締めて優しく語り掛けるマリアであった。
その後、再び公園で話している三人。
ET「管理人から聞いたよ、あの子はお前の子供じゃないそうだな」
オサム「俺の子だよ」
ET「蒸発したお前の友達夫婦が押し付けていったそうじゃないか」
オサム「俺がてめーの子だって言ってんだよ!!」
二人は純粋な親切心から、施設を紹介してやろうと言うが、
オサム「保母がなんだ、栄養士がなんだよ、施設のガキが一番欲しがってんのはなー、一緒に風呂入ってくれたり、一緒に寝てくれる親なんだよ!! てめえのこと心配してくれる人間が欲しいんだ!!」
ET「……」
オサム「あんたなんか何にもわかっちゃいねえよ。俺にはわかんだよ、俺は孤児院の出身だからよ……俺は親が欲しかったよ」
マリア「でもね、愛情だけでは子供は育てられないのよ、あなたはヨウスケ君の面倒見て満足かもしれないけど、ヨウスケ君にとってそれが幸せだと思えないわ」
オサム「てめえらの指図なんか受けねえよ!!」
マリアが諄々と説得するが、オサムは激しく反発して立ち去り、結局事件のことは聞けないまま終わる。
今回の話、プロット自体はハードで底が深いのに、それに面白くも何ともない親子の情愛を持ち込んでしまったため、話が変に湿っぽくなってしまったのが最大の敗因だろう。
そんな「パパと呼ばないで」みたいな設定は要らないから、ヨウスケの存在は消して、オサムとあけみが恋人同士と言うことにして、施設に入ったまま行方不明になったあけみのことをオサムが探していて、その過程でハングマンと知り合う……みたいなストーリーにした方が盛り上がったと思う。
無論、その場合、あけみはもっと綺麗な女優さんに演じてもらうことになる。
二人には突っ張って見せたオサムだったが、ある日、「太陽の里」を訪れ、

海津「じゃあ、ヨウスケを手放すのか」
オサム「ええ、色々考えたんですが、どっかいい施設があったら紹介願いませんでしょうか」
海津「それは構わんが、オサムくん、ほんとにいいのか」
オサム「ええ、ヨウスケの為にはそれが一番いいんです」
オサム、見かけほど話の分からない男ではなかったのだが、その相談をよりによって海津にしたのが身の不運であった。
その後、海津が車で出掛けるのを、ヌンチャクがバイクで追いかけるが、やっぱり、これ、変だよなぁ。
ヌンチャクが施設から抜け出しているのに、海津たちは一切騒ぎ立てないのだから。
んで、海津はとあるホテルに行き、黒幕と会うのだが、

北見「結構、このデータなら、先方は満足だ」
それを演じるのが、平田さんと同じく、特撮レジェンドの佐原さんなのだった。

海津「うちの研究員の労作です」
北見「ごくろうさん」
研究員「いえ、こういう実験の機会は滅多にありませんので、貴重なデータを得ることができました」
北見「ところで今度は保育園を開いてもらえんかね」
海津「保育園?」
北見「名目は生み捨て、子殺しの世の中から子供を救う」
研究員「BHCの幼児に与える影響を調べるんですか」
そして、海津の腹心の研究員を演じるのが、「ひとりぼっちの地球人」の剣持伴紀さんなのだった。
多々良さんは言うまでもなく「ギャバン」の豪助だし、これだけ特撮にゆかりの深いキャストが集まった回は初めてではなかろうか。
しかも平田さん以外は全員悪役と言うのが面白い。

北見「そのとおり、誰にも気付かれない少量を5年10年吸ったらどうなるか、そのデータを先方は欲しがっている」
海津「わかりました」
北見、今度は子供を使って人体実験しようと、まさに鬼畜のようことを言い出すが、海津たちは眉ひとつ動かさず、平然と引き受ける。
シリーズ中、屈指の極悪人たち……である筈なのだが、あんまりそう見えないのは、実際に出てくる被害者が赤城とあけみくらいしかおらず、彼らのやってることが具体的に描かれていないからだろう。
もっとも、そんなもん具体的に描くのは、いくら規制がゆるい80年代でも無理だったのかもしれないが、似たような話の「2」の27話ではもうちょっと踏み込んだ描写をしていたと思う。
それはともかく、黒幕の癖にガードの甘い北見は、ヌンチャクに尾行されているとも知らずにタクシーで帰宅し、名前や住所まで突き止められてしまう。
ところが、マリアがコンピューターでその名前を調べても、データベースに引っ掛からず、正体が全く掴めない。
二人が困惑していると、ひとりで調べ物をしていたチャンプが戻ってくる。
北見の正体についてはGODに頼むことにして、チャンプは一枚の写真を取り出す。

それは、旧帝国陸軍の将校と思われる数人の男たちが写っている古い写真だった。
ヌンチャク「なんですか、これ」
チャンプ「陸軍部隊の細菌部隊だ」
マリア「悪魔の部隊と言われたあの?」
チャンプ「そう、この中に海津がいるんじゃないかと思ってね」
そう、固有名詞は避けているものの、ちょっと際どい話になるのである。
ヌンチャク「(海津に)似てる人間なんていないじゃないですか」
チャンプ「アホ、整形してるちゅうことも考えられるがな」
ヌンチャク「整形してたらますますわかんないじゃないですか」
マリア「だいじょうぶ、やってみるわ」
ヌンチャク「どうやって」
マリア「顔はいくら変えられても絶対に変えられないところがあるの、それは頭、頭蓋骨なの」
と言う訳で、マリアがコンピューターで解析したところ、その将校のひとりが、海津だと言うことがわかる。
そこへETが入ってきて、

ET「ちょっとこいつを見てくれ」
チャンプ「海津洋一郎氏、保育園運営に乗り出す、平和文化アカデミーで協力要請……」
ヌンチャク「今度は子供を実験材料にする気か」
ET「そう思って間違いないな」
マリア、ふと嫌な予感がして、ひとりでオサムのアパートに行く。
果たして、部屋にはヨウスケの姿がなく、オサムがひとりで酒を飲んでいた。

マリア「ヨウスケ君は?」
オサム「いねえよ」
マリア「いないって、あなたまさか、海津のところへ?」
オサム「ああ、預かってくれるって言うからお願いした」
マリア「預けたぁ? それで、海津は今何処にいるの」
オサム「一体どうしたっつんだよ」
やむなくマリアは海津の正体を教え、あけみの死体の写真を見せる。
オサム「冗談じゃねえよ、海津はこんなことできる人間じゃねえよ!!」
マリア「海津は何処にいるの? ぐずぐずしてるとヨウスケ君の命が危ないわ」
オサム、無言でアパートを飛び出し、軽トラで海津の屋敷へ向かう。
ヨウスケはその屋敷の広大な庭にいたが、当然ながら父親を恋しがって泣いてばかりいた。

ヨウスケ「パパのところへ帰りたいよー」
岡部「よしよし……いやぁ、まったくよく泣く子ですね」
海津「結構じゃないか、よく泣くのは健康な証拠、得難いモルモットだよ」
と、そこへオサムが飛び込んできて、ヨウスケの体をしっかと抱き締める。
海津「オサムくん、どうした」
オサム「先生、ヨウスケ、返してもらいにきました」
海津「心変わりをしたのか」
オサム「先生、俺達が紹介した人間は実験材料だったんですか」
海津「オサムくん、一体どうしたと言うんだ」
オサム「細菌ガスで殺されたんですか」
黙って引き取ればいいものを、余計なことを口にしたのが運の尽き、

中山「何を言うんだ、お前は」
海津「オサム、誰に入れ知恵された?」
オサム「ほんとなんですね、先生、答えてください」
岡部「……」
答える代わりに、事務局長の部下がピストルを取り出してオサムに向ける。
しかし、いくら悪党でも、常にピストルを携帯していると言うのはなぁ……
中山「お前は少し知りすぎたようだな」
オサム「先生、今までのは全部嘘だったんですか、俺に優しくしてくれたのも、あれは全部嘘だったんですかーっ!!」
部下は容赦なく引き金を引き、オサムの腹に穴が開く。
それでもヨウスケを連れてその場から逃げ出すオサム。
海津はあえてトドメを刺させず、追跡してオサムの背後関係を調べるよう命じる。
オサムは何とか軽トラを運転してアパートまで辿り着くが、

ET「どうした、誰にやられた? 海津か」
オサム「ああ、結城さん、ヨウスケのこと、頼むよ」
マリア「しっかりして!!」
オサム「俺がバカだった、ヨウスケの面倒、頼むよ」
ET「おい、木所!!」
オサムはくれぐれも子供のことを頼むと繰り返して息を引き取る。
だが、その愁嘆場を事務局長たちが離れたところから見ていた。
岡部「前田アキオだ。奴ら、何もんですかね」
中山「すぐ北見さんに連絡しよう」
こうして、アロハツーリストに北見の部下が張り込み、何も知らずに出入りしているETたちを写真に撮るという、いつも悪人たちにやっていることを自分たちがやられる羽目になる。

北見「結城五郎32才、前身は傭兵、ラオス、カンボジア、パレスチナなどの戦火の中を生きていた男だ……前島アキラ、23才、前科5犯、武道の達人……紅一点、雨宮礼子……そして小出英樹、もと関西警察署署長、この4人はアロハツーリストなる旅行代理店を運営している」
海津「旅行代理店に勤めている人間が何故我々を探ったり……」
北見「旅行代理店と言うのは仮の姿だ」
海津「なにもんですか」
北見「分からん、正体不明の組織だ、しかし、我々の前に立ちはだかる以上、どんなことをしても叩き潰す」
さらに、彼らの写真をスライドで見ながら、悪人たちがその素性について話し合うと言う逆ハングマン状態となる。
しかし、マリアがこれを見たら、自分だけ何のコメントもないのでがっかりしたんじゃないかしらん。
せめて「見ての通りデカパイだ」くらいのことは言ってあげて欲しかった。
CM後、園山がお台場で釣りをしていると、同じく釣り人の恰好をしたチャンプがやってくる。
チャンプ「そのやん、あんたも物好きやな、寒いのにこんな酔狂なとこに呼ばんでも」
園山「何も酔狂でここに呼んだんじゃない、理由があるんだ……今回の仕事は今日限り打ち切りだ」
チャンプ「ええっ?」
園山は意外な言葉を告げると、カバンから分厚い封筒を取り出す。
園山「ここにひとり頭500万ずつ、合計2000万ある、これはキャンセル料だ」
チャンプ「キャンセルって……」

チャンプ「そのやん、ガキの使いじゃあるまいし、はいそうですかと言うわけにいきまへんな」
園山「命が惜しかったら、これ以上、首を突っ込むな」
園山、この間とはまるで別人のような真剣な顔で警告する。
チャンプ「GODの命令ですか」
園山「そうだ」
チャンプ「さっぱり訳わからんな」
園山によると、北見の正体はJCIA……内閣情報室の室長だと言う。
しかも、本家CIA、米軍戦略部隊まで関与しているらしい。
要するに、ハングマンの手に負える相手ではないと言うことなのだろう。
園山「上のほうが動き出している。今ならまだGODの手で止めることができるんだ」
チャンプ「せやけど、あいつらのしようとしとることはやね」
園山「わかってる、チャンプ、何も言わずに金を受け取ってくれ」
チャンプ「もし受け取らん言うたら」
園山「ハングマンは解散、GODの庇護もなくなるぞ……まだまだこの国では君たちの存在が必要なんだ、今回の仕事が最後じゃないんだ、そこを分かってくれ」
あとはGODに任せてくれと、園山に伏し拝まんばかりに懇願されたチャンプは、とりあえず金を預かることにする。
そしてこれが、チャンプと園山の最後のやりとりとなったわけである。
アジトに戻ったチャンプは包み隠さず事情を打ち明け、
チャンプ「どうだ、ちょっと目をつぶるだけで500万の金が転がり込んで来るんだぞ。こんなうまい話は二度とない……今度の喧嘩の相手は国や、どう考えたってわしらに勝ち目はないやないか……負けるということは殺されると言うことだぞ、殺されたほうが良いのか、それとも500万のゼニをもらったらいいのか、こらぁ子供でも分かる簡単な計算だ」
と、「大人の対応」を仲間に勧めるが、
マリア「指くわえて見てろって言うの」
ヌンチャク「そんなこと出来ねえよ」
チャンプ「そやから何度も言ってるように、GODは公の場で糾明すると……」
マリア「それまでに何人も犠牲者が出るわ」
直情径行のヌンチャクは勿論、オサムたちに親近感を抱いていたマリアも納得しない。
と、黙って話を聞いていたETが、やおら札束のひとつを掴んだので、

チャンプ「さすがETは大人やね」
だが、ETは掴んだ札束を再び机の上に置き、
ET「俺は、勝手にさせてもらう」
そう言って部屋を出て行く、

マリア「私はひとりでもやるわ」
ヌンチャク「木所の死を無駄にしたくないんでね」
マリアもヌンチャクも、同様に札束を積み上げてチャンプの前から消える。
必殺シリーズだと、めいめい金を取って出陣するものだが、ここでは逆になっているのが面白い。
ひとり、2000万と残されたチャンプは、
チャンプ「ほな、お前、ハングマン、解散せにゃならんのやで、おい……なんじゃい、ま、この2000万、ワシひとりでもろとくわ、これだけあってみい、トルコ、女子大生パブ、愛人バンク、思いのまんまじゃ、ふふ」
本気なのかどうか、相変わらずサイテーの発言をかましてほくそ笑むのだった。

ヌンチャク「全くチャンプの奴、今度って言う今度は愛想もこそも尽きましたよ。あんな冷血漢だと思わなかったな」
その後、三人がチャンプへの不満を口にしながら繁華街の真ん中をのし歩いていると、いきなり正面から車が猛スピードで突っ込んでくる。
三人は左右に飛んでかわすが、車が戻ってきて、今度はピストルを撃ってくる。
無論、北見たちの差し金であった。
マリア「相手はなりふり構わずね」
ET「二人は今のうちに姿を消した方がいいな」
ヌンチャク「ETは?」
マリア「ひとりでやる気? そうはいかないわよ」
ET「チャンプが言うように死ぬかも知れんぞ」
ヌンチャク「覚悟の上です」
ET「よし、明日、海津がニューヨークに発つ前にやる」
と言う訳で、いよいよ最後のハンギングとなる。
しかし、相手はシリーズ最強の大物のはずなのに、襲撃がこの一回きりというのは、あまりに看板倒れと言うものだろう。
これじゃあ、その辺の暴力団と大差ないではないか。
ヌンチャクが「太陽の里」で好き放題に動き回っていたことと合わせて、最終回なのに敵が全然歯応えがないのも、今回のエピソードが盛り上がらない一因になっている。
翌日、三人の乗った車が成田に向かう路上で停まっていると、パトカーが来てその前に出て停まり、太めの警官が降りて近付いてくる。
面倒なことになったと渋い顔になる三人だったが、

チャンプ「おい」
ヌンチャク「チャンプーっ!!」
マリア「どうしたのその恰好」
チャンプ「いや、映画の小道具借りてきたんだ、腐れ縁だ、本官も最後まで付き合おう」
それはチャンプの変装で、結局4人揃ってハンギングとあいなるのであった。
一方、何も知らずに加代子が出勤してくると、オフィスの中はすっかり模様替えがされていた。
加代子「おかしいわねえ、間違いないわよねえ」
一瞬、違う会社に来たのかと戸惑う加代子だったが、壁にチャンプからの手紙が貼ってあった。

チャンプの声「野川さん、都合により今日で閉店することになりました、長い間、ご苦労さん、同封の指輪、退職金代わりにお受け取りください、またいつの日か会うこともあるでしょう……」
封筒にはダイヤの指輪が入っていたが、それは加代子が見ていた週刊誌に出ていたものとそっくりだった。
そう、あんなことを言っていたが、チャンプはあの2000万で加代子の欲しがっていた指輪を買ってやったのだった。
と、これも北見の差し金だろうが、そこへ刑事と警官がどやどや押しかけてくる。

加代子「あら、ちょっと、そのロッカー、困るんですけど、勝手に開けないで……」
彼らは、加代子の抗議の声も無視してロッカーを開けると、その奥の秘密の部屋に踏み込む。

だが、アジトはいつの間にか違法の賭博ルームに改装されており、彼らがハングマンだと言う何の手掛かりも残されていなかった。
これはチャンプひとりの力で出来るとは思えないので、園山が密かに手を回したのだろう。
さて、北見と海津は二台の車で成田に到着するが、警官に扮して待ち受けていたETたちに、実にあっさけなく捕獲される。
これもあまりにあっけなくて、面白くもなんともない。

一応、マリアが婦警コスプレをしてくれるが、これだけじゃねえ……
で、ここからハンギング本番となるが、最終回にも拘らず、実にテキトーなもので、

チャンプ「やっと気がついたようだな」
海津「ここは何処だ?」
チャンプ「知らぬ筈はあるまい」
ET「お前たちが多くの人間を葬った、細菌ガスの実験室だ」
チャンプ「自分の罪を告白しろ、そうすれば防毒マスクを与えてやる、ただし、先着二名だ」
実験室に北見たちを座らせて毒ガスを吸わせると脅し、無理やり口を割らせると言う、芸のないもの。
なお、左端の男は、運転手か何かだろうが、多々良純、中山昭二、佐原健二、岡部正純、剣持伴紀と言う、濃い目の男優が5人も狭い部屋に押し込められると言うのはなかなか壮観であった。
やがてチャンプがリモコンで毒ガスを流し始めると、命惜しさに悪党たちは自分たちのやったことを洗い浚い白状する。

無論、ガスは無害なもので、彼らのいるところも、実験室に見立てたトレーラーの中なのだった。
ただ、6人ともパニック状態で、それが同時に喋るものだから何が何だか分からず、

こんなものを見せられても、事情を知らない人々はポカンとするだけではあるまいか。
なんつーか、スタッフのやる気のなさがひしひしと伝わってくるハンギングシーンであった。
ともあれ、それを少し離れたところから感慨深げに見ている4人。

チャンプ「終わったな」
ET「ああ」
チャンプ「マリア、何にもなかったな」
チャンプは意味ありげにつぶやき、スッとその場を離れる。
結局、男女の関係にはならなかったと言うことなのだが、早乙女さんがチョメチョメの○○だったとか言う噂を思い合わせると、なかなか意味深な台詞である。
マリア「楽しかったわ」
ET「ああ」
ヌンチャク「んじゃ」
他の二人も、いささか素っ気無すぎる挨拶を交わして思い思いに歩き出す。

と、最後にETが、足元にいたヨウスケを抱き上げる。
しかし、だったらマリアも、ヨウスケに何か言ってから去るべきだろう。
あんなに親身に心配していたと言うのに……
その後、新聞に海津洋一郎が逮捕されたことがでかでかと載っていて、それにはしっかり731部隊とか、石井四郎などの名前が書いてある。
それをラーメン屋で読んでいたチャンプの目に、テレビでインタビューを受けている加代子の姿が飛び込んでくる。
アロハツーリストが裏で違法賭博をしていたと言う「事件」がニュースになっているのだ。
加代子「こんな賭博場なんて、初めて見たんですから……」

園山「いやぁ、世の中分からないことが多いもんですね、あんな素晴らしい店子はいないと思ってたんですよ。みなさん、みんなイイ人ばっかりで紳士淑女の集まりでしたからねえ」
で、何故かその隣に園山がいて、テナントのオーナーと言う立場で、白々しい言葉を並べて見せる。
チャンプ「紳士淑女か、そのやん、うまいこと隠しおったな」
で、記念すべきラストカットは、

ヨウスケを肩車して歩道橋を歩いているETの、マイホームパパみたいに緊張感のない笑顔であった。
……
マリアとヌンチャクの扱い、ちょっとひど過ぎません?
ちなみにこの様子から見て、ETはヨウスケを施設には預けず、自分で引き取ることにしたようである。
EDタイトルバックはいつもと全く変わらないが、

このお二人の名前が並んでいるのを見ると、やっぱり「おおっ」となってしまうのがオールド特撮ファンの悲しい宿命なのだった。
本作の「絆 FOREVER」もそうだが、ハングマンシリーズの主題歌には良い曲が多いので、それらを全部まとめたサントラを出して欲しいなぁ。
以上、はっきり言って面白くもなんともなく、書くのがかなり苦痛なエピソードであったが、以前から気になっていた宿題を片付けて、少しホッとしている管理人であった。
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